「●働くということ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2270】 中澤 二朗 『働く。なぜ?』
定年起業の勧めと心構え。読後感は悪くないが目新しさはないか。内容ズレしたタイトルが気になった。
『65歳定年制の罠 (ベスト新書)』['13年]
全6章構成で、第1章で、「65歳定年時代」の隠された罠―つまり、65歳定年と言っても再雇用制度が中心で、給料は半分近くに激減し、不安定な身分と理不尽な配属が待っていて、場合によっては「追い出し部屋」に入れられるかもしれない、といった"怖い"話が続き、一方、第2章では、そうは言っても年金だけでやっていくのは難しく、定年延長後も働かなければならない現実があることを、年金制度についての解説を交えながら説明し、第3章では、そうした老後の破綻リスクに備えるために、今の内からマインドセットをして定年後に備えておくことが必要であるとするとともに、米国では50代で独立して会社をスタートさせる人が多く、日本にもアクティブなシニア経営者がいることを紹介しています。
それを受けるような形で、後半部分の第4章では、「個人のキャリアをフルに活かす」「借金は最大のリスクであると知る」といった、定年起業を成功に導くための10か条について説き、第5章では、起業家たちの事例から失敗から立ち上がる者が成功することを示し、第6章では、定年を機に起業した先輩たちについてのより突っ込んだ取材に基づく事例を紹介するとともに、趣味を活かした起業の注意点をこれも具体的な取材例を掲げて述べ、最終第7章では、ボランティアやNPOという道もあることを示しています。
タイトルから"怖い"ことばかりが書かれた本だと思われがちですが、後半部はシニア起業、定年起業に関する指南書的な内容で、取材事例には励まされるものが多く、読後感は意外と爽やかなものでした。
著者自身は、日本興業銀行か勤務時代にMBAを取得し、その後、J・P・モルガン、メリルリンチ、リーマン・ブラザーズの投資銀行各社のマネージング・ディレクターを経て経営コンサルタン会社を立ち上げた人で、そうなると、一般の人はちょっと引いてしまいそうな印象もありますが、著者の同新書の前著が『自分の年金をつくる』であることからも窺えるように、金融アドバイザリーからシニア・ライフ・コンサルティングへ主業が移りつつある模様。本書も、通して読めば、「定年起業」に関する本だったのだなあと(本題ではなく、その前提状況がタイトルになっていたのだという感じで、タイトルの方が内容からズレ気味?)。
第3章の終わりに、50代以降に独立して会社をスタートさせた米国人の事例として、レイモンド・クロック、スコット・マクネリー、バートン・ビックスの3人が出てきますが、スコット・マクネリーは56歳で起業したといっても、それ以前に27歳でサン・マイクロシステムズを創業した実績があり、バートン・ビックスは70歳でモルガンを辞めて新たなヘッジファンドを立ち上げたと言っても、それまでにストラテジストとしての確固たる名声と巨万の富を築いていて、殆どゼロから起業と言えるのは、レイモンド・クロックだけではないかなあ。
レイモンド・クロックは、1954年、ミルクシェイク用のミキサーを売り歩いていた当時52歳のある日、カリフォルニア州のあるレストランから8台ものミキサーの注文を一度に受け、素朴な疑問からその店を訪ね、その効率的なサービスの提供システムに感嘆、ここほど将来性のある店はないと考え、その店の経営者だったマクドナルド兄弟に自分と組んでチェーン展開することを提案したことが、巨大外食チェーン「マクドナルド」の始まりだった―但し、これは、知ってる人は知ってるという、かなり有名な話です。
まあ、定年起業を勧める本というか、心構え的なガイドブックとしてはオーソドックスですが、どちらかというと実務書と言うより啓蒙書。年金に関する解説も、ざっくりではありますが、それに絞った前著もあるだけに、間違ったことは言っていません。
但し、読後感は悪くないのですが、トータルでみてさほどの目新しさは感じられず、前に述べたように、内容ズレしているとも言えるタイトルばかりが気になりました(おそらく版元の編集者が考えたものだと思うが)。
資料:
俵山 祥子 氏