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「テーマパーク」ではなく「自然の森」を描いた作品。リアリティがある意外性。

『リバー』
2022年度「『本の雑誌』が選ぶノンジャンルベスト10」第1位。
群馬県桐生市と栃木県足利市を流れる渡良瀬川の河川敷で若い女性の遺体が相次いで発見された。首を絞められて殺害されたとみられるふたりの遺体は全裸で、両手を縛られているという共通点があった。刑事たちは胸騒ぎをおぼえる。両県ではちょうど十年前にも同じ河川敷で若い女性の全裸遺体が発見されていたからだ。十年前の未解決連続殺人事件と酷似した手口が、街を凍らせていく。かつて容疑をかけられた男、取り調べを担当した元刑事、執念深く犯人捜しを続ける十年前殺された娘の父親、若手女性新聞記者。一風変わった犯罪心理学者。新たな容疑者たち。犯人は十年前と同一犯か? 十年分の苦悩と悔恨は真実を暴き出せるのか―。
前著『罪の轍』('19年/新潮社)は「吉展ちゃん事件」がモデルになっていましたが、今回は特にモデルはないようです。ただし、作者がインタビューで「テーマパーク」ではなく「自然の森」を書きたいと述べていましたが、実際、架空の事件を描いた小説でありながら、強烈なリアリティが感じられました。
群像劇的あり、主要登場人物だけで6人いて、群馬県警の若手刑事の斎藤一馬、栃木県警の野島昌弘、元栃木県警の滝本誠司、中央新聞の千野今日子、十年前の事件の被害者遺族の松岡芳邦、スナック「リオ」の吉田明菜の6人です。彼らはいわば「視点人物」であり、それぞれの視点で描かれる時は「一馬」というように下の名で表されます。犯罪心理学者の篠田なども極めて興味深い人物ですが、篠田の視点で書かれた箇所はないため、下の名前も表されていません。でも、群像劇でありながら、「視点人物」が6人って多くない?
容疑者は3人で、それは、元刑事・滝本誠司が十年前の殺人事件から追い続けている、元暴力団員で警察を挑発し続けるサイコパス男・池田清(45歳)、県会議員の息子の引きこもり男で、今は昼間は自宅に引きこもり、夜は車で走り回っている、且つ解離性人格障害(多重人格)でもある平塚健太郎(31歳)、工場寮に居住する期間工で、配送トラックの運転手だが、死体遺棄現場の河川敷で犯行前に下見をするような行動をしていた姿が複数回目撃されて容疑者に浮上した刈谷文彦(32歳)の3人です。
登場人たちはそれぞれの考えで犯人を推理しますが、読者の立場としては、読んでいくうちに物語の中盤あたりで8割方、犯人は3人のうちの1人に絞られてきます。しかし、この8割の確証つまり80%程度のものを、99%乃至100%まで持っていくまでの道程がたいへんであり、実際の事件の捜査もこのような感じなのだろうなあと、その辺りにリアリティを感じました。
『罪の轍』の時のは、容疑者がそのまま単独犯の真犯人でしたが、本作では、すっかり読者に真犯人への筋道を見せておきながら、最後の最後に、予想外の事実も明らかになるという流れであり、「あり得ないどんでん返し」とはまた違った展開で、これはこれで意外性も十分でした。リアリティのある意外性とでも呼べるでしょうか。
犯人の内面への踏み込みが浅いとの指摘もあるかもしれませんが、敢えてその部分はよく分からないまま終わらせたのではないでしょうか。実際の重大犯罪事件もそうしたことが多いのではないかと思います(本心が明かされないまま刑場の露と消えた元死刑囚は多い)。描かれていないことによって、その点でもリアリティを感じました。
作者の作品では、(『沈黙の町で』('13年/朝日新聞出版)が個人的には一番ですが、本作も『罪の轍』に勝るとも劣らない骨太の犯罪小説でした。
【2025年文庫化[集英社文庫(上・下]】


『オリンピックの身代金』で、1964年東京オリンピック当時の社会を描いて、そのリアリティにおいてピカイチのものを感じましたが、今回もそれに勝るとも劣らずといったところ。しかも、読み進むうちに胸に迫ってくる緊迫感は、『オリンピックの身代金』以上であり、スケールとしては『オリンピックの身代金』の方がスケールが大きいのでしょうが、細部においてはこちらの方が上でしょうか。

「赤い雪」に出て来る映画「赤い雪」の主演女優・大原涼子はおそらく大原麗子(1946-2009/享年62)からモチーフを得たのでしょう。降旗康男監督、高倉健主演の函館(夕張ではなく)を舞台にした「







2009(平成21)年・第43回「吉川英治文学賞」受賞作。
原作では、東大大学院生の島崎国男、捜査一課刑事の落合昌夫、オリンピック警備本部幕僚長の息子でテレビ局勤務の須賀忠の3人が東大で学部の同級生ということになっていますが、テレビ版では、落合昌夫(竹野内豊)ではなく、(原作には全く登場しない)その妹の落合有美(黒木メイサ)が島崎(松山ケンイチ)、須賀(速水もこみち)と同級ということになっていて、しかも有美は国男に恋心を抱いてどこまでも彼に付いていこうとする設定になっているため、国男が村田(笹野高史)と一緒に爆破計画を練っている傍にちょこんと居るのが違和感ありました。男だけで逃亡するのと、恋人連れで逃亡するのでは、随分と物語の性質が変わってくるのでは...とやや気を揉みましたが、その外の部分は思った以上に原作に忠実に作られていて、ドラマの方も楽しめました。
原作では、国男がオリンピックの開催阻止を決意する前の時期と、決意して行動に移していく時期とをフラッシュバック手法で交互に見せ、しかも前半部は決意する前の普通の大学院生だった時期の方に比重を置いて書かれているため、この大人しそうな青年が本当に爆破犯に変貌していくのだろうかという関心からも読み進めることができましたが、ドラマにそこまで求めるのは無理だったか。
また、原作では、特に冒頭の方で、昭和39年という時代を感じさせるアイテムやグッズ、社会背景に関する話などがマニアックなくらい出てきてシズル感を高めていましたが、ドラマではその辺りが端折られていたのがやや残念でした(時代を感じさせるのはクルマと看板だけ。それだけでも結構苦労したため、他のところまで手が回らなかった?)。
2020年の東京オリンピックは、"大義なき五輪"と言われ、その分、開催立候補前は開催に対して"何となく反対"という雰囲気が優勢だったのが、開催決定後は、"何となく期待する"みたいな風に変わってきているような印象も受けますが、では、1964年の東京オリンピックの(ヤクザさえ抗争活動を休止するような)"大義"とは何であったのか、多かれ少なかれ、そうした当時における"大義"に思いを馳せることができる作品でもあるかと思います。

「オリンピックの身代金~テレビ朝日開局55周年記念」●監督:藤田明二●脚本:東本陽七/七橋斗志夫●原作:奥田英朗「オリンピックの身代金」●出演:竹野内豊/松山ケンイチ/黒木メイサ/天海祐希/沢村一樹/速水もこみち/斎藤工/吹石一恵/笹野高史/國村隼/岸部一徳●放映:2013/11/30~12/01(全2回)●放送局:テレビ朝日





