【020】 △ 大久保 幸夫/リクルートワークス研究所 『正社員時代の終焉-多様な働き手のマネジメント手法を求めて』 (2006/02 日経BP社) ★★★

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非正社員の活用に向けての新たな「人材ポートフォリオ」を提示している。

正社員時代の終焉-多様な働き手のマネジメント手法を求めて.jpg  『正社員時代の終焉-多様な働き手のマネジメント手法を求めて』  ookubo2.gif 大久保幸夫 氏

 この10年で全雇用者に占める非正社員比率は上昇を続け3割を超えましたが、企業はこうした非正社員を本当に有効に戦力化しているのだろうか、ただ人件費面での方策として非正社員を入れているだけで、人材育成などの戦略的観点が軽視されているのではないか、そうした思いから「多様な働き手のマネジメント手法を求めて」というサブタイトルに期待し、本書を手にしました。

 第3章で内田恭彦氏(ワークス研究所主任研究員・神戸大学大学院経営学研究科助教授)が、'95年に日経連が示した「雇用ポートフォリオ」の3グループ区分(長期蓄積能力活用型、高度専門能力活用型、雇用柔軟型)の発展型として、米国のSHRM研究による分析をベースに、企業特殊性の高低と知識レベルの高低を軸とした4象限から成る新たな「人材ポートフォリオ」を提示していて、以降の分析はこの人材ポートフォリオをベースに進んでいきます。

 すでに"3グループ区分"では捉え切れなくなっているというのは実感としてあり、人材ポートフォリオというものを人材育成という観点でみると、働き手がこの人材ポートフォリオの象限間を移動するダイナミック(動的)なものであるとしているのも納得できます。
 ただし個々の経営者にとっては、現実にどの仕事、どの社員がどの"象限"に収まるべきものなのかをイメージすることが大切で、それが無ければ本書を読むことは単なる"お勉強"で終わってしまうのかも。

 非正社員のキャリア志向のさまざまな類型や、業務委託(インディペンダント・コントラクター)の拡大傾向示し、そのマネジメントの要点やリスク管理にも触れていますが、ここまで現状分析にページを割きすぎ、非正社員の活用等に悩む経営者にどこまで応えきれているか、全体としてやや物足りなさを感じます。

 余談ですが、労働法に規定されているわけではないのに、厳然と世の中にある〈正社員〉と〈非正社員〉の違いについて、江戸時代の商家の「丁稚」(長期契約)と「下男下女」(短期契約)の違いに由来していると本書の中にある。知らなかった。
 
《読書MEMO》
●企業は、派遣社員や業務委託の実態がつかめず、人件費にも反映されず、人材に対する全体像が霧の中に隠れてしまった(24p)
●戦略を起点に、必要な人材を労働市場から獲得する企業経営パターン(アングロサクソン系)と、企業内部に人的資源を蓄積し、環境に合わせて活用していく企業経営パターン(日本企業)(86p)
●ヒューマンリソース・アーキテクチャー(米国の戦略的HRM)の人材調達様式(組織と人材の関係/人事管理のあり方)(80p)
・第1象限(戦略価値:高、企業特殊性:高)...内部育成(投資的/コミットメント)
・第2象限(戦略価値:高、企業特殊性:低)...外部調達(共生的/市場価値)
・第3象限(戦略価値:低、企業特殊性:低)...契約(取引的/服従重視)
・第4象限(戦略価値:低、企業特殊性:高)...提携(パートナー/協働)
●新たな人材ポートフォリオの考え方
・第1象限(知識レベル:高、企業特殊性:高)...正社員
・第2象限(知識レベル:高、企業特殊性:低)...〈取引費用大〉正社員(期待)・契約社員、〈費用小〉アウトソース
・第3象限(知識レベル:低、企業特殊性:低)...〈取引費用大〉正社員(期待)・非正社員、〈費用小〉アウトソース
・第4象限(知識レベル:低、企業特殊性:高)...〈システム化できない〉正社員(期待)・非正社員、〈システム化できる〉第3象限へ

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This page contains a single entry by wada published on 2006年8月11日 16:54.

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