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さらっと読めて、それでいて楽しかった。海外生活経験と大阪の遺伝子の融合。
『ごはんぐるり (文春文庫) 』
『ごはんぐるり』
2015年に『サラバ!』で第152回「直木賞」を受賞した著者による食エッセイで、「NHKきょうの料理」テキストの2008年10月号から2010年10月号、並びに「NHKきょうの料理ビギナーズ」テキストの2012年2月号から5月号に連載されたものに、大幅に加筆・修正を加えたものです。
さらっと読めて、それでいて楽しかったです。〈小学生のときカイロで食べた卵かけごはんが、いままでで一番おいしかった〉と言うように、著者は父の赴任先だったイラン・テヘラン生まれで、その後エジプト・カイロに移り、小学5年生まで海外生活だったという経験の持ち主です。
直木賞受賞作もそうですが、著者の小説は、どこまでがフィクションでどこまでが実際に著者が経験したことか分からない部分があります。もちろん他の作家でもそうしたことは大いにありますが、著者の場合、作者とも重なると思われる主人公のこともさることながら、登場人物として家族のことが書かれていたりして、それが気になって入り込めない部分がありました。
その点、エッセイの場合は、最初から自分の経験を書いていることがはっきりしているわけで、そんなことを気にせずに読めて良かったです。自分は、著者の小説のあまりいい読み手ではないですが、エッセイとの相性はまずまずいいのかも(もちろん、著者の作品は小説の方が好みという人もいておかしくないが)。
帰国子女が書いた食エッセイというと、どこかお高くとまっている印象を与えがちですが、〈なぜ大阪のおばさんは、いつもアメちゃん持っていて、絶妙なタイミングで「好きなん選び」と薦めてくるのか〉と言いながら、自身も性格的には根っからの大阪人であることを認めていて、さばけた感じがして好感を持てました。
一方で、〈小説のなかで出会った未知の食べ物―アップル・ジェリーつき塩ふりクラッカー・グレイヴィーでとろ煮にしたマーモットの肉・そこに種が沈んでいる甘いレモネードとタフィー! それってどんな食べ物?と想像の羽をふくらませた日々〉といった具合に、多くの海外文学作品などから、食に関する記述を引いており、この辺りはさすが作家です。
著者自らが希望して調理実習したというトルコ、セネガル、ベネズエラ、フィンランドの家庭料理の紹介は楽しかったし、と思えば、コンビニで買ったスナック菓子をがつがつ食べてお腹いっぱいになった話などもあって、食エッセイでこれだけ"幅広い"のは珍しいかもしれません。
子ども時代の海外生活経験と大阪の遺伝子の融合とでも言うべきでしょうか。飾らずに食オンチを自認していて、〈夢は男子校の寮母になって、とんかつやしょうが焼きをがつがつ食べてもらうこと〉だなんて言っており、読んでいて肩がこらないエッセイでした。
【2016年文庫化[文春文庫]】