【107】 ○ 野中 郁次郎/紺野 登 『知識経営のすすめ―ナレッジマネジメントとその時代』 (1999/12 ちくま新書) ★★★☆

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「ナレッジマネジメント」の概念整理には役立つが、応用するのはたいへん。

知識経営のすすめ.jpg ナレッジマネジメント.png 野中郁次郎氏.jpg 野中郁次郎・一橋大名誉教授
知識経営のすすめ―ナレッジマネジメントとその時代』ちくま新書〔'99年〕 

 「ナレッジマネジメント」というのは日本にとって"逆輸入"概念であり、では誰が最初に"輸出"したのかと言えば、野中郁次郎氏ということになるのでしょうが、本書は、その野中氏自身と広告会社出身の紺野氏による「知識経営」(ナレッジマネジメント)の一般向け入門書です。

 米国企業がこぞって力を入れた「ナレッジマネジメント」というものが、ベストプラクティス知識の共有を主眼としたもので、情報システムを整備して意味情報を活用しようとするこうした動きは、あくまでも「形式知」寄りの「ナレッジマネジメント」で、本来の「ナレッジマネジメント=知識経営」の初期兆候にすぎず、本書ではそうした「ナレッジマネジメント」を敢えて「狭義の知識経営」とし、本来の「知識経営」とは概念区分しています。
 データベースは「情報」に過ぎず、「知識」は人の中にあるという考えはわかりやすいし、同時に、共有化することの難しさもそこにあると思います。

ナレッジマネジメント2.png 本来の「知識経営」における知識創造のプロセスは、「暗黙知」と「形式知」の相互作用であるべきで、そこで出てくるのが有名な野中理論、「SECI(セキ)」という共同化・表出化・統合化・内面化から成る暗黙知・形式知の変換プロセスですが(「統合化」を「結合化」や「連結化」とすることもある―この理論は先に英文で発表された)、この辺りから、理論的にはきれいだが、実際の経営現場での応用イメージが涌きにくくなるような気がしなくもありません。
 それに救いの手を差し出すかのように、後段で「知識創造」を促す「場」の役割と重要性を説き、そのデザイン方法を示していますが、個人的にはどうしても「理論的にはきれいだけど...」という印象はやはり残りました。
 ホンダの「わいがや」など具体例もありましたが、企業文化として既にそうしたベースがある企業とない企業とでは、障壁の高さが異なると思います。

 今読んでも、本書の趣旨はよくわかるのですが、"職人"的ベテランにとって「暗黙知」は自らの雇用の生命線だったりもするので、暗黙知を形式知に変換することを促すような組織風土やシステムを作らないと、知識ワーカー個々が「志の高さ」を持つといった個人倫理に依存するだけではうまくいかないという気もします。

《読書MEMO》
●SECIプロセス(111p)
◆共同化:暗黙知からあらたに暗黙知を得るプロセス(身体・五感を駆使、直接経験を通じた暗黙知の共有、創出)
◆表出化:暗黙知からあらたに形式知を得るプロセス(対話・思慮による概念、デザインの創造(暗黙知の形式知化))
◆統合化:形式知からあらたに形式知を得るプロセス(形式知の組み合わせによる新たな知識の創造(情報の活用))
◆内面化:形式知からあらたに暗黙知を得るプロセス(形式知を行動・実践のレベルで伝達、新たな暗黙知として理解・学習)

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This page contains a single entry by wada published on 2006年8月16日 13:37.

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