【3260】 ○ 大江 健三郎 (聞き手・構成:尾崎真理子)『大江健三郎 作家自身を語る (2007/05 新潮社) 《(2013/11 新潮文庫)》 ★★★★

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「作品×時系列」という体系に沿った集中インタビュー。小説より面白かったかも。

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大江健三郎 作家自身を語る』['07年]/『大江健三郎 作家自身を語る (新潮文庫)

 今年['23年]3月に亡くなった大江健三郎(1935-2023/88歳没)が2006年、71歳の時に受けたインタビュー集で、作家生活50年を前にして、内容としては主に、これまでの自分の作品を時系列で振り返ったものであり、対話による「自伝」とも言えます(読売新聞映像部によるCS放送の連続番組として収録されたため、このインタビューは全5枚組のDVDになった)。

 2007年に単行本として刊行されましたが、2013年の文庫化に際して、2012年1月から2013年8月にかけて、東日本震災後の深刻な事態と並走しながら文芸誌『群像』に17回にわたって連載した『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』(2013年/講談社)を巡るロングインタビューを増補しています。

 よくあるバラバラのインタビュー集と異なり、「作品×時系列」という体系に沿った集中インタビューであり、読み易く、また、内容的にも貴重なものであり、興味深く読めました(もしかしたら、小説より面白かったかも。面白いから文庫化されたのでは)

 第1章で、自分が作家になるまでを自伝的に語り、以下の章で、作品を6期に分けて振り返るという全7章の校正ですが、改めて6期のうちの後半3期の作品は個人的にはほとんど読んでいないことに気づき、やや愕然としました。でも、世間的にもそうした傾向はあるのではないでしょうか。

 よって、自作への言及は、主に自分が読んだ作品を中心に読むことになりましたが、それでも、その作品が書かれた背景や当時の評価など、ああ、そうだったのかといった気づきはあったように思います。作品論についてここに書いていると「解説の解説」のようになるので書きませんが、個人的にはそれ以外のことでは、海外の作家との交流の思い出を語っているのが興味深かったです。

ペドロ・パラモ iwanami.jpg 例えば、メキシコの『ペドロ・パラモ』という、死んだ人間と生きている人間が同じ村に住んでいるような小説がありますが、メキシコに滞在した際に、作家が来るかもしれないということで連れていかれた店で、隣に座った老人がフランス語で語りかけてきて、「君はメキシコの小説家を知っているか?」と訊かれ「作品なら知っている。本当にいい小説なんだ」と説明したところ、「もしかしたら『ペドロ・パラモ』という小説じゃないか?」と言われ、「そうだ」と言ったら、「自分がその小説を書いた人間だ」と。その老人がファン・ルルフォだったのだなあ(笑)(文庫148-150p)。

 ドイツのギュンター・グラスとも『ブリキの太鼓』の邦訳が出るかで出ないかの頃に知り合っているし(文庫152p)(因みに、大江がノーベル文学賞受賞者を受賞したのは1994年、グラスは1999年)、ル・クレジオを日本ペンクラブの世界大会に招聘する手紙を書いたら、丁寧な返事を貰い、「君の短編が好きだ」と書いてあったけれど、内容から見て安部公房の『壁』のことだったというのが可笑しいです(ル・クレジオは2008年にノーベル賞を受賞)。大江がノーベル賞を貰った時もガルシア=マルケスから、安部公房が受賞すると思ったと率直に言われたと(文庫234p)(ガルシア=マルケス自身は1982年に受賞している)。

 そのほか、なぜ丸いめがねをかけているのかといった質問などもあって、「作家も学者も、だいたい丸いめがねをかけていると(笑)」。折口信夫、柳田邦夫、サルトル、ジョイスとか、と(文庫221p)。こうした遣り取りも結構あるのは聞き手が女性であるせいでしょうか。

 巻末に作家に対する106のQ&Aが付されていて、これもその人柄などが分かって楽しく読めました。井上ひさしのことを天才と評価しているなあ(Q33)。安部公房と一時期絶交したというのは本当だったのだなあ。でも、こちらも天才としてその作品は読んでいると(Q34)。ノーべル賞を受賞して困ったことも困らなくなったこともないと言っています(Q50)。

 全体を通して、こつこつ真面目に努力する人、自分の信念を曲げない人だなという印象を持ちました。でも、やはり、自分の作品の評価は気になるようですが、これは作家なら皆そういうものでしょう。

【3013年文庫化[新潮文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2023年6月11日 14:08.

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【3261】 ○ 西 加奈子 『ごはんぐるり』 (2013/04 NHK出版) ★★★☆ is the next entry in this blog.

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