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"雇用ポートフォリオ"や"成果主義"だけを提案していたわけではなかったのだが...。
『新時代の「日本的経営」―挑戦すべき方向とその具体策』 ['95年]
日経連(現日本経団連)が企業参画による「新・日本的経営システム等研究プロジェクト」('93年12月発足)の報告として纏めた冊子で、'95年5月に刊行されています。ですからまさに、「バブル崩壊」で株価も低迷を続け、「平成不況」という言葉が定着し始めた時期にプロジェクト作業をしていたことになります('93年1月に日本経済新聞社から『平成不況は終わった』という本が、'94年1月に佐和隆光 著『平成不況の政治経済学』(中公新書)が出版されている)。
経営側に対する主な提案としては(一部、行政への要望も含まれていますが)―、
◆雇用システムにおいては、職務構成と能力構成との関係をチャレンジ型のダイナミックな形態にしておくことで、各人の能力や勤労意欲を高め、活力ある企業経営を実現するために、"自社型雇用ポートフォリオ"の考え方を導入すべきだとし―、
◆人事諸施策については、職務にリンクした職能資格制度や専門職制度、目標管理・能力開発・人事考課制度などの拡充を―、
◆賃金制度については、年功的賃金や"定期"昇給を見直し、職能・業績重視の賃金制度、業績反映型・職務リンク型の賃金体系を―、
といったことが唱えられており、その他にも裁量労働制の拡大や情報化時代に対応した動態的組織、個性重視の能力開発など、多くの提案がなされています。
この中で最も知られるところとなったのが、
1.長期蓄積能力活用型グループ
2.高度専門能力活用型グループ
3.雇用柔軟型グループ
の3タイプを想定した"雇用ポートフォリオ"(右図、出典:『新時代の「日本的経営」』(1995)日本経営者団体連盟)ですが、雇用システムの方向性として実際に以後の動きがそのようになっているのではないでしょうか。
さらに言えば、パートの職務領域と契約社員、アルバイト(フリーター)の職務領域というように、より細分化してきている気がします。
一部労働側からは、企業が生き残るための弱者切捨て、格差社会を招く市場原理主義の原点のような冊子内容に見られているムキもありますが、確かに今で言う「成果主義」を提唱しているものの、能力開発、企業福祉、新たな労使関係などの提案も含まれていて、あくまでも組織と人材を活性化するためのトータルな提案でした。
しかし、やはり注目を集めたのはその「成果主義」の部分であり、本冊子刊行の'95年を〈「成果主義」元年〉とする見方もあるようです。
《追記MEMO》
●この報告書を書いた日経連(現日本経団連)の小柳勝二郎賃金部長は、「雇用の柔軟化、流動化は人中心の経営を守る手段として出てきた。これが派遣社員などを増やす低コスト経営の口実としてつまみ食いされた気がする」と語っている。(2007年5月19日付朝日新聞)
経営側が雇用ポートフォリオなど、自分たちにとって都合のよい部分だけを「つまみ食い」したというのが、本当のところだったのかもしれない。