【1792】 ◎ R・G・グラント 『戦争の世界史 大図鑑 (2008/07 河出書房新社) ★★★★★

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歴史資料・教科書として充実した内容。図鑑としては最高レベルのレイアウト。

戦争の世界史大図鑑.jpg 戦争の世界史大図鑑1.bmp      世界で一番美しい元素図鑑.jpg
戦争の世界史 大図鑑』(30.2 x 25.2 x 3.2 cm)(2008/07 河出書房新社)      『世界で一番美しい元素図鑑』(2010/10 創元社)

 最近『世界で一番美しい元素図鑑』('10年/創元社)という本を閲読して、写真は綺麗だけれど、全体のレイアウトがややどうかと思われました(写真をただ置いているという感じ)。一方、本書は、理系と文系の違いはありますが、個人的には図鑑としては最高レベルのレイアウトではないかと思っている本です(「美しい」図鑑の条件としては、レイアウトの要素の方が写真そのものの綺麗さよりも重要だったりするのでは)。

戦争の世界史大図鑑2.jpg 古代紀元前2450年頃メソポタミアのシュメール王朝初期に起こった「ラガシュとウンマの抗争」、そして紀元前1468年頃にエジプト軍とパレスティナ軍が戦った「メギドの戦い」から現代のコソヴォ紛争やイラク戦争、テロ攻撃まで、世界史上の主要な戦争を、オールカラー編集で多数の写真や絵画、地図その他多数の資料を駆使しつつ解説したものです。

 歴史家R・G・グラントの編著による本書の原題はずばり"Battle"(日本語版総監修は樺山紘一氏)、古代から現代までの5000年にわたる戦争の歴史を取り上げる中に、日本の戦国時代における合戦(桶狭間の戦いから大阪夏の陣まで)なども紹介されています。

戦争の世界史大図鑑3.jpg 全体が「古代の戦争」「中世の戦争」「近代の戦争」「帝国と革命」「世界大戦の時代」という大括りされた中で、例えば「近代の戦争」の章における「権力と宗教」という節では「フランスによるイタリア戦争」「宗教戦争」「三十年戦争」「イングランド内戦」「王家の戦争」「大北方戦争」という項目立てがあり、「年表」的と言うより「教科書」的であると言えます。

 更に例えば「イングランド内戦」の中では「マーストンムーアの戦い」から「タンバーの戦い」まで5つの戦闘を地図や図版と併せて解説していて(こうなると一般の「教科書」よりずっと詳しいか)、また、ここにおいては、当時の戦闘で用いられた「大砲」にフォーカスして、見開き、写真・絵入りで解説しているという―この丁寧さ、取り上げる戦闘及び付帯事項も含めた解説のきめ細かさ。

戦争の世界史 大図鑑4.bmp 古戦場の遺跡や当時使用された武器等を写真も豊富で、特に武器には力を入れていて、古代・中世から近代戦争まで節目ごとにフューチャーしており、「武器史」としての充実度も高く、そうしたことがまた、名前しか聞いたことのなかった戦闘の実像を、活き活きとしたイメージでもって見る者の脳裏に再現させるシズル感効果を醸しています。

 多くの情報量を一冊に盛り込むために、図版と文字を少しずつ重ねたりもしていますが、そのことによって読みにくくはなっておらず、レイアウトに細心の注意と工夫が施されていると思いました。

 本書序文は、編著者R・G・グラントとは別の人が書いていますが、「戦争が人間の常態であった」とし(本書を概観するとつくづくそう思う)、本書はそうした戦争をロマン視も理想化もせず、素顔のまま紹介していると評価しており、樺山紘一氏も日本語版序文で、「戦争についての冷静な記述として、類書のうちで最も信頼できるもののひとつ」としています。

 一方で樺山氏は、「ただし、ここで基調となっているのは、いうまでもなくアングロサクソンの視線である」ともしており、そのことは、序文執筆者が、毛沢東の「政治とは、流血を伴わぬ戦争である。一方、戦争とは、流血を伴う政治である」という一文を引用し、アリストテレスの「我々は平和のためには戦争をも辞さない」という言葉を引いて序文を締め括っていることなどとも関係していると思われます。

 本書の緻密さは、"兵器オタク" のような人を満足させるに足るレベルまで達しているかも知れませんが、随所にある武将や軍人に対する記述などを見ても編著者自身が戦争に迎合的であるような気配は無く、あくまで、歴史資料・(歴史事実を知るという意味での)教科書として読んでいい本であり、また、詳細なだけでなく、分かり易いと言う点で一級品であるように思いました(『元素図鑑』より1万円以上高い価格は妥当か)。

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