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ジョン・カーニー監督の原点的作品。映画監督がその初期にしか作れない、原石の輝き。


「ONCE ダブリンの街角で [DVD]」グレン・ハンサード/マルケタ・イルグロヴァ Glen Hansard and Marketa Irglova accept the Oscar for best original song
ダブリンの街中、ストリートミュージシャンの男(グレン・ハンサード)が誰もが知る曲を弾いている。夜になると自分の書いた曲を歌うが、足を止めるものはいない。そこへ、雑誌や花を売っている女(マルケタ・イルグロヴァ)が現れ、小銭をギターケースに入れる。男は皮肉交じりに礼を言うが、女の「お金のため?誰のための歌?恋人はいない
の?」という問いかけを疎ましく思いながらも相手するうちに、彼の昼の本業である掃除機修理を約束されてしまう。翌日、演奏する男の前に掃除機を引き摺った彼女が現れ、昼食を共にする。女はチェコからきた移民で、父
親が音楽家だったという。2人は女がピアノを弾かせてもらっているという楽器店に立ち寄り、メンデルスゾーンを弾く彼女のピアノの腕を確信した男も一緒に演奏、2人のセッションは美しいハーモニーを生む。男はその演奏に自身の喜びを感じ、女に惹かれていく。翌日、男は街で花を売り歩く女を見つけ声をかけるが、前日彼女を短絡的に誘ったため女の態度はそっけない。男は謝り、自分の曲が入ったCDとプレイヤーを渡す。強引に彼女を家まで送ると、家へあがらないかと誘われる。家では母親と幼い娘を紹介され、厳しい移民の生活を目の当たりにする。男は、自分の曲に詞をつけてみないかと提案する。女はその夜、働くばかりの生活を忘れ、心に抱えていた想いを詞に込める―。
ジョン・カーニー監督・脚本による2007年公開のアイルランドの音楽映画。アイルランド映画局の出資を受けつつも製作費10万ドルという低予算で作られた作品で、撮影期間も17日間という短さだったそうです。2007年1月のサンダンス映画祭で観客賞を受賞し、同年3月からの全米一般公開での上映劇場数はたった2館だったのが口コミで話題になり、140館まで劇場数を増やしたとのことで、アカデミー賞の歌曲賞を受賞し(授賞式で主演の1人マルケタ・イルグロヴァが「低予算でも良いものを作れば必ず認めてもらえる」とスピーチを行い、会場から大喝采を受けた)、ミュージカル化されるまでに至っています。自身の監督第2作となるカーニー監督は「ザ・フレイムズ」の元ベース奏者であり、主演のグレン・ハンサードとマルケタ・イルグロヴァの2人も共にプロのミュージシ
ャンです。コスト削減のために自然光や友人達の家を使用したりし、パーティのシーンはハンサード自身のアパートが使われ、ハンサードの実際の友人がパーティ参加者および演奏者として出演したとのこと、パーティの席上で歌を披露た婦人はハンサードの母親だそうです。ダブリンの街角でのシーンは許可無しのゲリラ撮影で、望遠レンズを使うことで役者はカメラを意識することなく演技が出来たとのこと、勿論、通行人の多くも自分が映画に映り込んでいることを知らず映っていたわけで、全体として、ドキュメンタリー映画のような雰囲気があります(カメラがずっと細かく揺れていて、アドリブにカメラマンが笑って大きく揺れている場面もある)。
ストーリー的には所謂"ボーイ・ミーツ・ガール"の物語ですが、主人公の男女(最後まで名前で呼ばれることはなく、エンドロールでの役名が'guy''giri'となっているのが洒落ている)が互いに惹かれ合いながらも普通の恋愛映画みたに一緒にはならず、最後は(最後も行き違いのようになってしまうのだが)爽やかに別れるのが却っていいです(ロンドン行きを決めた自分に対する父親からの選別でチェコ製のピアノを買ったのかあ)。
「いいえ、私はあなたを愛している」(字幕なし)
街でバンドのメンバーを集めるというモチーフや街角でのゲリラ演奏という撮影手法も、主人公の男女が普通の男女の関係にはならず音楽を通してそれ以上の関係になるという展開も、カーニー監督の日本公開第2作「はじまりのうた」('13年/米)に引き継がれています。「はじまりのうた」のキーラ・ナイトレイ演じる主人公の女性はイギリスから
ニューヨークに来たという設定ですが、この作品のマルケタ・イルグロヴァ演じる女性は、チェコからダブリンに来た移民という設定で、共に'異邦人'であることで共通しています(イルグロヴァ自身がチェコのモラヴィア出身)。そうした意味では、カーニー監督の原点的な映画でしょうか。男女のロマンスの部分もカーニー監督の実体験がモチーフになっているとのことです(通りで演奏中にお金が盗まれるシーン、銀行でお金を借りるシーンなどは、グレン・ハンサードの下積み時代の実話だそうだ)。

主演のハンサードとイルグロヴァは映画を通して実生活でも交際を始め、カーニー監督によれば、そのことが2006年1月のダブリンでの僅か17日での撮影を容易にしたとのことですが(1988年生まれのイルグロヴァは当時18歳だった)、2人はその年デュオ・アルバム「The Swell Season」を発表、その後私生活上は別れたものの、「スウェル・シーズン」というデュオは継続しており、2009年には初来日して公演をしています。
ハンサードとイルグロヴァは私生活でも映画のストーリーのような関係になったわけですが、映画のストーリーで2人が結ばれなかったことにも満足していて、インタビューでハンサードは「アメリカの配給社が結末を変えて私達にキスをさせ、私は映画の宣伝活動に全くやる気をなくした」と語ったとのこと。ハンサードは、男が女に別居中の夫を今も愛しているのか尋ねる場面で、イルグロヴァがチェコ語のアドリブで「いいえ、私はあなたを愛している」(字幕なし)と言ったのに対し、ハンサードは撮影中は役の男同様に彼女が何と言ったのかわからなかったと語っており、映画と現実がいくつかの面でシンクロしているのが興味深いです(男が女にその言葉を英訳するよう求めるが、女の方は含みを持たせながらも自分の言葉の意味は教えなかったという、この一連のセリフや演技も全部アドリブなのか?)。
「観始めて3分で泣ける」と評判の「はじまりのうた」は、ある意味映画として洗練されており、それに比べると本作は、荒削りの良さとでも言うか原石の輝きとで言うべきか、映画監督がその初期においてしか作れない作品であるように思いました。

「ONCE ダブリンの街角で」●原題:ONCE●制作年:2007年●制作国:アイルランド●監督・脚本:ジョン・カーニー●製作:マルティナ・ニーランド●撮影:ティム・フレミング●87分●出演:グレン・ハンサード/マルケタ・イルグロヴァ/ ヒュー・ウォルシュ/ゲリー・ヘンドリック/アラスター・フォーリー/ゲオフ・ミノゲ/ ビル・ホドネット/ダヌシュ・クトレストヴァ/ダレン・ヒーリー/ マル・ワイト/ マルチェラ・プランケット/ ニーアル・クリアリー●日本公開:2007/11●配給:ショウゲート●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(16-07-02)(評価:★★★★)
Once Dublin no Machikado de (2007)



ミュージシャンの恋人デイヴ(アダム・レヴィーン)と共作した曲が映画の主題歌に採用されたのを機に、イギリスからニューヨークへやってきて彼とニューヨークで暮らすことにしたシンガーソングライターのグレタ(キーラ・ナイトレイ)だったが、デイヴがスターとなって二人の関係の歯車に狂いが生じ始め、デイヴの浮気により彼と別れて、旧友の売れないミュージシャンのスティーブ(ジェームズ・コーデン)の家に居候する。スティーブは失意のグレタを励まそうとライブ・バーに連れていき、彼女を無理やりステージに上げる。歌い終わると、音楽プロデューサーを名乗るダン(マーク・ラファロ)にアルバムを作ろうと持ち掛けられる―。
カリビアン」シリーズの第1作('03年)から第3作('07年)に出ていたことで知られているが)、ダン役のマーク・ラファロは米国俳優、デイヴ役のアダム・レヴィーンは米国のシンガーソングライター、ギタリストでロックバンド「マルーン5」のボーカル、ということで、英国的雰囲気と米国的雰囲気が入り交じったような映画だったでしょうか(グレタのことを励ます旧友スティーブ役の ジェームズ・コーデンもイングランド出身の俳優・コメディアン)。ジョン・カーニー監督の前作「ONCE ダブリンの街角で」もそうですが、最初は公開館数が非常に少なかったのが、口コミでその良さが伝わり大ヒットを記録したようです。
冒頭のライブ会場の場面で、スティーブがグレタを無理矢理ライブのステージに上げて歌わせ、それにダンが聞き入ってしまうところから始まって、そこからフラッシュバックしてグレタの失意に至る道のりを振り返り、今度はダンの失意への道のりを振り返るという映画の前半部分の構成が、「倒叙法」とでも言うか、「長い導入部」とでも言うか実に巧みであり、しかも、技巧が勝ちすぎることなく、前半部分だけでもしっかり感動させてくれます(誰かが「開始3分で泣ける」と言っていたが確かに。しかも同じ場面で3回泣ける(?)というのはスゴイ)。
ここまでしっかり作られてしまうと、後半はもう予定調和でメデタシメデタシしかないのではないかと思ってしまいましたが、物語がグレタの"再生"に止まらずダンの"再生"も描いていて、これがグレタの"再生"だけだと単なる敏腕プロデューサーの話になってしまうところを、途中からダンの"再生"も描くことでバランスが良くなっています。
しかも、グレタは、ダン〈個人〉を"再生"させると言うよりは、過去の出来事によりダンとそれまでうまくいっていなかった彼の妻や娘との〈関係性〉を再生させます(それによってダン自身も再生する)。これはスゴいなあと思って観ていたら、今度はグレタと別れた恋人デイヴの〈関係性〉が"再生"されるのです。相互に関係性が"再生"される物語なんだなあと(原題タイトル'BEGIN AGAIN'の'AGAIN'に意味がある)。
従って、グレタとダンはあくまで仕事上のパートナーに止まり、再会を約して「爽やかに」別れることになるわけですが、観ていていいなあという感じでした。やや出来過ぎた話との印象もありますが、ダンがバックバンドのメンバーを集めるところなどはコミカルで面白かったし、路上でのゲリラ・ライブはシズル感満点だったし(タイムズ・スクエアやエンパイア・ステート・ビルなどマンハッタンの名所巡りも味わえる)、「プライドと偏見」でアカデミー主演女優賞にノミネートされたキーラ・ナイトレイの演技力は、この現代劇でも発揮されていたように思います。
今月 ['16年7月]9日からは渋谷・シネクイントで、カーニー監督の最新作「シング・ストリート 未来へのうた」('15年/アイルランド・英・米)の上映が始まります。80年代半ばのダブリンが舞台のカーニー監督の自伝的要素も含んだ作品のようですが、シネクイントが「パルコ・パート3」の建て替えに伴う一時休業(?)で8月7日をもって最終上映となるため、シネクイントの実質ラストショーになるのではないだろうか。(実際その通りになった。ジョン・カーニーに着眼したシネクイントらしいラストショーか)
「はじまりのうた」●原題:BEGIN AGAIN●制作年:2014年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジョン・カーニー●製作:アンソニー・ブレグマン/トビン・アームブラ
スト(英語版)/ジャド・アパトー●撮影:ヤーロン・オーバック●音楽:グレッグ・アレキサンダー●104分●出演:キーラ・ナイトレイ/マーク・ラファロ/ヘイリー・スタインフェルド/アダム・レヴィーン/ジェームズ・コーデン/ヤシーン・ベイ/シーロー・グリーン/キャサリン・キーナー●日本公開:2015/02●配給:ポニーキャニオン●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(16-06-27)(評価:★★★★)