「●ふ 藤原 審爾」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●ふ 藤原 新也」 【615】 藤原 新也 『東京漂流』
シリーズ初期作品で、これまで文庫に収められなかった「放火」。登場人物の名前が違う。

藤原審爾
『『葛藤する刑事たち』傑作警察小説アンソロジー (朝日文庫)』['19年]
『新宿広場:新宿警察』['69年/報知新聞社](収録作品:新宿ゴキブリ、勇気ということ、新宿でかめろん、ズベ公おかつ、新宿心中、優雅な死、新宿製人魚、青い公園にて、新宿その血の渇き、所轄刑事、純情無頼、放火、鴉のあしあと、新宿西口ビル街殺人事件)
聞込みは、運が左右する。不意に思いがけないことをきかれて、すらすら思い出せるものではない。それに、なにか大事な目撃をした者が、聞込みの時に居合せなければ、それきりである。それに喋るほうは無責任で、正確を期そうとするわけではない。それらの悪条件を克服するのは、犯人を捕えないではいられない情熱と運と、足が棒のようになるほど、根気よく聞込みをつづけることである―。(「放火」より)
東京・新宿にある警察署を舞台に、燃えるような情熱をもった刑事たちを描いた藤原審爾の《新宿警察シリーズ》('75年9月から'76年2月にかけてCX系で放映された北大路欣也主演のドラマ「新宿警察」の原作)の1作。文字通り放火事件の犯人捜査を軸とする捜査ものですが、このシリーズの特徴的傾向として、軸となる物語の事件が他の事件との並行捜査になっていて、ここでは、新宿の暴力団の十二社にある賭場への武装警官突入と重なっています。そこで、新興の愚連隊の男の超絶美人の情婦を挙げることになりますが、実は彼女は―。
藤原審爾の短編集『新宿警察』('09年/双葉社文庫)を読んで、この文庫シリーズは『慈悲の報酬-新宿警察Ⅱ』『所轄刑事-新宿警察Ⅲ』『新宿生餌-新宿警察Ⅳ』と続くのですが、次にどれを読もうかと思っていたら、このアンソロジーの中に作者の「放火」が収められていることを知りました。
「放火」は藤原審爾が雑誌「新評」の1969年12月号に発表したもので、短篇集『新宿広場:新宿警察』('69年/報知新聞社)に収められた、シリーズの中でも初期の作品になります。この頃は、物語の主要メンバーのうち、根来(ドラマにおける北大路欣也)、仙田(同・小池朝雄)、徳田(同・花沢徳衛)は名前
が確定していますが、山辺(同・財津一郎)は"富田"、戸田(同・三島史郎)は"戸川"(「新宿警察」)だったり"村山"(「放火」)だったりしたようです。そして、この「放火」は、『新宿広場:新宿警察』以降なぜか文庫等への収録が無かったためそれらの名前を統一する機会がなく、杉江松恋氏監修のKindle版(『新宿警察(1)捜査篇 新宿警察』('17年/アドレナライズ)に所収)でもそのままだったようです。
「放火」は火事を最初から放火と決めつけ、興奮のあまり場所の報告を忘れてしまうような若い部下を仙田が、辛抱強く見守り導く"部下育成"物語にもなっていますが、この部下の"村山"が、後の戸田であり、シリーズの主人公の根来の妹・登志子(同・多岐川裕美)の婚約者になるのではないかな。
この『葛藤する刑事たち』に収められているのは、以下の9篇。
【黎明期】
松本清張 「声」
藤原審爾 「放火」
結城昌治 「夜が崩れた」
【発展期】
大沢在昌「老獣」
逢坂剛 「黒い矢」
今野敏 「薔薇の色」
【覚醒期】
横山秀夫 「共犯者」
月村了衛 「焼相』
誉田哲也 「手紙」
村上貴史氏の解説では、50年代半ばから警察小説と呼びうる作品が発表され始め、松本清張で言えば'55年の「張込み」、藤原審爾で言えば'59年の《新宿警察シリーズ》の「若い刑事」などであり、島田一男の《部長刑事》シリーズの第1作の刊行も'62年で、いずれも作家も他のジャンルを書きつつ、警察小説も書いていたとのことですが、「黎明期」の三人としては、松本清張、藤原審爾に加え、'59年に長編『ひげのある男たち』を書いている結城昌治の作品を取り上げています(取り上げた作品は貞永方久監督、勝野洋・桃井かおり・原田芳雄主演で「夜が崩れた」('78年/松竹)として映画化されている)。
松本清張は〈社会派推理〉とか〈旅情ミステリ―〉とかで先駆者としてどこにでも顔を出すとして(「声」も'56年発表と早い、これも鈴木清順監督、二谷英明・南田洋子主演で「影なき声」('58年/日活)として映画化されているほか、何度かテレビドラマ化されている)、結城昌治はどちらかと言うと「ハードボイルド小説の先駆者」という印象があります。「三人」を敢えて「二人」に絞ると、松本清張とあとは《新宿警察シリーズ》が「日本の87分署」と評される藤原審爾になるのではないでしょうか。
単に警察小説を並べるのではなく、黎明・発展・革新の3部構成で分類し、解説もそれに沿ってされており、「警察小説」における各作家のポジショニングが分かったのが良かったです。藤原審爾について「放火」を選んだのも、これまで文庫に収められていなかったことを考えてのことかと思われます。




'75年9月から'76年2月にかけてCX系で放映された北大路欣也主演のドラマ「新宿警察」の原作です。既刊の『新宿警察』('75年/双葉社)を分冊したもので、本書に収められているのは「新宿警察」「復讐の論理」「若い刑事」「新宿心中」「ズベ公おかつ」の全5篇です(残りは『慈悲の報酬-新宿警察Ⅱ』に収められ、さらに『続新宿警察』('75年/双葉社)』も分冊化され、『所轄刑事-新宿警察Ⅲ』『新宿生餌-新宿警察Ⅳ』に収められている)。当初からの物語の主要メンバーは、主人公の新宿署の根来、課長の仙田(ドラマでは主任)、署の生き字引と言われる徳田、後に根来の妹・登志子(ドラマでは戸志子)の婚約者となる戸田などです。
「新宿警察」... 新宿の街に若い女性に硫酸を浴びせる硫酸魔が出没。新宿署の仙田らは、地道な調査を続け、犯人の特定と犯人の次のターゲットの保護を目指す―。ちようど今年['21年]8月に、東京・港区の東京メトロ白金高輪駅で硫酸を使った傷害事件が起きたばかりで、怖いなあと思いながら読みました。新聞報道によれば、今回の事件は、警視庁が容疑者の男の逮捕までに駅や街中の防犯カメラ約250台を解析していたとのこと。時代は変わったのか変わっていないのか。初出は「推理ストーリー」1968年3月号ですが、Kindle版監修の杉江松恋氏によれば、タイトルは同年刊行の『新宿警察』('68年/報知新聞社)を意識したのではないかとのことです(ドラマ「新宿警察」で仙田を演じたのは小池朝雄)。
「復讐の論理」... 静岡の刑務所を脱獄した犯人。かつて、船上での逮捕時に、情婦が彼を逃がすために時間を稼ごうと身投げして命を絶ったことから、彼を追い詰めた新宿署の刑事・根来を憎んでいた。脱獄犯は東京に潜入し、ついには根来の唯一の肉親である妹・登志子の住むアパートの屋上に現れる。手にライフルを携えて―。これもハラハラドキドキさせられます。昭和のマンションって屋上が住民たちの洗濯物干し場になっていたのだなあ。そう言えば学校や会社の建物にも屋上があり、バレーボールとかやっていた...(ドラマ「新宿警察」で根来を演じたのは北大路欣也、登志子を演じたのは多岐川裕美)。
「若い刑事」... 今は亡き敏腕刑事を父に持つ正介は、大学を卒業して金融会社の社長秘書になるも、実はその会社はブラック企業だったために退職、警察学校を経て警官になって1年後、新宿署の刑事に抜擢される。その正介が担当した事件が、前の勤務先のブラック企業絡みのものだった―。若い刑事の成長物語。散々な目に遭って、自分には刑事は向かない、もう辞めてやると思った頃に、傍から見ると"デカ"らしくなっているというのが可笑しいです。1959(昭和34)年に雑誌に発表されたシリーズのパイロット版的作品(シリーズ第1作)です(短編集『若い刑事』('60年/彌生書房)として刊行されたが、 表題作「若い刑事」のみがシリーズ作品)。この「若い刑事」は、「駈けだし刑事」('64年/日活)として前田満洲夫監督、長門裕之主演(共演:長谷百合・伊藤雄之助・高品格)で映画化されていますが、個人的には未見です。
「新宿心中」... 若い女性を香港や台湾に売り飛ばすことを業としている組織を挙げるために新宿署も協力することになる。仙田は、柔道五段剣道三段の猛者・山辺に担当させることにするが、彼の妻は、山辺と彼の仕事のことで喧嘩したはずみに事故に遭い、寝たきりで精神状態も不調で、山辺ともろくに話さない―。辛い話だなあと。事件の方は無理心中事件の謎解きを経て、組織のアジトへの警官隊の突入にへ。事件が解決したところで、山辺と妻との関係も希望が持てるものに改善。最初が辛かっただけに、カタルシス効果が大きかったです。5篇の中では個人的にはこれが一番良かったです(ドラマ「新宿警察」で山辺を演じたのは財津一郎)。

文芸評論家の細谷正充氏の文庫解説によれば、作者の自伝的随筆の中に、「今、当時の作品表をみてみると、(昭和)44年のその頃からは、
因みに、ドラマでの根来(北大路欣也)の妹・登志子(ドラマでは戸志子)を演じた多岐川裕美は、ドラマ出演の前年に成人漫画を映画化した鈴木則文(1933- 2014/80歳没)監督の「聖獣学園」('74年/東映)でデビューしており、この映画は修道院を舞台にしたエロティック・バイオレンスで、多岐川裕美がヌードを披露する他、拷問シーンなど体当たりの演技を見せました。封切り当時は全くヒットせず、忘れ去られた映画になっていましたが、多岐川裕美が清純派イメージで人気を高めていた1980年頃、かつて映画でヌードになっているとメディアに取り上げられて再公開されています。個人的には'83年に新宿昭和館で
観ましたが、多岐川裕美の学芸会的演技ぶりでその時の個人的評価は×(★★)、ただし、後に多岐川裕美が"嫌々脱がされた"と訴え、そのことで鈴木則文監督から逆提訴されそうになったとの話もあったりして、いろいろな意味でレアものであるとのことでオマケで△(★★☆)に。ウィキペディアに<よれば、日本におけるナンスプロイテーシ
ョン映画(尼僧や女子修道院を主題とするエクスプロイテーション映画)の傑作とのことですが、ひとえに後に多岐川裕美が有名女優になったことによるのではないかという気がします。三原葉子(修道院の副院長)や渡辺文雄(司祭)、谷隼人やたこ八郎が出演していて、作家の田中小実昌なども出ています。
多岐川裕美はこのドラマ出演中に人気が急上昇し、元の「新宿警察」の方の出演が多忙中の綱渡りになってしまったため、最初の内は事件に関与していたりしたものの(第2話「地下水道」)、後は第21話「新宿心中」、第22話「新宿・初恋」で事件に絡む程度でした。最終回の序盤で、ネグリジェ姿のままエプロンをつけ、朝ご飯の支度
をしている場面があり、兄の根来に「いくら兄貴の前だって、服くらい着ろよ」とたしなめられますが、当時の一部の視聴者が多岐川裕美に求めていたイメージ的役割に応えたともとれます(ただし、これはドラマ用に作ったシーンではなく、本書所収の「復讐の論理」の冒頭に実際に同じようなシチュエーションで兄妹がこうしたやりとりをする場面がある)。'76年にNHKの大河ドラマ「風と雲と虹と」で主人公の平将門が求婚する性に奔放な女性・小督(こごう)を演じ、'78年にはテレビドラマ版「飢餓海峡」のヒロイン役でヌードを拒否し、浦山桐郎監督と揉めて降板しています(この頃から清純派志向になったか)。NHK大河ドラマの方は、その後も「草燃える」('79年・実朝の妻・音羽役)、「峠の群像」('82年・竹島素良役)、「山河燃ゆ」('84年・ 畑中(天羽)エミー役)に出
演したほか、同じくNHKドラマの「風神の門」('80年・ 隠岐殿役)にも出演、さらに80年代後半ではフジテレビドラマ「



「聖獣学園」●制作年:1974年●監督:鈴木則文●脚本:掛札昌裕/鈴木則文●撮影:清水政夫●音楽:八木正生●原作:鈴木則文/(画)沢田竜治●時間:91分●出演:多岐川裕美/山内えみこ(恵美子→絵美子)/谷隼人/渡辺やよい/大谷アヤ/城恵美/田島晴美/石田なおみ/美和じゅん子/大堀早苗/村松美枝子/謝秀客/竹村清女/早乙女りえ/谷本小代子/森秋子/山本緑/衣麻遼子/マリー・アントワネット/木村弓美/木挽
輝香/鈴木サチ/根岸京子/三原葉子/山田甲一/田中小実昌/小林千枝/章文栄/太古八郎(たこ八郎)/渡辺文雄●公開:1974/02●配給:東映●最初に観た場所:新宿昭和館(83-05-05)(評価:★★☆)●併映:「純」(横山博人)

7月13日新宿3丁目にオープン(前身は1932年開館の洋画上映館「新宿昭和館」)。1956年、昭和館地下劇場オープン。2002(平成14)年4月30日 建物老朽化により閉館。跡地にSHOWAKAN-BLD.(昭和館ビル)が新築され、同ビル3階にミニシアター「K's cinema」(ケイズシネマ)がオープン(2004(平成16)年3月6日)。



太平洋戦争中、生きる気力を無くした青年・河本周作(長門裕之)は死に場所を求めてふらりと秋津温泉にくる。結核に冒されている河本は、温泉で倒れたところを、温泉宿の女将の娘・新子(岡田茉莉子)の介護によって元気を取り戻す。そして、終戦。玉音放送を聞いて涙する純粋な新子に心打たれた河本は、やがて生きる力をとり戻していく。互いに心惹かれる二人だったが、女将が河本を追い出してしまったために、河本は街に戻る。
数年後、秋津に再び現れた河本だが、酒に溺れて女にだらしない、堕落してしまった河本に、新子は苛立ちを覚える。そこで、河本が結婚したことを知った新子は、苦しい河本への思いを捨てきれないまま、河本を送り出す。その後、東京に行くことになった河本は再び秋津を訪れる。一途なまでに河本を思う新子、そして、優柔不断でだらしない河本は再び都会へ。さらに四たび秋津を訪れる河本、そのときには旅館を廃業した新子だったが、河本は新子との肉体の情欲にだけ溺れる。新子は、河本に一緒に死んでくれと言う―。
1962(昭和37)年公開の吉田喜重(1933-2022/89歳没)監督作で、岡田茉莉子が「映画出演百本記念作品」として自らプロデュースし、初めて吉田喜重とコンビを組んで作り上げた作品(1962年キネマ旬報ベストテン第10位)。岡田茉莉子はこの映画の後で引退しようと考えたが、吉田喜重に「あなたは青春を映画に全て捧げて、もったいないかと思いませんか」と言われて引き留められたとのこと。そして、翌1963年に二人は結婚しています。
原作『秋津温泉』は、藤原審爾(1921-1984/63歳没)が戦争中21歳の時に岡山での執筆を始め、戦災で吉備津に移り、戦後倉敷市で書き上げ、1947(昭和22)年12月に『人間小説集 別冊』1集として鎌倉文庫から刊行されて1947年上半期・第21回「直木賞」候補となり(授賞に至らなかったのは、川端康成系の"純文学"と受け止められたためのようだ)、1948年9月に講談社より刊行、さらに加筆版が 1949(昭和24)年12月に新潮社より刊行されています。
第3章「流水行雲」では、〈私〉は5年ぶりに秋津を訪れるが、その時には"木綿のような、苦労するに向く"女・晴枝と同棲し。1歳の子もあり、秋鹿園を新装して、"熟れた美しさ"をもつ女将となった新子と再会、ある夜は浴室で"切迫した時間のなかで、私は燃えだしそうな体をもてあます"ことになり、お新さんの燃える情愛の中に入って」いくも、秋津の気配が醸す自然空間の巨大な時間の中で、情愛の虚しさ、自然から逃れられない人間の虚しさを覚える―。
映画は、原作の第1章が丸々描かれていないので、主人公の河本が死に場所を求めて秋津温泉に行くというのがやや唐突な印象がありますが、その後のお新さんとの関係は、ほぼ原作に沿ったものになっているように思いました(河本が敗戦時に秋津にいて、その際のお新さんの涙を流す様子を見たというのは映画のオリジナルだが)。
映画は、岡田茉莉子演じるお新さんを美しく撮っていますが、原作の方はもう少し肉感的なところもあるような印象。それにしても、自分を裏切って妻子持ちになりながらも愛欲断ち切れず秋津にやってくる長門裕之演じる"ダメ男"の河本 (当初、配役を芥川比呂志でクランクイン、途中で芥川が病気で降板し、急きょ長門裕之を代役に立てて撮り直したとのことだが、長門裕之に向いている役だと思う)をなぜお新さんは諦め切れないのか。成瀬巳喜男監督(原作:林 芙美子)の「
最も原作と違っているのはラストで、最後、河本と別れたあとに、思いつめた新子は手首を剃刀で切ります。それが、桜吹雪の中で抒情的に描かれていますが、原作では、寺の次男との結婚を控えた新子が「あたしはこれでいいのよ、これで倖せだわ」と話すところで終わっており、手首を切る場面はありません。脚本も吉田喜重なので、吉田喜重がこの作品のプロデュースした岡田茉莉子のために、ドラマチックな、悲劇的で美しい結末を用意したことは間違いないですが、映画としては、これはこれでよいとも思います。佳作であると思います。でも、やっぱり原作の方が上でしょうか。
「秋津温泉」●制作年:1962年●監督・脚本:吉田喜重●製作:白井昌夫●撮影:成島東一郎●音楽:林光●原作:藤原審爾●時間:112分●出演:岡田茉莉子/長門裕之/山村聡/宇野重吉/東野英治郎/小夜福子/日高澄子/吉田輝雄/芳村真理/桜むつ子/高橋とよ/清川虹子/殿山泰司/中村雅子/神山繁/小池朝雄/名古屋章/
下元勉/西村晃/草薙幸二郎/田口計/鶴丸睦彦/穂積隆信/辻伊万里/千之赫子/吉川満子/夏川かほる●公開:1962/06●配給:松竹●最初に観た場所(再見):神保町シアター(21-11-12)(評価:★★★★)






ストリッパー斡旋業「新宿芸能社」を営む金沢(森繁久弥)と竜子(中村メイ子)夫妻は、父さん母さんと呼ばれながら、踊り子たちと家族のように暮らしている。ある日、旅に出ていたマタタビ笠子(倍賞美津子)が、金も溜まり、そろそろ結婚したいと久し振りに帰って来る。が、金沢夫婦の留守中、昔のヒモに強引に連れ去られ、金沢が談判に行くがイタメつけられて戻る。腹にすえかねた竜子が人糞を流し込んで報復したが、笠子は再び旅に出る。笠子の紹介でやって来た、泣いているような顔の田舎臭い星子(緑魔子)は、踊りを教えているうちに、結構いい線いくようになる。とは言え、客の頼みを断れず、トイレで性行為したり、道端で自殺しそうな青年を救おうとしてアオカンしたと警察に捕まったりして、その都度竜子は一喜一憂する。一方、笠子は旅先で彼女に心酔する青年・照夫(河原崎長一郎)に出会い、彼が作ってくれたキャンピング・カーで一緒に旅回りを続ける。運転は勿論、三度の食事までひたすら尽くすだけで、絶対に手を出さない照夫。笠子は運転免許を取ったのを機会にいったんはクビにしたが、彼のこのうえない愛情と誠意に気づき、結婚しようと心に決める。しかし―。

昨年['20年]7月に92歳で亡くなった森崎東監督の「女シリーズ」の第1作で、原作は、藤原審爾のお座敷ストリッパーを描いた連作短編集『わが国おんな三割安』の中の「またたび笠子」「あおかん星子」を中心としています(脚本は山田洋次)。笠子を演じる倍賞美津子は森崎東監督の「喜劇 女は度胸」('69年)、「喜劇 男は愛嬌」('70年)に続く出演で、星子を演じた緑魔子は山田洋次監督(森崎東脚本)の「吹けば飛ぶよな男だが」('68年)にも出ています。

1931年生まれの山田洋次監督は「男はつらいよ」「続・男はつらいよ」などで1969(昭和44)年度・第20回「芸術選奨」を、1927年生まれの森崎東監督は「男はつらいよ フーテンの寅」「喜劇・男は愛嬌」などで1970(昭和45)年度・第21回「芸術選奨新人賞」を受賞しています。因みに、山田洋次監督は東京大学法学部を卒業し、新聞社勤務を経て1954年に松竹に補欠入社、森崎東監督は京都大学法学部を卒業して1956年に松竹に入社しています(年齢は森崎東監督の方が上だが、松竹では山田洋次監督の方が先輩ということになる)。
森崎東監督は森繁久弥を中心にシリーズを撮っていきましたが、倍賞美津子を中心にシリーズを撮っていくという選択肢もあったのでないかという気がします(山田洋次監督のヴィーナスが倍賞千恵子で、森崎東監督のヴィーナスが倍賞美津子であるというのも面白い)。そうしたならば、もしかしたら倍賞美津子が女性版寅さんみたいな存在になっていたかもしれません。ただし、この倍賞美津子のストリッパー「笠子」のキャラクターは、森崎東監督の後の作品「
「喜劇 女は男のふるさとヨ」●制作年:1971年●監督:森崎東●製作:小角恒雄●脚本:山田洋次/森崎東●撮影:吉川憲一●音楽:山本直純●原作:藤原審爾●時間:91分●出演:森繁久弥/中村メイコ/倍賞美津子/緑魔子/河原崎長一郎/花沢徳衛/伴淳三郎/佐藤蛾次郎/園佳也子/山本紀彦/犬塚弘/名古屋章/左卜全●公開:1971/05●配給:松竹●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(19-12-06)(評価:★★★☆) 




「ある殺し屋」('67年/大映)は、普段は一杯飲屋の主人で刺身魚を自ら捌いたりしているというありきたりの市井の男だが、実はその裏の正体は、大物ヤクザの親分の暗殺などの仕事を大金で請け負い、それがどんな困難なものであっても完遂するプロの殺し屋(武器としても用いるのは太い針)―という主人公「新田」の役どころを、市川雷蔵(1931-1969/享年37)がニヒルかつスマートに演じている作品で、続編が1作だけ作られています。
助けてやった女(野川由美子)に付きまとわれてもそれを一向に相手にせず、仲間のフリをして寄ってくるヤクザ(成田三樹夫)に裏切られても、全て織り込みで既に手は打ってある―
あまりにストイックかつクールで、ストーリーだけで見ると非現実的なB級(C級とでも言うか)作品になりそうなものですが、市川
口数は少ないが男気も秘めており、結局、女よりもむしろ男が惚れる男というのはこういうものかと納得させられる(勿論、新田の場合は女性にもモテるのだが)、心地よいハードボイルド作品となっています。
因みに、同年12月に公開された同じく藤原審爾原作・森一生監督の「ある殺し屋の鍵」('67年/大映)では、市川雷蔵が演じる主人公の新田の表向きの職業は、一杯飲屋の主人から日本舞踊の師匠に替わっており(新田は、流れ包丁だったのか? それにしてもビックリの職替え)、脱税王(内田朝雄)とか建設会社の社長(西村晃)とか政財界の黒幕(山形勲)とか色々出できて話はスケールアップしていますが(3人とも新田に殺される役!)、新田のニヒルでスマートな様は変わっていません。原
作ストーリーもしっかりしていますが、ストーリーもさることながら、演じている「市川雷蔵」そのものを楽しめる作品ではないかと思います (両作品とも撮影は
市川雷蔵は映画史上最高の時代劇スターと謳われた名優で、映画も「眠狂四郎シリーズ」や「大菩薩峠シリーズ」など数的には時代劇の方の出演が主なのですが、現代劇でもこんなにしっくり来る歌舞伎界出身の俳優は少ないのではないかと思われ、37歳でガンのため夭折したことが惜しまれます(それでも160本近い映画に出演したのだが)。現代劇に出ている時は歌舞伎役者的なニオイがキレイさっぱり無くなるタイプで、そうした系統では、同じく眠狂四郎を演じた片岡孝男(現・片岡仁左衛門)などがいましたが(田村正和も演じていたなあ)、ちょっとそれらと比較にならないかも(早逝したことも、イメージが損なわれないという意味ではプラスに働いているが)。
この人の時代劇の方は劇場ではあまり観ていないのですが、木村恵吾監督の「初春狸御殿」('59年/大映)というのは"珍品"。所謂"マゲものミュージカル"という類で、時代劇なのに若尾文子が演じるお姫様が着物にネックレスをしているというのが可笑しく、市川雷蔵と比較されることの多い、あの勝新太郎が、完璧な二枚目役者として出演し、美声を披露しています。木村恵吾監督はこれ以前にも「狸御殿」「歌う狸御殿」「春爛漫狸祭」「花くらべ狸御殿」を撮っていて(「初春狸御殿」はシリーズ最終作)、50年代にこうした陽気な大衆映画が受けた時期があったことを知っている人がどれぐらいいるか分かりませんが、今の若い人にとってはある種のカルトムービー的位置づけになるのかも。
し逮捕されています。現役の女優が殺人を犯すのは初めてで、裁判の際には大映社長の永田雅一、俳優の勝新太郎らは減刑嘆願書を提出し、懲役5年の刑で服役、模範囚として減刑され、3年後の1973年に仮釈放されています(その間、1971(昭和46)年12月までには大映は破産していた)。



「ある殺し屋」●制作年:1967年●監督:森一生●脚本:増村
保造/石松愛弘●撮影:宮川一夫●音楽:鏑木創●原作:藤原審爾「前夜」●時間:82分●出演:市川雷蔵/野川由美子/成田三樹夫/渚まゆみ/
小林幸子(当時13歳)/小池朝雄/千波丈太郎/松下達夫/伊達三郎/
浜田雄史●公開:1967/04●配給:大映●最初に観た場所:大井ロマン(87-10-31)(評価:★★★★)●併映:「ある殺し屋の鍵」(森一生)
「ある殺し屋の鍵」●制作年:1967年●監督:森一生●構成:増村保造●脚本:小滝光郎●撮影:宮川一夫●音楽:鏑木創●原作:藤
原審爾「消される男」●時間:82分●出演:市川雷蔵/西村晃/佐藤友美/山形勲/中谷一郎/金内吉男/ 伊達三郎/伊東光一/内田朝雄/玉置一恵/森内一夫/伊東義高/志賀明●公開:1967/12●配給:大映●最初に観た場所:大井ロマン(87-10-31)(評価:★★★★)●併映:「ある殺し屋」(森一生)
「初春狸御殿」●制作年:1959年●監督・脚本:木村恵吾●製作:三浦信夫●撮影:今井ひろし●音楽:吉田正●時間:95分●出演:市川雷蔵/若尾文子/

井一郎/江戸屋猫八/三遊亭小金馬/左卜全/藤本二三代/神楽坂浮子/松尾和子/小浜奈々子/岸正子/美川純子/大和七海路/小町瑠美子/毛利郁子/嵐三右衛門●公開:1959/12●配給:大映●最初に観た場所:大井武蔵野館 (86-11-15)(評価:★★★?)●併映:「真田風雲録」(加藤泰)