2014年5月 Archives

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昭和30年代から40年代にかけての忍者ブームの「牽引役」に。

伊賀の影丸 少年サンデー.jpg伊賀の影丸1.jpg 隠密剣士放送開始50周年記念 甦るヒーローライブラリー.jpg 忍者部隊月光ポスター.jpg 仮面の忍者赤影 (第1巻).jpg
伊賀の影丸 (第1巻) (Sunday comics―大長編忍者コミックス)』/「隠密剣士放送開始50周年記念 甦るヒーローライブラリー 第1集 隠密剣士 傑作選集 デジタルリマスター版 [DVD]」/「忍者部隊月光」ポスター/『仮面の忍者赤影 (第1巻) (Sunday comics)
「週刊少年サンデー」

 『伊賀の影丸』は、漫画家の横山光輝(1934-2004/享年69)が1961(昭和36)年か'ら1966(昭和41)年に「週刊少年サンデー」に連載して人気を博した作品ですが、個人的にも面白かった(というかハマった)記憶があります。貸本版が復刻されていますが、「少年サンデー」の連載の思い出があり、リアルタイムで読んだのは後半の方でしょうか(影丸は幕府隠密だったんだね)。子ども時代に夢中で読んだ人は多かったと思います。

 司馬遼太郎のところで、1958(昭和33)年に発表された『梟の城』が「昭和30年代の忍者ブームの火付け役にもなった」と書きましたが、漫画では、白土三平の『忍者武芸帳 影丸伝』(1959 -62年)が丁度この頃であり、白土三平はこの後、『サスケ』(1961-66年)、『カムイ伝』(1964 -71年)といった作品を発表していきます(『忍者武芸帳』は'67年に大島渚により原画をそのまま写すスタイルで映画化された)。

 これらを忍者ブームの「火付け役」とするならば、この『伊賀の影丸』は、その後長く続くことになるブームの「牽引役」であったと言えるのではないでしょうか。この漫画によって黒装束に鎖帷子という忍者の視覚的イメージを確立したそうです。
 個々の忍者同士の忍術合戦と伊賀チーム・甲賀チーム(甲賀七人衆)としての駒(コマ)取り合戦の複合というスタイルは、やはり、本作以前に人気のあった山田風太郎の小説『忍法帖シリーズ』の影響なども受けているようですが、一方で、この作品自体も、「仮面ライダー」など後の多くの作品やテレビ番組に影響を与えたようです。

隠密剣士op.jpg隠密剣士2.jpg 忍者ブームを作ったと言えば、当時、「隠密剣士」(1962-65年)というチャンバラ時代劇もありました。大瀬康一(デビュー作は「月光仮面」)演じるヒーローである柳生新陰流の使い手・秋草新太郎は、腹違いの兄が11代将軍・徳川家斉であるという設定。当初は普通の時代物チャンバラ劇でしたが(早稲田大学グリークラブ出身のボニージャックスが主題歌「江戸の隠密剣士22.jpg隠密渡り鳥」を唄っていた)、ある時期からこの秋草新太郎の敵役がすべて忍者になり、剣戟シーンが特撮化していったという経緯がありました。
 この番組の特撮は、今見ると手作り感があってレトロムード満点ですが、当時としてはなかなかのものだったのではないかと思います。海外でも放映されて人気を博し、出演者は放送終了後から何年も経ってからオーストラリアへ海外公演に行っていますが、大瀬康一ら当時の役者たちは、テレビで演じたことと同じことをステージで生で再演することが出来たそうで、オーストラリアでの公演は大好評だったそうです。

忍者部隊月光02.jpg 「隠密剣士」がほぼ"忍者もの"化した時分には、「忍者部隊月光」(1964-66年)という現代版忍者が活躍するアクションドラマまで登場しました。これも人気を博し、オーストラリアでも放映されて、月光役水木襄3.jpg水木襄は、取材に来たオーストラリア人記者に、「今この場で消えて見せてくれ」と言われたそうです。水木襄は後に実業家に転じてスナック経営などをしていたものの、最近になって、'91年に53歳で自殺死していたことが明かされています(遺体の発見された自宅には、自身の出演した作品のポスター等が所狭しと飾られていたという(2010年9月14日付「デーリー東北新聞」))。

 最初の頃はオープニングで、女性隊員・三日月(森槙子)がダムの向こうにいる敵を拳銃で撃つと、リーダーの月光(水木襄)が「バカ!撃つ奴があるか、拳銃は最後の武器だ。我々は忍者部隊だ」と一喝する忍者部隊月光 三日月/銀月 33話.jpg場面があったりもしました。これ、ある種"忍者の美学"でしょうか。デューク・エイセスが唄う山上路夫作詞の主題歌が懐かしいです(「鉄人28号」の主題歌もデューク・エイセス)。主題歌の他にエンディング曲の「忍者部隊のマーチ」というのも良かったです(因みに、月影の殉職、三日月の交代について水木襄はスナック経営者時代に、男女問題による降板であったことを仄めかす証言をしている)。
「忍者部隊月光」(第33話)三日月(森槙子・中央)と銀月(加川淳子・右)の交代シーン

忍者部隊月光.jpg 空をとび 風を切り
 すすみゆく忍者 正義の味方
 姿は見せずに 現れ消える
 弾丸の中も なんのその
 おお 命をかけゆくぞ
 月光 月光 忍者部隊

(山上路夫作詞)

写真中央:水木襄('91年自殺死)
   
少年忍者風のフジ丸 2.jpg 更に、白土三平の貸本漫画集『忍者旋風』(1959年)や少年マガジン連載の『風の石丸』(1960年)を原作ベースとした「少年忍者風のフジ丸」(1964-65年)などもあって、放映はフジテレビ(CX)」ではなくNET(現・テレビ朝日)。「藤沢薬品工業」の提供だったため「フジ丸」というネーミングになったもので(主題歌の最後に「ふじさわ~、ふじさわ~」という歌詞が入る)、作画は、白土三平の影響を受けたという久松文雄でした(この作品に続く久松氏の作品が、彼の代表作となる「スーパージェッター」('65年))。

仮面の忍者赤影1.jpg仮面の忍者赤影2.jpg 一方、「伊賀の影丸」の横山光輝が原作の「仮面の忍者赤影」(1967-68年)というのもあって、これも「忍者部隊月光」と同じく実写版、イケメンの赤影(坂口祐三郎)が、大凧を操る熟年忍者の白影(牧冬吉)、少年忍者の青影(金子吉延)と共に活躍するというもので、CX系の関西テレビの制作ですが、脚本・音楽等のスタッフがTBS系の「隠密剣士」と重なっており、昭和30年代に始まったこの「忍者ブーム」が、昭和40年代前半ぐらいまで続いたことが窺えます。

「仮面の忍者赤影」第2部.jpg飛騨の赤影.jpg 漫画版の『仮面の忍者赤影』は、1966(昭和41)年から「週刊少年サンデー」で連載がスタートし(『伊賀の影丸』の後継連載ということになる)、1966年11月6日号~67年1月15・22日合併号までのタイトルは「飛騨の赤影」だったのが、TV版の放映が決定して1967年1月29日号から「仮面の忍者 赤影」に変わっています(同年5月7日号まで連載)。これも懐かしい漫画ですが、TV版との大きな違いは、赤影自身が少年忍者っぽい点でしょうか。前半部分がTV版でのストーリーに使われたのに対し、タイトルをTV版に合わせた後半部分は漫画版のオリジナル・ストーリーになっており、作者のサービス精神が感じられます(後にアニメ版('87-'88年)も作られた)。 
隠密剣士3.jpg
隠密剣士1.jpg
「隠密剣士」●演出:船床定男/外山徹●製作:小林利雄●脚本:加藤泰/伊上勝●音楽:小川寛興(主題歌:ボニージャックス「江戸の隠密渡り鳥」)●出演:大瀬康一/牧冬吉/勝木敏之/小林重四郎/天津敏/三島謙/石川竜二/灰地順/種村正/梅沢薫/安田隆久/森正樹●放映:1962/10~1965/03(全130回)●放送局:TBS
 
忍者部隊月光o.jpg忍者部隊月光.bmp「忍者部隊月光」●演出:土屋啓之助●製作:梅村幹比古/佐川滉●脚本:西田一夫/高久進/藤川桂介●音楽:渡辺宙明(主題歌:デューク・エイセス「忍者部隊月光」(作詩・山上路夫、作曲・渡辺宙明))●原作:吉田竜夫●出演:水木襄/渚健二/石川竜/山口暁/中山昭二/広川太一郎/森槙子/沖竜次/九重京司/須永恒/国方伝/金沢重勝/大月ウルフ/岡竜弘/原田一雄/松井明和/近藤圭三/浅沼創一/加川淳子/小島康則/山本磯六/手塚しげお/園浦ナミ→/吉田亜矢●放映:1964/01~1966/03(全118回)●放送局:フジテレビ 
風のフジ丸2.jpg「少年忍者風のフジ丸」2.jpg風のフジ丸.jpg「少年忍者風のフジ丸」●演出:白川大作/矢吹公郎/田宮武●原案/木谷梨男/福原宗司●脚本:飯島敬/志原弘/内田弘三●音楽:服部公一●原作:白土三平(第28話まで)●作画/久松文雄●出演(声):小宮山清/芳川和子/山本嘉代子/芳川和子/加藤みどり/伊藤牧子/中川謙二/久富惟晴●放映:1964/06~1965/08(全65回)●放送局:NET(現・テレビ朝日)

仮面の忍者 赤影.bmp「仮面の忍者赤影」●演出:倉田準二/山内鉄也/曽根勇/小野登●製作:高田正雄/平山亨/加藤哲夫●脚本:伊上勝●音楽:小川寛興●原作:横山光輝●出演:坂口祐三郎/金子吉延/牧冬吉/里見浩太郎/天津敏/大辻伺郎/汐路章/楠年明/大泉滉/倉丘伸太郎●放映:1967/04~1968/03(全52回)●放送局:関西テレビ

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「●「直木賞」受賞作」の インデックッスへ

人によって各篇の好みが違ってくるか? 個人的には「夕空晴れて」「切子皿」「受け月」の順。

「受け月」伊集院静著(文藝春秋).jpg伊集院 静 『受け月』bunnko.jpg   伊集院 静 『受け月』cd.png 
伊集院 静 『受け月』(1992/05 文藝春秋)/『受け月 (文春文庫)』/『受け月【朗読CD文庫】

 1992(平成4)年上半期・第107回「直木賞」受賞作。

 永年率いた社会人野球の名門チームからの引退を、自ら育てた後輩に告げられた老監督、亡くなった夫の好きだった野球を始めた息子がベンチで試合を見つめる姿に複雑な思いを抱く若い母親、母と自分を捨てて家を出た父親との再会を躊躇(ためら)う男...。誰にも訪れる切ない瞬間によぎる思いを描いた、直木賞受賞作(「BOOK」データベースより)。

 作者が'90(平成2)年終わりから'92(平成4)年にかけて雑誌「オール讀物」に発表した「夕空晴れて」「切子皿」「冬の鐘」「苺の葉」「ナイス・キャッチ」「菓子の家」「受け月」の7編を収録しており、何れも野球がモチーフに含まれた話になっています。

 「夕空晴れて」:少年野球チームに入った息子の言い方や仕種が、亡くなった夫の声に似てきた。こっそり試合を見に行くと、息子はバット拾いやグラウンド整備をしているだけだった。無理に野球好きを演じているのではと心配した母は、チームの監督に会いに行く。監督は夫の野球部の後輩だった―。
作者の野球をモチーフにした作品の中にはやや暗いものが多いように思うのですが、10歳の息子に亡き夫を重ねる主人公が、息子の監督を通して夫の野球に対する深い思いを知るという構成は巧みで、ラストも明るく、野球に対する作者の愛情が感じられて、これは良かったです。読み終えてみると「母子もの」だったという気もし、自分はこうした母子ものに弱いのかも?

 「切子皿」:都市対抗野球のスターだった父は、母と息子を捨てて家を出ていた。母が亡くなって母名義の土地の登記証が出てきて、その土地のことで正一は京都にいる父へ会いに行く―。
自分たち親子を捨てて無頼に生きる父が、かつて都市対抗野球のエースとしての輝かしい過去があったことを知り、主人公は憎しみと憧憬の入り混じった複雑な思いを抱きながら父と再会するのですが、会ってみたら...これはある種ブレークスルー小説かも。親子は時間と共に、他人のようになっていくのかも。その分、父親を一人の人間として冷静に見られるようになるのかも。

 「冬の鐘」:鎌倉に小料理屋を構える佐山は、中学時代野球をやっていたが、家が貧しいため、相撲部屋へ入れられるという過去があった―。
 「苺の葉」:弟が原っぱで野球をして遊んでいると、大男がやってきてアンパイアをするようになった。縁日の喧嘩に巻き込まれたところを助けられた縁で、伸子は弟と三人で野球を見に行くようになり、そのうち二人で映画を見に行き、付き合うようになっていく―。
 「ナイス・キャッチ」:高校野球、社会人野球のスターだった小高は出身校の監督を務めているが、なかなか優勝できず、その上息子が他の有力校へ進学していた―。
 「菓子の家」:麻布の名家の跡取りの善一は、次々と事業に失敗し、幼馴染みから借金した上で大阪へ行って破産宣告する。遠くへ逃げる前に東京へ戻り、自分が名前だけ会長になっている野球チームの友人に会う―。
 「受け月」:社会人野球のスターで名物監督の谷川は今季で引退することになっていた。娘の夫はチームの教え子で今は専務の石井の息子で、重病で入院中だった―。

受け月 講談社文庫.jpg これらの作品にも、かつて野球選手として活躍していた男達や、そうした男達を愛した女達が出てきますが、これらの中では「苺の葉」「受け月」が良かったでしょうか。「受け月」で、かつての野球の教え子が、今は会社の専務になっていても、監督と選手の上下関係は変わらないというのが興味深かったです。専務はそのことで葛藤もあるわけですが、監督の専務の息子(娘の夫)に対する励ましを知って...。
受け月 (講談社文庫)

 「受け月」は佳作だと思いますが、人情噺としてやや出来過ぎている感じもしなくもなく、全体を通しての個人的好みは「夕空晴れて」「切子皿」「受け月」の順になるでしょうか。

 直木賞の選考で、選考委員の五木寛之氏が「それぞれの委員が、この作品集の中で気に入った一篇を挙げるのが、殆ど違った作品であることが興味深かった」と述べているのが印象的でした。確かにそうしたことが起こりそうな短編集です(直木賞は、第144回(2010年下半期)から作者自身が選考委員に加わっている)。「星4つ」は「夕空晴れて」「切子皿」「受け月」の3編についての個人的評価です。

【1995年文庫化[文春文庫]/2007年文庫化[講談社文庫]】

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「●「吉川英治文学新人賞」受賞作」の インデックッスへ

「夏目雅子さんがどういう女性だったのか知ることができます」といった感想はどうなのか。

伊集院 静 『乳房』単行本.jpg乳房』 伊集院 静 『乳房』文庫.jpg乳房 (講談社文庫)

 1990(平成2)年度・第12回「吉川英治文学新人賞」受賞作。

 妻と病室の窓から眺めた満月、行方不明の弟を探しに漕ぎ出た海で見た無数のくらげ、高校生に成長した娘と再会して観た学生野球......せつなく心に残る光景と時間が清冽な文章で刻み込まれた小説集。表題作の他「くらげ」「残塁」「桃の宵橋」「クレープ」と名篇を収録し、話題を呼んだ直木賞作家の、魂の記念碑(「BOOK」データベースより)。

 作者40歳の時に刊行された短編集で。収録作品の中ではやはり「乳房」が光っているでしょうか。愛しい妻が癌に冒されていて、その現実から逃れるように夜の街へ出る私―「吉川英治文学新人賞」の選考で野坂昭如氏が「しみじみとしたナルシシズム小説、ここまで徹底されると、これは立派な伊集院静の世界」としていますが、確かにそう思いました(齋藤美奈子氏が「ハードボイルドは男のハーレクイン・ロマンである」と書いていたのを思い出した)。

 一方で、同じ選考委員の佐野洋(1928-2013)が、「いまだに疑問を持っている。『私』を主人公にした作品が四編あるが、この四人の『私』(あるいは一人なのか)について、どんな職業についているのか(中略)など、小説を読んだだけでは、よく分からない」と言っているのも、"連作"が受賞選考の対象になっていることから考えると分からなくもありません(結局、「しかし、文章は優れているし、野坂委員が「受賞すれば、間違いなく伸びる」と保証したので、賛成に回った」とのこと)。

 表題作の「乳房」を読むと作者の妻だった27歳で亡くなった女優・夏目雅子のことを想起せざるを得ず、かなり以前に読んだ短編集であるのに特に「乳房」が印象に残っているのは、自分の中でもバイアスがかかっているからかもしれません。作者自身は、これはフィクションであると明言したにも関わらず、何度も「夏目さんのことを書いたのですか」と聞かれ嫌気がさしたといったようなことを後に述べていたように思いますが、他の読者のこの作品に対する感想をみても、「夏目雅子さんがどういう女性だったのか垣間見ることができます」などというのがあったりして、かなりそうした読まれ方をしているのではないでしょうか。「夏目雅子のことではない」と言われれば、真っ先に思い浮かぶのは"夏目雅子"のことでしょう。そこが難しいところかも。

 15年前に離婚した「私」が、赤ん坊の時に別れた実の娘に会いにいく話「クレープ」も、文春文庫解説の小池真理子氏はこの作品を買っているようですが、実生活において作者が離婚した最初の妻との間に娘がいるだけに、青山の明るいレストランでの待ち合わせに緊張する平均的父親像の中に、「同様に、伊集院静、その人が潜んでいる」という小池氏のような読み方になるのでしょう。

 先にも書いたとおり、自分もややそうした読み方をした部分があったことは否めず、「乳房」「クレープ」とも個人的評価は微妙なところですが、それ以外の3編の作品も悪くなかったように思われ、作者のコンスタントな力量を感じます(「くらげ」も作者の実弟の事故死に被るモチーフではあるが)。「残塁」なども良かったかなあ。昔の野球部の後輩いじめの話などは暗かったけれど...。

 5編の内3編に「野球」がモチーフに含まれていて、作者の続く短編集で直木賞を受賞した『受け月』が収録作7編とも野球絡みだったことを考えると、この2冊の短編集だけで野球をモチーフにしたものが10編となります。但し、様々な角度から人生の断片を描いているため、くどいという印象はありません。ただ、大体、野球で挫折した男の方がこの作者には多くて暗めですが。

乳房 [VHS].jpg映画「乳房」('93年/東映)
監督:根岸吉太郎
出演:小林薫/及川麻衣/竹中直人

【1993年文庫化[講談社文庫]/2007年再文庫化[文春文庫]】

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「●「柴田錬三郎賞」受賞作」の インデックッスへ

「2時間ドラマ」みたいな感じの話。ヤングアダルト・ミステリー?

東野 圭吾 『夢幻花』 .jpg夢幻花(むげんばな).jpg夢幻花(むげんばな)』(2013/04 PHP研究所)装丁:川上成夫

 2013(平成25)年度・第26回「柴田錬三郎賞」受賞作。

 大阪の大学院生の蒼太は、父の三回忌で江東区木場の実家に帰っていた。兄の要介は、父の三回忌よりも仕事を優先して出かけてしまっていた。蒼太は、その要介を訪ねて来た秋山梨乃と知り合う。職業を偽ってまで梨乃に接近し、ブログから「黄色い花」の写真を直ちに削除するようにと忠告した要介の真意は何なのか? 梨乃の祖父・周治が殺害された事件に、謎の「黄色い花」が少なからず関係していると考えた蒼太と梨乃は、二人で「黄色い花」の謎と事件の解明に向けて行動を起こす。一方、西荻窪署の早瀬亮介は、息子・裕太の窮地を救ってくれた正義感の強い老人・秋山周治が、所轄の殺人事件の被害者だと知って驚く。手掛かりが少なくとも絶対に迷宮入りにはさせないと、犯人逮捕に向けて一人捜索を続けていた―(「ウィキペディア」より)。

 2002年から2004年までPHP研究所刊行の月刊誌「歴史街道」に連載された後、約10年を経て2013年にPHP研究所から単行本刊行と、この作者の作品にしては発表から単行本化までの期間が長いです。そのため、科学情報が古くなるなどし、お蔵入りは避けたいとしてストーリーに大幅に手を入れるなどしたそうですが、発表誌がマイナーなこともあるでしょうが、読んでみて連載時にさほど話題にならなかったのが分かるような気もする作品でした(近年「脱法ハーブ事件」などが報道されていることを思うと、時代に先行していた面もあった?)。

 話が「2時間ドラマ」もみたいな感じだったかな。これくらいのプロットなら、この作者であればさらさら書けてしまうのではないでしょうか。「黄色い朝顔」というモチーフや人物構成などはやや凝っているものの、珍しいとされる「黄色い朝顔」が同時に"夢幻花"でもあったというのはややご都合主義的であるし、何よりも殺人事件のその誘因となった動機がしょぼいし(シャブ欲しさ)、殺人そのものが全く突発的な「無計画殺人」であるというのもねえ(推理不可能)。

黄花イポメア.jpg 大学生が主人公で、同年代の女性との出会いが会って...と、どちらかというとヤングアダルト・ミステリーといった感じでしょうか。「歴史街道」の読者層とあまり重ならない気もしますが、当時から「歴男」「歴女」って相当数いた?

 因みに、「黄色い朝顔」は一般的な日本の朝顔と同じイポメア種に「黄花イポメア」があり、西洋朝顔にも黄花を咲かせるものがあるようです。

我が家の朝顔
「ベランダ園芸と変化朝顔」(By 花メダカさん)

渡辺 淳一.jpg それにしても、10年前の小説を書き直した作品が「柴田錬三郎賞」かあ。新人賞ではないから別に構わないのですが、人気作家という意味で東野氏は、選考委員と変わらないかそれ以上では(選考委員:浅田次郎・伊集院静・長部日出雄・津本陽・林真理子・渡辺淳一)。

 作者が5回も「直木賞」の稿補になりながら落選した(6回目で受賞)、その何度も落選させた張本人とも言われている渡辺淳一氏あたりが今回も反対しそうな気がしたけれど...。その渡辺淳一氏も先月['14年4月]亡くなり、これが選考委員としての最後の仕事となりました。

 渡辺氏の直木賞選考委員としての仕事の方は、'14年1月の第150回選考会を欠席しており(おそらく前立腺がん末期にあったと思われる)、この回から新たに選考委員になった東野氏が渡辺氏と直木賞選考委員会で同席するという状況は結局実現することのないものとなりました。 

【2016年文庫化[PHP文芸文庫]】

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「醉いどれ天使」「静かなる決闘」「野良犬」で順位づけに迷う。

野良犬 1949 ポスター1.jpgNora inu(1949).jpg野良犬 1949 dvd.jpg 野良犬 1949 0.jpg
「野良犬」ポスター/Nora inu(1949) /「野良犬<普及版> [DVD]」三船敏郎/志村喬

Nora-inu  (野良犬), 1949.jpg 警視庁捜査一課の新米刑事・村上(三船敏郎)は、帰宅途上のバス中、上着ポケットに入れたコルト拳銃を掏られたことに気づき、男が走り出したのを見つけ追かけるが見失う。野良犬1.jpgお銀(岸輝子)翌日、中島係長(清水元)に報告、スリ係で女スリの名が浮上、お銀を執拗に追って、闇で拳銃を扱う仲介屋を探せとのヒントを彼女から貰う。下町の盛り場で銃の取引場所を聞き出して、仲介屋の女(千石槻子)を逮捕するが、銃を渡した相手は元締めの本多(山本礼三郎)でないと判らないという。盗まれた銃によって殺人事件が起きており、所轄警察の刑事・佐藤(志村喬)と野良犬 千石.jpg組むことになった村上は、本多が野球好きと聞き、佐藤と共に球場で本多を探し出して逮捕、拳銃を借りた男の名が遊佐(木村功)だと判り、今度は遊佐を探すことに。大ベテラン刑事の佐藤は、村上に捜査の手順、取調べの方法などを指導する。村上野良犬 1949 い.pngらは遊佐の実家(姉の家)を訪ねるが遊佐は不在で、遊佐の友人のヤクザから遊佐の情婦でダンサーの並木ハルミ(淡路恵子)のことを聞き彼女にも会うが、彼女は遊佐の居場所を言わない。そうした中、次の強盗殺人事件が起きる。村上は遊佐が情婦の所へ行くと睨みハルミ宅を訪問、一方の佐藤は、ハルミの部屋のマッチ箱から、村上の銃を借りて一人でホテルに行き遊佐の居所を突き止めるが、その凶弾で倒れる。自責の念にかられる村上に対し、ハルミも遂に遊佐との待ち合わせ場所と時間を自白する。村上は丸腰のまま指定の駅に急行、遊佐を見つけ出し、逃げる彼を追い詰める。遊佐の銃で手を撃たれるが、格闘の末に遊佐を逮捕する。村上は佐藤を病院に見舞うが、逆に佐藤は村上を励ます―。 三船敏郎 [Toshiro Mifune]/千石規子 [Noriko Sengoku]

菊島隆三.jpg 黒澤明監督の1949(昭和24)年作品で(製作は「新東宝・映画芸術協会」)、黒澤がこの頃初めて知った菊島隆三(1914-1989)と意気投合し、ジョルジュ・シムノンばりの犯罪映画を作ろうとして企画したのが本作。ジョルジュ・シムノンは「メグレ警部」シリーズで知られる作家で、後のパトリス・ルコント監督の「仕立て屋の恋」 ('89年/仏)の原作者でもあります。

野良犬 三船.jpg 序盤の、村上が仲間のアドバイスを受けながら、犯人の手掛かりを求めて東京中を歩き回るシーン、まず女スリの行方を追って下町を歩き回り、次にその女スリの示唆で、拳銃密売ルートの手掛かりを求めて復員服で闇市を歩き回るのですが、このシーンが、戦後間もない東京の姿を炙り出していて圧巻です。

noraimu.jpg 次に来る、後楽園球場で本多を捜すシーンもいいです。プロ野球はまだ2リーグ制に移行する前であり、巨人と南海が戦っていて、「赤バット」の川上がタイムリーヒットを打ったりしています。試合中に本多の居場所が判り、但し、5万人の観客の真っ只中で銃を持っている可能性のある相手と渡り合うわけにはいかないので、ではどうすればよいか、試合終了までに考えなければならない、そこで思いついたのが...(まあ、単純と言えば単純な方法だったが)。

野良犬 楽屋.jpg 村上・佐藤が屋上で話す場面の空を広く撮ったカメラ割りや、ダンサー達の楽屋の半裸の女体が画面一杯に犇(ひし)めいてムンムンした雰囲気の漂うシーンのなど、カメラにおける工夫が随所に見られ、どのシーンも印象に残ります。

 ラスト近くの村上が駆けつけた駅(田舎駅の風情だが現在の「大泉学園駅」か)の待ち合わせ客の中から遊佐を割り出すシーンのカメラワークも緊迫感がありましたが、やや疑問に思ったのは、村上が遊佐の顔を知らないで彼を追っていることで、これは彼が初犯であるためでしょうか(写真くらい手に入らなかったのか)。

Akira Kurosawa, "Stray Dog" (1949)

野良犬 1949 ラスト.jpgnorainu2.jpg ラストの野原での(当時の練馬大泉は殆ど湿原状態だった?)村上と遊佐の格闘シーンも迫力がありましたが、「醉いどれ天使」('48年/東宝)で、哀しいシーンに「カッコウ・ワルツ」を流すという用いられ方をした"映像と音楽の対位法"が、ここでは両者が初めて対峙するシーン(近隣の窓辺からピアノの音が流れてくる)と、取っ組み合いの決着がついた場面(先生に引率された児童らが童謡を歌いながら行く)で用いられています(音楽は早坂文雄)。

野良犬 1949.jpg 遊佐の実家の貧しさは(やはり写真は無理か。東野英治郎が桶屋の親父役を演じている)、犯罪と貧困の相関関係を示唆しているようにも思えましたが、犯人に感情移入してしまいそうになる三船敏郎演じる村上に対し、志村喬演じる佐藤が、「一匹の狼のために、傷付いた多数の羊を忘れるな。俺は単純に奴らを憎む。悪い奴は悪いのだ」「何もかも世の中のせいにして、悪いことをする奴は、もっと悪い」と諭し、ラストでも、「外を見ろ。今日もあの屋根の下で何人かの善良な人間が遊佐のような奴の餌食になっている。遊佐やハルミへの情はわかるが自然に忘れるよ」と―。志村喬って結構、黒澤映画の中で主題を要約して語っている(「静かなる決闘」('49年)然り)。

小林信彦.jpg野良犬 1949 淡路.jpg 作家の小林信彦氏が、黒澤映画の中では「七人の侍」「天国と地獄」がベストで、もう一本を「野良犬」にするか「醉いどれ天使」にするかいつも迷うといったことを言っていましたが、個人的は、1940年代後半(昭和20年代前半)の黒澤作品では「醉いどれ天使」「野良犬」に加えて「静かなる決闘」も甲乙付け難く、観直すたびに順位付けが微妙に変わりそうです(今回は何れも星4つで揃えたが、揃えるならば、全部星5つにするという手もあっていい。そうなると日本映画のマイベストテンの殆どが黒澤作品で占められることになってしまいそうなのだが)。

淡路恵子(当時16歳)

野良犬 1949 淡路2.jpg 「静かなる決闘」の原作、菊田一夫の舞台「堕胎医」に主演し、それを観た黒澤明監督から映画出演を勧められた千秋実(1917-1999)の映スリー・パールズ-10.jpg画デビュー作ですが(クラブの従業員役)、今年['14年]1月に亡くなった淡路恵子(1933-2014)の映画デビュー作でもあり、印象としては淡路恵子の印象の方が圧倒的に強烈です。松竹歌劇団に入団前の松竹音楽舞踊学校(宝塚音楽学校のようなものか)の在校生の時に黒澤明監督のこの作品に抜擢起用され(当時16歳)、本作出演の翌年にSKDに入団し、「君の名は」('53年/松竹)出演までは専らSKDの舞台で、草笛光子、深草笙子とのユニット「スリー・パールズ」として活躍しましたが、16歳のこの時すでに、ダンスはお手のものといった感じでしょうか。

SKD・スリー・パールズ(左から草笛光子、深草笙子、右が淡路。1952年10月)
    

noraimu 5.jpg

野良犬 1949  ポスター0.jpg「野良犬」●制作年:1949年●監督:黒澤明●製作:本木荘二郎●製作会社:新東宝・映画芸術協会●脚本:菊島隆三/黒澤明●撮影:中井朝一●音楽:早坂文雄●時間:122分●出演:三船敏郎/志村喬/木村功/清水元/河村黎吉/井田綾子(淡路恵子)/三好栄子/千石規子/本間文子/飯田蝶子/東野英治郎/永田靖/松本克平/岸輝子/千秋木村 功 野良犬.jpg実/山本礼三郎●公開:1949/10●配給:東宝●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(10-12-18)(評価:★★★★)

木村 功(当時26歳)


「野良犬」スチール写真/淡路恵子逝去記事(東京新聞/2014年1月12日朝刊)
野良犬 スチール1.jpg東京新聞 2014年1月12日 淡路恵子訃報記事.jpg淡路恵子 1.jpg淡路恵子.jpg淡路恵子2.jpg                            
凛として、ひとり.jpg淡路恵子『凛として、ひとり
1933年東京生まれ。1948年に松竹歌劇団の養成学校である松竹音楽舞踊学校に4期生として入学。
1949年、入団前の学校生の時に黒澤明監督に抜擢され本名の井田綾子で新東宝映画『野良犬』に映画デビュー。
1950年、松竹歌劇団に入団。草笛光子、深草笙子と組んでスリーパールズにも抜擢され歌に踊りに大活躍した。
1957年に出演した『太夫さんより・女体は哀しく』と『下町』の演技でブルーリボン賞の助演女優賞を受賞。
1960年代には東宝の"駅前シリーズ"や"社長シリーズ"のレギュラー出演など数多くの映画に出演した。
2014年1月11日17時24分、食道がんのため東京都港区の病院で死去。                                                                                                         
                                                                                          
黒澤明作品ベスト17(個人サイト)
   1『野良犬』
   2『七人の侍』
   3『隠し砦の三悪人』
   4『酔いどれ天使』
   5『天国と地獄』
   6『赤ひげ』
   7『椿三十郎』
   8『用心棒』
   9『生きる』
   10『どん底』
   11『わが青春に悔なし』
   12『どですかでん』
   13『羅生門』
   14『醜聞』
   15『虎の尾を踏む男達』
   16『姿三四郎』
   17『蜘蛛巣城』

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主人公は真田だと思うが、松永が余りに鮮烈。意図して劇画的に作ることで緊迫感を増している。

酔いどれ天使 dvd2.jpg Yoidore tenshi(1948).jpg 酔いどれ天使 dvd.jpg 酔いどれ天使 0.jpg 
酔いどれ天使 [DVD]Yoidore tenshi(1948)酔いどれ天使<普及版> [DVD]」志村喬(眞田)/三船敏郎(松永)

酔いどれ天使 志村・三船.jpg 戦後の焼け跡にあるゴミ捨て場と化して悪臭を放つ小さな沼、その対岸で医師を営む眞田(志村喬)は近所でも評判の飲んだくれ医者で口は悪かったが、心の優しい人物だった。眞田は闇市をシマとするヤクザの松永(三船敏郎)の怪我の治療をしたことから、彼が結核であることを察知し注意を与える。松永は口煩い眞田の首を絞めつけるが、松永の兄貴分である岡田(山本礼三郎)に虐待され、今は眞田に救われて彼の看護婦代わりをしている美代(中北千枝子)を見て去って行く。眞田は松永を心配してダンスホールへ行って再度彼に忠告し、数日後、泥酔した松永がレントゲン写真を持って眞田を訪れるが、予醉いどれ天使 3.jpg想通り松永の病は重かった。やがて岡田が刑務所から出所、周囲は彼の機嫌を伺うようになり、松永の情婦だった奈々江(木暮実千代)も岡田に靡く。眞田は病魔に蝕まれた松永を医院に連れて帰る。悪夢にうなされて眼を覚ました松永は、美代を連れ戻そうと醉いどれ天使 4.jpg医院に乗り込んだ岡田に、今日は引き取ってくれと頭を下げて頼み込む。ヤクザの虚しさを悟った松永に、飲み屋の女ぎん(千石規子)は優しい誘いをかけるが、闇市の連中は打って変わって松永を無視するようになる。松永が奈々江の部屋へ行くと岡田がおり、アパートの廊下に流れたペンキの上で松永と岡田は死闘を繰り広げる。雪解けのある日、故郷へ帰るというぎんの手には松永の遺骨があった。沼をじっと眺めている眞田に、肺病を克服したセーラー服の少女(久我美子)が走ってきて礼を述べ、2人は微笑みながら肩を並べて歩き出す―。

酔いどれ天使 志村.jpg 主人公の医師・眞田に関しては、当初は若く理知的で使命感に燃える人物の設定だったそうですが、あまりに理想的すぎたため脚本執筆が初期段階で頓挫し、黒澤明、植草圭之助らは前に取材で出会った医師を思い出して、その人物をモデルに切り替えたとのこと。その人物は、劇中のような場末で無免許の婦人科医をやっていたような類の中年男で、アル中で下品を絵に描いたような人物だったが、会話中に時折見せる人間観察・批判、自嘲するような笑い方などに哀愁と存在感があったそうです。

 劇中で眞田が、自分のことを自分で「天使」だと言っているのが興味深いです(マイケル・カ酔いどれ天使_5.jpgーティスの「汚れた顔の天使」(Angel With Dirty Face、'38年/米)などとはタイトルの付け方のスタンスが異なるか)。仁義をふりかざす松永に対しての「仁義なんてものは悪党どもの安全保障条約さ」といった台詞も気が利いていますが、こうした台詞の中に、作品テーマの1つである、ヤクザ社会に対する批判も込められているように思いました(この台詞、和田誠氏も『お楽しみはこれからだ PART2―映画の名セリフ』('76年/文藝春秋)の中で取り上げていた)。
三船敏郎(松永)/山本礼三郎(岡田)

酔いどれ天使 三船.jpg酔いどれ天使 三船2.jpg ところが、テーマはヤクザ批判なのに、時の新人俳優・三船のギラギラした個性が際立つあまり、松永が主人公の眞田以上に魅力的な人物と化してしまったことは、黒澤監督にとって大きな誤算だった(?)ともされている作品で、確かにそうした面はあるかも。黒澤明は、この作品の前年の谷口千吉監督の「銀嶺の果て」('47年/東宝、三船敏郎の実質的デビュー作)で原作・脚本を務め、撮影現場にも関与していることから、自分が監督するなら三船敏郎という新人俳優をどう使おうかというイメージは、少し前からあったのではないでしょうか。

酔いどれ天使 チラシ.jpg酔いどれ天使 三船 4.jpg それがハマり過ぎたというか...。おそらく、これで松永が改心したら、ヒューマン・ドラマとして綺麗過ぎるものになってしまうため、敢えて松永を破滅の道へ向かわせたのだと思いますが(最後、松永は街娼と心中する、という植草圭之助の案を黒澤が却下して、ヤクザ同士の抗争による死にした)、結果的に松永を通して「滅びの美学」を描いたような作品になった印象も。一方で、これでは救いが無さすぎるということで、結核を克服した少女(久我美子)の話をエンディングに据えたのではないかな。

三船敏郎(写真奥)

酔いどれ天使 ラスト.jpg ラスト近くの松永と岡田がペンキにまみれて格闘する場面で、あそこでペンキ缶をひっくり返すのは非リアリズムだと思うのですが、リテイク(撮り直し)のきかない場面になっていることで緊迫感を増しているように思われました(「椿三十郎」('62年/東宝)のラストの三船敏郎と仲代達矢の噴血決闘シーンについても同じことが言える)。松永が瀕死の状態でありながら物干し台に上っていくのも非リアリズムでしょう(死ぬ時は、お天道様の方を向いて死ぬということか)。意図して「劇画的」に作られているように思いました。

酔いどれ天使 5.jpg 小林信彦氏が「週刊文春」のエッセイで、闇市の風景を一番忠実に描いているのは、黒澤明の「酔いどれ天使」と「野良犬」('49年/東宝)だと述べています。「酔いどれ天使」はセット撮影が主で、それもかなり大掛かりなセットだと思われますが、黒澤の師匠にあたる山本嘉次郎監督の「新馬鹿時代」('47年/東宝、三船敏郎の映画出演第2作目)のセットの使い回しだったそうです。

酔いどれ天使 笠置.jpg 劇中の酒場でのダンスシーンで「ジャングル・ブギー」(黒澤明:作詞/服部良一:作曲)を唄う笠置シズ子の型破りな芸風は凄かったなあ。序盤と終盤にちらりと映るガード下の"生活力ビタミン"「ワカフラビン」の広告がやけに印象に残った...(清水宏の「金環蝕」('34年/松竹蒲田)にも同じわかもと製薬の胃腸薬「ワカモト」飲んでいる場面があったが、あちらは明らかにタイアップ。こっちの場合、逆効果のような気もしたのだが、どうなのだろう)。

千石規子(ぎん)/殿山泰司(ひさごの親爺)  志村喬/久我美子(当時17歳/右写真は彩色加工版)
酔いどれ天使Drunken-Angel-0.50.16.jpg酔いどれ天使 久我m.jpg酔いどれ天使 久我c.jpg「醉いどれ天使」●制作年:1948年●監督:黒澤明●製作:本木荘二郎●脚本:植草圭之助/黒澤明●撮影:伊藤武夫●音楽:早坂文雄●時間:98分●出演:志村喬/三船敏郎/中北千枝子/山本礼三郎/木暮実酔いどれ天使s.jpg酔いどれ天使 Drunken-Angel-0.14.42.jpg千代/千石規子/笠置シヅ子/久我美子/進藤英太郎/清水将夫/殿山泰司/飯田蝶子/生方功/堺左千夫/大村千吉/河崎堅男/木匠久美子/川久保とし子/登山晴子/南部雪枝/城木すみれ●公開:1948/04●配給:東宝●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(11-01-15)(評価:★★★★)

小津 安二郎 「お早う」佐田・久我.jpg『ゼロ3.JPG
久我美子(小津 安二郎監督 「お早よう」('59年/松竹) で佐田啓二と)
野村芳太郎監督「ゼロの焦点」('61年/松竹)

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大人から子供への「偏見の伝播」。感情移入して観るとハマると思うが、やや暗すぎたか。

恋も忘れて 1937 vhs 2.jpg恋も忘れて [VHS]恋も忘れて 1937 桑野.png 桑野通子
佐野周二/桑野通子(スチール写真)
恋も忘れて 1937 桑野・佐野.jpg 横浜の港町に住むお雪(桑野通子)は、ホテルのダンスホールのホステスをしながら小学1年の一人息子の春雄(爆弾小僧)を育てている。春雄には、母親以外にホテルの用心棒の恭助(佐野周二)という味方がいた。恭助も、春雄の母親がお雪と知って以来、母子にますます好意を寄せるようになり、ある夜、外人から踊りを強要されたお雪を横から救い出す。一方、その商売ゆえにお雪と春雄に対する世間の目は冷たく、春雄は学校で孤立していた―。

 横浜・本牧を舞台にしたメロドラマですが、親たちの偏見が子供に伝播してお雪の一人息子・春雄の学校での孤立を招くという展開は、現代社会にも通じるような話で重かったです。桑野通子演じるホステスの勤める職場は、機能的には所謂「チャブ屋」と同じであり、世間から見れば、彼女は「曖昧宿」で働いている酌婦と同じ扱いになるのだろうなあ。

恋も忘れて 1937 vhs.jpg 佐野周二演じる恭助は用心棒にしてはあまりに端正な顔立ちの二枚目。お雪も、恭助が母子を訪ねてくるたびに、もっとゆっくりしていったらとは言いますが、息子・春雄のことで頭がいっぱいで恋には至らない―まさに「恋も忘れて」というタイトル通りだなあと。

 何せ、春雄を大学に行かせるために昼も夜も身を粉にして働いているのに、その肝腎の春雄が学校で友達から仲間外れにされたため学校をさぼって行っていないことが判明、その原因が自分の職業にあると知って愕然とする―それで奮起して学校を替えさせるも、春雄には学校までついて来ないでくれと言われるし、その春雄は前の学校の生徒のタレ込みでまた仲間外れに―。

 遊び場の倉庫さえ他の子供らに追い出されて、雨に濡れて熱を出してしまった春雄に対し、恭助は「喧嘩に負けるな。負ける喧嘩はするな」「母ちゃんの悪口をいう奴はやっつけてやれ」という言葉をかけますが、結果的にこれが春雄をけしかけるような形になってしまい、母親が入院先を捜している一方で、春雄は病身をおして子供同士の決闘の場へ―。

koi mo wasurete 1937 3.jpg こうした行動には、子供特有のヒロイズムもあるのではないかな。但し、結果は病気を重くすることになり、経緯を知って責任を感じた恭助は―。こっちもだんだん「恋どころでは」みたいな感じになってきたなあ。「港の日本娘」と違って、結末までやりきれない思いが残ってしまうタイプのメロドラマ。清水宏監督の作品の中でも、最も悲劇的色合いの濃い作品ではないでしょうか。その分、感情移入して観るとハマると思われますが、自分にはやや暗すぎました。

恋も忘れて 1937 01.jpg恋も忘れて 1937 02.jpg恋も忘れて 1937 03.jpg 全体を通して、演技者だけに強く照明をを当て、周囲を暗くして撮る手法が多用されているように思いました。また、お雪が春雄と住むアパートの周囲は、常に霧がかかっていて、印象派の絵画みたいで、「モンパルナスのアパルトメント」といった感じ。内装も洋風のちょっと洒落た感じで(和洋折衷の奇妙な面も一部ある)、お雪が和服姿でありながら、リビング風の部屋でテーブルを挟んで春雄に対峙しているのは、横浜というバックグラウンドがあってのことでしょうか。

桑野通子 1937.jpg お雪を演じた桑野通子(1915-1946/享年31)は、同じく清水宏監督の「東京の英雄」('35年/松竹蒲田)では娼婦に転落していく女を、前年公開の「有りがたうさん」('36年/松竹大船)では流れ者の酌婦を演じている一方で、本作の2か月後の公開された小津安二郎監督の「淑女は何を忘れたか」('37年/松竹蒲田)では、良家の勝気なお嬢さんを演じており、清水宏監督の「金環蝕」('34年/松竹蒲田)でもお嬢さん役でした。個人的にはどちらかというとモダンガール風のお嬢さんの方が役柄としては合っているように感じられますが、年齢の割には演技の幅を持った女優だったように思います。

 彼女は、三田高等女学校(現・戸板女子高等学校)をトップクラスの成績で卒業後森永製菓に入社し('32年)、初代スイートガールになっています(今で言うキャンペーンガールの類か)。溜池のダンスホール「フロリダ」でダンサーとしても働いており(兼業?)、人気ナンバーワン・ダンサー「ミッチー桑野」としてその名を馳せる中、'34年にスカウトされて映画界入り。この作品でもソロでのダンスシーンを披露しています。夭逝が惜しまれる女優です(死因は子宮外妊娠による出血多量)。
「映画之友」1937(昭和12)年8月号グラビア記事

恋も忘れて(1937年).jpg「恋も忘れて」●制作年:1937年●監督:清水宏●脚本:斎藤良輔●撮影:青木勇●音楽:音楽:伊藤宣二/小澤耀安●時間:73分●出演:桑野通子/佐野周二/爆弾小僧/突貫小僧/岡村文子/忍節子/雲井ツル子/水戸光子/小牧和子/森川まさみ/祇園初枝/織田千恵子/小柳みはる/メリー・ディーン/大山健二/石山隆嗣/池部萬/若林広雄/伊東光一/葉山正雄●公開:1937/01●配給:松竹(松竹大船)(評価:★★★★)

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バス1台の乗客で世相を反映してみせる巧さ。"柔軟な反骨"と"虐げられた者への温かい眼差し"。

有りがたうさん1936 vhs.jpg有りがたうさん dvd.jpg 有りがたうさん1936 1.jpg
あの頃映画 有りがたうさん[DVD]」上原謙(運転手)/桑野通子(酌婦)
有りがたうさん [VHS]

有りがたうさん1936 4.jpgMr. Thank You (Shimizu, 1936).jpg 「有りがたうさん」と呼ばれて利用客たちから親しまれている、「伊豆下田-修善寺」間を走る長距離乗合バスの運転手(上原謙)と、そのバスの乗客やすれ違う人々との交流を、時代の暗さを反映させつつも明るいユーモアを交えて描いた作品。上原謙(1909-1991/享年82)の「彼と彼女と少年達」('35年/松竹蒲田)に続く主演第2作で、前作と同じく桑野通子(1915-1946/享年31)との共演です。

mr-thank-you-landscape.jpg伊豆 地図1.jpg 前半部分で海が見えるのは、下田から修善寺に向かう際に、直接「天城街道」には入らず河津浜を経由して行っているためで、このバス路線は今もあるようです。

Mr. Thank You (Shimizu, 1936)(海が見える)

Mr. Thank You (Shimizu)2.jpg ハンディカメラなど無い時代に、バスの中にカメラを据えて撮っているのがユニークで、しかも自然に撮っています。むしろスタジオ有りがたうさん1936 6.jpgで撮るよりはずっとリアルになっているのは違いないです。また、バスの後ろを流れていく山道などは、リアウィンドウを外して別に撮っています。通行人がバスを避(よ)けると上原謙演じる運転手が「ありがとー」と言う訳ですが、わざと避けるところは映さず、避ける前と避けた後しか映さないことにより、バスが快調には走っていることを強調しています(上原謙に本当にバスを運転させて、実際に事故になりかけたという逸話もあるようだが)。

有りがたうさん7_v.jpg有りがたうさん1936 2.jpg ある種ロードムービーですが、バスから降りていく客は追っていかず、今現在バスの中にいる客を中心に撮っているため、ジョン・フォードの「駅馬車」のような移動する"舞台劇"でもあり、また、乗り合わせた人の人情味よりはむしろ様々な偏見の方にウェイトを置いて描かれているという点では、モーパッサンの「脂肪の塊」が想起されます(この映画では比較的ユーモラスな描かれ方がされているが)。
上原謙/桑野通子(スチール写真)

有りがたうさん1936 5.jpg 「山を越えて戻ってきた娘はいない」といったようなことを、同情しつつも、これからまさに売られていこうとする娘がいる車内で話している「有りがたうさん」は、見方によっては"鈍感"なのかもしれませんが、別の見方をすれば"天性の明るさ"とも言え、逆にこれが皆に好かれる最大の理由なのかも。
掌の小説 (新潮文庫)
掌の小説.jpg ラストの一夜明けた翌日の帰りのバスに、その売られていくはずだった娘がまた乗っていることについて作中では説明されていませんが、川端康成の原作(といっても『掌の小説』の中の数ページしかない一掌編)「有難伊豆の踊子 新潮文庫 旧版.jpg三島由紀夫  2.jpgう」では、木賃宿に着いて娘に泣かれて弱った母親が、この運転手のバスに乗せたのが間違いだった(娘は運転手のことを恋うていたという設定になっている)とぼやきつつ、春まで娘を売りにやるのを延期したという結末になっています(因みに、三島由紀夫は新潮文庫『伊豆の踊子』の解説の中で、「『伊豆の踊子』の南伊豆の明るい秋の風光は、掌篇小説『有難う』の中にもたぐいまれな美しさで再現されているから、併読されたい」と推している)。

有りがたうさん kuwano.jpg 原作では、娘が売りにやられのは延期されただけのことであって、いずれはそうなることは避けられないということが示唆されているのに対し、一方のこの映像化作品では、前日のバス車内でシボレーをセコハンで購入して独立するため貯金してきたと言う「有りがたうさん」に対し、桑野通子演じる酌婦が「シボレーを買うお金があったら、ひと山いくらの女がひとり減るのよ」と諭すように言っているのと、翌日の娘の「あの人(酌婦)、いい人だったね」という台詞の組み合わせから考えるに、清水宏ならではの人情味ある落とし処に改変されていると思われますが、その辺りは推測するしかありません。

 「有りがたうさん」がこれまでも、売られていく娘やもう戻ってくることのない流れ者(まさに桑野通子が演じている酌婦のような)をさんざん客として乗せてきて、まだ葬儀屋の運転手の方がマシかと思ったりもしたといったことを言っているところをみると、彼女一人だけを救ったところでどうなのかいうのはありますが、それを言うのは人情ドラマの鑑賞法としてはタブーということになるのでしょうか。

 1936(昭和11)年2月27日公開の作品ですが、当時日本経済は赤字国債増発でインフレをきたしており、新年度の国家予算で公債漸減を図るも軍部の反発を招き、それがこの作品の公開前日に起きた二・二六事件に繋がっていくという政治・経済は閉塞的景況、社会的にも有りがたうさん1936 3.jpg阿部定事件('36年5月)などもあったりした年ですが、バス1台だけを使い、そこに客として乗っている「売られていく娘」や運転手、乗客らの会話を通して、そうした暗い世相を巧みに反映してみせています。

 とりわけ、強制労働に従事し、自分たちが作った道を自ら歩くことなく次の作業現場に移動していく朝鮮人労働者の娘が、おそらく恋焦がれていたであろう「有りがたうさん」に、天城トンネルの手前で別れを告げるシーンの切なさは、この作品の白眉。当時の社会情勢からみれば、描くことがおそらくタブーとされていたモチーフを、作品の中で最も美しく撮っているところに、清水宏監督の"柔軟な反骨"と"虐げられた者への温かい眼差し"を感じます。

Mr. Thank You (Shimizu, 1936)3.jpg有りがたうさん.jpg「有りがたうさん」●制作年:1936年●監督・脚本:清水宏●撮影:青木勇●原作:川端康成「有難う」(『掌の小説』の中の一編)●時間:64 分●出演:上原謙/石山隆嗣/仲英之有りがたうさん8_v.jpg助/桑野通子/築地まゆみ/二葉かほる/河村黎吉/忍節子/堺一二/山田長正/河原侃二/青野清/金井光義/谷麗光/小倉繁/河井君枝/如上原謙.jpg月輝夫/利根川彰/桂木志郎/水上清子/県秀介/高松栄子/久原良子/浪花友子/三上文江/小池政江/爆弾小僧/小牧和子/雲井つる子/和田登志子/長尾寛/京谷智恵子/水戸光子/末松孝行/池部鶴彦●公開:1936/02●配給:松竹(松竹大船)(評価:★★★★) 上原 謙

掌の小説 映画.jpg オムニバス映画「掌の小説」(2010年)(第2話「有難う」監督:三宅伸行、出演:寉岡萌希/中村麻美/星ようこ/長谷川朝晴)

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(義理の関係の)母子もの。「東京の英雄」というタイトルの皮肉こそが最大モチーフか。

「東京の英雄」清水宏 vhs.jpg Tokyo no eiyu 4.jpg
東京の英雄 [VHS]」桑野通子/三井秀男

 根本嘉一(岩田祐吉)とその息子・寛一([子供時代]突貫小僧)、ばあやの3人で暮らしていた根本家に、加代子、秀雄([子供時代]爆弾小僧)の2人の子を連れた春子(吉川満子)が後妻として嫁に来たが、満蒙金鉱事業の投資詐欺事件を起こした嘉一は、家族を捨てて蒸発してしまう。十数年後、残された子供を育てようと、春子は子供達には仕事内容を明かさずにチャブ屋を営んできていたが、寛一(藤井貢)が無事に大学を卒業する時分になって、チャブ屋を営んでいることがこと子供達に知れ、それが原因で娘・加代子(桑野通子)も息子・秀雄(三井秀男)も家出をしてしまう。大学を卒業し新聞社に勤める寛一だけが春子の心支えであった。ある日、チンピラとなった義弟・秀雄が仲間に刺殺される事件に直面した記者・寛一は、瀕死の秀雄から父がまたニセの満蒙金鉱会社を始めたと聞き、父・嘉一に詰め寄ると共にそれを記事にする―。

清水宏 監督.jpg  1935(昭和10)年3月7日公開の清水宏監督の無声(音楽のみのサウンド版)映画で、不況下で、まともな仕事につけなければ男はチンピラに、女は娼婦にでもなるしかない(皆が皆そうだったわけはなかろうが)、そうした社会経済情勢をリアルタイムで反映した作品です(原作者の「源尊彦」は清水のペンネーム)。

清水 宏(1903-1966)

 加代子が家を出たのは、嫁ぎ先に母親の仕事が知られて離縁されたためで、その前に秀Tokyo no eiyu 3.jpg雄も恋人に同じ理由で交際を断られたという経緯があり、自分で母親の仕事を確認しに行って初めて母親がチャブ屋を営んでいることを知るという(十数年も母親の仕事を知らなかったというのがやや不自然だが)―それでグレてチンピラになり、加代子も"街の女"になってしまうというのは、どうかなあ。誰のお蔭でここまで育ててもらえたと思っているのか? 誰のお蔭で大学まで行かせてもらえたと思っているのか?(春子は夫が失踪した時は、この年齢では会社にも就職できないと悩んでいたのに、十数年にはチャブ屋の女将として店を仕切っており、意外と経営の才覚があったのか)。Hideo Mitsui, Mitsuko Yoshikawa, Mitsugu Fujii/Tokyo no eiyu | A Hero of Tokyo (1935)

 事態はだんだん暗い方向に行く中で、藤井貢演じる寛一だけが楽天的で、「コロッケも満足に出来ないうちからうちから結婚は少し早すぎやしないかい」と言っていた義妹・加代子が離縁されて戻って来たら「コロッケを作れるようになってから行けばよかったんだよ」と言い、彼女が家出したら「コロッケの研究にでも行ったんだろう」といった調子です。

Tokyo no eiyu 1.jpgTokyo no eiyu 2.jpg 新聞記者になっても、先輩に言われて松竹歌劇団のスターとかを取材して暢気な印象ですが、「尾張町(銀座)の角によく出没する女がいるらしい」と聞いて所謂"街の女"を取材に行くと、その女の部屋に帰ってきたのが加代子で、彼女は自分も"同業"だと言い放つ―。 Michiko Kuwano

Tokyo no eiyu hujii.jpg 後半になって、独り残された義母に寄り添う寛一と、彼だけが人生の希望の糧であるかのような春子の、両者互いに感極まる姿は、前半で寛一がドライであっただけに感興をそそります。血縁よりも義理の関係の方が本当の親子のようになってくるというのは、小津安二郎の「東京物語」の義父(笠智衆)・義娘(原節子)の関係の裏返しのようで興味深かったです。
Mitsugu Fujii

 しかし、物語の結末は意外なことになります。秀雄が用心棒として雇われたインチキ会社の社長が嘉一だったわけで(懲りない親父だなあ)、嫌気がさして辞めようとした秀雄は仲間に裏切ったと思われて刺されたという、そうした経緯を知った寛一は、実父・嘉一に自決を求める―スゴイね。結局、新聞記事に書いて父の不正を暴くわけですが、自分は正しいことをしたつもりで、スクープ記事の報酬として貰った特償金(ボーナス)を携え、義母・春子の元へ行くと―。

 (義理の関係の)母子の愛情がテーマかと思いますが、結局、誰も幸せにならない話だったなあ。ストーリーがリズム良く展開し、むしろ話が出来過ぎている(偶然が度重なる)わりには、ラストで落とし処が無かったという感じでしょうか。「東京の英雄」というタイトル自体に皮肉が込められていて、その「皮肉」こそが作品の最大のモチーフであったとしか解釈しようのない作品でした。

母を恋はずや 吉川三井.jpg 因みに、吉川満子と三井秀男は、前年の小津安二郎監督の「母を恋はずや」('34年)で既に実の親子の役を演じており、これに母親の継子(義兄)が絡んで、継子(大日方傳)の方がグレるという...こうした複雑な親子関係を扱うのが当時のある種パターンだったのでしょうか。
小津安二郎「母を恋はずや」('34年)
 
東京の英雄 002.jpg東京の英雄 001.jpg「東京の英雄」●制作年:1935年●監督:清水宏●脚本:荒田正男●撮影:野村昊●原作:源尊彦●時間:64分●出演:岩田祐吉/ 吉川満子/藤井貢/桑野通子/三井秀男(宏次)/突貫小僧/市村美津子/爆弾小僧/近衛敏明/出雲八重子/高松栄子/水谷能子/御影公子/高杉早苗/京町みち代/石山龍児/河原侃二/宮島健一/日下部章/谷麗光/加藤精一雄●公開:1935/03●配給:松竹(松竹蒲田)(評価:★★★)

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大河メロドラマを2時間に圧縮? 波乱万丈、度重なる偶然。でも、予定調和に終わらない結末。

金環蝕1934.jpg金環蝕 清水宏 vhs.jpg  清水宏 監督.jpg 清水宏 監督
「映画之友」1934(昭和9)年11月秋季特別号「金環蝕」広告(川崎弘子)「金環蝕[VHS]

金環蝕0.jpg 大崎修吉(藤井貢)は大学を卒業して帰省した神田(金光嗣郎)から、絹枝(川崎弘子)との結婚斡旋を依頼される。しかし、絹枝が自分を恋していること知って身を引き、勉学のためと言って東京へ行く。自動車事故をきっかけに同郷の代議士・岩城(藤野秀夫)の家の家庭教師となった修吉は、令嬢・鞆音(ともね、桑野通子)と運転手の妹・嘉代(坪内美子)との三角関係に挟まれているところに、偶然神田から絹枝の家出を聞かされる。その後、神田は鞆音に結婚を申し込む。政変による岩城家の没落とともに、修吉はタクシー業に転じた運転手・松村(山口勇)の助手となり、嘉代兄妹らと3人で生活をすることにするが、嘉代は桑野通子坪内美子川崎弘子.jpg引き続き修吉のことを慕っており、それには兄・松村も気づいている。嘉代はビアホールの女給勤めを始め、慣れない勤め先で翳の影のある先輩女性に親切にされるが、それがあの絹枝だった。ある夜、嘉代の誘いで彼女のアパートに立ち寄った絹枝は、そこで修吉との思わぬ再会を果たす―。

 1934(昭和9)年11月1日公開の清水宏監督作で、無声映画のフォーマットに江口夜詩作曲による劇伴を付したサウンド版。原作は久米正雄が同年に雑誌「キング」に発表したもので、単行本の刊行('35年)より映画化の方が先だったという作品。2010年の伊・ポルデノーネ無声映画祭での上映作品でもあります。

[右上・右]藤井貢(修吉)/[左上]桑野通子(鞆音)/坪内美子(嘉代)/川崎弘子(絹枝)

金環蝕 桑野通子.jpg 『少年時代』の久米正雄ってこんな大河メロドラマ作品を書いていたのかという印象の作品。本来ならば13話連続のTVドラマでやるところを2時間単発ドラマに圧縮したような波乱万丈の話ですが、そもそも当時はTVの「連ドラ」どころかテレビそのものさえなかった時代な訳で、現代においてTVドラマに一般大衆が求めているものも映画が全部引き受けていた時代を象徴するような内容だと思われました。

桑野通子(鞆音)


川崎弘子1.jpg ビアホールの仕事が終わって連れだって歩く絹枝と嘉代。絹枝が自分には捜している人がいると言い、嘉代が実の兄のほかにもう一人お兄さんがいると言う、それがまさか同じ人物(修吉)とはねえ。絹枝はショックを受けるも、可愛がっている後輩・嘉代のことを気遣って、自分が捜している人とは神田であると言い、それを真に受けた嘉代は、鞆音と神田の結婚披露宴に乗り込んで、神田に結婚は待ってください、絹枝が貴方を待っていると言い、神田は、いや、そうじゃないんだ、絹枝の想い人は実は修吉なのだと―。

川崎弘子(絹枝)

 今度は嘉代がショックを受け、兄の計いで実家に帰される。絹枝の方は既に、「誰か一人泣かなきゃならないんなら私喜んで泣くわ」「生じっか会えずに一生捜し続けていた方が良かったわ」と、酒浸りになってもう半ば人生捨てている感じで、中年男・斎田(奈良真養)をパトロンとする生活に入ろうとする。絹枝と斎田が乗ったタクシーは松村のもので助手席に修吉がいた。熱海で降りた後、修吉は2人を追い、絹枝にあなたはそんな人じゃなかったはずだと喝を入れ(往復ビンタのダブルで!)、斎田をも殴り倒してしまったため警察が来る。そこへ神田・鞆音夫婦が現れ(そうか、ここは熱海に移り住んだ岩城の屋敷だったのか)、神田はここは自分に免じてと言って警察を帰し、鞆音は神田と洋行することになりもう会えないかもと言う。神田・鞆音夫妻を横浜の港で見送って、残された修吉と絹枝は、郷里に帰る列車の中、暗い片隅で向き合って只々俯いている―。

 "波乱万丈"はいいのだけれど、プロセスにおいて偶然に偶然が重なるような結構通俗的ご都合主義の作り込みがされている割には、結末は見方によってはカタルシス不全を起こしそうな中途半端なものであり、公開時の興業成績がイマイチだったというのも頷ける気がしました。一方で、こうした結末を観客に投げつけて終わる反・予定調和がこの監督らしいのかもしれないとも思いました。

桑野通子 川崎弘子.jpg桑野通子 写真.jpg 鞆音の、年齢の離れた弟(突貫小僧)の学校の成績が良くないことにかこつけて修吉を家庭教師として雇うよう父親を説得するも、ドライブ、ゴルフ、ハイキングといった"課外授業"で修吉を引っ張り回す―といった、その我儘お嬢さんぶりを、桑野通子(1915-1946/享年31、当時19歳のこの作品が映画デビュー作)が活き活きと演じています(それにしてもゴルフ、下手すぎ)。

 絹枝の、郷里では数少ない女学校出のそこそこの家の純情娘だったのが、数年後には東京のビアホールの女給になっているその落魄ぶりを、川崎弘子(1912-1976/享年64、川崎大師のすぐ前の家に生まれ、川崎大師と弘法大師から芸名をとった)が別人のように演じ分けているのも見所と言えるでしょうか。

桑野通子(左)/川崎弘子(右)(「結婚の宿題」('38年/松竹大船)より)

「新女性問答」.jpg それに、運転手の妹・嘉代を演じた坪内美子(1915-1985/享年70、この人は銀座の有名カフェの女給(源氏名・孔雀)をしているところをスカウトされた)と、当時の美人女優をばんばん投入している感じ(因みにこの3人は、佐々木康監督の「新女性問答」('39年)でも共演することになる)。この3人に思慕されて、「モテ男はつらいよ」みたいな藤井貢(元ラグビー日本代表キャプテン)演じる修吉でしたが、ラストシーンは年貢の納め時が来たことを暗示しているのでしょうか。

桑野通子/川崎弘子/坪内美子(「新女性問答」('39年/松竹大船)より)

 冒頭、神田が法学士として帰郷するにあたり、村で歓迎会が催され、村の娘は嫁探しのための帰郷かと色めき立ち、男たちは振舞い酒にありつけるのではと期待、神田の絹枝へのプロポーズは大ニュースとして村人の間に広まるというのが時代を反映しているなあと(要は神田は一大卒生に過ぎないわけだが、当時の大学進学率は数パーセントか)。

 代議士・岩城が関与している丸の内の会社の名前が「金満鉱山」であったり、修吉が自動車事故に遭って運ばれた病院手術室の入口に「大手術室」とあったりするのが可笑しいですが、これは当時としてはリアリズムの範囲内なのかな。入院の見舞いに鞆音が持ってきたのが「森永ミルクチョコレート」、運転手・松村が仕事前に体調管理のために飲むのが「ワカモト」と、この辺りはタイアップなのでしょう。TVコマーシャルどころかTVも無かった時代だからなあ。
 
金環蝕 1934.jpg金環蝕1.jpg「金環蝕」●制作年:1934年●監督:清水宏●脚本:荒田正男●撮影:佐々木太郎●音楽:江口夜詩(サウンド版)●原作:久米正雄「金環蝕」●時間:110分●出演:藤井貢/川崎弘子/桑野通子/金光嗣郎/藤野秀夫/突貫小僧/山口勇/坪内美子/小倉繁/久原良子/近衛敏明/奈良真養/河村黎吉/吉川満子/野村秋生/仲英之助/青木しのぶ/葛城文子/御影公子/高杉早苗/三宅邦子/忍節子/小池政江/水島光代/荒木貞子●公開:1934/11●配給:松竹(松竹蒲田)(評価:★★★☆)

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モース、やや暴走気味で踏んだり蹴ったりだったが、女性捜査官との距離感の推移が楽しめた。

モース(第14話)/死を呼ぶドライブ dvd.jpg モース(第14話)/死を呼ぶドライブ vhs.jpg  モース(第14話)/死を呼ぶドライブ 0.jpg
Inspector Morse: Driven to Distraction [VHS] [Import]」(死を呼ぶドライブ)
Inspector Morse: Driven to Distraction [DVD] [Import]

死を呼ぶドライブ.jpg 一人暮らしの若い女性が連続して殺害され、被害者2人の共通点を探したモースは、彼女らがクルマを何れもディーラーのボイントン(パトリック・マラハイド)から買っていること、ボイントンは被害者ソーン(ジュリア・レーン)とも接点があり、被害者の女友達アンジー(テッサ・ウォーツザック)を脅迫するなどしていたことから、物証はないもののボイントンを犯人と確信、自動車会社の隣の自動車教習所のベテラン教習官ウィテカー(デヴィッド・ライアル)のもとへ教習を受けるため定期的に通うことで、ボイントンにプレッシャーをかける。捜査に参入した犯罪心理学の専門家である女性捜査官メイトランド(メアリー・ジョー・ランドル)は、初めはモースの強引な捜査に違和感を覚えるが、次第にモースの被害者への同情や犯罪への怒り、そして捜査そのものに対する彼の姿勢に共感を覚えるようになっていく―。

死を呼ぶドライブ 1.jpg 「主任警部モース」シリーズの第14話で、1990年に本国で放映され、2000年に日本語字幕付きVHSが発売されています。「IMDb」のレーティングは8.1となっています。

 モースとメイトランドはコンピュータの記録から過去の類似事件を見つけますが、犯人が収監中であるのに、その事件で幸い助かった女性は引き続き脅迫電話を受けており、モースはこれ以上の犯行を阻止するためにボイントンを拘束、しかし、相変わらず物証が得られず上司の命令で釈放するも、ボイントンは脅迫した女性の恋人に襲われ負傷し入院、その間に3人目の犠牲者が出ます(入院中の彼には犯行は不可能ということになる)。

モース(第14話)/死を呼ぶドライブ 2.jpg 時々、自らの思い込みから暴走することがあるモース。今回はその典型で、誤認逮捕の挙句、最後は包丁を持った真犯人と車内で格闘し、自分の命まで危機に晒される―という、事件的には踏んだり蹴ったりのエピソード、刑事ドラマの最後の方で、主役の刑事が誤認逮捕した相手に誤っている場面が来るというのも冴えない話ですが、モースと女性捜査官メイトランドとの心理的関係の推移が思いの外に楽しめました。

 メイランドはいわばプロファイラーであり、モースも捜査陣の前で彼女に講釈させますが、モース自身はハナから信頼していない様子。実地検証でも彼女の予想は外れ、モースもそれ見ろといった感じで、ここまでは、犯罪心理学とかプロファイリングなんて馬鹿にしているであろうモースらしい展開。しかし、ここからが意外な展開で、令状無しの強硬捜査で、ルイスら他の部下は、こんな違法行為は許されないと現場を去ったのに、彼女だけが「やりましょう」と残って、モースと共に徹夜で作業する―この辺りから2人の距離感は急速に狭まってきます。

モース(第14話)/死を呼ぶドライブ 3.jpg ラスト、犯人との格闘で腕を負傷したモースがその腕を使って作業しているのを見て、メイトランドが医者に禁じられているのでは気遣ったところ、自分は天邪鬼だから人に言われたことと反対の事をすると言うモース。それに対して、「じゃ、私に電話しないでね」と言って去っていくメイトランド―この遣り取りが良かったです。

 犯人も意外だったけれど、モースと女性捜査官の関係の推移の方がもっと意外だったかな。原作者コリン・デクスターは、どういうわけかコインランドリーにいましたね(結構はっきり映っていた)。

Broadway Car Park, Old Hatfield, Hert, UK - Inspector Morse, Driven to Distraction
モース(第14話)/死を呼ぶドライブ 4.jpg390e1006-ccee-4ec6-b61c-f544ee1537cf.jpg「主任警部モース(第14話)/死を呼ぶドライブ」●原題:INSPECTOR MORSE:DRIVEN TO DISTRACTION●制作年:1990年●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/17 ●監督:サンディ・ジョンソン●脚本:アンソニー・ミンゲラ●原案:コリン・デクスター●時間:104分●出演:ジョン・ソウ/ケヴィン・ウェイトリー/パトリック・マラハイド/メアリー・ジョー・ランドル/ジュリア・レーン/テッサ・ウォーツザック/デヴィッド・ライアル●ⅤHS発売:2000/12●発売元:日本クラウン(評価:★★★★)

MyTopDozen(海外サイト)
  List of Best Inspector Morse Episodes
Rank  Score       Item
  1.  133  Driven to Distraction (第14話/死を呼ぶドライヴ)
  2.  131  Last Bus to Woodstock (第7話/ウッドストック行き最終バス
  3.  126  Service of All the Dead (第3話/死者たちの礼拝)
  4.  123  Cherubim and Seraphim (第25話/ケルビムとセラフィム)
  5.  121   Who Killed Harry Field? (第18話/誰がハリー・フィールドを殺したのか?)
  6.  116  Twilight of the Gods (第28話/神々の黄昏)
  7.  113  Infernal Serpent (第12話/邪悪の蛇
  8.  110  Death Is Now My Neighbour (第31話/死は我が隣人)
  9.  103  Happy Families (第22話/ハッピー・ファミリー)
  10.  103  Absolute Conviction (第24話/有罪判決)
  11.  94  Second Time Around (第16話/メアリー・ラプスレイに起こったこと
  12.  94  Ghost in the Machine (第8話/ハンベリー・ハウスの殺人

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モース vs. 天才詐欺師。面白かったが、犯人には犯罪哲学があるような無いような...。

モース第15話「魔笛〜メソニック・ミステリー」dvd.jpg  INSPECTOR MORSE:MASONIC MYSTERIES.jpg Inspector Morse・episode 15 (Masonic Mysteries).jpg
Inspector Morse: Masonic Mysteries [DVD] [Import]」(魔笛〜メソニック・ミステリー~)

モース第15話「魔笛〜メソニック・ミステリー」2.jpg モースも一員である合唱団のオペラ公演「魔笛」のリハーサルに、彼は車で女友達のベリル(マデリーン・ニュートン)と駆けつけるが、運転の荒っぽさを彼女に詰られ、帰りは別行動でと言われてしまう。そのベリスが、一時稽古場を離れた隙に殺害された。悲鳴を聞き、第一発見者となったモースは、凶器の包丁を拾い上げて容疑者となってしまう。モースのことを良くは思っていないボトムリー警部(リチャード・ケイン)が捜査の指揮を執り、ルイスがその配下に付くが、次々とモースに不利な証拠が現れ、濡れ衣を晴らそうとするモースは、逆に追いつめられていく―。

Romeland Gardens, St Albans, Herts, UK - Inspector Morse, Masonic Mysteries (1990)

 英国ITVの「主任警部モース」シリーズモース第15話「魔笛〜メソニック・ミステリー」vhs輸入版.jpgの第15話で、1990年に本国で放映され、2001年に日本語字幕付きVHSが発売されています(監督ダニー・ボイル、脚本ジュリアン・ミッチェル)。「IMDb」のレーティングは8.4という高さ。実際、面白かったですが、ややもやっとした印象も。

モース第15話「魔笛〜メソニック・ミステリー」デクスター.jpg オペラ好きのモースは、オペラの合唱団にも入っていたわけか(モースの前列には、原作コリン・デクスター .jpg者のコリン・デクスターがいて、結構大映しになっているカットがある)。殺害されたべリルは、モースが好意を抱き、かなり積極的にアプローチしていた女性。モース自身も自宅で不審火に見舞われ、自慢のLP盤コレクションがかなりの被害に遭った模様です(トスカニーニの「魔笛」を最悪としているけれど、これ、演奏はBBC交響楽団のものか?)
Inspector Morse: Masonic Mysteries [VHS] [Import]

INSPECTOR MORSE:MASONIC MYSTERIES 2.jpg かつて自分が捕まえた天才的詐欺師ド・フリースが怪しいと睨んだモースでしたが、彼は記録上は海外で獄死したことになっていて、但し、ルイスが調べてみると、コンピュータをハッキングしてデータを改竄していたらしい。時としてモースに反感を抱き、前話ではモースの強引な捜査に反発していたルイスですが、今回は最初から無能なボトムリー警部(フリーメーソン信者らしい)は相手にせず、モース一辺倒でした。しかも、得意なコンピュータでハッキングを突き止めるという、IT犯罪捜査官のような活躍ぶり(操っているのは、黒い画面にグリーンの文字が出るMS-DOSコンピュータみたいだが)。

INSPECTOR MORSE:MASONIC MYSTERIES1.jpg 「機械オンチのモースに犯行は無理で、犯人はモースよりずっと頭がいい」というルイスの言い分は可笑しいですが、やはりド・フリースは生きていて(冒頭のオペラ・リハーサルの衣装係に注目)、モースをその命を奪えるところまで追い詰めるも、アッカンベーするみたいな感じで逃げていく。そして、意外な共犯者と合流。しかし、その途端に警察に包囲され、モースがちょっと前に見た幻視通りに―。

 見た目は気色悪いけれど、「魔笛」に準えて犯行を実行するなど犯罪哲学のようなものを持っているように思えた詐欺師ド・フリースについては、逃げ延びさせる手もあったのでないかなあとも。
 彼を崇拝する共犯者の女性(最初はモースの協力者を装っていた)の方がワルだったような気もするけれど、結局ド・フリースも実行犯だったのか? 「誰も殺さない」という犯罪哲学ではなく、復讐相手の愛している者を奪うことによってその相手に復讐するという、単なる方法論に過ぎなかったのかなあ。それにしても自分はあっさり死んじゃったなあ(そんなに監獄が嫌なのか)。終盤はそれなりに緊迫感はありましたが、その辺りのもやっとした感じが個人的にはちょっと引っ掛かったかも。

INSPECTOR MORSE:MASONIC MYSTERIES 5.jpg モースはルイスに「魔笛」を知らないと事件の話が通じにくいと言い放ち、自分はもう(こんな事件があって)合唱隊は辞めるとしながらも、ルイスにはベリル追悼公演となった「魔笛」を半ば無理矢理聴きに行かせますが、ルイスは台詞がさっぱり聴き取れないと言って途中で夫婦で会場を抜け出してしまいました。「魔笛」は普通ドイツ語でやりますから、台詞が解らなくて当然なのですが、この辺りは労働者階級出身のルイスらしかったかな(映画「アマデウス」では映画観客層に合わせてモーツアルト歌劇を全部英語でやっていたけれど)。でも、ルイスがハッキングを突き止め、自分の疑いを晴らした時などは、モースは感謝の祝杯を挙げるという心遣いもみせています(これも、自分が久しぶりに呑みたかったという理由の方が大きいか)。
Fishpool St, St Albans, Herts, UK - Inspector Morse, Masonic Mysteries (1990)

 新米刑事時代のモースを描いた当シリーズの前日譚「新米刑事モース~オックスフォード事件簿~」(2012年1月からITVで放送)の脚本家ラッセル・ルイスがこのエピソードに影響を受けて、「Case3/殺しのフーガ」(2013年)というエピソードの脚本を書いているそうなので、機会があれば観てみたいと思います。

「主任警部モース(第15話)/魔笛〜メソニック・ミステリー~」●原題:INSPECTOR MORSE:MASONIC MYSTERIES●制作年:1990年●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/24 ●監督:ダニー・ボイル●脚本:ジュリアン・ミッチェル●原案:コリン・デクスター●時間:104分●出演:ジョン・ソウ/ケヴィン・ウェイトリー/マデリーン・ニュートン/イーアン・マクディアミット/セレスティーン・ランダル/リチャード・ケイン●ⅤHS発売:2001/01●発売元:日本クラウン(評価:★★★☆)

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ジョン・ネトルズが主役を演じた最後のエピソード。長らくの間お疲れ様でした。

第81話「安らぎのスパ殺人」dvd.jpg 第81話「安らぎのスパ殺人」.jpg Midsomer Murders Fit for Murder 2.jpg
"Midsomer Murders" Fit for Murder(安らぎのスパ殺人)

Midsomer Murders Fit for Murder 1.jpg ルーク・アーチボルド(ジェイソン・デュール)の経営するスパ&ホテルに、ジョイスとバーナビーは休みを利用して滞在することにする。バーナビーは、性に合わないので、文句を言い続けるばかりだった。やがて来るバーナビーの誕生日も何やら気掛かりな様子だった―。

Midsomer Murders Fit for Murder 0.jpg シーズン13の第8話(最終話)で、これまで通算81話に渡ってトム・バーナビー警部をを演じてきたジョン・ネトルズの最後の主演作ということで、本筋のミステリと併せて、バーナビーが引退を決意するという図太いサイドストーリーがあります。

 でも、ミステリの方も、いつもながらにジョイスの行くところに事件ありで、スパの客の女性キティが殺害され、スパの経営者ルーク・アーチボルドが殺害され、更に、先に殺された女性客の夫ケニーは行方不明で...と、相変わらずの複数殺人やら行方不明者やらで、一応は手を抜かず展開されていたように思います。

第81話「安らぎのスパ殺人」02.png 並行して、バーナビーの気掛かりの元が少しずつ明かされてきて、それは誕生日と同じ日に亡くなった父親に対する思いと(その日に限って、いつもの父親の誕生日と同じように一緒に釣りに行くことをしなかった自分に対する悔恨)、自分も父親と同じ年齢の誕生日、つまり間近に迫っている次の誕生日に死ぬのではないかという不安であったようです(既に誕生日が近づくつれて体調に変調をきたしていた)。

第81話「安らぎのスパ殺人」01.jpg ミステリの方は、サイドストーリーに圧迫されて、スパ経営者の妻と小説を書いているという女性の2人とそれを取り巻く男達の確執の経緯や、犯人の犯行動機とかが分かりにくかったかな。一応、このシリーズではここのところ、犯人が捕まった後、自らの殺人を丁寧に振り返ってくれる傾向にはあるのだけれど。

 突然、瞑想用の庭の噴水が噴き出して、びっくりして逃げ帰るトレーナーと、そこから行方不明者を突き止めるバーナビー(重傷を負ったままバルブに寄り掛かっていたわけか)、バーナビーが瞑想トレーナーの娘の透視術のインチキを見破ったかと思ったら、誰にも話していない自分の不安の源を言い当てられ、彼女の透視能力はホンモノだったとか、細部に見所はありました。

第81話「安らぎのスパ殺人」引退発表.jpg 事件解決後のエピローグに多い目に時間を割き、無事に誕生日を迎えたバーナビーが誕生パーティの席で突然の引退発表、唖然とするジョーンズも、事件現場からの呼び出し電話に当地に転任してきた従兄弟のジョン・バーナビー警部(ニール・ダジョン Neil Dudgeon)を電話口に出させる彼の姿を見て上司の引退を既定の事実として受け入れたのか、事件現場へ向かうために辞去する前に思わずバーナビーにハグ(いい場面!)、残されたジョイスのほっとしたような表情から、バーナビーの引退決意の理由はここにあったのだなあと。

第81話/安らぎのスパ殺人 誕生パーティー.jpg 引退はちょっと勿体ない気もしましたが(ジョーンズは今回も思い込みから誤認逮捕Midsomer Murders Fit for Murder 3.jpgしそうな感じでやや頼りなかったし)、あちらでは自分で引退をする時期を決め、後はリタイア後の人生を楽しむというのがむしろ普通なのかも。バーナビー警部を演じるジョン・ネトルズは1943年生まれで、1997年(54歳)から13年間主役張っており、67歳と言えばかなりいい歳ではありますが。

 ジョン・ネトルズ自身は「(引退するのは)とても悲しいが、(バーナビーは)約200件もの事件を解決した。目標は達成したと思う」と話しているそうです。正確には15シーズンで208件の殺人事件があったそうで、1話当たり概ね2.5人殺害されているわけか)。バーナビーもジョン・ネトルズも長らくの間お疲れ様でした。

アイソレーションタンク2.jpgアイソレーションタンク1.jpg 因みに、このエピソードの中でジョイスがスパで試そうとしたしたフローティングタンクは「アイソレーションタンク」と呼ばれるもので、都内にも利用可能なエステや「癒しのスペース」のようなものがあるみたいですが、装置は外国製のものを使っているようです。海外では、複数人数で浸かれるような大きなタンクもあるようです。アルタード・ステーツ tirasi.jpgアルタード・ステーツ2.jpg一度利用してみたい気もするけれど、このタンク見ると、ケン・ラッセル監督の「アルタード・ステーツ 未知への挑戦」('79年/米)を思い出して、ちょっと怖い気もしないでもない(少なくとも閉所恐怖症の気がある人は無理だろうなあ)。パディ・チャイエフスキーのSFが原案の映画では、感覚遮断実験のための装置として使われていましたが、タンクそのものの原理はほぼ同じだろうなあ(当時アメリカで、「タンキング」と呼ばれるこの種の瞑想法が流行っていた)。ウィリアム・ハート演じる科学者が、タンクを使って自らを実験台にし、人類進化の過程を意識面で遡っていくが、それが身体にまで影響を及ぼすというものでした(まあ、映画を観ていても、いくら何でもこれはあり得ないとは思いましたが)。

Church End seen in 'Fit for Murder'.jpg「バーナビー警部(第81話)/安らぎのスパ殺人」●原題:MIDSOMER MURDERS:FIT FOR MURDER●制作年:2011年●制作国:イギリス●本国上映:2011/11/15●監督:レニー・ライ●製作:ブライアン・トゥルー=メイ●脚本:アンドリュー・ペイン●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ジェイソン・ヒューズ/ジェーン・ワイマーク/バリー・ジャクソン/カースティ•ディロン/ローラ・ハワード/ニール・ダジョン/ジェイソン・デュール●日本放映:2013/10/25●放映局:AXNミステリー(評価:★★★☆)
Church End seen in 'Fit for Murder'

ALTERED STATES.jpgアルタード・ステーツa.gif「アルタード・ステーツ 未知への挑戦」●原題:ALTERD STATES●制作年:1979年(米国公開1980年)●制作国:アメリカ●アルタード・ステーツ b.gif監督:ケン・ラッセル●製作:ハワード・ゴットフリード●脚本:シドニー・アーロン●撮影:ジョーダン・クローネンウェス●音楽:ジョン・コリリアーノアルタード・ステーツ dvd.png●原作:パディ・チャイエフスキー●時間:101分●出演:ウィリアム・ハート/ドリュー・バリモア/ブレア・ブラウン/ボブ・バラバン/チャールズ・ヘイド●日本公開:1981/04●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:新宿・京王地下(81-05-17)(評価:★★★)「アルタード・ステーツ 未知への挑戦 [DVD]

1977年8月6日 新宿京王 京王地下.jpg京王新宿ビル3.jpg京王三丁目ビル - 2.jpg 新宿京王・京王地下(京王2)新宿3丁目伊勢丹はす向い京王新宿ビル(現・京王三丁目ビルの場所)。1980年代後半に閉館。

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卿の方が娘たちに利用されていた(?)「選ばれし者の遺伝子」。

第78話/選ばれし者の遺伝子 dvd.jpg第78話/選ばれし者の遺伝子 dvd2.jpg 第79話/ボクシングに沸く村 dvd.jpg
"Midsomer Murders" Master Class (選ばれし者の遺伝子)/The Noble Art (ボクシングに沸く村)

第78話/選ばれし者の遺伝子0.jpg マイケル・フィールディング卿(ジェームズ・フォックス)と2人の娘は、ピアノの英才教育を行うプライベート・スクールを運営していた。生徒の中でも優れた才能を持つ一人ゾーイが、ある日、白いドレスの若い娘が川で溺れるのを目撃する。早速、捜索が行われるが何も発見されなかった―(「第78話/選ばれし者の遺伝子」)。

バーナビー警部(第78話)/選ばれし者の遺伝子.jpg 最初にゾーイが川で見たものがあまりにクリアで、そこからミスリードされてしまいましたが、犯人もまた個人的には想定外の人物でした。このシリーズ、「第40話/千里眼の系譜」で超能力を存在を肯定的に扱っていましたが、ここでは、音楽における「遺伝的才能」の絶対性を肯定的に扱っていて、こうした本来ならば議論が分かれそうなものについて、大胆に一つの"見解"を示しているところが、なかなか興味深かったです。

第78話/選ばれし者の遺伝子 1.jpg 犯人としては自分は絶対に「天才」なわけで、あとは天賦の才を持った女性と交わり、今度はその娘と―といった具合に"再生産"していくわけかあ。それにしても「父親でもあり祖父でもある」というのがスゴかったなあ。その前の代からそれを繰り返しているのか。

 これ、完全に近親相姦であり、遺伝学上危ないです。でも、自分の遺伝子が入っていることに意義があるわけだから、そうしたことも織り込み済みなのでしょう。あの有名なバッハの家系などはこれと似たようなものだったらしいし(演奏中に鼻血が出てしまったは、劣勢遺伝だったのか)。

2第78話/選ばれし者の遺伝子 .jpg第78話/選ばれし者の遺伝子 3.jpg しかし、音楽学校の生徒も変なのが多かったなあ。特にマスタークラスの最終選抜に漏れてストーカーみたいになってしまった男子。それと、子供ながらに、ゾーイとそのライバル(性格悪そうな娘だなあ)の二股かけて、結局、殺害されてしまった男子。その子の母親はその時、フィールディング卿に対する色仕掛け攻勢の真っ最中だったわけで、卿自身にはアリバイがあるわけだけど、まさか、学校全体でやっていたとはねえ。「魔女の館」みたいで、卿よりも娘(オバサン)達の方が怖かった(若干「ローズマリーの赤ちゃん」風)。見方によっては卿の方が彼女らに利用されていたのかも。


第79話/ボクシングに沸く村 1.jpg ミッドサマー・モーチャード出身のジョン・キンセラ対ガルシア・ラ・トサのボクシング試合が行われ、キンセラが勝利する。キンセラの祝賀会が催されるが、飛行機の遅れで本人やトレーナー、プロモーターは参加できなかった―(「第79話/ボクシングに沸く村」)。

第79話/ボクシングに沸く村 0.jpg 最初、登場人物が皆あまり乱脈で、誰と誰が不倫していて誰が二股かけているのか、本筋の人物相関はどうなっているのか、把握するのが難しかったです。仕舞には、ゲイ関係まで出て来るし...領主ジェラルド(ケビン・R・マクナリー、「ミス・マープル(第19話)/青いゼラニウム」('10年)にサマーセット警部役で出演)の息子セバスチャンが何を嘆いているのか最初は解らなかったけれど、実は殺害された弁護士とそういう関係だったのか...)。

第79話/ボクシングに沸く村 8.jpg でも、バーナビーが領主ジェラルドに対し、やけに友人としての信頼を置いているところで、ああ、これ、彼が往年のロックスターに再会した歓びでその目が曇った「第55話/悲憤の刃」と、もしかしたら同じパターンではないかと思いました。

Midsomer Murders (The Noble Art) house.jpg しかし、今度は、自分が意識的に彼を容疑者から外していることを充分に自覚していたなあ。ジョイスに自分が情に流され易いタイプか訊いているところで、観ている側としてはほぼ犯人は判ったという感じでしょうか。但し、それもかなり後半の方で、そTHE NOBLE ART.jpgれまでは自分もミスリードされ続けたわけですが(ジョーンズとのアクション付きボクシング談義で、一応、容疑者候補の一人ではあったけれど)。
 金に執着が無いと思われた人物の方が実は一発勝負を賭けていたわけかあ(邸を賭けの担保にするかね、フツー。それも大邸宅!)。冒頭のマジソン・スクェア・ガーデンからのタイトルマッチ中継でキンセラが勝った瞬間の映像が謎解きの時に改めて流れたけれど、全然印象に無かったなあ。

 犯人の目星がついてからは、意外と余裕のように見えたバーナビーでした。全く無駄な殺人を3件もやってしまった、その皮肉を嘆く犯人に関して、「我々の目の前で3件の殺人をやってのけるような人間は、我々とは別の人間だ」と部下ジョーンズに言い聞かせるくらい割り切った様子(最初の頃の、「判事(領主)はこちら側の人間だ」発言はもうさっぱり忘れてしまっている?)。

 まあ、バーナビーは学習した(?)のか以前の轍は踏まなかったわけで、その点では満足しているみたいだし、イギリスはとっくの昔に死刑制度を廃止していることもあって、この軽さなのかも。

Midsomer Murders Master Class .png第78話/選ばれし者の遺伝子 2.jpg「バーナビー警部(第78話)/選ばれし者の遺伝子」●原題:MIDSOMER MURDERS:MASTER CLASS●制作年:2010年●制作国:イギリス●本国上映:2010/10/06●監督:レニー・ライ●製作:ブライアン・トゥルー=メイ●脚本:ニコラス・マーティン●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ジェイソン・ヒューズ/ジェーン・ワイマーク/バリー・ジャクソン/カースティ・ディロン/ジェームズ・フォックス●日本放映:2013/10/25●放映局:AXNミステリー(評価:★★★☆)

第79話/ボクシングに沸く村.jpg第79話/ボクシングに沸く村 si.jpg「バーナビー警部(第79話)/ボクシングに沸く村」●原題:MIDSOMER MURDERS:THE NOBLE ART●制作年:2010年●制作国:イギリス●本国上映:2010/10/13●監督:リチャード・ホルトハウス●製作:ブライアン・トゥルー=メイ●脚本:Barry Purchese●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ジェイソン・ヒューズ/ジェーン・ワイマーク/バリー・ジャクソン/カースティ・ディロン/ケビン・R・マクナリー●日本放映:2013/11/02●放映局:AXNミステリー(評価:★★★)

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戦闘シーンの迫力も素晴らしいが、人間ドラマの方にウェイトを置いて観てしまう。

燃ゆる大空 dvd.jpg 燃ゆる大空 title.jpg 燃ゆる大空 3.jpg
燃ゆる大空 [DVD]

 この作品は1940(昭和15)年が神武天皇の即位から2600年に当たるとされる「皇紀二千六百年」であることの記念として、陸軍航空本部の全面協力のもとに制作されたもので(因みに零式艦上戦闘機、通称「ゼロ戦」などの命名由来も、採用年次の皇紀年代(下2桁)による)、日中戦争において活躍した戦闘機乗り達を描いています。ドラマ部分と飛行・戦闘シーンが交互に現れ、ドラマ部分は、この作品が戦闘において犠牲となった戦闘機乗り達「陸の荒鷲の英霊」への弔意を込めて作られていることから、(コミカルな場面もあるが)全体の色合いとしてははっきり言って暗めでしょうか。

九七式戦闘機.jpg九七式重爆.jpg 一方、戦闘シーンは、日中戦争時に活躍した当時最新鋭の九七式戦闘機や九七式重爆撃機などの実機が大量に使用されており(この部分では国威発揚映画と言える)、スケールも大きく、迫力のあるものとなっており、円谷英二が特撮を担当していますが(本名・圓谷英一でクレジット)、特撮場面は少なく殆どが実写映像となっています。(上写真:九七式戦闘機/九七式重爆撃機)

燃ゆる大空 飛行兵学校.jpg 冒頭は昭和11年(1936年)の陸軍航空飛行学校が舞台で、少年飛行兵の行本(月田一郎)、山村(大川平八郎)、佐藤(灰田勝彦)、田中(伊東薫)の仲の良い4人組を中心とする飛行兵達の日常から始まり、教官・山本大尉(大日方傳)と彼らの遣り取りなどが描かれますが、訓練シーンなどでは実際に飛行学校で起床している生徒達が大勢出演していると思われることから、戦争映画として、戦闘シーンなどとはまた異なる記録的価値があるように思いました。

燃ゆる大空 01 4人.jpg 話は昭和13年(1938年)に飛び、主人公の4人組は北支戦線の飛行戦隊仁禮(高田稔)部隊に配されおり、そこへ飛行学校時代の元教官・山本大尉が飛行中隊長として赴任してきて、ここでも教官と彼らの交流などが描かれます。

燃ゆる大空 97重爆機.jpg 一方の戦闘シーンは、九七式戦闘機など実機を使って操縦席に撮影カメラを設置し、戦闘機操縦者目線で撮影しているためリアルそのもので、敵軍の中国空軍機にも、九七式より旧式の九五式戦闘機を使っています。

燃ゆる大空 ミニュチュア.jpg 山村は敵機に撃墜され不時着するも(不時着シーンは、さすがにここは円谷特撮)やっとのことで行本に救出され、皆で生還を祝います。しかし今度は佐藤の乗る九七式重爆撃機(乗員7名)が撃墜されて佐藤以外は全員死亡、佐藤も腕を骨折しますが、片手で土を掘って死亡した機長・奈良大尉(佐伯秀男)を埋葬し、その後、拳銃で頭を撃ち抜いて自決したことが山本大尉から行本、山村に伝えられます。

燃ゆる大空 平本.jpg 4人組の内、田中は既に名誉の戦死を遂げており、佐藤に続き、今度は行本が敵機の攻撃を受けて行方不明になって、結局何とか帰還するも、滑走路に激突するようなかたちで着陸、瀕死の重傷を負って彼自身が既に死を覚悟している―山村らが行本を看取る場面が作品のクライマックスとなっており、こうなると、戦意高揚映画と言うよりは、戦争の悲劇を主題に据えた作品に思えなくもありません(実際、あまりに悲惨なため、佐藤が撃墜された場面は生かしたものの、その最期はリアルタイムの話として撮ったものをカットし、山本大尉の口伝に置き換えられたらしい)。

 この映画に出てくる戦闘機乗り達は、国のために死ぬと言うよりは、美しく立派に死ぬということにこだわりを持っており(或いは意識的にこだわろうとしており)、そうした美学こそが、彼らを死の恐怖から解き放つ幻影であり麻酔であって、そこへ意図的に自己を投影しようとしているかに見えました。

 しかし、身近な親友の死を目の当たりにしてその悲しみと不安・恐怖は簡単に韜晦されるものではなく、そうした葛藤を「彼は立派に死んだ」「立派に死ねて羨ましい(自分もそうありたい)」と言葉に出すことによって北村小松2.jpg乗り越えようとしているように思われましたが、それは容易ならざることであったことが窺えます。時代とリアルタイムでこうした作品が作られていることに意義を感じました。

 原作は北村小松(1901-64)。五所平之助監督の「マダムと女房」('31年)の原作・脚本、小津安二郎監督の「淑女と髭」('31年)、「東京の合唱(コーラス)」('31年)の原作(原案)などを手掛けているほか、翻訳小説『タバコ・ロード』を刊行し、米国の作家コールドウェルをいち早く日本に紹介したインテリでもありましたが、「燃ゆる大空」等の小説により、戦後2年にわたり公職追放を受けています(同じく円谷英二なども公職追放になっていた時期があったわけだが)。

北村小松(1901-64)

九七式戦闘機 2.jpg 実機を使って撮影しているということで、戦闘機ファンの間でも高い評価を得ている作品ですが、この映画で活躍する九七式戦闘機(右)は、2年後に燃ゆる大空 95式.jpg作られた山本薩夫監督の「翼の凱歌」('42年/東宝)では、一式戦闘機「隼」にあっさり追い抜かれてしまいます(当時を知る人の中には、よく九七式戦闘機のようなもので戦ったものだと述懐する人もいるくらい)。それでも、固定脚ながら見事にアクロバティックな飛行をこなす九七式戦闘機を(加えてより旧式の九五式戦闘機(左)も)じっくり見ることが出来るという意味では稀有な作品であり、確かに戦闘中国空軍機に扮した九五戦.jpgシーンの迫力も素晴らしいものです。しかしながら、やはりそれを操縦しているのも生身の人間であることを思うと、個人的には人間ドラマの方にウェイトを置いて観てしまいます(女性が一人も登場しない作品なのだが)。

撮影のため中国空軍機に扮した九五式戦闘機
        
ヘンリー大川.gif 山村を演じた大川平八郎(ヘンリー大川、1905-1971、当時35歳)は、埼玉・草加出身で、実業家になる修行ために1923年に18歳で渡米して、コロンビア大学で経済学を勉強したという人。それまでの間に皿洗いをしながら好奇心からコロンビア大学の劇科にも学び、同大学に併設された俳優養成学校の一期生となって、ハワード・ホークス監督の「空中サーカス」('28年)などに出演しました(俳大川平八郎2.jpg優学校の同期にゲーリー・クーパーらがいる)。日本国軍人としてフィリピン駐留中に終戦を迎えた彼は、語学堪能ということもあって降伏の際に山下奉文司令官の通訳を務め、戦後は「地球防衛軍」('57年/東宝)、「フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ」('66年/東宝)などの特撮映画に出演する一方で、デヴィッド・リーン監督の「戦場にかける橋」('57年)で助監督を務めながら、早川雪洲らと共に軍人役で出演しています。

阿部 豊 Mystic Faces.jpg 更に、監督の阿部豊(1895-1977)も、1912年に17歳でロサンゼルス在住の叔父をたよって渡米した人で、演劇学校を経てハリウッドに渡り、ハリウッド無声映画期の俳優としてジャック・アベ(Jack Abbe)の芸名で活躍していて、俳優としても大川平八郎より先輩になるわけですが、フランク・ボーゼージ監督などに演出術を学び、映画監督になるべく帰国して1925(大正15)年に日活に入社、翌年には「足にさはった女」というハリウッド風のソフィスティケート・コメディを撮っています(彼自身がアメリカで「Mystic Faces」(1918)などのコメディ映画に出演していた)。

 因みに、原作者の北村小松の原案による小津安二郎の「淑女と髭」('31年)も「東京の合唱(コーラス)」('31年)もコメディドラマでした。この「燃子をリアルに、時にユーモラスに描写しています。ただ、「少飛」の宣伝を兼ねていたと言われていますが、実際のところどうなのでしょうか(結局みんな死長谷川一夫58.jpgゆる大空」でも、少年飛行兵生徒らの訓練や生活の様んでいくわけであって...)。一方、長谷川一夫が飛行部隊附軍医の役で出演しているのは、女性が全く登場しない映画であるため、女性客の集客を考慮したのだとも言われています。音楽は早坂文雄が担当、主題歌「燃ゆる大空」の作曲者は山田耕筰となっています。

「燃ゆる大空」(藤山一郎版)作詞:佐藤惣之助、作曲:山田耕筰、編曲:仁木他喜雄 
    
燃ゆる大空(1940).jpg燃ゆる大空 5.jpg「燃ゆる大空」●制作年:1940年●監督・製作:阿部豊●監修:陸軍航空本部●脚本:八木保太郎●撮影:宮島義勇●特殊技術撮影:円谷英二/奥野文四郎●音楽:早坂文雄●主題歌「燃ゆる大空」作詞:佐藤惣之助/作曲:山田耕筰●原作:北村/高田稔/龍崎燃ゆる大空 藤田進.jpg燃ゆる大空 長谷川2.jpg小松●時間:102分●出演:大日方傳/月田一郎/大川平八郎/灰田勝彦/伊東薫/長谷川一夫一郎/藤田進/柳谷寛/佐伯秀男/清川荘司/三木利夫/真木順/深見泰三/原聖四郎/中村彰/社栄一/沢村昌之助/沼田春雄/島壮児/谷三平●公開:1940/09●配給:東宝東京(評価:★★★★)

from ネイビーブルーに恋をして

藤田進(爆撃隊長)

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シンプルだが抒情溢れる作品。但し、エロチックな妄想を駆り立てるシーンもあったように...。

清水宏 按摩と女 1938 vhs.jpg清水宏 按摩と女 1938 dvd.jpg 清水宏 按摩と女 1938.jpg 清水宏 按摩と女 1938 按摩・女・子ども.jpg
按摩と女 [VHS]」高峰三枝子/佐分利信「按摩と女 [DVD]」 徳大寺伸/高峰三枝子

清水宏 按摩と女 1938 冒頭.jpg 名物按摩の徳市(徳大寺伸)と福市(日守新一)が山の温泉場へと向かい歩いていた。二人は盲目ながら優れたカンの持ち主で、そばを通る人たちの素性を言い当てる程だった。温泉場で徳市は東京から来た女(高峰三枝子)に呼ばれる。徳市は彼女が来る途中に自分を追い抜いていった女だとピンと来る。だが少し影のあるこの女に徳市は惚れてしまうのだった。その頃この温泉場では次々と盗難事件が発生する。徳市は彼女が犯人じゃないかと疑い始める―(「ムービーウォーカー」より)。

按摩と女 カバー作.jpg 清水宏の監督作品のベストテン投票などでしばしば第1位になる作品で、石井克人監督、草彅剛、マイコ主演で『山のあなた 徳市の恋』('08年/東宝)としてリメイクされました。

 冒頭の温泉宿へ向けて旅する徳市(とくさん)福市(いちさん)の二人がカンの鋭さを競い合うには絶妙でした。とりわけ徳市は、「めくら」である自分は「めあき」である人々に負けてはいないという強い自負から「めあき」の登山客を追い越しては、自分の健脚ぶりを客の前でも「何人抜いた」と自慢しているのが明るくていいです。

清水宏 按摩と女 1938 高峰.jpg そんな徳市が、道中、東京から来た女が馬車に乗っていたと言い当てた、まさにその女の肩を揉むことになったことから、彼は女に対して恋に落ちてしまう―そんな折に宿屋での盗難事件が持ち上がり、彼特有のカンで素性を明かさないその女から微妙な翳と怯えを感じ取っていた徳市は、こうして身を隠すように滞在している彼女こそが犯人だと察し彼女を助けようと骨を折るのだが―。

「按摩と女」('38年/松竹)高峰三枝子/「山のあなた 徳市の恋」('08年/東宝)マイコ

山のあなた 徳市の恋.jpg 元々謎解きミステリなどとは違った作品だったと思えば、犯人捜しの結末がぼかされていることに不満を言う筋合いではないのでしょう。徳市の勘違いは、恋愛でその"超能力的"カンがやや鈍ったともとれ、リメイク作品のサブタイトル(徳市の恋)がテーマそのものを言い当てているかと思います。厳密に言えばリメイクではなく、「カバー作品」として作っているとのことで、その辺りにもオリジナルへのリスペクトを感じます。

清水宏 按摩と女 1938  街中を按摩たちが歩く.jpg リメイク作品を観る前は、オリジナルの抒情をどこまで描き切れているのかがっかりさせられるのを避けたい気持ちが山のあなた 徳市の恋4.JPGあり、伊豆の温泉街を大勢の按摩たちが行き来する様をカラーで観ても実感が湧かないのではないかとか、70年ぶりのリメイクだからカバーと言ってもその通りにはならないのではないかとか思っていましたが、実際に観てみると、しっとりした自然の背景や温泉場の風情、旅館の室内に至るまで派手ではない色彩を生かした映像美に仕上げており、按摩と女 カバー作2.jpg思ったより良かったです。まさに「カバー」作品として作られていて、宿泊客の独身男を演じた堤真一などは、「カバー作品」であるという前提にオリジナルの佐分利信の演技を完全に模倣している感じでしょうか。

 オリジナルでは、その独身男(佐分利信)が連れ子をダシにして何となく延泊を繰り返していることで、男が女に関心を寄せていることを表しているのが面白かったですが、カンの鋭い徳市の方はそうした男の様子に気づいてストレートに対抗意識を持つようになっていて、これも、「めあき」に負けてたまるかという彼の自負が前フリであってのことだけに、上手い作りだと思いました(脚本は清水宏のオリジナル)。ただ、そうした徳市の鋭さは、徳大寺伸の方が草彅剛より出ていたようにも思います。

清水宏 按摩と女 1938 川辺で.jpg 山間の温泉宿という舞台背景もあって、シンプルだが抒情溢れる作品。ラストの更に馬車で逃げていこうとする女を、まるで「めあき」のように見遣る徳市の表情の切なさもさることながら、子供の前で徳市が川泳ぎをしてみせた後、女が駆け寄り黙って浴衣を着せてやる場面などは何となくエロチックなものが感じられて印象に残っています(その他にも、徳市が、風呂に行くと言う女に一緒に入らないかと誘われたと勘違いする場面など、エロチックな妄想を駆り立てるシーンがあった)。「小股の切れ上がった女」という表現がありますが、この映画で小走りに駆ける高峰三枝子は、まさにその言葉がぴったりのように思います。

按摩と女96.jpg清水宏 按摩と女 1938 0.jpg「按摩と女」●制作年:1938年●監督・脚本:清水宏●撮影:斎藤正夫●音楽:伊藤宣二●時間:66 分●出演:高峰三枝子/徳大寺伸/日守新一/爆弾小僧/佐分利信/坂本武/春日英子/京谷智恵子/油井宗信/二木蓮●公開:1938/07●配給:松竹(松竹大船)(評価:★★★★)

「按摩と女」('38年/松竹)高峰三枝子/「山のあなた 徳市の恋」('08年/東宝)マイコ
按摩と女/山のあなた 徳市の恋.jpg 
 
 
 
 
 

 
「按摩と女」高峰三枝子・徳大寺伸/「山のあなた 徳市の恋」マイコ・草彅剛
a0021956_20573297.jpg山のあなた 徳市の恋 プレミアム・エディション.jpg

山のあなた 徳市の恋3.jpg「山のあなた 徳市の恋」●制作年:2008年●監督:石井克人●脚本:清水宏●撮影:町田博●音楽:緑川徹/中川俊郎●時間:94分●出演:草彅剛/加瀬亮/マイコ/広田亮平/堤真一/宮永リサ/黒川芽以/津田寛治/三木俊一郎/田中要次/森下能幸/三浦友和/渡辺えり子/松金よね子/洞口依子/轟木一騎/阿部ジュン/大山健/白仁裕介/野村佑香/尾野真千子●公開:2008/05●配給:東宝(評価:★★★☆) 
  

清水宏映画ベスト<オールタイム編>(個人サイト)
1 按摩と女(戦前1位)
2 簪かんざし(戦前2位)
3 霧の音(戦後1位)
4 恋も忘れて(戦前5位)
5 家庭日記(戦前6位)
6 大仏さまと子供たち(戦後2位)
7 歌女おぼえ書(戦前7位)
8 母のおもかげ(戦後3位)
9 踊子(戦後5位)
10 母情(戦後4位)
次 有りがたうさん(戦前3位)花形選手(戦前4位)

戦前編清水宏ベスト
1 按摩と女
2 簪かんざし
3 有りがたうさん
4 花形選手
5 恋も忘れて
6 家庭日記
7 歌女おぼえ書
8 女醫の記錄
9 金色夜叉
10 七つの海 處女篇/貞操篇
次 暁の合唱

戦後編清水宏ベスト
1 霧の音
2 大仏さまと子供たち
3 母のおもかげ
4 母情
5 踊子
6 もぐら横丁
7 小原庄助さん
8 桃の花の咲く下で
9 その後の蜂の巣の子供達
10 母の旅路

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男同士の友情を描いた作品だったなあと。あの笠智衆が陸上選手を演じているのが目を引く。

花形選手(1937) A Star Athlete dvd.jpg清水宏 花形選手 1937 1.png 清水宏 花形選手 1937 行軍.jpg 花形選手vhs.JPG
花形選手(DVD) SYK109S」佐野周二/笠智衆 「花形選手 [VHS]

清水宏 花形選手 1937 徒競走.png 大学陸上部の花形選手である関(佐野周二)と谷(笠智衆)は親友ながらライバル。時節を反映して行軍軍事教練が実施され、学生らは軍歌を歌いながら田舎道行く。時に早足で、時に川を渡って行軍の道すがらでは、モガ(モダンガール)一清水宏 花形選手 1937 2.png行とのやり取りがあったり、腹痛起こす学徒が出たりする。関は門付(かどづけ)の女(坪内美子)の連れの子供に柿をあげたりもする。行軍は宿泊する村に到着する。しかし、柿をあげた女の子が病気になったこと清水宏 花形選手 1937 4.pngを知って関は―。

 清水宏監督自身の「大学の若大将」('33年)と同じく大学の運動部が舞台ですが、1937年盧溝橋事件発生の年の作品とあって、陸上部本来の練習よりも軍事教練(陸上部の自発的行事?)の方に比重がかかっている―とは言え、行軍はどことなくハイキング(秋の遠足?)に似た雰囲気もあり、その過程で女学生集団との抜きつ抜かれつや、その中の一人の関に対する想いがあったり、学生達と宿営先の村人達の交流などが淡々と描かれていたり、更には、女の子の病気を治してみせようという偽祈祷師が出てきたりするところはやはりこの監督らしいです(脚本の鯨屋當兵衛は清水宏・荒田正男のペンネーム)。

清水宏 花形選手 1937 坪内.png清水宏 花形選手 1937 3.png 関が女の子にあげたのは渋柿だったようですが、そんなに重い症状になるものかな。女(坪内美子)が治療費を工面するため売春に走るというのは、戦前と戦後の違いはありますが、小津安二郎監督の「風の中の牝雞」('48年)でも、子供が病気になって田中絹代演じる母親が曖昧宿に行くという状況がありました。

 そうした女の動きを関が見とがめ、「芸人がお座敷に行くのになぜ三味線を持っていないのだ」と詰め寄り、二人が沈黙して佇んでいるところを陸上部の連中に見られ、逢引と勘違いされて関は退学・退部勧告をされそうに―そこへ谷が現れ、仲間の前で関に対し何発か鉄拳を喰らわして、"制裁"完了ということで関は許されることに。関は谷に感謝しますが、谷は最初から全てをお見通しだったのか、それとも、関がそんな男ではないという信念からの行動なのか?

笠智衆(谷)/佐野周二(関)
花形選手1.jpg 軍事教練を戯画化して描いているようなところに清水宏の反骨を感じますが、物語としては結局何てことはない、男同士の友情を描いた作品だったなあと。あの笠智衆が陸上選手を演じているというのが見所、と言うより意外性があるかな(400メートル走選手? 時計回りで走っている)。佐野周花形選手   .jpg二24歳に対し、笠智衆はこの時33歳くらいでしょうか。学生を演じるのにはきつい年齢のはずですが、後年の老け役のイメージの反動からか、実年齢より若く見えます(因みに、隊長役の大山健二も笠智衆と同い年。見るからにオッサンだけれども、「大学の若旦那」(1933年)の応援団長と似たような役どころだからいいのか)。アスリートである谷の、セリフのトーンだけがあの"笠智衆"調なので、観ていて奇妙なギャップ感がありました。

花形選手 title.jpg清水 宏 「花形選手」.jpg「花形選手」●制作年:1937年●監督:清水宏●脚本:鯨屋當兵衛(清水宏・荒田正男)/荒田正男●撮影:猪飼助太郎●時間:64 分●出演:佐野周二/日守新一/近衛敏明/笠智衆/大山健二/坪内美子/爆弾小僧/突貫小僧/水戸光子/小牧和子/東山光子/森川まさみ/槇芙佐子●公開:1937/10●配給:松竹大船(評価:★★★)
「花形選手」(1937)スチール写真

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