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「精緻」と言うより「丁寧」。新訳によって「犯人を知りつつ読む面白さ」が増した?

Yの悲劇 エラリー・クイーン 創元推理文庫.jpgyの悲劇 角川文庫.jpg Yの悲劇 ハヤカワポケット2.jpg
Yの悲劇 (1959年) (創元推理文庫)』(1959)カバー:日下弘/『Xの悲劇 (角川文庫)』['10年(越前敏弥:訳)]/『Yの悲劇 (1957年) (世界探偵小説全集)』['57年/ハヤカワ・ポケット・ミステリ(砧一郎:訳)]
yの悲劇 カバー.jpgThe Tragedy of Y  .jpgyの悲劇 原著.jpg 行方不明が伝えられた富豪ヨーク・ハッターの腐乱死体がニューヨークの港で見つかり、その後、ハッター邸では毒殺未遂事件など奇怪な出来事が発生する。そして遂には、ヨーク・ハッターの老妻エメリー夫人が寝室で何者かに殴殺されるという事件が起きる。警察の依頼を受けた元シェイクスピア俳優のドルリー・レーンが調査に乗り出すが―。

The Tragedy of Y by Barnaby Ross (Ellery Queen)

 エラリー・クイーン(Ellery Queen)がバーナビー・ロス名義で1932年に発表した作品で、1985年に「週刊文春」で実施された、推理小説のオールタイムベスト選定企画「東西ミステリーベスト100」(推理作家や推理小説の愛好者ら約500名がアンケートに回答)で第1位になるなど、日本での海外ミステリの人気投票企画では定番で上位に来る作品ですが、『Xの悲劇』と同じ発表年であるというのもスゴイことだなあと。

 但し、犯人の意外性がこの作品の最大のポイントであり、時間を経てもその衝撃が忘れられないというのは傑作の証しだろうけれども、再読した場合にどれくらいインパクトがあるだろうかと疑念を抱きつつ、越前敏弥氏による新訳が出たので、数十年ぶりに再読してみました。

 そしたら、やっぱり面白かった。結構、早め早めに犯人を暗示するような伏線が敷かれていたというか、思った以上にヒントが散りばめられていたというか、ミステリ音痴の自分にとっては、ドルリー・レーンが犯人を絞っていく論理的な過程を追うことが出来て、安心して楽しめたというところでしょうか。

The Tragedy of Y.jpg なぜ凶器がマンドリンなのかということ以外にも、普通の犯人だったらするとは考えられないようなことをこの犯人はどうしてやったのかということが、ドルリー・レーンによって事細かに"解説"されていて、「精緻」と言うより「丁寧」な印象を今回は受けました。

 やや引っ掛かったのは、ヨーク・ハッターの書いた小説のあらすじが、とりわけ薬物の扱いについて極めて手順指示的なことで、そうでなければ薬物の専門知識の無い犯人には犯行は成し得ないわけですが、ヨーク・ハッターが結局は構想止まりだった小説について、ここまで指示的に書く必然性があったのかなあと(深読みすれば、書いている間は潜在的に実行犯の登場を期待していたともとれるが)。

The Tragedy of Y (Ellery Queen in Ipl Library of Crime Classics) Paperback (1986)


 それと、「奇異な血筋」とか「家系的に欠陥がある」といった病気や遺伝についての誤った表現があり、これは、1930年代という時代を考えればやむを得ないのかも知れないし、この作品以降の推理小説やハードボイルド小説にも、そうした家系をベースとしたプロットのものが少なからずありますが、一方で、ダシール・ハメットの『デイン家の呪い』(1929年)などは、それを匂わせながらも、最後はそうしたものを否定していて、やはり、時代を考慮しても、少なからず抵抗がありました。

「Yの悲劇」田村隆一 角川文庫.jpg 結局、ドルリー・レーンは、それ(血筋)を根拠に、性悪説的な見地から最後は独自に断罪行為に出たようにもとれ、解説の桜庭一樹氏が書いているように、「老人になってからのエルキュール・ポアロのある事件にも似て」いるのかも知れません(エルキュール・ポアロ・シリーズの中には、ポワロはまるで死刑執行人のようだと思わせるような結末のものがあり、そもそも、ポアロ・シリーズ3作目の『アクロイド殺し』(1926年)からしてその気配がある)。

 そうした幾つかの引っ掛かりはありましたが、傑作であるには違いなく、海外よりも日本でこの作品の人気が高いのは(海外では『Ⅹの悲劇』の方が評価高いらしい)、「犯人を知りつつ読む」という読み方を日本人が結構しているからではないかと(ミステリを読む人ならば、この作品が未読であっても全く犯人を知らないという人の方が少ないのではないか)、今回の越前敏弥氏の読み易い新訳を通して改めて思った次第です。

角川文庫旧版(田村隆一:訳)カバー

「Yの悲劇」1.jpg 因みに、この『Yの悲劇』は、1978年にフジテレビ系列の「ゴールデンドラマシリーズ」(土曜22時-22時54分)枠でドラマ化されていて(全6回)、舞台を日本に置き換え、出演は石坂浩二(ドルリー・レーンと同じく舞台俳優役)、金子信雄、江原真二郎、八千草薫、連続ドラマ初出演の夏目雅子(同年、「西遊記」(全27話)において三蔵法師役を演じて人気を博す)など。最終回を観た時、ラストで結構衝撃を受けた記憶があるので、原作は当時は未読で、誰もが知る有名な結末(下写真でネタバレしてしまっているが(笑))もまだ自分は知らなかったのではないかと思います。
Yの悲劇 [DVD]
78「Yの悲劇」19.jpg「Yの悲劇」3.jpg「Yの悲劇」●演出:杉田成道●脚本:清水邦夫(翻訳・翻案・脚色)●音楽:佐藤勝●原作:エラリー・クイーン●出演:石坂浩二/金子信雄/夏目雅子/土部歩/村松英子/武原英子/夏圭子/木村よし子「Yの悲劇」2.jpg/岩下浩/花王おさむ/小杉治/遠藤義徳(子役)/江原真二郎/遠藤剛/瀬良明/大友龍三郎/村上幹夫/崎田美也/新井梨枝子/伊豆肇/千石規子/中条静夫/左幸子(特別出演)/八千草薫●放映:1978/07~08(全6回)●放送局:フジテレビ

 【1957年新書化[ハヤカワ・ポケット・ミステリ(砧一郎:訳)]/1958年文庫化[新潮文庫(大久保康雄:訳)]/1959年再文庫化・1970年改版[創元推理文庫(鮎川信夫:訳)]/1961年再文庫化[角川文庫(田村隆一:訳)]/1974年再文庫化[講談社文庫(平井呈一:訳)]/1988年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(宇野利泰:訳)]/2010年再庫化[角川文庫(越前敏弥:訳)]】

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新訳によってより感じられた、テンポの良さ、モダニズム、構成・謎解きの精緻さ。

Xの悲劇 エラリー・クイーン 創元推理文庫.jpgxの悲劇 角川文庫.jpg Xの悲劇 (創元推理文庫)_.jpg xの悲劇 1952.jpg xの悲劇 1933.jpg
Xの悲劇 (角川文庫)』['09年]/『Xの悲劇 (創元推理文庫)』/Avon Books(1952)
Xの悲劇 (1960年) (創元推理文庫)』(1960)カバー:日下弘/『Xの悲劇 <世界探偵小説全集>』(砧一郎:訳)['58年/ハヤカワ・ポケット・ミステリ]
xの悲劇 原著.jpg ニューヨークの株式仲買人ロングストリートが、会社で女優との婚約発表を兼ねたパーティーをした後、自宅でパーティーの続きをするため出席者全員で乗った路面電車の中で、ポケットに入れられた毒液が塗られた針が何本も刺さったコルク玉に触れて死ぬ。この満員の車中での密室犯罪の謎を解くため、警察から援助を求められて、元俳優のドルリー・レーンが調査に乗り出すが、その目の前で第2の殺人が起き、更には第3の殺人までもが―。

 エラリー・クイーン(Ellery Queen)がバーナビー・ロス名義で1932年に発表した作品で、「エラリー・クイーン」とはフレデリック・ダネイ(Frederic Dannay、1905-1982)とマンフレッド・リー(Manfred Lee、1905-1971)という従兄同士の合作ペンネームですが、ダネイがプロット担当で、リーが文章担当だったそうです。

 この作品に関しては、引退したシェイクスピア俳優であるドルリー・レーンという英国貴族風のキャラクターと、犯罪者の心理を読み解くことが推理の柱となっているというそのシャーロック・ホームズ的な手法から、やや古風な印象が強かったのですが、今回、『ダヴィンチ・コード』の翻訳者である越前敏弥氏による新訳で読んでみて、まず、第1の殺人から第2の殺人にかけてのテンポの良さにハマりました。

The Tragedy of X 1.jpg これ、高度の科学捜査技術が用いられていないことを除いては、現代のクライム・サスペンスのトーンとさほど変わらないのではないかと思ったりもし(サム警視も現代の犯罪捜査官とあまり変わらないような感じで、結構てきぱき行動している)、この作品の発表の5年くらい前までコナン・ドイルが雑誌にシャーロック・ホームズ物を連載していたり、モーリス・ルブランのアルセーヌ・ルパン物の後期作品やアガサ・クリスティの『オリエント急行の殺人』(1934年)や『ABC殺人事件』(1935年)と時期的にほぼ重なることを思うと、このモダンさは特筆すべきではないかと感じました。

Tragedy of X ペーパーバック (1986)

 ドルリー・レーンが登場してからは、英国風の庭がどうのこうのといった話も出てはきますが、ホームズ物のようにプロットの周辺にある時代がかった小道具を楽しむというよりは、純粋にプロットを楽しめる本格推理小説であり、どうして英米でこの作家の作品が日本ほどに一般ウケしないのか(ミステリ通には支持されているようだが)、やや不思議な気もします。

The Tragedy of X(Xの悲劇) .jpg 但し、既に多くの人が指摘しているように、なぜレーンは犯人の見通しがつきながらもサム警視に何も情報を与えなかったのかなどといった疑問点も少なからずあり、最大の瑕疵とされているのは、第2の殺人の犯行の(犯人にとっての)重要ポイントが、多分に蓋然性に依拠している点です。

 個人的にもそこが1つのネックだとは思いますが(ダイイング・メッセージにも無理があるようには思うが)、それらのことを含めても、市電、フェリー、列車という3つの乗り物を事件の舞台に設定した構成力や、犯行への執着を裏付ける犯人の抱えた悲劇性の深さに加えて、レーンの精緻且つ論理的な謎解きが新訳によってよりクリアになったように思われ、今さらこの作品を傑作とするのはベタな気もしますが、やはり傑作であるには違いないと改めて思った次第です。

The Tragedy of X:Xの悲劇〈ぶらっく選書15〉 延原謙 訳 古澤岩美 装幀(新樹社/昭和25年9月30日)

Yの悲劇Ⅹの悲劇 ハヤカワ・ポケット・ミステリ.jpgハヤカワ・ポケット・ミステリ(砧一郎:訳)/角川文庫旧版(田村隆一:訳)/ハヤカワ・ミステリ文庫(宇野利泰:訳)
「Xの悲劇」田村隆一 角川文庫.jpgXの悲劇 (ハヤカワ・ミステリ文庫) _.jpg【1958年新書化[ハヤカワ・ポケット・ミステリ(砧一郎:訳)/1958年文庫化[新潮文庫(大久保康雄:訳)]/1959年再文庫化・1970年改版[創元推理文庫(鮎川信夫:訳)]/1964年再文庫化・2004年改版[角川文庫(田村隆一:訳)]/1977年再文庫化[講談社文庫(宇野利泰:訳)]/1988年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(宇野利泰:訳)]/2009年再庫化[角川文庫(越前敏弥:訳)]】

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