【1183】 △ 城 繁幸 『若者はなぜ3年で辞めるのか?―年功序列が奪う日本の未来』 (2006/09 光文社新書) ★★★

「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2752】 ダニエル・クイン・ミルズ 『ハーバード流人的資源管理「入門」
「●労働経済・労働問題」の インデックッスへ 「●光文社新書」の インデックッスへ

タイトルずれしている。分析・批判はともかく、著者の"立ち位置"がわかりにくい。

若者はなぜ3年で辞めるのか?.jpg 
3年で辞めた若者はどこへ行ったのか.jpg 『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか―アウトサイダーの時代 (ちくま新書)』['08年]
若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)』['06年]

 『日本型「成果主義」の可能性』('05年/東洋経済新報社)に続く著者の本でこのタイトルであったために、企業がとるべき人材引き止め策(リテンション戦略)について書かれたものだと思ってしまったのですが、「年功序列」を未だに日本企業の根底にのさばる「昭和的価値観」と規定したところで終わってしまっていて、何かそれに対する改善策が提示されているわけでないため、人材マネジメントに関する本ではなく、労働経済問題を社会学的な見地から指摘した類の本だったのかなと。

 それにしてはデータ的な裏付けがさほど無いままに著者の主観ばかりが先行しているようで、終わりの方では若者に向けて、そうした「昭和的価値観」に捉われている企業から脱出するように呼びかけているような内容であるため、著者の"立ち位置"というか、本書を通して何を言わんとしているのかが今ひとつ分りにくく、少なくともタイトルからは"肩透かし"的印象を抱かざるを得ませんでした。

 著者の言うように、年功序列のレールは90年代前半の時点で大方の企業で崩壊の兆しを見せており、成果主義の導入によってより顕著になったわけで、分析・批判そのものは必ずしも的を射ていないわけではないですが、平成不況下でも年功序列の負の遺産だけが残り、若者達にとっては企業に勤め続けても明るい未来は約束されていないというある種の閉塞状況があるという指摘や(それが本書ではやや端的に語られ過ぎている気がするが)、或いは「"席を譲らない老人"と"席に座れない若者"」といった世代間格差的な捉え方は、玄田有史氏の『仕事の中の曖昧な不安―揺れる若年の現在』('01年/中央公論新社)などとほぼ重なるように思えます(5年前に他の人が指摘済みのこととなると新味は薄い)。

 繰り返しになりますが、本書ではそこからの企業のとるべき施策が語られているわけではなく、働く側の若者に対し「昭和的価値観」からの脱却を呼びかけていて、そのためには自分なりの確固たる価値観を持たねばならないとかいった感じで、ああ、「キャリア塾」みたいなこと、やろうとしているのかな、この人は、と思った次第。
 続編の『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか』('08年/ちくま新書)は、そんな感じの内容らしいし...。

About this Entry

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1