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1939年の写真が中心。テキヤ・辻売りの写真が豊富。民俗学的記録を超える写真表現。


『濱谷浩写真集 市の音 一九三〇年代・東京』['09年] 濱谷 浩(1915-1999/享年83)
濱谷浩(1915-1999/83歳没)の没後10年目の記念的写真集。民俗学者・渋沢敬三(渋沢栄一の孫で渋沢当主の実業家、財界人でありながら柳田國男との出会いから民俗学に傾倒し、漁業史の分野で功績を残した。本書のあとがきに紹介されている濱谷浩の自著にもあるように、濱谷浩が最も敬愛した人物)の示唆によって撮影した写真を含む当時の東京風景など、当時未発表の写真を多数掲載しているとのことです。
日本に残る風俗写真、日常の生活写真を撮ることで、民俗学的記録を超える写真表現を追求した写真家であり、「一九三〇年代・東京」とサブタイルをつけたれた本書も、「浅草歳の市」「世田谷ボロ市」「葛飾八幡宮農具市」「辻売りと看板」という全5章の章立てで分類されています。百数十点ある写真の内、1939年に撮られた写真が多数を占め、今となってはなかなか見ることのできない珍しい写真ばかりですが、民俗学的記録としても価値があるのではないかと思われます。
また、本写真集は、テキヤの写真が豊富なのが特徴的でしょうか。あとは"辻売り"(表紙写真は辻売りだが、売っているのは「読売新聞」!)。「浅草歳の市」のしめ縄売り(ほとんど特集的に撮っている)、日用雑貨売り、じゃがいも売り、お札売り、金太郎飴、「世田谷ボロ市」の箪笥・スコップ売り(なぜこの2つを一緒に売る?)、法被売り、長靴、下駄・草履売り、子守しながら古着を売る人、仏具やアイロンを売る人、「葛飾八幡宮農具市」のまな板など台所用具を売る人や衣
類を売る人、農具を売る人、独楽回しの実演販売、唐傘売り、綿飴売り、かき氷屋、家相方位を説く香具師(ヤシ)、「辻売りと看板」における、先にも出た新聞売り、家の門前で芸能を演じて金品を貰う「門付」の三味線女(1937年に銀座5丁目で撮られたとある)、二輪車を引くうどん売り、同じく二輪車を押すはんぺん売り、天秤棒を担ぐ川魚売り、ほうずき売り、天秤棒を担ぐ豆腐売り(豆腐は昭和30年代までまだリアカーなどで売りに来ていたのではないか)、自転車にリアカーをつないでくるほうき売り、そして旗屋・納豆屋・酒屋・印鑑屋・小間物問屋などの看板等々見ていて飽きません。
テキヤについては、厚香苗氏の『テキヤはどこからやってくるのか?―露店商いの近現代を辿る』('14年/光文社新書)によると、現代のテキヤの多くは地元の自営業者だそうですが、この頃のテキヤはまだ行商(集団または個人の移動生活者)が主流だったのではないでしょうか。そうした人たちとその家族がどういった生活を送っていたのか推し量るのは難しいですが、この写真集を見ていると、そうした人の生活の息吹が伝わってくる気もします。そうした意味では確かに「民俗学的記録を超える写真表現」と言えると思います。
