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文学的・哲学的色合いの濃いエッセイ集。三島作品をちゃんと読み込んでいる。

三島由紀夫の死 ミラー.jpgヘンリー・ミラー・コレクション(16).jpgヘンリー・ミラー.jpg 三島由紀夫自決.jpg
ヘンリー・ミラー(1891-1980) 三島由紀夫(1925-1975)
ヘンリー・ミラー・コレクション15 三島由紀夫の死』['17年]『ヘンリー・ミラー・コレクション16 対話/インタヴュー集成』['16年]
ヘンリー・ミラー1-10.jpg ヘンリー・ミラー(1891-1980)によるエッセイ集。白水社の2010年に完結した《ヘンリー・ミラー・コレクション全10巻》の、2013年12月から刊行が始まった第2シリーズ(2019年完結)の内の1冊で、通巻で第15巻になります(最終第16巻は対談・インタビュー集)。ヘンリー・ミラーが三島由紀夫自決の翌年1971年に発表したのが表題作「三島由紀夫の死」で、その他に、映画監督ブニュエルを称賛する「黄金時代」、写真家ブラッサイを語る「パリの眼」をはじめ10編のエッセイや書簡などを収録、テーマごとに5つにジャンルに分けています。
ヘンリーミラーコレクション 10冊 水声社 』[第1シリーズ]

 まず最初の「自己を語る」の章に収められた「自伝的覚書」が、自身の出自や来歴を語っていて興味深いです。「自分にとって作品を書く目的は、大いなる現実を打ち立てることにある」とし、「自分は写実主義や自然主義の作家ではない。人生を捉えようとしており、文学において、それは夢や象徴の使用によってはじめて達成できるように思われるのだ」としています(深い!)。

 この「自伝的覚書」を初め、以下に続くエッセイにも、エッセイでありながら哲学的であったり、或いは文学的な表現が多く見られ、彼の小説のようにシュールレアリズムっぽい表現もありますが、先に挙げたその言葉によれば作家自身は「現実」を希求しており、その結果がこの作家の場合はそうした表現になるものと思われました。

 「映像の領域」の章の「黄金時代」で、このルイス・ブニュエ監督の1930年作を絶賛しており、また、その他に自分が素晴らしいと思った作品を挙げているのが興味深いですが(かなり古い映画が多い)、その中で「「三本の日本の映画」(それぞれ古代、中世、近代の日本を扱ったもの)」としながら、「タイトルは忘れてしまった」というのが残念です。

ヘンリー・ミラー ブラッサイ.jpg 「パリの眼」で写真家のブラッサイとの出会いのことを語っていますが、ブラッサイにも『作家の誕生ヘンリー・ミラー』('79年/みすず書房)という、作家ではない人物が書いたとは思えない著書があります(ブラッサイの写真集『夜のパリ』('88年/みすず書房)でヘンリー・ミラーは被写体になっている。個人的には『ブラッサイ写真集成』('00年原著刊行、'05年/岩波書店)で見た)。

作家の誕生ヘンリー・ミラー (1979年)』『ブラッサイ著/ヘンリー・ミラーとの対話(Henry Miller, Happy Rock)』表紙:ヘンリー・ミラー、撮影:ブラッサイ


ヘンリー・ミラー、ホキ徳田.jpg ずっと文学的・哲学的なエッセイが続いて、それが最後の「三島由紀夫の死」だけがオーソドックスな評論スタイルであるので、逆に意外に思ってしまいました。「週刊ポスト」に1971年10月29日号から5週に渡って連載されたものですが(当時ヘンリー・ミラーの知名度はどれぐらいだったのか)、日本人に向けてこうした文章を書くのは、作家の当時の妻が日本人のホキ徳田(1937- 、ヘンリー・ミラーの8人目の妻として知られる)であることも関係していると、自らも書いています。

 ただし、『太陽と鉄』『金閣寺』など三島のカギとなる作品をちゃんと見込んでいるようで、その上で、所謂"三島事件"(三島が東京・市ヶ谷の陸上自衛隊東部方面総監部で、憲法改正と自衛隊の決起を訴えた演説(呼びかけ)を行い、その直後に割腹自殺を遂げた出来事)について、こう語っています。

「三島は高度の知性に恵まれていた。その三島ともあろう人が、大衆の心を変えようと試みても無駄だということを認識していなかったのだろうか」

「かつて大衆の意識変革に成功した人はひとりもいない。アレクサンドロス大王も、ナポレオンも、仏陀も、イエスも、ソクラテスも、マルキオンも、その他ぼくの知るかぎりだれひとりとして、それには成功しなかった。人類の大多数は惰眠を貪っている。あらゆる歴史を通じて眠ってきたし、おそらく原子爆弾が人類を全滅させるときにもまだ眠ったままだろう」

「彼らを目ざめさせることはできない。大衆にむかって、知的に、平和的に、美しく生きよと命じても、無駄に終るだけだ」

 三島の文学を評価しながらも、その死に対してネガティブな評価をしているのは、川端康成などに通じるものがあるように思いました(その川端もまた、三島の死から2年後に自ら命を絶った)。

 この「三島由紀夫の死」はパートⅠとパートⅡに分かれていて、後半にいけばいくほど文学的・哲学的になっていきます。個人的には全編を通して、ヘンリー・ミラーの小説が持つ独特の文学的・哲学的世界観を、これらのエッセイを通しても感じることができて(久しぶりにヘンリー・ミラーの文章に触れて嬉しかったというだけのことかもしれないが)良かったです。

《読書MEMO》
三島由紀夫の死 ミラー 大.jpg●目次
自己を語る
自伝的覚書(1939)/ブルックリン橋(1936)
生の哲学
心の知恵(1939)
映像の領域
黄金時代(1938)/パリの眼(1937)
友人との対話
ハムレット―ある書簡(1935--38)/若きベトナム詩人への手紙(1972)
同時代の文学・芸術運動との対決
いたるところにいるシュルレアリストへの公開状(1938)
アラブ・極東への眼差し
アルベール・コスリーの小説(1945)/三島由紀夫の死(1971)
解題
ヘンリー・ミラーのエッセイについて 松田憲次郎


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精神の自由と人生の快楽を求めた生き方の天才の自伝的処女長編。

IMG_3215.JPG北回帰線 文庫  .jpg
北回帰線.jpg
  ヘンリー・ミラー『愛と笑いの夜』.gif
北回帰線 (新潮文庫)』『愛と笑いの夜 (1968年)』河出書房 (吉行淳之介:訳/池田満寿夫:装幀)『愛と笑いの夜』角川文庫(吉行淳之介:訳)〔'76年〕
北回帰線 新潮社 1953.jpgHenry Miller.jpg 1934年パリにおいて発表された米国の作家ヘンリー・ミラー(1891‐1980)の自伝的処女長編『北回帰線』(Tropic of Cancer)は、30歳過ぎで渡仏しパリで送ったボヘミアンな生活が詩的に、ただし汚辱と猥雑さに満ち満ちて綴られていています。

Henry Miller (1891‐1980/享年88)

 主人公の30歳に近い「わたし」は、ニューヨークの電報会社で猛烈に働くサラリーマンだが(まったくミラー自身の経歴と同じ)、現代社会がもたらす人間疎外を痛感、芸術家になるために「自己の内面に突き進む」決心をする。女性との交わりもその試金石の1つだったが、彼がその中に聖性を見い出したかのように思った女性は、実は単なる見栄っ張りな俗物に過ぎなかった―。

ペーパーバック『北回帰線』.jpg パリでの生活は、言わばミラー版「巴里のアメリカ人」と言ったところで、ただし映画「巴里のアメリカ人」とは違って、淑女より娼婦の方がいっぱい出てきて、その他にも、明るいユダヤ系ロシア系とか、おかしなインド人とか様々な人物が登場し、ちょっとタガが外れたインターナショナルな雰囲気で、その中に自分がアメリカ人であることを意識しているミラーがいるような気がしました。
 
 社会のアウトローになることを恐れず(ただし彼は、友人を作るという処世術に長けていた)、自らの信念に沿って精神の自由と人生の快楽を求め、それを心から享受できる彼は、まさにオリジナルな生き方の天才!('60年代に"ヒッピー"の教祖みたいになったこともあった)。そして、アナイス・ニンなどのスポンサードでその希代の文学的才能を開花させ、アメリカ文学に今まで無かった地平を切り開いたのがこの作品です。

ペーパーバック『北回帰線』

Henry MILLER.jpg かつて新潮文庫では『北回帰線』『南回帰線』『セクサス』『ネクサス』までカバーしていて順番に読んだ記憶がありますが、今あるのは『北回帰線』と『南回帰線』だけで、この2作がやはり代表作であることは確か。
 完成度から言えば『南回帰線』の方が高いのかも知れませんが、『北回帰線』には荒削りでダダイスティックな魅力があり、"自動記述"などいろいろな文学的実験が自由奔放になされています(大久保康雄訳には、その辺りを訳出する苦心の跡が窺える)。

Henry MILLER, at home, photo by Henri Cartier-Bresson, 1946

『愛と笑いの夜』 角川文庫(吉行淳之介:訳〔'76年〕/福武文庫(吉行淳之介:訳)〔'86年〕
愛と笑いの夜.jpg愛と笑いの夜 福武文庫.jpg パリで発表された当時、『北回帰線』は米英では発禁処分になっていたので、『北回帰線』出版後も、パリから渡英する際にミラーが係官に自分の身分を証明するのに苦労して、「自分にはTropic of Cancer(北回帰線)という著書がある」と言ったところ癌(Cancer)に関する医学書と間違われたという話が、『愛と笑いの夜』(吉行淳之介訳・'68年/河出書房、'76年/角川文庫、'86年/福武文庫)所収の「ディエップ=ニューヘイヴン経由」という短編の中にありました。

 1955年発表のこの短篇集(原題:Nights of Love and Laughter)は、「ディエップ=ニューヘイヴン経由」のほかに、「マドモアゼル・クロード」「頭蓋骨が洗濯板のアル中の退役軍人」「占星料理の盛り合せ」「初恋」を所収していますが、ミラーの長編とは異なるオーソドックスな表現方式と、意外と純な性格面が窺えて(特に、自分の体験をモチーフにしたと思われる「初恋」)、大いに興味深いです。

『北回帰線』...【1969年文庫化〔新潮文庫〕/2004年単行本〔水声社〕】
『愛と笑いの夜』...【1976年文庫化[角川文庫]/1986年再文庫化[福武文庫]】
 

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