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面白かった。出来過ぎ感、非現実感は、娯楽小説、近未来小説とみれば許容範囲内か。

『東京零年』(2015/08 集英社)赤川次郎氏[デジタル毎日](吉川英治文学賞受賞)
2016(平成28)年・第50回「吉川英治文学賞」受賞作。
駅ホームから転落した学生の生田目健司を24歳の永沢亜紀が救った。その亜紀の父親で、脳溢血で倒れ介護施設に入所しているかつての社会運動家・永沢浩介は、ある男がTV番組に写り込んでいるのを見て発作を起こす。呼び出された娘の亜紀は、たどたどしく喋る父の口から「ゆあさ」という言葉を聞く。それは昔殺されたはずの男・湯浅道男のことだった。健司の父親で、元検察庁特別検察官・生田目重治が湯浅の死に関与していた事を知った健司は、真相を解明すべく亜紀とともに動き出す。時は遡り数年前、エリート検察官の生田目重治、反権力ジャーナリストの永沢浩介、その補佐を務める湯浅道男ら、圧倒的な権力を武器に時代から人を消した男と消された男がいた―。
雑誌「すばる」で約2年半に渡り連載され社会派サスペンス小説で、2011年の東日本大震災以降、この作家は社会的な発言を結構するようになっていますが(立場的にはリベラル?)、作品に反映されているものを読んだのは、個人的にはこれが初めてでした。面白かったです。何よりもテンポがいい。500ページを超える大作ですが、平易な文体ですらすら読めます。
やや話が出来過ぎた話の印象もありますが、エンタテインメント小説として許される範囲内でしょうか。むしろ、リアリティの面でどうかというのがありますが、これ自体「近未来」という設定のようなので、近未来小説として読めばこの点でも基準をクリアしているように思えました(一番出来過ぎていると思ったのは、永沢亜紀がターゲットである相手とぶつかりざまに隠しマイクを取り付けるところか。素人がやってそんな上手くいくかなあ)。
でも、近未来の日本を描いたものでありながら、今でも起こりうると思われる部分もあって(未来の監視社会の恐怖と言うよりは、検察・警察権力の暴走の怖さを描いている)、作者の作品群の中で相対評価すれば、星5つあげてもいいくらいかなあと思ったりもしました。
プロットの展開は、この作家の持ち味と言うか、やはり上手だと思います。一方で、この作家独自の「軽さ」のようなものもどこかにあって、読んでいる間は面白いけれど、テーマの重さの割には、時間が経ってからどれぐらい心に残るだろうかというのもあって、星4つとしました。
Amazon.comのレビューを見ると、自分より辛い評価のものも若干ながらありました。その中で、「確かに検察・警察権力が暴走しているのだが、やり方があまりにも粗暴かつ幼稚で現実感がない」というのがありました。批判的にみればそうなのだろうなあと思われ、その辺が「軽さ」感に繋がっているのかもしれません。でもこの「軽さ」は、個人的には、娯楽小説、近未来小説としての許容範囲内ではないかと思います。
【2018年文庫化[集英社文庫]】



2018年映画化「祈りの幕が下りる時」(東宝)監督:福澤克雄




2009(平成21)年・第43回「吉川英治文学賞」受賞作。
原作では、東大大学院生の島崎国男、捜査一課刑事の落合昌夫、オリンピック警備本部幕僚長の息子でテレビ局勤務の須賀忠の3人が東大で学部の同級生ということになっていますが、テレビ版では、落合昌夫(竹野内豊)ではなく、(原作には全く登場しない)その妹の落合有美(黒木メイサ)が島崎(松山ケンイチ)、須賀(速水もこみち)と同級ということになっていて、しかも有美は国男に恋心を抱いてどこまでも彼に付いていこうとする設定になっているため、国男が村田(笹野高史)と一緒に爆破計画を練っている傍にちょこんと居るのが違和感ありました。男だけで逃亡するのと、恋人連れで逃亡するのでは、随分と物語の性質が変わってくるのでは...とやや気を揉みましたが、その外の部分は思った以上に原作に忠実に作られていて、ドラマの方も楽しめました。
原作では、国男がオリンピックの開催阻止を決意する前の時期と、決意して行動に移していく時期とをフラッシュバック手法で交互に見せ、しかも前半部は決意する前の普通の大学院生だった時期の方に比重を置いて書かれているため、この大人しそうな青年が本当に爆破犯に変貌していくのだろうかという関心からも読み進めることができましたが、ドラマにそこまで求めるのは無理だったか。
また、原作では、特に冒頭の方で、昭和39年という時代を感じさせるアイテムやグッズ、社会背景に関する話などがマニアックなくらい出てきてシズル感を高めていましたが、ドラマではその辺りが端折られていたのがやや残念でした(時代を感じさせるのはクルマと看板だけ。それだけでも結構苦労したため、他のところまで手が回らなかった?)。
2020年の東京オリンピックは、"大義なき五輪"と言われ、その分、開催立候補前は開催に対して"何となく反対"という雰囲気が優勢だったのが、開催決定後は、"何となく期待する"みたいな風に変わってきているような印象も受けますが、では、1964年の東京オリンピックの(ヤクザさえ抗争活動を休止するような)"大義"とは何であったのか、多かれ少なかれ、そうした当時における"大義"に思いを馳せることができる作品でもあるかと思います。

「オリンピックの身代金~テレビ朝日開局55周年記念」●監督:藤田明二●脚本:東本陽七/七橋斗志夫●原作:奥田英朗「オリンピックの身代金」●出演:竹野内豊/松山ケンイチ/黒木メイサ/天海祐希/沢村一樹/速水もこみち/斎藤工/吹石一恵/笹野高史/國村隼/岸部一徳●放映:2013/11/30~12/01(全2回)●放送局:テレビ朝日


・TBS系列「月曜ミステリーシアター」



実在した幕府の火付盗賊改方長官・長谷川平蔵(通称「鬼の平蔵」)をモデルにした、池波正太郎(1920‐1990)の代表作「鬼平犯科張」の記念すべき第1巻で、平蔵を始め、お馴染みの主要登場人物の何人かの出自がわかります。
平蔵のキャラクターが既にくっきりと描かれてはいるものの、所収の「啞の十三」から「妖盗葵小僧」までの12編はむしろ「盗賊」たちの物語であり、著者自身のあとがきにもあるように、最初は物語の束ね役として平蔵を登場させていたのが、平蔵自身をもっと中心に据えて書こうと思い、単行本化に際して「鬼平犯科張」というタイトルにしたようで、これが長いシリーズの始まりとなったようです(「鬼平犯科帳」というタイトルは、編集者が、岩波新書の『犯科帳-長崎奉行の記録』('62年)から思いついたとのこと)。
この「鬼平犯科帳」は、'69(昭和44)年にCX系列で、長谷川平蔵を八世松本幸四郎(初代松本白鸚)が演じるTVドラマシリーズとしてスタートして好評を博し、第1シーズンだけで64話放映され、'75(昭和50)年の第3シーズンまで120話近く放映さ
、二代目中村吉右衛門を主役とするシリーズが始まり、'01(平成13)年まで9シーズンに渡って、レギュラー版だけで130話以上を演じています(実父・松本幸四郎(白鸚)よりも倍近く年数がかかっているが、回数的には父親を超えたことになる)。70年代、80年代、90年代と、それぞれに人気番組であり続けたというのは、やはり、原作の力が大きいとも言えるのではないでしょうか。
'95年には小野田嘉幹監督の「鬼平犯科帳 劇場版」('95年/松竹)として映画化され、中村吉右衛門以下、テレビシリーズの面々が出演しましたが、「鬼平犯科帳」の映画化作品はこの1作のみです(その後、'21年に、山下智彦監督、十代目松本幸四郎主演の「鬼平犯科帳 血闘」が公開された)。ゲストは大阪の盗賊の元締・白子の菊右衛門に藤田まこと、江戸の女盗賊の頭目・荒神のお豊に岩下志麻。盗賊2代目狐火勇五郎には、ロックバンドツイストのボーカル世良公則。平蔵の息子・辰蔵には、NHK連続ドラマ「春よ、来い」('94年)に出演した東根作寿英。
狐火を名乗る盗賊による、凶悪な犯行が起こる。しかし本物の狐火・勇五郎(世良公則)の犯行ではなく、その弟・文吉(遠藤憲一)によるものだった。火付盗賊改方長谷川平蔵(中村吉右衛門)はおまさ(梶芽衣子)を利用し、文吉一味は御用となる。一方荒神のお豊(岩下志麻)と、江戸進出を目論む大阪一帯を牛耳る大盗賊の白子の菊右衛門(藤田まこと)は手を組み、また、お豊は鬼平を討つための画策し、平蔵の息子・辰蔵(東根作寿英)に目を付けて誘惑する―。
幾つかのテレビ脚本を組み合わせたようで、105分の中に、平蔵と反抗期の息子との関係や、平蔵と昔の女・お豊との関係などいろいろな話が織り込まれています。そのため、映画を観ていてもテレビを観ている印象がありました。ただ、ゲストが大物女優岩下志麻なので、ああ、映画だなあと。岩下志麻は、この映画の20年以上前に出演した、同じく池波正太郎原作の「必殺仕掛人」の劇場版、貞永方久監督
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「鬼平犯科帳(1)」●演出
:小野田嘉幹/高瀬昌弘/田中徳三/富永卓二/原田雄一/吉田啓一郎/大洲齋/杉村六郎●制作:能村庸一/桜林甫/佐生哲雄●脚本:小川英/井手雅人/田坂啓/野上龍雄
/下飯坂菊馬/安藤日出男/星川清司/櫻井康裕/保利吉紀/安倍
徹●音楽:篠原敬介●原作:池波正太郎「鬼平犯科帳」●出演:二代目中村吉右衛門/
「鬼平犯科帳(2)」1990/10~1991/03(全19回)/「鬼平犯科帳(3)」1991/11~1992/05(全19回)/「鬼平犯科帳(4)」1992/12~1993/05(全18回)/「鬼平犯科帳(5)」1994/03~07(全13回)/「鬼平犯科帳(6)」1995/07~11(全10回)/「鬼平犯科帳(7)」1997/04~07(全12回)/「鬼平犯科帳(8)」1998/04~06(全9回)/「鬼平犯科帳(9)」2001/04~05(全5回)(全137話)/「鬼平犯科帳スペシャル」2005~2016(全14回)(通算151話)
「鬼平犯科帳 劇場版」●制作年:1995年●監督:小野田嘉幹●製作:村上光一/櫻井洋三●脚本:野上龍雄●音楽:津島利章●撮影:伊佐山巌●原作:池波正太郎●時間:105分●出演:二代目中村吉右衛門/多岐川裕美/東根作寿英/久我陽子/高橋悦史/神山繁/御木本伸介/勝野洋/尾美としのり/真田健一郎/木村栄/三代目中村歌昇/梶芽衣子/三代目江戸家猫八/蟹江敬三/綿引勝彦/藤巻潤/江戸家まねき猫/岩下志麻/藤田まこと/石橋蓮司/世良公則/本田博太郎/平泉成/遠藤憲一/峰岸徹●公開:1995/11●配給:松竹(評価:★★★☆)
「必殺仕掛人 春雪仕掛針」●制作年:1974年●監督:貞永方久●製作:織田明●脚本:安倍徹郎●音楽:鏑木創●撮影:丸山恵司●原作:池波正太郎●時間:89分●出演:緒形拳/林与一/山村聰/岩下志麻/夏八木勲/高橋長英/竜崎勝/地井武男/高畑喜三/花澤徳衛/佐々木孝丸/村井国夫/ひろみどり/荒砂ゆき/相川圭子●公開:1974/02●配給:松竹(評価:★★★☆)
「鬼平犯科帳スペシャル 山吹屋お勝」(2005年2月20日)監督:石原興/出演:(ゲスト俳優) 床嶋佳子/橋爪功/嶋田久作/金田明夫/田中要次/曽我廼家文童/平泉成/吉田栄作
「鬼平犯科帳スペシャル 兇賊」(2006年2月17日)監督:
「鬼平犯科帳スペシャル 一本眉」(2007年4月6日)監督:
「鬼平犯科帳スペシャル 引き込み女」(2008年10月17日)監督:酒井信行/出演:(ゲスト俳優)余貴美子/羽場裕一/佐々木すみ江/松金よね子/石倉三郎/七代目市川染五郎
「鬼平犯科帳スペシャル 雨引の文五郎」(2009年7月17日)監督:
「鬼平犯科帳スペシャル 高萩の捨五郎」(2010年6月18日)監督:斎藤光正/出演:(ゲスト俳優)塩見三省/遠野なぎこ/北原佐和子/若松武史/春田純一/火野正平/津川雅彦