【3313】 ○ 大内 伸哉 『会社員が消える―働き方の未来図』 (2019/02 文春新書) ★★★★

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AI時代の新しい働き方を予測し、その課題、何をしなければならないかを考察。

『会社員が消える』.jpg 『会社員が消える 働き方の未来図 (文春新書 1207) 』['19年]

 近年、副業解禁や解雇規制の緩和といった議論が進み、就職協定の廃止、高度プロフェッショナル制度導入などが進んでいます。また、近い将来AIが多くの業務を担うようになり、雇用が激減するのではないかとの見方もあります。本書は、こうした一連の流れを背景に、これからの雇用はどうなるのかを、労働法学者である著者が予測し、さらに現状の課題を指摘した本です。

 第1章では、技術革新はビジネスモデルを変えるとともに、仕事も変えるとしています。会社員の「棚卸し」が始まり、定型作業はAIに代替され、人間に残された仕事は創造的で独創的なものとなり、そうしたスキルを持つプロ人材と機械の協働の時代になるとしています。その結果、多くの雇用を抱える大企業は生まれにくくなり、企業中心の社会から、プロ人材がネットワークでつながる個人中心の社会になると予測しています。

 第2章では、そうした中、これまでの働き方の常識は通用しなくなり、日本型雇用システムも変わらざるを得ないだろうとしつつ、そもそも日本型雇用システムとは何かを振り返り、正社員の雇用はなぜ守られてきたのかを説明しています。さらに、プロ人材になるとはどういうことかを考察し、雇用は自分で守らなければならなくなり、個人に求められるのは、自分の能力を発揮できる転職先を見つける力であるとしています。

 第3章では、働き方の未来を予測しています。テレワークは、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方で、生産性が高まるメリットは大きいが、なかなか普及しない背景には法制度の壁があることを指摘しています。また、テクノロジーで従業員の健康状況を把握する"健康テック"にもメリット、デメリットがあるとし、さらに、人事にAIを導入する"HRテック"のメリット、デメリット、将来性などについても考察し、先端技術を活用してフリーで働くのが理想的な働き方になるためには何が必要か、問いを投げかけています。

 第4章では、会社員と個人自営業者の間には、たとえばクラウドワーカーらが厳しい就労状況に置かれているなど、現状ではさまざまな格差があり、企業に帰属しない働き方をサポートするための新たなセーフティネットが求められるとし、自助を支える公助や共助としてどのようなものが考えられるかを考察・提案しています。

 第5章では、人生100年時代に必要なスキルとは何か、副業という視点からの適職探しを勧めるとともに、学ぶとはどういうことか、創造性とは何かを考察しています。この章は主として若い読者向けに書かれた章とも言えるのではないかと思います。

 「AIが雇用を奪う」「10年後の仕事はどうなる」的な内容の本は昨今かなり刊行されており、個人的にも何冊か読みましたが、いずれもトレンドウォッチング的で、新聞や週刊誌、ビジネス誌の記事をまとめ読みしたような印象でした。将来の予測となると(ざっくり言って大規模な"ワーク・シフト"が起きるのは間違いないが)時期や分野など細かい点はかなり不確定要素が多いように思いました。

 その点、本書は(本書もまた「いつか」という表現を使い、「いつか」がいつ来てもいいように備えよ、という言い方にはなっているが)、労働法学者として視点が一本の軸としてあって、その上で、新しい働き方が拡がるには何が課題としてあるか、何をしなければならないかを、自助・公助・共助のそれぞれの観点から分析・提案しており、これからの個人と企業の関係の在り方を探っていくうえでも示唆に富むものでした。しいて言えば、プロ人材になり切れなかった人はどうすればいいのか、そのあたりが見えないのが難点でしょうか(とりあえず今のところあらゆる可能性に満ちている若い人に向けて書かれているということか)。

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