【3541】 ○ エイドリアン・ベリー (小林 司:訳) 『一万年後(上)―宇宙に移住する人類』 (1975/06 カッパ・ブックス)/一万年後(下)―惑星を改造する科学』 (1975/06 カッパ・ブックス) ★★★★

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今読み返しても色褪せていない。壮大なスケールの話を愉しめた。

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一万年後 上 宇宙に移住する人類 (カッパ・ブックス)』『一万年後 下 惑星を改造する科学 (カッパ・ブックス)』['75年]カバーイラスト:石岡瑛子(西武美術館『ヌバ』展(1980)/「MISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS」(1985))

一万年後3.jpg一万年後2.jpg 1万年後、人類はこの地球上に無事生存しているか? しているとすれば、科学、テクノロジーはどのような変貌を遂げているか? 人類が滅びることはないのか? こうした疑問に科学ジャーナリストが答えた本。原著・訳書とも'75(昭和50)年の刊行で、当時結構売れた本ですが、今読み返しても色褪せていません。

一万年後4.jpg 上巻の第1章では、いきなり「地球は滅びるか」で、人類は宇宙に飛び立つ前に内部から崩壊してしまうのではないかとの疑問に対する著者の結論は「滅びない」です(ただし、核戦争や環境破壊でいったん滅んで復活するというシナリオも)。原著・翻訳とも'75'(昭和50)年刊行で、すでに核戦争の不安が眼前に立ち現われていた時代ですが、核戦争が起きて大きな被害があっても40年程度で復興し、仮にそれが400年や4000年であっても、地球の寿命に比べればごく短い時間であると。さらに、男女50人の人類が生き残れば、文明は50万年という短期間で復興し、猿が生き残れば、数百万年後には文明社会ができるだろうとしています。

 第2章「限りない宇宙開発計画」から宇宙開拓の話に入っていきます。ここでは宇宙開発は、「月に始まり月に戻る」「人類は月面に永久基地を建設するだろうとしています('75年にアポロ計画が終わったことを踏まえながらも)。
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 第3章「月の植民地」、第4章「月の住民たち」では、月世界での工場建設や生活の話をしています。酸化鉄や酸化チタンをタンクに入れて太陽を当てると、空気のない環境で高温を発し、酸化鉄・チタンから酸素が分離できて、後は地球から運んだ水素をくっつければ、水ができるとのこと。酸素と水があれば、後はエネルギーで、液体窒素をタンクに入れ、太陽光を当てて気化させ、それで、タービンを回し発電可能で、気化した窒素は冷めて、また液体窒素に戻ると。

 第5章「金星改造計画」で話は金星に。金星は原始地球と似た大気を持つと言われ、二酸化炭素が濃密で、温室効果により480℃の高温、100気圧の高圧の地獄のような状態ですが、金星も人間が住める環境に改造できるとのこと。二酸化炭素を分解するには光合成のできる生物を入れればよく、ただし、高温高圧に耐えうる生物であることが条件ですが、らん藻植物という単細胞植物は高温にも低温にも耐えて繁殖力も強いため、金星の環境に耐える種類を捜し、ロケットで金星大気中に打ち込めば、らん藻植物が光合成で二酸化炭素を酸素に変え、2~3年の内には、温室効果が少しずつ弱まり、雨が降って地表の温度が下がり、さらに多くの動植物を地球から移し、環境を改造していくことが可能だとしています。

『人類は宇宙のどこまで旅できるのか』.jpg 第6章「新天体を求めて」、下巻の第7章「ゆがんだ四次元空間」、第8章「亜空間飛行」では、所謂「恒星間飛行」を扱っており、四次元空間の利用、亜空間飛行も含め検討している点は、最近のレス・ジョンソン著『人類は宇宙のどこまで旅できるのか―これからの「遠い恒星への旅」の科学とテクノロジー』('24年/東洋経済新報社)に通じるものがあったように思います(『一万年後』の方が半世紀早いが)。

 第9章「機械を生む機械」、第10章「空飛ぶ宇宙都市」では、今で言うところのAIや、未来小説に出てくる宇宙コロニーのような話になっています(小惑星などを分解して、地球と火星軌道の中間あたりに、太陽の周りをまわるように作る所謂「ダイソン環」)。ただ、「宇宙都市は21世紀までに建設されているだろう」としており、この点は現実においてはやや遅れているようにも思います(近未来予測については、本書全般に先走った傾向が見られる)。

一万年後7.jpg 第11章は「木星破壊計画」。小惑星だけでは「ダイソン環」の材料が足らなければ、木星を分解して、ダイソン環の材料にすればよいのだということ。小松左京の「さよならジュピター」の元ネタ(?)とも思える話ですが、これが本書の中では最もユニークな提案で、それで最後にもってきたのかもしれません(因みに、ダイソン環(球)自体は1960年にアメリカの物理学者フリーマン・ダイソンが提唱したものである)。

 結論として、終章で、人間の発展は無限であり、1万年後には、人間が銀河系の勝利者となっているだろうとしています。
 
 1975年頃と言えば、前年の1974年にインドが初めて核実験を実施しており、また、日本でも石油危機の煽りを受けて1974年には経済成長率は一気に落ち込み、戦後初のマイナス(-1.2%)を記録しています。こうした「未来予測本」が結構売れた背景には、そうした社会情勢への不安もあったのかも。ただし、読んでみればまだまだ先のことなので、しかも、人類が滅びることはないという楽観主義的貴重であるため、安心し、純粋に科学的好奇心から壮大なスケールの話を愉しめた本ではないかったでしょうか。

《読書MEMO》
●上巻の「著者の言葉」
わたしたちの文明を地球だけに限る必要はなく、太陽系のうちに押し込めておく必要もない。ローマ人が、かつて大西洋の広大さを見て恐れたように、われわれはこの恒星間の広大さを恐れることはないのだ。むしろ、銀河系にある数万にも及ぶ他の太陽系を、人類が支配できると考えよう。
●下巻の「著者の言葉」
この本のなかで予測された事件、あるいは、予測されたように見える重大な事柄は、遅かれ早かれ実現するであろう。数年というような短い単位の予測ではないから、それがいつ起きるか、正確には述べることができない。しかし、絶対の確信をもって、それが起こることだけは、断定できるのである」
●目次
序 章 文明は宇宙にひろがる
 第1章 地球は滅びるか
 第2章 限りない宇宙開発計画
 第3章 月の植民地
 第4章 月の住民たち
 第5章 金星改造計画
 第6章 新天体を求めて
 第7章 ゆがんだ四次元空間
 第8章 亜空間飛行
 第9章 機械を生む機械
 第10章 空飛ぶ宇宙都市
 第11章 木製破壊計画
 終 章 銀河系の勝利者

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