【3351】 ◎ エドワード・L・デシ/リチャード・フラスト (桜井茂男:訳) 『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』 (1999/06 新曜社) ★★★★★

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内発的動機づけを促すのは「自律性・有能感・関係性」。とりわけ「自律性」支援が重要。

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人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』['99年] 

 本書(原題:Why We Do What We Do: Understanding Self-Motivation、1995)では、アメとムチによる旧来のマネジメントを否定し、課題に自発的に取り組む「内発的動機づけ」と、自分が自分の行動の主人公となる「自律性」の重要性を実証的に提唱するとともに、では内発的動機づけと自律性はどうしたら伸びるか、その成長を支援する方法は何か、その実践方法を説いています。

 全四部構成ですが、第Ⅳ部は結論であるため、実質的には三部構成です。第1章では、内発的動機づけの中心テーマである「自律性」について解説されていて、第2章以降のプロローグとなっているとともに、本書の狙いは、さまざまな動機づけ研究から自律性と責任感の関係について探り、疎外をもたらす世界において責任ある行動を促すという問題に活かすことであるとしています。

 第Ⅰ部「自律性と有能感がなぜ大切なのか」(第2章~第5章)では、「自律性」と「有能さ」を高めることが内発的動機づけを高めることにつながるとしています。
 第2章では、報酬と疎外の関係について解説されていて、被験者にパズルを解かせ、その際に一方には報酬を与え、他方には報酬を与えないとした実験の結果(報酬を与えないグループの方がパズルに熱心に取り組んだ)を通して、外的な報酬は内発的動機づけを低下させることがあるとしています。

 第3章では、なぜ報酬は内発的動機づけを低下させるのか、ならば内発的動機づけを高めるのは何かを考察し、報酬が内発的動機づけを低下させるのはそれが自律性を阻害してしまうからであり、一方、自由な行為選択の機会が与えられることで内発的動機づけは高まるとしています。

 第4章では、内発的動機づけと外発的動機づけがそれぞれもたらすものについて解説し、ここでも二つに分けた被験者グループに学習テストをさせ、一方は評価を目的とし、もう一方は人に学習内容を教えることを目的とした実験の結果を通して、外的報酬を用いて過度に統制することが、いかに内発的動機づけを低下させ、成果の質を落とすかを実証的に説明しています。

 第5章では、「自律性」の感覚は、上手くこなせるという感覚、周囲の世界との関わりを通した「有能感」への欲求につながるとし、有能感が生まれる条件は、それが最適な難度への挑戦であるとともに、統制の要素を伴わない、自律性を支えるやり方での挑戦であることだとしています。

 第Ⅱ部「人との絆がもつ役割」(第6章~第9章)では、「関係性」の重要性が述べられています。
 第6章では、人間は主体的に世界と関わっていくことで発達していくものであるとし、自ら内的世界を組織化し、大きな統合性に向かっていく基本的性向があるとしています。この欲求を阻害するのは、動機づけシステムが上手く機能しない社会的文脈や、システムの機能があってもそれが統制的で自律性を奪う場合などで、自分が有能であり自律的であると自分自身が認識できなければこの内的統合は果たせず、その意味で人間の発達にとって自律性の支援は極めて重要であるとしています。

 第7章では、さらに自律性の支援いついて説き、社会化とは社会の一員となるスキルを身につけることであり、社会の担い手(親、教師、管理職など)は、下位の者たちが自分の意志によって社会の活動に従事し、自律的に活動できるようにしなければならないとしています。

 第8章では、社会の中の自己というものについて考察し、自己に統合されていない規範「とりこみ」が過度になると、人は「~すべき、~あるべき」に縛られて、本当の自己が見えなくなるとし、真の自己の統合と発達には、そうした規範に捉われず、自由になることで、真の内発的欲求を充足する必要があるとしています。
第9章では、生きる意欲の内、外発的な意欲として、裕福になること、有名になること、肉体的魅力があることの三つを挙げ、内発的な意欲として、満足のいく個人的関係、社会貢献、個人としての成長の三つを挙げて、内発的な意欲に比べ外発的な意欲の高い人は精神的健康が低くなるという調査結果をもとに、病める現代社会においては、個人主義的ではあるが自律的ではないという状態が起きやすいと警告しています。

 第Ⅲ部「どうしたらうまくいくか」(第10章~第12章)では、これまで述べてきたことを受けて、どうすれば人々の内発的動機づけを高めることはできるかをまとめています。
 第10章では、いかにして自律を促進するか、 第11章では、健康な行動を促進するにはどうすればよいか、第12章では、統制された環境下で自律的に生きるにはどうすればようかを説いています。

 本書で著者らは、「内発的動機づけ」を高める欲求として、「自分のすることは自分で決めて動きたい」という「自律性への欲求」、自分で自分の仕事を「こなすことができる」「やりとげることができる」という「有能感」、「他者と関わっていたい」「他人とよい関係を築きたい」「他者に貢献したい」という「関係性への欲求」の三つを挙げていることになりますが、この中で「自律性への欲求」に最もページが割かれていて、「自律性」が内発的動機づけの"一丁目一番地"と言えるのかもしれません。社員が「自律性」をもって、ひとりの人間として成長し、「有能感」を持てるように支え合い、互いを尊重する「関係性」が組織風土として根付けば、「明日もがんばろう」と思えるモチベーションの高い社員が増加するということなのでしょう。仕事や人生に対する哲学的な考察や示唆も多く含まれていて、読めば読むほど味の出る本。人事パーソンには是非とも読んで欲しい名著です。

《読書MEMO》
●二十世紀のおそらくもっとも偉大な美術教師であるロバート・ヘンリは、(中略)次のように記している。「(中略)絵を描くことの目的は、絵を完成させることにあるのではない。(中略)真の芸術活動の背後にある目標は、存在の本質的状態(a state of being)に到達することである。それは、高い次元で活動している状態、普通に存在している以上の状態に達することである。」(27p)

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