2018年12月 Archives

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タイトルの疑問に答えるブラック・アンド・ホワイト企業論。「日本企業論」として説得力はあった。

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「優良企業」でなぜ過労死・過労自殺が?:「ブラック・アンド・ホワイト企業」としての日本企業 (シリーズ・現代経済学)』(2018/08 ミネルヴァ書房)「電通事件」産経ニュース

 ブラック企業に関する多くの本が出版されていますが、ブラック企業とは、ブラック企業被害対策弁護団の定義によれば、「新興産業において、若者を大量に採用し、過重労働・違法労働によって使い潰し、次々と離職に追い込む成長大企業」であるとのこと。しかし、従業員を過労死・過労自殺まで追い込む企業はこうした企業だけではなく、例えば、世間に大きな衝撃を与えた女性新入社員の過労自殺事件があった大手広告代理店(電通)は、権威ある人気企業であって狭義のブラック企業に当たらず、それ以外にも、過労死・過労自殺が発生する現場は多くの一流企業であるとのこと。こうした状況を捉え、本書では「ブラック・アンド・ホワイト企業」という概念を提起しています。

 著者によれば、世間体が良くて高給だけれども労働条件が劣悪であるという、ブラックな部分とホワイトな部分の両面を持つ企業がブラック・アンド・ホワイト企業の範疇に入り、実は日本の多くの企業は白か黒かという二分法で分類できるものではなく、大手企業の大半はこのブラック・アンド・ホワイト企業に当てはまるとのことです。そこで本書は、なぜ世間で一流とされている企業の多くも、こうしたブラック企業的特性を持たざるを得なくなったのかを考察しています。

 第1章では、日本企業独特の定期採用について、第2章では入社式と新入社員研修について文献等から考察し、それらが諸外国との比較において極めて特異な性質を帯びたものであることを指摘しています。そして、第3章において、日本企業は共同体(ゲマインシャフト)的上部構造と利益組織(ゲゼルシャフト)的土台から成り、ブラック・アンド・ホワイト企業は共同体的上部構造を利用しながら利益組織という本質を実現しようとしているとしています。

 さらに第4章では、日本企業の労働組合の多くは、戦後に始動したときは実は労働組合ではなく、会社の一部としての「従業員組合」あり、それは今も変わらず、組織率と活力が長期低落するのは必然だったと、この従業員組合について歴史的に俯瞰し、経営と相対的に未分化な従業員組合が、共同体的上部構造が支配的なものとなる要因となったとしています。続く第5章では、その結果として、会社が従業員の全時間を掌握することになり、その行きつく先がブラック・アンド・ホワイト企業であると指摘しています。

 つまり、ブラック・アンド・ホワイト企業が求めるものは「24時間の企業人」であり、その入り口が定期採用であり、会社への従属感は入社式・新入社員研修で決定的となるとのこと。「24時間の企業人」になれば、その人の主体的行動が自ずから会社の利益組織的土台と共同体的上部構造に寄与することになり、社風を内面化した従業員にとっては会社はいい会社(ホワイト企業)であるが、「24時間の企業人」になってしまえば、不払い残業も含めた労働時間は無限になり、限界の手前で止まれず、過労死・過労自殺が起きる―これが、大半の従業員によってホワイト企業と思われていた会社で過労死・過労自殺が起きる、ブラック・アンド・ホワイト企業の論理であるとことです。

 なぜ会社への従属感が形作られ、社風は内面化されてしまうのか。「24時間の企業人」が、会社を責めるのではなく、自らの至らなさを遺書に書いて自殺するような異常な事態の背景には、日本の社会と会社の相互関係から生み出されたブラック・アンド・ホワイト企業が、日本社会の旧来の価値観と慣行を再生産しているということがあり、さらに、会社人間を「企業戦士」と呼ぶような、日本における異常なまでの精神主義にも問題があるとしています。

 著者は、過労死の防止では罰則規定の整備などの法改正を進めるべきだとしつつ、一方で、法改正が進んでも現実の改善はゆっくりとしか進まないだろうとしています。それは、本書で詳しく述べられている、日本の会社や社会が有する歴史的体質のためであり、やや悲観的な見方でもありますが、まず、そうした歴史的見地から日本企業の在り方を見直してみるのも必要なことではないかと思いました。「日本企業論」としては説得力はありました。

《読書MEMO》
●目次
序 章 ブラック企業論への疑問
第1章 特異な日本の採用・就職
 「定期採用」と「中途採用」
 ウソがまかり通る定期採用の世界
 採用スケジュール
 「初任給」
 学歴フィルター
 採用差別
 過剰な自己PRの強要
 1990年代以降のいっそうの苛酷化
 身元保証という江戸時代からの悪習
 定期採用の本質
第2章 入社式と新入社員研修
 入社式
 戦前の新入社員
 ドーアによる新入社員研修の観察
 ローレンによる新入社員研修の観察
 「ウエダ銀行」の新入行員研修
 伊藤忠商事の新入社員研修
 ローレンによる日米比較
 新入社員研修の日本的特色
 会社の修養主義
第3章 会社の共同体的上部構造
 ゲマインシャフトとゲゼルシャフト
 共同体的上部構造と利益組織的土台
 共同体的上部構造としての「社風」
 松下電器産業と本田技研工業の交流研修会
 尾高邦雄の日本的経営=共同体論
 「経営家族主義」の「実証的」根拠
 戦前における「終身雇用制」?
 経営家族主義イデオロギーの不存在
 高度成長期における「終身雇用制」の成立
 戦前の会社身分制
 俸給と賃金
 身分制下の目に見える差別
第4章 従業員組合----「非常に非常識」な「労働組合」
 敗戦後における従業員の急速な組織化
 戦後に結成された組合を何と呼ぶべきか
 従業員組合の特徴
 従業員組合の成立根拠にかんする二村説
 従業員組合の原形
 末弘厳太郎による観察
 藤林敬三による観察
 従業員組合の自然な感情
 労働組合として「非常に非常識」な行動様式
 争議中の賃金の後払い
 改正労組法と従業員組合への利益供与・便宜供与
 従業員組合の本質
 従業員組合による共同体的上部構造の形成
 従業員組合の興隆と衰退
 「労働組合」の重層的定義
 会社による共同体的上部構造の維持・展開
 トヨタにおける「労使宣言」
第5章 会社による従業員の全時間掌握
 利益組織的土台に奉仕する共同体的上部構造
 労働時間とは何か
 戦前における工場労働者の労働時間
 ILO条約と8時間労働制
 トマス・スミスの指摘
 官吏の執務時間
 社員の執務時間
 労働時間をめぐる戦前の負の遺産
 社員の執務時間と労働者の労働時間の「統一」
 軟式労働時間制
 執務時間と労働時間の融合
 長時間の不払労働
 「自主的な」QCサークル
 低い有給休暇の取得率
 トヨタ過労死事件
 名古屋地裁の判決
 会社による共同体的上部構造把握の行きつく先
 過労死・過労自殺とジェンダー
終 章 自己変革できないブラック・アンド・ホワイト企業
 ブラック企業の指標
 ブラック・アンド・ホワイト企業への道

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新任管理職が最初の90日を乗り切るためのロードマップ。管理章にとって多くの示唆を含む本。

90日で成果を出すリーダー2.jpg90日で成果を出すリーダー.jpg   The First 90 Days.jpg   ハーバード・ビジネス式 マネジメント.jpg
ハーバード流マネジメント講座 90日で成果を出すリーダー (Harvard Business School Press)』['14年/翔泳社(伊豆原 弓:訳)]/"The First 90 Days, Updated and Expanded: Proven Strategies for Getting Up to Speed Faster and Smarter"(2013)/『ハーバード・ビジネス式 マネジメント - 最初の90日で成果を出す技術』['05年/アスペクト(村井 章子:訳)]
Michael D. Watkins
マイケル・D・ワトキンス.jpg リーダーシップ教育で知られるIMDビジネススクールの教授である著者による本書は、昇進した新任管理職が最初の90日を乗り切るためのロードマップであり、90日という期間でリーダーが何をすべきか、そのことを実践的かつ体系的に学べる本として以前ベストセラーとなった原書('The First 90 Days: Critical Success Strategies for New Leaders at All Levels'(2003)/『ハーバード・ビジネス式 マネジメント―最初の90日で成果を出す技術』('05年/アスペクト))の、刊行10周年記念増補改訂版('The First 90 Days: Proven Strategies For Getting Up to Speed Faster and Smarter'(2013))の邦訳です。

 はじめに、職務移行に成功するための重要な作業として、①「準備をととのえる」(新しい任務に合わせて思考回路を切り替える)、②「効率よく学ぶ」(必要な知識や情報を効率よく学ぶ)、③「状況に合った戦略を立てる」(正しくリーダーシップをとるために状況に合った戦略を立てる)、④「上司と成功条件を交渉する」(上司と関係を築いて下地づくりをする)、⑤「初期の成果をあげる」(まず小さな成果をあげて流れをつくる)、⑥「組織のバランスをととのえる」(組織のバランスに歪みがないか見きわめて調整する)、⑦「理想のチームをつくる」(部下を評価してチームづくりをする)、⑧「味方の輪をつくる」(内外の支持基盤を確立する)、⑨「自己管理の意味を考える」(私生活を管理する)、⑩「組織全体の移行を速める」(組織に対する移行支援)を挙げ、以下、各章で、実践的なガイドラインやツールを紹介していきます。

 第1章「準備をととのえる」では、「昇進」と「新しい会社への転職」の2種類の移行について、どのような課題に直面しそれをどう乗り越えるか、その準備をととのえる際の基本原則をまとめています。

 第2章「効率よく学ぶには」では、新任リーダーが失敗するのは、たいていは効果的に学習ができなかったことに要因があるとし、学習の障害を克服し、効率よく学ぶにはどうすればよいかを説いています。

 第3章「状況に合った戦略を立てる」では、正しくリーダーシップをとるには、状況に合った戦略を立てる必要があるとし、そのためのSTARSモデルというものを紹介しています。
  S (Start-up)     立ち上げ
  T (Turnaround)    立て直し
  A (Accelerated)   急成長
  R (Realigment)    軌道修正
  S (Sustaining success) 好業績をあげて次の段階進もうとする組織の継承

 第4章「上司と成功条件を交渉する」では、新しい上司と生産的な関係を築くためにしてはならないことと、基本的にやるべきことを列挙し、その中で、自分に対する期待を繰り返し確認せよと言っています。また、上司との会話の中心となる基本的話題として、移行に関して計画的に織り込むべき5つの会話を掲げています。

 第5章「初期の成果をあげる」では、移行期の計画を立てるにあたっては、連続的に変革の波を起こすことに重点を置くべきであり、最初の変革の波は、初期の成果をあげることが目標であるとしています。ただし、手近な成果の罠にはまらないようビジネスの優先課題に注目すべきであるとし、正しいやり方で成果をあげるための基本原則を示しています。

 第6章「組織のバランスをととのえる」では、組織がアンバランスになる過程はさまざまであり、最初の90日間の目標は、潜在的なアンバランスを突き止め、それらを修正する計画を立てることであるとしています。組織のバランスには論理があり、方向性が正しいかどうかを考えずに構造を変えようとすると問題を引き起こす可能性が高いとし、戦略的方向をどのように定義し、その妥当性や実施面での評価をどのように行うかを説いています。

 第7章「理想のチームをつくる」では、チームをつくる段階でリーダーが失敗する、陥りやすい落とし穴の例を挙げ、落とし穴にはまらないようにするためにはどうすればよいかを説いています。また、部下を評価してチームづくりをし、チームを進化させるにはどうすればよいか、インセンティブのバランスはどのようにとったらよいのかを説いています。

 第8章「味方の輪をつくる」では、具体的に誰を味方につけるべきか見定め、組織に対する影響力の全体を把握すべきであるとし、影響力のネットワークにおける重要人物を理解し、相手を動かす戦略を立てることが重要であるとしています。

 第9章「自己管理の意味を考える」では、自分が置かれている状況を検討するための「構造的内容」のガイドラインを示すとともに、自己管理の3本の柱を掲げています。

 第10章「組織全体の移行を速める」では、組織全体の移行を速めるにはどうすればよいか、そのポイントとして、重要な移行を特定し、また、失敗が決定づけられているケースも特定するとともに、既存の移行支援を診断し、共通の核となるモデルを採用すること、タイムリーに、移行のタイプやリーダーの階層に合わせて支援をすることを挙げています。

 各章の冒頭にケーススタディがあり、読み易く、また、実践的な内容であると思いました。柔軟なフレームワークを示しながら、上司との関係、部下の評価、組織戦略などを掘り下げていて、あらゆるレベルの管理職に役立つ、多くの示唆を含む本であると思います。

《読書MEMO》
●目次
はじめに 最初の90日
 キャリア移行能力を身につける
 ブレイクイーブンポイントに達する
 移行の落とし穴にはまらない
 流れをつくる
 基本原則を理解する
 移行リスクを評価する
 最初の90日を計画する
 早速はじめよう
第1章 準備をととのえる
 昇進する
 新しい会社に溶け込む
 コラム 文化規範を見きわめる
 準備をととのえる
 まとめ
 チェックリスト
第2章 効率よく学ぶには
 学習の障害を克服する
 学習を投資プロセスと考える
 学習課題を決める
 コラム 過去に関する質問
 コラム 現在に関する質問
 コラム 未来に関する質問
 知識を得るために最高の情報源を見きわめる
 構造化学習法を取り入れる
 コラム 新任リーダーの同化
 学習計画の作成
 コラム 学習計画のテンプレート
 支援を得る
 まとめ
 チェックリスト
第3章 状況に合った戦略を立てる
 STARSモデルを使う
 STARSポートフォリオを診断する
 変革を主導する
 自己管理
 成功に報いる
 まとめ
 チェックリスト
第4章 上司を成功条件を交渉する
 基本的なことに注意する
 5つの会話を計画する
 組織の状況についての会話を計画する
 上司の期待についての会話を計画する
 資源についての会話を計画する
 仕事のスタイルについての会話を計画する
 自己啓発についての会話を計画する
 複数の上司と協力する
 離れて働く
 まとめー90日計画を交渉する
 チームと5つの会話を計画する
 コラム 移行の黄金律
 チェックリスト
第5章 初期の成果をあてる
 波をつくる
 目標から始める
 基本原則を使う
 初期の成果を見きわめる
 コラム かつての同僚の上司になる
 変革を主導する
 予測可能な不意打ちは避ける
 チェックリスト
第6章 組織のバランスをととのえる
 落とし穴にはまらない
 組織構造を設計する
 アンバランスを診断する
 さあ、漕ぎだそう
 戦略的方向性を定義する
 コラム SWOTからTOWSへ
 グループの構造を形成する
 コアプロセスのバランスをとる
 グループのスキルベースを開発する
 文化を変えるために構造を変える
 バランスをとってみよう
 チェックリスト
第7章 理想のチームをつくる
 落とし穴にはまらない
 チームを評価する
 チームを進化させる
 チームのバランスをとる
 コラム インセンティブの方程式
 コラム オフサイト・ミーティグ計画のチェックリスト
 チーム主導する
 チームを始動させる
 チェックリスト
第8章 味方の輪をつくる
 影響力の目標を定める
 影響力の全体を把握する
 重要人物を理解する
 相手を動かす戦略を立てる
 まとめ
 チェックリスト
第9章 自己管理の意味を考える
 現状を検討する
 コラム 構造的内省のガイドライン
 自己管理の3本の柱を理解する
 軌道を外れないために
 チェックリスト
第10章 組織全体の移行を速める
 重要な移行を特定する
 失敗が決定づけられているケースを特定する
 既存の移行支援を診断する
 共通の核となるモデルを採用する
 タイムリーに支援する
 構造化プロセスを使う
 移行のタイプに合わせて支援する
 リーダーの階層に合わせて支援する
 コラム 移行コーチングと開発コーチング
 役割をはっきりさせインセンティブのバランスをとる
 ほかの人材管理システムと統合する
 まとめ
 チェックリスト

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○経営思想家トップ50 ランクイン(バーバラ・ケラーマン)

リーダーからフォロワーに力と影響力が移動し、リーダーシップ教育の見直しが求められていることを指摘。

Iハーバード大学特別講義 リーダーシップが滅ぶ時代8.JPGハーバード大学特別講義 リーダーシップが滅ぶ時代.jpg バーバラ・ケラーマン.jpg Barbara Kellerman
ハーバード大学特別講義 リーダーシップが滅ぶ時代
"The End of Leadership"[Kindle版]
the end of leadership.jpg 著者はハーバード大学ケネディスクールの社会リーダーシップの授業で、ジェームズ・マグレガー・バーンズ論を担当する講師であり、本書(The End of Leadership HarperBusiness 2012)は「リーダーシップ」が一大産業になるまでの変化の歴史と、変化によって起きた現代社会の問題点について触れた本です。本書では、リーダーシップ教育は過去に例を見ないほど盛んに行われているのに、なぜリーダーの影響力は低下したのだろうかという疑問を呈し、リーダーシップの歴史と社会情勢の変化を分析したうえで、一大産業と化したリーダーシップ教育の問題点を洗い出し、未来のリーダーシップについて警鐘を鳴らしています(全三部構成で、第一部、第二部でリーダーからフォロワーに力と影響力が移動しその関係が変化していることを説き、第三部で、そうした時代の状況を鑑みた場合の、現在のリーダーシップビジネスにおける問題点を指摘している)。

 第一部「パワーシフト」第一章「歴史的軌跡―衰えゆくリーダーの力」では、リーダーシップには長い歴史があり、たどってきた軌跡にははっきりした流れがあるとして、紀元前から現在までのリーダーシップの歴史を振り返るとともに、近年の傾向として、フォロワーが力をつけ、リーダーは弱体化しつつあるとしています。

 第二章「文化的制約―対等な立場で勝負する」では、フォロワーの力の増大の裏側には、リーダーのさまざまな限界があり、リーダーは、どんなときでも誰もが振り返って指示を仰ぐような道しるべ的な役割から、その力と影響力をフォロワーに委譲しつつあり、リーダーとフォロワーの形が変わってきているとうのが現代の歴史であり、時代(文化)の状況であるとしています。

 第三章「避けられない技術革命―テクノロジーに振り回される」では、そうした過去30年間から40年間のリーダーシップとフォロワーシップの変化は、文化的変化と併せて、通信技術の進歩などの技術的変化によって進行したことを、多くの事例によって説明しています。

 第二部「時代の変遷」第四章「社会契約―むしばまれる信頼関係」では、リーダーとフォロワーの関係の基礎となるのは、リーダーの資質に対するフォロワーの信頼であるが、今その信頼が宗教界、政界、経済界の各方面において損なわれつつあることを例証しています。

 第五章「今アメリカで―弱体化するリーダー」では、とりわけ今アメリカで起きているリーダーの弱体化現象について述べています(この部分は、ドナルド・トランプのような人物が大統領となることを"予言"しているとまでは言えないが、ある意味"予感"させるものであてって興味深い)。

 第六章「世界的な動き―勢いづくフォロワー」では、多くのヨーロッパ、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの国々で、30年から40年前に比べて、アメリカ以上に、リーダーが弱くなりフォロワーが強くなっていることを検証していて、アメリカはリーダーが弱体化したためにリーダーとフォロワーのバランスが変化したが、これらの国々は、フォロワーが強くなることで、力の均衡に変化が起きたとしています。

 第三部「パラダイムシフト」第七章「リーダーシップビジネス―リーダーシップ大流行の中で」では、リーダーシップビジネスはこの30年から40年の間に爆発的に成長しているが、莫大な資金がリーダーシップビジネスに流れこみ、莫大な時間がリーダーシップ教育、研究に費やされているにも関わらず、リーダーシップの成功例は少なく、失敗例には事欠かないとし、その問題の一つは、有能なリーダーを育成することに固執していることにあるとしています。

 第八章「特別講義完了―現代に求められるリーダーとは」では、これまでの「救世主探し」のようなリーダー中心のリーダーシップ教育ではフォロワーの重要性が忘れられており、今リーダーシップ育成事業そのものを全体的に考え直す必要があるとして、今のリーダーシップ産業を支えている「前提」の数々について、著者が疑問を抱いているものをリストアップし、それらはリーダーシップの危機を促進こそすれ、緩和はしないとしています。

 本書は、リーダーとフォロワーの関係の変化、そして、リーダーシップビジネスがなぜ意図した結果を生んでいないのかについて述べる一方で、これは簡単に解決できる問題ではないとして、「お定まりの処方箋」を描くことはしていません。リーダーシップを否定しているわけではなく、これまでのリーダーシップは時代遅れになる危険があるとしているわけです。リーダーの存在を否定するのではなく、、リーダーはいつの時代にも存在するが、フォロワーシップより重要な存在としてのリーダーシップ、授業料を払って習得するようなリーダーシップ、普通の仕事より優れたものとしてのリーダーシップ、どんな問題でも解決するリーダーシップ、業績を出すのが当たり前だと皆が思っているリーダーシップ―そのようなリーダーシップはもう古いとしていて、相当に示唆的な内容であると言えます。

 リーダーシップビジネス(教育)について詳細に(批判的に)語っていることも本書の特徴であり、それらはアメリカ社会を中心に書かれていますが、次世代リーダーの育成が急務の日本の企業にとっても参考になるように思われます。著者はリーダーシップビジネスが衰退しないようにするには、少なくとも次の四つの改革をしなければならないとして本書を結んでいます。

 ・会話を阻害する、リーダー中心主義を終わりにすること。
 ・近視眼的な状況の特定から脱却すること。
 ・リーダー教育自体を厳しい分析の対象とすること。
 ・影響力の対象を反映しなければならない、移りゆく時代とともに変わること。

《読書MEMO》
●目次
プロローグ──二十一世紀のリーダーシップ、そしてフォロワーシップ
第一部 パワーシフト
 第一章 歴史的軌跡―衰えゆくリーダーの力
 第二章 文化的制約―対等な立場で勝負する
 第三章 避けられない技術革命―テクノロジーに振り回される
第二部 時代の変遷
 第四章 社会契約―むしばまれる信頼関係
 第五章 今アメリカで―弱体化するリーダー
 第六章 世界的な動き―勢いづくフォロワー
第三部 パラダイムシフト
 第七章 リーダーシップビジネス―リーダーシップ大流行の中で
 第八章 特別講義完了―現代に求められるリーダーとは

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リーダーは生まれながらリーダーなのではなく、育てられるもの。

リーダーの使命とは何か.jpgHesselbein.jpg あなたらしく導きなさい.jpg
リーダーの使命とは何か』['12年]Frances Hesselbein at TEDあなたらしく導きなさい 愛されるリーダーの生き方、愉しみ方』['13年]

Hesselbein2.jpg 本書(原題:Hesselbein on Leadership)は、17歳で父が他界、大学進学を断念して就職、22歳で結婚、出産後にガールスカウトのボランティアを始めて頭角を現し、ついには全米ガールスカウト連盟初の現場出身CEOとなり、さらにドラッカー財団の初代プレジデント兼CEOとなり、大統領自由勲章を受勲し、『アメリカ陸軍リーダーシップ』('10年/生産性出版)の共著者でもあるというフランシス・ヘッセルバイン(1915年生まれ、2018年12月現在満103歳)が、リーダーシップについて述べたエッセイをまとめたものです。

 Ⅰ「『どうやるべきか』から『どうあるべきか』」では、リーダーシップとは「どうやるべきか」ではなく「どうあるべきか」の問題であるとしています。1章では、これからのリーダーは、「どうあるべきか」に専心する人であるとして、その行動特性を列挙し、2章では、今の若者はシニカルになりがちだが、実はこうしたリーダーは身近にいるものだとしています。3章では、自らはリーダーとして「イノベーション」「融合」「機会」「価値観」という四つのカゴを持つようにしてきたとし、4章では、リーダーには女性も男性もなく、もし仮に女性的と形容されるマネジメントの特長があるとすれば、それは男女関係なく、有能なリーダーの共通の資質であるとしています。5章では、よいマナーや礼儀正しさは、組織全体によい人間関係を確立するために不可欠であるとし、真摯に人と向き合い、尊敬の念を表すことのできるリーダーが求められるとしています。6章では、リーダーには自分でつくりだす壁と組織がつくりだす壁の2つの壁があるとして、それぞれの壁について解説し、壁を見極め、乗り越えなければならないとしています。7章では、リーダーが交代する際に、称賛される交代となるために必要な四つのステップを挙げています。

 Ⅱ「新時代のリーダーは、こうなる」では、これからのリーダーはどのようになっていくかを述べています。8章では、リーダーがピラミッドの上に立つ時代は終わり、リーダーは円の中心的存在として、ミッションの達成やイノベーション、ダイバーシティを目指すマネジメントを行うことになるとしています。9章では、これからのリーダーはミッションを常に意識し、絶えず学び、絶えず教え、才能よりも勤勉さを尊ぶとしています。10章では、ひとつの組織が理想の組織に変わるための八つのポイントを示しています。11章では、組織には「家をきれいに保っておく」ことが求められるとし、それはどういうことか、そのための三つの要件を挙げています。12章では、今日の組織は本気でリーダーを育成することが求められており、すぐれた組織の共通点として、リーダーシップ養成に力を入れていることが挙げられるとしています。13章では、組織が10年後も成長しているためのチェックリストを示しています。

 Ⅲ「外に飛び出し、社会を変えよう」では、あらゆる組織のリーダーたちは、自分の組織の壁を越えたリーダーシップも発揮しなければならないとしています。14章では、官・民・NPOのトライアングルの構築の実例を挙げています。15章では、組織を超えて「共通の言葉」で話し、協力し合う必要があるとしています。16章では、これからの企業人は非営利組織に注目すべきであるとしています。17章では、多様性の時代の組織づくりはどうあるべきかを考察し、生産性のある組織を実現する五つの条件を挙げています。18章では、リーダーとは、献身的なリーダーシップを発揮して初めて真のリーダーになるとし、とりわけ、こどもたちを救うということをリーダーの使命として挙げています。19章では、ドラッカーが『未来社会の変革』の冒頭で書いた「都市を文明化する」という仕事に関して、現実にどこから手をつければよいか、コミュニティとのパートナーシップの規範となる事例を紹介しています。

 200ページ足らずのソフトカバー本ですが、密度は濃いです。リーダーは生まれながらリーダーなのではなく、育てられるものであり、ただし、リーダーを育てるには相当の時間を投入する必要があり、それによって、リーダーが育成される―ということを改めて思い知らされる、啓発度の高い本です。また、同著者の『あなたらしく導きなさい 愛されるリーダーの生き方、愉しみ方』('13年/海と月社)も280ページ程度と本書よりはやや厚いですが、本書同様に読みやすく説得力のある本です。

《読書MEMO》
目次
世界の重鎮たちはなぜ、ヘッセルバインに一目置くのか。―ジム・コリンズ
困難から逃げないあなたへ
Ⅰ「どうやるべきか」から「どうあるべきか」へ
  1章 「どうあるべきか」のリーダーとは?
  2章 ヒーローは身近にいる
  3章 四つのカゴを持ち歩く
  4章 リーダーに、女性も男性もない
  5章 礼儀正しさの効用
       よいマナーはリーダーの味方
       メンバーへの敬意の示し方
  6章 リーダーに立ちはだかる二つの壁
  7章 称賛されるリーダー交代の方法
       理事会とのやり取り
       交代までの四つのステップ
Ⅱ 新時代のリーダーは、こうなる
  8章 ピラミッドを円に変える
  9章 あなたは「善きサマリア人」か?
       お題目だけのミッションならいらない
       絶えず学び、絶えず教える
       才能より勤勉さを尊ぶ
  10章 理想の組織に変わるための八つのポイント
  11章 「家」をきれいに保つ
       三つの要件を満たす
       自分の「家」をじっくり見つめる
  12章 本気でリーダーを育成する
       すぐれた組織の共通点
       五つの質問に答える
  13章 一〇年後も成長しているためのチェックリスト
Ⅲ 外に飛び出し、社会を変えよう
  14章 官・民・NPOのトライアングル
  15章 「共通の言葉」で話せる人に
  16章 企業人は非営利組織に注目せよ
       NPOを評価すべき理由
       メンバーのやる気をかきたてる態度
  17章 多様性の時代の組織づくり
       口先だけでは通用しない
       生産性のある組織を実現する五つの条件
       新たな現実をチャンスに変える
  18章 子どもたちを救う、という使命
       企業も無縁ではない
       なぜ、献身が必要なのか
       子どもを気にかけない社会の不幸
  19章 実例なら、ここにある
理想の組織に変わるための八つのポイント(10章)
①周囲に目を配る
いろいろな本や記事、調査結果などから、自分達の組織に影響を及ぼしそうなトレンドを見極める。常にこうした姿勢でいれば、転換プランに欠くことのできない情報も得られるようになる。
②ミッションを再確認する
周囲の環境や顧客のニーズは変化するため、ミッションは見直し、必要に応じて改訂する必要がある。ミッションステートメントとは、自分達の存在意義、目的の説明である。リーダーは、マネジメントとは目的ではなく手段であることを理解し、自分勝手なマネジメントのためのマネジメントではなく、ミッシ ョンのためのマネジメントを行わなければならない。
③階層を禁じる
組織を転換するためには、メンバーを組織の箱から解放し、柔軟で流動的なマネジメント体制をつくりだす必要がある。スタッフの役割や地位を同心円状に、系統的に配置することで、職務をローテーション化することが可能となる。これによってメンバーは円を描くように移動し、新しいスキルを学び、経験の幅を広げていく。
④「天の声」に疑問をもつ
絶対神聖なタブーなどつくってはならない。どんな方針や慣行、前提に対しても、疑問の声をあげていくべきである。本気で組織を変えようとするなら、「計画的廃棄」も実行すること。
⑤言葉の力を駆使する
リーダーは明瞭で首尾一貫したメッセージを何度も送らなくてはならない。メンバーや顧客の心を明るく照らし出すような強力なメッセージを発しながら、自分の声で組織を導き、よりよいコミュニケーションをとっていくこと。
⑥リーダーシップを分散させる
いかなる組織も、一人のリーダーではなく、多くのリーダーを持たなくてはならない。リーダーを育成し、組織のあらゆるレベルで力を発揮してもらうこと。
⑦「後ろから押す」ではなく、「真正面から導く」
リーダーは何もせず、風見鶏のようにただ待っていたりはしない。組織に影響を及ぼしそうな問題に立場を明言し、企業やその価値観、原則を具現化した存在としてふるまう。
⑧業績を評価する
進歩のためには、自分自身を評価することが不可欠である。転換のプロセスにおける、ミッション、目標、目的は最初に明確にしておく。目標と評価の尺度を設定して初めて、転換への道のりを歩み出すことができる。

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奉仕型のリーダーシップとは、自らを人間的に成長させる素晴らしい"スキル"であると。

サーバント・リーダー  ハンター.jpgサーバント・リーダー  ハンター7.JPG サーバント・リーダー  ハンターl2.jpg James Hunter.jpgサーバント・リーダー 「権力」ではない。「権威」を求めよ』['12年] "The Servant: A Simple Story About the True Essence of Leadership"(1998) James Hunter

サーバント・リーダーシップ ハンター.jpg 本書(原題:The Servant: A Simple Story About the True Essence of Leadership,1998)は、『サーバント・リーダーシップ』('04年/PHP研究所、石田量訳)の新訳です。物語仕立てになっていて、世界的なガラスメーカで異例の若さで工場を任され、順調なキャリアを歩むゼネラル・マネジャーが、ビジネスとプライベートの両面で危機を迎え、妻から教会の牧師に相談することを勧められ、牧師から修道院の修道会に参加することを提案され、気乗りはしなかったが、その修道院に伝説の経営者がいることに興味をひかれて参加し、そして、その伝説の経営者から、リーダーシップを学ぶというストーリーになっています。

サーバント・リーダーシップ』('04年/PHP研究所、石田量訳)

 1日目は、主人公は、修道院の中ではシメオンと呼ばれるその伝説の経営者の導きにより、他の5人の参加者との討議を通して、リーダーシップとは「共通の利益になると見なされた目標に向かって熱心に働くよう、人々に影響を与える技能」であるとの定義に至ります。シメオンは、リーダーシップは"技能"であるので、学んだり身につけたりすることができるものだとし、リーダーシップを身につけるという行動には"大きな努力"が必要とされるとも言います。なぜならば、リーダーシップが他人を動かすことだとしたら、人を動かす影響力をどのように身につければよいのかを常に考える必要があるからです。そこで重要になるキーワードは"影響力"というものであり、この影響力に関して「権力」と「権威」という二つの言葉が持つ意味の違いを正しく理解することの重要性を述べます。「権力」は、たとえ相手がそうしたがらなくても、地位や力によって、自分の意思どおりのことを強制的にやらせる能力であり、「権威」は、個人の影響力によって、自分の意思どおりのことを誰かに進んでやらせる技能であるとし、権力に頼らなければならないのは、権威が崩れたからであって、では権威あるリーダーの特質とは何かを参加者に考えさせ、その結果「正直で信頼できる」ことなど10の特質が抽出されます。シメオンは、これら10の特質は全て「行為」であり、このような「行為を実践する」ことができるのならば「権威を持つ」ことができるとします。シメオンは、リーダーシップとは、人々を通して何かを成し遂げることであり、人と共に働き、人に何かをさせるときには「任務」と「関係」というものが必ず関わってくると説きます。「任務」と「関係」はどちらも重要で、いずれか一方だけを重要視するとバランスが崩れてしまい望まない結果がもたらされることになるので注意が必要だということを常に心に留め置く必要があるとします。関係を顧みずに任務にだけ集中していると、退職、反抗、品質の低下、やる気の無さ、信用低下といった問題が起き、一方、関係性のみに注力をするならば、任務を成し遂げることができず、つまり、リーダーシップとは「関係を築きながら任務を成し遂げる」ことを指すということになるとし、関係性を維持するために最も必要なものは「信頼」であると説きます。

 2日目は、シメオンはまず、人に最後まで話をさせずに自分の意見を言い始めることの弊害を説きます。そして、尊敬の気持ちには、尊敬の行動が伴わなければならないとします。また、もし10の特質を本当に実践するのであれば、「パラダイム:規範」(人生を進んでいくにあたって用いる心の図式・モデル・地図)の見直しの必要性に迫られるとし、このパラダイムは上手に使えば人生を渡っていくのに非常に役立つが、時代遅れの古いパラダイムに捉われてしまうと世界に取り残されてしまう危険性があるとします。例えば、父親に虐待された女の子は「大人の男性は信用できない」というパラダイムを持ち、成長後もそのパラダイムを持ち続けるならば男性との付き合い方に深刻な支障をきたすことになり、この場合、「すべての男性は信用できない」というものから「信用できない男性もいる」といったパラダイムの変換が必要になります。従って、常に自分自身や自分を取り巻く環境に関するパラダイムを自ら見直す必要があり、多くが現在身につけている組織運営に関するパラダイムは、「ピラミッド型:上から下へ」というものであって、CEOを最上位とし、[上]CEO→副社長→中間管理職→監督者→従業員[下]と続いて、最下層の従業員が「顧客」への対応を行うが、この従来型モデルの場合、組織のメンバーには、顧客ではなくて「上」つまり上司を見よというメッセージになるだろうと。そこで、このパラダイムの変換が必要になり、それは「逆ピラミッド型:下から上へ」というもので、[上]従業員→監督者→中間管理職→副社長→CEO[下]というものであると。顧客に目を向けるために顧客を最上位に置き、その対応する従業員を上に配置するならば、リーダーの役割は支配したり下層のメンバーに威張り散らしたりすることではなく、むしろ従業員に対して"奉仕する"ということになるとしています。ここでの「奉仕する」の本当の意味は、相手の欲求に応えるということではなくて"ニーズに応える"ということを意識しなければならないといとしています。欲求とは「心身におよぼす影響をまるで考えない願い、希望」で、ニーズとは「人間としてよい状態にあるために、心身が正当に求めるもの」であり、例えば、従業員が時給20ドルを求めることは欲求であり応える必要はないが(なぜならば、その要求を満たすことになれば企業の存続が危うくなり、安定した長期の雇用という彼らのニーズに応えることができなくなるから)、リーダーは常に自分が導いている人々のニーズに応えるべく、それらをきっちりと把握する努力をする必要があるとしています。そのためには「マズローの欲求5段階説」を知ることは有益であるとしています。欲求ではなくニーズに応える、つまり、隷属するのではなくて奉仕者になる、ということを心に留め置くべきだというのが、2日目の講義のポイントです。

 3日目は、「奉仕」と「犠牲」のリーダーシップに踏み込んでいきます。リーダーシップに関して、それをどのように身につけるかを、[上]リーダーシップ→権威→奉仕と犠牲→愛→意志[下]というピラミッド型モデルで学ぶことができるとしています。まず、有効なリーダーシップは、「権威」の上に打ち立てられなければならず、権威は「奉仕と犠牲」の上に成り立ち、その奉仕と犠牲は「愛」の上に、愛は「意志」の上に作られるとしています。この意志とは「意図 + 行動」を意味し、意図は行動を伴って初めて意味を成すとしています。つまり、リーダーシップとは、意志から始まり、それは、意図に添った行動をし、行為を選ぶという人間ならではの能力であり、正しい意志があれば愛を選ぶことができる。この愛というのは動詞で、人々の欲求ではなく、正当なニーズを見極めてそれに応えることを指し、人々のニーズに応えるとき、奉仕し、犠牲を払うことさえ求められるが、他人に奉仕して犠牲を払うと、権威あるいは影響力を手にすることができるということです。つまり、もっとも偉大なリーダーとは、もっとも奉仕した人物ということになるとのことです。

 4日目は、「行為」としての愛に踏み込んでいきます。「行為を示す動詞の愛」について理解を深めることは、リーダーシップを理解することへの大きな助けになるとしています。ギリシャ語には愛を表すのに幾つかの異なる単語があり、性的な魅力や欲望、切望といった感情を指す「エロス」、家族の間の感情を指す「ストルゲ」、「あなたが私に親切にしてくれたら、わたしもあなたに親切にします」といった条件付きの親密な相互の愛である「フィロス」、見返りを考えない、他人への行為の基になる無条件の愛である「アガぺ」のうち、奉仕と犠牲のリーダーシップの中で用いられる「愛」とは「アガぺ」を意味する、行為と選択の愛なのだとしています。そして、自分が人に対してどう感じるかはコントロールできないが、人に対してどのように振る舞うかは、きちんとコントロールができるということを意識することが必要であるとしています。そして「アガぺの愛」は、次のように、先のリーダーシップが求める10の特質と重なるとしています。
  忍 耐:自制すること
  優しさ:注意を払い、評価し、励ますこと
  謙 虚:信頼でき、虚偽や高慢さがないこと
  敬 意:他者を重要な人物として扱うこと
  無 私:他者の必要に応えること
  許 し:悪いことをされたときに怒りを捨てること
  正 直:欺かないこと
  献 身:選択を貫くこと
 以上のことは「奉仕と犠牲」を意味し、それは「自分の欲求や必要を脇にやり、他者のために最高の利益を求めること」であって、つまり、権威をもって導くためには、努力をして愛し、奉仕し、時には他人のために犠牲を払うことさえ求められるが、その際の愛が意味するものは、他者に対してどう感じるかではなくて、他者に対してどう行動するのかということであり、それは「メンバーの正当なニーズを見極め、それに応えることによって、人のために努力する」という行為を意味するとしています。

 5日目は、メンバーが成長できる環境について踏み込んでいきます。シメオンは、具体的にはどのように行動することが求められるかを「園芸」を比喩として用い、自分の影響が及ぶ範囲を「世話をする必要のある庭」だと考え、庭には注意と世話を欠かすことはでず、この庭には何が必要だろうか? 評価や認知や賛美などで養分を与える必要があるのではないか? 雑草を取り除く必要は? 害虫の駆除は? などと常に自問して自分の役割を果たして育んでいくのならば、きっと豊かな実を得られることができるとしています。ここで注意すべきは、実がなるまでの期間を事前に知ることは誰もできないということを知っておくことであり、そのためにリーダーシップには、未来を信じて努力を続けるという「献身」という行動を欠かすことはできないとしています。

 6日目は、どう行動するかどう行動するかを選ばなければなたないときのことについて触れています。奉仕のリーダーシップを採ることによって、権力に頼る人からの迫害を受ける可能性があり、なぜならば、彼らはたいてい権威に基づく人々によって地位を脅かされないか怯えて不快感を覚えているからであるが、しかし、自分がどのように扱われようと、愛と敬意をもって人と接することができない場所などほとんどないことも覚えておくべきであるとしています。なぜならば、私たちは誰でも、自分自身の行動においてのみ「周囲に影響を与えることができる」からだと。そう考えるならば、リーダーシップという務めと愛は、人格の問題であり、長い時間に耐えうる卓越したリーダーになりたければ、忍耐、優しさ、謙遜、無私、敬意、許し、正直、献身という、こうした人格の基礎を習慣として身につけ、成熟させなければならないとしています。

 最後の7日目は、リーダーは、はたしてこのような大変な努力をする価値が本当にあるのかを考察しています。この奉仕のリーダーシップがもたらす真の報酬とは何なのか。もちろん、人々に対する影響力を身につけることもあるが、それよりも「日々の使命/人生の使命」を明確にしてくれるということも報酬であるとしています。なぜならば、高齢者を対象にした「もう一度人生をやり直すとしたら、自分の行動をどう変えたいですか?」という調査結果の上位の回答の一つに「もっと後世に残すことをする」があるように、使命感を持ち他人に影響を与えることは私たちの大きな満足に繋がるからであると。加えて、外部の状況に基づかない、内面から湧き出る"歓び"という感情を得ることができることも、とても大きな報酬の一つであるとしています。歓びは、心の中の満足、自分が人生の深遠な不変の原理に本当に連携できたと確信できるからです。それは、私たちが自己中心的な利己主義を克服するのに役立つとしています。

 物語形式で「リーダーシップ」について理解が進められるように話が進んでいくのが本書の特長ですが、ここでいうリーダーシップとは、従来のリーダーシップとは異なる奉仕型のリーダーシップを指していて、主人公やセミナーの参加者たちも、初めはこの常識とは真逆のリーダーシップに戸惑いつつも、それぞれの経験を鑑みながら講義を進めていくにつれて、奉仕型のリーダーシップが持つ意味や、それがもたらす効果の大きさを理解するようになっていきます。突き詰めるならば、この奉仕型のリーダーシップとは、自らを「人間的に」成長させる素晴らしい"スキル"でもあり、それが日々を充実させる使命感や大きな歓びをもたらすことを、学ぶことができるかと思います。「奉仕型のリーダーシップ」は経営者や管理職のみならず、誰にでも必要な「技能/スキル」であることを認識させる本であり、リーダーを目指す人に広くお薦めします。

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《読書MEMO》
●目次
プロローグ このわたしが修道院へ?
1日目 リーダーが見落としているもの
2日目 殻を破り、逆転の発想を
3日目 「奉仕」と「犠牲」とリーダーシップ
4日目 「行為」としての愛について
5日目 メンバーが成長できる環境とは
6日目 どう行動するかを選びとるとき
7日目 リーダーにたいする真の報酬
エピローグ あらたな旅路へ
●リーダーシップ・権力・権威(1日目)
「リーダーシップ」:共通の利益になるとみなされた目標に向かって熱心に働くよう、人々に影響を与える技能。
「権力」:たとえ相手がそうしたがらなくても、地位や力によって、自分の意思どおりのことを強制的にやらせる能力。
「権威」:個人の影響力によって、自分の意思どおりのことを誰かに進んでやらせる技能。
●権威あるリーダーの10の特質(1日目)
正直で信頼できる/いいお手本/愛情深い/献身的/話をよく聞く/人に責任を持たせる/敬意をもって人に接する/人を励ます/肯定的で熱心な態度/人の価値を認める
●古いパラダイムと新しいパラダイム(2日目)
「古いパラダイム」<ピラミッド型:上から下へ>
[上]CEO→副社長→中間管理職→監督者→従業員→(顧客)[下]
「新しいパラダイム」
[下](顧客)→従業員→監督者→中間管理職→副社長→CEO[下]
●<リーダーシップのモデル>(3日目)
[上]リーダーシップ→権威→奉仕と犠牲→愛→意志[下]
●「行為」としての愛について(4日目)
「選手や仲間をかならずしも好きになる必要はないが、リーダーとしては彼らを愛さなければならない。愛は忠義、愛はチームワーク、愛は個人の威厳を尊重する。これはどんな組織にとっても強みだ。」―ヴィンス・ロンバルディ(アメリカンフットボール・コーチ)(p103)
●どう行動するか選びとるとき(6日目)
「リーダーシップという務めと愛は、人格の問題です。忍耐、優しさ、謙遜、無私、敬意、許し、正直、献身。長い時間に耐えうる卓越したリーダーになりたければ、こうした人格の基礎を習慣として身につけ、成熟させなければなりません。」(p186)
●リーダーに対する真の報酬(7日目)
「権威によって導くこと、正当なニーズに応えて他者に奉仕することには大きな歓びがあるということです。そしてこの歓びが、地球という名の精神の基礎訓練キャンプを生きていくにあたって、わたしたちを支えてくれるのです。・・・人間としての真の目的は、心理的、そして霊的な成熟に向かって成長することです。愛し、奉仕し、他者のために努力するなかで、わたしたちは自己中心的な考えを捨て去っていきます。(中略)他者を愛することでみずからが成長するのです。」(p202)

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ティール組織入門書としては良いが、ホクラシーの概念と混在してやや複雑になった?

実務でつかむ! ティール組織.jpg実務でつかむ! ティール組織  .jpg     ティール組織.jpg
実務でつかむ! ティール組織 "成果も人も大切にする"次世代型組織へのアプローチ』['18年]『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』['18年]
「月刊 人事マネジメント」2018年9月号
「月刊 人事マネジメント」2018年9月号.JPG フレデリック・ラルー著『ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(2018年/ 英治出版)が刊行されて以来、人事専門誌などでも「自立分散型組織」に関する特集が組まれたりするようになりました。本書は、この本で提唱されているティール組織とはどのようなものであるか、これまで巷で次世代型組織と言われてきたホラクラシー組織とはどのような関係にあるのかを解説した本であり、著者は、日本初のホラクラシー認定ファシリテーターであるとのことです。

 1章では、『ティール組織』の中で示されているレッド、コハク、オレンジ、グリーン、ティールの5つの組織モデルについての概要を紹介するとともに、次世代型組織にあたるティール組織の、①進化する目的(エボリューショナルパーパス)、②「自主経営」が可能となる仕組みを有していること、③個人としての全体性の発揮(ホールネス)、という3つの要点について解説しています。さらに、ホラクラシー組織とはティール組織の1つの形態であるため、ティール組織同様、「社内上、社長や役員、部長等の役職自体を持たずに、組織の目的実現に向けてメンバーが進むことができるような独自の仕組みや工夫が溢れている」ことが特徴であるとし、ホラクラシー組織における「進化する目的」「自主経営」「個人としての全体性の発揮(ホールネス)」とは何かを解説しています。

 2章では、5つの組織モデルのうちオレンジ組織、グリーン組織、ティール組織について、それぞれトップダウン型組織(オレンジ)、ボトムアップ志向の組織(グリーン)、次世代型組織(ティール)と位置づけ、その特徴と移行の際の要点を実務的に解説しています。さらに、著者自身がボトムアップ志向の組織と次世代型組織との間に距離感を感じたことから、グリーン組織からティール組織への移行段階で、役職は残しまま次世代組織への土台をつくる「プレティール組織」という概念を設定しています。

 3章では、次世代型組織の3つの土台づくりとして必要な、①心の奥底の想いに気付き、互いに対話する、②目的地図と重要指標の透明化、③行動と目的の循環サイクル、の3つについて解説しています。

 4章では、次世代型組織の事例として、『ティール組織』でも取り上げられていたザッポス社のホラクラシーの活用例を紹介し、5章では、次世代組織の土台づくりに繋がる事例として、従来のマネジャーをなくし、"カタリスト(媒介役)"という役割を設定した株式会社ネットプロテクションズの事例などを紹介しています。

 ティール組織に関する解説は『ティール組織』に準拠しているため、同書の解説になっていると言えます。一方、ホラクラシー組織については、著者自身がティール組織の考え方との融合を試みたとも言えるのではないかと思います。ティール組織やホラクラシー組織の基本概念を整理し、何がその要点となるかを理解するには良い本だと思います。

 一方で、事例編の方は、次世代型組織(ティール組織)の事例として紹介されているのは『ティール組織』でも取り上げられていたザッポス社1社のみで、一方で、著者が設定した「プレティール組織」という概念に該当する「次世代型組織の土台に繋がる事例」は、日本企業やNPO法人などいくつかの事例が紹介されていますが、いずれもティール組織と言うより、どちらかと言うとホラクラシー組織の事例解説となっているように思いました。

 ティール組織というのがまだ事例が少ないため、理解しようとする側にとってもやや抽象的なイメージになりがちなのが今の段階であり、「プレティール組織」という過渡期的な概念を用い、それに該当する事例を紹介して解説した工夫は買いたいと思います。ただし、それらがティール組織とは実務上どのようなものかを理解するうえでの助けになったかもしれませんが、ティールとホラクラシーの両概念が混在して、概念的にはやや複雑になってしまった印象も受けました。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(リンダ・A・ヒル)

優れた上司であり続けるための3つの要素。説得力があり、啓発書として優れている。

Being Boss Linda A. Hill.jpgハーバード流ボス養成講座2.jpgハーバード流ボス養成講座.jpg  リンダ・A・ヒル.jpg Linda A. Hill
ハーバード流ボス養成講座―優れたリーダーの3要素
"Being the Boss, with a New Preface: The 3 Imperatives for Becoming a Great Leader"
Linda Hill: How to manage for collective creativity | TED
Linda Hil:How to manage for collective creativity  TED.jpg 本書は、ハーバード・ビジネススクールのリーダーシップ部門主任教授リンダ・A・ヒル(Linda A. Hill)と著述家ケント・ラインバック(Kent Lineback)の共著("Being Boss"(ボスになる)(2011))で、ウォールストリート・ジャーナル紙によって、「2011年に読むべきビジネス書5冊」に選ばれています。

 1章で、できるマネジャーの課題として、1.自分をマネジメントする、2.人脈をマネジメントする、3.チームをマネジメントする、の3つを挙げ、この3つの課題は、マネジャーとしての責任を果たそうとするうえでなすべきことのエッセンスをまとめたものであり、部下とそれ以外の人々の両方に自分の望む行動をとってもらうための、基本的なテコの役割を果たすとしています。パートⅠ以降では、この3つの課題を中心に話を進め、各課題に3~4の章を割り当てています。

 パートⅠ「自分をマネジメントする」では、他人、とりわけ部下との1対1の関係に照準を合わせています。2章では、長期にわたって効果的に影響力を発揮しようとするには、公式の権限だけに頼ったのでは限界があるとしています。3章では、友情に訴えかけて影響力を行使しようとする際には落とし穴があることを説いています。4章では、影響力の真のよりどころは信頼であるとしています。

 パートⅡ「人脈をマネジメントする」では、組織につきものの政治的駆け引きを念頭に置きながら、建設的な目的に沿って誠実に影響力を行使する術を説いています。5章では、助けを求めて一緒に働かなくてはならない相手との人脈を細心の注意を払って築き、維持していくことがたいへん重要であるとし、6章では、こうした人脈の築き方を詳しく述べています。7章では、上司との大切な関係について述べています。

 パートⅢ「チームをマネジメントする」では、部下たちとともに真のチームを作り上げるには何が必要かに焦点を当てています。8章では、水先案内人としてチームに目的意識を与えるには、文書になったプランとそうでないプランの両方を作る必要があるとしています。9章では、チームの文化と、適切な規範、理念、実り多いチームワークの条件について取り上げています。10章では、チームメンバー1人ひとりを管理しながらともに働く方法を説明しています。11章では、上司としての行動の核となる基本的な行動モデル〈準備→実行→反省〉を紹介し、それが懸案や想定外の出来事などあらゆる状況をマネジメント課題の追求に活かすのに、どう役立つのかを紹介しています。

 結びの12章では、3つの課題に照らして自分を眺め、強みは何か、旅の途上で更なる進歩が求められる分野は何かを見極める助けをし、日々の経験から学ぶためのアドバイスもしています。

 各章の冒頭に事例があって、それらが連続するストーリーのようになっていて課題の状況がイメージしやすくなっていますが、全体の構成がかっちりしているため、それが無かったとしても十分読みやすいのではないでしょうか。内容的にも「チームをマネジメントする」の前に、まず「自分をマネジメントする」ことから始まって、次に「人脈をマネジメントする」ことが来ていて、説得力がありました。啓発書として優れていると思います。

 本書で著者らが「3つの課題」と呼ぶもの―「自分をマネジメントする」「人脈をマネジメントする」「チームをマネジメントする」は、マネジャーの能力が最も未熟な分野であるというだけでなく、「人々に影響を及ぼす」という上司の最も根本的な役割を果たすうえでも役に立つものであり、3つの課題はマネジメントとリーダーシップの核心であり、できる上司になるうえで欠かせないすべての要素を含む、行動指向型のフレームワークであるとしています。

 また、優れた上司になるまでの過程を理解し、その行動様式を知るだけでは十分とは言えず、本当に重要なのは、リーダーシップの旅で、自分をどう成長させるかであって、成長は、自分の現在の実力をしっかり把握するところから始まるというスタンスに立っています。これを1度きりではなく継続的に行っていくためには、自分の能力や行動を常に見直し、正直な自己評価を行い、間違いを認めそこから学び、周りから率直な意見を求め吸収していくことが必要となるということです。

 自分は有能な上司の要件を満たしているだろうか。部下や、自分の管理下にはないが必要な人材を、最大限に活用できているだろうか。会社や顧客からの高まり続ける期待に、十分に応えているだろうか―そうしたことを自問してみるによい本であり、優れたマネジャー、リーダーを目指す全ての人にとって役立つ本であると思いますが、とりわけ、新任マネジャーや中間管理職がどのようにマネジメントを実践すれば良いかが書かれていたように思いました。でも、中間管理職に限らず、優れたリーダーを目指す人に広くお薦めできる本です。

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いかにして部下の潜在能力を最大限まで引き出し、強力な組織をつくるかを説く優れた啓発書。

響き合うリーダーシップ  .jpg 響き合うリーダーシップ.jpg Max De Pree.jpg ハーマンミラー.jpg
"Leadership Is an Art"(2004)『響き合うリーダーシップ』 Max De Pree(1924-2017/享年97)

響き合うリーダーシップ6.JPGハーマンミラー  .jpg 本書は、数多くの世界的デザイナーを率いて、ハーマンミラー社を「もっとも働きがいのある企業」「もっとも称賛される企業」と呼ばれる世界的家具メーカー(自分が今使用しているアーロンチェアを作った会社でもあるのだが)に育て上げた伝説のCEOマックス・デプリー(2017年没)が説くリーダーシップ論です。初版は1987年で(原題:Leadership Is an Art、1989年版の邦訳『リーダーシップの真髄』('99年/経済界))、本書は2004年改訂新版の訳本。裏表紙に、その間に寄せられたドッラカーやビル・クリントンなどによるこの本への賛辞が載っている)。

 先ず「はじめに」で、「リーダーシップは『アート』だ。時間をかけて身につけるものであり、たんに本を読んで学ぶものではない。リーダーシップは科学というより伝承であり、情報の蓄積というより関係の構築なので、その意味では、私はそのすべてを明らかにする方法を知らない」としています。

 1章「ある親方の死」では、「工場の操業全体を担うキーパーソン」である親方が亡くなり、弔問に自宅を訪ねたところ、実はその親方は美しい詩をつくる詩人であることが分かったというエピソードを引いて、リーダーは一人ひとりの才能、力量、スキルの多様性、つまり人間の個性、多様性といったものを認めなくてはいけないとし、リーダーに多様性への理解と受容があれば、社員一人ひとりが、自分は大切にされていると感じることができ、その結果、社員は、① 職場で機会や平等やアイデンティティを求められていることがわかる、② 仕事に意味、充実感、目的を見出すことができる、③ 目標と報酬が根本的に異なることを理解するのに役立つ、というようになるとしています。
 
 2章「リーダーシップの『アート』とは?」では、「リーダーは、まず最初に現実を明らかにしなければならない。そして最後にありがとうと言わなければならない。その間、リーダーは部下に奉仕し、部下に借りをつくる。すぐれたリーダーはこうして成長する」とし、次に、リーダーシップのアートを身につけるには、リーダーを「世話役」として考えるべきであるとし、具体的には、「資産と遺産」を残し、組織に「推進力」を与え、「効果」に責任を持ち、「礼節と価値観」を育まなければならないとしています。

 「資産」は財務の観点からのそれだけでなく、従業員(人)、組織の価値観(価値体系)、未来のリーダー(の育成)、質に対する意識、心の関係、リーダーの成熟した人間性、筋道を通す姿勢、ビジネス・リテラシー、才能を生かせる「場」の提供なども入ってくるとし、「変化への対処法」を確立するために「リーダーは反対意見を奨励する」が、それは「重要な活力源」となり、このことが「組織の基礎を固め、組織の存続を意識し、組織文化を築く」ことにつながるとしています。

 次に、「リーダーは組織内に『心の関係』をつくらなければならない。組織は結局、人の集まりだ。思いやりがあり、目的を持ち、熱意のある人が組織のなかでどうなりうるか。リーダーは彼らを正しく評価する新しい基準を示さなければならない」とし、また、「リーダーは筋道を通さなければならない。それによって企画や人間関係に理由や共通の理解が生まれる。筋道を通せば、秩序ができる。秩序のあるところでしか、人々のすぐれた面や熱意や能力は引き出せない。秩序だった環境では、信頼と人の尊厳が重んじられ、組織の目標を達成しようとする人々に自己啓発と自己実現の機会が与えられる」としています。

 「推進力」については、推進力の元になるのは、明確なビジョン、周到な戦略、そして「慎重に考えられ、従業員に伝えられた」方針や計画の3つであり、ビジョン→戦略→方針・計画という流れで実施すべきであるとしています。また、すぐれた才能を持つ人々が、適切で柔軟な研究開発プログラムを進めるかどうかで、推進力はちがってくるとしています。更に「効果」については、「リーダーは『効率性』は人にまかせてもいいが、『効果』にはみずから取り組まなければならない」としています。

 3章「参加型マネジメントで組織を変える」では、マネジメントで最も効果的なのは「参加型マネジメント」であり、それは人々の潜在能力を信じるところから始まり、理想的な関係を生み出すアプローチとして、①人を救う、②方針や業務より、自分たちの信念を優先させる、③仕事上の権利を認める、④「契約関係」と「心の関係」の役割と両者の関係を理解する、⑤「関係」は「構造」より重要であることを理解する、の5つを挙げています。

 4章「『愛着』について」では、「人の能力(コンピテンス)の中心には、愛着(インティマシ―)がある。愛着によって理解や信念が生まれ、仕事が充実したものになる。愛着は、あなたと仕事の関係を築く」としています。

 5章「投手と捕手」では、仕事とは何かという問題は、投手と捕手の関係に照らして考えるとわかりよいとし、仕事の意味、仕事上の役割から「すぐれた投手にはすぐれた捕手が必要」であるとして、その際に、双方に不可欠な、「組織にとって必要とみなされる権利」などの8つの権利を掲げています。

 6章から8章をそれぞれ要約すると、6章「遊軍リーダーを活かせ」では、そのときそのときの力を発揮できる人を活用することを説き、7章「資本主義の未来のために」では、参加型について考察をめぐらし、資本主義は排他的仕組みの中では生き残れないだろうとし、だからこそ参加型のアプローチが必要であるとし、8章「これが『偉人』だ」では、著者の父親を含め、先人らの示した様々なリーダーシップ例を挙げています。

 この内、6章「遊軍リーダーを活かせ」では、「遊軍リーダーとは、日常生活のなかで必要とされるときにその場にいる、欠くことのできない人々のことだ。彼らは日々多くの組織で、程度こそさまざまだが、主導権を握っている」とし、リーダーには、ヒエラルキー上のリーダーと遊軍リーダーの2種類があるが、「特別な状況においては、ヒエラルキー上のリーダーが遊軍リーダーを認め、サポートし、その指示にしたがわなければならない。また、潔く遊軍リーダーに主導権を譲らなければならない」としています。「遊軍リーダーシップは『問題』に焦点を当てた考え方だ。遊軍リーダーシップが発揮されるということは、ヒエラルキー上のリーダーに、問題を共有する能力(言い換えれば、他人にある状況をゆだねることができる能力)があるということにほかならない」としています。そして、遊軍リーダーシップが発揮されるには、「深い信頼と、自分たちは依存しあっているという自覚」と「規律」の2つが求められ、重要なのはある目標を達成するかどうかではなく、「個人としても集団としても、潜在能力をフルに発揮する」ことであり、「健全な心、開かれた態度、高い能力、経験に対する信頼―これらが仕事に活力を与え、人生に意味をもたらし、遊軍リーダーシップを可能にする。そして遊軍リーダーシップは、私たちが自由かつ率直な態度で協力し合うとき、潜在能力をフルに発揮するための手段となる」としています。

 9章「『語り部』の役割」には、著者がCEO、会長をつとめた会社、ハーマンミラー社の価値観が、研究主導型からスキャンロン・プランまで9つ紹介されています。本書におけるスキャンロン・プランとは、「参加型マネジメントを実現する、生産性向上を考慮した成果配分方式で、アメリカではかなりの数の企業で実施されている(中略)。スキャンロン・プランによって、従業員は創造性と創造プロセスを重視しながら、多様な才能を発揮することができる。この方式を原動力としてアイデアを生み、問題を解決し、変化と争いに対処することができる」としています。「ハーマンミラーのような集団には、個人としての多様性と、企業としての多様性がある。企業としての多様性とは、各個人が集団に役立てるために持ち寄る才能、能力、熱意のことだ。その多様性を正しい方向に導き、うまくまとめれば、集団の最大の強みとなる(中略)。多様性をまとめるプロセスとは、思いきって他人の強みに頼ることである。何かについて自分よりすぐれた人がいれば、その人に対して自分の弱みを認めればいい」としています。

10章「オーナーと従業員の理想の関係」では、オーナーシップの考え方を示し、オーナーとは有形資産だけでなく、企業の後継者への遺産に対しても責任を負うとし、ハーマンミラー社では、「オーナー」と「従業員」と「後継者」は同じものをさすことが多いとしています。

 以下、各論に入り、11章「リーダー必須のコミュニケーション術」では、「活力のある組織には、たいてい連帯感がある。相互依存、相互利益、互いへの貢献、そしてシンプルな喜びからなる連帯感だ。これが保たれ、強まるように配慮するのも、リーダーシップの『アート』のひとつだ」が、「とはいえ、連帯感を保ち強めるには「すぐれたコミュニケーションがぜったいに欠かせない」として、意味合い、効果、機能、運用ポイント、義務の5つの視点から、そのノウハウが示されています。「組織の連帯感や価値観の基本を伝えるいちばんの方法は、態度によるコミュニケーションだ」とし、「すぐれたコミュニケーションとは、相手の一人ひとりに敬意を払うことにほかならない」「すぐれたコミュニケーションは、人々が教え、学ぶための必須条件だ。成長する会社に生じるギャップを埋める方法であり、人々が連絡をとり合い、信頼を築き、助けを求め、業績を監視し、ビジョンを共有できる方法だ」「すなわち、すぐれたコミュニケーションの効果とは、相互連絡、信頼構築、サポート要請、業績モニター、ビジョン共有の5つの面で役立つことであるといえよう。 コミュニケーションの機能はふたつあり、教育機能と『解き放つ』機能である」としています。

 12章「『ピンクの氷』は危険の兆し」では企業の衰退の兆候が挙げられており、「危険の兆し」として、お祝いや儀式の時間がなくなる、従業員が、貢献、精神、美徳、美、喜びなどを大切にする価値観ではなく、ビジネス・スクールで学んだドライな基準にしたがおうとする、過去と将来に対する考えを数字で示したくなる、指標を設けたくなる、リーダーが、人でなく組織構造に頼る、などが挙げられています。

 13章「勤務評定のポイント」14章「会社の施設のあり方」15章「後継者の選び方」の各章とも、各テーマに沿って著者の、リーダーシップの観点に立った有意義なノウハウとポリシー、信条が示されています。

 16章「あなたは泣いていますか?」では、「上っ面だけの態度」をはじめワ私たちにとって「涙を流すべき」こと(会社にとっても)が18項目挙げられていて、この中には、「顧客を邪魔者と見なすこと」「態度を見ず、結果だけを見るリーダー」「決して『ありがとう』と言わないリーダー」「のびのびとベストを尽くせない仕事を押しつけられること」などといった項目もあります。

 17章「品格のしるし」では、「品格のある会社は社員に自由を与え、自己実現をさせる。同様に、品格のあるリーダーは部下に自由を与える」とし、「品格のあるリーダーはつねに完全を求める」ともして、「品格のしるし」として、「契約はさまざまな関係のなかのごく一部である。完全な関係には『心』が必要だ」「知性と教育は『事実』を教えてくれる。知恵は『事実』を教えてくれる。企業生活にはどちらも必要だ」「時間をさいているからといって、かならずしも関与していることにはならない」など8項目が示されています。

 200ページ足らずの本であり、たいへん分かり易い言葉で書かれていますが、非常に奥深い本でもあります。リーダーシップの本であるとともに、マネジメントの本でもあり、また、自らの実践に基づいて書かれた優れた啓発書であり、いかにして部下の潜在能力を最大限まで引き出し、強力な組織をつくるかを考えるうえで多くの示唆が含まれていると思われ、お薦めです。

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

《読書MEMO》
●章立て
はじめに
1章 ある親方の死
2章 リーダーシップの「アート」とは?
3章 参加型マネジメントで組織を変える
4章 「愛着」について
5章 投手と捕手
6章 遊軍リーダーを活かせ
7章 資本主義の未来のために
8章 これが「偉人」だ
9章 「語り部」の役割
10章 オーナーと従業員の理想の関係
11章 リーダー必須のコミュニケーション術
12章 「ピンクの氷」は危険の兆し
13章 勤務評定のポイント
14章 会社の施設のあり方
15章 後継者の選び方
16章 あなたは泣いていますか?
17章 品格のしるし
あとがき

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従来型のリーダーシップ論とは異なるアプローチ。リーダー個人の動機や視点に注目。

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静かなリーダーシップ (Harvard Business School Press)』['02年]『企業変革の名著を読む (日経文庫)』['16年]

 本書(原題:Leading Quietly: An Unorthodox Guide to Doing the Right Thing,2002)では、特殊な能力を持つリーダーが組織の目的を達成するために力を発揮する従来の「ヒーロー型リーダーシップ」に対して、日常生活やビジネスの意思決定を正しく行い、地道な努力と絶妙な妥協によって目的を達成する能力を「静かなリーダーシップ」とし、目を引くヒーロー型リーダーよりも、静かなリーダーが社会で果たす役割の方が大きいと主張しています。そのうえで、第1章から第8章にかけて、静かなリーダーの8つの特徴的な考え方や行動特性について述べています。

 第1章では、静かなリーダーは「現実を直視する」としています。静かなリーダーは、現実的であるとともに自分の理解を過大評価せず、計画を立てるが予想外の事態にも備え、組織内のインサイダー(事情通)に目を光らせ、人を信頼しすぎないことがないのと同じく、人を信頼しすぎることもなく、信頼してもどこかで切り札を残しておくとしています。

 第2章では、静かなリーダーの「行動はさまざまな動機に基づく」としています。複雑でさまざまな動機が静かなリーダーの成功のカギとなり、また、リーダーであり続けるためには、自分の地位を守って交渉の場にとどまり続けなければならず、そのため健全な利己主義の感覚が必要であるとしています。

 第3章では、静かなリーダーは「時間を稼ぐ」としています。静かなリーダーは、難問に直面しても、問題に突進するのではなく、何とかして時間を稼ぐ方法を考えるとのことです。なぜならば、常に変化する予想不可能な世界では、流動的で多面的な問題に対して、即座に対策を考えるのは無理であるからだとしています。

 第4章では、静かなリーダーは「賢く影響力を活用する」としています。ここでいう影響力とは、主に人の評判と仕事上の人間関係で構成され、静かなリーダーは現実主義者であるため、自分の影響力を危険さらす前に、リスクと報酬(見返り)を考えるとしています。

 第5章では、静かなリーダーは「具体的に考える」としています。つまり、複雑な問題に直面した場合、忍耐強さと粘り強さをもって、自分が何を知っているのか、何を学ぶ必要があるのか、だれからの支援が必要なのかを理解しようとするとしています。

 第6章では、静かなリーダーは「規則を曲げる」としています。静かなリーダーは、規則について真剣に考え、創造性と想像力を駆使して規則を曲げながら、規則の目的を果たす方法を探すとしています。規則をないがしろにするのではなく、規則の解釈の余地を探すということです。

 第7章では、静かなリーダーは「少しずつ徐々に行動範囲を広げる」としています。今後の展開が不明な状況下で、リーダーシップが成功するかどうかは、事態を把握できるかどうかにかかっていて、そのためには、些細なステップを適切に実行する必要があり、静かなリーダーは探りを入れながら、物事の流れ、避けるべき危険、活用できるチャンスを徐々に理解するとしています。

 第8章では、静かなリーダーは「妥協策を考える」としています。静かなリーダーにとって妥協をを考えるということは、実践的な知識を習得して実行に移すことであり、多くの場合、妥協を考えることが、目的を達成する最善の方法であるとしています。

 第9章では、これまでの振り返りとして、静かなリーダーには「三つの静かな特徴」があり、それは、自制、謙遜、粘り強さであって、ほぼだれでも静かなリーダーシップ特徴を実践できるとして、これまで述べてきたことを振り返りつつ、この三つの特徴について解説しています。

 第1章から第8章にかけて各章ごとに、「静かなリーダー」のケーススタディとなる人物が1人または2人登場し、読みやすいものとなっています。一方で、あまり体系的に本書を理解しようとすると、却って読みずらいかも。著者自身、本書の"付録"で、「本書はエッセイである。理論構築、仮設の検証、結論の証明を行っているのではない」とし、「本書はガイドラインの形で、実践的なアドバイスも提供している」としています。

 従来型のリーダーシップ論とは異なるアプローチで、リーダーシップ論に新たな視点を与えているとともに、リーダー個人の動機や視点に注目し、そこからリーダーシップ論を展開しているという点でもユニークです。従来の「ヒーロー型リーダーシップ」が組織目標の達成というトップダウンの組織に動かし方であるのに対して、静かなリーダーシップはボトムアップ型の個人の目的達成を中心とした組織の動かし方であり、解説の渡邊有貴氏も書いているように、個人を視点としたリーダーシップ指向は強まると思われます。内部昇進でミドルがトップになっていく日本には理解しやすい内容であると思います。ミドルマネジメントにお薦めですが、もちろん人事パーソンが読んでも良いと思います。

 因みに本書は、『企業変革の名著を読む』('16年/日経文庫)において紹介されていて、こちらはコンサルタントやビジネススクールの人気教員たちが企業や組織の変革をテーマにした本をそれぞれ選んで解説したものですが(オリジナルは日経電子版の「日経Bizアカデミー」及び「NIKKEI STYLE出世ナビ」に2011年から連載の「経営書を読む」のうち2014年から2016年にかけて掲載のもの)、その11人12選のラインアップのうちの1冊となっています。いずれの紹介者たちも、本の内容を紹介するにあたって、コンサルなどで経験した本の内容に呼応するような事例を複数、ケーススタディとして交えながら解説するスタイルになっていて、『静かなるリーダーシップ』の紹介者はPwCコンサルティングの森下幸典氏ですが、分かりやすい解説でした(事例に関しては、元本の『静かなるリーダーシップ』自体が事例構成になっているので、元本を読んだ方が早い?)。

 『静かなるリーダーシップ』というタイトルでもあり、個人的にはリーダーシップの本として手にしましたが、ミドルマネジメント向けに書かれていて、個人の動機などに着眼していることが特徴として挙げられながらも、最終的には組織変革が目的となっているため、「企業変革」をテーマにした本と言えなくもないです。『企業変革の名著を読む』は、日経文庫の「名著を読む」シリーズの1冊でもありますが、テーマが「企業変革」とあるのにあまり「企業変革」らしくない内容の本も納められていて、そうした中で本書は、比較的オーソドックスな選本ということになるのかもしれません。

《読書MEMO》
● 『企業変革の名著を読む』で取り上げている本
企業変革の名著を読む9_1.jpg1 ジョン・P・コッター『企業変革力』
2 ロバート・バーゲルマン『インテルの戦略』
3 ピーター・センゲほか『出現する未来』
4 サリム・イスマイルほか『シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法』
5 松下幸之助述『リーダーになる人に知っておいてほしいこと』
6 ジョセフ・L・バダラッコ『静かなリーダーシップ』
7 C・K・プラハラード『ネクスト・マーケット』
倫理の死角2.jpg8 シーナ・アイエンガー『選択の科学』
9 ナシーム・ニコラス・タレブ『ブラック・スワン』
10 マックス・ベイザーマンほか『倫理の死角
11 若桑みどり『クアトロ・ラガッツィ』
12 アレックス・ファーガソン『アレックス・ファーガソン自伝』

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リーダーシップの発揮は危険だが、やるだけの価値はあるとして、そのプロセスを説く。

最前線のリーダーシップ  .jpg 最前線のリーダーシップ―2.JPG   最前線のリーダーシップ sin.jpg ロナルド・A・ハイフェッツ.jpg
最前線のリーダーシップ』['07年]『[新訳]最前線のリーダーシップ―何が生死を分けるのか』['18年]ロナルド・A・ハイフェッツ in NHK白熱教室シリーズ「ハーバードリーダーシップ白熱教室」(全6回)(2016)
ハーバードリーダーシップ白熱教室2.jpgハーバードリーダーシップ白熱教室.jpg 本書は、ハーバード・ケネディスクールの教授らによるものであり(著者の一人ロナルド・ハイフェッツ教授は「NHK白熱教室〕シリーズ「ハーバードリーダーシップ白熱教室」(2016)で知られている)、原著("Leadership on the Line: Staying Alive Through the Dangers of Leading")刊行は2002年です(2017年に改版された)。人はいかにしてリーダーシップ行動を起こすことができるか、また、リーダーシップ行動に伴う危機をどう乗り越えるのか、その方法や技術について説いた本ですが、本書では、そもそも、リーダーシップを発揮するということは、危険な生き方をするということであるというところから始まります。つまり、真のリーダーは、未解決の問題を表面化させ、長きにわたる慣習に挑戦し、人々に新しいやり方を要求せねばならず、脅威にさらされた人々は、変化を要求する人間に狙いを定め、その結果リーダーは、個人的にも職業的にも傷つくことになるのだと。しかし、周囲の人々の生活をよりよくし、人々にとって価値のある「将来の可能性」を提供できるがゆえに、リーダーシップはリスクに見合う価値があるというのが著者らの考えです。

ロナルド・ハイフェッツ3.jpg 第1部「リーダーシップには危険がいっぱい」では、なぜリーダーシップがそれほど危険なのか、どのようにしてリーダーシップを発揮した人々が表舞台から排除されるかについて取り上げています。
 第1章「危険の本質とは」では、リーダーシップを発揮することの危険は、リーダーシップを必要とする問題の本質に由来し、適応を必要とする問題に取り組むことは、人々の習慣、考え方、価値基準の変化を迫ることになるため、抵抗を招くのだとしています。
 第2章「迫りくる4つのリスク」では、組織や社会が示す抵抗の4つの形として、リーダーシップには「脇に追いやられる」「注意をそらされる」「個人攻撃される」「誘惑される」という4つのリスクがあるとしています。

ロナルド・ハイフェッツ5.jpg 第2部「リーダーシップを発揮しながら生き延びる5つの方法」では、排除されるリスクを減らすためにどのような行動をとるべきかについて取り上げています。
 第3章「全体像をつかむ―方法1」では、「ダンスフロアから1歩出てバルコニー席に上がる」という表現を用いて、まず起きていることの全体像を知るべきであるとし、①技術的な問題か、適応が必要な問題かをみきわめる、②人々の立ち位置を知る、③言葉の奥に潜む歌に耳を傾ける、④権威者の行動を読む、の4つを説いています。
 第4章「政治的に考える―方法2」では、政治的に考えることの重要性を説き、そのうえでの6つの基本的な視点として、①パートナーを見つける、②反対派を遠ざけない、③自分が問題の一部であったことを認める、④喪失を認識する、⑤自らモデルになる、⑥犠牲を受け入れる、を挙げています。
 第5章「衝突を指揮する―方法3」では、破壊的側面を最小化し、建設的なエネルギーを確保するための方法として、①適応を促す環境を確保する、②熱気を調整する、③ペースをつくる、④将来像を見せる、の4つを挙げています。
 第6章「当事者に作業を投げ返す―方法4」では、作業を自分の方から下ろしてあるべき場所に戻すべきあるとする一方、リーダーシップを発揮する際には必ず介入が必要になるが、その介入には、①観察する、②問いを投げかける、③見解を示す、④行動に移す、の4種類があるとして、介入し、結果を評価し、介入を修正し、再評価し、再び介入するという、リーダーシップの継続的な行動において、自分の行動がどう受け取られたか、それに対する反応に常に耳を傾ける必要があるとしています。
 第7章「攻撃を受けても踏みとどまる―方法5」では、攻撃を受けても踏みとどまるには、①ほかのどのような懸念事項が問題にかかわる人を忙しくしてしまっているか、②その問題を取り上げることで、どのくらい深く人々が影響を受けるか、③人々は取り上げられる問題をどの程度深く学ぶ必要があるか、④権威ある立場の人は、その問題についてどのような意見を持っているか、の4つの問いかけをせよとしています。

ロナルド・ハイフェッツ4.jpg 第3部「リーダーシップの原点、心を見つめる」では、人々がどのようにして自ら墓穴を掘るような行動をとってしまうのかについて論じ、これらの状況を見きわめて行動に移る方法に加え、リーダーシップに課されるストレスに持ちこたえるための個人的な挑戦について、考え方と実践の両面から対処法を提示しています。
 第8章「渇望をコントロールする」では、渇望(欲望)に屈しないためにためにはどうすればよいか、渇望を抑制するにはどうすればよいかを説いています。
 第9章「自分自身をつなぎ止める」では、役割と自己を区別し、自由と強さを得るための方法として、相談役を協力者と区別して確保すること、肉体的にも精神的にも安心できる聖域を探すことなどを説いています。
 第10章「原動力を把握する」では、リーダーシップを発揮することは、人々の人生に貢献することによって、自分の人生に意味を与える方法の1つであり、最も良いのは、リーダーシップが愛情を原動力とした行動であるときであるとしています。
 第11章「神聖な心を保つ」では、自己防衛的な姿勢は、無邪気さを皮肉に、好奇心を傲慢に、哀れみを冷淡に変えてしまうが、神聖な心とは、人間のあらゆる活動に対して包容力を持ち続けることであり、無邪気さ、好奇心、哀れみは開かれた心の美徳なのであるとしています。

 リーダーシップを発揮する際のプロセス全体を俯瞰するとともに、反対派のさまざまな行動に対して戦略的に対処して、人々が課題と向き合って自らを変えていくための環境をつくりこんでいくという、リーダーシップの本質的な作業を的確に捉えた本であると言えます。啓発的であると同時に実践的であり、本書に示されているリーダーシップのプロセスを押さえておくことは、我々が実際にリーダーシップを発揮する際に役に立つものと思われ、本書の姉妹書とも言えるハイフェッツ教授らの新著『最難関のリーダーシップ―変革をやり遂げる意志とスキル』('17年/英治出版)と併せお薦めできる本です。

《読書MEMO》
●英治出版 公式Twitterより(2018年10月5日)
紀伊國屋書店 梅田本店さんでは、最新刊『[新訳]最前線のリーダーシップ』を新刊話題書棚やリーダーシップ棚など多面で展開くださっています!!
時代を超えて絶大な支持を集めるリーダーシップ論の金字塔!
最前線のリーダーシップ  kinokuniya.jpg

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パワハラについて分かりやすくまとまっている。職場の上司には読み(読ませ)やすい本。

パワーハラスメント 〈第2版〉.jpg岡田 康子.jpg 岡田 康子 氏 パワーハラスメント イメージ.jpg image
パワーハラスメント〈第2版〉 (日経文庫)

 本書は、コンサルティング会社の代表で、「パワーハラスメント」という言葉を生み出し、厚生労働省・パワハラ防止対策検討会の委員も務めた著者によるもので、2011年に刊行された第1版を、厚生労働省の報告書や最近の裁判例など、直近の状況を踏まえて全体的に見直し改定した第2版です。

 第1章では、近年パワハラ相談は急増し、労災認定されて会社の責任が認められるケースも多くなっていることをデータで示しています。背景には、パワハラという言葉が普及したことで、何でもパワハラにする部下もでてきたりしたこともあり、一方で裁判例を見ると、加害者だけでなく企業にも責任が問われるケースも増えており、パワハラは今や社会問題化しているとしています。

 第2章では。パワハラとはそもそも何か、厚生労働省・パワハラ防止対策検討会の討議などを経て定められた定義を改めて詳しく説明するとともに、実際に職場でのどのような言動がパワハラとされているのか、自社の調査結果をもとに分析しています。著者は、パワハラは、特別の人が起こす特別な問題ではなく、仕事熱心な上司が結果的にパワハラをしてしまうことが多いとして、指導がパワハラへとエスカレートするステップを示すとともに、パワハラが起きる心理的メカニズムから、そうした行動を変えるヒントを探っています。また、パワハラが起きやすい職場として、閉鎖的な職場、忙しすぎる(暇すぎる)職場、マネジメントが徹底されていない職場を挙げています。

 第3章では、セクシュアルハラスメント、モラルハラスメント、マタニティハラスメント、ジェンダーハラスメントなど、職場で起きるさまざまなハラスメントを整理しています。そして、これらのうち、モラルハラスメントはパワハラと同じ意味であるとしています。また、これらの職場で起きるハラスメントに見られる共通点として、①NOと言えない力関係がある、②侮辱された感覚をともなう、③だれもが被害者にも加害者にもなる、④エスカレートする、⑤言語と非言語で行われる、といった特徴があるとしています。

 第4章では、パワハラと指導の違いはどこにあるのかを、判例をもとに創作したケースや新聞報道などから、11のケースについて考察しています。著者は、各ケースに共通する部分を見ていくと、裁判においてパワハラかどうかを判断する決め手としては、「加害者の行動が、客観的に見て指導の範囲を逸脱しているかどうか」が最も重視されているとしています。

 第5章では、パワハラ問題への対象法を考察しています。まず、必ず対処すべきレベルのパワハラ問題(レベル1:犯罪行為にあたる、レベル2:労働法にからむ問題がある、レベル3:社員がメンタル不全になる)と、会社や部門によって対応が異なるレベル(レベル4:排除―嫌悪や怒りを部下にぶつけてしまう、レベル5:過大要求、レベル6:誘発―部下側の問題から誘発されるパワハラ)に分け、それぞれについての対処法を示すとともに、常識のない部下をどう指導するかを説いています。

 最終章である第6章では、パワハラにならないコミュニケーション術について考察しています。ここでは、効果的なコミュニケーション法について書かれていて、メールやLINEなどで叱責を伴う指導をしないこと、部下への指示が「業務上必要なのか」を常に問うことを説き、どのような言葉で伝えたらいいのかを解説しています。さらに、言葉以外のメッセージも重要であることなどを説いています。

 「やってはいけない行為を列挙するようなパワハラ防止対策」には限界があるとし、また、上司と部下の関係もが変わってきており、「叱る」ということが有効かどうかも検討してみる必要があるとしているのが、個人的には印象に残りました。

職場のハラスメント 中公新書.jpg 以前に『職場のハラスメント』(2018/02 中公新書)を読みましたが、そこでは「パワハラ」という言葉の問題点(コンサルタンタントの造語が普及し、厚生労働省がそれに便乗するような形で意味づけしたため、世界基準である「ハラスメント」とは別の日本独自の概念になってしまっているということ)を指摘し、「ハラスメント」という包括的な概念を用いることを提案していました。その「パワハラ」という言葉を生み出したのが本書の著者である岡田康子氏です。

 ただし、本書においては、第3章の「モラルハラスメント」の説明の所で、著者らは、モラルハラスメントという概念を提唱したフランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌと2004年に会談し、パワハラとモラハラは、職場に限定して考えると、ほとんど同じことを言っていると合意したとのこと。この辺りは、学者と実務者の違いもあるかもしれません。

 『職場のハラスメント』も本書も啓発書としてはオーソドックスであり、またハラスメントの事例も豊富で、類型整理などもよくまとまっている点では同じですが、『職場のハラスメント』の方が"教養系"の色合いがやや濃いように思われたのに対し、こちらはより実践的で、かつ分かり易く書かれていて、職場の上司である人が手に取って読み易いものとなっています。もちろん人事パーソンも一読しておいて損はないかと思います。

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ビル・ジョージ)

企業の持続的成長に求められる本物のリーダーシップについての実証的考察。

ミッション・リーダーシップ1.JPG82011793.jpg  ビル・ジョージ.jpg Bill George
ミッション・リーダーシップ―企業の持続的成長を図る』(2004/08 生産性出版)

 先端医療テクノロジー企業メドトロニック社のCEO及び会長を務め、何度もベスト経営者賞を受賞した著者による本書(原題:Authentic Leadership: Rediscovering the Secrets to Creating Lasting Value)は、自分流のリーダー像を各自がどう模索すべきかを実証的に説いた啓蒙書であり、著者は経営者時代にいち早くCSRを重視し、利益追求のみならず、企業組織が暴走せずに倫理を順守できる体制づくりに奔走するなど企業が持続的に成長するための組織づくりを啓発してきた人物です。

 序章では、エンロンやワールドコムなどの企業不祥事や、M&Aを中心とした安易な企業買収、事業売却やリストラなどの背景にある最近のリーダーシップの危機がいかに発生してきたかについての見解を述べ、この危機の解決には新しい法律ではなく、新しいリーダーシップが要請されているという考えを示しています。

 第Ⅰ部は、本物のリーダーの特性を記述し、変革を求める経験を通じていかにリーダーが自己を成長させるかを示し、加えて彼らが仕事と私生活をバランスさせていかに本物の人生を送っているかを明らかにしています。

 第1章では、リーダーシップはスタイルではなく、本物を目指すことから生まれるとし、第2章では、リーダーに成長するには自己をどう高めるかを説き、第3章では、バランスの取れた生活がすぐれたリーダーを生むとしている。

 第Ⅱ部では、これらの経営リーダーがいかに本物の企業を築くのかを検討しています。ここでは、ミッション重視の企業は、財務的利益を追求する企業に比べて、長期的に見てより大きな株主価値を創造するという考え方を述べています。また、なぜ、価値重視の企業が卓越した業績を上げる企業になり得るのか、さらに自社の人材をエンパワーすることに努める企業がなぜすぐれた顧客サービスを提供する企業になるのかについても解明しています。加えて第Ⅱ部では、偉大な組織を築くのは、カリスマ性の高いCEOではなく、偉大な経営チームやそのほかのチームであることを実証しています。第Ⅱ部の最後の章でも、本物の企業がいかにすべてのステークスホルダーに卓越した成果をもたらすかについて言及しています。

 第4章では、ミッションは人材をモチベートするが、お金はモチベーとしないとし、第5章では、価値観はうそをつかないとしている。第6章では、カスタマーが最も重要であるとし、第7章では、すぐれたチームが企業を生むのであってCEOだけの貢献ではないとし、第8章では、本物の企業がいかにステークスホルダーに成果をもたらすかを説いている。

 第Ⅲ部では、本物の企業がいかに市場で競争力を発揮するのかを検証しています。まず成功を収めてきた企業が成長を止める7つの落とし穴を検討しています。それに続く各章では、各企業がそのミッションを実現するために何をなすべきかを探り、さらに企業がぶつかる倫理上のジレンマ(葛藤)とその解決法を明らかにし、加えて数多くのブレークスルーに値する革新を生むプロセスを検証しています、第Ⅲ部の結論を述べる数章では、企業買収や合併はお金のためではなく、組織を築くために行われるべきことを提案し、さらにさまざまなステークスホルダーの各グループから出されるさまざまなニーズに応えるチャレンジを紹介しています。

 第9章では、成長に伴う7つの落とし穴を挙げ、第10章では、さまざまな障害を乗り越えるにはどうすればよいか、第11章では、倫理上のジレンマをどう克服するか、第12章では、心のこもったイノベーションとは何かを述べている。続く第13章では、企業買収はお金のためだけのものではないとし、第14章では、株主は、カスタマー、社員に次ぐ第三順位であるとしている。

 第Ⅳ部では、「利益」を超えて存在する諸問題を取り上げています。つまりガバナンスとマネジメントとの間に見いだせる大きな差異を解明しています。また、経営リーダーはいかなるときに自らの課題を公けの場に持ち出すべきかを検討し、さらに経営者をいかに育て、新しい挑戦に挑み続けるかを検討しています。

 第15章では、企業ガバナンスにための制度を作ることを、第16章では、自社の立場を明確に主張することの重要性を説き、第17章では、後継者を準備し、さらに前進することを説いている。

 序章でも述べられているように、現在、CSRやコンプライアンスが注目されたきっかけはエンロンやワールドコムなどの企業不祥事であり、M&Aを中心とした安易な企業買収やリストラによる一時的な利益の増加を通した株主価値市場主義に基づく短期的利益志向そのものでした。本書は、そうしたことが日常化していた企業の状況に一石を投じ、企業のミッションを追求することが事業の成長やイノベーションを生むとし、そのことをメドトロニック社において実証的に示したものあり、企業においてミッションやビジョンとは単なるお題目ではなく、まず最初に考えるべきものであるとしています。

 成長への7つの大罪を避けるための、成長の維持に貢献する「規律を守るリーダーシップ」を示した著者は、たとえ成長が鈍ったときも、リーダーはコスト削減に走る誘惑に勝ちながら成長への意欲を新たにし、そのためのあらゆる手を考えるべきであるとしています。本書で提案されるさまざまなアイデアは、新しいリーダーたちが本物のリーダーシップを発揮し、本物の企業を築くことに意欲を燃やす面で大いに貢献するものと思われます。

【2790】○ グローバルタスクフォース 『トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊』 (2009/11 東洋経済新報社)


《読書MEMO》
●7つの大罪―成長に伴う落とし穴
1.明確なミッションを持たずに進む
2.コア・コンピタンスを過少評価する
3.単一の製品ラインに頼り過ぎる
4.技術とマーケットの変化を見落とす
5.企業文化を変えずに戦略を変える
6.自社のコア・コンピテンシーから逸脱する
7.成長のために企業買収に依存する

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ロジャー・マーティン)

組織に蔓延する「無責任ウイルス」への4つの対処ツールを示す。実践的・啓発的な本。

頑張りすぎる人が会社をダメにする .jpg頑張りすぎる人が会社をダメにする 2.jpg  ロジャー・マーティン.jpg Roger L. Martin
「頑張りすぎる人」が会社をダメにする―部下を無責任にしてしまう上司の法則』(2003/12 日本経済新聞社)
「頑張りすぎる人」が会社をダメにする0.JPG 原題は"Responsibility Virus(無責任ウイルス)"。責任感の強いリーダーが必死で働けば働くほど、同僚や部下がやる気を失い、職場の人間関係が壊れ、組織全体の業績が悪化していくのはなぜかという疑問を、この「無責任ウイルス」という比喩を用いて分析したものであり、職場に「無責任ウイルス」がどのように蔓延していくかを実例を用いて解き明かすとともに、その予防と治療のためのマネジメント・ツールを示しています。

 第1部「無責任ウイルスとは何か」では、雑誌の業績を好転させる名人で華々しいキャリアを持つリーダーの、部下の責任を引き受けていった末の業績悪化と失脚、IDA(国際開発機関)に勤めるエリートの、開発途上国担当者に対する熱心なアプローチが生む相互不信と挫折など3つの事例を紹介し、これらを通して、頑張り過ぎた上司の下に頑張らない部下が生まれるのは、上司の「失敗への恐れ」が部下への「支配価値」を生むためであり、また上司・部下トータルの責任量は変わらないとする「責任量保存の法則」を提示しています。

 第2部「無責任ウイルスの症状」でも、自信と能力にあふれた弁護士の、事務所の浮沈を背負い込むあまりの組織不和と変革の失敗などの強い責任感で周囲を引っ張るリーダーとその組織が、それゆえに挫折し、衰退していった例など3つの事例を紹介し、これらを通して、①協働の死滅、②不信と誤解の発生、③選択決定スキルの低下という、「無責任ウイルスの症状」を示しています。

 第3部「無責任ウイルスへの4つの処方箋」では、「無責任ウイルスの症状」に陥りながらもそれを克服した、著者自身の経験も含めた4つの事例を紹介し、それらを通して、①意思決定プロセス、②枠組み実験、③責任のハシゴ、④リーダーシップとフォロワーシップの再定義という4つのマネジメント・ツールを示しています。第一のツールである「意思決定プロセス」とは、グループのメンバーが、ヒーロー型リーダーシップや言いなりのフォロワーシップに反射的に飛びこむのではなく、生産的な協議を促すためのものであり、グループの力を上手に利用して、より生き生きした強固な決定を下して実行し、一人では到達できない成果をあげるためのものであるとのことです。第二のツールである「枠組み実験」とあh、責任過剰や無責任にはまり込んで不信感や誤解を抱いているものが、問題になっている相手との関係や協働能力の改善を助けるためのものであるとしています。第三のツールである「責任のハシゴ」とは、部下が上司とともに責任をとる能力を構築し、上司が責任過剰になるのを防ぐ能力開発型のツールであるとのことです。第四のツールである「リーダーシップとフォロワーシップの再定義」は、リーダーとフォロワーが責任過剰/責任過少という極端な状態に陥るのを防ぐツールであるとしています。

 第4部「無責任ウイルスをやっつけろ」では、ここでも事例を紹介しつつ、過少責任からいかにして脱出するか、責任過剰からいかにして脱出するかを説くとともに、プロフェッショナルが抱える「何でも仕切りたがる」という危険に陥らないために先に挙げた4つのツールをどう使うか、また、CEOと役員会の関係においてCEOが同様の危機に陥らないために先に挙げた4つのツールをどう使うかを示し、更には、日常生活において、妻と夫、親と子、友人や同僚との間で生じる無責任ウイルスから来るさまざまな問題も、4つのツールを使うことで解決できるとして、その例を示しています。

 最後に「結び」として、これまで述べてきたことを総括し、失敗への恐れが失敗を生むこと、支配価値の存在とそのマイナス面を思い起こすことなどを説き、「負けずに勝つ」ことにばかりこだわるのではなく「十分な知識に基づく選択」をし、「困惑の回避」に走るのではなく「オープンな基準による検証」を行い、「理性の保持」にばかり気をとられるのではなく「真の自分らしさ」に沿った行動をとるといった、新しい支配価値を身につければ、自ずと能力の最先端で、つまり強みや優位性の上で生きることになり、個人の集まりである組織が、新しい支配価値に従って生き、再定義されたリーダーシップモデルに取り組み、責任についてより高度の対話を維持することによって、着実に能力を伸ばすことができる競争を、確実に「求める」ようになるとしています。

 全体を通して事例を通じて解説されており、実践的(プラクティカル)な内容ですが、同時に啓発的であり、また、概念的(コンセプチュアル)でもある本であり、その点は邦訳タイトルから受ける印象とは少し違いました(著者の近著の邦訳タイトルは『インテグレーティブ・シンキング』('09年/日本経済新聞出版社))。書かれていることに相当する職場でのイメージを思い浮かべながら読まないと、今読んだ内容がすっとどこかへ流れていってしまうかも。

 一方が過剰に責任をとろうとすると、別の方は責任を過少にとってバランスを保とうとするという「責任量保存の法則」という観点は面白いと思いました(但し、本書は単なる「エンパワーメント」に対しては否定的である)。肝は、無責任ウイルスに対処するための4つのマネジメント・ツールを示した第3部でしょうか。やや高度に概念的な部分もあり、応用は少し難しいかもしれませんが、習得できれば役立つと思われ、多くの人にとって読む価値はあるのではないかと思います。

《読書MEMO》
●目次
まえがき
序 もう英雄はいらない?
第1部 無責任ウイルスとは何か
 1 頑張りすぎた上司と頑張らない部下
 2 「失敗への怖れ」と「支配価値」の役割
 3 責任量保存の法則
第2部 無責任ウイルスの症状
 4 協働の死滅
 5 不信と誤解の発生
 6 選択決定スキルの低下
第3部 無責任ウイルスへの4つの処方箋
 7 [ツール1]選択決定プロセス
 8 [ツール2]枠組み実験
 9 [ツール3]責任のハシゴ
 10 [ツール4]リーダーシップとフォロワーシップの再定義
第4部 無責任ウイルスをやっつけろ
 11 責任過少からの脱出法
 12 責任過剰からの脱出法
 13 プロフェッショナルが抱える危険性
 14 役員会の危機
 15 日常生活と無責任ウイルス
結び 新しいリーダーシップへの道
訳者あとがき

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グリッド理論による人間のタイプ分けと対処法。理想の管理者像を示したリーダーシップ論。

BlakeMoutonPhoto.png期待される管理者像9.JPG期待される管理者像.jpg
期待される管理者像―新・グリッド理論』 ロバート・R・ブレーク/ジェーン・S・ムートン

 マネジリアル・グリッド論(Managerial grid model)とは、リーダーシップ行動論の1つで、1964年にロバート・R・ブレーク(Robert.R.Blake,1918-2004)とジェーン・S・ムートン(Jane.S.Mouton,1930-1987)によって提唱されたものです。エクソン社でコンサルタント業務を担当し、人間の行動について調べたブレークらは、管理の理論化手法、特にリーダーシップと動機づけに関して、現実との大きな開きがあると結論づけています。当時もてはやされていたモチベーション理論は、ダグラス・マグレガーのⅩ理論・Y理論でしたが、ブレークらは多くの社員の行動やモチベーションが、ⅩとYの中間にあり、Ⅹ理論・Y理論は、組織行動の全体像の一部にすぎないとして、「業績に関する関心」「人間に関する関心」「モチベーションに関する関心」の3本の軸を用いたモデルこそが現実をより正確に表すと結論づけています。

Leadership Dilemmas- Grid Solutions.jpg ブレークとムートンは、1964年発表の"The Managerial Grid"(『期待される管理者像』('65年/産業能率短期大学))に続いて、1978年に"New Managerial Grid"(『新・期待される管理者像』('79年/産業能率大学出版部))、1985年に"The Managerial Grid Ⅲ"(本邦未訳)を上梓していますが、本書はさらに1987年のムートン女史の急逝(享年58)後に改訂された1991年版("Leadership Dilemmas- Grid Solutions")の翻訳になります。

"Leadership Dilemmas- Grid Solutions: a visionary new look at a classic tool for defining and attaining leadership and management excellence (Blake/Mouton Grid Management and Organization Development Series)"(1991)
5つのグリッド・スタイル(リーダーシップ・スタイル)
マネジリアル・グリッド論.gif グリッド理論とは、リーダーシップの行動スタイルについて、「業績に対する関心」と「人間に対する関心」という2軸に注目し、横軸に「業績に対する関心」、縦軸に「人間に関する関心」をとり、それぞれにどの程度関心を持っているか、それぞれの軸を9段階に分け、ここにできる計81の格子(グリッド)をマネジメント・グリッドと称し、典型的な5つのリーダーシップ類型(9・1型、1・9型、1・1型、5・5型、9・9型)に分類したものでした。

 そして、この改訂版では、これまで強調されてきた5つのグリッド・スタイル(リーダーシップ・スタイル)に、さらにこれまでのタイプを複合した「温情主義(9+9型)」と「日和見主義」の2つが加えられ、7つのグリッド・スタイルが浮き彫りにされています。

 第1章では、リーダーシップを構成する6つのエレメント(葛藤処理・イニシャティブ・探究心・意思表示・意思決定・クリティーク)について解説しています。

 第2章では、横軸に「業績に対する関心」、縦軸に「人間に関する関心」をとり、業績と人間に関する関心がリーダーシップのスタイルを決めるとするグリッド理論によるリーダーシップの7つの分類が紹介されています。
 ・「9・1型」...「権威服従型」
 ・「1・9型」...「カントリー・クラブ型」
 ・「温情主義(9+9型)」
 ・「1・1型」...「無関心型」
 ・「5・5型」...「中道型」
 ・「日和見主義」
 ・「9・9型」...「チームマネジメント型」
 さらに、リーダーと同様に部下のタイプも、このグリッドに沿って7つに分類されるとしています。
 ・「9・1型」...「こわもて型」
 ・「1・9型」...「ご機嫌とり型」
 ・「温情主義(9+9型)」...「高級参謀型」
 ・「1・1型」...「無関心型」
 ・「5・5型」...「堅実型」
 ・「日和見主義」...「抜けがけ型」
 ・「9・9型」...「問題解決型」

 第3章以降、これら7つのリーダーシップの各スタイルの特徴を述べ、リーダーシップを構成する6つのエレメントはそれぞれどう表れるか、また、上司に対する部下の反応は部下のそれぞれのタイプごとにどうなるかを述べています。

 第3章では「9・1型」について、このタイプは「権威服従型」とも言われ、この型のマネジャーは業績を重視し、権限とコントロールシステムを強化するが、人間的要素を顧みない、とにかく「強い者が勝ち!」というタイプであるとしています。

 第4章では「1・9型」について、このタイプは「カントリー・クラブ型」とも言われ、この型のマネジャーは人間関係に十分気を配るが、業績に対する関心は低く、「楽しくやろう」というタイプであるとしています。

 第5章では「温情主義(9+9型)」について、このタイプのマネジメントでは、忠誠と服従の代償として厚遇が与えられるが、従わない者は罰せられる、「俺は偉いのだ!」というタイプであるしています。

 第6章では「1・1型」について、このタイプは「無関心型」とも言われ、組織の一員としての身分を保つために、仕事をやり遂げるための最低限の努力しかせず、人間に対しても業績に対しても関心が薄い、「触らぬ神に祟りなし」というタイプであるとしています。

 第7章では「5・5型」について、このタイプは「中道型」とも言われ、コツコツと平凡な仕事に精を出す組織人で、業績達成と人々の気持ちへの配慮をバランスよく保てば組織はうまく機能し、自らの帰属欲求も充足される、「これだけやれば十分だ...」というタイプであるとしています。

 第8章では「日和見主義」について、このタイプは、自分の利益追求のためにあらゆるグリッド・スタイルを使い分けるタイプで、とにかく「自分の得になることがあるか」を最優先するタイプであるとしています。

 ここまで(第3章から第8章)は、業績にあまり貢献しない6つのリーダーシップ・スタイルについての説明でしたが、第9章では、本書が理想のリーダーシップ・スタイルとする「9・9型」について解説しています。このタイプは「チームマネジメント型」とも言われ、仕事に打ち込んだ人によって成果を上げてもらうタイプで、組織目的という共通の利害関係を通じてお互いに依存し合うことによって、信頼と尊敬による人間関係を樹立する、「一人は全員のために、全員は一人のために」というタイプであるとしています。第10章では、「9・9型」のリーダーシップを発揮するための実務的な着眼点や具体的なやり方について述べています。

 第11章では、「あなたも9・9型のマネジャーになれる」として、9・9型のリーダーシップを身につけるためにはどうすればよいかを説いています。第12章では、チームワークを改善するにはどうすればよいかを説き、第13章では、グリッド方式が組織開発にどう応用できるかを、最終第14章では、組織開発にどのような効用があるのかを説いています。

 リーダーシップおよび組織開発の名著とされる本ですが、7つのリーダーシップ・スタイルにそれぞれ対応する7人のメンバーから成る組織を舞台としたストーリー仕立ての解説になっているため、読み易く(しかも翻訳ではその7人が日本人の名になっている!))、一度は目を通しておきたい本。ほぼ同じ時期に三隅二不二が提唱した「PM理論」と似ているところもありますが、発表されてから何度か時代に対応して改訂されているところが米国らしいと言えるかもしれません。但し、この「全改訂」版で"古典"として確立した印象もあり、入手できる内に読んでおきたいものです。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

《読書MEMO》
●内容説明(表紙カバー 折り返し)
本書は、いろいろな面で進展を遂げてきたグリッド理論を、時代に対応して集大成・再構築した最新版の完訳である。特に、変革しつつある現代のマネジメントを踏まえたリーダーシップのあり方を、従来の五つのグリッド・スタイルに新たに二つを追加、動機づけ要因の分析、クリティークとスタイル改善への着眼点の掘り下げを行いつつ、追究する。21世紀に向けて、理想の管理者像を明示した究極のリーダーシップ論。
●目次
第1章 人的資源を活かす鍵―リーダーシップ
第2章 グリッド理論によるリーダーシップの分類
第3章 9・1型―強い者が勝ち!
第4章 1・9型―楽しくやろう
第5章 温情主義(9+9型)―俺は偉いのだ!
第6章 1・1型―触らぬ神に崇りなし
第7章 5・5型―これだけやれば十分だ
第8章 日和見主義―自分の得になることがあるか
第9章 9・9型―一人は全員のために、全員は一人のために
第10章 9・9型の実務適用の着眼点と具体的やり方
第11章 あなたも9・9型のマネジャーになれる
第12章 チームワークの改善法
第13章 グリッド方式による組織開発
第14章 組織開発の効用と将来の展望

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提唱者自身による「状況対応型リーダーシップ」入門書。
1分間リーダーシップ8.JPG1分間リーダーシップ 旧.jpg  1分間リーダーシップ 新.jpg
1分間リーダーシップ―能力とヤル気に即した4つの実践指導法』['85年]『新1分間リーダーシップ』['15年]

SL理論ード.png 1985年に発表された本書は、リーダーシップのあり方を4類型にまとめ、それぞれ相手の状況、担当する事業の経験等、習熟段階に合わせて適切に使い分けると良いとする「状況対応型リーダーシップ」を提唱したものとして知られています。本の記述スタイルとしては、ある起業家が、熟練したマネジャー(1分間マネジャー)に助言を求めにいくという、「1分間シリーズ」の他の本と同じ物語風のスタイルとなっています。

 第1章「ある企業化の来訪」では、〈1分間マネジャー〉は、成功するためには「より懸命(ハード)に働くな。より賢明(スマート)に働け」と言い、「違った相手には違った触れ方(ストローク)を」するように助言しています。

 第2章「部下は〈1分間マネジャー〉をどう見ているか」では、〈1分間マネジャー〉の3人の部下が登場し、それぞれが〈1分間マネジャー〉との間で仕事上どのような管理スタイルになっているのかを話し、そこから〈1分間マネジャー〉が部下によってリーダーシップ・スタイルを使い分けていることが窺えるようになっています。

 第3章「リーダーシップ・スタイルを使い分ける」では、状況対応型リーダーになるには、
  ①リーダーシップ・スタイルを柔軟に使い分ける「柔軟性」、
  ②部下たちの要求(ニーズ)を診断する「診断力」、
  ③部下たちと何らかの合意を取り付ける方法を知る「取り決め」の3つのスキルが必要であるとしています。

situational-leadership-model.jpg そのうえで、
  ①指示型(リーダーは具体的な指示命令を与え、仕事の達成をきめ細かく監督する)、
  ②コーチ型 (リーダーは引き続き指示命令を与え、仕事の達成をきめ細かく監督するが、決定されたことも説明し、提案を出させ、前進できるように援助する)、
  ③援助型(リーダーは仕事の達成に向かって部下の努力を促し、援助し、意思決定に関する責任を部下と分かち合う)、
  ④委任型(リーダーは意思決定と問題解決の責任を部下に任せる)
の4つの基本的なリーダーシップ・スタイルを示し、「平等でないものを平等に扱うことほど不平等なことはない」としています。

 第4章「部下を診断する」では、部下の発達の段階を診断して、
  D1: <低>適正能力 x 高いやる気
  D2: <中>適正能力 x 低いやる気
  D3 : <高>適正能力 x まちまちなやる気
  D4: <高>適正能力 x 高いやる気
の4つの段階に分類し、
  D1の人はやる気はあるがやり方が分からないので、指示型を用い、始動をかけてあげる(S1:指示型)
  D2の人は能力はついてきているが、やる気が低いので、指示とともに援助・称賛・意思決定への参画による意欲向上をはかる(S2:コーチ型)
  D3の人は能力は高水準なため指示は少なくても良くなるが、自分自身に対する動機づけが弱い分、援助により自身と意欲を向上させる(S3:援助型)
  D4の人はすでに独り立ちして行動が出来るため、業務を委任する(S4:委任型)
という具合に、部下の発達の段階に応じたリーダーシップ・スタイルの使い分けをすると良いとしています、

 第5章「〈1分間マネジャー〉と状況対応型リーダーシップ」では、部下の適性能力とやる気を伸ばすには、部下への観察を通じて指示型・コーチ型から援助型・委任型にリーダーシップ・スタイルからを変えていくべきであるとしています。

 第6章「部下と取り決めをする」では、「状況対応型リーダーシップとは、部下に対して何をするかではない。部下といっしょに何をするかである」とし、また、目標設定に際して、
  S:Specific(具体的な)
  M:Measurable(測定可能な)
  A:Attainable(達成可能)
  R:Relevant(適切な関連がある)
  T:Trackable(追跡可能)
以上のSMART(スマート)になるようにすると良いとしています。

 終章である第7章「状況対応型マネジャーになる」では、「知りすぎて使わざるは、なお知らざるがごとし」とし、状況対応型リーダーシップを実際に使い、役立てることが大切であるとしています。

 本書で提唱されている「状況対応型リーダーシップ」は、人事パーソンにとって、とりわけリーダーシップ研修などを実施するに際しては、基本知識の部類に属するものと思われます。部下の目標を決め、目標に対する現在の部下の発達度から、リーダーシップのスタイルを使い分けるべきである、というのが本書の趣旨であり、マネジャーがリーダーシップを効果的に発揮するうえで実際に参考になると思われます。

 個人的には、先行の『1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか!』 ('83年/ダイヤモンド社)で言っていた、部下マネジメントにおいて大切なのは、「目標設定、褒めること、叱ること」であるというのに比べれば、こちらの方がずっと研修や実務で使える洗練された理論のように思います。

 本書は、30年余りの時を経て『新1分間リーダーシップ―どんな部下にも通用する4つの方法』('15年/ダイヤモンド社)として改定されており、状況対応型リーダーに必要な3つのスキルが「柔軟性・診断力・取り決め」から「目標設定・診断・マッチング」に変わったり、SMARTの「M」が'Measurable'から'Motivating'に変更になったりしていますが、4種類のリーダーシップ・スタイルや、それぞれの部下の発達段階との対応関係など、基本的・中核的な部分では大きく変わっていません。「状況対応型リーダーシップ」を理解する上で、旧版・新版のどちらを読んでも差し支えないのではないかと思われます。本書の場合は、理論の提唱者によって書かれている本であること自体に意義があると思います。

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「●光文社新書」の インデックッスへ

「働き方改革」は組織風土改革。自社における「意識・制度」両輪での働きかけを紹介。

残業の9割はいらない2.JPG残業の9割はいらない.jpg
残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方 (光文社新書)

 ヤフー上級執行役員として数々の人事施策を提唱してきた著者が、「企業が勝つため」「社員が幸せになるため」の働き方改革論を述べた本です。

 第1章では、ヤフーが導入した「週休3日制(選べる勤務制度)」を例に、働き方改革の本質や目的について述べています。著者は、この「週休3日制」という制度の裏側には「成果主義の徹底」というコンセプトがあり、「時間にとらわれずに自由な働き方をしてください。だけど会社はあなたの成果をもとに評価しますよ」というのが、ヤフーの進めようとしている働き方改革にほかならないとしています。つまり、働き方改革と成果主義は表裏一体であるということです。また、ヤフーは、「企業が成長しなくてはならないのは、企業の幸せと社員の幸せのため」とし、働く社員が幸せになれない企業が長期的に成長するのは難しいとしています。

 第2章では、週休3日制のほかに、テレワーク、1on1ミーティング、新幹線通勤、サバティカル制度など、ヤフーが採り入れている制度と、そのバックにある考え方を紹介しています。また、こうした制度の成否のカギを握るのは、職場の上司など、現場の人事力であるとしています。

 第3章では、働き型改革を進めていくうえでの諸課題に目を向け、働き方改革がうまくいかないとしたら、その原因の一つは成果主義の不徹底にあるのではないかとしています。部下を成果ではなく貢献で評価していないか、そもそも部下の「成果」とは何かを理解しているか、「あいつは頑張っている」は評価に値するか、未読メールがなくなると達成感をおぼえるか、チームワークは大切か、といったさまざまな問いかけをしつつ、頑張れば報われるという日本の文化や過剰なおもてなしの精神、同質的チームワークが重視され、その中で
キャリア自律できていないビジネスパーソン、といった日本の企業社会に特徴的な現象と、その背後にあるものを読み解いています。

 第4章では、働き方改革を成功に導くための条件は現場の人事力を磨くことであるとし、企業経営者はもっと人事に関心を持つことが大事であるとしています。人事担当者に向けては、人事制度の抜本的な改革が必要であり、そのために必要なものはデータとファクトであり、ヤフーでは、「データによる経営判断」の反対語が「権威主義」であると。また、人事こそ働き方改革をすべきだとし、更に、マネジャー層に向けては、自らのミッションを知り、「プレイングマネジャー化」することで逃げてはならないとしています。

 終章では、30年後の未来を予測し、そのころ日本の社会や企業はどのように変化し、人々はどのように働いているかを予測して、人生100年時代の生き方を展望しています。

 以上、第1章、第2章で、ヤフーの週休3日制を例に、その背後にある考え方を紹介し、働き方改革のあるべき方向を示しつつ、ヤフーが採り入れているそのほかの制度についても紹介しながら、同様に解説しています。さらに、第3章で、働き方改革を進めていくうえで、現在の日本の企業や社会が抱える課題を文化論的な視点も交えながら読み解き、第4章では、日本のビジネスパーソンのこれからの働き方、生き方までも考察するというように、単に自社の制度の紹介に止まらず、大局的見地に立った啓発書になっています。

 文中で紹介されている人事関連の書籍なども、人事における"定番"から近年の"トレンド"を代表するものまで押さえていて、人事の現在とこれからを考えるうえで参考になります。「働き方改革」関連の本が少なからず刊行されている昨今ですが、人事制度改革の重要性、人事の重要性をここまで明確に説いた本は少ないのではないでしょうか。働き方改革を進めるうえで、人事パーソンにマインドセットを促す本、励ましを与え、覚悟を促す本であると思います。

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成功し続ける企業が重視しているソフトエッジ(信頼、知性、チーム、テイスト、ストーリー)。

グレートカンパニー.jpg The Soft Edge.jpg 
グレートカンパニー――優れた経営者が数字よりも大切にしている5つの条件』(2015/09 ダイヤモンド社)"The Soft Edge: Where Great Companies Find Lasting Success"

ソフトエッジ グレートカンパニー.png 「フォーブス」誌の発行人でコラムニストでもあり、これまでに数多くの経営者に取材し、自らもアントレプレナーとして成功している著者による本書(原題:The Soft Edge―Where Great Companies Find Lasting Success、2014)は、成功し続ける企業(「グレートカンパニー」)に共通する原則とは何かを観察を通して探り、「優れた経営者が数字よりも大切にしている5つの条件」を紹介しています。

 第1章では、企業の持続的競争優位を導く「三角形」として、戦略的基盤、ハードエッジ、ソフトエッジの3つを挙げ、戦略のない企業が淘汰されるのはもちろんであるが、現代の経営者は、インフラやシステムを整備、活用しスピードや効率を重視した経営を目指すあまりハードエッジ(スピード、コスト、サプライチェーン、流通、資本効率)を重視しがちであり、一方、ソフトエッジ(信頼、知性、チーム、テイスト、ストーリー)はその真価が最も認められていない側面であるとしています。

 第2章では、企業がハードエッジに多くの予算を割く理由を、経営学の発展の歴史を辿ることで探り、ハードエッジの優位性は永遠には続かず、成長し続ける優れた組織は、ハードエッジとソフトエッジの両方で卓越しているとし、本書のテーマであるソフトエッジにも留意を払うべきであり、むしろ、このソフトエッジの重要性がより一層高まっているとしています。つまり、ソフトエッジを構成する信頼、知性、チーム、テイスト、ストーリーの5つの要素こそ「グレートカンパニー」が持つ成長し続ける条件であるとし、以下、第3章から第7章にかけて、ソフトエッジの5要素について章ごとに解説しています。

 第3章では「信頼」について解説しています。社外の人(顧客、サプライヤー、株主)との信頼関係の構築が大切なのはもちろんであるが、優れた会社は社内の人(従業員)との信頼関係の構築をより重視し、それにより社員は働きがいを得て目標達成のための努力し、またイノベーションを生むのも信頼という基盤があってのこととしています。

 第4章では「知性」について解説しています。ビジネスにおける「知性」とはIQの高さではなく、粘り強さや気概のことであり、やり遂げる力こそが「知性」であるとしています。さらに、「知性豊か(スマート)」なリーダーは、業界を問わず革新的な考えを持つ人からどんどん学ぼうとし、スマートな企業は、してしまったミスとその経験から学んだことについて話すよう、従業員に求めるとしています。

 第5章では「チーム」について解説しています。ここでは、大企業においてさえも、多様な10人前後の少人数チームが最もパフォーマンスが高いこと、メンバーの思考スタイルなども含めた多様性が、チームが全力を出すことを促進すること、チームリーダーがメンバーに大きな期待というプレゼントを与えるべきであること、などを挙げています。

 第6章では「テイスト」について解説しています。テイストとは、その企業が生む出す製品やサービスの味わいであり、それはデザインを超える美学であって、人々を幸せな気持ちにし、驚きや喜びを与えるとしています。つまり、デザインや機能だけでは持続的な優位性は築けず、顧客との特別なつながりをもたらす意味が必要となるが、テイストはこれら三大要素を統合したものであるとしています。

 第7章では「ストーリー」について解説しています。グレートカンパニーには心に響くストーリーがあり、ストーリーは人の心に訴えかけるのに最適の手段であって、従業員を一致団結させ、強力なリーダーシップ・ツールにもなるなど、ビジネスに関して行うあらゆることに影響を及ぼすとし、ストーリーテリングの6つコツを紹介しています。

 最後に結論として、データと感性の融合が最強のチームをつくるとしています。経営幹部レベルの人間関係が壊れている会社が、ソフトエッジへの投資をおろそかにしてきたことは間違いなく、ソフトエッジを大切にする会社には「対話」があり、それを支えているのが信頼、知性、チーム、テイスト、ストーリーの5つの要素であるとしています。

 ソフトエッジの5要素は、日本企業がこれまで大切にしてきたものと重なる部分も多いように思われます。著者は、テクノロジーや競争のレベルが上がるにつれ、この5つの要素がさらに重要になってくるとしています。本書にある多くの示唆の中には、日本企業の復活に繋がるヒントになる部分もあるように思われ、一読をお薦めします。

《読書MEMO》
●ストーリーテリングの6つコツ(第7章)
(1)シンプルにする
 多ければ多いほどよいと、たいていの人が思い違いをしている。視覚に訴えるものがあればあるほど、目立てば目立つほど、華やかであればあるほどよい、と。実際には、シンプルであることが、どんなものを生み出すプロセスにとってもカギになる。/小説家であれ画家であれデザイナーであれ、みなオッカムの剃刀で不要なものを削ぎ落としながらイノベーションを図る。そしてシンプルであればあるほど解決策はよりよいものになる。
(2)聴き手についてよく知る
 優れたストーリーの語り手はみな、聴き手がどういう人かをしっかり判断することができる。/「分析好きな人たちに向かって話すなら」とナンシー・デュアルテは言った。「感情に訴えるのを控えて信頼を保つ必要がある。逆に、感動しやすい人たちに向かって話す場合は、分析的な話し方にならないようにする必要がある」。読者のみなさんにしても、ロッカールームでするような話を、よもや会議室ではしないだろう。
(3)ネガティブな要素を強調しない
 ストーリーを語るときは、未来を推測するのは避けよう。むろん、大変なことは起きるかもしれない。今より状況が悪くなる場合もあるだろう。それは間違いないかもしれないが、メッセージは穏やかに伝えよう。不誠実になれとか率直な対話をすべきでないなどと言っているのではない。/誠実であるべきだし、また率直であるべきだ。ただ、欺瞞だとか人の心を操ろうとしているとしてさっさと退けられてしまうような、過激な予想はしないこと。
(4)偽りのない話に聞こえるようにする
 ストーリーを語るうえで、本当らしさは常に重要だ。リアリズムを加えることで言いたいのは、細かい点を詳細に述べると、場面を設定し、読者や聴き手を新しい場所へいざないやすくなるということだ。/しかし、詳細を話して共感を誘えばそれでいいわけではない。製品や事業の背景、つまりそれらが生まれた由来も語る必要があるのだ。アップルの元チーフ・エバンジェリストで『人を魅了する』(海と月社)を著したガイ・カワサキは、社史を語るときは「始まりの物語」を加えることを勧めている。
(5)苦難や失敗を正直に語る
 ストーリーを語って自分をさらけ出すことは、人々を魅了し、その心をつかむ強力な手段になる。成功までの道のりがそれほど簡単ではないことを、聴き手はよく知っている。そのため、ストーリーを語って自分をさらけ出すことは、人々を魅了し、その心をつかむ強力な手段になるのである。
(6)一に練習、二に練習、三、四がなくて五に練習
 ストーリーをうまく語る人は、みな練習を重ねている。それも、少しではなく、大変な量を積む。/スティーブ・ジョブズの伝説的なスピーチ力について私が尋ねると、ネスト・ラボのトニー・ファデルはこう答えた。「伝説的? まさか。マックワールドでプレゼンをするまでに、スティーブは五〇〇〇回も練習したんだ」/ほとんどの人は、最初に一〇回、二〇回あるいは三〇回話しても、下手だったものが並みのレベルになるくらいだろう。しかし、自分が自信と情熱を持っているテーマについて話すなら、TEDトークで証明されているとおり、誰もがとてもうまく語れるようになる─初めのちっともうまくできない間もめげずに努力を続けるならば。

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CEO向けだが、管理職・リーダー、人事パーソンにとっても啓発される箇所の多い本。

HARD THINGS.jpgHARD THINGS2.jpg HARD THINGS60_.jpg ベン・ホロウィッツ.jpg
HARD THINGS』(2015/04 日経BP社) べン・ホロウィッツ

 本書は、起業家、CEOを経て、シリコンバレーの最強ベンチャーキャピタルリストとして知られるようになった著者が、これまで自らが直面した困難(HARD THINGS)を語るとともに、それらを切り抜けてきた経験から得られた教訓をまとめた本です。イントロダクションで著者は、経営の自己啓発書は対処法を教えるところに問題があるとし、「ハード・シングス」に決まった対処法はないが、共通したパターンはあるとしています。

 第1章から第3章までは、著者が、起業したIT企業を成長させ、ピンチを切り抜けて会社を売却するまでの経験が述べられています。具体的には、世界初のウェブブラウザ「モザイク」を開発したマーク・アンドリーセンと共に1999年にラウドクラウド社を設立し、世界初のクラウド・コンピューティングのサービス企業として急成長を遂げますが、2000年にITバブルが破裂し、資金調達が困難になった絶望的な状況に陥り、クラウドサービス事業を売却、データセンターの管理ソフトを提供する新会社オプスウェア社として生まれ変わらせ、最終的には16億ドル超(1700億円超)で売却することに成功するまでの間、社員のレイオフや事業の売却など、幾度となく苦渋の決断を迫られてきた経緯が書かれています。そして、以下、第4章から第8章で、ラウドクラウドからオプスウェアまでの8年の道のりで得られたCEOとしての教訓を語っています。
 
 第4章では、物事がうまくいかなくなるときどうするかについて、「ひとりで背負い込んではいけない」など、つらいときに役に立つかもしれない知識を披歴しています。また、CEOは、会社の問題をありのまま伝えることが重要であるとし、隠さない方が良い理由を挙げています。更には、人を正しく解雇(レイオフ)する方法を6つステップで示し(この中では、最後の、逃げ隠れせず「みんなの前にいる」というのが印象的だった)、また、幹部を解雇する際に踏むべき4つのステップを示しています。

 第5章では、人、製品、利益の順番で大事にすることを説いています。人を大切にするのは「自分の会社を働きやすい場所にする」ためであり、そうできなければ「製品」と「利益」は意味を持たないとしています。また、会社は全員が同じ考えを持ち、全員が常に改善していればうまく回っていくとして、そのためには教育プログラムの実施が重要となるとしています。更には、大企業の幹部が小さな会社で活躍できない理由を指摘し、無残な失敗を防ぐにはどうすればよいかを説いています。

 第6章では、会社が成長し人が増えると正しい方針も変化するため、事業を継続するには、社内政治を最小限に抑え、採用や昇進に常に注意を払うべきであるとしています。また、優秀なはずの人材が最悪の社員になるのはどのような場合か、個人面談で役に立つ質問とはどのようなものかなどを例示し、自分自身の企業文化を構築するにはどうすればよいか、会社を急速に拡大させるにはどうすればよいかを説き、一方で、成長への過剰な期待の誤りも説いています。

 第7章では、CEOとして最も困難なスキルは、自分の心理をコントロールすることであるとしています。また、CEOに必要とされる唯一の資質はリーダーシップであり、「ビジョンをいきいきと描写できる能力」「正しい野心」「ビジョンを現実化する能力」の3つの資質が重要であるとしています。更に、自身をCEOとして鍛えるうえで、社員にフィードバックを与えることの重要性を説いています。

 第8章では、困難な問題を解決する法則はないことを改めて強調しながらも、だだし、CEOが困難な決断をしなければならない時に備えて、倫理面、感情面も含めどのような準備をしておくことが役に立つかを説いています。

 最後の第9章では、「苦闘を愛せ」「自分の独特の性格を愛せ。生い立ちを愛せ。直感を愛せ。成功の鍵はそこにしかない」とし、困難に立ち向かう人々に「幸多かれ、夢の実現あれ」という言葉を贈って本書を締め括っています。

 内容的には起業家やCEO向けに書かれた問題解決法が主であり、スタイル的にもCEO向けに書かれていますが、マネジメントに悩む人に共通するテーマも多く扱われていて、経験に基づいた説得力のあるアドバイスの数々は、一般の管理職やリーダーにとって参考になる部分も多いように思います(実際、ベンチャー経営者向けの本と思われているフシもある一方で、「ビジネス書大賞2016」と「ベスト経営書1位」の2冠を達成しているということは、広く読まれたということでもあるだろう)。取り上げられている諸問題の中には人事マネジメントに関するテーマも少なからずあり、と言うより半分以上は人事関係なので、人事パーソンにとっても啓発される箇所の多い本、大いに示唆に富む本ということになるかと思います。

【2794】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『プロがすすめるベストセラー経営書』 (2018/06 日経文庫)

《読書MEMO》
●目次
第1章 妻のフェリシア、パートナーのマーク・アンドリーセンと出会う
第2章 生き残ってやる
第3章 直感を信じる
第4章 物事がうまくいかなくなるとき
第5章 人、製品、利益を大切にする―この順番で
第6章 事業継続に必須な要素
第7章 やるべきことに全力で集中する
第8章 起業家のための第一法則
第9章 わが人生の始まりの終わり
●つらいときに役に立つかもしれない知識(98p)
・ひとりで背負い込んではいけない。
・単純なゲームではない。(苦闘は戦略が必要なチェスだ。)
・長く戦っていれば、運をつかめるかもしれない。
・被害者意識を持つな。
・良い手がないときに最善の手を打つ。
●人を正しく解雇する方法(106p)
・ステップ1 自分の頭をしっかりさせる
・ステップ2 実行を先送りしない
・ステップ3 レイオフの理由を自分の中で明確にしておく
・ステップ4 管理職を訓練する
・ステップ5 全員に説明する
・ステップ6 みんなの前にいる
●幹部を解雇する準備(112p)
・ステップ1 根本原因分析
・ステップ2 取締役会に報告する
・ステップ3 解雇通告の準備
・ステップ4 社内コミュニケーションの準備
●なぜ部下を教育するのか(154p)
1.生産性
2.業績管理
3.製品品質
4.社員をつなぎとめる
●「もっとも頭のいい人間が最悪の社員になる」3つの例(232p)
例1.異端者(1 無力感。2 性格が本質的に反乱者。3 未成熟で衝動的。
例2.信頼性のなさ
例3.根性曲がり

「●マネジメント」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1881】 ジム・コリンズ/モートン・ハンセン 『ビジョナリー・カンパニー4
○経営思想家トップ50 ランクイン(ヴィニート・ナイアー)

HCLテクノロジーズが歩んだ「従業員第一、顧客第二」への旅の4段階を説く。

社員を大切にする会社0.JPG社員を大切にする会社 1.jpg社員を大切にする会社 2.jpg ヴィニート・ナイアー Vineet Nayar.jpg
社員を大切にする会社 ―― 5万人と歩んだ企業変革のストーリー』(2012/02 英治出版)ヴィニート・ナイアー

 インドに本社を置く大手グローバルIT企業HCLテクノロジーズ(HCLT)の総帥として、「従業員第一主義―EFCS (Employees First, Customers Second)」を経営理念として掲げ、5年間で同社を目覚ましい転換へと導いたヴィニート・ナイアー(Vineet Nayar,2005年、HCLT社長に就任。2007年、同社CEOに就任)による本です(原題"Employees First, Customers Second: Turning Conventional Management Upside Down",2010)。本書では、HCLTが歩んだ「従業員第一、顧客第二」への旅の4段階について、
 ・鏡よ鏡―変革の必要性を見出す
 ・透明性による信頼―変革の文化を生み出す
 ・組織のピラミッドを逆さまにする―変革の構造を築く
 ・CEOの役割を変える―変革の権限を委譲する
の順に述べています。

 第1章「鏡よ鏡―変革の必要性を見出す」では、第一段階の変革の必要性を見出すステップとして、鏡に映る自分たちの姿を見て、自分の気にいらないものを探したといいます。HTCLは、成長はしているが、他のITベンダーの成長と比較すると成長が小さいという微妙なポジショニングの中で、あえて自分たちは後続集団にいるという現実と向き合うという決断をしたとのことです。そして、「鏡よ鏡」というエクスサイズを繰り返し、見つかった問題がいくつかあったといいます。その中で、これからは、イノベーションは「何を提供するか」と「どのように提供するか」の両方がうまく機能しなくてはできなければならず、そのような視点で現状を見ると、「バリューゾーンにもっとも近い従業員を会社が支えていないことに問題がある」ことに気づき、会社全体がバリューゾーン(顧客に価値を提供している人たち)に仕えることが必要であるとの考えから、「従業員第一、顧客第二」というコンセプトができたとのことです。

 第2章「透明性による信頼―変革の文化を生み出す」では、変革の必要性が生まれても、「変化したい」という意志と実際に「変化する」という行為との間にはしばしば大きなギャップがあり、このギャップの理由の一つは、経営者と従業員の間における信頼の欠如であり、信頼の文化を築く必要があったとしています。HCLTでは、組織構造が従業員の足枷になり、才能の発揮を妨げていて、この状況を解決するためには、信頼の文化が必要であり、そのためには透明性を高めることが必要だったとしています。そのために、各利害関係者が企業のビジョンを知り、自分の貢献が具体的にどれだけ組織の目標達成に役立ったかを理解できるようにするとともに、各利害関係者が企業の目的に対し、個人的で深い責任感を持てるようにしたといいます。また、組織の外部から要員を投入し、特定のプロジェクトや任務を担当させ、これらの外部要員がすぐにスピードを上げて、できるだけ効率よくプロジェクトに着手できる唯一の方法は、企業が情報を隠さず、プロジェクトが抱える長所、短所、問題点、懸念などを完全に透明化することであり、それが信頼に繋がるとし、このために、CEOのオフィスを開放するなど、様々な方策を講じたとしています。

 第3章「組織のピラミッドを逆さまにする―変革の構造を築く」では、変革への必要性を理解し、信頼の文化を生み出し、従業員が前向きな変化に向けて行動を起こしても、組織風土の欠陥が最善の結果が生まれるのを妨げていることがあり、HCLTの問題は「バリューゾーンにもっとも近い従業員を会社が支えていないこと」であって、この問題を解決するために、HCLTは逆ピラミッド型の組織を構築したとのことです。単にサーバント・リーダーシップにとどまらず、アカウンタビリティを逆転させたが、その仕組みを実現しているが、先に述べた徹底的な透明化であり、なかでも、効果的だったのがスマートデスクサービスである。スマートデスクサービスは、顧客用に構築された問題管理システムをバックオフィスと従業員の間の社内的な懸案事項に対応しようというものであり、従業員に何か問題が生じたり、情報が必要になれば、従業員は対応を求めて、担当部署にチケットを発行し、チケットにはデッドラインが示されていて、誰もが閲覧でき、解決したかどうかの判断は発行者にしかできないというものであるとのことです。

 第4章「CEOの役割を変える―変革の権限を委譲する」では、最後のステップはCEOの役割を変えることだったとし、まずは、変革の権限をリーダーに委譲すること、そのために、バリューゾーンの近くにいるリーダーに質問を投げかけ、彼らに解決を委ね、それによって、自己管理、自己統制が可能な企業に生まれ変わることができるとしています。そこでは従業員自身が経営者であるように感じながら、仕事に情熱を燃やし、絶えず変革とイノベーションに力を注ぐようになるとしています。「社員に責任と権限を与え、社員の英知や情熱の邪魔をしないこと」が経営者の仕事であるということです。

 最後の第5章「誤解から理解する―変革のサイクルを繰り返す」では、「従業員第一、顧客第二」に関する、「困難な時期においては通用しない」「景気のいい時には必要ない」「顧客には価値がわからない」「実行には大規模な戦略が必要になる」「企業の業績が上がるわけではない」という5つの誤解に対して反論しています。そして、ここまで「従業員第一、顧客第二」の旅を通して、鏡の中をのぞくこと、透明性を通して信頼を築くこと、ピラミッドを逆さまにすること、変革の権限を全員に委譲すること、という4つの段階を通過してきたわけだが、「従業員第一、顧客第二」とは、ひと連なりの活動のサイクルとして捉えるべきであって、何度も繰り返されるべき旅であるとしています。最後に自らの経験から、「人は自分のしていることに情熱と責任を感じるとき、会社を変革できるだけでなく、自分自身をも変革できる」としています。

 就任4年で売上3倍、利益3倍、顧客5倍、離職率半減...と大企業を見事に再生させた経営者がその歩みを自らが語った回想記ですが、自慢話などではなく、組織風土改革のテキストとして読めるかっちりした内容で、多くの企業にとって普遍性のある示唆に富んでいるように思います。外資系企業では、サウスウェスト航空、スターバックスが「従業員第一、顧客第二」を掲げ、日本でもケーズデンキが「従業員第一、顧客第二」を掲げています。こうした企業がちらほら見られるにしても、まだまだ「顧客第一主義」を謳っている企業の方が圧倒的に多いかと思います。やはり、どこか「従業員第一、顧客第二」というものに対する誤解や疑念があるのかもしれません。そうした自らの誤解や疑念を解く上で一読の価値がある、啓発度の高い本であると言えます。


《読書MEMO》
●目次
イントロダクション
第1章 鏡よ鏡―変革の必要性を見出す
第2章 透明性による信頼―変革の文化を生み出す
第3章 組織のピラミッドを逆さまにする―変革の構造を築く
第4章 CEOの役割を変える―変革の権限を委譲する
第5章 誤解から理解する―変革のサイクルを繰り返す

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ロバート・S・キャプラン/デビッド・P・ノートン)

バランスト・スコアカードに関する知識を得たいと考えている人には必読の書。

キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード1.JPGキャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード.jpg  ロバート・キャプラン/デビッド・ノートン.jpg Robert Kaplan & David Norton
キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード』['01年]

バランス・スコアカード 1997.jpgバランス・スコアカード―戦略経営への変革.jpg 著者であるロバート・S・キャプラン(Robert Kaplan、ハーバード・ビジネススクール教授)、 デビッド・P・ノートン(David Norton、コンサルタント会社社長)が、企業を財務、顧客、内部ビジネス・プロセス、学習と成長という4つの視点から評価していくバランスト・スコアカードを1992年に発表したのは、それまでの企業の業績評価が財務諸表(損益計算書、貸借対照表など)に偏っていたのではないかとの反省に基づくものであり、このバランスト・スコアカードの理論と事例を纏めたものが"Balanced Scorecard: Translating Strategy into Action《1996》"(吉川武男:訳『バランス・スコアカード』('97年/生産性出版))でした(2011年に同訳者による新訳版が刊行された)。
バランス・スコアカード―新しい経営指標による企業変革』['97年]『バランス・スコアカード―戦略経営への変革』['11年]

The Strategy-Focused Organization.jpg その当時のバランスト・スコアカードの目的は、業績測定問題を解決することにありましたが、しかし、実際の導入例においては、業績の測定よりも更に重要な戦略の実行を目的として導入されており、つまり、戦略と行動のギャップを埋め、具体的な活動に繋げていくためのフレームワークとして、戦略と行動の関連付けを明確にし、その上で、効果測定に活用することで導入企業は、1、2年の間に大きく業績を向上させていました。

 本書(原題:The Strategy-Focused Organization: How Balanced Scorecard Companies Thrive in the New Business Environment《2000》)では、そうした導入事例を踏まえて、企業がバランスト・スコアカードを通して重要なマインド・プロセスを戦略に方向づけ、戦略を実行し、業績向上に役立たせるための理論的で包括的なアプローチを提供しています。

"The Strategy-Focused Organization: How Balanced Scorecard Companies Thrive in the New Business Environment"

 まず第1章で、戦略実行のためのバランスト・スコアカードの導入事例を挙げ、バランスト・スコアカードによって戦略志向の組織体となるための原則として、①戦略を現場の言葉に置き換える、②組織全体を戦略に向けて方向づける、③戦略を全社員の日々の業務に落とし込む、④戦略を継続的なプロセスにする、⑤エグゼクティブのリーダーシップを通じて変革を促す、の5つを挙げています。そして、第2章で、第1章で紹介した事例の中からモービルの事例について、更にこの5つの原則に沿って詳しく紹介しています。

 以下、第1部(第3章~第5章)で「戦略を現場の言葉に置き換える」、第2部(第6章~第7章)で「シナジー効果を創造するために組織体を方向づける」、第3部(第8章~第10章)で「戦略を全社員の日々の業務に落とし込む」、第4部(第11章~第12章)で「エグゼクティブのリーダーシップを通じて変革を促す」について、第5部(第13章~第14章)で「エグゼクティブのリーダーシップを通じて変革を促す」についてそれぞれ解説しています。

第3章 戦略マップの構築「戦略の因果関係を定義づける」(109p)
図 1 BSCの4つの視点の関係(水平構造).gif 第1部「戦略を現場の言葉に置き換える」の第3章では、戦略マップをどのように構築するか、第4章では、営利企業における戦略マップの構築、第5章では、非営利組織、政府、ヘルスケア機関における戦略マップの構築について、それぞれ、ナショナル・バンク・オンライやシャーロット市、デューク小児科医院などの事例を挙げながら解説しています。

 第2部「シナジー効果を創造するために組織体を方向づける」の第6章では、ビジネス・ユニットのシナジー創造について、第7章では、シェアードサービスを通じてのシナジー創造について、それぞれFMC社、モービルNAM&Rなどの事例を挙げながら解説しています。

 第3部「戦略を全社員の日々の業務に落とし込む」の第8章では、戦略意識の高揚を図るにはどうすればよいか、第9章では、個人レベルとチーム・レベルの目標をどう定義づけるか、第10章では、バランスト・スコアカードに基づく報酬制度はどうあるべきかを、それぞれ、ノバ・スコシア電力会社などの事例を挙げながら解説しています。

 第4部「戦略を継続的なプロセスにすること」の第11章では、計画設定と予算管理について、第12章では、フィードバックと学習のさせ方について、ABBスイスなどの事例を挙げながら解説しています。

 第5部「エグゼクティブのリーダーシップを通じて変革を促す」の第13章では、リーダーシップと活性化について、第14章では、失敗を回避するための留意点について解説しています。

 改めて要約すると、バランスト・スコアカードを単に業績評価の新たなツールとしてではなく、企業のビジョン・戦略に沿って各階層の意識や方向性の具体化を図るために、このバランスト・スコアカードを戦略に組み込み、戦略をマネジメントするツールとして、戦略の実効性を支援する機能を果たさせることが重要であるとし、その考え方や手法を説いているのが本書です。前著が理論書であったのに対し、本書は実務書であると言え、事例や文献を豊富に提供しているのが特徴で、これから実際にバランスト・スコアカードを導入する企業やそれを支援するコンサルタント、バランスト・スコアカードに関する知識を得たいと考えている人事パーソンには必読の書と言えます。

【2201】 ○ グローバルタスクフォース 『あらすじで読む 世界のビジネス名著』 (2004/07 総合法令)
【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)


《読書MEMO》
●個人レベルのバランスト・スコアカードは、
①全社目標と業績測定尺度
②全社目標を特定の目標に落とし込むための箇所
③個人やチームが自分達たちの目標とそれを達成するためのステップ
という3つのレベルの情報が入れられる(第3部・第9章、310p)

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2798】 ○ ジョージ・コーリーザー/他 『セキュアベース・リーダーシップ

ファシリテーター型リーダーシップを提唱、その発揮ノウハウを噛み砕いて解説。

なぜ、あのリーダーはチームを本気にさせるのか?.jpgなぜ、あのリーダーはチームを本気にさせるのか?――内なる力を引き出す「ファシリーダーシップ」 (DOBOOKS)』(2018/06 同文舘出版)

 組織コンサルタントによる本書は、従来の「トップダウン型」のリーダーシップから、メンバーやチームの力を引き出す「ファシリテーター型」のリーダーシップへの転換を提唱しています。そして、ファシリテーター型リーダーシップの発揮には、人の部位になぞらえると、「耳:聴く、目:観る、口:問う/語る、手:手と手をつなぐ、足:踏み込む、頭:考える」の6つの機能の実践が伴うとして、この6機能の実践から成る新たなリーダーシップ・スタイルを、「ファシリーダーシップ」と名づけ、以下、6機能を章ごとに解説しています。

 1章では、耳:聴く(Listen)ということについて述べています。ここでは、リーダーは、メンバーに力を与え相互作用を生み出すために、話す前に「聴く」ことが必要であるとし、「聴く」力を高めるための7つの秘訣や、カウンセラーマインドなどリーダーが知っておくべき実践心理学の知識、「聴き合い、響き合う」ための場づくりの手法としての「1on1ミーティング」「リーダーズインテグレーション」「プラウド&ソーリー」などを紹介しています。

 2章では、目:観る(Insight)ということについて述べています。ここでは、リーダーとメンバーではもともと異なる視界を有しており、それを一致させるのがリーダーの役割であるとし、また、チェスター・バーナードの定義したグループとチームを分かつ組織成立の3要素(共通の目的・協同意志・コミュニケーション)を紹介しています。さらに、個人や組織の持つバイアス(偏見)にどのようなものがあるか、グループシンク(集団浅慮)を回避する「悪魔の代弁者」と呼ばれる手法や、ピーター・センゲが言うところメンタルモデルを見直す「5P」の観点、ジェームズ・C・コリンズ等が言うところの「企業衰退の5段階のシグナル」、エドワード・デノボの「6色の帽子思考法」などを解説し、著者自身の経験を基に、組織を見極めるための16の危険シグナルを紹介しています。

 3章では、口:問う(Inquire)/語る(Tell)ということについて述べています。ここでは、4つの問いかけ法(調査/提案/探求/共創)と4つの陥りがちな罠(詰問/命令/べき/執着)、対話・議論・会話の違いと対話が拓くプレゼンシングまでの4つのレベル、聞き手が奮い立つパワフルなストーリー語りの「5つのメソッド」、職場で実践できる「問う、語る」ための対話の場づくりの手法としての「他己紹介インタビュー」や「ポジションチェンジ・ダイアログ」などの手法を紹介しています。

 4章では、手:つなぐ(Connect)ということについて述べています。ここでは、リーダーに必要なシステムを活かす力として、物事をつながりで捉える力(「因果」で捉える、「循環」で捉える、「クリティカルパス」で捉える)、「抵抗勢力」とつながる力(イレブン>サポーター>フーリガン>野次馬)を紹介し、さらに、ジョン・ゴットマンが言うところの「心理的安全性」のために関係性悪化の4つの危険要因(①避難、②侮辱、③自己弁護、④逃避)を解毒する方法や、ミハイ・チクセントミハイが提唱したフロー理論を紹介し、キース・ソーヤーが提唱した、チームで力がみなぎるフロー状態「グループ・フロー」が起こりやすい10の条件を紹介、さらには、職場で集合知を生み出すための手法として、「TEA TIME/BAR TIME」などを紹介しています。

 5章では、足:踏み込む(Step into)ということについて述べています。ここでは、部下のやる気に火を灯す「ダメ出しフィードバック」とその黄金則「薪+FIRE」、承認力を高める「ポジティブフィードバック・ピラミッドモデル」、「承認」「改善」「表彰」のための場づくりの手法として、興味と思いやりある承認風土を創る「おかくれさん」、健全なダメを出し、改善活動につなげる「きらいなことボード」などを紹介しています。

 6章では、考える(Think)ということについて述べています。ここでは、「考える」ことを阻む5つの大きな壁~「経験」「前提」「抽象」「選択肢」「文脈」を紹介し、マインドフルネス瞑想で物事の本質を捉えることを勧めています。また、直感やひらめきを起こすための5つのステップや、潜在意識にアクセスするビジュアリゼーションという手法、衆知を集め、創造的に考える会議の場をつくっていくコツなどを紹介しています。

 以上のように、「ファシリーダーシップ」という考えを軸に、網羅的にリーダーシップ発揮のノウハウを解説しており、その密度は濃いように思いました。リーダーにとっての教科書となる本ですが、実践にまで落とし込んでおり、ファシリテーションに関わる人には役立つ知識や手法がぎっしりという感じ。書かれていることを一度に全部実践できるわけではないとは思いますが、知っておけばいつか使える時があるかもしれません。テキスト的な内容でありながらも分かりやすく噛み砕いて解説されており、さらに、合間に20の「小咄」が挿入されていて、例えばワンパターンから抜け出す「あいづち」を九九で81個並べて紹介したりしており、肩肘張らず楽しみながら読めて役に立つ本と言えます。

《読書MEMO》
●内容紹介
はじめに
・耳:聴く(Listen)メンバーに力を与え、相互作用を生み出すために、話す前に聴く
・目:観る(Insight) さまざま次元、角度、距離感で観ることで、行き詰まりを突破する
・口:問う/語る(Inquire/Tell)問いかけ、ストーリーを語り理屈を超え感情を揺さぶる
・手:手と手をつなぐ(Connect)境界線を越えたつながりの土壌を耕し組織を進化させる
・足:踏み込む(Step into)踏み込んだフィードバックで、本音が行き交う組織を作る
・頭:考える(Think)過去の成功体験を健全に疑い、今ここに立ち止まり、考え抜く
1章 耳:聴く(Listen)
・ 「聴く」力を高める7つの秘訣
・ 承認が与えられないと無自覚に展開される「心理ゲーム」
・ 「リーダーズインテグレーション」でチームを統合しよう!
・ 「プラウド&ソーリー」で真実の声に耳を傾けよう!  ほか
2章 目:観る(Insight)
・ グループとチームを分かつ組織成立の3要件
・ グループシンクを回避する「悪魔の代弁者」
・ メンタルモデルを見直す「5P」の観点
・ 16の危険シグナルであなたの組織を見極めよう!  ほか
3章 口:問う(Inquire)/語る(Tell)
・ 4つの問いかけ法(調査/提案/探求/共創)と陥りがちな罠(詰問/命令/べき/執着)
・ 対話、議論、会話の違いと 対話が拓くプレゼンシングまでの4つのレベル
・ 聞き手が奮い立つ、パワフルなストーリー語りの「5つのメソッド」
・ 「ポジションチェンジ・ダイアログ」で立場を超えた納得解を作ろう!  ほか
4章 手:つなぐ(Connect)
・ 「抵抗勢力」とつながる力~イレブン>サポーター>フーリガン>野次馬
・ 「心理的安全性」のために関係性悪化の4つの危険要因を解毒する
・ チームで力がみなぎるフロー状態に入ろう!
・ 職場で集合知を生み出そう! TEA TIME/BAR TIME  ほか
5章 足:踏み込む(Step into)
・ ダメ出しフィードバックの黄金則「薪+FIRE」
・ 承認力を高めるポジティブフィードバック・ピラミッドモデル
・ 「おかくれさん」で興味と思いやりある承認風土を創ろう!
・ 「きらいなことボード」で健全なダメを出し、改善活動につなげよう!  ほか
6章 頭:考える(Think)
・ 「考える」ことを阻む5つの大きな壁~「経験」「前提」「抽象」「選択肢」「文脈」
・ マインドフルネス瞑想で本質を捉える
・ ひらめきの神、ミューズを降臨させる5つのステップ
・ 衆知を集め、創造的に考える会議の場を開こう!  ほか

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「●組織論」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(スマントラ・ゴシャール)

新しい企業モデルとしての「個を活かすマネジメント」を提唱。

個を活かす企業1.JPG個を活かす企業.jpg 個を活かす企業2.jpg christopher-bartlett-sumantra-ghoshal.jpg
個を活かす企業―自己変革を続ける組織の条件』['99年]/『【新装版】個を活かす企業』['07年]Christopher Bartlett & Sumantra Ghoshal
"The Individualized Corporation: A Fundamentally New Approach to Management"
企業のグローバル化の4類型.pngThe Individualized Corporation.jpg 「企業のグローバル化の4類型」の提唱者としても知られる著者らよる本書(原著"The Individualized Corporation"1997年)によれば、1980年代後半ごろから、世界中の企業はリストラ、組織階層の削減や事業の再編といった波にさらされてきたが、これは、グローバル競争の本格化によって市場の形態が変わり、技術革新のペースが速まり、情報化社会が急速に進展したことによるものであるとのことです。そうした情勢の中、本書では、世界の20社以上の企業のマネジャーにインタビュー取材し、これからの新しい企業モデルはどうあるべきかを探っています。

 第1部「新しい企業モデルの誕生」第1章「マネジメントの再発見―成熟企業から成長企業へ」では、ウェスチングハウスが送変電・配電部門をABBに買収された事例を通して、ABBがウェスチングハウスには存在しなかった個人に対する揺るぎない信頼を通して、そこで働く人の行動を変え、業績を好転させた、その新たなマネジメントの在り方を、元ウェスチングハウスのマネジャーの立場から描いています。

 第2部「『組織の中の個』から『個を活かす組織』へ」第2章「個人への信頼―自発性と起業家精神を育てる」では、3Mにおける「制度化された起業家的な行動」の3つの特徴(①「当事者意識」、②「自己規律」、③「支援的な文化」)を紹介し、閉じ込められた起業家精神を解放し、その潜在能力を発揮することができるようにするには、単なるエンパワーメント・プログラムを超えた、個を活かす企業の魂ともいえる、個人への信頼が重要となってくるとしています。

 第3章「知識の創造と利用―個人のノウハウを組織学習へ」では、マッキンゼーなどの例を挙げ、個を活かす企業は、個人の自発性と専門性を発揮させるだけではなく、組織の中に分散している自発性を結合させることが必要であり、組織学習によって個人のノウハウを育成するとともに、人材の採用を戦略的意思決定と考える必要があるとしています。また、組織横断的な情報の流れを作るとともに、信頼に基づく企業文化を築いて、組織の価値観を共有しなければならないとしています。

 第4章「継続的な自己変革―改善から再生へ」では、花王における継続的な自己変革の例を紹介し、自己変革能力に不可欠な要素として、①内部エネルギー引き出すストレッチを根づかせる、②柔軟な組織をつくる、③(伝統的な役割と組織に不均衡をもたらす)動態的な不均衡状態をつくり出す、の3つを挙げています。

 第3部「個を活かす企業の構築とそのマネジメント」第5章「社内の行動環境を変える―変革に必要な四つの特性」では、社員の行動をむしばむのは、「服従」「コントロール」「契約」「制約」という古臭い環境であり、それに代わって「規律」「サポート」「信頼」「ストレッチ」という4つの要素が相互に作用し共に進化するような変革の環境によって、変革のダイナミクスが生まれるとしています。 

 第6章「組織力の構築―プロセスのポートフォリオとしての企業」では、たとえ古い組織構造であっても変革は可能であり、企業を表向きの組織構造の観点から理解することは不可能であって、「起業プロセス」(現場のマネジャーが機会を求めて外を向く)、「統合プロセス」(企業内に分散する資源・競争力をビジネスに結び付ける)、「変革プロセス」(絶えず自分の信念や慣行に挑戦する)の3つのプロセスのポートフォリオとして考えるべきであるとしています。

 第7章「個人のコンピタンシーの開発―新しいマネジャーの役割」では、新しいマネジメントの役割に必要なコンピタンシーを「態度・特性」「知識・経験」「スキル・能力」の3つのカテゴリーに分類し、マネジメントにとっての最重要課題は、異なる役割において成功できる個人特性を見極め、素養があることが明らかなら、その望ましい資質をサポートし活用するための知識やノウハウを開発することであるとしています。

 第8章「変革プロセスのマネジメント企業―企業再生の三段階」では、個を活かす企業への変革を遂げるには、第一段階:合理化 起業家的な動きを創り出す、第二段階:再活性化 統合とシナジーを創り出す、第三段階:再生 継続的な自己変革を達成する、の3段階のプロセスをマネジメントすることが必要であるとしています。

 第4部「新しい企業の時代」第9章「会社と個人の新たな関係―価値創造者としての企業」では、個を活かす企業の経営哲学は、人のために価値を創造する「価値創造者としての企業」というコンセプトに繋がり、それは従来の雇用契約とは異なる新しい道徳契約に立脚しているとし、株主、顧客、社員、政府、地域社会などのステークスホルダーの間で未来を共有する関係を築き上げることが、その目的となるとしています。

 第10章「変わるトップ・マネジメントの役割―企業目的、プロセス、社員への視点」では、これからのマネジメントの役割は、ハードウエアである3S(戦略、組織、経営システム)から、ソフトウエアである3P(目的:Perpose、経営プロセス:Process、人:People)に関心を変える必要があるとしています。

 本書で提唱されている新しい企業モデルは、「組織の中の個」から「個を活かす組織」を作りあげることであり、個を活かす組織を構築するためには、マネジャーの役割を新たに創出しなければならず、そこから会社と個人の新しい関係が生まれてくるというのが本書の主張です。そして、社員個人が起業家精神を持つこと、タテの管理からヨコのつながりを重視した組織を作ること、そして、その組織はマネジャーを中心とした小さなグループの集合体であること―これが、企業を活き活きと活性化するカギであることを明らかにしています。

 '90年代に刊行された本であり、著者の一人スマントラ・ゴシャールは2004年に55歳の若さで他界していますが、いま企業には日々学習し、自己変革を続ける個の集まりとなることが求められているという意味では、今世紀においてもまったく色褪せていない、と言うよりますます重みを増している内容であり、そのことを裏付けるかのように、本邦でも2007年に新装版が刊行されています。

《読書MEMO》
●目次
第1部 新しい企業モデルの誕生
第1章 マネジメントの再発見―成熟企業から成長企業へ
 ある熟練マネジャーの転機
 老いた事業に新たな生命を吹き込む
 マネジメントの再発見
 トップ・マネジメントの率先垂範
 異端児か、それとも模範生か
第2部 「組織の中の個」から「個を活かす組織」へ
第2章 個人への信頼―自発性と起業家精神を育てる
 制度に組み込まれた3Mの起業家精神
 当事者意識を育てる
 自己規律を育てる
 支援できる環境をつくる
 閉じ込められた起業家精神を解放する
第3章 知識の創造と利用―個人のノウハウを組織学習へ
 戦略立案を超えた組織学習
 マッキンゼーにおけるグローバルな知識の活用
 個人のノウハウを養成する
 組織横断的な情報の流れを作る
 信頼に基づく企業文化を築く
 組織の価値観を共有する
 統合されたネットワークとしての組織
第4章 継続的な自己変革―改善から再生へ
 花王の継続的な自己変革
 ストレッチを根づかせる
 柔軟な組織を作る
 動態的な不均衡状態をつくり出す
 「酸い」と「甘い」を調合するマネジメント
第3部 個を活かす企業の構築とそのマネジメント
第5章 社内の行動環境を変える―変革に必要な四つの特性
 重要な「職場のにおい」
 変革のための環境
 フィリップス半導体事業部の変革
 環境から行動へ
第6章 組織力の構築―プロセスのポートフォリオとしての企業
 古い組織構造でも変革はできる
 ABBの組織
 プロセスのポートフォリオとしての企業
 新しい組織モデル
第7章 個人のコンピタンシーの開発―新しいマネジャーの役割
 新しいマネジメントの役割と個人の能力
 新しい個人のコンピタンシーと人事の役割
 個人の潜在能力を発見する
第8章 変革プロセスのマネジメント企業―企業再生の三段階
 変革の過程
 第一段階:合理化 起業家的な動きを創り出す
 第二段階:再活性化 統合とシナジーを創り出す
 第三段階:再生 継続的な自己変革を達成する
 個を活かす企業への変身
第4部 新しい企業の時代
第9章 会社と個人の新たな関係―価値創造者としての企業
 個を活かす企業の経営哲学
 人のために価値を創造する
 「未来を共有する」関係を築く
第10章 変わるトップ・マネジメントの役割―企業目的、プロセス、社員への視点
 戦略、組織構造、システムを超えて
 マネジャーの新たな任務

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○経営思想家トップ50 ランクイン(チャールズ・ハンディ)

あるべき資本主義を説いた経営論であるとともに、企業人のための人生論でもある。

もっといい会社、もっといい人生67.JPGもっといい会社、もっといい人生0_.jpg The Hungry Spirit.jpg チャールズ・ハンディ.jpg Charles Handy
もっといい会社、もっといい人生―新しい資本主義社会のかたち』(1998/11 河出書房新社)"The Hungry Spirit" (1997)

チャールズ・ハンディ ド.jpg 「イギリスのドラッカー」とも呼ばれ、英国のみならず欧州を代表する経営思想家であるチャールズ・ハンディ(Charles Handy、1932年生まれ)の著作(原題:The Hungry Spirit: Purpose in the Modern World,1997)で、チャールズ・ハンディはオックスフォード大学で哲学を専攻した後シェル石油の幹部となるも早々に辞めてMITのスローンスクールを経て、ロンドン・ビジネススクールの設立に関わった現代経営学の権威です。彼の著作の本邦訳は『ディオニソス型経営―これからの組織タイプとリーダー像』('82年/ダイヤモンド社)、『ビジネスマン価値逆転の時代―組織とライフスタイル創り直せ(The Empty Raincoat)』('94年/阪急コミュニケーションズ)、『パラドックスの時代―大転換期の意識革命(The Age of Paradox)』('95年/ジャパンタイムズ)がありますが、「英国のドラッカー」と称される割には日本ではあまり知られていないかもしれません。本書は1997年の著作ですが、当時から市場至上主義・新自由主義の陥穽を的確に捉え、それに警鐘を鳴らしています。

 第1部「きしむ資本主義」では、資本主義社会の難問と懸念について探究しています。第1章「市場原理だけではうまくいかない」で、理論的には、市場はあらゆるものを平準化させ、最終的には、すべてのものが最も優れた、あるいは最も安価なものに追いつくはずだが、実際に起きている事態はそうなってはいないとし、市場原理に基づく効率性の追求は、社会全体としては大きな歪を生み出した(28p)としています。

 第2章「効率追求の落とし穴」では、日本のメーカーの「ジャスト・イン・タイム」方式は、「工場の生産にあわせた部品を運ぶトラックの列が付近の道路の大渋滞を引き起こし、結果、税金による道路整備が必要になった」、つまりメーカーは自らの改善コストを国民にツケ回ししたとし(44p)、また、こうした歪みは日本だけの事象ではなく、ジョン・F・ケネディ大統領の「上げ潮にのればすべての船が上がっていく」という想定も、一部の船が、他のものよりずば抜けて高く上がることになったとして(46p)、効率の追求は、社会をそうした一握りの者向けには有利に、ほかの多数の人々には不利なように傾斜させることから間違っていたことがわかったとし、効率は経済成長を生み出すが、その偏重は破滅への道に繋がるとしています。。

 第3章「資本主義の欠点を押さえて長所を生かす」では、市場経済と効率には欠点があるが、資本主義の欠点を直そうとして、資本主義自体まで失ってはならないとして、経済の発展を促し、起業家に自己表現の機会を提供しているシリコンバレー企業の例を挙げています。また、資本主義は手段にすぎず、何を目的にするか決めるのは私たちであって、自分やほかの人々のために人生から何を得ようとしているのかを私たちが十分に理解することなしには何も変わらず、人生観はカネに正当な位置づけを与えるが、それ以上に重視されるものではないとしています。

 第2部「人生の意味を位置づけ直す」では、人生の目的を探究し、「世界を現状より少しでも良くすることが目的でなくてはならない」としています。第4章「個人が主権者となる時代」では、自分の人生の台本を自ら書くことの重要性を説き、また、企業にも個人と同様に、自分の行動と運命に責任があるとしています。

 第5章「自分の夢と社会の夢の両立」では、ゆらぐ自己同一性を確立することの重要性を説き、人生の真の目的に至るまでには「生計維持型」「外部志向型」「内部志向型」の3段階の心理学的類型があり、これはマズローや多くの発達心理学者の教えとも一致するとしています。そして、「適正な自己中心性」は善と他者の利益を求めるとしています。

 第6章「生きる意味を探究する」では、カネ、モノ、地位への欲望はほどほどにすべきで、成長とは量的拡大より質的向上をすることであって、本来的に人はカネよりも美と善を求めるものであるとしています。また、世界に貢献することで自分の人生を永遠化することができるとしています。

 第7章「ほかの人なしに自分もない」では、ほかの人々といっしょに働くことで自分の能力が発揮でき、また、自分の関心にもとづいた活動の仲間が新しい"家族"になるとしています。

 第3部「よりよき資本主義者社会を求めて」では、第2部で展開した概念を、個人にだけでなく、社会制度にあてはめて考察し、資本主義は社会を品位あるものにするために解釈し直される必要があり、資本主義のカギとなる制度である会社についても考え直されなければならないとしています。第8章「もっといい資本主義を求めて」では、永続性のある会社を通して会社にとっての本当の目的とは何かを考察するとともに、そこで働く人がその会社の価値を決めるとし、社会にとっての一市民としての企業の在り方を探っています。

 第9章「社会にとっての良き市民としての会社」では、市民性とは才能ある社員をどうまとめるかであり、そこには信頼というものが大きく関わってくるとして、信頼についての7つの基本原理を挙げるとともに、「社員の可能性をフルに引き出す魔法」を引き出すものは何かを考察しています。

 第10章「適正な自己中心性を育てるための教育」では、自分自身と他者に対する責任感を育てる教育の必要性を説き、人生や仕事のための学校が同意すべきことして
 1.自己発見が世間を発見することより大切だ
 2.だれにも何かしら得意なことがある
 3.人生はマラソンだ。競馬ではない
 4.何を学ぶカより、いかに学ぶカに本質がある
 5.学校は職場から学び、職場は学校を真似るべきだ
 6.人生は家庭から出発する旅
 7.体験と思索が相まって学習が生まれる
という7つの命題を掲げています。

第11章「個人と会社が羽ばたくための政府の役割」では、個人や企業と官のバランスの修正が必要であり、また、働くことで学び、責任感を育てることができるとしています。そして、エピローグでは、企業と社会と人生の理想的な関係をどう構築していくかを考察し、私たちの魂はもっとよい会社ともっとよい人生を希求しているとしています。

 本書で、著者は「適正な自己中心性」というキーフレーズをよく用いています。個人としては「利己と利他とがバランスよく調和した姿」であり、同様の姿勢を企業にも求めています。それにより「品位のある資本主義」が実現されるというのが著者の主張です。著者は、「あるべき社会」について、信頼というものが成り立つ社会でなければならないとし(第9章)、疑いに満ち、自己主張と利己主義にもとづいた競争が行われれば社会は収拾がつかず、「悪しき資本主義」に陥るとし、個人は、利己と利他と責任感がバランスよく調和した「適正な自己中心性」をもった存在になるべきだと主張しています、企業も、利益だけでなく、社員の雇用、取引先、社会や環境などへの配慮も怠らない企業となることで、品位ある資本主義が成り立つと。そして、適正な自己中心性を体得できるようにするには、教育の改革から始めなければならず(第9章)、市場化が進展し、規制の撤廃が進んでも、こうした意味で政府の役割は残るとしています(第11章)。

 本書は、あるべき資本主義を説いた経営論、企業論であるとともに、著者の経験にもとづく人生訓も豊富に語られています。資本主義の限界を分析して「あるべき社会」を探るとともに、企業人がいい人生を送るには自らの人生をどう生きるべきかをと説いた本であり、(人事パーソンに限らず)ビジネスパーソンに広くお薦めできる本です。

《読書MEMO》
The Hungry Spirit00_.jpgチャールズ ハンディ.jpg●小さな白い石
私は机の上に小さな白い石を置いている。これは聖書のヨハネ黙示録のなかの神秘的な一節を指している。それは次のようなものだ。「霊が告げた。勝利を得るものには、白い石を与えよう。その石には、これを受ける者だけが知りうる新しい名が記されている」。私は聖書学者ではない。しかし、私がこれを自分でどう解釈するかは知っている。もし「勝利を得る」なら、その結果として、私の真にあるべき姿、すなわちもう一つの隠された自己を見出すだろう、ということを意味しているのだ。人生は、白い石の探求なのである。人によってその白い石は異なる。もちろん、「勝利する」ということが何を意味するかにもよる。思うに、これは、人生のささやかな試練を通過することを意味する。そうして初めて自由に完全に自分自身になれる。そしてそのとき、自分の白い石を手にすることができる。

The Hungry Spirit

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○経営思想家トップ50 ランクイン(トム・ピーターズ/ロバート・ウォーターマン)

超優良企業の観察をもとに8つの基本的特性を示す。企業文化論のベストセラー。

エクセレント・カンパニー 講談社.jpgエクセレント・カンパニー 講談社文庫 上.jpg エクセレント・カンパニー 講談社文庫下.jpg エクセレント・カンパニー_.jpg
エクセレント・カンパニー―超優良企業の条件』['83年]/『エクセレント・カンパニー〈上〉 (講談社文庫)』『エクセレント・カンパニー〈下〉 (講談社文庫)』['86年]/『エクセレント・カンパニー (Eijipress business classics)』['03年]
トム・ピーターズ(Tom Peters)/ロバート・ウォーターマン(Robert Waterman)
トム・ピーターズ ド.jpgトム・ピーターズ.jpgrobert waterman.jpg 本書(原題:In Search of Excellence、1982)は、マッキンゼーで(出版当時)コンサルタントをしていたトム・ピーターズとロバート・ウォーターマンの2人が、米国の革新的超優良企業(エクセレント・カンパニー)に共通する8つの基本的特性を導きだしたものです。日本企業の躍進と米国企業の衰退が対比的であった1980年代前半に出版され、当時で100万人以上のビジネスパーソンが読んだと言われる世界的ベストセラーとなりました(トム・ピーターズは一時カリスマ的人気を博し、その啓発書は日本でもかなり売れた)。
エクセレントな仕事人になれ! 「抜群力」を発揮する自分づくりのためのヒント163

 著者らは、エクセレント・カンパニーの事例を最終的に62社に絞り込んでいますが、選ばれた企業のリスト自体はそう驚くようなものではなく、IBMやHP(ヒューレット・パッカード)、ウォルマート、GE(ゼネラル・エレクトリック)など、日本でもよく知られている大企業が多いです。本書の特徴は、大手企業などを称えながらも、冷淡な近代マネジメント刊行の行き過ぎを批判し、よりシンプルな基本に戻ることを説いている点にあります。

 第1部「優良企業の条件」第1章「成功しているアメリカ企業」では、自らが行った調査を元に、エクセレント・カンパニーに共通する8つの基本特性を挙げています。
1.行動の重視
2.顧客に密着する
3.自主性と企業家精神
4."ひと"を通じての生産性向上
5.価値観に基づく実践
6.基軸から離れない
7.単純な組織、小さな本社
8.厳しさと緩やかさの両面を同時に持つ


 第2部「新しい理論の構築を求めて」第2章「『合理主義』的な考え方」では、行き過ぎた合理的な経営モデルを批判しています。
「私たちが異論を唱えたいのは、方向を誤った分析、複雑すぎて実用にならない分析、厳密すぎて扱いにくく柔軟性のない分析、本質的に予知不可能な分析、現場から離れた管理者が現場に対して管理中心の考え方で展開した分析などである。」

 第3章「人々は動機づけを望んでいる」では、プラスの動機づけを強化することの重要性を説き、超優良企業が超優良であるのは、平凡な人々から非凡な力を引き出すような組織を作っているからであり、そこには非凡なリーダーシップが働いているとしています。それは、「意味づけ」を求める人間の欲求に応え、組織の目標を創造するような「変容のリーダーシップ」であるとしています。
「『不合理な』人間欲求を満足させている超優良企業の体質をよく見るとき、その歴史の中には必ず、この『変容のリーダーシップ』を発見することができる。」

 本書の後半3分の2を占める第3部「基本に戻る」では、まず第4章「曖昧さと矛盾を扱う」で、これまでの経営理論の進展を顧みつつ、超優良企業にもしひとつの顕著な特徴があれば、それはこの、曖昧さと矛盾をうまく包括し、管理していく能力であるとし、第5章以下第12章までにおいて、先に挙げたエクセレント・カンパニーの8つの基本特性を、細かく検証・解説しています。

 第5章「行動の重視」では、行動の重視が8つの基本特性の中で最も重要であり、エクセレント・カンパニーは、非常に行動志向が強いとしています。
「『打ち方用意!撃て!狙え!』そして、『狙わずに撃ってしまったあとで、試行から学べ』。それで十分なのである。」

 第6章「顧客に密着する」では、エクセレント・カンパニーは顧客から学ぶとしています。IBMはテクノロジーではなく、顧客とマーケット優先主義を徹底し、ディズニーはひとを通じてのサービスを実践しているとのことです。
「顧客の声を聞き、顧客を会社に招き入れる。顧客をパートナーとする会社は優良な会社であり、その逆も真である。収益は顧客志向の結果として生まれるのである。」

 第7章「自主性と企業化精神」では、エクセレント・カンパニーは、社内に大勢のリーダーと創意ある社員をかかえており、それは私たちが「チャンピオン」と呼ぶ人々の巣箱であるとしています。GE:では大プロジェクトに自主参加できる仕組みがあり、3Mには失敗を支持する仕組みがあるとのことです。
「チャンピオンは先駆者であり、先駆者が力を発揮できるような、十分なバックアップが必要。バックアップがなければチャンピオンは生まれない。チャンピオンがいなければ革新はない。」

 第8章「"ひと"を通じての生産性向上」では、エクセレント・カンパニーは、ごく端末にいる一般社員を、品質および生産性向上の源泉のように扱っているとしています。例えば、ディズニーのファースト・ネーム・タグやキャストという呼称などは、企業をひとつの(拡大)家族であると見ている証しであるとしています。
「従業員を十分に教育し、妥当かつはっきりとした目標を与える。従業員に自主性を持たせ、すすんで業務改善、業績向上につとめるようにしむける。そうした意志と責任感を企業側が持つという意味で、人を大切にせよと言っているのである。」

 第9章「価値観に基づく実践」では、エクセレント・カンパニーは、エクセレント・カンパニーは、価値観を非常に大切にし、その指導者たちは、組織の末端にいたるまで、その価値観にもとづいた活気にみちた環境を作り出しているとしています。IBMのトーマス・ワトソン・ジュニアは、基本的な哲学、精神、組織としての推進力は、技術ないし経済的能力、組織構造、イノヴェーション、タイミングといったことより、組織としての成功にずっと深い関わりをもっていると述べているとのことです。
「自社の価値体系を確立せよ。自社の経営理念を確立せよ。働く人の誰もが仕事を誇りを持つようにするためになにをなしているか自問せよ。10年、20年先になって振り返ってみるとき、満足感をもって思い出せることをしているかと自問せよ。」

 第10章「基軸から離れない」では、エクセレント・カンパニーは、自分たちが熟知している業種(本業)に固執するとしています。そして、そんあ企業は、複雑化に向かう種々のプレッシャーにもかかわらず、ものごとをシンプルにしておくことの重要性を理解しているとのことです。ジョンソン&ジョンソンの創業者バード・ウッド・ジョンソンは、どんなビジネスにせよ、どう運営してはいいかわからないものに手を出してはいけないと述べていると。
「エクセレント・カンパニーでは、成長のほとんどすべてが、内部的に、自前の努力で達成されてきた。小さな会社を買ったり新しいビジネスに乗り出したりするのだが、十分に管理できる規模で行う。そして、明らかにリスクを小さくするのである。」

 第11章「単純な組織、小さな本社」では、エクセレント・カンパニーは、エクセレント・カンパニーの支柱になっている機構と体制は、すっきりと単純なものが多く、管理階層が薄く、本社の管理部門も小さいとしています。また、そうした企業では、"Small is beautiful"という考えに沿って、チーム制、プロジェクト制や自立型組織が機能し、 スピンオフや独立が奨励されているとしています。
「遺憾なことに、企業は大きくなるとともに複雑性を増す。そして、大会社のほとんどは、本質的な複雑さに対応するため、複雑なシステムと組織を考えだす。その結果、スタッフを増やしてその複雑さと取り組もうとするのだが、ここから誤りが始まるのである。」

 第12章「厳しさと緩やかさの両面を同時に持つ」では、エクセレント・カンパニーは、工場の現場から製品開発チームにいたるまで、自主性を強調している反面、起業精神の中核となるいくつかの価値観については、狂信的ともいえるほど中央集権がきついとしています。共有された価値観が枠組を提供し、その範囲内の中で具体的な自主性が日常的に発揮され、外部を重視すること、外への視点、顧客への関心が、あらゆることのうちでもっとも厳しい自己規制の特性のひとつとなっていると。
「著しく厳格な文化が原動力となり、文化に管理される特性が、エクセレント・カンパニーを際立たせている。」

 著者ら掲げた優良さの判断基準には議論の余地もあり、また、本書で取り上げられた優良企業の中から業績不振に陥るものが出てくると批判に晒されたりもしました。しかし、著者ら自身が、「私たちは革新的な企業文化を持つ企業を挙げたが、それらの企業がいつまでも革新的といえるのかと聞かれる。答えはノーだ」(「ビジネスウィーク誌」1984)と警告しています。

 ビジネス書の進化の歴史の中でもターニング・ポイントなった本ですが。その理由の1つとして、組織の成功に関し、"人間は不合理で、人間をまとめる組織はその責任をとらなければならない"という考えのもとに、意義、最小限の管理など人道的価値観を唱え、ビジネスのソフト面、文化、社員が大事であるという結論を説いている点が、古典的な経営書と対照的であったということが挙げあっれるかと思います。

 また、著者らは、情熱的な観察者の視点から纏めているため、読んでいてまるで登場するエグゼクティブの話を役員会議室で聴いているような気持ちで読み進むことができるのも、本書の特長であるかと思います。

 従業員が、人間の不合理な行動や無分別ゆえに受け入れらる組織―本書はそうした時代を超えたビジネス組織のあり方を提示し、人間の変わり易い性質こそが組織を動かすエネルギーであることを示しているように思いました。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)
【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)
【2713】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『リーダーシップの名著を読む』 (2015/05 日経文庫)

【1986年文庫化[講談社文庫(上・下)]】

《読書MEMO》
●効果的なサービス思考に共通してみられる3つの特徴
1. 経営幹部が徹底的かつ積極的に参加していること
2. 従業員志向がきわだって強いこと
3. 従業員のサービスのチェック評価とそのフィードバックが徹底してること
●ニッチ戦略によって顧客に密着している企業の5つの特徴
1. テクノロジーを抜け目のないほど巧みに利用している
2. 価格設定がうまいこと
3. マーケット細分化に1日の長があること
4. 問題解決指向が強いこと
5. 差別化のために費用をかけるのを惜しまぬこと

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組織の制度化に押し潰されないためのゲリラ戦を開始する方法について述べた箴言集。

ロバート・タウンゼンド組織に活を入れろil2.png組織に活を入れろ08.JPG  ロバート・タウンゼンド組織に活を入れろ il2.jpg
組織に活を入れろ (1970年)』"Up the Organization: How to Stop the Corporation from Stifling People and Strangling Profits"

 原題は"Up the Organization: How to Stop the Organization from Stifling People and Strangling Profits"(1970)。著者のロバート・C・タウンゼント(Robert Townsend,1920-98)は、終戦後アメリカン・エクスプレス社に入り(1948-62)、同社の専任副社長兼取締役を経て、その後、ハーツ(Hertz)に次ぐ全米第2位のレンタカー会社エイビス(Avis)の社長に就任、「わが社は業界第2位にすぎませんが懸命に頑張っています」という有名なキャッチコピーで宣伝し、"ミスター・№2"という綽名で呼ばれた人です。彼が社長に就任してから2、3年の間に、エイビス社は驚異の成長を遂げましたが、1965年に巨大コングロマリットITT(International Telephone and Telegraph)に買収されてしまい(当時ITTエイビスレンタカー.jpgは『プロフェッショナルマネジャー ~58四半期連続増益の男』(`04年/プレジデント社)のハロルド・ジェニーンがトップを務めていたが、そのITTも今は存在しない。ただし、オンライン予約のエイビスレンタカー・システムという会社はグローバル企業として残っていて、日本でもオーバーシーズ・トラベルが運営しており、エイビスレンタカー名義として存在する)、ロバート・C・タウンゼントはその買収された時に即座に社長を辞めています(本書刊行時点で49歳。まだ50代の手前だった)。

組織に活を入れろ (1970年)L.jpg 本書は、マネジメントの要諦を随想風に綴った箴言集とでも言えるものであり、「広告(Advertisement)」から「あいそをつかされるな(Wearing out Your Welcome)」まで、おおよそ100近くの章がタイトルのアルファベット順に並んでいて、目次を見て関心のあるタイトルを選び、どこから読んでも読めるようになっていて、また、何れも含蓄に富んだ内容となっています。

 「側近」(p28)の章では、側近であることが楽しくてたまらないやつは吸血鬼だけだと言い、併せて、最も良い組織形態のあり方を説いています。「組織内の衝突」(p49)では、衝突は組織が健全であることを示す証拠ではあるが、それには限度があり、すぐれたマネジャーは衝突をなくしようとはせず、ただ、そのために部下のエネルギーが浪費されるのを防ごうとするとしています。「権限の委譲」(p60)では、口先だけの信頼を示す人は多いけれども、重要な問題を処理する権限を委譲する人は少ないとしています。

 周知の通りアメリカは契約社会ですが、「雇用契約なんか、くそ食らえ」(p72)では、雇用契約がなければ、会社はたえず挑戦的な溌剌とした雰囲気を保って、報酬が業績と見合うようにしなければならず、その方がいいとしています。「株主にたえず報告を送れ」(p112)では、株主は、会社の経営状態が順調なときはこうるさい存在にすぎないが、状態が悪化してくると、会社の存立を脅かす絶大な脅威となりうるとし、株主に対する情報連絡のコツを示しています。

 「職務明細書」(p115)では、ジョブ・ディスクリプションは職務の"冷凍品"にすぎず、いちばんまずいのは、その職務を理解していない人事部門の人間によって作成されていることであり、しょっちゅう改訂するので、むやみに金がかかるばかりか、社員の士気を大いに阻喪させるとしています。「弁護士は負債になりかねない」(p120)では、正しい法律的な助言を受けられるかどうかは、法律事務所の選び方よりも、弁護士そのものの選び方にかかっているとしています。

 「指導者とは」(p122)では、「人々を導かんとするならば、人々の後を行くべし」という老子の言葉を引いて、指導者の任務は部下の利益をはかることであって、自分の懐を肥やすことではなく、戦場において将官は最後に飯を食うべきだとしています。現代の大会社の人々は、管理されているだけで指導されてはおらず、人間ではなく職員なのだとも。「二つの経営者層」(p125)では、"トップ"マネジメントとはフクロウがわんさかたむろしている樹木のようなものであり、社長以下のマネジメントが森の中で道を間違えたりするとぶうぶうわめきたてるが、森がどこにあるかを彼が知っていたという話は一度も聞いたことがないと皮肉っています。

 「経営コンサルタント」(p129)では、有能な経営コンサルタントは一匹狼だけで、徒党を組んでいるやつは破壊的であり、時間を浪費し、金を使わせ、優秀な社員たちの頭を混乱させて士気をくじき、何の問題も解決しないどころか、問題を増やすばかりだとしています。「社員」(p166)では、マグレガ―のⅩ理論とY理論を分かり易く説いています(この章は8ページで、これで長めの方)。「人事」(p175)では、あまり大きな会社でなければ人事課はいらないとし、人事管理の専門家の悪い癖は、職務明細書、配置転換チャートなどといったカラクリを弄ぶことだとしています。

 その他、「死後硬直状態の組織図」(p164)、「内部の者を抜擢しろ」(p191)、「再組織化」(p201)、「給料が不当に安いとき」(p237)といった、組織と人事に関する章が数多くあり、人事パーソンにとっても読み所は多いと思われます。また、最後に附録として、「あなたのボスの指導者としての価値の採点法」というものも付されています。

 ピーター・ドラッカーは著者タウンゼントを評して、「無類の革命家であり、無類の風刺化であり、恐れることを知らぬ正義の人である。彼はいかにして人々に働く意欲をわかせるかということに焦点をおかない経営学には、いっさい目をもくれない。彼は偉大な実業家あるいは偉大な経営者の一人として歴史に名をとどめることはないだろう。彼は偉大な将軍ではなく、それよりも難しい、偉大なゲリラ指導者であるからだ」としています。

 冒頭の著者自身による覚え書には、たいがいの会社では、働いている人に共通するのは、従順であること、退屈していること、そして生気のないことであり、彼らは組織系列の小さな囲いの中に閉じ込められたまま、誰も変えることができないために惰性で運用されている階級制度の奴隷となっているとし、本書は、こうした状況を打開するために、「われわれが奉仕している組織の装備を片っ端から剥ぎ取って、組織がわれわれに奉仕している部分だけを残す」そのための非暴力のゲリラ戦を開始する方法について述べたものであり、非マンモス会社ないしはマンモス会社の非マンモス部門を、従業員が人間として扱われるように運営させる勇気と、ユーモアとエネルギーをもった人々に、この本を捧げたいとあります。

 語られている言葉が今もって全く風化していないことに、著者の慧眼が窺えます。人事パーソンのみならず、企業組織やマネジメントに関わる人に遍(あまね)くお薦めできる本です。

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【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

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〈意識高い系〉〈ここではないどこか系〉。現代の若者のキャリア観、キャリア行動を俯瞰する上で参考に。

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ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?: キャリア思考と自己責任の罠 (ちくま新書)』['17年]

 大卒3年以内の離職率が3割であることを表す「3年3割」という言葉がありますが、厚労省の調査結果を見ると、実ははじめの3年間で最も離職率が高いのは1年目であるとのことです。本書は、ゆとり世代と呼ばれる若者たちが歩むキャリアの実態を明らかにし、若者の転職が多くなった社会的背景を考察した本であり、著者は元リクルート社員で、大学院に籍を置く教育社会学者です。本書は、著者が、すでに転職をした20代へのインタビューなどを通して修士論文として書き上げ、担当教官である本田由紀・東京大学教授に提出したものに加筆修正したものです。

 第1章では、若者の転職が増えているという事実と社会的背景を確認したうえで、「伝統的キャリア」から「自律的キャリア」への労働者のキャリア観の変貌を踏まえ、インタビューした転職者を〈意識高い系〉〈ここではないどこか系〉〈伝統的キャリア系〉の3つに分類したうえで、本書では、自律的キャリア化する若者を追いかけるうえで、〈意識高い系〉〈ここではないどこか系〉に焦点を当てるとしています。

 第2章では、〈意識高い系〉には、自律的キャリア化した時期によって〈在学時意識高い系〉〈初戦入社後意識高い系〉〈転職後意識高い系〉の3パターンがあるとして、それぞれの転職活動の在り様を探るとともに、何れも「高い意識」のみに基づいて転職する傾向があるとして懸念を示しています。

 第3章では、〈ここではないどこか系〉は、環境適応としての転職をし、仕事に対する意義づけとともに職も変えるが、〈意識高い系〉が自分のキャリアに対して真摯なのに対し、自分の感情に対して真摯であり、よりよく働きたいという気持ちの強さは立派なことだが、いつまでもどこか探しが続くことが懸念されるとしています。

 第4章では、第2章、第3章を踏まえ、〈意識高い系〉には希望が実現できない、やり直しがきかないというリスクがあり、〈ここではないどこか系〉には、スキルや経験が蓄積されない、劣悪な労働環境を許容しいてしまうというリスクがあるとし、それらは「自分らしさ」にこだわることからくるもので、その背景には、社会によって煽られた「自律的キャリア意識」があるとしています。

 第5章では、自律的キャリア化のベースにある自己責任論は、社会の責任を見えづらくしている面もあるとし、そうした問題が凝縮されるのが「就活」であり、「就職できない若者がいる」という個人に問題にとどまるのではなく、その背景には社会構造の変化があるわけであり、社会の役割として支援の可能性を探っていかねばならないとしています。

 第6章では、社会が若者の転職者をどう支援できるかということの一つの手がかりとして、キャリアアドバイザーによるキャリア面談を取り上げ、実際に行われた面談記録の分析から、その可能性と課題を考察しています。

 そして、最終第7章では、第6章におけるキャリア面談の二面性考えるうえで「やりがいの搾取構造」「ブラック企業」という二つの問題を取り上げ、社会が若者のキャリア支援においてできることとして、「できること」を基準としたキャリア選択の可能性をひらいていくことを主張しています。

 〈意識高い系〉〈ここではないどこか系〉というのは、個人的には、ハーズバーグの動機づけ・衛生理論にも対応しているように思いましたが、そうした理論を持ち出すまでもなく、社員の退職や採用と向き合っている人事パーソンにはしっくりくるのではないでしょうか。そこからさらに踏み込んで分析されているため、現代の若者のキャリア観、キャリア行動を俯瞰する上では参考になります。「自律的キャリア」を煽る社会や自己責任論に批判的な点は、やはり本田由紀氏の系譜でしょうか。サブタイトルも「キャリア思考と自己責任の罠」となっていますが、タイトルも含め、テーマは別のところにあったような気がしました。

 企業もまた社会の一部であり、「できること」を基準としたキャリア選択の可能性をひらいていくということは、企業の役割でもあるのかもしれません。では、どうすればよいかというところまでは(企業の人事担当者も読者として想定しながら)本書では具体的に踏み込んでいませんが、これは(著者が分析に巧みで社会提案に弱い元リクルート系であるからと言うより)ベースが修士論文であることの限界でしょうか。それでも、そうしたことを考える糸口となるような啓発的内容であったとは思います。

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公式組織は非公式組織から。組織の要素は、(1)コミュニケーション、(2)貢献意欲、(3)共通目的。
新訳 経営者の役割7.JPG新訳 経営者の役割_.jpg  チェスター・I・バーナード.jpg Chester I. Barnard
経営者の役割 (経営名著シリーズ 2)

 本書は、経営学(経営組織論・経営管理論)の古典であるチェスター・I・バーナード(Chester I. Barnard)の著書です(原題:The Functions of the Executive、1938)。内容は、大きな流れとして、まず組織論を展開し、それに基づいて管理論を展開するという構成になっていて、また、組織論においては、人間論→協働論(協働システム論)→組織論(公式組織論)という構成がとられています。

 第1部「協働体系に関する予備的考察」では、第1章「緒論」で、本書が公式組織を論じるものであること、公式組織とは、意識的で、計画的で、目的を持つような人々相互間の協働であり、組織の存続は、環境が不断に変動するなかで、複雑な性格の均衡をいかに維持するかにかかっており、このためには組織の内的な諸過程の再調整が必要であるとしています。第2章「個人と組織」では、人間の特性として、活動、心理的要因、選択力、目的の4つを挙げ、この本では特定の協働体系の参加者としての人間を、純粋に機能的側面において、協働の局面とみなすとしています(協働を二人以上の人々の活動の機能的システムと考える考え方)。一方、なんらかの特定の組織の外にあるものとしての人間は、物的、生物的、社会的要因の独特に個人化したものであり、限られた程度の選択力をもつものとみなされるとしています(人間を協働的な機能もしくは過程の対象と考える考え方)。そして、組織はこれらの範疇のうちの1つを統制したり、影響を与えることによって、個人の行為を修正する結果を生じるとしています。第3章「協働体系における物的および生物的制約」では、協働が有効である時とその理由、協働の目的や性格について述べ、さらに、協働が環境や目的の変化に適応するために、管理者あるいは管理組織が必要になるとしています。第4章「協働体系における心理的および社会的要因」では、3章までの協働論では除外してきた心理的要因、社会的要因に関して述べられています。第5章「協働行為の諸原則」では、物理的、生物的、人格的、および社会的な諸要素や諸要因が、ひとつでも欠けているような協働体系は存在しないとし、協働体系はつねに動的なものであり、物的、生物的、社会的な環境全体に対する継続的な再調整のプロセスであるとしています。

 第2部「公式組織の理論と構造」では、第6章「公式組織の定義」で、協働体系とは、少なくとも一つの明確な目的のために二人以上の人々が協働することによって、特殊の体系的な関係にある物的、生物的、個人的、社会的構成要素の複合体であるとしています。第7章「公式組織の理論」では、組織は、(1)相互に意思を伝達できる人々がおり、(2)それらの人々は行為を貢献しようとする意欲をもって、(3)共通目的の達成をめざすときに成立し、従って、組織の要素は、(1)コミュニケーション、(2)貢献意欲、(3)共通目的であるとしています。第8章「複合公式組織の構造」では、構造的な見地から複合組織に関する一般的な記述を行い、第9章「非公式組織およびその公式組織との関係」では、非公式組織とは何か、その諸結果は何か、公式組織による非公式組織の創造や公式組織における非公式組織の機能について述べています。ここでは、公式組織における非公式組織の機能として、コミュニケーション機能、貢献意欲と客観的権威の安定とを調整することによって公式組織の凝集性を維持する機能、自律的人格保持の感覚、自尊心および自主的選択力を維持することなどを挙げています。

 第3部「公式組織の諸要素」から管理論に入っていき、第10章「専門化の基礎と種類」では、専門化(分業)と組織におけるその意義について述べ、第11章「誘因の経済」では、組織を構成する「貢献」は、組織が個人に与える誘因との交換の形で発生するものであり、つまり、組織と個人とは、誘因と貢献の交換関係になるとしています。第12章「権威の理論」では、権威の源泉は何か、権威が受容される条件とは何か、などについて述べています。ここでは、権威が受容される条件として、(a)コミュニケーションを理解でき、また実際に理解すること、(b)意思決定に当り、コミュニケーションが組織目的と矛盾しないと信ずること、(c)意思決定に当り、コミュニケーションが自己の個人的利害と両立しうると信ずること、(d)その人は精神的にも肉体的もコミュニケーションに従いうること、の4つを挙げています。第13章「意思決定の環境」では、バーナードの考える意思決定とは何かが論じられ、第14章「機会主義の理論」では、意思決定のプロセスの原則が論じられています。ここでは、意思決定は、最終的には、環境を変えるか、目的を変えるか、どちらかの行為に行き着くとしています。

 第4部「協働システムにおける組織の機能」ではさらに管理論を展開し、第15章「管理機能」では、管理者の果たすべき機能が論じられ、それは、組織伝達(コミュニケーション)の維持、必要な活動の確保、目的と目標の定式化の3つであるとしています。第16章「管理過程」では、管理過程において、全体という観点から考慮されなければならない二つの要因は、行為の有効性と能率であるとしています。第17章「管理責任の性質」では、協働の道徳的側面についての論考が展開されています。

 組織が成功するためにはコミュニケーションが不可欠であり、なぜならコミュニケーションが全員を諸目的に結びつけるからであるということが強調されています。本書に従えば、マネジメントの不可欠な機能とは、第1にコミュニケーション機能の提供、第2に目的達成のための不可欠な努力の促進、第3に目的を定義し定式化すること、ということになります。また、人的ネットワークである非公式組織に着目し、非公式組織に共通の意図や目的が与えられることによって公式組織に転化する一方で、公式組織はそれ自体が非公式組織を生み出し、それは、非公式組織が伝達、凝集、個人の保全の手段として公式組織の運営に必要であるからであることを初めて指摘した本でもあります。経営者は短期的な業績ばかりを重視する独裁者であってはならず、経営者には、組織や価値観や目標を育てる責任があり、さらに、マネジメントには道徳性に関わる面があるとしており、そうした意味でも、今読んでも啓発される面は多い名著であると思います。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

《読書MEMO》
●目次

日本語版への序文

第1部 協働システムに関する予備的考察
第1章 緒論
第2章 個人と組織
第3章 協働システムにおける物的および生物的制約
第4章 協働のシステムにおける心理的および社会的要因
第5章 協働行為の諸原則
第2部 公式組織の理論と構造
第6章 公式組織の定義
第7章 公式組織の理論
第8章 複合公式組織の構造
第9章 非公式組織およびその公式組織との関係
第3部 公式組織の諸要素
第10章 専門家の基礎と種類
第11章 誘因の経済
第12章 権威の理論
第13章 意思決定の環境
第14章 機会主義の理論
第4部 協働システムにおける組織の機能
第15章 管理機能
第16章 管理過程
第17章 管理責任の性質
第18章 結論

「●人材育成・教育研修・コーチング」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1582】 酒井 穣 『「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト
○経営思想家トップ50 ランクイン(マーシャル・ゴールドスミス)

第一人者エグゼクティブ・コーチによる、CEO後継者選びとそのコーチングの在り方指南。

コーチングの神様が教える後継者の育て方2.jpg コーチングの神様が教える後継者の育て方.jpg   コーチングの神様が教える「できる人」の法則 2.jpg コーチングの神様が教える「前向き思考」の見つけ方 ,200_.jpg
コーチングの神様が教える後継者の育て方』『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』『コーチングの神様が教える「前向き思考」の見つけ方
マーシャル・ゴールドスミス.jpg 本書の著者マーシャル・ゴールドスミス(Marshall Goldsmith)は、エグゼクティブ・コーチングの第一人者であり、GEのジャック・ウェルチをはじめ、世界的大企業の経営者80人以上をコーチしたことで知られる人で、日本にも2008年、2011年、2013年、2014年と来日して講演やセミナーを行っています。著書の「コーチングの神様が教える」と冠したシリーズでは、本書『後継者の育て方』(原題:Succession: Are You Ready?)の前後に『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』(原題:What Got You Here Won't Get You There)('07年/日本経済新聞出版社)と『コーチングの神様が教える「前向き思考」の見つけ方』(原題:Mojo: How to Get it, How to Keep it, How to Get it Back If You Lose it)('11年/日本経済新聞出版社)が訳出されています(共に共著)。

コーチングの神様が教える「できる人」の法則.jpgコーチングの神様が教える「前向き思考」の見つけ方.jpg 最初の『「出来る人」の法則』では、経営トップになる目前の段階のエグゼクティブに見られる数々の"悪い癖"を指摘し、この癖を直さなければビジネスでも人生でも成功しないとして、そのためにはどうすべきかを説いています。後の『「前向き思考」の見つけ方』では、目標を達成するリーダーに必要なモジョ(アイデンティティ、成果、評判、受容)を手に入れるにはどうすればよいかを説いています。そして、(この真ん中にあたる)本書『後継者の育て方』では、後継者を選び、育て、地位をバトンタッチするという経営者としての最大の仕事を失敗しないようにするにはどうすればよいかを、後進に道を譲ることに備える、後継者を選ぶ、後継者をコーチングする、バトンを渡す、の4つの局面について説いています。

 パートⅠ「自分自身の準備をはじめる」では、第1章「ペースを落とす」で、後継者にリーダーシップのバトンを渡すには、まず、自分の「次の人生」を楽しく過ごす何かを計画しはじめ、自らの仕事のペースは落として次の人生に備えることが重要であるとしています。そして、第2章「手放して、前に進む」では、仕事から離れることは容易ではないが、特権、権力、ステータス、人間関係といったさまざまなものを手放して、自らが去る準備をするかたわら、別の形で人の役に立つ方法をみつけ、「次の人生」をすばらしいものにすべきであるとしています。交代のプロセスを始めたら、経営から手を引き、後継者を育成することに力を注ぎ、交代の時期が近づいたら、後継者の育成をやめ、新たな人生を築くことに力を注ぐようにとのことです。

 パートⅡ「後継者を選ぶ」では、まず、第3章「誰を後継者に選ぶか」で、外部から招聘したCEOが失敗したときのコストの大きさから、可能な限り社内で後継者を育成すべきであるとしています。そして、第4章「社内でコーチングする候補者を評価する」では、次期CEOのコーチングに際して、自分がその人物が次期CEOになることを心から望んでいるか、自分に正直に問うてみるとともに、その候補者は、重要な関わりを持つ人たちから公平な機会が与えられるか(重要な関わりを持つ人たちがその候補者に対して変えがたい否定的見解を抱いていないか)、候補者自身は心底変わろうと努力するか(昇進することしか考えていないといったことはないか)、といった評価のポイントを述べています。

 パートⅢ「後継者をコーチングする」では、第5章「コーチングにとりかかる」で、エグゼクティブ・コーチのあり方を説き、後継者は、CEOになる前にCEOとしてどのように行動するかを学んでおく必要があり、なった後では遅すぎるため、後継者の長所と課題を特定しなければならないとしています。そして、第6章「CEOのコーチ・ファシリテーターになる」では、後継者の過去の360度フィードバックなどを見直すことで、CEOの立場で成功するためのヒントを集め、育成の目標を設定しなければならないとしています。また、コーチングのプロセスに重要な関わりを持つ人を巻き込み、後継者が彼らから学ぶよう手伝う、言わばファシリテーターの役割を(現CEOが)担う必要があるとしています。

 パートⅣ「バトンを渡す」第7章「すばらしい門出」では、後継者に、彼が「選ばれた人」であることをどのように知らせるか、また、自分自身はどのようにして会社を去るべきかが書かれています。

 基本的には、トップがいかに後進に道を譲ればいいか、その際何を後継者に教え伝えるか、その心構えを含めて丁寧に書かれた啓蒙書です。エグゼクティブ・コーチングというのは、まだ日本ではそれほど行われていないかもしれません。CEOが一人の後継者を育成するケースに絞っているという意味では特殊であるかのように見えますが、著者自身が述べているように、人生の転換期にあるリーダーであれば誰でも使えるものとなっています。また、著者は、起業家タイプのリーダーの方が、大企業のCEOよりも、本書からヒント得られるところが大きいのではないかとも書いています。人事マニュアル本のように、リーダー交代を計画する際に考慮しなければならないことをすべて書き出したりはしていません。交代時の人間的な側面、行動に関わる側面に焦点を絞って書かれており、そのことが逆に、人事パーソンにとっては新鮮に感じられるかもしれません。コーチの視点を人事の視点というふうに置き換えて読めば、更に興味深く読めるかと思います

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人的資源管理(HRM)の基本項目と、それらを実行し、成功に導くためのポイントを示す。

ハーバード流人的資源管理「入門」0.jpgハーバード流人的資源管理「入門」.jpg   D. Quinn Mills.jpg D. Quinn Mills
ハーバード流人的資源管理「入門」

ハーバード流リーダーシップ[入門].jpgハーバード流マネジメント[入門].jpg ハーバード・ビジネススクールでリーダーシップや経営戦略を教えるダニエル・クイン・ミルズ教授による、『ハーバード流リーダーシップ[入門]』『ハーバード流マネジメント[入門]』に続く[入門]シリーズの第3弾であり(D. Quinn Mills"Principles of Human Resource Management"(2006))、人的資源管理(HRM)の基本項目や課題と、それらを実行し、成功に導くためのポイントを示した本です。

ハーバード流リーダーシップ「入門」』『ハーバード流マネジメント「入門」 (マインドエッジ)
   
ハーバード流人的資源管理「入門」2.jpg 序章においてまず、本書は、ライン・マネジャーと人事部門の協力関係について書かれた本であるとしています(本書は、人的資源管理は、ライン・マネジャーと人事部門の協力関係なしには成立しないとの考えに立っている)。ライン・マネジャーの役割は、人事制度は何を目的に設計されているかを理解したうえで、それを十分に活用し、担当部門の業績を向上させることにあり、一方、人事部門の役割は、ライン・マネジャーを助け、カウンセリングを行い、サポートすることであるとしています。そのうえで、人的資源管理には、1.チームの編成と育成、2.チームへのインセンティブ、3.公正な待遇、4.ワーク・ライフ・バランスの4つの分野があるとし、以下4章にわたり、各分野にどういった基本項目が含まれるか、それらを効果的に実行していくにはどうすればよいか、その際の人事部門とライン・マネジャーのそれぞれの役割は何かを解説しています。

 第1章「チームの編成と育成」では、①人的資源計画、②採用、③人的資本の形成、④コミュニケーションの4つの項目について解説しています。この章では、まず、人的資源計画を立てる際にはマネジャーを参画させ、また、人的資源計画の目標を長期事業計画と連動させることが重要であるとしています。また、人材争奪戦に勝つためにはどうすればよいか、効果的な採用活動を行うための手法や考え方を説いています。更に、人的資本とは何か、研修や教育においては大切なことは何かを説き、また、コミュニケーションによって従業員の満足度を高めるにはどうすればよいかを、ステップごとに解説しています。

 第2章「チームへのインセンティブ」では、①パフォーマンス・マネジメント(社員の業績管理)、②報酬、③福利厚生の3つの項目について解説しています。会社の成否はパフォーマンスにかかっており、では、パフォーマンスを改善する人事考課とはどのようなものかをまず解説しています。また、報酬制度について、一般的な給与体系を説明するとともに、その仕組みの意義や重要性を解説し、勤労意欲を高めるための報酬制度などを紹介しています。更に、福利厚生とは何か、その主なものを取り上げ、解説しています。

 第3章「公正な待遇」では、①均等な雇用機会、②従業員の権利の2つの項目について解説しています。この章では、均等な雇用機会を与えることの重要性を説くとともに、従業員とパートナーとして関係を築くためには、従業員の権利を尊重することが大切であるとしています。

 第4章「ワーク・ライフ・バランス」では、ワーク・ライフ・バランスの重要性を考え、従業員に対してカウンセリングを行って、仕事と生活のバランスをとることなどを提案しています。

 経営戦略と人的資源管理の融合から、適切な人材の採用、配置、育成、評価まで、人的資源管理の課題や基本項目を広くカバーした入門書でありながら、真に人を育成し、自己実現をサポートすることで、企業も伸びていけるという確信のもと、人事部門の役割を非常に能動的(戦略的)なスタンスで説いている本であり、通常の入門書にありがちな無味乾燥感はありません。それどころか、ライン・マネジャーと協働して人的資源管理を成功に導くために、人事パーソンとして知っておくべき多くのヒントが含まれているように思いました。

 例えば、人的資本の形成(研修)のところでは、ともすれば「社員教育」で一括りにさえがちな概念を、WAHTを学ぶ「訓練」と、WHYを学ぶ「教育」に分けていますが、この違いが認識されるだけでも、本書を読む価値はあるのではないかと思われます。

 法律に関する記述などの面で日米の違いはあるかと思いますが、本書を読んでいてそれほど突っかかり無く読めるということは、人事部の役割=人的資源管理(HRM)という面で、かつてほどの日米の違いは無くなってきているのかもしれません。

《読書MEMO》
●訓練とは、物事をどのように行うかを教えることである。教育は、それになぜかが加わる。この違いは重要である。ほとんどの組織で は幹部と有望な幹部候補だけが教育を受ける。それ以外の社員が受けるのは訓練である。
●人的資源計画で重要な3つの活動
・適切なスキルを備えた人材を特定し、適正な数だけ揃える
・彼らの勤労意欲を高め、優れた業績を達成する
・事業目標と人的資源計画のお互いの連動をはかる
●(研修の)真価を評価するためには、次の三つの評価を行うとよい。 第一に、参加者が何を学んだかを直接テストする。第二に、学んだ ことを使って職場で以前と異なる行動をとっているかを研修後に調 査する。第三に、研修後、個人あるいはグループの業績は向上した かを評価する。
●組織が学習する方法はいくつかあるが、その主なものは、個人が学習し、個人から集団へと知識を移転する方法である。その仕組みが整っていれば、組織にとって大きな強みになる。
●メンタリングは、後輩にとって非常に貴重な経験となることが多い。経験を積んだ人に自分自身のキャリアについて、あるいは自分が抱えている問題について質問を投げかけ、相談する機会である
●給料を補足する目的の賞与は、社員の業績に基づく場合が多い。これは一般的に三種類ある。標準的な一時金、利益分配、成果分配である。こうしたものに多額の費用をかける企業は多いが、残念ながらモチベーション効果は大方失われている。

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コンピテンシー・モデルを作成するような立場になれば、必読書としてトップにくる本。

コンピテンシーマネジメントの展開.gifコンピテンシー・マネジメントの展開1_3006.JPGコンピテンシー・マネジメントの展開1.jpg  コンピテンシー・マネジメントの展開 完訳版.jpg
コンピテンシー・マネジメントの展開―導入・構築・活用』[701年]/『コンピテンシー・マネジメントの展開(完訳版)』['11年]

 本書は、コンピテンシー・モデルについて、コンピテンシーとは何か、どのような内容が含まれるか、各職務に適切なコンピテンシー・モデルをどのように導入するかなどを具体的に提示した基本書です。

 第Ⅰ部では、産業・組織心理学におけるコンピテンシー追求の歴史を紹介し(第1章)(この第1章は、コンピテンシーの概念の提唱者であるデイビッド・マクレランドによるもので、彼が1973年に「インテリジェンスではなくコンピテンシーを評価する:Testing for Competence rather than~~ Intelligence」という論文を書いた経緯が書かれている)、さらに「コンピテンー」とは何かが定義されています(第2章)。

 第Ⅱ部では、コンピテンシーの測定尺度を定義し(第3章)、中間、上位層レベルの職務を調査した研究から発見された、平均的なパフォーマーから卓越したパフォーマーを峻別する20のコンピテンシーについて、達成とアクション(第4章)、支援と人的サービス(第5章)、インパクトと影響力(第6章)。マネジメント・コンピテンシー(第7章)、認知コンピテンシー(第8章)、個人の効果性に関わるコンピテンシー(第9章)の6群に分けて、一般的なコンピテンシー・ディクショナリーを紹介しています。

 第Ⅲ部では、コンピテンシー研究をデザインする際の指針を示しています(第10章)。さらに、行動結果面接(BEI)の実施(第11章)と、コンピテンシー・モデルの構築に向けてのデータ分析(第12章)について説明しています。実際にこれらの方法を実施するためには訓練と実習が要求されますが、本書ではそこまでは触れず、この方法がある状況でどれだけ適切であるかを決める際に役立つ指針を提供しています。

 第Ⅳ部では、それぞれの職種での成功を予見するコンピテンシーに関する発見を紹介しています。ここでは、技術職および専門職(第13章)、セールス職(第14章)、支援・人的サービスの従事者(第15章)、管理者(第16章)の各職種についての、一般的コンピテンシー・モデルが紹介されています。

 第Ⅴ部では、人材マネジメントに対するコンピテンシー・データの活用について、採用・配属・定着・昇進・評価・選考(第17章)、パフォーマンス・マネジメント(第18章)、後継者育成計画(第19章)、能力開発とキャリアパス(第20章)、報酬(コンピテンシー・ベース・ペイ)(第21章)のそれぞれについて紹介し、さらに、コンピテンシー・ベースの人事管理(HRM)の将来の方向性について述べています。

 コンピテンシーに関する研究を整理し、詳細なコンピテンシー・ディクショナリーを提示している本であり、コンピテンシー・モデルやコンピテンシー・マネジメントの議論をする際には、この本で提示されているコンピテンシー・ディクショナリーをベースにすることが多いのではないでしょうか。さらに、この本では、コンピテンシー・モデルの開発の方法論についても詳しく議論されており、コンピテンシー・モデルの活用方法についても詳しく述べられていいます。要約すれば、この本1冊あれば、コンピテンシーマネジメント(コンピテンシー・ディクショナリーの開発・活用)に関する一通りの知識を身につけることのできる本であり、仮にコンピテンシー・モデルを作成するような立場になれば、本書は必読書としてトップに位置するかと思います。

 原著"Competence at work"(1993)と比較すると第17章・第23章・第24章の3章分、丸々省かれています。そのことは訳者前書きで予め断られていますが、原著者らが選んだ21のコンピテンシーというのが訳書では20になっているのが、割愛された章とは関係が無いはずはないだけに、ちょっと気に掛かりました。やはり原著もちょっとだけでも見た方がいいのかと思ったら、2011年に完訳版が刊行されました。

【2201】 ○ グローバルタスクフォース 『あらすじで読む 世界のビジネス名著』 (2004/07 総合法令)
【2790】○ グローバルタスクフォース 『トップMBAの必読文献―ビジネススクールの使用テキスト500冊』 (2009/11 東洋経済新報社)

《読書MEMO》
●目次
第1部 コンピテンシーの考え方(序に代えて(デイビッド・C・マクレランド)(コンピテンシーとは何か)
第2部 コンピテンシー・ディクショナリー(コンピテンシー・ディクショナリーの構築、達成とアクション ほか)
第3部 コンピテンシー・モデルの開発(コンピテンシー研究をデザインする、行動結果面接(BEI)の仕方 ほか)
第4部 研究結果の検討:一般コンピテンシー・モデル(技術者および専門職、セールス職 ほか)
第5部 コンピテンシー・ベースの応用(採用、配属、定着、昇進における評価と選考、パフォーマンス・マネジメント ほか)

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やや浅いが、リテンション・マネジメントのポイントを概観・再確認するには良い本。

なぜ、御社は若手が辞めるのか5.JPGなぜ、御社は若手が辞めるのか.jpg
なぜ、御社は若手が辞めるのか 日経プレミアシリーズ

本書は、データや退職者の生の声をもとに、若手が辞めていく会社はどこに問題があるのか、社員が定着するためにはどのようなマネジメントが求められるのかを探った本です。

 第1章では、8割の上司が、「辞めてほしくない部下」の離職を経験しているというデータを示し、退職が退職を生むスパイラル「連鎖退職」や、若手がある日突然出社しなくなる「衝動的離職」といった問題を取り上げ、ハイパフォーマー社員が辞めた時の損失の実態を分析し、社員を「辞めさせない」ためのマネジメント(リテンション・マネジメント)の必要を説いています。

 第2章では、データやインタビューから若手・中堅の転職事情(退職を選ぶ理由等)を探り、悩みつつも辞めなかった人の本音も聞いて、辞めた社員との比較から見たリテンションのポイントとして、「働きがい」「会社の姿勢方針」「人間関係の良し悪し」を挙げています。

 第3章では、社員が辞める会社と辞めない会社の違いがどこにあるのかを分析し、「人を大切にする」「風通しが良い」社風では社員は辞めにくいとしています。その上で、「社員が辞めない会社」の組織風土とはどのようなものか、部下が辞めるのは上司の問題なのか、などをインタビューやデータから分析しています。社員の声と企業の声を比較すると、「適切な配置」の重要性について両者の考えは一致する一方、社員が重視するのは「給料」であるのに対し、会社が重視するのは「研修」であるが、社員は「教育は特に求めていない」というのが本音で、給与で大事なのは「納得感」であるとしています。

 第4章では、実際に社員定着のためにできることは何か、リテンション・マネジメントのポイントとして、①採用、②異動と「適性配置」、③報酬、④評価の仕方や方針、⑤労働時間、⑥研修、⑦福利厚生、⑧キャリア形成支援、⑨組織や職場でのコミュニケーション施策、⑩きめ細やかな退職管理、などを掲げ、それぞれについて働く人や人事部の声を拾い、また、テーマごとに企業の取り組み事例を紹介しています。

 第5章では、アンケート調査などを踏まえた上で、働き方改革とリテンションの関係について考察し、「副業OK」で会社の魅力は高まり、会社にもメリットをもたらすとしています。また、働き方改革には、「働きがい」と「働きやすさ」の2つの軸があるとして、ある企業の取り組みをこの2軸に沿って紹介しています。

 統計データやアンケート調査をフルに使い、働く人の生の声も多く取り上げて課題を抽出・整理しているため、分かりやすく説得力もあります。また、リテンション・マネジメントに取り組む会社の事例も数多く紹介されていて、実務上もある程度参考になると思います。一方で、分析がオーソドックスである分、分析結果にさほど目新しさはなく、また、紹介されている事例の数が多い分、1つ1つはやや浅い印象も受けました。

 リテンション・マネジメントのポイントを概観・再確認するには良い本であり、人事パーソンのみでなく、現場の上司(マネジャー)が読んでも啓発効果があると思われる点では、新書の特性を生かしているかと思います。

《読書MEMO》
●目次
第1章 社員に捨てられる会社(期待の若手が去った後...;8割の上司が、「辞めてほしくない部下」の離職を経験? ほか)
第2章 若手はこうして会社を辞める(「本音の見えない退職」が企業を苦しめる?;転職した人の半数以上は新しい会社に満足している? ほか)
第3章 社員が辞める会社・辞めない会社の境界線(辞めやすい会社・辞めにくい会社1 雇用主の魅力度;人材が定着する会社の共通点 ほか)
第4章 社員の定着のためにできること―リテンション・マネジメントのポイント(ポイント1 採用―入社してから対策していては遅い;「入社後のギャップ」は少ない方が良い? ほか)
第5章 働き方改革とリテンション(生産性の前にリテンション!;「副業OK」で会社の魅力は高まる ほか)

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物事の本質を見透かす力と逆説的なユーモアのセンスが光る。

パーキンソンの法則ー.JPG パーキンソンの法則.jpg パーキンソンの法則 上野訳.jpg
パーキンソンの法則 (至誠堂選書)』['96年]/『新編パーキンソンの法則―先進国病の処方箋 (1981年)
パーキンソンの法則―部下にはよませられぬ本 (1965年) (至誠堂新書)
パーキンソンの法則―部下にはよませられぬ本 (1965年).jpg 1958 年に原著が刊行された「パーキンソンの法則(Parkinson's law)」は、英国の歴史学者・政治学者シリル・ノースーコート・パーキンソン(Cyril Northcote Parkinson)が英国エコノミスト誌(1955/11/19 号)に発表した風刺コラム「Parkinson's law」から始まっています。彼は英国の官僚制度に関する研究を行い、官僚制度(企業の管理機構等も含む) に内包する問題点・非合理性を鋭い観察眼で指摘して、世の共感を得、日本でも「パーキンソンの法則」が流行語になるほど普及しました。

 「パーキンソンの法則」とは―、
第1法則: 仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する、
第2法則: 支出の額は、収入の額に達するまで膨張する、
第3法則: 拡大は複雑化を意味し、組織を腐敗させる、
凡俗法則: 組織はどうでもいい物事に対して、不釣り合いなほど重点を置く、
 ―以上のようなものを指すとされていますが、第1法則も第2法則も官僚世界では「時間はあるだけ使ってしまう」「金はあるだけ使ってしまう」という「貴重な資源を使い切ってしまう」点で共通性があります。

 邦訳は、翻訳者によって取り上げる章とその順序が異なりますが、ここでは、原子核物理学者の森永晴彦氏の訳による至誠堂選書版『パーキンソンの法則―部下には読ませられぬ本』('81年4月)に概ね準拠します。

 第1章「パーキンソンの法則-公務員は如何にしてふえるか」では、役人の数は、仕事の量や有無に関係なく増えるとし(パーキンソンの第1法則)、①役人は部下を増やすことを望むが、ライバルは望まない、②役人は互いのために仕事をつくり合う、の2つがその動因だとしています。自分の仕事が過重だと感じるようになった役人Aは、1.辞めるか、2.同僚Bと仕事を分かち合うか、3.2人の部下C、Dの助力を求めるかで、この中で3番目の方法以外が選ばれたことは歴史的に殆どないとしています。そして、英国の植民地省の役人の人数が、英国の植民地が次々独立して植民地でなくなって行く過程でもその数は増え続けたという実証例に挙げ、時として大企業でも、役所と同類のこうした大企業病と言われる事態に陥ることがあるとしています。

 第2章「民衆の意思-中間派の理論」では、議会制度における(議題を理解する能力のない)中間派の操縦法を説いています。会議の決議においては中間派の票が最終的に重要であり、議会における勝利を得るためのキーは、反対者の説得ではなく、明確な意見を持たない中間層を引き込むことであり、それは会場の議席の配置によっても大きな影響を受けるとしています。

 第3章「高度財政術-関心喪失点」では、予算審議に必要な時間は、金額が巨大になりイメージが沸かなくなればなるほど短くなるとしています。内容が難しい事案ほど短時間で議決され、誰にでも判る簡単な事案の審議時間は長くなる、つまり、誰でも口を出せる事案では発言者が多くなり、審議時間が長くなるとしています(パーキンソンの凡俗法則)。本書では、原子力に関する議題は理解できる人が殆どいないために5分間で採決されてしまうが、役所で使う事務用品などの議題では誰もが一見識をひけらかし、採決に2時間もかかり、その後出席者は、自分は有益な仕事をしたとの満足感で議場を去る―と皮肉を込めて書かれています。

 第4章「閣僚の定数-非能率の係数」では、委員会の最適な人数は5人~7人程度で、20人を超えると運営不可能になるとしています。従って、内閣や委員会において、そのメンバーは22人未満とすべきであり、22人以上であればその組織は有効なものになり得ず、構成メンバーの機能としては、大蔵、外務、防衛、法務の5人に限ればそれが良いとしています。

 第5章「人選の原理―採用試験と求人広告」では、旧式の英国式面接では人材の採否は家柄で決定した一方、中国(科挙制度)では多くの選抜を経て官吏登用者が決まったとしています。今後の求人の在り方としては、人材取得に時間をかけることを避けたいのであれば、募集内容に具体的な内容を記載すれば良いとし、1人の求人に対して応募者1人というのが最も望ましいが、そのためにはどのような求人広告を出せばよいかをユーモラスに説いています。

 第6章「非建設的建築-行政のしこり」では、立派な建造物は組織の衰退の兆しであるとしています。ある組織の立派な建造物の建設計画はその組織の崩壊点に達成され、その建築が有効活用されることは少なくともそのとき必要とされた組織によってはされない。その完成は組織の終息や死を意味すること(パーキンソンの第3法則)を、ルイ王朝の宮殿を例に引いて説いています。

 第7章「人物映写幕―カクテル・パーティーの公式」では、カクテル・パーティーにおける重要人物の見分け方を説いています。その人物は、パーティ開始後75分から90分後に遅れてやって来て、E7(会場を左からA,B,...Eと分け、入り口から奥に向かって1,2,3...8と分けたときのE7の方形)の中におり、グループの中心となっている人物であるとしています。

 第8章「劣嫉症(インジェリティティス)-組織病理学」では、組織のマヒは、「劣嫉症の出現:劣嫉症(第1期)」→「優秀な人物の排除:独善(第2期)」→「劣嫉症のみの組織の形成:無関心(第3期)」の順で進行するとしています。治療の原則は、①治療を行うものと、治療をうけるものが同一人物ということはあってはいけない。②第1期と第2期は治療可能であるが、第3期は治療不可であること。治療の方向性として、第1期は、叱咤激励、報奨の実施、第2期は外部からの人材補充による組織の活性化、第3期は隔離し、速やかに組織を潰すことであるとしています。

 第9章「苦力(クーリー)百万長者の話―中国風成功」では、中国人のお金持ちは決して目立ってそれを表すことはなく、その理由は、目立てば、身代金、納税、マスコミ対策に対する出費がかさむからであり、逆に、目立ってそれを見せている人は、そのような対策を気にする必要も無いほどの権力を得た者たちであるとしています。

 第10章「恩給点の解析―退職の潮時」では、退職する側とその後を引き継ぐ者の年齢差から適切な退職時期について考察しており、退職させる方法としては、退職させるべき人を退職させるためには、海外の視察をハードスケジュールで行わすといったものが挙げられるとしています。

 本書の内容は、「膨大な研究のもとこれらが纏め上げられた」とのことですが、その中には確かに数学的根拠に基づいているものもありますが、むしろ、著者の経験則からくる物事の本質を見透かす力と逆説的でアイロニカルなユーモアのセンスが大きく反映されているように思います。

 本書が書かれた1950年代の終わりは、人間関係論学派が米国で開花し、大量生産と並んではびこっていた官僚主義が批判に晒されていた時期と一致します。マックス・ウェーバーの予言した「書類を生産する機会」という官僚モデルが現実のものとなり、何層にも重なる管理担当者によって組織の動脈硬化が進行していた時期に書かれたものではありますが、そうした1958年という企業における官僚主義の絶頂期において書かれたものが、今現在においても読む者の共感を呼ぶのは、人と組織の関係性というものは一定の普遍的特性を持っていて、変わろうとしてもそう簡単に変われるものではないということの証しではないでしょうか。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

パーキンソンの法則―はだかの経営学.jpgパーキンソンの第2法則.jpg
森永晴彦 訳[至誠堂]...【1961年6月単行本(『パーキンソンの法則―部下には読ませられぬ本』)/1965年新書版(『パーキンソンの法則―部下にはよませられぬ本 (至誠堂新書)』)/1981年選書版(『パーキンソンの法則―部下には読ませられぬ本 (至誠堂選書2)』)】
上野一郎[ダイヤモンド社]...【1981年3月単行本(『新編 パーキンソンの法則―先進国病の処方箋』)】

パーキンソンの成功法則 (1963年)
パーキンソンの第2法則かねは入っただけ出る (1965年) (至誠堂新書)

《読書MEMO》
●至誠堂選書版『パーキンソンの法則―部下には読ませられぬ本』('81年4月)森永晴彦(原子核物理学者)氏訳
1 パーキンソンの法則―公務員は如何にしてふえるかパーキンソンの法則―公務員は如何にしてふえるか
2 民衆の意志―中間派の理論―
3 高度財政術―関心喪失点―
4 閣僚の定数―非能率の係数―
5 人選の原理―採用試験と求人広告―
6 非建設的建築―行政のしこり―
7 人物映写幕―カクテル・パーティーの公式―
8 劣嫉症(インジェリティティス)―組織病理学―
9 苦力(クーリー)百万長者の話―中国風成功法―
10 恩給点の解析―退職の潮時―
●ダイヤモンド社版『新編パーキンソンの法則―先進国病の処方箋』('81年3月)上野 一郎(学校法人産業能率大学理事長)氏訳
政府
1 パーキンソンの法則 ― 役人はどんどん増える(至誠堂版1 パーキンソンの法則―公務員は如何にしてふえるか)
2 二十一年後 ― 私の預言は当たったか
3 パーキンソンの第二法則 ― 金は入っただけ出る
財政
4 些事こだわりの法則 ― 関心得失の分岐点(至誠堂版3 高度財政術―関心喪失点)
5 課税の限界 ― 二0パーセントをこすと...
6 税金のがれ ― 節税と脱税
人事
7 適格者選択の原理 ― 総理大臣の選び方(至誠堂版5 人選の原理―採用試験と求人広告)
8 ナンバー2 ― あなたは社長になれるか
9 先輩を退陣させる法 ― 退職の潮時(至誠堂版10恩給点の解析―退職の潮時)
戦術
10 嫌な奴="ノー・マン" ― 役所でOKをもらう法
11 引延しの法則 ― 「ノー」といわずに「ノー」という法
12 大衆の意思 ― 中間派が決定を左右する(至誠堂版2 民衆の意志―中間派の理論)
組織
13 閣僚の数は何人が適性か ― 能率、非能率の分岐点(至誠堂版4 閣僚の定数―非能率の係数)
14 劣等感とやきもちの病 ― 停滞組織の治療法(至誠堂版8 劣嫉症(インジェリティティス)―組織病理学)
15 建物が豪華になると ― 組織衰退の徴候(至誠堂版6非建設的建築―行政のしこり)
法則
16 真空の法則 ― 打つ手が悪いと...

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○経営思想家トップ50 ランクイン(スコット・アダムス)

分かりやすいのは、コミックであるためだけでなく、企業組織が抱える問題の普遍性を突いているため。

ディルバートの法則011.jpg ディルバートビジネス社会の法則.jpg ディルバートの法則3004.JPG
ディルバートの法則 (MAC POWER BOOKS)』['97年]/『ディルバート ビジネス社会の法則―会社の備品をくすねて優雅に暮らそう』['96年] [下]ペーパーバック/『THE DILBERT PRINCIPLE―英和対照で読むディルバートの法則 (洋販E‐Jライブラリー)』['97年] Scott Adams
THE DILBERT PRINCIPLE_.jpg THE DILBERT PRINCIPLE―英和対照_.jpgスコット・アダムズ adamsscott.jpg 本書の元々のベースは、ディルバートというシステムエンジニアを主人公にしたコミックで、官僚的な職場や無能な上司を皮肉ったユーモアで知られる新聞連載のコマ割り漫画です(最近はどうかよく分からないが、日本でもかつて英字新聞などで読んだ人は結構いるように思う)。本書の原著である1996年の単行本刊行に際し、テーマごと分けられた全26章のそれぞれに、コマ割り漫画と併せて作者がユニークな解説を施し、また章末には、従業員から寄せられたメールなどが紹介されています(作者は単行本を出す直前1995年までパシフィック・ベル社勤務と兼業)。この本は刊行された年の秋までに130万部売れ、ウォールストリート・ジャーナルのベストセラー覧に43週間載り続けました。漫画そのものは、リストラ、ダウンサイジング、ハイテクとローテクの対立などをテーマにしています。日本の企業にはパーティション文化というのはあまり根付いていませんが、それでもSEである主人公のディルバートがパーティションの視点から見たボス、会議、流行の経営理論など"職場の苦痛"の数々とそれを回避しようとする彼の奮闘は、会社勤めの経験がある人ならば誰でも充分理解可能なのでは。翻訳者の山崎理仁氏はあとがきで「オフィスワーカーの知的健康飲料」としていますが、まさにそうと言えます(因みに、解説はデーブ・スペクター氏)。

 第1章「ディルバートの法則」では、「能力のある者は自分が無能となるレベルに達するまで昇進し続ける」という所謂"ピーターの法則"を引いて、今日では無能な人間がひとっ跳びで管理職に昇進しているとし、「もっとも無能な社員はもっとも実害を及ぼしにくいポスト―管理職へと組織的に異動させられる」という"ディルバートの法則"を打ち立て、ピーターの法則はディルバートの法則その地位を譲るとしています。つまり、この法則は、無能な者は害をなさないように意図的に昇進させられ、その結果、組織の上層部は実質の生産に殆ど寄与せず、大部分の現実的、生産的な仕事は下層部の人々によってなされているという考えに基づいていることになります。

 以下、各章において、オフィスで起きている様々な出来事への洞察から得られた、皮肉とユーモアに満ちた数多くの《知見》が、コマ漫画と併せてビジネス界で生き残るための自己防衛戦略のヒントとして提示されています。"ディルバートの法則"自体も風刺の一形式として見るべきでしょうが、第1章も含め、以下、各章で述べられていることのほとんどがアイロニー表現となっているのは言うまでもありません。

 第2章「屈辱」では、社員の士気は上がりすぎると危険であり、社員の生産性が最も上がる適度なレベルの士気とは、「幸福だが、あまりうぬぼれていない」状態のときであるとし、社員の満足度を損なわずに自尊心を"生産性の上がる"レベルに抑えるために、ビジネス界では社員の業績を過小に評価するなど、社員に屈辱を与える様々なテクニックが用いられるとしています。

 第3章「ビジネス・コミュニケーション」では、ビジネス・コミュニケーションの真の目的は情報の正確な伝達ではなく、自分のキャリアの発達を図ることであり、このことは「情報を明確に伝達する」発想とは相容れず、なぜならば、明確なコミュニケーションはトラブルの基であり、何も断言しなければ間違いを犯す可能性はないからだとしています。

 第4章「管理職の大ウソ」では、「社員こそもっとも大切な資産」「何でもオープンに話し合おう」「リスクを負う者には報いよう」など管理職が常用するウソの定番を掲げています。「君の提案が大切だ」という言葉もウソであり、「社員の提案=仕事の増加=悪」という等式が真であるとしています。

 第5章「マキャヴェリ的方法」では、アドバイスを求めてきた同僚に対し「似非アドバイスを与えよ」としており、それは同僚を会社の出世コースから蹴落とすチャンスなのだからとしています。第6章「従業員の戦略」では、「実労働+見かけの労働=総労働」という公式を打ち出し、実労働を増やさずに総労働を一定の値に保つよう心がけよとしています(コンピュータを使って多忙さを装うのもいいと)。

 第7章「勤務評定」では、勤務評定の目的は「あなたをローマの果樹園の奴隷のように働かせること」「生産性の罪を自白させ署名させること」「あなたの安月給を正当化すること」にあるとしています。第8章「働くフリ」では、実際には"忙しくない"のに"忙しそうに見せる"様々なテクニックを紹介しています(「チームのコンサルタントになる」というのは言い得て妙)。

 第9章「悪態」では、女性は悪態をつくことが出世の鍵となるとし、第10章「思い通りにコトを進める」では、会議で自分の意見だけがまともだと皆に分からせる「ツルの一声作戦」を紹介しています(わざと誰かに間抜けな提案をさせて、参加者が紛糾し疲れて会議終了時刻が迫ったところで、あたかも今までの議論の結論のように自分の意見を言う)。

 第11章「マーケティングとコミュニケーション」では、いい広告によって、ひどい製品でも人々に売りつけられるため、洗脳作業に投じる1ドルは製品改良に投じる1ドルよりも費用対効果が高いとしています。第12章「経営コンサルタント」では、コンサルタントとは、会社から金を取って社員をいらだたせ、ひたすらコンサルティング契約を引き延ばす手口について考えている人間だとしています。

 第13章「事業計画」では、事業計画は「1.情報の収集」と「2.収集した情報の無視」の2大ステップを踏んで作られるとし、第14章「エンジニア、科学者、プログラマー等の変人」では、彼らが普通の人とどう違うのかを解き明かしています。

 第15章「変革」では、変革はコンサルタントによって引き起こされ、そのうえ、変革をどう処理すればいいかを教えてもらうためのコンサルタントが必要となり、変革が終わると、また変革した方がいいと教えてくれるコンサルタントが必要になるとしています。

 第16章「予算編成」では、予算のパイから分け前を確実にもらうには、必要額を誇張することであり、自分の要求した予算を裏付ける分かりづらいグラフや表を常に提出せよと。そして、たとえ何をしようと、年度の終わりには予算を一銭たりとも残さないこと! だとしています。

 第17章「セールス」では、会社の製品が高すぎるうえに欠陥商品だとしても、出来のいい販売奨励プランを使ってその埋め合わせは可能であるとし、会社の売上げが低いのは営業部員に適切な動機付けがなされていないためであって、この状態を解決するにはノルマを引き上げ、営業部員に「A.欺瞞と背信に満ちた人生」と「B.ハウストレーラー生活」の二者択一を迫るだけでいいと。

 第18章「会議」では、会議は一種のパフォーマンス芸術であり、個々の俳優は、自明の達人、善意のサディスト、グチる殉教者、長々男、眠り居士などの役割を演じればよく、例えば「善意のサディスト」を演じるには正直と献身と反社会的態度を組み合わせればよいとしています。

 第19章「プロジェクト」では、プロジェクトの成功のカギを握るのは、「1.運」と「2.すごいプロジェクト名」であると。第20章「ISO9000」では、ISO900とは、退屈したヨーロッパ人がビールをがぶ飲みし、世界中の大企業をからかうことにした、そのイタズラが後にISO9000として知られるようになったのだと。

 第21章「ダウンサイジング」では、縮小を図る企業から最初に逃げ出すのはもっとも賢い連中で、彼らは"退職手当"を手に入れ、直ちに別のもっとマシな仕事にありつくが、残ったノロマ社員は、仕事の質は低いが長時間働いて埋め合わせをする―そして、優秀な人材がみな逃げたあと、企業はダウンサイジングに肯定的な響きを持たせて社員の士気を高めようとしてこれをライトサイジングなどと呼んだりすると。

 第22章「企業の破滅を見抜く法」では、破滅の前兆として、パーティション、チームワーク、管理職へのプレゼンテーション、組織再編、プロセス(管理)を挙げています。

 第23章「リエンジニアリング」では、リエンジニアリングは、企業がもともと抱えていた問題を、細かい品質管理ユニットとして処理する代わりに、けた外れの規模で解放してしまうリスクがある、つまり、企業の無能さが一気に解放されるとしています。

 第24章「チームワーク育成訓練」では、チームワーク育成訓練のルーツは監獄制度であり、典型的なチームワーク育成訓練では、従業員は団結力のあるチームかカージャックの一味になるまで、様々な不快な状況に置かれるとしています。

 第25章「リーダー」では、リーダーにとってもっとも大切な技能は、ひとりでにおこることを自分の手柄にする才能であり、リーダ-ーとは生まれつきの才能なのか、作られるものかという質問に対し、作られたものなら、保守期間内に返品することは可能なのだろうか?と問うています。また、リーダーとは、誰が見ても明らかに無意味か、あるいは危険でさえあるような選択ができる人種であり、そうした"平均的"人間から見て明らかに筋の通らない選択をするリーダーは、「1.あまりに賢く、誰もその先見の明を理解できない」か「2.マヌケ」かのいずれかだと断定できるとしています。

 第26章「新しい企業モデル―OA5」では(この最終章のみストレートに真面目な提案になっている)、5時に退社する従業員は尊敬されない現状を見直すべく、5時に帰る従業員が与えられた仕事を充分にこなし、誰もがそれを認めることを保証するのが新しい企業モデルであるとしています。

 風刺とユーモア満載ですが、働く側からすれば翻訳者の山崎理仁氏が言うように「オフィスワーカーの知的健康飲料」であり、逆にマネジメントする側から見れば、どうすればそうならずに済むかを探るうえで多くの気づきを与えてくれる「反面教師」的な書です。漫画がケーススタディとなっているため分かり易いです。しかし、元アップルのガイ・カワサキ氏が「企業には二種類ある。自社がディルバートに似ていることを自覚しているもの、そしてディルバートに似ているがそれをまだ自覚していないもの」と言っているように、分かり易さのベースには、企業の職場や組織が抱える問題の普遍性を突いているということがあるのではないかと思います。今までも触れることはありましたが、こうしてまとめ読みすると、漫画だからと言って侮れず、スコット・アダムス、恐るべし、といった感じ、MBAでも読まれていたりするようです。

【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

「●働くということ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1885】 岩崎 日出俊 『65歳定年制の罠
○経営思想家トップ50 ランクイン(リンダ・グラットン)

働き方の未来を明るいものとするための3つのシフト。"意識高い" 系だが、示唆に富む。

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ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉

ワークシフト1.jpg 2025年、われわれはどんなふうに働いているのか? ロンドンビジネススクール教授であり、経営組織論の世界的権威で働くことについて研究し続けてきた著者(英タイムズ紙の選ぶ「世界のトップビジネス思想家15人」のひとりでもある)が、「働き方に大きく影響する『五つの要因(32の要素)』」を基に、2025年を想定した働き方の未来を予測した本です。

 序章において、未来を理解し、未来ストーリーを描いて自分の選択の手掛かりにし、職業生活に関するいくつかの常識を根本から〈シフト〉させれば、より好ましい未来を迎える確率を高められるとして、働き方を変える三つの〈シフト〉を提唱しています。

 第1部「なにが働き方の未来を変えるのか」(第1章)では、働き方の未来を形づくる五つの要因として、①テクノロジーの進化、②グローバル化の進化、③人口構成の変化と長寿化、④社会の変化、⑤エネルギー・環境問題の深刻化、を挙げて、それぞれ解説しています。

 第2部と第3部では、これら五つの要因の組み合わせを基に、2025年の人々の働き方の予測シナリオを架空の人物ストーリーとして描いています。

 第2部「『漫然と迎える未来』の暗い現実」(第2章~第4章)では、暗い未来予測図として5人のストーリーがあり、3分間隔でいつも時間に追われ続ける未来(第2章)、人とのつながりが断ち切られ、孤独にさいなまれる未来(第3章)、繁栄から締め出された新たな貧困層が生まれる未来(第4章)が描かれています。

 第3部「『主体的に築く未来』の明るい日々」(第5章~第7章)では、明るい未来予測図として7人のストーリーがあり、みんなの力で大きな仕事をやり遂げるコ・クリエーションの未来(第5章)、積極的に社会と関わることで共感とバランスのある人生を送ることができる未来(第3章)、ミニ起業家が活躍し、創造的な人生を切り開く未来(第4章)が描かれています。

 第4部「働き方を〈シフト〉する」(第8章~第10章)では、冒頭に示した第一のシフトとして、ゼネラリストから「連続スペシャリスト」へ(第8章)、第二のシフトとして、孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」へ(第9章)、第三のシフトとして、大量消費から「情熱を傾けられる経験」へ(第10章)という三つのシフトについて解説しています。

 第8章「第一のシフト―ゼネラリストから『連続スペシャリスト』へ」では、なぜ、「広く浅く」ではだめなのか? 高い価値をもつ専門技能の三条件とは何か、未来に押しつぶされないキャリアと専門技能とは何かを解説し、あくまでも「好きな仕事」を選ぶこと、移動と脱皮で専門分野を広げること、セルフマーケティングを通して、カリヨン・ツリー型のキャリアを築くことの重要性を説いています。つまり、1つの企業でしか通用しない技能で満足せず、高度な専門技術を磨き、他者との差別化をするために「自分ブランド」を築くことが肝要であるということです。

 第9章「第二のシフト―孤独な競争から『協力して起こすイノベーション』へ」では、未来に必要となる三種類の人的ネットワークを掲げ、ポッセを築くこと、ビッグアイデア・クラウドを築くこと、自己再生のコミュニティを築くことを勧めています。難しい問題に取り組む上で頼りになる少人数の「同志(ポッセ)」グループとイノベーションの源泉となるバラエティに富んだ大勢のネットワーク(ビックアイデア・クラウド)と打算のない友人関係(自己再生のコミュニティ)という三種類のネットワークを構築することが求められるということです。

 第10章「第三のシフト―大量消費から「情熱を傾けられる経験」へ」では、なぜ、私たちはお金と消費が好きになったのかを考察し、消費より経験に価値を置く生き方へシフトすることを説いています。経済・消費第一優先から、家族や趣味、社会との絆といった創造的経験を重んじる生き方に転換することになります。

 ある種「未来学」ではありますが、データの裏付けがあって説得力があり、また、働き方の未来図を人物ストーリーとして描いているために分かり易いです。一方で、著者が提唱する〈シフト〉は、あまりに"意識高い"系であり、ついていけないと感じる読者もいるかもしれません。しかし、世の中は次第に著者の描く未来図に近づいていくのではないでしょうか。それを「明るい未来」とするにはどうすればよいか考える上で多くの示唆を含んだ本であり、働き方のこれからやキャリアというもの考えるにあたって欠かせない1冊であることは間違いないと考えます。

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント) 
【2794】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『プロがすすめるベストセラー経営書』 (2018/06 日経文庫)

ライフ・シフト2.jpg リンダ・グラットン 来日1.jpgリンダ・グラットン 2016年10月来日『LIFE SHIFT』発売記念講演「100年時代の人生戦略」

《読書MEMO》
●未来を形づくる5つの要因と32の要
要因1.テクノロジーの進化
①テクノロジーが飛躍的に発展する。
②世界の50億人がインターネットで結ばれる。
③地球上のいたるところで「クラウド」を利用できるようになる。
④生産性が向上し続ける。
⑤「ソーシャルな」参加が活発になる。
⑥知識のデジタル化が進む。
⑦メガ企業とミニ起業家が台頭する。
⑧バーチャル空間で働き、「アバタ―」を利用することが当たり前になる。
⑨「人工知能アシスタント」が普及する。
⑩テクノロジーが人間の労働者に取って代わる
要因2.グローバル化の進展
①24時間・週7日休まないグローバルな世界が出現した。
②新興国が台頭した。
③中国とインドの経済が目覚ましく成長した。
④倹約型イノベーションの道が開けた。
⑤新たな人材輩出大国が登場しつつある。
⑥世界中で都市化が進行する。
⑦バブルの形成と崩壊が繰り返される。
⑧世界のさまざまな地域に貧困層が出現する。
要因3.人口構成の変化と長寿化
①Y世代の影響力が拡大する。
②寿命が長くなる。
③ベビーブーム世代の一部が貧しい老後を迎える。
④国境を越えた移住が活発になる。
要因4.社会の変化
①家族のあり方が変わる。
②自分を見つめ直す人が増える。
③女性の力が強くなる。
④バランス重視の生き方を選ぶ男性が増える。
⑤大企業や政府に対する不信感が強まる。
⑥幸福感が弱まる。
⑦余暇時間が増える。
要因5.エネルギー・環境問題の深刻化
①エネルギー価格が上昇する。
②環境上の惨事が原因で住居を追われる人が現れる。
③持続可能性を重んじる文化が形成されはじめる。

●ワーク・シフト:3つのシフト
第一のシフト:ゼネラリストから「連続スペシャリスト」へ
•ゼネラリスト的な技能から専門技能の連続的習得へシフト
•資本:知的資本
•資質:①専門技能の連続的習得、②セルフマーケティング
•対応:広く浅い知識を持つのではなく、いくつかの専門技能を連続的に習得する。そのためには、時間とエネルギーをつぎ込む覚悟をする。
•高い価値を持つ専門技能の条件
①価値を生み出す、②希少性がある、③模倣されにくい。
•いくつもの小さな釣り鐘が連なって職業人生を形作る「カリヨン・ツリー型」のキャリアが主流となる。
第二のシフト:孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」へ
・個人主義、競争原理から人間同士の結びつき、コラボレーション、人的ネットワークへシフト
・資本:人間関係資本、人的ネットワークの強さと幅広さ
・対応:高度な専門知識と技能を持つ人たちと繋がり合って、イノベーションを成し遂げることを目指す姿勢に転換する。仕事とそれ以外の要素のバランスを取り、新たに重要となる活動に時間を割く。
・人的ネットワーク
①ボッセ:同じ志を持ち、頼りになり、長期にわたる互恵的な関係(少人数)
②ビックアイデア・クラウド:大きなアイデアの源となる群衆
③自己再生のコミュニティ:頻繁に会い、リラックスしできる人達
第三のシフト:大量消費から「情熱を傾けられる経験」へ
・貪欲に大量のモノを消費し続けるライフスタイルから質の高い経験と人生のバランスを重んじる姿勢へシフト
・資本:情緒的資本、自分の選択について深く考える能力、勇気ある行動を取るための強靭な精神を育む能力
•対応:際限ない消費に終始する生活をやめ、情熱を持って何かを生み出す生活に転換する。やりがいとバランスのとれた働き方に転換する。
・「お金のためだけに働く」という古い考えでなく、「働くのは、充実した経験をするためで、それが幸せの土台」となる。自分の生き方と選択に責任と理解を持つ。
自分の未来予想図を描くためのプロセス
1.不要な要素を捨てる。
2.重要な要素に肉づけをする。
3.足りない要素を探す。
4.集めた要素を分類し直す。
5.一つの図柄を見いだす。
未来に押しつぶされないキャリアと専門技能
1.今後価値が高まりそうなキャリアの道筋
・草の根の市民活動
・社会起業家
・ミニ起業家
2.特に重要性を増す専門技能
・生命科学・健康関連
・再生可能エネルギー関連
・創造性・イノベーション関連
・コーチング・ケア関連
第二のシフトは、難しい問題に取り組む上で頼りになる少人数の「同志(ポッセ)」グループとイノベーションの源泉となるバラエティに富んだ大勢のネットワーク(ビックアイデア・クラウド)と打算のない友人関係(自己再生のコミュニティ)という三種類のネットワークを構築すること。
第三のシフトは家族や趣味、社会との絆といった創造的経験を重んじる生き方に転換すること。

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