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文学より家族心理学に話題を提供しそうな作品だと思った。
『家族シネマ』['97年]『家族シネマ (講談社文庫)』['99年]「家族シネマ [DVD]」
1996(平成8)年下半期・第116回「芥川賞」受賞作。
両親の離婚でバラバラになった家族の再会を、"映画に撮る"という話―。"家族"を単に戯画化して描いているだけならばまた違った印象を持てたような気がしますが、その中に醒めた主人公が居ることで、"家族"の愚劣さみたいなものがどっと前面に出た感じでした。その主人公にしても、新しい関係性を求めてか、老芸術家と付き合うのですが、その内容も含め全体にかなり自虐的な匂いがします。結末で作者は逆説的に"家族"を肯定しているのかとも思いましたが、自分にはよく伝わってきませんでした。この辺りは好みの問題もあると思います。
"映画に撮る"という設定は、今村昌平監督の「人間蒸発」などを想起させ、新鮮味はありませんでした。「書くしかなかった私」みたいな捉えられ方をされるのが作者にとっていいのかどうか分かりませんが、文学としてよりも、作者も含めたケーススタディとして家族心理学とかに話題を提供しそうな作品という印象。
精神科臨床医の斎藤環氏は『文学の徴候』('04年/文藝春秋)の中で、デビュー作『石に泳ぐ魚』('94年発表)以降、「柳のほとんどの小説は、常に私小説として読まれるほかはなくなってしまった」ようであり、その後も「自らの生の物語化」を押し進めている傾向にあるとし、そこに境界例(境界性人格障害)の「病因論的ドライブ」がかかっていると見ています。今どき「病跡学」でもなないでしょうけれど(「病跡学」って昔は結構流行ったのではないか)、この作家については斎藤氏の指摘があてはまるような気もします。
斎藤 環 『文学の徴候』 〔'04年/文藝春秋〕
ちなみにこの作品は韓国で映画化されていて、DVDでも見ることができ、監督は韓国の朴哲洙 (パク・チョルス)、出演は、梁石日(ヤン・ソルギ、映画「月はどっちに出ている」('93年)、「血と骨」('04年)の原作者)、伊佐山ひろ子、柳美里の妹の柳愛里(ユウ・エリ)などです。
柳愛里は、"AV女優をしている(主人公の)妹"の役ではなく、姉の"主人公"の役で出ていますが、この映画での彼女の演技はぱっとしないように思いました(他作品で見た彼女の演技は悪くなかったが...)。映画そのものがぱっとしないのかもしれませんが、通しできちんと観ていないので評価は保留します。
映画「家族シネマ」 (1998年/韓国)
【1999年文庫化[講談社文庫]】