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移民の不安や希望をモチーフとしているが、普遍性の高い心象風景となっている。


『アライバル』(31.2 x 23.6 x 1.6 cm)['11年/河出書房新社]/『レッドツリー
』(27.8 x 21.4 x 1.4 cm)['11年/今人舎](早見優オフィシャルブログ)
オーストラリアのイラストレーター、絵本作家のショーン・タン(Shaun Tan、1974-)のオムニバス作品で、全編イラストで構成されていますが、「字のない絵本」「イラストで語られる小説」などとも言われているようです。
'04年に絵本『レッドツリー―希望まで360秒』('01年発表、'04年/今人舎)が早見優の訳で紹介され(絵が主体で文章は僅か。メーテルリンクっぽい寓話的ストーリー)、SF小説の挿絵のような画風の絵本『遠い町から来た話』(Tales from Outer Suburbia、'08年発表、'11年/河出書房新社)で認知度が高まり(これ、大友克洋とか宮崎駿っぽい雰囲気もある)、この『アライバル』(The Arrival、'06年発表)は、日本紹介作としては第3弾です(早見優訳『レッドツリー』は'11年に大判となって改版)。
『遠い町から来た話』
国際的には、この『アライバル』で世界幻想文学大賞など多くの賞を受賞し、『ロスト・シング(落し物)』('99年発表、'12年/河出書房新社)が'10年にアニメ映画化され、アカデミー賞短編アニメーション賞を受賞しています(監督:ショーン・タン/アンドリュー・ルエーマン)。
本書は、見知らぬ国に「到着」したばかりの移民が作品の大きなモチーフになっていますが、セピアトーン一色で描くことで年月の経過をうまく演出しており、シュールでありながらリアルであるというのが不思議。移民の不安や希望をここまで描く力量はやはりスゴイことかもしれず、人間の心象風景として普遍性のある作風になっているように思いました。
ショーン・タンの父親は、マレーシアから西オーストラリアに移住した移民であり、その父の経歴が作風に影響を与えているとのこと、但し、この作品の中で描かれているのは「架空の国」であるとのことですが、個人的には何となく、19世紀から20世紀にかけてヨーロッパからアメリカへ渡った移民を素材として扱った映画に出てくる1シーンを想起させるようなものが多いような気がしました。
イタリア系移民を扱ったフランシス・フォード・コッポラ監督の「ゴッドファーザーPartⅡ」('74年/米)、ロシア系移民を扱ったマイケル・チミノ監督の「天国の門」('80年/米)、ユダヤ系移民を扱ったセルジオ・レオーネ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」('84年/米・伊)、アイルランド人の移民を扱ったマーティン・スコセッシ監督の「ギャング・オブ・ニューヨーク」('02年/米、レオナルド・ディカプリオ主演)等々(映画の中の回想シーンも含め)何となく既視感のあるものもありました。
アニメ作家でもあるらしく、フィルムのコマ送りのような連作もあって、作品の点数的にもスゴイ数ですが、これ全部一人で描いたのかなあ。
作者あとがきを見ると、このオムニバス作品の制作に4年間を費やし、リサーチのため多くの図書館を回ったらしく、また「1912年のタイタニック号沈没のニュースを伝える新聞売りの写真」「ビットリオ・デ・シーカ監督の1948年の映画『自転車泥棒』」などからもインスピレーションを得たとありますが、どの映画か特定はできないけれど、先に挙げた映画の影響なども受けているのではないかなあ。



掲載されているのは「原画」であり、タイトルなどの文字は入っていないため、もちろん作品のイメージと結びつけて観賞するのが筋ですが、仮にその作品を読んでなくとも絵画としてスッキリ鑑賞することが出来て、また、その多くに、推理小説家でミステリ評論家のジュリアン・シモンズ(Julian Symons, 1912-1994)が、作品紹介と併せて解説や評価をコメントしています。
例えば、シモンズが絶賛する「鏡は横にひび割れて」のイラストについては、「この表紙がどうしてそれほど好まれるかが分からなくて途方に暮れている」としています。
結構シュールレアリズムっぽいものも多く、牧師の頭の部分ががテニスラケットになっている「牧師館の殺人」のイラストなどは完全にルネ・マグリット風ですが、それが作品に出てくる要素が散りばめられていたり、或いはイラスト全体として作品の雰囲気を伝えるものであればシモンズは高く評価し、一方、あまりにシュール過ぎて作品と結びつきにくくなるとやはり疑問を呈したりしています(「牧師館の殺人」におけるテニスラケットはさほど重要なモチーフ要素ではなく、殆どトム・アダムズが自分の好みで描いたのか)。




