【636】 △ 山本 夏彦 『何用あって月世界へ―山本夏彦名言集』 (1992/09 ネスコ) ★★★

「●や‐わ行の現代日本の作家」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【546】 柳 美里 『家族シネマ
「●「菊池寛賞」受賞者作」の インデックッスへ

この人の本は意外と熟年より若者向けなのかも。

何用あって月世界へ.jpg 『何用あって月世界へ』文春文庫 〔'03年〕 山本夏彦.jpg 山本 夏彦(1915-2002/享年87)

 '02年に亡くなった山本夏彦(1915-2002)の名言集で、'92(平成4)年までに刊行された既刊コラム25冊から選出されており、10行近い短文からたった1行の箴言風のものまであります(選者は、植田康夫・上智大教授(出版論))。因みに著者は、'84(昭和59)に「菊池寛賞」を、更に'90(平成2)年に『無想庵物語』で読売文学賞受賞を受賞しています。

 短いのでは―、
 「あんなにちやほやされたのに」「美人が権高いのは魅力である」「芸術院会員は多くは情実で選ばれる」「いきり立つものと争うのは無益である」「言って甲斐ないことは言わないものだ」「世の中には笑われておぼえることが多いのである」「人生は短く本は多い」「人みな飾って言う」「なあーんだ、和服を着れば老人になれるのか」「馬鹿は百人集まると百馬鹿になる」「自信はしばしば暗愚に立脚している」「汚職は国を滅ぼさないが正義は国を滅ぼす」...etc.

 以前は、その"批評精神"にハマって何冊かこの人のものを読んだのですが(手元にあるのも単行本の初版)、こうしてみると、結構まっとうなことをまっとうに言っているだけのものもあり、また、批評的な観点よりも反語的な表現の旨さで読者をハッとさせるものが多いのではないかと...(コピーライター的?)。

 内容的にはすべてに納得できるわけでなく、と言って、アフォリズムというのは反論を寄せつけないものがあり(「死んだ人」の側から「生きている人を撃つ」という著者の立場は、反論不可能性の証ではないか)、結局、議論にならないため、「批評」としては弱いのではないかという気がしてきました。

 しかし、この人の本は、かつて絶版になったものが近年ほとんど文庫化されるなどしていて、一見すると隠居老人の繰り言みたいな感じがしなくもないに関わらず、若い人にもよく読まれていうようです。
 自分も含めて、若い頃の方がこうしたすっきりした言い草に惹かれるのかも知れず、意外と熟年より若者向けなのかも。

 それと、23年ぐらい続いた「夏彦の写真コラム」(ほとんど文庫になっている)などを読むと、写真と文章のとりあわせのセンスの良さが感じられ、インテリア専門誌の編集長兼発行人だった人でもあり、本書の中にある「広告われを欺かず」という言葉などにも、業界人としての側面が窺えますが、そうした洗練された素地があって若い読者を惹きつけているのではないかとも。

 【2003年文庫化[文春文庫]】

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1