【106】 ◎ 小倉 昌男 『小倉昌男 経営学』 (1999/10 日経BP社) ★★★★★

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面白かった。卓越したアイデアと倫理的な人柄が伝わってくる本。

小倉 昌男 『小倉昌男 経営学』.jpgogura.jpg 『小倉昌男 経営学』 〔'99年〕 31572675.jpg自ら語る小倉昌男の経営哲学 (日経ベンチャーDVD BOOKS)]

 '05年7月に80歳で逝去した元ヤマト運輸社長の著書(没後すぐにDVD BOOKなど多くの特集企画が組まれた)。
 すでに'95年に同社の会長をスッパリ退き、この初めての自著が出たときには、福祉財団の仕事に専念していました(『福祉を変える経営-障害者の月給1万円からの脱出』('03年/日経BP社)という著書もある)。

 「宅急便」はヤマト運輸の商標ブランド名だということを、遅ればせながら本書で知りました。
 著者は、昭和51年に日本で初めて個人宅配事業をスタートさせるのですが、成功の可否を探る労働生産性やマーケティングに関する考察過程が描かれていて、運輸業界の実態も分かり面白かったです。
 セミナーや他業種から学ぼうとする姿勢が素晴らしいと思いました。
 マンハッタンの交差点にUPS(米国の運送会社)のトラックが4台停まっているのを見て、"集配単位の損益分岐点"というものを着想したのも、四六時中、新規事業のことが頭にあったからでしょう。
 「吉野家」や「JALパック」からサービスの形態を学んだり、"ハブ空港"の仕組みから集配ネットワークシステムをモデル化したり、本当によく考え、また自ら周囲を説得して実行する経営者だったのだなあと。

 セールスドライバーは"寿司職人"であるという発想がわかりやすいです。
 社員の仕事への誇りを大切にし、労働組合を経営に生かし、人事においては年功序列を排し、組織フラット化を図ることを提唱しています。
 人事評価というものは難しく、上司の評価だけでは頼りにならないので「下からの評価」「横からの評価」を入れるが、評価項目は実績ではなく"人柄"だと言い切っています。

 日本では客観的に通用する実績評価の方法は見当たらず、一方、人柄の良い社員は顧客にも喜ばれるのは確かだからと。
 社員数が、NTTやJR東日本を除いた純粋な民間企業では最も多いというのは知りませんでした。もちろん、財務体質の強化も図っている。宅急便事業は日銭の入る商売だというのもナルホドと。

 三越の岡田社長の専横に憤慨し、得意先としての関係を断つ話も冒頭にありますが、社長在任中の最大の"ケンカ相手"は旧通産省。マスコミを利用して世論を味方につけるやり方がうまいと思いました。
 「ミスター規制緩和」と言われた著者の、卓越したアイデアと倫理的な人柄が伝わってくる本です。

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