「●あ 有吉 佐和子」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●あ 安西 水丸」 【2180】 安西 水丸/和田 誠 『青豆とうふ』
小説の面白さを味わせてくれる。サラリーマン怪談風の第2話が印象に残った。

『青い壺』['77年]『新装版 青い壺 (文春文庫) 』['11年]有吉佐和子(1931-1984/53歳没)
ある陶芸家が焼いた青い壺を巡る13のストーリー。
第1話 ... 牧田省吾は、デパートや寺の配り物の陶器を焼いている。死んだ父は、名声がある陶工だった。その反発から、名を売るのは避けて、一家四人が食べていけるだけの陶器を焼いている。が、ある日のこと。自分でも驚くような出来栄えの青磁の壺が焼けた。道具屋の安原から、壺に古色をつけるよう依頼されるが、省吾はその青い色を気に入っていた、しかしながら壺は、省吾が留守をしている間に、妻の治子が独断でデパートの担当者の片岡に売り渡してしまう(「古色をつける」こと自体は必ずしもインチキとは言えないのでしょう。いい壺が出来たと玉露を亭主に出す妻がいい)。
第2話 ... 68歳まで勤め上げ退職した元会社員・山田寅三の妻・千枝は、夫がずっと家に居続けるストレスに耐えられないでいる。彼女は、夫が世話になった副社長へお礼の品を持っていくことを提案、デパートで2万円にて青い壺を買う。寅三は壺を持って会社に年下の副社長を訪ね、お礼として壺を贈答。その後寅三は、元の部署の席に座ってルーチンにしていた承認印の業務を始め、最初は周囲の社員も冗談かと思っていたが、延々とそれを続ける。昼になり、いなくなったと思ったら、今度は屋上で体操をしていた寅三。とまれ、壺は副社長に(ストレートにサラリーマン怪談風。滑稽かつ悲壮で残酷。全編で最も印象に残ったエピソード。『恍惚の人』の奔りか)。
2024年12月26日池袋東武・旭屋書店
第3話 ... 副社長はうれしくもなかったが、一応は壺を家に持ち帰る。副社長夫人の芳江がその壼に花を活ける。夫の部下の女性と、甥っ子を見合いさせるため二人を自宅に呼んだ芳江は、今どきの人たちに呆然とする(若者は向田邦子の小説の登場人物などとダブったりもするが、こちらの方がより今風というか先鋭的合理主義かも。この小説が1970年代の発表で、向田邦子の家庭小説の方がもっと古い時代のものが多いせいもあるか)。
第4話 ... 青い壺に美しく花を生けようと奮闘する芳江。孫を連れた娘の雅子が急に帰ってきて、婚家の醜い遺産争いを愚痴る。娘も夫と自分の家の相続について話し合っているらしく、皆が自分の死ぬのを待っているみたいで、厭世的な気分になる。帰宅した夫夫に話をすると、それなら生きているうちに家も売って貯金も使い果たしてしまい、子供には一銭も残さないと言い、それで多少安心してしまう自分。夫は青い壺を見るのも嫌い、芳江は夫に言われた通りに、壺を誰かに譲り渡すことにする(老後の話と財産分与の話は昔も今もセットみたいなものか)。
第5話 ... 緑内障で目が見えなくなった母キヨを、兄嫁から独身の自分に押しつけられたと思いながらも東京の狭いマンションに引き取った千代子。千代子が上司から貰った青い壺に、香が良い花を挿して母の気を紛らわせている。キヨは片方の目が白内障と分かり手術することになったが、手術は成功し、東京都の老人福祉施策で医療費も只。目が見えて家事もできるようになり千代子も助かる。ただ、母からは兄に目が見えるようになったとは言わないで欲しいと懇願される。キヨが病院へのお礼をと言うので、千代子は青い壺を贈ることにする(老人医療無料化に「済まない」を繰り返す母―今の時代なら奇特な存在か。娘は母を病院に入院させている間に、飼っていた文鳥を死なせてしまい、別の文鳥を買ってくるのだが、母が文鳥の声を毎日聴いていたため、入れ替わったのを察知するというのがありそうな話)。
第6話 ... 夫婦ふたりで、戦後の焼け跡から始めた銀座の外れの小さなバー。バーの中では常連客がたわいもない話をしている。海軍大尉は「ダイイ」と呼ぶか「タイイ」と呼ぶかで意地になった客が大論争。これが落ち着けば若者グループがギターを弾きながら軍歌を歌うが、これが反戦歌か戦争を鼓舞する歌かでまた揉める。客である元海軍の石田医師が、帰るとき忘れ物をしていく。中を開けると桐箱に入った「青い壺」だった。箱ごと受け取った石田は、ウィスキーだと勘違いして置いていったらしい(若者グループが軍歌をフォークギターで歌うというのが時代を感じさせる。昭和20年代終わり頃か。だとしたら、このエピソードだけ、時間がずれている印象も)。
第7話 ... バーのマダムは、忘れ物として自宅まで届けた。それを受け取った医師の母は、箱を開けて一目で壺が気に入る。彼女のかつての自宅は空襲に遭い、高貴な容器や飾り物などすべて焼けてしまったのだが、その中に同じような青い壺が含まれていたのだった。老婦人は、戦時中の外務官僚だった亡き夫との思い出が甦り、饒舌に語る(戦時中の貧しい食卓を、想像の中で豪華なディナーに変えて味わった記憶―。このエピソードはすべて医師の母親のセリフになっている!また、この母親は、第8話での「亡くなった姑」ということになる)。
第8話 ... 厚子は長女が嫁いで空き部屋になったところの整理をしていた。長男は留学、姑は他界、だれも居なくなった部屋で寂しくなった。医師の夫から突然増上寺前のレストランへ食事に誘われた。夫から日頃の労いの気持ちからだろう。粧飾品をウキウキしながら選び、髪は美容院に行って仕上げた。当日夫とその店で待ち合わせ、思った以上のメニューに満足して帰宅。ところが家が荒らされ、泥棒に入られたことが一目で分かった。青い壺もが無くなっていることに気づく(また、息子である医師の代の話に。装飾品は身につけてレストランに行ったのが不幸中の幸いで、金目のものは結局無かったという、見方によってハッピーエンド。果たしてどれだけいっぱい身に着けていったのか(笑))。
第9話 ... 弓香は、50年ぶりの女学校の同窓会が京都で行われることになり、何を着ていこうか、何を持っていこうかとそわそわ落ち着きが無い。旧友が京都の集合場所にどんどん集まってくるが女性同士の目は鋭い。あの人ずいぶん老けたわねとか言いたい放題。幹事が1泊3食付き1400円のコースを申し込むが、夜の宴会に出てくる料理は家の晩メシより質素で評判は散々。京都観光も何度も行っているので旅館で休養することにした友もいて、香は小遣いに30万円も用意したのにそれほど楽しくない旅行になったと嘆く。東寺境内の出店を覗いて歩くと、高安まちまちの陶器を売っており、30万円も持ってきたのでここで使わねばと思っていたら、桐に入った壺が5万円は吹っかけられると思ったら3000円とのこと、安い買い物をしたと弓子は買うことにした(50年ぶりの女学校の同窓会の様子。まあ、こんなものだろうなあ)。
第10話 ... ミッションスクールで学校給食の栄養士として悠子は働いていた.子供たちに緑黄色を出すと残すことが多い。ある日、人参を潰してカレーライスに入れたら全部食べてくれた。これを良いことに、残すとこの多いほうれん草を潰してスープとして出したら、ほとんど食べずに返された。ほうれん草が化学反応を起こして黒色に変色しまったためだ。これにすっかり悠子は気落ちしてしまった。これを見かねてシスター(学校長)が失敗は誰にでもあると慰めてくれた。この時悠子は不意に祖母にもらった青い壺を思い出した。どうしてここで青い壺を思い出すのか―(第9話の弓香が3千円で手に入れた壺は、孫娘に渡ったということか。また、だんだん年代が分からなくなってきた)。
第11話 ... ある日スペイン人シスターが母親の危篤で母国へ一時帰国すると悠子は聞いた。ならば土産にと思ってシスターに青い壺を渡す(修道院でお世話になったシスターの感謝の気持ちとして壺がプレゼントされたということだが、これで壺が海外に渡ることとなり、いよいよ壺は時空を超えた?)。
第12話 ... ある日本人がスペイン旅行中に骨董品店で掘り出し物を見つけたとして青い壺を購入。ところが急性肺炎になり、そのままみやげ物として日本に持ち帰った。病院で清掃業務をしている老婆シメは、スペインから帰国し、肺炎患者として入院している患者がスペイン風邪に罹患しているのでは無いかと気になっていたが、単なる肺炎と聞いて安心。ところがある日その病室でしおれそうなバラを捨てようと花瓶ごと持ち上げようとしたら、患者に「触るな!」と大声で叱られる。大事な壺であるようで妻が来たとき処理すると言う(スペインで、第13話にある美術鑑定家の先生が、宋時代の青磁の壺を骨董屋で発見したと、自分ではそのつもりになっているということ(笑))。
第13話 ... 肺炎で入院していたのは高名な美術評論家だった。陶芸家・牧田省造を東京の自宅に呼び、バルセロナで見つけた「12世紀初頭」の掘り出しものとして青い壺を見せる。ところが省造がこれを見るなり、自分が10余年前に作った壺だと。一方、評論家は、南宋浙江省の竜泉窯だと主張。省造が再度自分の作ったものだと言っても聞く耳を持たない。評論家は自分が見い出した価値が崩れるのが嫌で、嘘でも信じたいのだろう。省造は帰路、今後自分が焼いた陶芸品には名を刻むことは止めようと思う(十数年他人の手に次ぎ次ぎと渡ると色も変化し、違った感じになるということ。自分の名を彫らないと決めたことは、運命を受け容れることに繋がる?)。
有吉佐和子(1931-1984/53歳没)が1976(昭和51)年から1977(昭和52)年にかけて発表した作品で、1977(昭和52)年4月単行本刊。文庫化されたものが一度絶版になりましたが、2011年に復刊されると、初版を超える勢いで発行部数を伸ばし、累計50万部を突破。特に注目を集めたのが昨年[2024年]で、10万部以上発行されています。
『青い壺 (文春文庫)』['80年]
「青い壺」は中国の青磁に似せて作られたものですが(模造品というわけではないようだが)、その青い壺が盥回しにされて、それぞれの家庭を覗くという構成は巧みです。人によって青い壺の価値がどんどん変わるのも、壺が人それぞれの生き方を映し出しているからであるとも言えます。小説の面白さを味わせてくれる作品でした。
【1980年文庫化・2011年再文庫化(新装版)[文春文庫]】
