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人類移動史(ロコモーション)に力点。「最初のアメリカ人」「最初のオーストラリア人」が興味深い。
『人類大移動 アフリカからイースター島へ (朝日選書)』(2012/02)
人類の地球規模での移動をテーマに7人の専門家が分担して書いており(各章末のコラムも含めると12人)、異分野ですが先に読んだ『地球外生命 9の論点―存在可能性を最新研究から考える』('12年/講談社ブルーバックス)が、佐藤勝彦氏が機構長を務める大学共同利用機関法人「自然科学研究機構」の編による8人の専門家らによる"オムニバス論文"のような形式だったように、本書に論考を寄せている専門家の何人かは大学共同利用機関法人「国立民学博物館」のメンバーで、編者の印東道子氏は、同館の共同研究プロジェクト「人類の移動誌:進化的視点から」の代表者であり、本書には'09年から'12年までのその研究成果も反映されているようです。
大学共同利用機関法人国立民学博物館 共同研究プロジェクト「人類の移動誌:進化的視点」
類人猿から分かれて700万年前に二足歩行を開始した人類が、 故郷アフリカを出る旅により進化を重ね、極寒のシベリアを越えアメリカ大陸最南端へ、更に太平洋の島伝いにイースター島までにも広がった経緯を、分かり易い文章と多くの図版で解説し、その中で各専門分野に沿って、ネアンデルタールとクロマニョンの出会いはあったのか? 日本列島にはどのように渡ってきたのか?といったテーマを取り上げるとともに、その切り口も、遺跡調査や、人骨・DNA分析など、人類学、考古学、遺伝学など多岐にわたる視点からの考察となっています。
執筆者と執筆担当内容は次の通り。
赤澤 威「ホモ・モビリタス700万年の歩み -- ホモ・モビリタスの歩み」(1章)
海部陽介「アジアへの人類移動―人類のアジア進」(2章)
関 雄二「最初のアメリカ人の探求―最初のアメリカ人」(3章)
印東道子「海を越えてオセアニアへ―人類のオセアニア進出」(4章)
斎藤成也「DNAに刻まれたヒトの大移動史―遺伝学から何をさぐるか」(5章)
西秋良宏「新人に見る移動と現代的行動―本格的な移動はどうやってはじまったか」(6章)
赤澤 威「ネアンデルタールとクロマニョンの交替劇」(7章「移動と出会い―異なる文化段階の集団はどんな出会いをしたのか」1節)
松本直子「縄文人と弥生人」(7章2節)
印東道子「オセアニアの狩猟採集民と農耕民」(7章3節)
山極寿一「ヒトはどのようにしてアフリカ大陸を出たのか―ヒト科生態進化のルビコン」(8章)
『地球外生命 9の論点』が、内容が執筆者の各専門分野ごとの独立した論考になっていて、横の連関が弱かったのと比べると、こちらは、人類を「動く人=ホモ・モビリタス」と捉え、人類の地理的拡散にとりわけ焦点を当てているため、各論考が比較的スムーズ繋がっているように思いました。
個人的には、比較的多くのページが割かれている、関雄二氏の「最初のアメリカ人の探求―最初のアメリカ人」と印東道子「海を越えてオセアニアへ―人類のオセアニア進出」が興味深く読めました。
人類が最初にシベリアからアメリカ大陸に渡ったのは、両大陸が「ベーリンジア陸橋」で繋がっていた1万1500年以上前の「氷期」で、渡った後に米大陸を南下する際には、南極氷河ほどもある氷河と別の氷河の隙間の、1万2000年前以降に出来た「無氷回廊」を渡っていったと考えられるので、「無氷回廊」の形成と移動を研究し、何時ごろその"通り道"が人類が渡り易い位置に来たかを推定し、考古学的証拠と突合せれば、人類がアメリカ大陸を南下し始めた時期が推定されるわけです(この考えだと1万2000年前ということになる。しかし、考古学的証拠と突合せることによって、それより以前に海路で米大陸の西海岸ルートを通ったのではないかという新たな説も出てきたりして、そう簡単に全てが解明されるわけではないのだなあと。いずれにせよ、人類700万年の歴史で、アメリカ大陸の「発見」は僅か1万数千年前のことであるというのが興味深い)。
また、4万5000年前にマレー半島からボルネオにかけて地続きだった頃(スンダランド)、オーストラリアもニューギニアと地続きで(サフル大陸)、但し、スンダランドとサフル大陸の間には"海"があり、海面が現在より120メートル低かった1万2000年前でさえ、島嶼伝いに行っても最大70キロの海があり、これをどう渡ったについても、北ルート(カリマンタン島・スラウェシ島経由)と南ルート(フローレス島・東ティモール経由)が考えられるということです(更に、メラネシアへの移動に際して家畜動物を連れて移住した人々もいたらしく、その進化から人類の移動史を推察するという方法論も興味深い)。
一見、専門的過ぎると言うか、一般読者にとっては"マニアック"なテーマに思えなくもないですが、この「最初のアメリカ人」と「最初のオーストラリア人」というテーマは、クリス・ストリンガーらの『ビジュアル版 人類進化大全』('08年/悠書館)の中でも取り上げられており(本書と同じく各2ルートが示されている)、人類移動(ロコモーション)研究における近年の注目テーマであるようです。



冒頭で、700万年の人類の進化史には、①サヘラントロプスなど初期ヒト属の誕生(700万年前)、②初期型ホモ属(アフリカ型ホモ・エレクトスなど)の分岐(250万年前)、③ホモ・サピエンスの出現(20万年前)の3つの画期があったとし、本書前半部分は、700万年前から数十万年前までのホミニン(ヒト属)の発見史となっており、後半部分はネアンデルタール人やホモ・サピエンス(現生人類)を主に扱っており、三井誠氏の『人類進化の700万年』と比べると、"始まり部分"と"直近部分"が詳しいという印象。
第2章(350万~290万年前)は、アファール猿人(350万年前)についてで、アウストラロピテクス・アファレンシス(アファール猿人)の脳の大きさは現生人類の3分の1程度ですが、既に人類固有の成長遅滞(脳がまだ小さいうちに産み、ゆっくりと時間をかけて育てる)の形跡が見られるそうです。



![[新装版]アフリカで誕生した人類が日本人になるまで.jpg](http://hurec.bz/book-movie/%5B%E6%96%B0%E8%A3%85%E7%89%88%5D%E3%82%A2%E3%83%95%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%81%A7%E8%AA%95%E7%94%9F%E3%81%97%E3%81%9F%E4%BA%BA%E9%A1%9E%E3%81%8C%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8B%E3%81%BE%E3%81%A7.jpg)
①アフリカで現代人(ホモ・サピエンス)にまで進化した集団の一部が、5~6万年前までには東南アジアに来て、その地の後期更新世人類となった。

高井 研 氏 (独立行政法人 海洋研究開発機構)
これまでに深海で発見された奇妙な生物たち、例えばジャイアントチューブワームなどがどのような化学合成を行っているかを紹介していて、チューブワームは、鰓(えら)から取り込まれた硫化水素と二酸化炭素を、体内で共生菌を養っている栄養体に運搬し、細菌が硫化水素を酸素で硫黄や硫酸に酸化させることでエネルギーを獲得しつつ有機物を合成し、口が無くとも3mくらいに成長するという―ああ、確か通常我々がイメージする生物とは全く違った仕組みだったなあと思い出すとともに、ちょっと難しいかなとも思いましたが、これはまだ序の口。
生命を生み出す深海熱水活動にも、生命誕生の条件となる性質に制約があるらしく、それが冒頭の、火山列島である日本の近海ではなく、わざわざ南インド洋まで出かけて調査をするという話に繋がっていきます(水素濃度が一定以上でないとダメなわけだ)。
ライム仮説」は、現在、様々な検証を経て、補強と進化の過程にあるという―まさに、最先端研究の始終を、一般読者に対しても手を抜くことなく開示してみせた本でした。

