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趣旨には賛同するが、本としての纏まりに欠ける。
『CHO―最高人事責任者が会社を変える』 (2004/05 東洋経済新報社)
産学協同(主催は人材会社)で行われたCHO(チーフ・ヒューマン・オフィサー)研究会の成果をまとめたものです。
個人的にもそのセミナーに出席したことがあり、セミナー内容は、これからの人事部の役割についてのパラダイム変革を促すもので、その頃M&Aの仕事で外資系企業のCHOと交渉する機会などもあり、相手の立場を読み解くうえで参考になりました。
ただ、そのとき受けたほどのインパクトが本書からは感じられないのは、こうした研究会報告にありがちなことですが、分担執筆のかたちをとりながら、執筆者のベクトルが不揃いなためでしょう。
本書では、第1・2章で金井教授がこれからの人事部とCHOの役割を、最終章で守島教授が人材マネジメントにおけるバリュー(人材価値観)の問題をそれぞれ解説していますが、中盤の3人の企業出身者の執筆パートは、組織(人事部)診断の手法にウェイトが置かれたかと思うと「会社とは何か」という話にいきなり戻ったりして、うまく繋がっていない印象を受けます。
基本的には、これからのCHO(「人事部(長)」と言った方がいい)の役割が、「管理エキスパート」であることに加えて、「戦略パートナー・変革エージェント」であるべきだという本書の趣旨には賛同します(「サーバント・リーダー」という言葉は、あまり好きになれない。一方で「従業員チャンピオン」であるべきも言っているし)。
企業経営との関連においての人事部に求められる機能を、①戦略パートナー、②管理エキスパート、③従業員チャンピオン、④変革エージェントの4つに分けたのはデイビッド・ウルリッチであり("Human Resouce Champions " 邦訳:「MBAの人材戦略」)、これもまた"輸入モノ"のコンセプトの応用であることには違いありません。
個人的に接した経験では、外資系企業の地域CHOは、採用や人事評価、個々の賃金決定よりもバリューマネジメントが主たる業務で、広告宣伝部門のブランドマネージャーの仕事(例えば、誤ったブランドイメージがどこかの国で作られていないかチェックするような仕事)と少し似ているように思います。
日本企業の人事部(長)がやる仕事の大半は、外資では支社・支店長レベルで完了していますが、その支社・支店長であっても、R&Dなどの支援部門のマネージャーであっても、会社の人材理念(バリュー)については同じようにきちんと語ることができる―。
片や日本企業の人事部の多くは、人事権(採用や評価に関する権限を含む)を保持することが組織目的化しているので、組織診断もいいけれど、そんな悠長なことをしている間にも、委譲できるところから順次、現場に権限を委ねていった方がいいし、そうすることによって次の仕事、つまり組織・企業文化改革という「変革エージェント」としての仕事が見えてくるのではないかと思います。
本書のサブタイトル「最高人事責任者が会社を変える」は、まったく逆方向(管理面の権限強化)に受け取られる誤解を招くのでは...。