【1941】 ○ アガサ・クリスティ (村上啓夫:訳) 『忘られぬ死 (1953/12 ハヤカワ・ミステリ) ★★★☆

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描写形式によって更に犯人は絞られる? クリスティらしい作品だが、前半部分がやや冗長か。

忘られぬ死 クリスティー文庫.jpg 忘られぬ死 ハヤカワ文庫09.jpg 忘られぬ死 ポケット・ミステリ - コピー.jpg 忘られぬ死 ポケットミステリ.jpg  忘られぬ死 01.jpg
忘られぬ死 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』『忘られぬ死 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 1‐80))』『忘られぬ死 (1954年) (Hayakawa poket mystery books)』 /英国コリンズ版初版

SPARKLING CYANIDE rd.jpg 男を虜にせずにはおかない美女ローズマリー・バートンが、ロンドン市内にの高級レストランで催された自身の誕生パーティーの席上で、青酸が入ったシャンペンを飲んで死亡してから1年が経つ。その時に同席していたのは、ローズマリーの夫のジョージ・バートン、ローズマリーの妹のアイリス・マール、ジョージの有能な女性秘書ルース・レシング、バートン家の隣人で将来を嘱望された若手下院議員スティーヴン・ファラデーとその妻アレクサンドラ、ローズマリーの友人のアンソニー・ブラウンの6人。警察の捜査の結果、ローズマリーが誕生日前にインフルエンザに罹り、病み上がりでふさぎこんでいた事や、彼女のバックの中から青酸を包んでいた紙が発見されたことなどから、事件は自殺として処理された。だが夫のジョージは、彼女に自殺する動機もければその素振りもなかったことから、その死に疑惑を抱いていた。
Sparkling Cyanide: A BBC Full-Cast Radio Drama

Sparkling Cyanide - Pan 345.jpg ローズマリーの死から半年後、ジョージは彼女の死は自殺ではないと記された匿名の手紙を受け取った。その半年後、ローズマリーの死から1年になる万霊節の夜に、ジョージはローズマリーが死んだときにパーティーに参加していた人々を集め、同じレストランでパーティーを催すことにした。彼はこのパーティでローズマリーの死の真相を明らかにしようとしていた。席は1年前と同様に7つ用意されたが、余った席には当然誰も座っていない。参加者はまず主賓アイリスの誕生日と健康を祝って乾杯をし、フロアショーを見た後でダンスに興じるが、ダンスが終わりテーブルに戻った一同を前に、ジョージがローズマリーを偲んで乾杯をした直後、彼は倒れてそのまま死んでしまう。1年前のローズマリーと同じく青酸による中毒死だった―。

Pan Books (1955)

 1945年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で(原題:Sparkling Cyanide(泡立つ青酸カリ))、ポアロもミス・マープルも登場しないノン・シリーズものですが、ポワロが登場する短編「黄色いアイリス」をベースに長編化され作品であるとのことで忘られぬ死 1947.jpgす。元が短編だったということもあってか、クリスティの長編にしては登場人物がそれほど多くない方ではないでしょうか。

 しかも、前半部分は、亡くなったローズマリーを巡る彼・彼女らの思いが心理小説風に綴られていて、そのうち、心理的内面を詳しく描いているアイリスをはじめ何人かは自然と犯人候補から外れることになり、逆に、内面があまり描かれていない人物は怪しくなり、そうし描写形式によって更に犯人は絞られていくように思いました(外部の犯行や外部共犯者も可能性としては考えられるが)。

米国版ポケットブックス(1947)

 個人的には、前半のローズマリーを巡る男女の心情描写が、文芸小説風で物語に深みを増す一方で、推理小説として読む分にはややまどろこしかったかな。ローズマリーの伯母のルシーラ・ドレイクなんて、話し始めると終わらない感じだし。
SPARKING CYANIDE 2.jpgSPARKING CYANIDE .Pan.jpg でも、警察に協力する形で、『ナイルに死す』などにも登場する、元陸軍情報部部長のジョニー・レイス大佐が捜査に乗り出してからぐっとテンポが良くなり、若手下院議員、その妻などもやはり怪しかったけれど、ルシーラの不良息子ヴィクターがやはり一つのカギかと...。但しこれも、女性秘書ルース・レシングとの関係が早くから示されており、推理小説としては分かり易い方でしょう。
 但し、ジョージ殺人犯はこれでいいとして、では1年前のローズマリーの死は自殺だったのか他殺だったのか、何となくウヤムヤな終わり方をしているようにも思いました。
SPARKING CYANIDE .Pan.1978

 そうしたことを除いては、愛憎の入り組んだ人間関係、犯行に至る動機、複数の容疑者、犯行トリックと偶然に拠る計画の狂い...等々、クリスティらしい作品と言えばそう言えるかも。結果的にはしっかり楽しめましたが、それにしてもやはり前半部分が長すぎたかな。この前半部分を高く評価する人もいるかもしれませんが、それは個人の好みの問題。「推理小説」として読んだ場合には、自分としては冗長感は否めませんでした。

忘れられぬ死 dvd.jpg忘れられぬ死(2003年)axn.jpg「アガサ・クリスティ/忘られぬ死」 (03年/英) ★★★☆

【1953年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(村上啓夫:訳)]/1985年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(中村能三:訳)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(中村能三:訳)]】

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This page contains a single entry by wada published on 2013年7月12日 23:29.

【1940】 ○ アガサ・クリスティ (高橋 豊:訳) 『書斎の死体』 (1956/12 ハヤカワ・ミステリ) ★★★★ was the previous entry in this blog.

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