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演技性を排することを指向する一方で、映画内舞台劇を見せているところが興味深い。

「親密さ」 濱口竜介.jpg「親密さ」3.jpg 「親密さ」5.jpg
「親密さ」

「親密さ」1.jpg 「親密さ」という演劇を作り上げる過程を描いた劇映画と、実際の舞台「親密さ」の記録映像の2部構成。それぞれに虚構と現実が複雑、微妙に交錯し続ける。新作舞台の上演を控えた令子(平野鈴)と良平(佐藤亮)はコンビで演出を手がけているが、そのやり方に限界が見え始めてきていた―。

 濱口竜介監督・脚本による2012年製作映画で、俳優養成の専門学校・ENBUゼミナールの演技コースの修了作品としてスタートした企画から生まれた255分、4時間超の長編であり、2012年7月28日オーディトリウム渋谷での「濱口竜介レトロスペクティヴ」で上映されています(同監督の一連の過去作品と併せて上映されたため「レトロスペクティヴ」(回顧展)というイベント名になっているようだ)

「親密さ」4.jpg 前半の舞台演劇を作り上げていく過程の部分は、そこまでが現実でどこまでが演技か分からない部分もあり、こうした作りは、同監督の「ハッピーアワー」('15年)などに受け継がれているなあと。朝鮮半島で戦争が始まったという設定は、オムニバス映画「偶然と想像」('21年)の第3話「もう一度」でも、2019年、強力なコンピュータ・ウィルスが大発生し、インターネットが遮断され、世界は郵便と電話だけの古いシステムへ逆戻りしていたというSF的設定があったことを想起させられました。

「親密さ」6.jpg 演出の令子が舞台の出演者たちにいきなり政治的なインタビューをしたり、超長回しのシーンがあったりと、実験的な要素は多いです。舞台稽古の途中で主役の衛(まもる)役を託してした男性が去り、良平自身が主役を演じることになるというのはまさに「ドライブ・マイ・カー」('21年)と同じではないかと。―といろいろありましたが、やはり、第2部の舞台劇に入ってからが、緊張感があって、また時にユーモラスな場面もあってぐっと面白くなったように思います。

「親密さ」2.jpg そして、「短い第3部」とも言えるエピローグ。舞台劇「親密さ」の演出家だった令子は編集者になり、脚本家かつ主演俳優だった良平は(SF的設定のもと)韓国の義勇兵となり、軍楽隊に所属している。その2人が偶然再会し、それぞれの電車に乗り、車内を走り回り、投げキスを交わし合う。山手線と京浜東北線を走る電車が並走し、追いつき追い越し、最終的に二手に分かれて消えていく―。何だか青春映画っぽい結末にも見えますが、平行線で交わらない線路によって「親密さ」を表現するという発想自体が「視線」について考え抜いてきた濱口監督ならではの演出と言えるかと思います(このラストシーン、出演者はカメラがどこにあるかわからないまま演技したそうで、このあたりも濱口監督らしい)。

 早稲田大学教授の藤井仁子氏が、WEB版「神戸映画資料館」で、「『親密さ』には名のあるスターは出ておらず、演技経験の浅い、通常の商業映画であれば現時点で重要な役が回ってくることはまずありえない若者だけでキャストが固められている」が、「はじめから『映画的』であるわけではない彼らの顔と声が、映画が進むにつれてスターに成長していくというのではなく、小さく、また弱くあるままで思いがけない輝きを放っていくさまは感動的」と評価しています。

 4時間に及ぶ長編であるためか、後半の舞台劇の部分だけを上映したこともあったようですが、舞台劇の部分だけだとこの「思いがけない輝きを放っていく」という部分が感じにくいわけで、やはりこの映画は、前半部のドキュメンタリータッチな部分があってこその後半の舞台劇ではないかと思います。

 「ドライブ・マイ・カー」の中の「ワーニャ伯父さん」の舞台の読み合わせシーンで、演技性を排することを指向して、監督自身の演出スタンスの種明かしをしていましたが、この映画の前半部がそれに当たるのではないでしょうか。一方で、映画内の舞台劇としての「演技」見せているところに、濱口作品が「演劇」との密接な繋がりがあることも感じられ(「ドライブ・マイ・カー」もそうなのだが)興味深いと思います。

「親密さ」●制作年:2012年●監督・脚本:濱口竜介●舞台演出:平野鈴●撮影:北川喜雄●劇中歌:岡本英之●時間:225分●出演:平野鈴/佐藤亮/田山幹雄/伊藤綾子/手塚加奈子/新井徹/菅井義久/香取あき●公開:2012/07●配給:ENBUゼミナール●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ2(22-03-29)(評価:★★★★)

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良かった。従来の日本映画の〈非リアリティ〉の壁を打ち破ったという感じ。

「ハッピーアワー」01.jpg 「ハッピーアワー」03.jpg 「ハッピーアワー」02.jpg
Happy Hour [DVD] [Import]」田中幸恵/菊池葉月/三原麻衣子/川村りら
「ハッピーアワー」ws.jpg「ハッピーアワー」1.jpg 兵庫県神戸市で暮らす看護師のあかり(田中幸恵)、専業主婦の桜子(菊池葉月)、学芸員の芙美(三原麻衣子)、科学者の妻の純(川村りら)は、お互いに仲が良く、行動を共にすることが多い。彼女たちは、鵜飼(柴田修兵)が開催したワ「ハッピーアワー」3.jpgークショップに参加する。打ち上げの席上、純が離婚調停を進めていると知ったあかりは、なぜ今まで話してくれなかったのかと怒り、その場を立ち去る。その夜、駅のプラットフォームで倒れた純を桜子は自宅に泊め「ハッピーアワー」2.jpgる。あかり、桜子、芙美、純は温泉へ出かける。あかりと純のあいだにあったわだかまりは消えて、彼女たちは旅行を満喫するが、芙美は、夫で編集者の拓也(三浦博之)と小説家のこずえ(椎橋怜奈)が連れ立って歩いている場面を目撃してしまう。翌日、純は1人だけバスで帰途につく。後日、あかり、桜子、芙美は、純の夫の公平(謝花喜天)からの連絡を受けて、カフェを訪れる。純の行方が分からなくなっているのだという。離婚を望んでいた純が裁判に敗れたこと、そして、純が公平との子を妊娠しているらしいことも、公平の口から語られる。桜子は、中学生の息子が恋人の女性を妊娠させてしまったと知らされ「ハッピーアワー」f.jpgる。夫の良彦(申芳夫)と話し合ったのち、良彦の母のミツ(福永祥子)と共に女性の家を訪ねた桜子は、女性の両親に土下座する。その帰り道、桜子は、自分と良彦の仲を取り持ってくれたのが純であった、と息子に話す。桜子の息子が、フェリー乗り場で恋人の女性を待っていたところ、偶然にも純と出会う。純は、感謝の言葉を告げる桜子の息子に見送られながら、フェリーに乗り込む。純を乗せたフェリーが、神戸の街から遠ざかって行く。こずえ「ハッピーアワー」13.jpgの小説の朗読会が開催される。トークセッションに登場する予定だった鵜飼が途中で退席するが、純を探して朗読会に来ていた公平がその役割を引き継いで、朗読会は無事に終わる。打ち上げでは、公平、桜子、芙美、拓也、こずえのあいだで口論が起こる。その場にいた者たちが次々と席を外し、こずえと拓也が残される。帰りの車中でこずえは拓也に好意を伝える。その言葉に拓也は戸惑うが、こずえとそのまま一晩を明かす。芙美とともに最終電車に乗った桜子は、夫とは久しく性的な関係を持っていないと芙美に告げる。やがて電車が駅に着き、桜子と芙美は電車を降りるが、ワークショップの参加者だった風間(坂庄基)の姿を車内に見つけた桜子は、再び電車に乗る。転倒により足を怪我しているあかりは、松葉杖をつきながら、鵜飼の妹の日向子(出村弘美)が働くバーに行き、鵜飼と打ち解ける。翌朝、芙美は拓也に離婚の意思を伝える。芙美の言葉を聞いた拓也は動揺するが、出社の時間が迫っていたため、家を出て車に乗り込む。同じ頃、桜子は良彦に、風間と性的な関係を持ったことを伝える。その後、職場へ向かった良彦は、交差点で泣き崩れる。一方、病院に出勤したあかりは、いつも失敗を叱っていた後輩の柚月(渋谷采郁)から、泣きながら感謝の言葉を告げられる。あかりは柚月をそっと抱擁する。交通事故にあった拓也は、あかりが勤める病院に運びこまれる。あかりは、廊下にいた芙美を誘って、病院の屋上に上がる。芙美は拓也のそばにいるつもりだという。また4人で旅行へ行こう、と語るあかりの目の前には、神戸の街と海と空が広がっているのであった―。(Wikipediaより)

「ハッピーアワー ロカルノ.jpg 2015年公開の濱口竜介監督作で、主演を務めた田中幸恵、菊池葉月、三原麻衣子、川村りらの4人は、第68回「ロカルノ国際映画祭」で「最優秀女優賞」を受賞しています(予備選考の段階でコンペ部門に正式には入っていなかったこの作品が最終的には賞を受賞し、同監督の「偶然と想像」('21年)の「ベルリン国際映画祭・銀熊賞」の受賞、「ドライブ・マイ・カー」('21年)の「カンヌ国際映画祭・脚本賞」、「米アカデミー・国際長編映画賞」の受賞へと繋がっていった経緯が、アカデミー賞受賞を伝える朝日新聞に出ていて[下]、興味深く読んだ)。本作の製作は、2013年9月から5か月間、KIITOにて開催された「即興演技ワークショップ in Kobe」がきっかけとなっていて、ワークショップの参加に応募した希望者の中から、17名が選考されたたそうですが、参加者の約3分の2とのことですは、それまでに演技した経験が無かったとのことです。

 2014年5月に第3稿の脚本で撮影が開始され、その後、脚本の方は、演技の感触や撮影の状況により、撮影を重ねる中で微調整を加えていって第7稿まで手直しされたそうですが、2015年2月に5時間36分の編集ラッシュ版を上映したのち、3時間20分版や3時間50分版なども製作されたものの、5時間36分版の方が面白いということでスタッフの意見が一致し、これの一部を切り詰めて、5時間17分の上映時間となったとのことです。

「ハッピーアワー」sa.jpg 脚本の改稿を重ねる中で、出演者と面談し、彼女たちが脚本に感じる違和感は修正されていったとのこと(第3稿)。さらに、「語りたいドラマを語ること」と「『演者が口にできないだろう』と思わないセリフを書いていくこと」という2点の課題に取り組むこととなった(第6稿)とのことで、とりわけ後者は、ドキュメンタリーを思わせるようなタッチとなって効いているように思いました。大袈裟に言えば、従来の日本映画の〈非リアリティ〉の壁を打ち破ったという感じでしょうか。個人的には、今までに観た日本映画で最もインパクトが大きかった今村昌平監督の「人間蒸発」('67年)以来の衝撃でした(「人間蒸発」の場合はドキュメンタリーに潜む演技性を露わにしたものだったが)。

「ハッピーアワー」b.jpg 当初は、家庭という守るものを持っている3人の中年男性が、急死した親友の葬儀後、家族や仕事を放り出し、人生を見つめなおす放浪を繰り返すという、ジョン・カサヴェテス監督の「ハズバンズ」('70年/米)という映画における「4人組がひとりを失い、他の3人が精神的な彷徨いを体験する」構造を使おうとしたそうで、(実際その構図は活かされている)、「ハズバンズ」の女性版で、かつ「かつての花嫁たち」という皮肉が込めて(実際4人ともかつて結婚していたか、今も結婚しているが夫婦の危機にあるという設定)「BRIDES」という仮題がつけられていたそうですが、濱口監督が偶々「HAPPY HOUR」とい「ハッピーアワー」cf.jpgう看板を見つけて、「ファニーな響きが、映画が進行するに従って皮肉な働きをする」「ラストをアンハッピーエンドと思わせない力をタイトルが持ち得るんじゃないか」と感じて、これを題名に選んだとのことです(製作段階において資金が底を尽きそうになったため、濱口竜介監督自らネットでクラウドファンディングを呼びかけたが、この時はまだ「BRIDES」という仮題のままだった)。

ネット動画でクラウドファンディングを呼びかける濱口竜介監督

「ハッピーアワー」k.jpeg 確かに、最初は4人ともフツーに日常を過ごしているアラフォーの女性たちに見えたのに、ワークショップの打ち上げの席上で純が離婚調停を進めていると告白したあたりから、それぞれが抱える容易ならぬ問題が浮き彫りになってきて、終盤になればなるほど何れもカタストロフィー(破局)に向かっていうように見えるけれども、アンハッピーエンドかというと、そんな印象も受けない不思議な作りになっているように思いました。

「ハッピーアワー」k.jpg 個人的には実家である神戸が舞台なので親近感がありましたが、今までにないニュータイプの日本映画を観たというか(リアリズムに立脚していることがニュータイプであるならば、今までの日本映画はなんだったのかというのはあるが)、ともかく、5時間17分を飽きさせないで見せる傑作であると思います。

「ハッピーアワー」●制作年:2015年●監督:濱口竜介●製作:高田聡/岡本英之/野原位●脚本:濱口竜介/野原位/高橋知由●撮影:北川喜雄●音楽:阿部海太郎●●時間:317分●出演:田中幸恵/菊池葉月/三原麻衣子/川村りら/申芳夫/三浦博之/謝花喜天/柴田修兵/出村弘美/坂庄基/久貝亜美/田辺泰信/渋谷采郁/福永祥子/伊藤勇一郎/殿井歩/椎橋怜奈●公開:2015/12●配給:神戸ワークショップシネマプロジェクト●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ1(22-03-22)(評価:★★★★★
Bunkamura ル・シネマ1.jpgBunkamura ル・シネマ内.jpgBunkamura ル・シネマ2.jpgBunkamura ル・シネマ1・2 1989年9月、渋谷道玄坂・Bunkamura6階にオープン

 
 
  

[左端]濱口竜介監督(出演)
「ハッピーアワー」14.jpg

「ハッピーアワー」0102.jpg.png.jpg「ハッピーアワー」0102.jpg.png.jpg

「朝日新聞」2022年3月28日夕刊

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内容が飛び飛びでサスペンス部分が分かりにくかったが、アクションは期待以上。

太陽は動かない  2021.jpg 太陽は動かない 吉田修一.jpg 太陽は動かない 2.jpg 
「太陽は動かない」吉田修一『太陽は動かない』藤原竜也/竹内涼真
太陽は動かない 0.jpg 産業スパイ組織・AN通信の諜報員・鷹野(藤原竜也)と、相棒の田岡竹内涼真)。彼らには、24時間ごとにAN通信へ定期連絡しなければ爆死する爆弾を埋め込まれている。彼らは今ある太陽光エネルギーの開発技術に関する国際的な争奪戦の最中にいた。他国のスパイや各国の権力者たちと対峙する中、鷹野の商売敵のデイビッド・キム(ピョン・ヨハン)や謎の女AYAKO(ハン・ヒョジュ)らが暗躍する―。

 羽住英一郎監督の2020年作で、同年5月に公開される予定だったのが、新型コロナ禍により今年['21年]に持ち越されたもの。原作は、吉田修一のサスペンス・アクション小説『太陽は動かない』('12年/幻冬舎)で、コレ、たいへん面白かったです。そこで、映画にも期待して、公開の翌日の土曜日に子どもと観に行きました。

太陽は動かない 40.jpg 原作はスパイ合戦がかなり複雑に入り組んでいて、読んだのは8年くらい前なので、映画を観ながらストーリーの細部を思い出せるかなあと思ったけれども、結果的には、映画を観てもよく分からなかった部分が多かったという感じです。

 一方、アクションの方は、原作を読んだときは、実写は難しく、アニメにでもしないと再現できないのではないかと思っていたところ、これが意外と期待以上に良かったです。ブルガリアなどでの海外撮影をふんだんに取り入れ、かなり大規模かつハードなアクションシーンがありました(やはり、これからはアクションは海外撮影がいい?)。

太陽は動かない 菊池詩織.jpg ただ、映画というものはアクションだけでは成り立たず、ドラマ部分がしっかりしていてこそ印象に残るものとなるはずですが、ドラマ部分がやや弱かったでしょうか。と言うより、見始めてから、何か違うなあと思ったら、鷹野の生い立ちを巡るシリーズ第2作『森は知っている』も取り入れて2作を1本にまとめ、今起きていることと鷹野の過去の、高校時代や子ども時代のこととが交互に出てくる構成でした。

太陽は動かない 菊池詩織2.jpg この構成自体が悪いとは思わないですが、本2冊分を1作に詰め込んだことで犠牲になったのが、プロット部分の描写だったように思います。説明的になり過ぎて全体のテンポが悪くなるのを避けるために敢えてそうしたのかもしれませんが、内容が飛び飛びになってサスペンス的な要素が抜けてしまったように思います。原作を読まずに観た人は、おそらく話の展開についけなかったのではないでしょうか。その分、鷹野の子ども時代や学校時代の描写がしっかりしていればまだいいのですが、どの演技シーンも何となく"作った"感があってイマイチでした(鷹野の学校時代の想い人・菊池詩織を演じた南沙良は、目下「演技修行中」といったところか)。

太陽は動かない ges.jpg でも、大人の俳優陣が頑張った迫真のアクションシーンが思ったより良かったので、評価は「○」にしておきます。原作を読んだとき、鷹野やAYAKOの役を演じきれる役者はあまりいないように思いましたが、藤原竜也は意外と健闘したのではないかと思います("動"だけでなく"静"の演技もできるのが大きい)。この人は、以前にNHKのドラマ「海底の君へ」('16年)で演じた、中学の時に受けたいじめの後遺症に苦しみ、15年後に開かれた同窓会で爆弾を手に元いじめっ子へ復讐しようとする青年役のような、トラウマかな何かを負って、心に暗~い陰を持つ人間の役が似合うように思います。泳ぎが苦手な所謂"金槌"だったらしいけれど、あのドラマの時も今回も〈水〉と格闘していました(泳げるようになった?)。

太陽は動かない ges.jpg太陽は動かない es.jpg 一方、AYAKOの役は、原作が出たころ巷では「ルパン三世」の峰不二子が相応しいとの声を聞きましたが(いきなりアニメに行っちゃうのか)、誰が演じるのかと思ったら、日本人女優ではなく、映画「王になった男」('12年/韓国)でイ・ビョンホンと共演したハン・ヒョジュでした(日本人で見つからなかったのか、デイビッド・キムを演じたピョン・ヨハンとセット売りだったのか。それにしても、映画そものものに対してもそうだが、俳優の発掘・育成においても、今や韓国の方が日本より圧倒的にお金をかけている)。でも、ハン・ヒョジュの役名は原作通りAYAKOのままだったので、韓国語訛りの日本語が気になりました。

 エンディングロールで流れた映像は、最初ボツシーンかと思いましたが、WOWOWでやったドラマの場面集でした(子どもに教えて貰った)。主演は映画と同じ藤原竜也ですが、ネットを観ると「ドラマの方がおそらく原作に忠実なのだろう」とかいう感想がありました。でもウィキペディアによると、ドラマは「原作者である吉田修一監修によるオリジナルストーリーとして放送された」とあるので、やはり映画の方が原作に則っているのでしょう。こうした感想が出る背景にも、映画において内容が飛び飛びになって、サスペンス部分が分かりにくかったことがあるかと思います。


海底の君へ1.jpg海底の君へ2.jpg「海底の君へ」●演出:石塚嘉●作:櫻井剛●制作統括:中村高志●音楽:大友良英●出演:藤原竜也/成海璃子/水崎綾女/市瀬悠也/忍成修吾/淵上泰史/落合モトキ/近藤芳正/神戸浩/モロ師岡/麿赤兒●放映:2016/2/20(全1回)●放送局:NHK

太陽は動かない337.jpg「太陽は動かない」●制作年:2020年●監督:羽住英一郎●製作:武田吉孝/大瀧亮/森井輝/小出真佐樹/古屋厚●脚本:林民夫●撮影:江崎朋生●音楽:菅野祐悟(主題歌:King Gnu「泡」)●原作:吉田修一『太陽は動かない』『森は知っている』●時間:110分●出演:藤原竜也/竹内涼真/ハン・ヒョジュ/ピョン・ヨハン/市原隼人/南沙良/日向亘/加藤清史郎/横田栄司/翁華栄/八木アリサ/勝野洋/宮崎美子/鶴見辰吾/佐藤浩市●公開:20211/03●配給:ワーナー・ブラザース映画●最初に観た場所:TOHOシネマズ上野(スクリーン3)(21-03-06)(評価:★★★☆)
TOHOシネマズ上野.jpgTOHOシネマズ上野2.jpgTOHOシネマズ上野3.jpgTOHOシネマズ上野
総座席数1,424席(車椅子席16席)。
スクリーン 座席数 スクリーンサイズ
1 97席 7.7×3.2m
2 250席 12.0×5.0m
3 333席 14.4×6.0m
4 95席 8.0×3.3m
5 112席 9.7×4.0m
6 103席 10.0×4.2m
7 235席 13.9×5.8m
8 199席 12.0×5.0m

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三角関係? 同性愛? 映画も原作も悪くはないが、共にややすっきりしない。

小さいおうち 2014 2.jpg 小さいおうち  1.jpg 小さいおうち 単行本.jpg
あの頃映画 松竹DVDコレクション 小さいおうち」黒木華/松たか子『小さいおうち

小さいおうち 映画1.jpg 昭和11年、田舎から出てきた純真な娘・布宮タキ(黒木華)は、東京郊外に建つモダンな赤い三角屋根の小さな家で暮らす一家の元で女中として働き始める。若く美しい奥様の時子(松たか子)、家の主人で玩具会社に勤める平井雅樹(片岡孝太郎)、5歳になる息子の恭一とともに穏やかな日々を送っていたある日、雅樹の部下で板倉正治(吉岡秀隆)という青年が現れ、時子の心は揺れていく。タキは複雑な思いを胸に、その行方を見つめ続ける。それから60数年後、晩年のタキ(倍賞千恵子)が大学ノートに綴った自叙伝を読んだタキの親類・荒井健史(妻夫木聡)は、それまで秘められていた真実を知る―。

小さいおうち 金熊賞.jpg小さいおうち 黒木.jpg 2010(平成22)年上半期・第143回直木賞を受賞した中島京子の原作『小さいおうち』の映画化作品で、当時82歳の山田洋次監督は、本作が通算82作目となるとのこと。昭和初期からの時代を背第64回ベルリン国際映画祭.jpg景に、赤い屋根の小さな家で起きた密やかな"恋愛事件"を巡る物語で、時子役を松たか子、晩年のタキを倍賞千恵子が演じましたが、若き日のタキに扮した黒木華(「クラシックな顔立ち」が決め手となり起用されたという)が、第64回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(女優賞)を受賞しています(「にっぽん昆虫記」の左幸子、「サンダカン八番娼館 望郷」の 田中絹代、「キャタピラー」の寺島しのぶに次いで日本人4人目の受賞)。

黒木華 in 第64回ベルリン国際映画祭(2014年2月15日)(c) JEAN−LOUIS TORNATO

 山田洋次監督が"不倫映画"を撮った―といった言われ方で話題になったりもしましたが、この作品の前年に撮った「東京家族」('13年)が小津安二郎の「東京物語」('53年)のリメイクと考えられることからすると、この「小さいおうち」は、小津の「早春」('56年)あたりと呼応する作品かなと思ったりもしました。

小さいおうち 映画4.jpg 本作は、黒木華が演じる「女中」タキ、松たか子が演じる「奥様」時子、吉岡秀隆演じる「青年」板倉の三人が主要登場人物で、タキの視点で語る時子と板倉の不倫関係が物語の中心になりますが、ネットでの映画評の中には、この三人が三角関係にあり、それゆえにタキは、出征することになった板倉に会いに行こうとする時子に、板倉と会う代わり、板倉の方から訪ねるよう手紙を書かせておきながら、その時子の手紙を板倉に渡さなかったのだという解釈のものがありました(中には、タキと板倉はすでに肉体関係があり、時子を裏切ったという思いから、二人は生涯結婚をせずに通したのだというのもあった)。

小さいおうち 2014 b.jpg 老齢となったタキが、甥っ子の健史に今書き綴っている回想録を読まれていることを意識しているため、タキが回想録に書いていることが必ずしもすべて本当ではないという可能性はもともとあったわけですが、三人が三角関係にあったというのはちょっと穿ち過ぎた見方のように思いました。個人的は、タキは、自分が奉公する平井家の崩壊を見たくなかったということが、手紙を板倉に渡さなかった理由かと思いましたが、そうした極端小さいおうち0.jpgな説に出くわすと、ちょっとこれでは理由としては弱いかなとも思ってしまいます(自信なさ過ぎ?)。

 一方、まったく別の見方として、タキと時子は精神的な同性愛の関係にあり、ゆえに、異性愛に奔ろうとする時子をそうさせまいとして、時子の手紙を板倉に渡さなかったのだという解釈もあって、最初はちょっとビックリしました。確かにそうなると、今度は板倉をめぐる時子とタキの三角関係ではなく、時子をめぐる板倉とタキの三角関係ということになり、板倉はタキにとっての"恋敵"のような位置づけになりますが、映画を見る限り、二人が抱き合ったりする場面はあっても、そこまでの雰囲気は感じられませんでした。

小さいおうち wkaba.jpg ところが、原作を読むと、タキの時子への思いが滔々と綴られていて、それだけでは「奥様」に憧れる「女中」というだけにすぎないのですが、時子の友人で婦人誌(女性誌)の編集者であるいわば職業婦人(キャリアウーマン)の女性が、そういう関係もあっていいと言って、タキと時子が精神的な同性愛関係にあることを示唆していました。従って、この同性愛論は、原作を読んだ人から出てきたのではないかと思います。映画だけではわからないように思いました。というか、「山田洋次監督は同性愛の物語を男女の不倫物語に確信犯的に改変してしまった」と言っている人もいます。

 原作を読むと、タキの平井家を守りたいという気持ちと、時子との精神的な関係を続けたいという気持ちは重なっているように思え、さらに、この二人に時子の息子・恭一を加えた三人の関係を「守りたいもの」として板倉が捉えていることがじわっと伝わってきます。その部分で、映画よりも原作の方が深い気がしました。

小さいおうち 映画6.jpg 映画では、板倉は時子に会わずに出征し(時子からみれば会えずに終わり)、それはタキが時子からの手紙を板倉に渡さなかったためで、そのことをタキは一生悔やみ続け、未開封の手紙を生涯持ち続けるととれる作りになっていますが、原作では、板倉は出征のため弘前に行く前に"小さいおうち"にやって来て時子と話をし、その間タキは庭仕事をしていたと回想録にあります(それでこの小さな恋愛事件は終わったと)。実際にはタキは板倉に手紙を渡さなかったため、板倉がやってくるはずはなく、この部分はタキがによるウソの記述ということいなります。映画では、板倉が最後に"小さいおうち"にやって来た〈偽エピソード〉を描くと"映像のウソ"になるため描いてはいませんでした。原作では、最後に健史は、渡されなかった手紙を見つけ、タキの回想録にあるその日の記録は虚偽であると知って、タキは時子に恋をしていたのかもしれないと悟ります。

 映画も原作も、共に悪くはないですが、ややもやっとした印象が残りました。直木賞の選評で浅田次郎氏が、「丹念な取材と精密な考証によって時代の空気を描き切った著者の作家としての資質の評価、及び次作への期待の高まりが感じられる」と述べているのは確かにそう思いました。選考で強く推したのはあと北方謙三氏など。一方、宮部みゆき氏の「この設定ならもっといろいろなことができるのにもったいない」、渡辺淳一氏の「昭和モダンの家庭的な雰囲気はある程度書けてはいるが、肝心のノートに秘められていた恋愛事件がこの程度では軽すぎる」といった評もありました。

 個人的には、同じく直木賞受賞作の、昭和初期の上流家庭の士族令嬢とお抱え女性運転手の活躍する、北村薫氏の『鷺と雪』('09年/文芸春秋)を想起したりもしましたが、この『小さいおうち』の方が上だったように思います。よく書けていると思いつつも星5つにならないのは、前述の通りやっぱりすっきりしないところがあるためです。

小さいおうち 松.jpg小さいおうち 映画 9.jpg「小さいおうち」●制作年:2014年●監督:山田洋次●脚本:平松恵美子/山田洋次●撮影:近森眞史●音楽:久石譲●原作:中島京子「小さいおうち」●時間:137分●出演 松たか/黒木華/片岡孝太郎/吉岡秀隆/妻夫木聡/倍賞千恵子/橋爪功/吉行和子/室井滋/中嶋朋子/林家正蔵/ラサール石井/あき竹城「小さいおうち」小林.jpg/松金よね子/螢雪次朗/市川福太郎/秋山聡/笹野高史/小林稔侍/夏川結衣/木村文乃/米倉斉加年●公開:2014/01●配給:松竹(評価:★★★☆)

小林稔侍(健史の叔父・荒井軍治)


橋爪功(タキが最初に奉公する家の小説家・小中先生)
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【2012年文庫化[文春文庫]】
I『小さいおうち』wカバー.jpg
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「忠臣蔵」を「経済的側面」から分析したのはユニークな視点。

「忠臣蔵」の決算書 新書3.JPG「忠臣蔵」の決算書  .jpg これが本当の「忠臣蔵」 (小学館101新書.png 決算!忠臣蔵1.jpg 決算!忠臣蔵2.jpg
「忠臣蔵」の決算書 ((新潮新書))』['12年]『これが本当の「忠臣蔵」 (小学館101新書―江戸検新書)』['12年] 映画「決算!忠臣蔵」['19年]

 従来は「武士の倫理観」という視点で分析されがちだった「忠臣蔵」を、その倫理観の陰に隠れて見過ごされがちな「経済的側面」から分析した本。主君の刃傷事件によって藩がお取り潰しになった際、旧藩士はどの程度の退職金を得たのか、浪人生活の苦しさとは具体的にどのようなものだったのか、生活費に窮した時はどうしたかなどについて書かれています。好評だった前著『これが本当の「忠臣蔵」』('12年4月/小学館101新書―江戸検新書)から、「忠臣蔵」の経済・財政面にフォーカスし、深堀りしたものとも言えます。

決算!忠臣蔵640.jpg 新潮ドキュメント賞を受賞した歴史学者・磯田道史氏の『武士の家計簿-「加賀藩御算用者」の幕末維新』('03年/新潮新書)が、森田芳光監督、堺雅人主演で「武士の家計簿」('10年/松竹)として7年超しで映画化され、同じように小説ではない本書もこの度、「殿、利息でござる!」('16年/松竹)(これも原作は磯田道史氏)の中村義洋監督、堤真一主演で「決算!忠臣蔵」('19年/松竹)として7年超しで映画化されました(中村義洋監督自身による小説化作品がある)。

 本書で何よりつぶさに書かれているのが、最終的に四十七士が吉良邸討入りというプロジェクトを遂行するにあたって、相談や指示伝達のための江戸―上方間の旅費、江戸でのアジトの維持費、その間の生活費、さらに討ち入りを実行するための武器の購入費など、その諸費用をどう賄い、また支出していったかです。

 本書の記述のベースとなっている大石内蔵助が遺した『預置候金銀受払書』をはじめ、お取り潰し後の赤穂藩の財政に関連する資料は結構あるのだなあと。『武士の家計簿』は、磯田道史氏が2001年に神田神保町の古書店で見つけた古文書がベースになっているのに対し、これら赤穂藩の資料は従来より一級資料であって新発見資料ではなく(前著『これが本当の「忠臣蔵」』の方は、2011年末に著者自身が鑑定した新発見の史料「茅野和助遺書」の内容が反映されているが)、ただ、今までそうした「経済的側面」から「忠臣蔵」を分析することは殆どされてこなかったようです。その意味では、本書はやはりユニークな視点に立つと言えます。

 まず、御家再興を図るか討入りをするかを決める前に、籠城か開城かという決断があり、開城をすることで、今度は藩士に割賦金(退職金)を払うことに。割賦金の額(米を含む)は、すでに支給されていたその年分の米を加えると19,619両で、現在の価値にして23億5,000万円、約300名の藩士に一人平均780万円ほどが支払われたというから、それだけもう結構な大金が動いたのだなあと。

 そうすると、御家再興や討入りのために用意できた残りの金額(軍資金)は691両、8,292万円になり(全資産からみれば殆ど残らなかったということか)、そのほとんどは藩の「余り金」と浅野内匠頭の正室・瑤泉院の「化粧料」(嫁入り持参金)だったようです。この「軍資金」が討入りの計画・準備・実行にどのように使われたかが『預置候金銀受払書』に沿って諸々解説されているのが本書の中核となっています。そして、最終的な使用内訳は、次の通りとなっています。

 仏事費  127両3分  18.4%
 御家再建工作費 65両 9.4%
 江戸屋敷購入費 70両 10.1%
 旅費・江戸逗留費 248両 35.6%
 会議通信費  11両 1.6%
 生活補助費 132両1分  19.0%
 討入り装備費 12両 1.9%
 その他   31両1分2朱  4.2%

決算!忠臣蔵ロード.jpg 映画化作品は、堤真一演じる大石内蔵助に加えて、岡村隆史演じる(本書にもその名がある)勘定人・矢頭(やとう)長助をダブル主人公にし、諸経費を現在の金額に置き換えて、その時々でいくらかかったかをユーモラスに分かりやすく解説していました。内蔵助が武器輸送に際して危機に陥る「大石東下り」の段もなければ、瑤泉院が内蔵助と別れた後でその真意を知る「南部坂雪の別れ」の段もない「忠臣蔵」ですが、そうした後世の作り話はこの際入れなくて正解でした(石原さとみが瑤泉院を演じていて、討ち入り直前に内蔵助の勘定報告は目にするが、袱紗に包んだ紙包みを開けるとそこには「討入同志連名血判状」の題字が...といった「忠臣蔵」お決まりのシーンはない)。

決算!忠臣蔵ges.jpg ずっとコメディタッチできていたので、個人的には、途中で矢頭長助を大石内蔵助の代わりに死なせることをしなくてもよかったのではないかと思います(絶叫型の演技が多い中で、岡村隆史のぽつりぽつりと喋る演技は効いていた。矢頭長助をヒーローにしないと気が済まなかったのか?)。史実では矢頭長助は病に伏して1702(元禄15)年9月に45歳で亡くなっており、その年の討入りには息子の矢頭教兼(のりかね)が加わっています(教兼が切腹した時の年齢が18歳で、四十七士の中では大石主悦の16歳に次いで若かった。美少年とされ、討入り後い世間に「義士の中に男装の女がいた」という噂話が流れたとも伝わる)。

決算!忠臣蔵s.jpg 映画では"討入りプロジェクト"は終盤、討入り装備費の試算の段階で、あの武器も必要、この防具も必要と喧々諤々やっているうちに赤字見通しになり(つまり資金不足になったということ)、それが、吉良上野介が確実に在宅している日が事前情報として分かったことで、討入りが当初予定より3カ月早まり、それだけ家賃等生計維持費が浮くことになって、何とか「予算内で」討入りができるようになったという流れになっていますが、先の軍資金の資質配分を映画と突き合わせてみると、討入り装備費は全体の2%弱で、その前の旅費・江戸逗留費などの支出の方がずっと大きかったことがわかります。この支出配分を念頭に置いて映画を見てみるのも、なかなか面白いのではないかと思います。

堤真一(大石内蔵助)/岡村隆史(矢頭長助)
決算!忠臣蔵ド.jpg決算!忠臣蔵ード.jpg「決算!忠臣蔵」●制作年:2019年●監督・脚本:中村義洋●製作:池田史嗣/古賀俊輔中居雄太/木本直樹●撮影:相馬大輔●音楽:髙見優●時間:125分●出演:堤真一/岡村隆史/濱田岳/横山裕/荒川良々/妻夫木聡/大地康雄/西村まさ彦/木村祐一/小松利昌/決算!忠臣蔵images.jpg沖田新宿ピカデリー1.jpg裕樹/橋本良亮/寺脇康文/千葉雄大/桂文珍/村上ショージ/板尾創路/滝藤賢一/笹野高史/竹内結子/西川きよし/石原さとみ/阿部サダヲ●公開:2019/11●配給:松竹●最初に観た場所:新宿ピカデリー(19-12-16)(評価:★★★☆)●併映(同日上映):「屍人荘の殺人」(木村ひさし)
石原さとみ(瑤泉院)
「決算!忠臣蔵」創刊図.jpeg
   
山本博文(2020年3月没)ガジェット通信」(2019.11.26)より  竹内結子(2020年9月没) 大石りく役 in「決算!忠臣蔵」
映画『決算!忠臣蔵』原作者・山本博文.png  竹内 結子 決算忠臣蔵.jpg


Eテレ「先人たちの底力 知恵泉」
山本博文 eテレ 知恵泉.jpg山本 博文(東京大学史料編纂所 教授)(1957-2020.3.29/63歳没
1990年、『幕藩制の成立と日本近世の国制』(校倉書房)により、東京大学より文学博士の学位を授与。1991年、『江戸お留守居役の日記』(読売新聞社)により第40回日本エッセイストクラブ賞受賞。江戸幕府の残した史料の外、日本国内の大名家史料を調査することによって、幕府政治の動きや外交政策における為政者の意図を明らかにしてきた。近年は、殉死や敵討ちなどを素材に武士身分に属する者たちの心性(mentality)の究明を主な課題としている。主な著書に、『徳川将軍と天皇』(中央公論新社)、『切腹』(光文社)、『江戸時代の国家・法・社会』(校倉書房)、『男の嫉妬』(筑摩書房)、『徳川将軍家の結婚』(文藝春秋社)『日本史の一級史料』(光文社)などがある。

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2018年「本屋大賞」の第1位、第2位、第3位作品。個人的評価もその順位通り。

かがみの孤城.jpg かがみの孤城 本屋大賞.jpg  盤上の向日葵.jpg 屍人荘の殺人.jpg
辻村 深月 『かがみの孤城』 柚月 裕子 『盤上の向日葵』 今村 昌弘 『屍人荘の殺人

2018年「本屋大賞」.jpg 2018年「本屋大賞」の第1位が『かがみの孤城』(651.0点)、第2位が『盤上の向日葵』(283.5点)、第3位が『屍人荘の殺人』(255.0点)です。因みに、「週刊文春ミステリーベスト10」(2017年)では、『屍人荘の殺人』が第1位、『盤上の向日葵』が第2位、『かがみの孤城』が第10位、別冊宝島の「このミステリーがすごい!」では『屍人荘の殺人』が第1位、『かがみの孤城』が第8位、『盤上の向日葵』が第9位となっています。『屍人荘の殺人』は、第27回「鮎川哲也賞」受賞作で、探偵小説研究会の推理小説のランキング(以前は東京創元社主催だった)「本格ミステリ・ベスト10」(2018年)でも第1位であり、東野圭吾『容疑者Xの献身』以来13年ぶりの"ミステリランキング3冠達成"、デビュー作では史上初とのことです(この他に、『容疑者Xの献身』も受賞した、本格ミステリ作家クラブが主催する第18回(2018年)「本格ミステリ大賞」も受賞している)。ただし、個人的な評価(好み)としては、最初の「本屋大賞」の順位がしっくりきました。

かがみの孤城6.JPG 学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた。なぜこの7人が、なぜこの場所に―。(『かがみの孤城』)

 ファンタジー系はあまり得意ではないですが、これは良かったです。複数の不登校の中学生の心理描写が丁寧で、そっちの方でリアリティがあったので楽しめました(作者は教育学部出身)。複数の高校生の心理描写が優れた恩田陸氏の吉川英治文学新人賞受賞作で第2回「本屋大賞」受賞作でもある『夜のピクニック』('04年/新潮社)のレベルに匹敵するかそれに近く、複数の大学生たちの心理描に優れた朝井リョウ氏の直木賞受賞作『何者』('12年/新潮社)より上かも。ラストは、それまで伏線はあったのだろうけれども気づかず、そういうことだったのかと唸らされました。『夜のピクニック』も『何者』も映画化されていますが、この作品は仮に映像化するとどんな感じになるのだろうと考えてしまいました(作品のテイストを保ったまま映像化するのは難しいかも)。

2020.11.9 旭屋書店 池袋店
20201109_1盤上の向日葵.jpg盤上の向日葵   .jpg盤上の向日葵ド.jpg 埼玉県天木山山中で発見された白骨死体。遺留品である初代菊水月作の名駒を頼りに、叩き上げの刑事・石破と、かつてプロ棋士を志していた新米刑事・佐野のコンビが捜査を開始した。それから四か月、二人は厳冬の山形県天童市に降り立つ。向かう先は、将棋界のみならず、日本中から注目を浴びる竜昇戦の会場だ―。(『盤上の向日葵』)

 『慈雨』('16年/集英社)のような刑事ものなど男っぽい世界を描いて定評のある作者の作品。"将棋で描く『砂の器』ミステリー"と言われ、作者自身も「私の中にあったテーマは将棋界を舞台にした『砂の器』なんです」と述べていますが、犯人の見当は大体ついていて、その容疑者たる天才棋士を二人組の刑事が地道な捜査で追い詰めていくところなどはまさに『砂の器』さながらです。ただし、天才棋士が若き日に師事した元アマ名人の東明重慶は、団鬼六の『真剣師小池重明』で広く知られるようになり「プロ殺し」の異名をもった真剣師・小池重明の面影が重なり、ややそちらの印象に引っ張られた感じも。面白く読めましたが、犯人が殺害した被害者の手に将棋の駒を握らせたことについては、発覚のリスクを超えるほどに強い動機というものが感じられず、星半分マイナスとしました。

映画タイアップ帯
屍人荘の殺人 映画タイアップカバー.jpg屍人荘の殺人_1.jpg 神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。合宿一日目の夜、映研のメンバーたちは肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。緊張と混乱の一夜が明け、部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった―。(『屍人荘の殺人』)

2019年映画化「屍人荘の殺人」
監督:木村ひさし 脚本:蒔田光治
出演:神木隆之介/浜辺美波/中村倫也
配給:東宝

屍人荘の殺人 (創元推理文庫).jpg 先にも紹介した通り、「週刊文春ミステリー ベスト10」「このミステリーがすごい!」「本格ミステリ・ベスト10」の"ミステリランキング3冠"作(加えて「本格ミステリ大賞」も受賞)ですが、殺人事件が起きた山荘がクローズド・サークルを形成する要因として、山荘の周辺がテロにより突如発生した大量のゾンビで覆われるというシュールな設定に、ちょっとついて行けなかった感じでしょうか。謎解きの部分だけ見ればまずまずで、本格ミステリで周辺状況がやや現実離れしたものであることは往々にしてあることであり、むしろ周辺の環境は"ラノベ"的な感覚で読まれ、ユニークだとして評価されているのかなあ。個人的には、ゾンビたちが、所謂ゾンビ映画に出てくるような典型的なゾンビの特質を有し、登場人物たちもそのことを最初から分かっていて、何らそのことに疑いを抱いていないという、そうした"お約束ごと"が最後まで引っ掛かりました。

 ということで、3つの作品の個人的な評価順位は、『かがみの孤城』、『盤上の向日葵』、『屍人荘の殺人』の順であり、「本屋大賞」の順番と同じになりました。ただし、自分の中では、それぞれにかなり明確な差があります。

屍人荘の殺人 2019.jpg屍人荘の殺人01.jpg(●『屍人荘の殺人』は2019年に木村ひさし監督、神木隆之介主演で映画化された。原作でゾンビたちが大勢出てくるところで肌に合わなかったが、後で考えれば、まあ、あれは推理物語の背景または道具に過ぎなかったのかと。映画はもう最初からそういうものだと思って観屍人荘の殺人03.jpgているので、そうした枠組み自体にはそれほど抵抗は無かった。その分ストーリーに集中できたせいか、原作でまあまあと思えた謎解きは、映画の方が分かりよくて、原作が多くの賞に輝いたのも多少腑に落ちた(原作の評価★★☆に対し、映画は取り敢えず星1つプラス)。但し、ゾンビについては、エキストラでボランティアを大勢使ったせいか、ひどくド素人な演技で、そのド素人演技のゾンビが原作よりも早々と出てくるので白けた(星半分マイナス。その結果、★★★という評価に)。)

屍人荘の殺人02.jpg屍人荘の殺人 ps.jpg「屍人荘の殺人」●制作年:2019年●監督:木村ひさし●製作:臼井真之介●脚本:蒔田光治●撮影:葛西誉仁●音楽:Tangerine House●原作:今村昌弘『屍人荘の殺人』●時間:119分●出演:神木隆之介/浜辺美波/葉山奨之/矢本悠馬/佐久間由衣/山田杏奈/大関れいか/福本莉子/塚地武雅/ふせえり/池田鉄洋/古川雄輝/柄本時生/中村倫也●公開:2019/12●配給新宿ピカデリー1.jpg新宿ピカデリー2.jpg:東宝●最初に観た場所:新宿ピカデリー(19-12-16)(評価:★★★)●併映(同日上映):「決算!忠臣蔵」(中村 義洋)
    
   
   
新宿ピカデリー 
  
神木隆之介 in NHK大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」(2019年)/TBSテレビ系日曜劇場「集団左遷‼」(2019年)/ドラマW 土曜オリジナルドラマ「鉄の骨」(2019年)
神木隆之介「いだてん.jpg 神木隆之介 集団左遷!!.jpg ドラマW 2019 鉄の骨2.jpg
 
《読書MEMO》
盤上の向日葵 ドラマ03.jpg盤上の向日葵 08.jpg●2019年ドラマ化(「盤上の向日葵」) 【感想】 2019年9月にNHK-BSプレミアムにおいてテレビドラマ化(全4回)。主演はNHK連続ドラマ初主演となる千葉雄大。原作で埼玉県警の新米刑事でかつて棋士を目指し奨励会に所属していた佐野が男性(佐野直也)であるのに対し、ドラマ0盤上の向日葵 05.jpgでは蓮佛美沙子演じる女性(佐野直子)に変更されている。ただし、最近はNHKドラマでも原作から大きく改変されているケースが多いが、これは比較的原作に沿って盤上の向日葵 ドラマ.jpg丁寧に作られているのではないか。原作通り諏訪温泉の片倉館でロケしたりしていたし(ここは映画「テルマエ・ロマエⅡ」('14年/東宝)でも使われた)。主人公の幼い頃の将棋の師・唐沢光一朗を柄本明が好演(子役も良かった)。竹中直人の東明重慶はややイメージが違ったか。「竜昇戦」の挑戦相手・壬生芳樹が羽生善治っぽいのは原作も同じ。加藤一二三は原作には無いゲスト出演か。

盤上の向日葵 ドラマ01.jpg0盤上の向日葵  片倉館.jpg「盤上の向日葵」●演出:本田隆一●脚本:黒岩勉●音楽:佐久間奏(主題歌:鈴木雅之「ポラリス」(作詞・作曲:アンジェラ・アキ))●原作:柚月裕子●出演: 千葉雄大/大江優成/柄本明/竹中直人/蓮佛美沙子/大友康平/檀ふみ/渋川清彦/堀部圭亮/馬場徹/山寺宏一/加藤一二三/竹井亮介/笠松将/橋本真実/中丸新将●放映:2019/09/8-29(全4回)●放送局:NHK-BSプレミアム

IMかがみの孤城.jpg『かがみの孤城』...【2021年文庫化[ポプラ社文庫](上・下)】
『盤上の向日葵』...【2020年文庫化[中公文庫(上・下)(解説:羽生善治)]】
『屍人荘の殺人』...【2019年文庫化[創元推理文庫]】

I『屍人荘の殺人』.jpg Wカバー版

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作りすぎていないのがいい。復刊版で登場人物の四半世紀後の「今」が書き下ろされた。

お引越し ひこ・田中 復刊.jpgお引越し ひこ・田中 旧.jpg お引越し ひこ・田中 文庫.jpg お引越し ひこ・田中 文庫新.jpg  心が叫びたがってるんだ。DVD_.jpg
お引越し (Best choice)』『お引越し (講談社文庫)』『《新装版》お引越し (講談社文庫)』「心が叫びたがってるんだ。 [DVD]
お引越し (福音館創作童話シリーズ)』(2013)(装画:奈良美智)

 1991(平成3)年・第1回「椋鳩十児童文学賞」受賞作。

 今日とうさんが引越しをした。かあさん泣いた。とうさんもお引越しの日泣いてた。大人が泣いたら、子どもは泣けない。3人だった家がこれから、かあさんと私、2人になる。2人が別れるには私のせいやないって、とうさんもかあさんも言うたけど、私のせいやないのに私に関係ある。あんまりや。両親の離婚を突然知った11歳のレンコ(漆場漣子)。彼女の悩みは深まっていく―。

お引越し-111.JPG 1990年刊行の第1回「椋鳩十児童文学賞」受賞作ですが、むしろ相米慎二(1948‐2001/享年53)監督の映画「お引越し」('93年)の原作として知られているかもしれません。「椋鳩十児童文学賞」は鹿児島市が市制100周年を記念して設けた児童文学の新人賞で、第2回が森絵都氏のデビュー作『リズム』に授与されたりしていますが、第24回の2014年をもって終了しています。

映画「お引越し」('93年)

お引越し dvd.jpg 映画「お引越し」と比べると、原作は映画のようにレンコが理科室でボヤを起こしたり、自分でチケットやホテルを予約して家族の琵琶湖行きを実行したりするといった事件や展開などはなく、ごく普通の小学生のごく普通の生活が、両親が離婚状態になって変わっていく、そうした日常の中で、11歳の少女の心模様がどう揺れ、母親や父親との関係性がどう変化し、少女自身がどう成長していったかを、少女の主観を通して生き生きと描いています(文章にリズムがある)。従って、映画も良かったですが、原作は作りすぎていない分、これはまた読者に訴えかけるものがあり、(「映画の力」に対する)「文学の力」というものを感じました。

お引越し (HDリマスター版) [DVD]

 1990年の刊行後、1995年に文庫化され、2013年の復刊に際し、2013年現在の「登場人物たちの今」を描いた挿話が書き下ろされ、巻末に付されています。その前に、1990年の「あと話」というのがあって、中学生になったレンコのボーイフレンドのミノル(大木実)、友達のサリー(橘理佐)の"今"が2人の言葉で語られていましたが、「忘れたころのあと話」と題された今回の書き下ろし部分では、おおよそ四半世紀後の36歳になった大木実の今、橘理佐の今、更にはレンコこと漆場漣子の今が、それぞれ自らの言葉で語られています。時間の流れを経て主人公たちが大人になっている現在の様が語られるというのはなかなか興味深く(月日の経つのは早いなあ)、作者のこの作品に対する愛着のようなものも感じました。

干刈 あがた 『ウホッホ探険隊』.jpg かつて、離婚に踏み切ろうとしている主人公の女性と、そのことを自分たちなりに受け止めようとしている小学生の長男・次男とのやりとりを通して、当時としては新しいタイプと言える家族の形を模索した、干刈あがた(1943‐1992/享年49)の『ウホッホ探険隊』('84年/福武書店)とい猛スピードで母は 単行本.jpgう芥川賞候補にもなった作品がありましたが、作品のモチーフとして両親が離婚している、或いは離婚状態にあるといった設定を持ってくることは、今や児童文学に限らず文学の世界においても珍しいことではなくなっているようです(長嶋有の芥川賞受賞作『猛スピードで母は』('02年/文藝春秋)もそうだった。やはり、子どもは父親ではなく母親と一緒に暮らすことになるのが多いようだが)。

 最近はアニメの世界でも、長井龍雪監督の「心が叫びたがってるんだ。」('15年)という作品がありました(この度「実写」映画化され、本日[2017年7月22日]公開)。主人公の少女が小学生の頃、憧れていた山の上のお城(ラブホテル)から、父親と見知らぬ女性(浮気相手)が車で出てくるところを目撃、「お城から出てくる王子様とお姫様」だと思い込み、それを母親に話したことにより両親の離婚を招いてしまい、家を去る父親から「全部お前のせいじゃないか」と言われ、ショックを受けた少女は口をきけなくなり、高校2年生になった今も、「話すと腹痛が起きる」という、トラウマを抱えているという設定でした。

心が叫びたがってるんだ。 .jpg 小学生の時のトラウマを高校生になっても引き摺っているわけですが(PTSDと言えるか。但し、離婚は主人公のせいとは言えず、父親が間違っているのは明白ではないか)、それにしても主人公がいろんな局面でそれを引っ張りすぎている印象もあり、これだと周りの方が疲れてしまうのではないかなあ。時にはちょっと突き放した方が、お互いにとって良かったりもするのではないでしょうか。ジュニア向けの作品ですが、個人的にはあまりいいとは思いませんでした(『お引越し』の11歳の小学生レンコの方がずっと逞しいと言えるか)。

お引越し  0s.jpgお引越し  5.png「お引越し」●制作年:1993年●監督:相米慎二●脚本:奥寺佐渡子/小此木聡●撮影:栗田豊通●音楽:三枝成彰●原作:ひこ・田中「お引越し」●時間:124分●出演:中井貴一/田畑智子/桜田淳子/須藤真里子/田中太郎/茂山逸平/森秀人/千原しのぶ/笑福亭鶴瓶/青木秋美(現:遠野なぎこ)●公開:1993/03●配給:ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画=アルゴプロジェクト●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(17-07-19)(評価:★★★★)
【2563】 相米 慎二 「お引越し」(1993/03 ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画=アルゴプロジェクト) ★★★★

心が叫びたがってるんだ。00.jpg心が叫びたがってるんだ。DVDS160_.jpg「心が叫びたがってるんだ。」●制作年:2015年●監督:長井龍雪●製作:斎藤俊輔●脚本:岡田麿里●撮影:森山博幸●音楽:ミト/横山克(主題歌:乃木坂46「今、話したい誰かがいる」)●原作:超平和バスターズ(長井龍雪・岡田麿里・田中将賀)●時間:119分●声の出演:水瀬いのり/内山昂輝/雨宮天/細谷佳正/藤原啓治/吉田羊●公開:2015/09●配給:アニプレックス●最初に観た場所:シネマサンシャイン池袋(15-09-21)(評価★★★)

【1990年単行本[福武書店]/1995年文庫化・2008年新装版[講談社文庫]/2013年単行本新装復刊版]】

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ユーモア・サスペンスとして楽しめる「疾風ロンド」。FⅩで見せた「海賊と呼ばれた男」。

疾風ロンド 2016 .jpg 疾風ロンド 原作.jpg  海賊と呼ばれた男  2016.jpg 海賊と呼ばれた男 2016 チラシ.jpg 海賊と呼ばれた男 原作.jpg
「疾風ロンド」チラシ/『疾風ロンド (実業之日本社文庫)』/「海賊と呼ばれた男」ポスター・チラシ/『海賊とよばれた男(上) (講談社文庫)
疾風ロンドes.jpg 泰鵬大学医科学研究所では、研究員・葛原(戸次重幸)が危険な細菌を「疾風ロンド」柄本.jpg利用した生物兵器「K-55」という炭疽菌が開発してしまったことで、葛原を解雇する。葛原はその腹いせに「K-55」を研究所から持ち出し、ある場所に埋め目印として近くに木にテディベアを張り付ける。その後、所長の東郷(柄本明)宛てに3億円を要求した脅迫の内容のメールが届き、メールにはテディベ疾風ロンドges.jpgアの写った写真が添付されていた。テディベアには発信機がつけられており、その受信機は葛原が持っている。研究主任の栗林(阿部寛)は警察に届けることを主張するが、所長は生物兵器を秘密裏に探すよう栗林に命じる。栗林は何の手がかりも無い中で捜索を始めるが、そこへ警察から葛原が事故で亡くなったという電話があり、葛原の遺体確認の際に荷物の中にデジカメと受信機を発見、そのデジカメのデータの中から「ある場所」がスキー場だと考える。スノーボードが好きな息子(濱田龍臣)の力を借り、そこは野沢温泉スキー場だと分かるが、野沢温泉スキー場は日本最大級の広さを持つスキー場だった―。

疾風ロンド 08.jpg 「疾風ロンド」の原作は東野圭吾の長編サスペンスで、 '13年11月実業之日本社から文庫書き下ろしで発刊され、作者の書き下ろしの文庫本での発売は17年ぶりだったそうですが、発売10日で100万部を突破したとのこと。同じく実業之日本社から'10年10月に実業之日本社文庫の創刊第1弾として、雑誌連載後これもいきなり文庫で刊行された『白銀ジャック』も発売から1か月余りで100万部を突破していますが、それを上回るスピードでの100万部達成ということになります('16年12月には雪山シリーズの3作目『雪煙チェイス』がこれもいきなり文庫で刊行された)。

疾風ロンド    s.jpg 原作はユーモア・サスペンス小説で、軽いとの批判もあったようですが、二転三転するストーリー展開の面白さを支持する声も結構あったみたいです。映画も、実写でありながらも割り切ってユーモア・サスペンス風に仕上げており(ムロツヨシとか変に可笑しい)、そのことが二転三転する展開と相俟って"軽く"楽しめるものになっていたように思います。仮に、大真面目な演出にしていたら、「炭疽菌」と言われても普通はイメージが湧かないだけに映画自体が持たなかったでしょう。因みに、原作を端折っている部分もありますが、ラストは明らかに原作を「改変」しています。


海賊と呼ばれた男 road.jpg 主要燃料が石炭だった当時から、石油の将来性を予感していた若き日の国岡鐵造(岡田准一)は、北九州・門司で石油業に乗り出すが、その前には国内の販売業者、欧米の石油会社(石油メジャー)など様々な壁が立ち塞がり、行く手を阻ぶ。しかし、鐵造は諦めず、それまでの常識を覆す奇想天外な発想と型破りな行動力、自らの店員(部下)を大切にするその愛情で、新たな道を切り拓いてく。その鐵造の姿は、敗戦後の日本において逆風にさらされても変わることはなかった。そしてついに、敗戦の悲嘆にくれる日本人の大きな衝撃を与える"事件"が発生する。石油メジャーから敵視され圧倒的な包囲網によりすべての石油輸入ルートを封鎖された国岡鐵造が、唯一保有する石油タンカー「日承海賊と呼ばれた男  .jpg丸」を、秘密裏にイランに派遣するという"狂気"の行動に打って出たのだ。イランの石油を直接輸入することは、イランを牛耳るイギリスを完全に敵に回すこと。しかし、イギリスの圧力により貧困にあえぐイランの現状と自らを重ね合わせた鐵造は、店員の反対を押し切り、石油メジャーとの最大の戦いに挑む―。

出光佐三.jpg海賊と呼ばれた男 1es.jpg 「海賊と呼ばれた男」の原作は百田尚樹による第10回本屋大賞受賞作品であり、こちらも'16年12月現在、上下巻累計で420万部というベストセラーです。出光興産創業者の出光佐三(いでみつ さぞう、1885-1981)をモデルにした歴史経済小説ですが、原作の段階から、出光佐三→国岡鐵造、出光興産→国岡商会、日章丸→日承丸、などと改変されています。映画では、60歳の鐵造を起点にそれまでの彼の歩みをカットバック風に振り返りながら、次第に60歳以降の出来事が多く描かれるようになり、その生涯を終えるまでを追っています。

海賊と呼ばれた男 07.jpg このように時系列が多少前後しますが、伝記映画としてはオーソドックスな作りになっているように思いました。ただ、一企業の草創期からの歴史を描いた作品でもあるため、その分、「プロジェクⅩ」などにおける再現映像の"拡大版"を観ているような印象も。出演者の演技が何となくワンパターンであるし、主演の岡田准一の演技も力入りすぎという感じでした(老け役になってから良くなった。助演の吉岡秀隆も、同じ山崎貴監督の「ALWAYS 三丁目の夕日」('05年/東宝)での演技の方が自然だった)。途中、やや中だるみ感がありましたが、終盤に「日章丸事件」というとっておきのエピソードが控えていたため、最後盛り返したという感じでしょうか海賊と呼ばれた男 日承丸 s.jpg。しかも、日承丸が英国艦隊とぶつかりそうになる場面とか、VFXがふんだんに使われていて、思った以上に見応えがありました(VFXは、「ALWAYS 三丁目の夕日」や、庵野秀明監督の海賊と呼ばれた男 堤.jpgシン・ゴジラ」('16年/東映)と同じく、山崎貴監督自身が所属する「白組」が担当した)。日承丸の船長を演じた堤真一(この人も「ALWAYS 三丁目の夕日」の俳優陣の1人)は、岡田准一よりも印象に残ったと言うと言い過ぎになるかもしれないですが、おいしい役どころだったかも。


疾風ロンドa.jpg「疾風ロンド」●制作年:2016年●監督:吉田照幸●脚本:ハセベバクシンオー/吉田照幸●撮影:佐光朗●音楽:三澤康広(主題歌:B'z)●原作:東野圭吾●時間:109分●出演:阿部寛/大倉忠義/大島優子/ムロツヨシ/堀内敬子/戸次重幸/濱田龍臣/志尊淳/野間口徹/麻生祐未/生瀬勝久/望月歩/前田旺志郎/久保田紗友/鼓太郎/堀部圭亮/中村靖日/田中要次/菅原大吉/でんでん/柄本明●公開:2016/11●配給:東映●最初に観た場所:TOHOシネマズ日本橋(16-12-22)(評価:★★★☆)

海賊と呼ばれた男 2016.jpg「海賊と呼ばれた男」●制作年:2016年●監督:山崎貴●脚本:山崎貴●撮影:柴崎幸三●音楽:佐藤直紀●VFX:山崎貴●原作:百田尚樹●時間:109分●出演:岡田准一/吉岡秀隆/染谷将太/鈴木亮平/野間口徹/ピエール瀧/綾瀬はるか/小林薫/光石研/堤真一/近藤正臣/國村海賊と呼ばれた男 上下.jpg隼/黒木華/須田邦裕/小林隆●公開:2016/12●配給:東宝●最初に観た場所:TOHOシネマズ日本橋(16-12-22)(評価:★★★☆)

TOHOシネマズ日本橋.jpgTOHOシネマズ日本橋(日本橋「コレド室町2」3F)
スクリーン 座席数(車椅子用) スクリーンサイズ
SCREEN 1 128+(2) 10.1×4.2m
TOHOシネマズ日本橋es.jpgSCREEN 2 110+(2) 9.1×3.8m
SCREEN 3 119+(2) 9.6×4.0m
SCREEN 4 119+(2) 9.6×4.0m
SCREEN 5 226+(2) 13.9×5.8m
SCREEN 6 213+(2) 13.6×5.7m
SCREEN 7 404+(2) 18.7×7.9m TCX
SCREEN 8 290+(2) 16.0×6.7m TCX
SCREEN 9 143+(2) 10.1×4.2m
9スクリーン 1,752+(18)

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概ね原点回帰か。人情ドラマ抜きの事実っぽい脚本が功を奏す。"変態"は不要だった? 解釈としては...。

シン・ゴジラ  2016.jpgシン・ゴジラ 41.jpg シン・ゴジラ 07.jpg
「シン・ゴジラ」チラシ

シン・ゴジラ9.jpg ゴジラシリーズの第29作で、『ゴジラ FINAL WARS』('04年/東宝)以来約12年ぶりの日本製作のゴジラシリーズ作。公開前は、コアな映画ファン、ゴジラファンの間ではともかく、一般にはそれほど話題にもなっていなかったのが、7月29日の公開後にネットや口コミでどんどん客足を伸ばし、前作で目標としていたものの果たせなかった'54年からスタートしたシリーズの累計観客動員数1億人突破を公開4日で果たし、公開1か月で累計動員360万人、累計興行収入53億円を突破、11月16日までの公開111日間で、観客動員551万人、興行収入が80億167万円を記録するなど、興行面で成功を収めています(2017年(2016年度)「芸術選奨」受賞作)。 

シン・ゴジラ 45.jpg 映画がヒットした要因としてまず挙げられることは、完璧とまでは言えないもののゴジラ映画の原点に回帰した点であり、観る前は全編CGでどうなのかなと思いましたが、観てみたら、ゴジラならではの重々しさや生々しさ、無敵の暴れん坊ぶりはなかなかのものでした。ゴジラのテーマや自衛隊のテーマなどお馴染みの伊福部BGMも使われていて、シリーズのオールドファンには懐かしいのではないでしょうか。個人的には、「宇宙大戦争」('59年/東宝)のテーマが使われていたのが(リアルタイムで観た作品ではないけれど)何だか嬉しかったです。

シン・ゴジラ 42.jpg 庵野秀明監督は、脚本の執筆段階から防衛省・自衛隊に協力を依頼し、「実際にゴジラが現れた場合、自衛隊はどのように対処するのか」「ゴジラに対して武器の使用が認められるのか」などミーティングを繰り返し行い、事実に即した脚本に仕上げていったとのことで、それが怪獣映画にしては比較的豪勢な役者陣の演技と相俟って、緊迫感とテンポの良さを生み出しています(時にコミカルな風刺も効かせていて、これもまたいい)。この映画から、自衛隊の強みと弱みが窺えるという人もいるくらいで、「機能的」脚本とでも言うか、こうした映画に挿入されがちな、恋人がどうしたとか妻子がどうしたといった人情ドラマは殆ど混ざり込む余地のない作りになっているのがいいです(石原さとみの"バイリンガルの米国大統領特使"だけが浮いていた)。

シン・ゴジラ 44.jpg ここまで殆ど褒めっ放しで、では欠点は無いのかと言うと、概ねゴジラ映画の原点に回帰したとは言え、ゴジラ自体が核開発の犠牲者であるという悲劇的要素がややシン・ゴジラ第2形態.jpg抜け落ちた印象も受けました(従って、ゴジラの雄叫びにオリジナルのような悲壮感があまり感じられない)。加えて、ゴジラが1個体で4段階もの変態を繰り返すというのは、本当に必要なアレンジだったのかやや疑問に思いました(CGで出来るからやったという印象も)。

『シン・ゴジラ』.jpg 特に第2変態の段階で、最初に上陸してその顔が正面から捉えられたと思ったら、ウーパールーパーみたいな顔に見えたのが拍子抜けしたと言うか、オリジナル特有の悲壮感から更に遠くなり残念に思いました(深海サメの一種「ラブカ」をモチーフにしたらしいが、ラブカはあんなピンポン玉みたいな目ではない。ほとんどぬいぐるみの世界)。

シン・ゴジラ49.jpg ゴジラを倒すための血液凝固剤って結局何だったのか、単なる液体窒素だったのか、それならば、牧悟郎(岡本喜八が写真のみの出演)博士の「ゴジラの元素変換機能を阻害する極限環境微生物の分子式」を解読する作業なんてあまり意味が無さそうにも思えるし、そもそも博士がなぜ資料をわざわざ暗号化したのかも、分かった人には分かったのかもしれないけれど、自分にはイマイチぴんときませんでした。この辺りについては、「シン・ゴジラを読み解くこと」がある種ブームのようになっていて、一般的な映画ファンだけでなく、例えば朝日新聞などは論説委員が新聞に読み解きを書いており、興味がある人はそうした記事も読んだ覚えがあるかも(政治の無能に対して行政の有能、日本型組織の強みがある種「美談」として描かれている一方、初代ゴジラに見られたような、ゴジラを生み出した文明のありように対する疑念や苦悩は殆ど描かれていないという指摘は的を射ていると思った)。

シン・ゴジラs.jpg ゴジラを倒しておいて、取り敢えず首都は大阪に移して、ゴジラは凍らせたまま東京駅傍に放置しておくなんてあり得るのかなあという気がしますが、おそらく、ゴジラは「原発」のメタファーであり、ゴジラ(原発)を管理し続けるという宿命を負った日本の未来を表しているのでしょう。ならば、博士の「好きにしろ」という「遺言」の意味は何なのか?-とか、ラストのゴジラの尾に蠢く人影は何を意味するのか?-とか、確かにいろいろ読み解きを促す作りにはなっています。

シン・ゴジラ 09.jpg 今度ゴジラが動き出したら、熱核攻撃のカウントダウンが再開するということで、次回作は東京駅から始まるのでしょうか。都心を汚染したゴジラの放射性物質は半減期が短く、2、3年で影響がなくなるとの設定なので、やがて避難先から360万人の住民が帰還することになったとして、スカイツリーじゃないのだから、立ち尽くすゴジラを見ながら半恒久的に生活を送るというのはちょっと考えにくく、やはり次回作を想定した終わり方なのでしょう(これで、次回作でゴジラがまたいきなり海の中から出てきたら、あの東京駅傍のゴジラはどうなったと突っ込みたくもなるだろう)。

塚本晋也 in「シン・ゴジラ」('16年・庵野秀明監督)「沈黙-サイレンス-」('17年・マーティン・スコセッシ監督)
塚本晋也 シンゴジラ.jpg 塚本晋也 沈黙.jpg

シン・ゴジラ84.jpg「シン・ゴジラ」●制作年:2016年●総監督・脚本:庵野秀明●監督・特技監督:樋口真嗣●撮影:山田康介●音楽:鷺巣詩郎/伊福部昭●時間:119分●出演:長谷川博己/竹野内豊/石シン・ゴジラ cast.jpg原さとみ/高良健吾/大杉漣/柄本明/余貴美子/國村隼/市川実日子/ピエール瀧/斎藤工/小出恵介/古田新太/前田敦子/犬童一心/緒方明/片桐はいり/神尾佑/KREVA/黒田大輔/小出恵介/小林隆/嶋田久作/諏訪太朗/高橋シン・ゴジラ 大杉漣.jpg一生/塚本晋也/津田寛治/鶴見辰吾/手塚とおる/中村育二/野間口徹/橋本じゅん/浜田晃/原一男/平泉成/藤木孝/松尾諭/松尾スズキ/三浦貴大/光石研/森廉/モロ師岡/矢島健一/渡辺哲/(ゴジラのモーションキャプチャ)野村萬斎●公開:2016/07●配給:東宝●最初に観た場所:TOHOシネマズ新宿(16-08-29)(評価:★★★☆)
大杉漣(1951-2018)(内閣総理大臣・大河内清次)
TOHOシネマズ新宿
TOHOシネマズ新宿.jpgスクリーン 座席数(車椅子用) スクリーンサイズ
TOHOシネマズ 新宿3.jpgSCREEN 1 86+(2) 3.2×7.6m
SCREEN 2 108+(2) 5.3×12.6m MX4D®
SCREEN 3 128+(2) 4.5×10.8m
SCREEN 4 200+(2) 5.2×12.6m
SCREEN 5 184+(2) 4.0×9.6m
SCREEN 6 117+(2) 4.6×11.0m
SCREEN 7 407+(2) 7.3×17.7m
SCREEN 8 88+(2) 3.2×7.6m
SCREEN 9 499+(2) 8.0×19.2m TCX
SCREEN 10 311+(2) IMAX®デジタルシアター
SCREEN 11 122+(2) 3.9×9.5m
SCREEN 12 73+(2) 2.8×6.6m
12スクリーン 2,323+(24)

映画「ゴジラ」シリーズ.jpg映画「ゴジラ」シリーズ全29作

●第1期・昭和ゴジラシリーズ(1954~1975)[15作]
 第1作「ゴジラ」~第15作「メカゴジラの逆襲」
●第2期・平成ゴジラシリーズ(1984~1995)[7作]
 第16作「ゴジラ」~第22作「ゴジラvsデストロイア」
●第3期・ミレニアムゴジラシリーズ(1999~2004)[6作]
 第23作「ゴジラ2000 ミレニアム」~第28作「ゴジラ FINAL WARS」
●2010年代[1作]
 第29作「シン・ゴジラ」

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「説明不足」で「不親切」になってしまった。美しく撮られている一方で、美術上の難点も。

映画『FOUJITA』.jpg映画『FOUJITA』s.jpg FOUJITA (小栗康平コレクション 別巻)_.jpg
「FPUJITA」('15年/日・仏) オダギリジョー 「FOUJITA (小栗康平コレクション 別巻)
映画『FOUJITA』V.jpg 1913年、27歳で単身フランスへ渡ったフジタ(オダギリジョー)は、「乳白色の肌」で裸婦を描き、エコール・ド・パリの寵児となる。そして1940年に帰国し、戦時下で戦争協力画を描くことになったフジタは、日本美術界の中で重鎮として登り詰めていくが、疎開先の村で敗戦を迎える―。

映画『FOUJITA』  コンペ.jpg 小栗康平監督が10年ぶりに手がけた長編監督作で、1920年代からフランスを中心に活躍した日本人画家・藤田嗣治の半生を映画化したもの。日本とフランスの合作映画として製作され(フランス側のプロデューサーは、「アメリ」のクローディー・オサール)、第28回東京国際映画祭のコンペティション部門出品作。前半は、フジタのパリにおける社交生活や芸術生活などが断片的なスケッチを繋げていくように描かれ、後半は、戦時下の日本における彼の生活が描かれています。

映画『FOUJITA』01.jpg 前半のパリ時代のフジタを演じるオダギリジョーはちょっと軽い感じがしましたが、実際、フランスで人気を博していた頃の藤田嗣治は、「FouFou(フランス語でお調子者の意)」と呼ば映画『FOUJITA』  ZK.jpgれていたとのことで、それに沿ったのでしょうか。ただ、オダギリジョーは喋らないでじっとしている方がよく、動いたりフランス語を喋ったりすると、周囲がフランス人ばかりで、非常に浮いている印象を受けました。パリ時代の最後を飾る「フジタ・ナイト」でのフランス風「花魁道中」におけるフジタも、観ていて痛々しい印象すらありました。

映画『FOUJITA』05.jpg 後半は、何の説明もなく舞台は日本に切り替わり(但し、戦争が始まって日本に戻ってきたのだなということは理解に難くはないが)、フジタは陸軍美術協会理事長に就き(やや受身的に描かれている)、戦争画を手掛け、「決戦美術展」には彼の作品「アッツ島玉砕」が展示されています。ここでは主に、5番目の妻の君江(中谷美紀)との疎開先での静かな生活が描かれ、疎開で世話になった家の息子・治郎(加瀬亮)の出征などがエピソードとして織り込まれています。出征を前にした治郎が語る、狐が人間を騙そうとして見破られてしまう話に軽く噴き出すフジタは、パリ時代の彼とは対極にいるようにも思えました。

 映画は、次第に、フジタの心象を表すような美しい風景の連続となり、最後は自身が仏ランスに建立した「シャペル・フジタ(フジタ礼拝堂)」の壁画を映して終わり(エンディングロールの後に出てくる)、小栗康平監督はこの作品についてあるインタビューで「映画を見ることは、絵を見ることと同じだと思います」と語っていたように思いますが、まさに、そういう映画だったなあと。

 まあ、「泥の河」「伽倻子のために」「死の棘」「眠る男」など過去の殆どの作品で国際的な映画賞を受賞している小栗康平監督が賞狙いにいったと言うよりは、自分が撮りたい映画を撮ったというように解してあげたいところですが、余計な「説明」を意図的に排することで、逆にちょっと「説明不足」で「不親切」になってしまった印象も受けます。

映画『FOUJITA』attu.jpg 「アッツ島玉砕」などは、戦意高揚作品の形をとりつつ、実はピカソの「ゲルニカ」などと同じく「反戦」絵画として描かれたものではないかと思わせるものがあるのですが、映画の中でそうした藤田嗣治の作品世界をじっくり見せることは敢えてしていないように思えました。フランスで描かれた諸作品の「素晴らしき乳白色」の世界もそうですが、ドラマ部分の薄暗いトーンを(ラストの「シャペル・フジタ」を除いて)作品にまでも被せてしまっていたのが残念。

 もう一つ、藤田嗣治は、戦争協力画を描いたことで戦後に戦争責任を問われ、そうした批判に嫌気がさして1949年に日本を去り、その後、生涯日本に戻ることなくフランスに帰化し、異国で亡くなったわけで、後に自身も、「私が日本を捨てたのではない。日本に捨てられたのだ」とよく語ったとのことですが、映画ではフランスに再度渡るところまでは描かれておらず、いきなり「シャペル・フジタ」の壁画がラストで出てきてお終いという...やっぱりコレ、ちょっと「不親切」過ぎない?

映画『FOUJITA』e.jpg藤田嗣治    .jpg 藤田嗣治のことをある程度知っている人も知らない人もこの映画を観るわけでしょう。藤田がスケープゴートに近い形で戦争協力の罪を被せられたことについては、彼の実力と国際的名声が日本画壇の重鎮たちにとっては脅威となり、仕組まれたうえでの'異物'排除であったとの説もあるようです(ちょうどオーソン・ウェルズがその'天才'を警戒されて、ハリウッドでは不遇だったように)。藤田はパリに立つ際に、「絵描きは絵だけ描いて下さい。仲間喧嘩をしないで下さい。日本画壇は早く国際水準に到達して下さい」との言葉を残しています。
藤田嗣治(1886-1968)

映画『FOUJITA』_6.jpg ただ、映画内ではこうした藤田嗣治が当時置かれていた背景事情を殆ど割愛しているか、または説明していません。そのことと、藤田嗣治の「波乱の生涯を描いた」という映画の口上との間にギャップを感じたのは自分だけでしょうか。

 また、確かに美しく撮られている映画だとは思いますが、同じパリ編でも、現地で撮られたもの(キャバレーの場面など)と日本のスタジオで撮られたシーン(カフェの場面)がはっきり見分けがつくほど美術のトーンが違っていたりしていたのも気になりました。

浅田彰.jpg 批評家の浅田彰氏が、昨日(2016.1.7)自身のブログでこの作品がなぜ失敗作であるのかを分析していました。どれをとっても安っぽく鈍重で見るに堪えない活人画、オダギリジョーのとても公衆の前に出せるものではない付け焼刃のフランス語、1920年代のパリと1940年代の日本しか描いていない構成―と、かなりボロクソです。星3つでもまだ甘い方かも。
  
「FOUJITA」●制作年:2015年●製作国;日本/フランス●監督・脚本:小栗康平●製作:井上和子/小栗康平/クローディー・オサール●撮影:町田博●音楽:佐藤聰明●時間:126分●出演:オダギリジョー/藤谷美紀/アナ・ジラルド/アンジェル・ユモー/マリー・クレメール/加瀬亮/りりィ/岸部一徳/青木崇高/福士誠治/井川比佐志/風間杜夫●公開:2015/11●配給:KADOKAWA●最初に観た場所:渋谷・ユーロスペース(15-11-10)(評価:★★☆)

 
ユーロスペース2.jpgユーロスペースtizu.jpgユーロスペース 2006(平成18)年1月、渋谷・円山町・KINOHAUSビル(当時は「Q-AXビル」)にオープン(1982(昭和57)年渋谷・桜丘町にオープン、2005(平成17)年11月閉館した旧・渋谷ユーロスペースの後継館。旧ユーロスペース跡地には2005年12月「シアターN渋谷」がオープンしたが2012(平成24)年12月2日閉館)

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東野圭吾原作。大掛かりは大掛かりだったけれど、やはりやや大味に。

天空の蜂ps.jpg 天空の蜂 .jpg 天空の蜂 dvd.jpg   天空の蜂  i.jpg
映画「天空の蜂」イメージポスター/映画「天空の蜂」ポスター/「天空の蜂 [DVD]」/東野 圭吾『天空の蜂』単行本

天空の蜂G.jpg 1995年8月8日、最新鋭の超巨大ヘリ《ビッグB》が、突然動き出し、子供を一人乗せたまま、福井県にある原子力発電所「新陽」の真上に静止した。遠隔操縦によるハイジャックという手口を使った犯人は〈天空の蜂〉と名乗り、"全国すべての原発の破棄"を要求、従わなければ、大量の爆発物を搭載したヘリを原子炉に墜落させると宣言する。機内の子供の父天空の 蜂W1.jpg親であり《ビッグB》を開発したヘリ設計士・湯原(江口洋介)と、原子力発電所の設計士・三島(本木雅弘)は、上空に取り残された子供の救出と、日本消滅の危機を止めるべく奔走するが、政府は原発破棄を回避しようとする。燃料が尽きてヘリが墜落するまで残された時間は8時間―。その頃愛天空の蜂C.jpg知県では、《ビッグB》と原発を開発した錦重工業本社に、家宅捜索が入っていた。総務課に勤める三島の恋人・赤嶺(仲間由紀恵)は、周囲に捜査員たちが押し寄せる中、密かに恋人の無事を祈る。一方、事件現場付近で捜査にあたる刑事たちは、《ビッグB》を奪ったと思われる謎の男・雑賀(綾野剛)の行方を追う―。

 原作は東野圭吾が20年前に発表した書き下ろし長編で('95年講談社刊)で、作者にとっては最も思い入れのある作品であるとのこと。これまで映画化されていなかったのは、映像化が困難であったためとのことですが、まあ、それだけスケールの大きな作品であることには違いないのかも。その分、大味なのではないかと勝手に決め込んで、こういうのは原作を読み返すより映画を観てしまった方がよいのではないかと思い、先に劇場に行きました。

 CGも使ってはいますが(こうした作品はもうCG無しでは作れないみたいになっているなあ)、大掛かりは大掛かりでした。その分逆に、東野圭吾らしい捻ったプロットは見られないのかなあと思ったら、一応、ストーリー上はありました。ただ、この"二重構造の犯人"はちょっと天空の蜂 ehara.jpg天空の蜂 motoki.jpg分かりにくかったように思われ、138分は少し長く感じられたでしょうか。全部アクションシーンで撮るわけにもいかないでしょうが、ドラマ部分がちょっとダルく感じられ、むしろ、三島と雑賀の繋がりなど、プロットに関わる部分をもっとしっかり描いて欲しかったように思います(結果として、やはり、やや大味だったというところか)。

天空の蜂 amino.jpg天空の蜂 D1.jpg 江口洋介、本木雅弘は初共演ということで、まずまずの"競演"ぶりでしたが、ややオーバーアクション気味のところもあって、逆にイマイチ胸に響かない面も。更には、綾野剛、仲間由紀恵などの演技も何となくワンパターンに感じられ、むしろ、刑事役の手塚とおる、落合モトキなどの"脇の脇"の演技が光ったかも。ラストで、湯原の子供が自衛官(向井理)になっていて2011年3月13日、東日本大震災の2日後に現地で支援活動任務に服しているという設定は、当然のことながら原作には天空の蜂E.jpg天空の蜂T70.jpg天空の蜂 向井.jpgありません。自衛隊のリクルートも兼ねたシーンかと思いきや、自衛隊はこの映画には協力していないようです。自衛隊どころか、川崎重工業 富士重工業といった国産ヘリコプター・メーカーも協力しておらず(協力はエアバス社)、やはり、国からの受注企業は原発は危険というイメージが伴う作品には協力出来ないのでしょう(原発で頑張っている人も描いているのだけど)。

天空の蜂 ビッグB.jpg ラスト近くで、仮に《ビッグB》が原子炉建屋に墜落して建屋が壊れても格納容器までは壊れないだろうという犯人の読みが明かされていたように思いましたが(その理屈に従って、緊急時の格納容器内への避難を提案している場面が既にあった)、むしろ、使用済み核燃料庫の上に墜落する方が危険であるならば、ヘリ落下の際にリモコンで位置をずらすのも、落下に要する時間が数秒しかないということからみて、それなりに危険なのではないでしょうか。

 また、超巨大ヘリの後部ハッチが、缶コーヒーの缶と懐中電灯を挟んだだけで閉まらなくなるというのもどうかとか、こういうのって細かい部分にケチをつけ始めると際限が無くなるのかもしれません。

天空の蜂 cast.jpg「天空の蜂」●制作年:2014年●監督:堤幸彦●製作:大角正/木下直哉/古川公平/坂本健/宮本直人●脚本:楠野一郎●撮影:唐沢悟●音楽:リチャード・プリン●原作:東野天空の蜂 文庫.jpg圭吾「天空の蜂」●時間:138分●出演:江口洋介/元木雅弘/仲間由紀恵/綾野剛/國村隼/柄本明/石橋蓮司/竹中直人/手塚とおる/松島花/石橋けい/落合モトキ/向井理/佐藤二朗/光石研/やべきょうすけ/永瀬匡●公開:2015/09●配給:松竹●最初に観た場所:シネマサンシャイン池袋(15-09-22)(評価:★★★)天空の蜂 新装版
  
           
シネマサンシャインes.jpgサンシャインシネマ池袋47.jpg池袋シネマサンシャイン 1985年7月6日池袋サンシャイン60通りに「池袋シネマサンシャイン」オープン、2009年5月1日「シネマサンシャイン池袋」に改称(6館体制)。2019(令和元)年7月12日閉館
サンシャインシネマ池袋 tizu.png1番館:234席
2番館:176席
3番館:135席
4番館:264席
5番館:409席
6番館:139席

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池脇千鶴にはいい意味で予想を裏切られた。個々の俳優が集中力の高い演技をしている。

そこのみにて光輝く dvd.jpg  そこのみにて光輝く 映画サイト.jpg そこのみにて光輝く 1シーン.jpg  そこのみにて光輝く 河出文庫.jpg
そこのみにて光輝く 通常版DVD」/映画「そこのみにて光輝く」公式サイト/綾野剛・池脇千鶴 - アジア・フィルム・アワード最優秀助演女優賞/『そこのみにて光輝く (河出文庫)』['11年]
そこのみにて光輝く%20チラシ.jpg 仕事を辞めて何もせずに生活していた達夫(綾野剛)は、パチンコ屋で気が荒いもののフレンドリーな青年、拓児(菅田将暉)と出会う。拓児の住むバラックには、寝たきりの父親、かいがいしく世話をする母親、そして姉の千夏(池脇千鶴)がいた。達夫と千夏は互いに思い合うようになり、ついに二人は結ばれる。ところがある日、達夫は千夏の衝撃的な事実を知る―。

そこのみにて光輝く モントリオール.jpg 呉美保の2014年監督作で、モントリオール世界映画祭で最優秀監督賞(呉美保)を受賞しており(吉永小百合がプロデュース参画し主演した「ふしぎな岬の物語」の審査員特別賞グランプリ受賞と同時受賞)、第88回キネマ旬報ベスト・テンでも第1位に選ばれるなど、評価の高かった作品です(呉美保監督は平成26年度「芸術選奨文部科学大臣新人賞」も受賞)。
「北海道新聞・2007年10月9日」掲載記事より
「北海道新聞・2007年10月9日」掲載記事より.jpg佐藤泰志 生の輝きを求めつづけた作家.jpg 原作は函館出身の作家・佐藤泰志(1949-1990/享年41)が遺した長篇小説で、第2回「三島由紀夫賞」候補になりながら受賞には至らなかった作品。作者・佐藤泰志はそれまでにも5回「芥川賞」候補になるなどしていましたが、この初の長編小説の三島賞落選の翌年に自死を遂げています(統合失調症という病を抱えていた)。『佐藤泰志: 生の輝きを求めつづけた作家』['14年]

そこのみにて光輝く4752.JPG 原作では、造船所の労働争議に嫌気がさして会社を退職し、退職金を手に無為の日々を送っていた達夫が、貧しい生活を送る千夏・拓児の姉弟と出会い、達夫と千夏の関係が次第に深まっていく様を描いた〈第1部〉と、達夫と千夏が既に結婚していて、但し、達夫はある種"閉塞感"のようなものに囚われていて、そこから抜け出すために山(ヤマ=鉱山)へ行こうとする、その間際に拓児がある事件を起こすという〈第2部〉に分かれていました。

 映画化するならば「そこのみにて光輝く」というタイトルにも呼応する〈第1部〉かなと思っていましたが、概ねの所そうでした。但し、〈第2部〉の最後の達夫がヤマへ行こうとする話と拓児がある事件を起こす話がその〈第1部〉に織り込まれていて、まあ、これもありかなと(〈第2部〉が無いため、〈第1部〉の設定が"過去"ではなく"現在"になっている)。

 原作での造船所を退職してぶらぶらしているという達夫の設定が、ヤマで同僚を事故死させてしまいトラウマで働けなくなってしまったという設定に変えられていて、その事故シーンが冒頭に回想で出てくるため、最初はえっと思ってしまったのですが、全体を通して、原作の滅茶苦茶に暗い雰囲気はよく伝わってきました。

そこのみにて光輝く 映画X.jpg 観る前は、綾野剛(達夫)、池脇千鶴(千夏)、菅田将暉(拓次)という配役を聞いて、原作の登場人物のイメージに比べて「線が細い」感じで「お子様っぽいそこのみにて光輝く 映画S.jpg」のではないかとの印象を受けたのですが、実際に観てみたら、それなりに持ち味を出していたように思います。個人的感想で言えば、綾野剛の演じる達夫は、どちらかと言うと"観る側"であるから、綾野剛の演技が受身的であるのはいいとして、イメージ的に一番改変されていたのは菅田将暉が演じる拓次だったでしょうか。"幼い"と言うより"軽い"感じがしました。

そこのみにて光輝く 2.jpg そして、肝腎の千夏ですが、やはりどうしても"肉感的"な女性でなければならないのでは...と。それも、日中、イカをさばく工場で働いて、夜は売春で生計を立て、弟の勤め先の社長の愛人であり、要介護の父親の性欲処理を母親に代わってしているという、そうしたものを全て背負った上での"肉感的"な女性であるわけで、小柄な池脇千鶴ではイメージが弱いか或いは違うのではないかと思われたのですが、蓋を開けてみれば思った以上に役柄に嵌った"肉感的"ぶりだったと言うか、芯が強く、それでいて、ふと見せる優しい女性の顔もあり、いい意味で予想を裏切られました。

池脇千鶴 「ほんまもん」.jpg池脇千鶴 「三井のリハウス」 池脇千鶴(1981年生まれ。三井の"リハウスガール"('97年)やNHK朝の連続テレビ小説「ほんまもん」('01年)の頃と随分変わった)はこの演技で、TAMA映画賞最優秀女優賞、毎日映画コンクール女優助演賞、日本映画批評家大賞助演女優賞などを受賞、「日本アカデミー賞」では優秀主演女優賞を受賞しましたが、"最優秀" 主演女優賞は「紙の月」の宮沢りえに持って行かれました(これは妥当か。宮沢りえの演技は抜きんでていた)。海アジア・フィルム・アワード 池脇.jpgアジア・フィルム・アワード 宮沢.jpg外でも2015年「アジア・フィルム・アワード」で最優秀助演女優賞を受賞しましたが、マカオで行われた授賞式には、前月に「日本アカデミー賞」の最優秀主演女優賞を受賞した宮沢りえもプレゼンターとして登場していました。

 この作品は、個々の役者陣が頑張ったというのもあるかと思いますが、呉美保監督の演出力も大きいのだろうと思います。スクリプター出身の監督ですが、現場を纏め上げていくことで、俳優やスタッフの集中力を維持することに長けているのかも。それだけに、達夫の「ヤマで同僚を事故死させてしまいトラウマで働けなくなってしまった」という、やや手垢のついたような設定は要らなかったように思います。

そこのみにて光輝く eiga.jpg「そこのみにて光輝く」●制作年:2014年●監督:呉美保(お・みぽ)●製作:永田守/菅原和博●脚本:高田亮●撮影:藤龍人●音楽:田中拓人●原作:佐藤泰志「そこのみにて光輝く」●時間:120分●出演:綾野剛/池脇千鶴/菅田将暉/高橋和也/火野正平/伊佐山ひろ子/田村泰二郎●公開:2014/04●配給:東京テアトル・函館シネマアイリス(評価:★★★★)

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モチーフの選び方と構成は作者「自家薬籠中」のものか?

紙の月 単行本.jpg 紙の月 角田光代.jpg   紙の月 映画 dvd.jpg 紙の月 映画TN.jpg 
『紙の月』単行本['12年]/『紙の月 (ハルキ文庫)』「紙の月 DVD 」宮沢りえ

紙の月 単行本1.jpg 2012(平成24)年度・第25回「柴田錬三郎賞」受賞作。2012(平成24)年度「『本の雑誌』編集部が選ぶノンジャンル・ベスト10」第2位。

 ただ好きで、ただ会いたいだけだった―わかば銀行の支店から1億円が横領された。容疑者は、梅澤梨花41歳。25歳で結婚し専業主婦になったが、子どもには恵まれず、銀行でパート勤めを始めた。真面目な働きぶりで契約社員になった梨花。そんなある日、顧客の孫である大学生の光太に出会うのだった―。

 真面目な女性銀行員、その真面目さによる成績優秀ぶりによりパートから契約社員となったそんな彼女が、銀行から1億円を横領し、海外にまで逃亡するようになる過程を、非常に自然なタッチで描いていて、"通俗を描いて巧み"とでも言うか、まさに手練れの成せる技と言った感じの作品のように思いました。

 梅澤梨花がタイ・バンコクの街を彷徨(さまよ)う現在を冒頭に描いた後、彼女が犯罪行為に手を染めていく「過程」を過去形で描くとともに、海外に潜伏する容疑者として報じられた彼女のニュースに接した彼女のかつての同級生たちの「現在」が、糾える縄のように交互に描かれており、スリリングな綱渡りのような生活をしている梅澤梨花と、日常の生活にどっぷり埋没している彼女の同級生たちを対比的に描きながら、日常の生活にどっぷり浸っている側にも、第2の梅澤梨花に成り得る糸口はいくらでもあることを示唆しているのが巧みです。

 梅澤梨花は一線を越えてしまったわけですが、一線を越えたというよりは、突き抜けたというか、自分を解放したような印象を受け、その点において、日常生活の中で吹っ切れないままに煮立っているような彼女のかつての同級生らと比べると輝いて見えるのが小説として成功している点でしょうか。

 おあそらく、過去にあった女性行員による横領・詐欺事件などを参考にしているとは思いますが('73年の「滋賀銀行9億円横領事件」(奥村彰子(当時42歳))、'75年の「足利銀行詐欺横領事件」(大竹章子(当時23歳))、'81年の「三和銀行詐欺横領事件」(伊藤素子(当時32歳))など)、手口などは作者が独自に研究した部分もあるのではないでしょうか。実際にあった事件をモチーフにしているという点では、'99年に起きた「文京区幼女殺人事件」、俗に言う「音羽お受験殺人事件」が作品のモチーフになっている『森に眠る魚』('08年/双葉社)を想起させます。

 ここではたと思い当たるのが、『森に眠る魚』('08年/双葉社)も容疑者の母親と、彼女を取り巻く、同じく受験生子女を抱える母親たちを交互に描いていて、皆に事件を起こす動機があることを仄めかしていた点で似ており、作者はこの手法を「自家薬籠中の物」としてしまった印象も受けます((『森に眠る魚』では全員に犯人の可能性があるまま、更に、事件は起きなかったという解釈も成り立つ終わり方をしている)。

 『森に眠る魚』は、第一容疑者である主人公を筆頭に、登場人物が誰も好きになれませんでしたが、今回もAmazon.comなどのレビューを見ると、同じような理由からこの作品が好きになれないというようなものがありました。個人的にもそれに近い印象を持ちましたが、一線を越えた梅澤梨花だけは、突き抜けた分、一瞬輝いていたのではないでしょうか。精神科医の斎藤環氏が、本作のラストの爽快感を映画「テルマ&ルイーズ」('91年/米)に匹敵すると言っているのは当たっているのではないかと。

紙の月 原田.jpg 2014年にNHKで原田知世主演でテレビドラマ化され(全5回)、個紙の月 映画E0.jpg人的には未見ですが、原作者も絶賛するほどの出来栄えだったとか。更に同年に「桐島、部活やめるってよ」('12年)の吉田大八監督作として映画化され、こちらは宮沢りえが梅澤梨花を演じました。
宮沢りえ

紙の月 映画Z.jpg 宮沢りえは7年ぶりの映画主演ということですが、ブランクを感じさせない上手さでした(舞台で鍛えられている?)。その演技については、原作者である角田光代氏も、「度肝を抜かれた。どんどん悪い行動に走っていくのに反比例して透明な美しさが増していくのがすごい迫力で素晴らしかった」と絶賛のコメントを述べたとのこと。宮沢りえはこの作品で、映画の一般公開前に第27回東京国際映画祭で最優秀女優賞を受賞したほか(しかも審査員の満場一致で)、日本アカデミー賞主演女優賞受賞をはじめ多くの賞を受賞しています。

宮沢りえ&吉田大八監督

紙の月 映画   .jpg紙の月 映画E.jpg 映画の作りとしては、原作にある主人公の2人の同級生の現在は省いてしまい、代わりに、厳格なベテランとリアリストである若手の異なるタイプの銀行事務員2人(小林聡美・大島優子)を登場させていましたが、小林聡美はやはり安定した演技の上手さでした。主人公の文書偽造の様子なども再現されていて(映画を観た某銀行元行員によれば、映画の舞台になっている90 紙の月 映画 01.jpg年代であれば、こうした犯行の実現可能性はあったとのこと)、主人公とその疑惑を追及するベ紙の月 映画s.jpgテラン行員の宮沢vs.小林の演技対決もなかなかでした。但し、ラスト近くの2人が対峙する場面で、主人公がビルのガラス窓に椅子を投げつけるようなシーンは必要なかったように思います。

 ストーリーとしてはある意味通俗ですが、"通俗を演じる"のって結構難しいのではないかなあ。宮沢りえは、椅子なんか投げてガラスをぶち破らなくとも、突き抜けた分一瞬輝いた女性を演じて、原作の意図にに十分応えていたように思います。『八日目の蝉』('07年/中央公論新社)のテレビや映画での映像化の際もそうだったみたいですが、この作者の作品は、女優の役者魂を駆り立てる何かがあるのでしょうか。

紙の月 映画kuranke.jpg紙の月 映画 LM.jpg紙の月 映画GB.jpg「紙の月」●制作年:2014年●監督:吉田大八●製作総「紙の月」宮沢石橋.jpg指揮:大角正●脚本:早船歌江子●撮影:シグママコト●音楽プロデューサー:緑川徹●時間:126分●原作:角田光代「紙の月」●出演:宮沢りえ/池松壮亮/大島優子/田辺誠一/小林聡美/近藤芳正/石橋蓮司/佐々木勝彦/天光眞弓/中原ひとみ/伊勢志摩●公開:2014/11●配給:松竹(評価:★★★★)

「紙の月」クランクアップ(2014/11 タイ・バンコク)

【2014年文庫化[ハルキ文庫]】

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2章の主人公の、自身の新たな運命を切り拓こうとする投企的な意思がいい。"母性小説"。

八日目の蝉 単行本.jpg 八日目の蝉 文庫.jpg   八日目の蝉 dvd.jpg 八日目の蝉 映画2.jpg
単行本['07年]/『八日目の蝉 (中公文庫)』「八日目の蝉 通常版 [DVD]」出演:井上真央/永作博美/小池栄子

八日目の蝉 英訳本.jpg 2005(平成17)11月から翌年7月24日まで読売新聞夕刊に連載された作品で、2007(平成19)年・第2回「中央公論文芸賞」受賞作。2008(平成20)年・第5回「本屋大賞」第6位。

(英文版) 八日目の蝉 - The Eighth Day

 [0章] 秋山丈博の愛人であった野々宮希和子は秋山宅に侵入、眠っていた赤ん坊(秋山恵理菜)を一目見るためだったが、赤ん坊が笑いかけたのを見て衝動的に誘拐する。[1章] 希和子はこれにより誘拐犯として追われる身となり、薫と名づけた赤ん坊とともに逃亡を始める。まず事情を知らない親友の手を借り、その後、立ち退きを迫られている女の家に滞在、更に、女性だけで共同生活を送る「エンジェルホーム」に所持金をすべて手放して入所する。そこでも自分達の娘や妻を奪い返そうとする家族団体からの抗議に巻き込まれる中、警察の介入を避けて再び逃亡、エンジェルホームで出会った共同生活者の手助けで小豆島に逃亡し、安寧な生活を送ったものの、1枚の写真を契機に逮捕される。[2章] 成人した恵理菜は、妻子持ちの岸田と付き合う中で希和子と同様に妊娠するが、岸田は丈博と同様頼りにならない。恵理菜の前に、エンジェルホームの問題や恵理菜の事件を取材しているフリーライターで、かつてホームにいたという安藤千草が現れる。恵理菜の妊娠を知ってわめき叫ぶ実の母親に絶望した恵理菜は、自分なりの判断を下す―。

 少し長めの[1章]の方は、希和子の母性から誘拐という犯罪を為す希和子の心理を描いて巧みですが、作者は希和子に寄り添って描いているように思えるものの、読み手としては、やはり希和子そのものを好きになれないというのはありました(この作家の作品は、出てくる人の誰もが好きになれないということが往々にしてあるのだが)。むしろ、こうした逃亡者を匿う人がいたり施設があったりするという、そうした社会状況が反映されている点が興味深かったです(今日でもDV被害者の駆け込み寺のような施設は結構あるのだろうなあ。居所不明児童を生む一因にもなっているようだが)。

 [2章]の成人した恵理菜の話は、最初の内は[1章]よりもっと暗い感じがしました。恵理菜の血の繋がった父母、とりわけ母親の方は完全に家庭人としては機能不全しており、恵理菜が不倫相手の子どもを妊娠したことを知ってヒステリーを起こしてしまう―こうした流れは、恵理菜の育ての親・希和子が父の不倫相手であったわけで、ある種「負の連鎖」的なものも感じられますが、終盤、そこから"開き直った"とでも言うか、実の親に見切りをつけたと言うか、恵理菜の思い切った決断は清々しいものでした。

 固定観念的な運命論に囚われず、自分で自身の新たな運命を切り拓いていこうとする、その投企的な意思に感動させられます。安藤千草の助けもあったかと思いますが、やはり原動力は"母性愛"なのでしょう。希和子が恵理菜を誘拐したのも母性愛的な犯行動機であるし、恵理菜が島に渡るのも母性愛から。「母性小説」と言っていい作品でした。

 2010年にNHKで、壇れい(希和子)・北乃きい(恵理菜)主演でテレビドラマ化され(全6回)、第27回「ATP賞テレビグランプリ2010」のグランプリを受賞していますが個人的には未見。更に翌2011年に八日目の蝉 映画.jpg八日目の蝉 映画N.jpg成島出監督、永作博美(希和子)、井上真央(恵理菜)主演で映画化され、第35回「日本アカデミー賞」の最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀主演女優賞(井上真央)・最優秀助演女優賞(永作博美)・最優秀脚本賞など「10冠」を獲得しました。さらに、「芸術選奨文部科学大臣賞」も受賞、第66回「日本放送映画藝術大賞」でも、最優秀作品賞・最優秀脚本賞・最優秀助演女優賞(小池栄子=安藤千草役)など「7冠」を獲得しています。井上真央の日本アカデミー賞最優秀主演女優賞は"ぶっちぎりの前評判通り"だったものと記憶し、永作博美と小池栄子はそれぞれ第85回「キネマ旬報ベスト・テン」主演女優賞と助演女優賞も受賞していて、「女性の映画」らしく女優陣が賞を総なめした感じでした。

八日目の蝉 映画4.jpg 原作のラストで、そうとは知らずに恵理菜と希和子の2人が偶然フェリー乗り場で居合わせるのは、ちょっと話が出来過ぎな気もしますが、映像化した場合の効果まで狙っているのかと思ったら、映画では「互いに相手を認識しない偶然のすれ違い」はカットされていました。全体として、[2章]が"現在"で、そこへ[1章]の"過去"の話をカットバック的に挟むという構成で、フェリー乗り場の"現在"と"過去"も、そういう重ね方をしています。

八日目の蝉 映画K.jpg 原作が[1章]の方が量的なウェイトが大きいのに対し、映画の方は[2章]のウェイトが大きくなっています。その分、小池栄子演じる安藤千草の存在の比重が大きくなっていて、恵理菜と2人で島に渡って過去を巡る(但し、エンジェルホームは廃墟になっている)といった原作にない展開がありますが、そもそも、最初の2人の出会いから最後のそこに至るまでの2人のやりとりは殆ど全て原作に無いオリジナルの脚本(セリフ)であり、結果的に、映画全体がオリジナル色が濃かったという印象です(登場人物によっては原作のままのセリフもあるが)。

 映画も悪くなかったのですが、やや冗長感があったのと、恵理菜の希和子に対する思いが、原作の吹っ切れた印象とは違って、恵理菜の方から希和子に寄り添ったものになっているように感じられ、その部分は原作とやや違うような印象を受けました(映画だけ観た人は、恵理菜が希和子を探して会いに行ってもおかしくないと思うのでは)。但し、原作者である角田光代氏は、この映画を観て大号泣させられたそうですが。

八日目の蝉02.jpg「八日目の蝉」●制作年:2011年●監督:成島出●製作総指揮:佐藤直樹●脚本:奥寺佐渡子●撮影:藤澤順一●音楽:安川午朗●時間:147分●原作:角田八日目の蝉6.jpg光代「八日目の蝉」●出演:井上真央/永作博美/小池栄子/森口瑤子/田中哲司/渡邉このみ/吉本菜穂子/市川実和子/余貴美子/平田満/風吹ジュン/劇団ひとり/田中泯/相築あきこ/別府あゆみ/安藤玉恵/安澤千草/ぼくもとさきこ/畠山彩奈/宮田早苗/徳井優/吉田羊/瀬木一将/広澤草勲●公開:2011/04●配給:松竹(評価:★★★☆)

【2011年文庫化[中公文庫]】 

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「手続の一環としての殺人」という怖さ。映画化されたが、原作は原作、映画は映画といった感じ。

凶悪 ある死刑囚の告発.jpg「新潮45」編集部 凶悪 2007.jpg      凶悪 dvd.jpg 映画 凶悪 リリー・フランキー.jpg
凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)』['09年]/『凶悪 ある死刑囚の告発』['07年]/「凶悪 スペシャル・プライス [DVD]」/映画「凶悪」['13年/日活](リリー・フランキー)

 人を殺し、その死を巧みに金に換える"先生"と呼ばれる男がいる―雑誌記者が聞いた驚愕の証言。だが、告発者は元ヤクザで、しかも拘置所に収監中の殺人犯だった。信じていいのか? 記者は逡巡しながらも、現場を徹底的に歩き、関係者を訪ね、そして確信する。告発は本物だ! やがて、元ヤクザと記者の追及は警察を動かし、真の"凶悪"を追い詰めてゆく。白熱の犯罪ドキュメント―。(「BOOK」データベースより)

凶悪 ある死刑囚の告発 2.jpg 死刑判決を受けて上訴中だった元暴力団組員の後藤良次被告人が、本書の著者である雑誌「新潮45」の編集長を介して、自分が関与した複数事件(殺人2件と死体遺棄1件)の上申書を提出したことにより、後藤が「先生」と慕っていた不動産ブローカーが3件の殺人事件の首謀者として告発された、所謂「上申書殺人事件」のドキュメント。雑誌「新潮45」が2005年に報じたことによって世間から大きく注目されるようになり、2007年に単行本化され、2009年に文庫化、文庫では、「先生」が関与した1つの殺人事件が刑事事件化し、この不動産ブローカーに無期懲役の判決が下ったというその後の経緯が書き加えられています(ここで初めて、三上静雄という「先生」の本名が明かされている)。

 数多い犯罪ドキュメントの中でも、取材者が警察に先行して真相に迫っていく内容であり、その点で先ずグイグイ引き込まれます。一方で、この元暴力団組員に「先生」と呼ばれる不動産ブローカーの周辺では7件もの不審な死亡・失踪が起きていることが分かったのに対し、事件化したのは元暴力団組員の告発した3件のみで、しかも、立件されたのはその内の1件のみ―ということに対する無力感も。「先生」にはその1件により無期懲役の判決が下り、告発した暴力団組員はそのことにより死刑囚でありながら懲役20年の判決が下ります。

 死刑囚である元ヤクザの後藤が、自らの死刑判決がますます揺るぎないものになるかもしれないのに隠された犯罪を明るみに出すのは、自分を裏切った「先生」に対する復讐であり、自らの減刑に一縷の望みを懸けるよりも、のうのうと娑婆で生き続けている「先生」への復讐を遂げなければ、死んでも死にきれないという気持ちなのでしょう。著者の接見によれば、三上を死刑に追い込めなかったのは残念だったが、二度と社会に出られない状況に追いやったことで、一定の満足感は得ているようです(後藤本人は現在、死刑確定囚としての再審請求中)。

凶悪 映画 リリー・フランキー.jpg凶悪 映画  ピエール瀧.jpg 2013年に公開された白石和彌監督による映画化作品「凶悪」の方は、後藤(映画内では"須藤")をピエール瀧が、三上(映画内では"木村")をリリー・フランキーが演じましたが、元々俳優が出自ではなかった2人を主役に配したことで逆にドキュメンタリー感が出て、配役で半分は成功が決まったようなものだったかも(と言ってもこの2人だからこそ、のことだが)。ピエール瀧、リリー・フランキーと日本アカデミー優秀助そして父になる 3.jpg演男優賞を受賞、リリー・フランキーは、本作品の翌週に公開された是枝裕和監督の「そして父になる」('13年/ギャガ)では真木よう子との夫婦役で暖かな家庭の父親役を演じており、その演技の幅が話題になりました。但し、配役が映画を決定づけるとはよく言われますが、いい意味でも悪い意味でも、「原作は原作、映画は映画」といった感じになった気もします。

映画「凶悪」ピエール瀧/リリー・フランキー
凶悪 ある死刑囚の告発  eiga.jpg 個人的には、2人の演技は悪くないと思いましたが、記者の家族とか上司の女性など原作では描かれていない人物が出てきて、それなりにサイドストーリーを成しているのが却って邪魔に感じられました。映画では、ピエール瀧(須藤)とリリー・フランキー(木村)が拮抗していますが、この事件の怖さは、文庫版の終わりの方にそれぞれ写真がある、どう見てもヤクザにしか見えない後藤よりも、ごく普通のどこにでもいそうな初老の男性にしか見えない三上の方にあるのでしょう。記者の周辺人物を描く余裕があれば、それよりも、三上(映画内では"木村")の方をじっくり描いて欲しかった気がします。


映画「凶悪」ピエール瀧/リリー・フランキー.jpg 映画では"木村"はシリアルキラーであるとともにサイコパス的な残忍さも持っているような描かれ方で、殺人を楽しんでいるような印象さえ受けますが、原作で著者は、三上の最初の殺人は衝動的なものであり、その結果に自分でもパニくって、後藤に後の処理を頼んだところ上手くいったので、それで他人の土地資産を搾取するために後藤を手先に使うようになったというのが実態のようです。

 別に殺人に対する特段の指向(嗜好)があるのではなく、不動産登記の書き換えのような手続作業の一環の中に殺人も含まれているという感じで、自分の家族は大事にしているのに、他人に対してはその命を奪うことに何ら逡巡せず、むしろビジネスの一環であるかのように事を進めているのが、三上の本当に怖いところではないでしょうか。

凶悪 ある死刑囚の告発 リリー。フランキー.jpg 映画では、ラストで記者に対して"木村"が、自分が死刑にならず無期懲役で済んだことについて勝ち誇ったような挑発的態度を取る場面がありましたが、これは先に述べたように、間違いなく多重殺人の計画犯であり首謀者でありながら、その罰が無期懲役で済んでいることに対して観客が感じる理不尽さをひっくり返して代弁しているような映画的な設定乃至は人物造型であり、実際の三上は、控訴していることからも窺えるように、どうすれば"娑婆"に戻れるかを依然として模索し、犯した罪については最後までシラを切り通すタイプではないかという気がします。

凶悪 映画.jpg「凶悪」●制作年:2013年●監督:白石和彌●製作:鳥羽乾二郎/ 十二村幹男/赤城聡/千葉善紀/永田芳弘/齋藤寛朗●脚本:高橋泉/白石和彌●撮影:今井孝博●音楽:安川午朗●原作:新潮45編集部編「凶悪―ある死刑囚の告発」●時間:128分●出演:山田孝之/ピエール瀧/リリー・フランキー/池脇千鶴/白川和子/吉村実子/小林且弥/斉藤悠/米村亮太郎/松岡依都美/ジジ・ぶぅ/村岡希美/外波山文明/廣末哲万/九十九一/原扶貴子●公開:2013/09●配給:日活(評価:★★★☆)

《読書MEMO》
●ピエール瀧容疑者、韓国紙幣で薬物吸入か 自室から押収(2019年3月13日朝日新聞DEGTAL)
ピエール瀧容疑者、.jpg

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やはり一筋縄ではいかない。「怒り」というタイトルは複数形と捉えるべきなのか。
吉田修一  怒り.jpg怒り 上.jpg 怒り 下.jpg 怒り dvd.jpg
怒り(上)(下)』['14年] 『怒り 上下巻セット』['14年] 「怒り DVD 通常版['17年]2016年映画化(出演:渡辺謙/森山未來/松山ケンイチ/綾野剛/広瀬すず/高畑充希/宮崎あおい)

 八王子市の新興住宅街で夫婦が惨殺され、現場には「怒」の血文字が残されていた。事件から1年後の夏、千葉・房総の漁港で暮らす洋平・愛子父子の前に「田代」という若者が現われ、東京で大手IT企業に勤め、末期がんの母を見舞いながら暮らすゲイの優馬は、新宿のサウナで「直人」と出会って同居するようになり、沖縄の離島へ母と引っ越し母娘でペンションの手伝いをする女子高生・泉は、無人島で「田中」という男と知り合う。それぞれに前歴不詳の「田代」「直人」「田中」という3人の男。一方、事件を捜査する八王子署の刑事・北見らは、整形手術をして逃亡を続ける犯人・山神一也が一体どこにいるのかを追っていた―。

 2013年に「読売新聞」朝刊に半年にわたって連載された作品で、2007年に起きた英会話学校講師リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件の犯人・市橋達也(当時28歳)の逃避行(2009年逮捕、手記を発表している)など、現実の事件を想起させるものがありました。市橋達也は逃亡期間中に整形手術をし、建設現場で働き、更に沖縄の離島に潜伏していた時期があったとされているため(しかもゲイのハッテン場にいたという目撃情報もあったらしい)、少なくともあの事件はモチーフになっているものと思われます。

 意外と早いうちに犯人らしきが登場するなあと思ったら、そのうち3人も「犯人候補」が出てきて、流石、やっぱりこの作家は一筋縄ではいかないなあという印象でしょうか。謎解きもさることながら、こうした「枠組み」に独自性があって、そのことは前作『愛に乱暴』('13年/新潮社)でも言えますが、但し前作は、ある種"叙述トリック的"な「枠組み」の方が勝ち過ぎてしまったのと、登場人物たちに共感できなかったために△。今回は、指名手配の山神の情報に触れた千葉・東京・沖縄の各舞台の当事者・関係者たちの心の中に浮かんだ疑惑の念や、それが当事者にとって大切な人になればなるほど膨らむ猜疑心と信じたい気持ちとの葛藤がよく伝わってきて○、といった自分の中での評価です。

 雰囲気的には初期作品『パレード』('02年/幻冬舎)を想起させる部分もあったように思います。最も意外な人物が犯人でした。ただ、「怒り」というタイトルから、犯人の犯行動機にある種テーマがあるのかと思いましたが、この部分は解明されておらず、犯人はある意味、人格的に「壊れていた」というだけのことだったともとれます。さらに、真犯人へと導く伏線も特に無かったように思われ、純粋に推理小説として読んでしまうと、後半はカタルシス不全が生じるかもしれません。

 そうしたことなども踏まえると、この「怒り」というタイトルは、複数形と捉えるべきなのかもしれません。沖縄の辰也の怒りなのかもしれないし、「犯人候補」となった2人の男たちの怒りなのかもしれません。辛くやるせない話が多いストーリー展開の中で、愛子の物語をハッピーエンドにし、泉にも将来に向けて幾許かの光明を見出せるような終わり方にしたのは救いでした。

 一方で、独身の刑事・北見と深い関係を持つようになった美佳については、その過去は明かされず、二人の関係も発展しないままで、これでこの話がお終いであるならばやや中途半端かも。「刑事・北見」でシリーズ化して、再登場させるのでしょうか。そうなったらおそらく自分はまた読むだろなあ。正直、自分自身この作品に対し、若干のカタルシス不全があっただけに...。

ポスター撮影:篠山紀信
映画 怒り_0_m.jpg映画 怒りド.jpg(●2016年に監督が「悪人」('10年/東宝)の李相日(リ・サンイル)、主演が渡辺謙で映画化された。千葉篇が松山ケンイチ(田代)・宮崎あおい(愛子)、東京編が綾野剛(直人)・妻夫木聡(優馬)、沖縄編が森山未來(田中)・広瀬すず(泉)という配役で、豪華キャストと言えるかも。 映画化にあたり「映画『オーシャンズ11』のようなオールスターキャストを配してほしい」というのが原作者・吉田修一氏の要望だったらしい。役者一人一人の演技は悪くなく、ストーリーも映画「怒り」.jpg映画「怒り」2.jpg原作にほぼ忠実だったように思う。但し、愛子の父・洋平(渡辺謙)が比較的映画 怒り 7.jpg前面に出て、北見刑事(三浦貴大)は後退し、美佳も出てこない。それと、"伏線"が無かった原作に対し、犯人の「壊れていた」感を出すためか、途中で原作に無いエピソードを入れている。また、愛子の物語をハッピーエンドにしているのは原作と同じだが、泉は何か気の毒なまま終わったように思えた。ただ、原作を読んでなくて犯人を知らないで観た人にとっては、プロセスにおいては結構面白かったのではないか。行定勲監督により映画化された「パレード」('10年/ショウゲート)と原作からして構造がやや似ている。)

映画 怒りc.jpg「怒り」●制作年:2016年●監督・脚映画 怒り.jpg本:李相日(リ・サンイル)●製作:市川南●撮影:笠松則通●音楽:坂本龍一●原作:吉田修一●時間:142分●出演:渡辺謙/森山未來/松山ケンイチ/綾野剛/広瀬すず/佐久本宝/ピエール瀧/三浦貴大/高畑充希/原日出子/池脇千鶴/宮崎あおい/妻夫木聡●公開:2016/09●配給:東宝(評価:★★★☆)

「怒り」1松山.jpg 「怒り」2綾野.jpg 「怒り」3森山.jpg
「怒り」1宮崎.jpg 「怒り」2高畑.jpg 「怒り」3広瀬.jpg

【2016年文庫化[中公文庫(上・下)]】

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「三軒茶屋シネマ」ラストショー2本立て―といっても、通常のラインアップと変わらないが...。

そして父になる tirasi.jpg 万引き家族 通常版DVD.jpg のぼうの城 tirasi.jpg
そして父になる DVDスタンダード・エディション」映画チラシ/万引き家族 通常版DVD(特典なし) [DVD]」/のぼうの城 通常版 [DVD]」映画チラシ
0三軒茶屋シネマ.jpg三軒茶屋シネマ ラストしおり.JPG 今月['14年7月]20日で60年の歴史を閉じた「三軒茶屋シネマ」の最終上映作品がこの「そして父になる」と「のぼうの城」の邦画2本立てであり、結構急な閉館だったせいか、通常の「二番館」的プログラムであって「さよならフェスティバル」的なプログラムではないのがやや唐突な気もします。それでも、最終日に観に行くと、午後の上映からは155席が満席になっていました(一応、前々週の「イタリア映画・不朽の名作2本立て」(「ニュー・シネマ・パラダイス」「ひまわり」)と前週の「モノクロ・サイレント映画の傑作2本立て」(「街の灯」「アーティスト」)と併せてフェスティバル的な上映とのことらしいが)。

そして父になる 1.jpg 是枝裕和監督の「そして父になる」('13年/ギャガ)は、夫(福山雅治)と妻(尾野真千子)の間にいる6歳の一人息子が、実は出生時に子どもの取り違えがあって実の息子ではなかったことが判明し、そこから始まるその夫婦の苦悩と、取り違えられた子を育ててきたもう1つの夫婦(リリー・フランキー・真木よう子)とのやり取りを描いた作品(2014年「芸術選奨」受賞作)。

そして父になる 2.jpg 子どもの取り違えが判明してからその次にどういう手順になるのかがきっちり取材されていて、加えて、河瀬直美監督に見出され「萌の朱雀」('97年)でデビューしたd尾野真千子、「無名塾」出身の真木よう子、スピルバーグがその演技を絶賛したリリー・フランキーなど、演技陣も充実していました。第66回カンヌ国際映画祭の審査そして父になる カンヌ.jpg員賞(パルムドール、(審査員特別)グランプリに次ぐ賞)を受賞した作品ですが、国内では、尾野真千子、真木よう子の2人はそれぞれ第37回「日本アカデミー賞」の優秀主演女優賞、最優秀助演女優賞を受賞、福山雅治、リリー・フランキーもそれぞれ優秀主演男優賞、最優秀助演男優賞を受賞しています(電気屋夫婦の方が「最優秀」を獲っていることになる。因みに真木よう子は、同年の「さよなら渓谷」での最優秀主演女優賞とのW受賞)。

 ある種、アンチ・クライマックス映画で、問題提起型作品の多い是枝裕和監督らしい作品。尤も、このテーマで安易な落とし所を設けて「感動物語」風にしてしまったら是枝監督作らしくはなくなるし、おそらく何人もいるであろう同種の事件の当事者に対する冒涜になってしまうのでしょう。それに代わるカタルシス効果がどこかに欲しかった気もしますが、カンヌでは上映後にスタンディングオベーションがあったというから、これでよしとすべきでしょうか(カンヌで観ていた人たちは概ね娯楽性を求めているわけではないだろうが)。子役までも上手だったことから、監督の演出力を率直に評価したいと思います。

万引き家族t.jpg(●是枝裕和監督の「万引き家族」('18年)が、第71回カン万引き家族 カンヌ.jpgヌ国際映画祭においてパルム・ドールを獲得した(日本人監督作品としては、1997年の今村昌平監督の「うなぎ」以来21年ぶり)。やはりリリー・フランキーを使万引き家族ド.jpgったかあ。でも彼は「そして父になる」以上の演技だった。この映画、Amazon.comのレビューなどでみると「どこがおもしろいのか、わからない」という人も結構多いようだが、個人的には良かったと思った。「お父さん」「お母さん」と呼んでほしいと願う主人公の想いが核になっていて、終わり方も良万引き家族3.jpgかった。家族っていなくなると切ないものである。これで、是枝監督にとって「家族」というのが大きなテーマであることがよく分かった。それでは小津安二郎や山田洋次と変わらないと思われるフシもあるかもしれないが、ステップファミリーを通して「家族」というものを描いているのが大きな特徴であり、「そして父になる万引き家族ges.jpg」からの流れで見ると繋がっている。ハッピーエンドにせず、問題投げかけ型で終わるのも同じ。今回は中流家庭ではなく、下流家庭(疑似家族)を描いている点で、明らかに小津安二郎の後期作品とも異なる。何となく是枝監督のスタンスが見えてきた気がする。パルム・ドールは、ベルギー移民の少女や若者の貧困を描いたダルデンヌ兄弟の作品が2度受賞しているなど、格差社第13回アジア・フィルム・アワード.jpg会を描いたものが近年では賞を獲り易い傾向にあり、「万引き家族」の受賞も意外性はなかった(「万引き家族」の翌年2019年には、ポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」がパルム・ドール受賞。やっぱりという感じ)。因みに本作は、2019年・第13回アジア・フィルム・アワードも作品賞と作曲賞(細野晴臣)を受賞しているほか(この賞の作品賞受賞は日本映画では初)、第44回ロサンゼルス映画批評家協会賞の外国語映画賞なども受賞している。)

第13回アジア・フィルム・アワード(左から細野晴臣(音楽)・是枝裕和・安藤サクラ・三ツ松けいこ(美術))

のぼうの城 1.jpg 犬童一心、樋口真嗣共同監督の「のぼうの城」('12年/東宝)は、北条氏の支城で、周囲を湖に囲まれ浮城とも呼ばれる忍城(おしじょう)の領主・成田氏一門の成田長親(野村萬斎)と、その城を攻め落とそうとする豊臣方・石田三成(上地雄輔)の攻防を描いた作品で、2時間超ですがあまり長さを感じさせず、予想以上に面白かったです(この面白さは、和田竜氏の直木賞候補となった原作の面白さによるものではないかとも思うが、原作を読んでいないので、素直に「面白かった」としておきたい。台詞が一部、「○○的」など現代語になっているのが気になったが、脚本も原作者によるもの)。

のぼうの城 佐藤.jpg 歌舞伎や狂言の俳優が、日頃その世界で伝統芸能の継承・研鑽に励みつつも、現代劇や時代劇に出てすんなりそれにフィットした演技が出来てしまうのにはいつも感心させられますが、この映画の野村萬斎の場合、狂言の演技をそのまま成田長親のキャラに活かしていることにより、映画を自分の作品にしている点で、起用に充分応えているように思いました。また、近習の正木丹波守利英を演じた佐藤浩市の演技がオーソドックスな映画的演技であることも、対比的な効果を醸しているように思われます。この2人はそれぞれ第36回「日本アカデミー賞」の優秀主演男優賞、優秀助演男優賞を受賞しています。

のぼうの城 野村.jpg ストーリー的には、最後は、北条氏の本城である小田原城が落城してしまうことから、支城を巡って争う理由がなくなり、これ以上は戦わずして成田氏は忍城を豊臣方・石田三成に明け渡すことになってしまうという点では、これもまた、アンチ・カタルシス的な作品と言えるかもしれません(M&Aで大企業に吸収される関係会社みたい)。それでも「こういう武将もいたのだ」という面白さによってさほどカタルシス不全を感じさせないのは、これはやはり、原作の目の付け所の良さに拠るものかと思われます。

「のぼうの城」gennsaku.jpg 僅か500の兵で2万の大軍から城を守り和議に持ち込んだというのはやはりスゴイことだと思われ、今までほとんど時代小説の素材になっていないのが不思議なくらい(風野真知雄の『水の城 いまだ落城せず』では主人公の成田長親は、際立った武勇や才覚はなく、捉えどころのない人物として描かれているそうだ)。近年の研究では、もともと水攻めに向かない城に対して水攻めに固執した秀吉のミスだったとの説が有力なようで、実戦経験の乏しい石田三成に配慮した作戦が裏目に出たのか。逆に三成が書状の中で「諸将は完全に水攻めと決め込んで全く攻め寄せる気がない」と嘆く事態となったわけですが、水攻めの決定に三成軍の武将たちのモチベーションががたんと低下する場面はこの作品の中でも描かれています。

夏八木勲 のぼう.jpg 観る前は、60年の歴史を持つ名画座のラストショーとしてはややもの足りないラインアップのようにも思えましたが、実際に観てみたらまあ思ったより良かったという感じでしょうか(でもやっぱり、基本的には通常のラインアップと変わらない組み合わせだった? 後に知ったことだが、劇場管理者は敢えて長年二番館として営業してきた三茶シネマらしいラインアップを選んだらしい)。ラストショーと思って思い入れを込めて観た分、評価はやや甘くなっているかもしれません。昨年['13年]5月に亡くなった夏八木勲(1939-2013/享年73)が両方の作品に脇役で出ています('12年の秋から膵癌を患い、闘病を続けていた)。

三軒茶屋シネマ8.JPG 名画座に降りてくる前にDVDがレンタルショップに並んでしまうというのはやはり名画座にとってはキツイことかも。「三軒茶屋シネマ」の閉館により、都内23区に残る名画座は「飯田橋ギンレイホール」「池袋新文芸坐」「早稲田松竹」「目黒シネマ」「下高井戸シネマ」「新橋文化劇場」「キネカ大森」「三軒茶屋シネマ70.JPGシネマヴェーラ渋谷」「神保町シアター」「ラピュタ阿佐ヶ谷」の10館となるそうですが(日本芸術センター運営の「シネマブルースタジオ」や「東京国立近代美術館フィルムセンター」などの公的施設は除く)、この内「新橋文化劇場」は、来月['14年8月]末閉館することが決まっています。
三軒茶屋シネマ6.jpg

三軒茶屋シネマ (1955年「三軒茶屋東映」オープン、1973年建て替え、1997年~「三軒茶屋シネマ」) 2014(平成26)年7月20日閉館日に撮影(左写真手前右:2013(平成25)年2月14日閉館「三軒茶屋中央劇場」(右写真右奥)跡)

Soshite chichi ni naru (2013) 樹木希林(1943-2018)/尾野真千子
Soshite chichi ni naru (2013) .jpgそして父になる 樹木希林.jpg「そして父になる」●英題:LIKE FATHER,LIKE SON●制作年:2013年●監督・脚本:是枝裕和●製作:亀山千広/畠中達郎/依田翼●撮影:瀧本幹也●音楽:松本淳一/森敬/松そして父になる 3.jpg原毅●時間:120分●出演:福山雅治/尾野真千子/真木よう子/リリー・フランキー/二宮慶多/黄升炫/中村ゆり/高橋和也/田中哲司/井浦新/ピエール瀧/大河内浩/風吹ジュン/國村隼/樹木希林/夏八木勲●公開:2013/09●配給:ギャガ●最初に観た場所:三軒茶屋シネマ(14-07-20)(評価:★★★★)●併映:「のぼうの城」(犬童一心/樋口真嗣)
                
万引き家族2.jpg万引き家族t2.jpg「万引き家族」●英題:SHOPLIFTERS●制作年:2018年●監督・脚本・原案:是枝裕和●製作:石原隆/依田巽/中江康人●撮影:近藤龍人●音楽:細野晴臣●美術:三ツ松けいこ●衣裳デザイン:黒澤和子●時間:120分●出演:リリー・フランキー/安藤サクラ/松岡茉優/池松壮亮/城桧吏/佐々木みゆ/高良健吾/池脇千鶴/樹木希林/緒形直人/森口瑤子/山田裕貴/片山萌美/柄本明/笠井信輔(ニュースキャスター)/三上真奈(ニュースキャスター)●公開:2018/06●配給:ギャガ(評価:★★★★☆)
万引き家族ages.jpg 万引き家族e.jpg
「万引き家族」柄本.jpg 柄本明(柴田家の近隣にある駄菓子屋の店主・山戸頼次)

「のぼうの城」.jpgのぼうの城 3.jpg「のぼうの城」●制作年:2012年●監督:犬童一心/樋口真嗣●製作:久保田修●脚本:和田竜●撮影:瀧本幹也●音楽:松本淳一/森敬/松原毅●時間:145分●出演:野村萬斎/榮倉奈々/成宮寛貴/佐藤浩市/山口智充/上地雄輔/前田吟/中尾明慶/尾野真千子/ピエール瀧/山田孝之/平岳大/市村正親/西村雅彦/鈴木保奈美/平泉成/夏八木勲●公開:2012/11●配給:東宝●最初に観た場所:三軒茶屋シネマ(14-07-20)(評価:★★★★)●併映:「そして父になる」(是枝裕和)

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「原島」から始まって「原島」で終わるドラマ。「原島」から始まって「八角」で終わる原作。

七つの会議 単行本.jpg七つの会議 10.jpg 七つの会議 タイトル.jpg
七つの会議』(2010/11 日本経済新聞出版社) NHKドラマ「七つの会議」出演:東山紀之/吉田鋼太郎(2013)
【2016年文庫化[集英社文庫]/2019年映画タイアップカバー】
七つの会議ges.jpg七つの会議 (集英社文庫) eiga tie up cover.jpg 大手総合電機会社ソニックの子会社である中堅電機メーカー東京建電で住宅関連商品を扱う営業4課の課長・原島万二(45)は、名前通りの万年二番手でたいした実績がない平凡なサラリーマンだったが、一方、原島と対照的に花形部署の営業1課に38歳という最年少で昇進しメキメキと業績を上げていた坂戸宣彦が、万年係長と揶揄される八角民夫(50)(通称ハカック)からパワハラを訴えられて突然更迭される。やる気のない八角に対し、10歳以上年下である坂戸は課員の面前で罵倒し続けたのだった。営業部のエースは失脚で、代わりに一課長に就任したのが原島だったが、坂戸がパワハラで訴えられたことには"裏"があったのだ。それは、東京建電にとって会社存続をかけた死活問題であり、親会社のソニックにしても子会社の不祥事と連結決算で受けるダメージは底知れない重大事件だった―。

 どれが7つの会議に該当するのかよく分からなかったけれど(7つ以上あったのでは)、面白かったので気にせずスラスラ読み進めました。企業の不祥事の隠蔽体質が分かり易く描かれていて面白かったし、また、やるせなかった。でも、最後はホッとした感じも。

 読後それほど間を置かず、NHK土曜ドラマで4回に分けて放映されたものも観ました(演出は「ハゲタカ」('07年)と同じ堀切園健太ディレクター)。同じ土曜ドラマで2010年に放映された同原作者の「鉄の骨」が原作に無い自殺者が出たりする、NHKにしてここまでやるかといった改変ぶりだったのに比べれば、概ね原作通りだったのではないでしょうか。退職前に社内でのドーナッツ販売を企画する浜本優衣の前の不倫相手が、社内政治家的な動きをして営業部長の北川に潰されるという話が完全に抜けていたけれど、俗な話は端折ったのかな(北川の遣り口を象徴する出来事でもあるのだが)。坂戸の八角に対するパワハラも、恒常的なものとしてではなく、会議の場で掴みかかった出来事の一点に集約されていて、この辺りは効率化を図った?

七つの会議1.jpg ドラマでは、原作の最後にある調査委員会の聴取を冒頭に持ってきて、常にそこからの振り返りという形でストーリー展開しているせいもあって、このこと七つの会議2.jpgがかなり全体のトーンを重苦しく暗いものにしている感じがしました。しかし、役者陣は、東山紀之(原島)の周りを、同時期にスタートしたTBS日曜劇場「半沢直樹」には半沢の上司役で出ていた舞台出身の吉田鋼太郎(八角)や、ロッカー出身で今は俳優としての渋い演技ぶりが定着している石橋凌(北川)、「鉄の骨」にも出ていた豊原功補(佐野)らが固め、まずます良かったのではないかと思われます。「半沢直樹」のような派手さはないけれど、こちらの方を評価する人も七つの会議 4.jpgいたみたいです(個人的には「半沢直樹」の方が面白かったが、反面、「半沢」には引っ掛かる部分もあった)。「半沢直樹」は個人に起因する不正融資を描いていますが、こちらは企業ぐるみのリコール隠しなわけで、民放でやってもスポンサーが嫌うかも。その意味ではNHKらしいと言えばNHKらしいドラマ。2つの内部告発が出てきますが、最初のカスタマー室長・佐野の社内での内部告発は、グループ企業内で秘密にされ、原島もその方針に従う―こうなるともう、八角(ハカック)のようなマスコミを使ったやり方しかないのか(「半沢」も同じ手を使っていたが)。
七つの会議 通常版 [DVD]     
七つの会議 吉田鋼太郎.jpga七つの会議1.jpg ドラマを観ると東山紀之演じる「原島」から始まって「原島」で終わっている印象を受けますが、原作は「原島」から始まってドラマで吉田鋼太郎が演じた「八角」で終わっている印象があり、個人的にはこの辺りが、原作とドラマから受ける印象の最も大きな違いだったかもしれません。

吉田鋼太郎(八角民夫)

「七つの会議」●演出:堀切園健太●脚本:宮村優子●原作:池井戸潤「七つの会議」●出演:東山紀之/吉田鋼太郎/田口淳之介/石橋凌/長塚京三/眞島秀和/豊原功補/山崎樹範/戸田菜穂/堀部圭亮/村川絵梨/野間口徹/中村育二/矢島健一/北見敏之/神保悟志/竜雷太/浜野謙太/松尾れい子/甲本雅裕/遊井亮子●放映:2013/07/13~08(全4回)●放送局:NHK


七つの会議 通常版 [DVD] (1).jpg映画 七つの会議.jpg(●2019年映画化。監督は「半沢直樹」「下町ロケット」などの演出を務めた福澤克雄であり、主演の八角役の野村萬斎は目新しいが、あとは香川照之、及川光博、片岡愛之助といった「半沢直樹」の顔ぶれが並ぶ。トーンも完全に娯楽性とテンポを重視した「半沢直樹」の作りと同じで、「半沢直樹」の再現みたいだ。NHKドラマのシリアスな作りもいいが、このような劇画調も、映画になっても愉しめることがわかった。野村萬斎の「八角」は、テレビで吉田鋼太郎が演じた「八角」とは違った味があった七つの会議 3nin.jpgnanatunokaigi1.jpg(映画「のぼうの城」('12年)などにおける極端に狂言調の彼とも違う)。原作は「原島」から始まって「八角」で終わっている印象だが、ドラマは東山紀之演じる「原島」から始まって「原島」で終わっている印象を受けた。それに対し、映画は、野村萬斎演じる「八角」で始まって「八角」で終わっている印象で、及川光博演じる「原島」はやや後退している感じ。狂言師 vs.歌舞伎役者の"顔芸"対決になったが、なぜか立川談春、春風亭昇太といった落語家も参戦(笑)、オリラジの藤森慎吾まで出ていたなあ。

映画 七つの会議2.jpg映画 七つの会議1.jpg「七つの会議」●制作年:2019年●監督:福澤克雄●脚本:丑尾健太郎/李正美●音楽:服部隆之(主題歌:ボブ・ディラン「メイク・ユー・フィール・マイ・ラヴ」●原作:池井戸潤●時間:119分●出演:野村萬斎/香川照之/及川光博/片岡愛之助/音尾琢真/藤森慎吾/朝倉あき/岡田浩暉/木下ほうか/土屋太鳳/小泉孝太郎/溝端淳平/七つの会議.jpg春風亭昇太/立川談春/勝村政信/世良公則/鹿賀丈史/橋爪功/役所広司/北大路欣也●公開:20219/02●配給:東宝(評価:★★★★)
    
鹿賀丈史(常務取締役・梨田元就)/北大路欣也(社長・徳山郁夫)/役所広司(弁護士・加瀬孝毅)

【2016年文庫化[集英社文庫]】

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力のある作家がしっかり取材して書いた作品。素直に上手だなあと思った。

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舟を編む』(2011/09 光文社) 「舟を編む」2013年映画化(監督:石井裕也/主演:松田龍平・宮﨑あおい・オダギリジョー)

 2012(平成24)年・第9回「本屋大賞」第1位作品。

 大手出版社・玄武書房の営業部に勤務する馬締(まじめ)は、営業部では変人としてお荷物扱いだったが、辞書編集一筋の荒木に後任として見込まれ辞書編集部に異動、言葉の捉え方における鋭い天性を発揮し、新しい辞書『大渡海』の編纂にのめり込んでいく。定年後嘱託として勤務する荒木や日本語研究に人生を捧げる老学者の松本先生、チャラいが外回りに才能を発揮する西岡、ファッション誌編集部から異動してきたキャリア系の岸辺―問題山積の辞書編集部において、馬締をはじめとするこれらの人々の努力により『大渡海』は完成の日の目を見ることができるのか―。

舟を編む00.jpg 素直に上手いなあと思いました。『まほろ駅前多田便利軒』('06年/文藝春秋)で直木賞を受賞した際に(29歳での直木賞受賞は、平岩弓枝(27歳)、山田詠美(27歳)に続く歴代3位の若さ)、選評で平岩弓枝氏が「この作者の年齢の時、私はとてもこれだけの作品は書けなかった」と一番褒めていたけれど、そこからまた進化した感じ。

 特に、前半の真締と西岡の関係がいい。『まほろ駅前多田便利軒』もそうだけど、男同士の関係を描いて巧み(直木賞選考の際に阿刀田高氏は、作者は男性だと思っていたらしい)。コミカルだけど、『まほろ駅前多田便利軒』に比べると、ギャグ調はむしろ抑え気味ではないかと。

 前半は馬締の香具矢に対する恋物語もあって青春小説のようにもなっていて、前半と後半で十数年の時を置くことで、後半が前半の後日譚のようにもなっている。それでいてダラダラ長くなく、気楽に読めるエンタテインメントに仕上がっているし、前半部では西岡を、後半部では岸辺の眼を通して、真締を主として「見られる側」の存在として描いているのも成功していると思いました。

 辞書が編まれるように、馬締、香具矢、荒木、松本先生、西岡、岸辺といった登場人物の人生が編まれていく―今時、全ての辞書がこうした編纂のされ方をしているのかという疑問も残りましたが、普通は小説の主人公にはならないような人たちに着眼したこと自体が一つの成功要因。そのうえで、もともと力のある作家がしっかり取材して書いた作品とみていいのではないでしょうか。

映画「舟を編む」1.jpg映画「舟を編む」2.jpg(●2013年に石井裕也監督、松田龍平主演で映画化され、第37回日本アカデミー賞で最優秀作品賞をはじめ6部門の最優秀賞を受賞、石井裕也監督は芸術選奨新人賞も受賞したほか、主演の松田龍平をはじめとするキャストやスタッフも多くの個人賞を得た。原作では年代を特定していないが、映画では松田龍平演じる主人公・馬締が辞書編集部に配転になったのが1995年で、原作で後日譚として扱われている部分が船を編む_n.jpg舟を編むeb.jpg舟を編む2d.jpgその12年後となっている。細部での改変はあるが、全体としては原作のストーリーを比較的忠実に追っている感じで、松田龍平、宮﨑あおい、オダギリジョー、黒木華といった若手の俳優陣も頑張っているが、加藤剛、小林薫、伊佐山ひろ子、八千草薫といったベテランが脇を固めているのが大きく、特に、加藤剛の「先生」は印象的だった。そもそも、原作が、その後数多く世に出た"お仕事系"小説のどれと比べても優れているため、原作の良さに助けられている部分もあるが、少なくとも原作の持ち味を損なわずに活かしているという点で良かったと思う。)

舟を編む 映画.jpg舟を編む_l.jpg「舟を編む」●制作年:2013年●監督:石井裕也●プロデューサー:土井智生/五箇公貴/池田史嗣/岩浪泰幸●脚本:渡辺謙作●撮影:藤澤順一●音楽:渡邊崇●時間:133分●出演:松田龍平/宮﨑あおい/オダギリジョー/黒木華/渡辺美佐子/池脇千鶴/鶴見辰吾/伊佐山ひろ子/八千草薫/小林薫/加藤剛/宇野祥平/森岡龍/又吉直樹/斎藤嘉樹/波岡一喜/麻生久美子●公開:2013/04●配給:松竹=アスミック・エース(評価:★★★★)
 
【2015年文庫化[光文社文庫]】

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巻き込まれ型ワンナイト・ムービーみたいだったのが、次第にマンガみたいな感じになり...。

夜は短し歩けよ乙女2.jpg夜は短し歩けよ乙女.jpg  after-hours-martin-scorsese.jpg アフター・アワーズ.jpg 『アフターアワーズ』.jpg
夜は短し歩けよ乙女』['06年](カバー絵:中村佑介)「アフター・アワーズ 特別版 [DVD]」グリフィン・ダン/ロザンナ・アークェット カンヌ国際映画祭「監督賞」、インディペンデント・スピリット賞「作品賞」受賞作

 2007(平成19)年度・第20回「山本周五郎賞」受賞作。2010(平成22)年・第3回「大学読書人大賞」も受賞。

 「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めるが、先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する"偶然の出逢い"にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を、個性的な曲者たちと珍事件の数々が待ち受ける―。

 4つの連作から成る構成で、表題に呼応する第1章は、「黒髪の乙女」の後をつけた主人公が、予期せぬ展開でドタバタの一夜を送るという何だかシュールな展開が面白かったです。

Griffin Dunne & Rosanna Arquette in 'After Hours'
After-Hours-Scorsese.jpgIアフター・アワーズ1.jpg これを読み、マーチン・スコセッシ監督の「アフター・アワーズ」('85年/米)という、若いサラリーマンが、ふとしたことから大都会ニューヨークで悪夢のような奇妙な一夜を体験する、言わば「巻き込まれ型」ブラック・コメディの傑作を思い出しました(スコセッシが大学生の書いた脚本を映画化したという。カンヌ国際映画祭「監督賞」、インディペンデント・スピリット賞「作品賞」受賞作)。 

アフター・アワーズ 1985.jpg グリフィン・ダン演じる主人公の青年がコーヒーショップでロザンナ・アークェット演じる美女に声を掛けられたきっかけが、彼が読んでいたヘンリー・『アフター・アワーズ』(1985).jpgミラーの『北回帰線』だったというのが、何となく洒落ているとともに、主人公のその後の災厄に被って象徴的でした(『北回帰線』の中にも、こうした奇怪な一夜の体験話が多く出てくる)。映画「アフター・アワーズ」の方は、そのハチャメチャに不条理な一夜が明け、主人公がボロボロになって会社に出社する(気がついたら会社の前にいたという)ところで終わる"ワンナイト・ムービー"です。

夜は短し歩けよ乙女 角川文庫.jpg 一方、この小説は、このハチャメチャな一夜の話が第1章で、第2章になると、主人公は訳の分らない闇鍋会のようなものに参加していて、これがまた第1章に輪をかけてシュール―なんだけれども、次第にマンガみたいな感じになってきて(実際、漫画化されているが)、う〜ん、どうなのかなあ。少しやり過ぎのような気も。

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

 山本周五郎賞だけでなく、2007(平成19)年・第4回「本屋大賞」で2位に入っていて、読者受けも良かったようですが、プライドが高い割にはオクテの男子が、意中の女子を射止めようと苦悶・苦闘するのをユーモラスに描いた、所謂「童貞小説」の類かなと(こういう類の小説、昔の高校生向け学習雑誌によく"息抜き"的に掲載されていていた)。

 京都の町、学園祭、バンカラ気質というノスタルジックでレトロっぽい味付けが効いていて、古本マニアの奇妙な"生態"などの描き方も面白いし、文体にもちょっと変わった個性がありますが、この文体に関しては自分にはやや合わなかったかも。主人公の男子とヒロインの女子が交互に、同じ様に「私」という一人称で語っているため、しばしばシークエンスがわからなくなってしまい、今一つ話に身が入らないことがありましたが、自分の注意力の無さ故か?(他の読者は全く抵抗を感じなかったのかなあ)

(●2017年に「劇場版クレヨンしんちゃんシリーズ」の湯浅政明監督によりアニメーション映画化された。登場人物は比較的原夜は短し歩けよ乙女 映画title.jpg作に忠実だが、より漫画チックにデフォルメされている。星野源吹き替えの男性主人公よりも、花澤香菜吹き替えのマドンナ役の"黒髪の乙女"の方が実質的な主人公になっている夜は短し歩けよ乙女 映画01.jpg。モダンでカ夜は短し歩けよ乙女 映画00.jpgラフルでダイナミックなアニメーションは観ていて飽きないが、アニメーションの世界を見せることの方が主となってしまった感じ。一応、〈ワン・ナイト・ムービー(ストーリー)〉のスタイルは原作を継承(第1章だけでなく全部を"一夜"に詰め込んでいる)しているが、ストーリーはなぜかあまり印象に残らないし、京風情など原作の独特の雰囲気も弱まった。映画の方が好きな人もいるようだが、コアな森見登美彦のファンにとっては、映画は原作とは"別もの"に思えるのではないか。)
 
 

After Hours.jpgIMG_1158.jpgIアフター・アワーズ9.jpgグリフィン・ダン演じる主人公の青年がコーヒーショップでヘンリー・ミラーの『北回帰線』を読んでいると、ロザンナ・アークェット演じる美女に声を掛けられる...。 
 
「アフター・アワーズ」●原題:AFTER HOURS●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:マーチン・スコセッシ●製作:エイミー・ロビンソン/グリフィン・ダン/ロバート・F・コールズベリー●脚本:ジョセフ・ミニオン●撮影:ミハエル・バルハウス●音楽:ハワード・ショア●時間:97分●出演:グリフィン・ダン/ロザンナ・アークェット/テリー・ガー/ヴァーナ・ブルーム/リンダ・フィオレンティ下高井戸京王2.jpgーノ/ジョン・ハード/キャサリン・オハラ/ロバート・プランケット/ウィル・パットン/ディック・ミラー●日本公開:1986下高井戸シネマ.jpg下高井戸東映.jpg/06●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:下高井戸京王(86-10-11)(評価:★★★★☆)●併映:「カイロの紫のバラ」(ウディ・アレン)

下高井戸京王 (京王下高井戸東映(東映系封切館)→1980年下高井戸京王(名画座)→1986年建物をリニューアル→1988年下高井戸シネマ) 


夜は短し歩けよ乙女 映画04.jpg夜は短し歩けよ乙女 映画ポスター.jpg「夜は短し歩けよ乙女」●●制作年:2017年●監督:湯浅政明●脚本:上田誠●キャラクター原案:中村佑介●音楽:大島ミチル(主題歌:ASIAN KUNG-FU GENERATION「荒野を歩け」)●原作:森見登美彦●時間:93分●声の出演:星野源/花澤香菜/神谷浩史/秋山竜次(ロバート)/中井和哉/甲斐田裕子/吉野裕行/新妻聖子/諏訪部順一/悠木碧/檜山修之/山路和弘/麦人●公開:2017/04●配給:東宝映像事業部●最初に観た場所:TOHOシネマズ西新井(17-04-13)(評価:★★★)
TOHOシネマズ西新井 2007年11月6日「アリオ西新井」内にオープン(10スクリーン 1,775+(20)席)。
TOHOシネマズ 西新井 ario.jpgSCREEN 1 106+(2) 3.5×8.3m デジタル5.1ch
SCREEN 2 111+(2) 3.4×8.2m デジタル5.1ch
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SCREEN 6 146+(2) 3.7×9.0m デジタル5.1ch
SCREEN 7 148+(2) 3.7×8.9m デジタル5.1ch
SCREEN 8 80+(2) 4.1×9.9m MX4D® デジタル5.1ch
SCREEN 9 183+(2) 4.1×9.9m デジタル5.1ch
SCREEN 10 345+(2) 4.8×11.6m デジタル5.1ch

 【2008年文庫化[角川文庫]】

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