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分かりやすく読める工夫がされていて、認知症患者の心理面の解説が充実してる。
『マンガ 認知症 (ちくま新書) 』['20年]『マンガ認知症【施設介護編】』['24年]
大好きな祖母(婆ル)が認知症になってしまい、母(母ル)と二人で介護に取り組むマンガ家ニコ。人が変わってしまったかのような祖母との生活に疲れ果てたニコたちの前に、認知症の心理学の専門家サトー先生が現れて―。
ベストセラーになった本ということで、やや遅ればせながら購読しましたが、各章ごとにあるマンガが漫画家自身の体験をベースにしていることもあって、物語を読むように読めて分かりやすく、ベストセラーとなる要素が詰まった本のように思いました。
一般の「マンガ〇〇」といった類の入門書と異なるには、「マンガ」と謳いながら、基本的には「文章」による入門書であること。これだけならそう珍しくはないですが、「マンガ」部分が実体験ベースなので、シズル感とでも言うか切迫感・切実感があることです(ただし、このことも必ずしも珍しいことではないかも知れないが)。
加えて他の本と比べて良かったのは、「マンガ」部分がケースの紹介だけで終わるのではなく、「マンガ」の中でも理解のためのポイントを整理していて(サトー先生が頻繁に登場する)、さらにその後の「文章」で詳説されるため、「文章」が解説と復習を兼ねていて、理解を深めやすい点です。分かりやすく読める工夫がされていると言えるかと思います。
あとは、ケーススタディとしてのマンガを各章の冒頭に置いていることに沿って、章題も「「お金を盗られた」「強盗にあった」と言うのはなぜ?」「何度注意してもお米を大量に炊いてしまうのはなぜ?」というように具体的な現象面から入って、その対処法を述べていることで、これについては賛否もあるかもしれませんが、学術的・体系的な解説もちゃんと出てくるので、これはこれでいいのではないかと思いました。
親が急に認知機能が低下して介護しなければならなくなった人などには、学術的・体系的な解説から入る入門書よりも(本書でも勿論なぜそうなるかといった原因は解説されているが、分からないこともまだ多いようだ)、本書のようなスタイルの本の方が実際には役に立つかもしれません(認知症の症状は多様であり、すべてがこのマンガのケースのようになるとは限らないということは前提にしつつだが)。
特に、サトー先生こと佐藤眞一教授が認知症心理学の専門家であることもあって、認知症患者の心理面(認知症の人の心の中)についての解説が充実しており、さらに介護をする人の気持ちの負担軽減にまで配慮しているのがいいです。
マンガのストーリーも、ニコさんや母ルさんが「なんでやねん!」を解決するために奮闘し、婆ルさんと3人で心の安らぎに少しずつ近づいていく物語になっているのが、読む側に希望を持たせてくれていいです。知識面での理解だけでなく、介護で疲れて落ち込んだら、また本書を読んで元気を取り戻すという使い方もあるかなと思いました。続編とも言える『』('24年/ちくま新書)と併せてお薦めです。
《読書MEMO》
●目次
序章 認知症ってなんですか?
認知症を心理学的に研究するということ/認知症とはなにか/予備軍も含めれば日本に一〇〇〇万人/認知・認知機能とはなにか/原因疾患と認知機能障害の関係/老化による物忘れと認知症の違い/ 「おかしいな」と思ったら
第1章 「お金を盗られた」「強盗にあった」と言うのはなぜ?
中核症状と周辺症状/物盗られ妄想の原因/自己防衛としての物盗られ妄想/身近な人を疑う理由/認知症と薬/薬をやめてみる
第2章 同じことを何度も聞いてくるのはなぜ?
さまざまな記憶の種類/短期記憶と長期記憶―陳述記憶のプロセス/エピソード記憶障害の原因/符号化、貯蔵、検索―記憶のモデル/未来の予定がわからないことの不安/何度でも同じことを聞く理由/なんのための介護か
第3章 何度注意してもお米を大量に炊いてしまうのはなぜ?
陳述記憶と非陳述記憶/手続き的記憶が残る理由/繰り返される行動には、その人のアイデンティティが現われる/同じものを大量に買ってしまうときは
第4章 突然怒りだすのはどうして?
前頭葉障害で、行動のコントロールが難しく/注意機能が低下し、気が散りやすくなる/前頭側頭型認知症の場合/夕暮れ症候群/偶然見つけたヒント/会話が重要/ときには放っておくことも有効
第5章 高齢者の車の事故はなぜ起きるの?
シニアカーがぶつかってきた/有効視野の低下/自分が今まで何をしていたのかわからない/注意機能の衰え/選択的注意機能と有効視野/一度に二つ以上のことができなくなる/認知症に限らず失敗しやすい「注意の切り替え」/家族の同乗がかえってよくないこともある/運転が苦手になるのは、認知症の人に限らない
第6章 介護者につきまとうのはどうして? ?
遂行(実行)機能障害/目標・計画・実行のどこができないのか/できない自分に傷ついている/押し売りに引っかかってしまうのは?/見当識障害という問題/過去と現在と未来をつなげる/実行機能と遂行機能
第7章 家にいるのに「帰りたい」と言うのはなぜ?
見当識とはなにか/記憶の低下との関係/幼児期の記憶のあり方と似ている/婆ルさんはどこに帰りたいのか
第8章 これってもしかして「徘徊」ですか?
目的もなくうろついているわけではない/ 「徘徊」はなぜ起きるのか/頭の中の地図がつくれなくなる/建物と自分の位置関係がわからなくなる/鏡の不思議/徘徊が出てきたら、どうしたらいいのか/徘徊がおさまるのはいいことか
第9章 排泄を失敗してしまうのはなぜ?
排泄の失敗が増える理由/失敗を認めることは、プライドが許さない/弄便で自宅介護が限界に/なぜ食べられないものを口に入れてしまうのか/本人のプライドを傷つけないために
第10章 介護に疲れ果てました。どうしたらいいですか?
人間関係はギブ&テイク/ 「思いどおりにならない」はコントロールのはじまり/「なぜこんなことをするのか」?と考える/心がすれ違うことで、ケアがコントロールに陥る/社会的認知機能の低下と「心の理論」/まずは話を聞くことから/介護を生きがいにしない
番外編 なんでお尻を触るんですかコラー‼
衝動を抑制できない/性欲以外が原因のことも/優しさが逆効果になることも/高齢者の性欲を認める/家族で認知症について話し合える関係に