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長く続く雑誌の創刊時の姿を知る上で貴重か。

『季刊 東京人 no.1 1986年創刊号』写真:篠山紀信「皇居初参賀」
雑誌「東京人」の1986年創刊号で、創刊当初は1、4、7、10月発行の季刊で、その後1987年9月号以降月刊になっています。創刊時、発行は財団法人東京都文化振興会、発売は教育出版株式会社(現在は都市出版が発行)。創刊時の発行人は貫洞哲夫、編集人は粕谷一希。
創刊号の巻頭は、篠山紀信(1940-2024/83歳没)によるグラビア「千の貌(かお)をもつ巨人」で、皇居初参賀、明治神宮・初詣、原宿駅前、浅草寺の羽子板市、新宿西口、上野アメヤ横丁、秋葉原電気街...と昔も今も東京を代表する街角を切り抜いています。また、巻末には建築評論家の松葉一清(1953-2020/67歳没)の文、写真家・村井修(1928-2016/88歳没)の写真によるグラビア「水晶楽園―超高層ビルの吹き抜け空間」があります。
写真はこの巻頭と巻末だけで、あとはイラストなどが多少はあるものの、基本的に全部文章であり、今のイラストや写真の間に文章が挟まっているような雑誌の作りとはかなり異なっていて、中身的には文芸誌っぽい印象さえあります。
創刊号の特集は東京の象徴「隅田川」で、隅田川に纏わる小木新造のエッセイや磯田光一の文学史的考察の次に来る、吉本隆明と小林信彦に対談「大川いまむかし」が目を引きます。また、特集以外では、山本健吉が「緑と神輿と」という随想を寄せているほか、「はじめての東京」というお題のもと、野坂昭如、五木
寛之、白石かずこ、西部邁、金井美恵子、武田百合子が短文を寄せているほか、川本三郎、佐野真一といった錚々たる人たちが文章を寄せています(俳優の中尾彬(2024年5月16日没)が「上野たこ久なじみ酒」という文章をイラスト付きで寄せていたりもする)。
巻頭座談会が、「住みにくいから面白い東京」というテーマで、芦原義信、高階秀爾(2024年10月17日没)、芳賀徹の鼎談。後の方には、村上春樹によるポール・セルーの短編小説の翻訳(その年の季刊10月号(創刊第4号)まで続いた)や、吉村昭にとる短編小説があって、米老舗誌「ザ・ニューヨーカー」に向こうを張って「東京人」という雑誌ができないものかとの構想のもと創刊されたという(編集後記)だけのことはあります(道理で文芸誌っぽい中身)。
個人的には、民俗学者の宮田登(1936-200/63歳)の「隅田川のフォークロア」という、千住大橋周辺、素盞雄神社などを巡る考察が興味深かったです。
長く続く雑誌の創刊時の姿を知る上で貴重と言えるかもしれません。
