【498】 ◎ 宮部 みゆき 『理由 (1998/06 朝日新聞社) ★★★★☆ (○ 大林 宣彦 「理由 (2004/12 アスミック・エース) ★★★☆)

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多くの読者を得る"理由"の1つは、社会への問題提起にあるのでは。

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単行本『理由』['98年]『理由 (朝日文庫)』〔'02年〕『理由 (新潮文庫)』〔'04年〕映画「理由」(2004) 岸部一徳
宮部 みゆき 『理由』.JPG 1998(平成10)年下半期・第120回「直木賞」受賞作で、1998 (平成10) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。「日本冒険小説協会大賞」も併せて受賞。  

 東京・荒川区の超高層マンション「ヴァンダール千住北ニューシティー」で起きた殺人事件は、一家3人が殺され1人が飛び降り自殺するという奇怪なものだったが、被害者たちの身元を探っていくとそこには―。

 直木賞受賞作ですが、事件状況とその意外な展開という着想が素晴らしいと思いました。事件の解明を通して住宅ローン地獄や家族の崩壊という現代的テーマが浮き彫りになってきますが、そこにルポルタージュ的手法が効いています。

火車.jpg 『火車』('92年/双葉社)において、戸籍が本人であることを詐称することで簡単に書き換えられることをプロットに盛り込んだ著者は、この作品では「占有権」という一般の目には不可思議な面もある法的権利と、それを利用する「占有屋」という商売に注目していて、こうした着眼とその生かし方にも、著者の巧さを感じます。

カバチタレ!3.jpg (「占有屋」は、後に『カバチタレ!』(青木雄二(監修)・田島隆(原作)・東風孝広(漫画))というコミックでもとりあげられ、テレビドラマ化された中でも紹介された、法の網目を潜った奇妙な商売。)

 作品の冒頭の特異な事件展開にはグンと引き込まれましたが、それに対し、事実がわかってしまえばそれほど驚くべき結末でもなかったのでは...みたいな感じもあります。

 しかし、ミステリーとしての面白さもさることながら、それ以上に、現代社会に対する鋭い問題提起が、この多才な作家の真骨頂の1つであり、幅広い世代にわたり多くの読者を獲得している"理由"は、そのあたりにあるのではないかと思いました(とりわけそれは、社会派推理の色合いが強い『火車』と『理由』の2作品に最も言えることではないか)。

宮部みゆき『理由』新潮文庫.jpg映画「理由」.jpg '04年に大林宣彦監督が映画化していますが、元々はWOWOWのドラマとして145分版がその年のゴールデンウィーク中の4月29日に放映されています。12月劇場公開版は160分となります。

 関係者の証言を積み重ねていくドキュメンタリー的なアプローチは原作と同じで、出演者107人全員を主役と見做し("主要"登場人物に絞っても約40名!)、全員ノーメークで出演と頑張っているのですが、「キネマ旬報」に載った大林宣彦監督のインタビュー記事で、こうした作り方の意図するところを知りました。

 個人的には、原作に忠実である言うより(登場人物のウェイトのかけ方は若干原作と異なる)、原作のスタイルを損なわずにそのまま映像化したら(つまり、この作品における膨大な関係者証言の部分を、一切削らずに、「証言」のままの形で映像化したら)どのようになるかとという推理小説の映像化に際しての1つの実験のようにも思えました。

新潮文庫 映画タイアップカバー版

アクロシティタワーズ.jpg 但し、実際映像化されてみるとやや散漫な印象も受けました。森田芳光監督の「模倣犯」('02年/東宝)みたいな"原作ぶち壊し"まではいかなくとも(あれはひどかった)、もっと違ったアプローチもあってよかったのではないかとも思いました。因みに、この小説の舞台となった荒川区の超高層マンション「ヴァンダール千住北ニューシティー」のモデルは「シティヌーブ北千住30」(足立区)だと思っていたけれど、どうやら南千住の「アクロシティタワーズ」(荒川区)みたいです(「千住北」という地名は存在せず、北千住は足立区になる)。[参照:大腸亭氏「宮部みゆき『理由』の舞台を歩く」/「宮部みゆき作品の舞台を散策する」(「私の宮部みゆき論」)]
   
理由 岸部2.jpg「理由」●制作年:2004年●製作:WOWOW●監督・脚本:大林宣彦●音楽:山下康介/學草太郎●原作:宮部 みゆき●時間:160分(TVドラマ版144分)●出演:岸部一徳/柄本明/古手川祐子/風吹ジュン/久本雅美/立川談志/永六輔/片岡鶴太郎/小林稔侍/高橋かおり/小林聡美/渡多部未華子 映画 理由 篠田いずみ23.jpg辺えり子/菅井きん/石橋蓮司/南田洋子/赤座美代子/麿赤兒/峰岸徹/宝生舞/松田洋治/根岸季衣/伊藤歩/宮崎あおい/宮崎将/裕木奈江/村田雄浩/山田辰夫/大和田伸也/松田美由紀/ベンガル/左時枝/入江若葉/山本晋也/渡辺裕之/嶋田久作/柳沢慎吾/島崎和歌子/中江有里/加瀬亮/勝野洋/多部未華子●劇場公開:2004/12(TVドラマ版放映 2004/04/29)●配給:アスミック・エース (評価★★★☆)
多部未華子(810号室住人 篠田いずみ)
多部未華子/宮崎あおい・宮崎将/裕木奈江
理由 多部未華子13.jpg 理由 宮崎あおい23.jpg 理由 裕木奈江33.jpg

「理由」dj.jpg

 【2002年文庫化[朝日文庫]/2004年再文庫化[新潮文庫]】

●大林宣彦監督インタビュー(「キネマ旬報」(2004.1.下)
 「今回の『理由』は、WOWOWの企画で出発してるんですけど、実はその枠にははまらない。というのは、WOWOWの番組としての予算も枠も決まったシリーズの中の一本なんですけど、宮部みゆきさんの原作は、その枠に合わせて作るのが不可能な小説なんですよ。これまでも多くの人が映画化やテレビドラマ化を試みたんだけど、宮部さんは一度も首を縦に振らなかった。その理由は、ひとつの殺人事件にいかに多くの人が絡み合っているかという、ぼく流に言えば人間や家族の絆が失われた時代に、殺人事件がむしろ哀しき絆となったような人間群像の物語なので、ぼくのシナリオの中でも主要な人物だけで107人もいるんですよ。強引にまとめていけば、10人くらいの物語にはできる。普通の映画やテレビの場合では、そうやって作るんです。しかし、それでは宮部さんが試みた集団劇としての現代の人間の絆のありようが描ききれないんですね。つまりこれをやる以上は、107人総てを画面に出さなければいけない。
 宮部さんは、ぼくに監督をお願いしたとWOWOWから知らされた時点で、すべてぼくにお任せしますとおっしゃったんです。任された以上、ぼくは原作者が意図したものを映画にするのが礼節だと思います。ぼくはいつも原作ものを映画にするときは、作者がはじめからこの物語を映画に作ったら、どういうものになるだろうと考えるんですね。だから紙背にこめられた作者の願いを文学的にではなく映画的に表現したらこうなるよというものを作ろうという意味で、決して原作どおりではないんだけど、原作者の狙いや願いを映画にしようと」

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This page contains a single entry by wada published on 2006年9月10日 13:04.

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