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出演:阿部サダヲ
『シャイロックの子供たち』『シャイロックの子供たち (文春文庫)』 映画「シャイロックの子供たち」(2023)
ミステリとしては「完結」はしていなくとも、経済小説として面白かった。
中小企業や町工場がひしめく地域にある東京第一銀行・羽田支店。出世を諦めないシャイロックたちは、ぎすぎすした空気の中、融資の成績あげるため奮闘してた。その中でも副支店長の古川一夫は、自分の出世のため部下たちにも厳しいあたりを続けていた。そんな中、支店内で100万円の現金が紛失する事件が起き、女子行員の北川愛理に疑いがっかかる。三枚目だが部下からの信頼が厚い営業課の課長代理・西木雅博は、愛理の無実を信じ、真犯人の究明に執念を燃やす。しかし、その西木が、ある日突然失踪してしまう―。
2006年刊行のかつて銀行員だった作者得意の銀行小説で、銀行という組織を通して、普通に働き、普通に暮すことの幸福と困難さに迫った群像劇です。2006年と言えば、2002年初めから始まった景気回復の途上で、緩やかな景気拡大がだらだら続いていたものの、失業率もまだ4%台で(2年後にはリーマン・ショックを迎えることになる)、小説の中の東京第一銀行・羽田支店も、取引先は疲弊した下請け工場などが多く占める状況です。
物語は、そうした銀行の支店内で起こる様々な出来事を、最初は連作短編風に描いていきます。そんな中では、支店のエース滝野真と同世代の遠藤拓治が、新規の顧客が獲得できたとして上司の鹿島を会わせたいと連れて行ったのが神社で、狛犬に向かって「上司の鹿島でございます」と深々と頭を下げたというエピソードが印象的でした(要するに心を病んでしまっていたわけで、結局遠藤は入院していまう)。そして、エースと思われていた滝野にも架空融資の疑いが...。
西木が失踪したあたりから、1つ1つのエピソードがまったく別々の話ではなく、少しずつ繋がっていることが窺えるようになり、このあたりは上手いなあと思いました。全体としては、西木はどこへ行ったのかという推理サスペンス風の展開になっています。そして、滝野が架空融資を行い、その補填として100万円の現金に手をつけたと知った西木は、滝野に不正融資を持ち掛けた不動産会社社長の石本(半分ヤクザ)の手で殺され、どこかに埋められているらしいと―。
しかし、気乗りしないまま社命で失踪した西木の家族がいる社宅を訪ねたパート社員の河野晴子は、彼女自身が銀行という組織に夫を殺された一人でしたが、何か西木の生活に訝しい点を感じ、さらに、滝野が現在逃亡中の石本と繋がっていた資料を赤坂支店に引き取りに行った際に、その中で西木と石本が繋がっていた資料をみつけてしまいます、
どうやら西木は石本に対する兄の負債の連帯保証人になっていて、何億円という借金を背負っていたらしい―このことによって、事件に関する新たな考察が繰り広げられます。しかし、作者は最後まで完全に謎解きをすることはしていないのは、これは推理小説ではなく企業小説だという前提があるためでしょう(謎解きが主題ではないということ)。このもやっとした終わり方で評価は分かれるかもしれません。実際、「半沢直樹シリーズのようなスッキリ解決感がなかった」という読者も多かったようですが、読者に考えさせるという意味で、個人的には悪くなかったと思います。
2022年10月9日から11月6日まで、WOWOWプライムの「連続ドラマW」枠にて井ノ原快彦(西木雅博役)主演でドラマ化されていますが、観ていないので、結末をどう扱ったのか知りません。今年['23年]、池井戸作品初の映画化となった「空飛ぶタイヤ」の本木克英監督により、阿部サダヲで(西木雅博役)主演で映画化されたものが公開予定なので、そちらの方を観てみたいと思います。

(●2023年2月20日に映画化作品が公開された。同じく池井戸原作の映画「空飛ぶタイヤ」(2018年)で監督を務めた本木克英をはじめとしたメインスタッフが再集結し、小説ともドラマとも異なる展開で、柄本明が演じる長原支店の客で"謎の男"沢崎など映画独自のキ
ャラクターが登場するオリジナルストーリーだった。まず、阿部サダヲが演じる西木は、原作のように行方をくらましたりせず、事件の黒幕は別にいて、西木がそれを突き止めた上で、沢
崎と組んで彼らに"倍返し"するという(何となく予想はしていたが)「半沢直樹」的な勧善懲悪ストーリーになっている。映画的カタルシスを重視したということだろう。西木も最後は沢崎から"成功報酬"を受け取りそれで借金を返すが、その代わり銀行員は辞めるという―まあ、自分で「このお金を受け取ったら銀行員を辞めなければならない」と自分で言っていたから、これは仕方がないことか。上戸彩が演じる西木のかつての部下・北川愛理が、後日エレベータでちらっと見かけた西木が、今何をやっているのか気になるところだが、何なくさっぱりした表情だった。阿部サダヲは演技のテンポが良かった。)

「シャイロックの子供たち」●制作年:2023年●監督:本木克英●脚本:ツバキミチオ●撮影:藤澤順一●音楽:安川午朗●原作:池井戸潤●時間:122分●出演:阿部サダヲ/上戸彩/玉森裕太/柳葉敏郎/杉本哲太/佐藤隆太/渡辺いっけい/忍成修吾/近藤公園/木南晴夏/酒井若菜/西村直人/中井千聖/森口瑤子/前川泰之/安井順平/徳井優/斎藤汰鷹/吉見一豊/吉田久美/柄本明/橋爪功/佐々木蔵之介●公開:2023/02●配給:松竹●最初に観た場所:TOHOシネマズ西新井(23-03-15)(評価:★★★☆)
【2008年文庫化[文春文庫]】
●文庫Wカバー版






ドラマ版の方は、そもそも主役が倉田ではなく、相葉雅紀が演じる息子の健太が"ヒーロー"になっていて、それに合わせて沢尻エリカのような原作に無い役どころの女性が"ヒロイン"として出てきたりします。本来は倉田という個人において、会社の問題と家庭問題とで「内憂外患」状態のまま事態がダブル進行していくことがこの作品のミソであって、息子を主人公にしてしまったのでは...。ラストは謝る謝らないで、土下座までは行かなかったけれど、殆ど「半沢直樹」風の世界に改変されていました。







●2020年ドラマ化(「半沢直樹(2020年版)」)【感想】
めるけれどプロセスは読めない」という意味でよかったのではないか。尾上松也、片岡愛之助とほかにも歌舞伎役者が出ているが、とりわけ香川照之、市川猿之助
の「顔芸」はこうした"劇画"調の「現代の時代劇」的ドラマと相性がいいのかもしれないと思った(片岡愛之助や進政党幹事長役の柄本明も含め「顔芸」合戦の様相を呈していた(笑))。




大手総合電機会社ソニックの子会社である中堅電機メーカー東京建電で住宅関連商品を扱う営業4課の課長・原島万二(45)は、名前通りの万年二番手でたいした実績がない平凡なサラリーマンだったが、一方、原島と対照的に花形部署の営業1課に38歳という最年少で昇進しメキメキと業績を上げていた坂戸宣彦が、万年係長と揶揄される八角民夫(50)(通称ハカック)からパワハラを訴えられて突然更迭される。やる気のない八角に対し、10歳以上年下である坂戸は課員の面前で罵倒し続けたのだった。営業部のエースは失脚で、代わりに一課長に就任したのが原島だったが、坂戸がパワハラで訴えられたことには"裏"があったのだ。それは、東京建電にとって会社存続をかけた死活問題であり、親会社のソニックにしても子会社の不祥事と連結決算で受けるダメージは底知れない重大事件だった―。
ドラマでは、原作の最後にある調査委員会の聴取を冒頭に持ってきて、常にそこからの振り返りという形でストーリー展開しているせいもあって、このこと
がかなり全体のトーンを重苦しく暗いものにしている感じがしました。しかし、役者陣は、東山紀之(原島)の周りを、同時期にスタートしたTBS日曜劇場「
われます。「半沢直樹」のような派手さはないけれど、こちらの方を評価する人もいたみたいです(個人的には「半沢直樹」の方が面白かったが、反面、「半沢」には引っ掛かる部分もあった)。「半沢直樹」は個人に起因する不正融資を描いていますが、こちらは企業ぐるみのリコール隠しなわけで、民放でやってもスポンサーが嫌うかも。その意味ではNHKらしいと言えばNHKらしいドラマ。2つの内部告発が出てきますが、最初のカスタマー室長・佐野の社内での内部告発は、グループ企業内で秘密にされ、原島もその方針に従う―こうなるともう、八角(ハカック)のようなマスコミを使ったやり方しかないのか(「半沢」も同じ手を使っていたが)。

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(●2019年映画化。監督は「半沢直樹」「下町ロケット」などの演出を務めた福澤克雄であり、主演の八角役の野村萬斎は目新しいが、あとは香川照之、及川光博、片岡愛之助といった「半沢直樹」の顔ぶれが並ぶ。トーンも完全に娯楽性とテンポを重視した「半沢直樹」の作りと同じで、「半沢直樹」の再現みたいだ。NHKドラマのシリアスな作りもいいが、このような劇画調も、映画になっても愉しめることがわかった。野村萬斎の「八角」は、テレビで吉田鋼太郎が演じた「八角」とは違った味があった(映画「
における極端に狂言調の彼とも違う)。原作は「原島」から始まって「八角」で終わっている印象だが、ドラマは東山紀之演じる「原島」から始まって「原島」で終わっている印象を受けた。それに対し、映画は、野村萬斎演じる「八角」で始まって「八角」で終わっている印象で、及川光博演じる「原島」はやや後退している感じ。狂言師 vs.歌舞伎役者の"顔芸"対決になったが、なぜか立川談春、春風亭昇太といった落語家も参戦(笑)、オリラジの藤森慎吾まで出ていたなあ。
「七つの会議」●制作年:2019年●監督:福澤克雄●脚本:丑尾健太郎/李正美●音楽:服部隆之(主題歌:ボブ・ディラン「メイク・ユー・フィール・マイ・ラヴ」●原作:池井戸潤●時間:119分●出演:野村萬斎/香川照之/及川光博/片岡愛之助/音尾琢真/藤森慎吾/朝倉あき/岡田浩暉/木下ほうか/土屋太鳳/小泉孝太郎/溝端淳平/
春風亭昇太/立川談春/勝村政信/世良公則/鹿賀丈史/橋爪功/役所広司/北大路欣也●公開:20219/02●配給:東宝(評価:★★★★)



バブル期に入行し、大阪西支店の融資課長を勤める半沢直樹は、支店長の浅野の強引な指示で無担保でへの5億円の新規融資を実行したが、7ヵ月後に当の相手企業が不渡りを出し倒産、半沢は支店長から融資の責任を一手に負わされ、窮地に立たされる。雲隠れした倒産会社社長の東田を捕まえることはできるのか、果たして5億円を回収できるのか―。(『オレたちバブル入行組』)
ビデオリサーチ速報値での「最終回」の平均視聴率42.2%、瞬間最高視聴率 46.7%(何れも関東)を記録したTBS日曜劇場「半沢直樹」(関西は平均45.5%、瞬間最高50.4%)の原作で、ドラマの第1部の「西大阪スチール」の話が『オレたちバブル入行組』、第2部の「伊勢島ホテル」の話が『オレたち花のバブル組』に対応していますが、原作もドラマも面白かったように思います。
原作では主要な登場人物のそれぞれの出自などに踏み込んで描かれていて、但し、ネジ製造工場経営の半沢の父親が自殺したという話は原作にはありません(彼が学生時代に剣道をやっていて今も時々道場に足を運ぶ、という話も)。片岡愛之助(この人、実生活では歌舞伎とは無縁のスクリュー製造工場を営む家庭に生まれ、両親は20代の頃に相次いで他界している)が演じて、そのオネエキャラで話題となった国税庁の黒崎は、原作でもオネエキャラです。但し、本格的に登場するのは、大阪国税局就航中の『オレたちバブル入行組』よりも、金融庁に戻って主任検査官となった『オレたち花のバブル組』に入ってからで、しかもそう頻繁に登場するキャラクターでもなく、人気が出て、ドラマの方での出番が原作より多くなっているようです。
浅野支店長(石丸幹二)に株取引の失敗で重ねた5千万もの借金があり(原作では3千万円)、大和田常務(香川照之)の妻の会社は1億円以上の借金を抱えているという―2人とも不正を働く動機としては分かり易いけれど、銀行のお偉いさんってこういう人ばかりなのかなあ。バブルの夢よ、もう一度、か。



剛士/宮川一朗太/森田順平/緋田康人/石丸幹二/中島
裕翔/壇蜜/福田真夕/松本さやか/モロ師岡
/石丸雅理/大谷みつほ/相築あきこ/志垣太郎//三浦浩一/長谷川公彦/牧田哲也/岡山天音/小須田康人/吉永秀平/井上肇/加藤虎ノ介/松永博史/西沢仁太/山田純大/髙橋洋/倍賞美津子●放映:2013/07/07~09(全10回)●放送局:TBS





●2015年再ドラマ化 【感想】 全10話の後半は、朝日新聞連載「下町ロケット2ガウディ計画」が原作(「下町ロケット2ガウディ計画」は朝日新聞の広告面に連載され、"連載"というより、単行本刊行直前の
メディアミックスといった印象だった)。ドラマは、主役の阿部寛はまずまずの演技か。新聞連載とドラマの同時進行で最終回の視聴率は22.3%と民放ドラマの年間最高視聴率を記録したから、メディアミックスとしては成功したと言える。但し、2013年に同じくTBSで放送された「半沢直樹」の最終回の42.2%には遥かに及ばない。

プロデューサー:伊與田英徳/川嶋龍太郎●脚本:八津弘幸/稲葉一広●音楽:兼松衆/田渕夏海/中村巴奈重●原作:池井戸潤「下町ロケット」「下町ロケット2ガウディ計
画」●出演:阿部寛/土屋太鳳/立川談春/安田顕/真矢ミキ/恵俊彰/倍賞美津子/吉川晃司/杉良太郎●放映:2015/10~12(全10回)●放送局:TBS



'10年7月にNHKの「土曜ドラマ」で全5話にわたってドラマ化されましたが、その際に監修協力を求められた郷原氏は、「原作が全くゼネコンの仕事と乖離し、リアリティの無さに議論に値しない」とし、ドラマについても、「談合を個別の企業、個人の意思によって回避できる問題のようにとらえる原作とは異なり、単純に善悪では割り切れない問題ととらえている点は評価できるが、談合構造の背景の話がないので、なぜ談合に同調するのかが一般人には理解できないのではないか」と、twitterでなかなか手厳しい評価をしていました。
原作は人物造形がステレオタイプと言えばステレオタイプで、但し、個人的には文芸的なものは期待せずに単純に「企業小説」として読んだため、山崎豊子クラスとはいかないまでもまあまあ面白く感じられました。ドラマも、同じ「土曜ドラマ」枠で'07年に放映された「ハゲタカ」などに比べるとやや地味ですが、「ハゲタカ」が『ハゲタカ(上・下)』、『バイアウト(ハゲタカⅡ)(上・下)』という2つの原作(単行本4巻!)を全6話の中に"無理矢理"組み入れたものであったのに対し、こちらは原作1冊に準拠しているようなので、一貫性という意味ではスッキリしたものになるのではないかと...。
しかも、殆ど新たに造ったキャラクターに近い志賀廣太郎の"長岡"が、検察の追及と会社の板挟みになって自殺するという原作には無い展開で(原作が直木賞の選評で「人物の描き方が浅い」という理由で落選したのを意識したのか?)、さすがにこれには原作者の池井戸潤氏も、「どんどん原作から離れていきますね。まさにNHK版『鉄の骨』です」と自らのブログで書いていましたが、「このテンションで最終回まで引っ張ってくれないかなあ。そしたら、すごくいいドラマになる予感がします」とのエールも送っています(でも、「ハゲタカ」ほどまでのテンションは上がらなかったような気がする)。


