【3312】 ◎ 東京弁護士会 親和全期会 『こんなところでつまずかない! 労働事件21のメソッド (2019/02 第一法規) ★★★★☆

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体験談中心だがその体験談がシズル感があった。新人弁護士に限らずお薦め。

労働事件21のメソッド.jpg 『こんなところでつまずかない! 労働事件21のメソッド』['19年]

 本シリーズは、新人や若手で経験の浅い弁護士がつまずきやすい事柄を、先輩弁護士が「21のメソッド」として示唆したものです。新人・若手の弁護士が事前に注意すべき事柄を理解し、その分野についての苦手意識・不安を軽減することを意図したもので、本書はその第7弾となる「労働事件」対応編です。

 タイトルに「21のメソッド」とあるように、労働者性、就業規則の不利益変更、休職規程、残業代計算、労働時間の把握、監督者、固定残業代といった係争になりやすいテーマと解決のポイントを21メソッド(章)にわたり取り上げていますが、それぞれ冒頭の概説は基本知識や留意点、判例などを簡潔にまとめ、続いて各テーマについて先輩弁護士の2~3の体験談を、全体では15名の弁護士が50近い体験談を寄せています。

 この体験談の中には、使用者側の相談に応じたものと労働者側の相談に応じたものがそれぞれあり、裁判になったものありますが、労働審判や話し合い等の裁判外での解決例も多く含まれています。さらに、上手く決着したものもあれば、やや不本意な結果に終わったものもあり、こうすればよかったという率直な反省などもあって、非常にシズル感のあるものとなっています。また、体験談の中で振り返りも行われていますが、加えて各章の終わりに、留意すべき点が「ワンポイントアドバイス」としてまとめられているが親切であり、それらが体験から導き出されているので説得力があります。

 解雇権濫用法理についての章がありますが、その前に、ハラスメントについて、ここだけ使用者側の立場からと労働者側の立場からとで各1章を割いているのが、昨今の労働事件の情勢を反映しているように思いました。使用者側に立つ場合は「甘い調査には辛い助言を」、労働者側に立つ場合は「裁判だけが能じゃない」と、アドバイスもシンプルに的を絞ったものになっているのがいいです。

 実際の労働事件は、裁判で勝つか負けるかではなく、話し合いなどを通じて双方が合意できる落としどころをどのように探るかが非常に重要になってくるということを改めて感じました。弁護士に相談が寄せられた案件ですらそうですから、この考え方は、現場で生じる個別労使紛争に広く通じると思われます。ただ、その落としどころの"相場感"というものは、裁判となった事例の判例集は多くあっても、裁判外で解決した事例を集めたものはあまりないため(本書でも紹介されている濱口桂一郎氏の執筆による『日本の雇用終了―労働局あっせん事例から』(2012年/労働政策研究・研修機構)があるが)、そうした"相場感"をつかむ上でも、本書は貴重であるように思いました。

 体験談を主とした構成であるため、物語を読むように読めますが、同時に多くの示唆を含んでいるように思いました。冒頭に紹介したように、先輩弁護士たちが労働分野での経験が浅い後輩弁護士のために書いた本ですが、弁護士の体験を追体験できるという意味では、企業内で労務に携わる人や社会保険労務士などコンサルタントが、労働事件(予防も含め)に対峙する際の知識・センスを身に着けるうえでも参考になる本であり、一読をお薦めしたいと思います。

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