2021年10月 Archives

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フランス的文化・恋愛価値観が垣間見られた「ラ・ブーム」。少女が大人になるのは早い。

「ラ・ブーム」 dvd.jpg デサント・オ・ザンファー3.jpg デサント・オ・ザンファー5.jpg 「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」1999.jpg THE WORLD IS NOT ENOUGH2.jpg
ソフィー・マルソー 「ラ・ブーム」 [DVD]」「ソフィー・マルソー 地獄に堕ちて ヘア無修正版【レンタル落ち】」「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ アルティメット・エディション [DVD]

ラ・ブーム マルソー dvd.jpgラ・ブーム マルソー2.jpg 「ブーム」とはパーティーのこと。ブームに誘われることを夢見る13歳のヴィック(ソフィー・マルソー)が、自分の14歳の誕生日ブームを開くまでの物語。リセの新学期(夏のバカンス明け)に始まり、歯科医の父親(クロード・ブラッスール)とイラストレーターである母親(ブリジッド・フォッセー)の別居騒動、ハープ奏者の曾祖母プペット(ドゥニーズ・グレイ)の折々の助言を背景に、ブームで出会ったマチュー(アレクサンドル・スターリング)との恋模様、春休み明けに自身が開く誕生日ブームまでを描く。

「ラ・ブーム」1.jpg『禁じられた遊び』(1952)2.jpg 「ラ・ブーム」('80年/仏)はクロード・ピノトー(1925-2012/87歳没)監督によるフランス映画で、個人的にはこの映画で「禁じられた遊び」('52年/仏)に出ていたブリジッド・フォッセー(1946年生まれ)の大人になった姿と相まみえることができました。「禁じられた遊び」のラストが切ないだけに、何となく良かったというか、ほっとした感じでした。この作品は当時13歳のソフィー・マルソー「ラ・ブーム ブリジット・フォッセー」.jpg(1966年生まれ)のデビュー作であり(日本で言えば"中一"だが高校生くらいに見えたりもする)、ブリジッド・フォッセーはソフィー・マルソー演じる思春期の娘をも持つ母親役。個人的にはどうってことない映画でしたが、ヨーロッパ各国や日本を含むアジアでヒット作となりました。

LA BOUM 1980 ed.jpg 娘の恋愛だけでなく、親夫婦の倦怠期とそこからの脱脚を襟川クロ.jpgも描いているところがフランス映画らしく、改めて観ると、フランス的文化・恋愛価値観が垣間見られた作品だったように思います。映画パーソナリティの襟川クロ(1950年生まれ)氏が「おもちゃ箱的青春ムービー。(中略)ごく普通の少女達が、普通の恋をして、またひとつ大人になるのでありました、とりまく大人は大人でイロイロあり、ひとつ年をとりましたとさ。といった、よくあるパターンではありますが、しかし、その味つけがなかなかのもの」と評価したほか、映画評論ラ・ブーム 1982a20.jpg家の小藤田千栄子(1939-2018/79歳没)が、「何を着て行こうかと、あれこれ迷う若いヒロインの、カット重ねによるファッションの見せ方は、こちらも心がはずむ」「(ヒロインの曾祖母が)いかにもフランスらしい人生の練達者に見える。この人が、影に日向に、若いヒロインの先導者となるのである。この豊かさは、他の国の映画では、ちょっと見あたらない」「両親が、娘の初めてのブームの、送りむかえをするところなど、気の使い方がしのばれて、描写はユーモラスにも細かい。別居から、離婚寸前までいく(中略)親のいざこざに遭遇する、現代の子供という、世界共通のテーマを提示してくる」と褒めています。ソフィー・マルソー自身は後年、「とりたててどうということもないリセエンヌの淡い初恋物語だったり、友情物語だったり。社会現象をともなったあのヒットぶりは、一体何だったのか」と半自伝的小説『うそをつく女』(2000年/草思社)の中で振り返っていますが、個人的には、映画がヒットしたベースには、ブリジッド・フォッセーやその夫役を演じたクロード・ブラッスール(1936-2020/84歳没)の演技力があったように思います。

「スクリーン 」'83(昭和58)年10月号表紙/'84(昭和59)年7月号付録
sukur-n.jpg この映画は高田馬場パール座で観て、併映がフィービー・ケイツ(1963年生まれ)の19歳の時の「パラダイス」.jpgデビュー作である「パラダイス」('82年/米)(公開時のタイトルは「フィービー・ケイツのパラダイス」でしたが、こちらは当時のメモを見ると「フィービー・ケイツのアイドル映画。中身がない」(評価★☆)とだけありました(笑)。フィービー・ケイツとソフィー・マルソーは当時、米仏2大アイドルだったのかもしれません。米国にはあと1人、二人「プリティ・ベイビー」.jpgと同年代のブルック・シールズ(1963年生まれ)がいましたが、ルイ・マル監督の「プリティ・ベイビー」('78年/米)も観ました(これも高田馬場パール座で、併映はダイアン・レイン主演の「リトル・ロマンス」('79年/米))。ニューオリンズの娼館が舞台のこの作品に、ルイ・マル監督が渡米して自ら発掘した彼女を起用したもので、ブルック・シールズは11歳で娼婦(12歳)を演じてセンセーションを巻き起こしましたが、ルイ・マル作品としてはイマイチだったかも(評価★★★)。フィービー・ケイツについては「初体験/リッジモント・ハイ」('82年/米)(評価★★☆)や「グレムリン」('84年/米)(評価★★★)も観ました。

フィービー・ケイツ/ソフィー・マルソー/ブルック・シールズ
アイドル3人.jpg 結構、アイドル映画を観ていたのだなあと今になって思います。「プリティ・ベイビー」はブルック・シールズのアイドル映画ではありませんが(彼女の出たアイドル映画と言えば17歳の時の「青い珊瑚礁」('80年/米)あたりか)、彼女を一気にアイドルに押し上げた映画でしょう。フィービー・ケイツとソフィー・マルソーを比べると、米国型アイドルとフランス型アイドルとではやはり違うなあと思わされます(映画雑誌「スクリーン」だと、ソフィー・マルソーが表紙向きで、フィービー・ケイツがグラビア向きと言ったところか)。フランス人監督のルイ・マルが見出したブルック・シールズはどちらか。天皇徳仁(今上天皇)が皇太子時代、日本人では柏原芳恵、外国人ではブルック・シールズの熱烈なファンであったとされていましたが、プリンストン大学を首席で卒業するような才女でした。

『デサント・オ・ザンファー 地獄に堕ちて』★.jpgデサント・オ・ザンファー2.jpg 「ラ・ブーム」で父親と娘の役だったクロード・ブラッスールとソフィー・マルソーが、この作品の6年後、フランシス・ジロー監督の「デサント・オ・ザンファー 地獄に堕ちて」('86年/仏)では年齢の離れた夫と妻を演じましたが、これも夫婦の危機を打開しようとする話で、ただし、結構どろっとした話になっています。滞在先のリゾートホテルで殺人事件が起きる犯罪ミステリ仕様ですが、やや猟奇的側面も(原作は『狼は天使の匂い』『ピアニストを撃て』『華麗なる大泥棒』のデイビッド・グーディス)。さらには、「ラ・ブーム」の父親役と裸で激しいラブシーンを演じたりしていることもあり、そうした映画を企画する側も企画する側だが、「みんな父娘相姦みたいな目で私たちを見たがってるのよね」と自分でも承知していながら、こうした作品に簡単に出演してしまうソフィー・マルソーもソフィー・マルソーだとの批判と言うか苦言もあったようです。やはり、「ラ・ブーム」のソフィー・マルソーのイメージを壊されたくないファンがいるのだろうなあ(タイトルが何のことだかよく分からないのが難。ビデオタイトルは「地獄に墜ちて」)。

「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」.jpg さらにその13年後、ソフィー・マルソーはマイケル・アプテッド監督の007シリーズシリーズ第19作「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」('99年/英)(公開時タイトルは「ワールド・イズ・ノット・イナフ」)でボンドガールとなり、当時で32歳ぐらいでしょうか、役どころは、ピアース・ブロスナン演じるジェームズ・ボンドを翻弄する悪役エレクトラ・キングで、結構ボンドと微妙な関係になりながらも、やがて本性を現しサディスティックにボンドを苛め倒していましたが(やや変態性欲気味)、詰まるところ悪役なのでやはり最期は...。彼女は、1996年に、半自伝的小説『うそをつく女』を刊行し、作品は「女性のアイデンティティの探求」と評され、フランスでは大きくとりあげられたとのことですが、こうした有名人女優がボンドガールになるのは当時としては珍しかったのではないでしょうか。その後、2002年に、長編映画監督としてのデビュー作「聞かせてよ、愛の言葉を」('01年)でモントリオール世界映画祭の最優秀監督賞を受賞するなどの活躍を遂げています。

 「禁じられた遊び」の少女ブリジッド・フォッセーがソフィー・マルソーの母親役になり、そのソフィー・マルソーがボンドガールに。そして今や映画監督として活躍―。子役(少女)が大人になるのは早い。でも、それは他人事ではなく、自分もその間に歳をとったということなのだろうなあ。
 

禁じられた遊び  .jpg禁じられた遊び3.jpg「禁じられた遊び」●原題:JEUX INTERDITS●制作年:1952年●制作国:フランス●監督:ルネ・クレマン●脚本:ジャン・オーランシュ/ピエール・ポスト●撮影:ロバート・ジュリアート●音楽:ナルシソ・イエペス●原作:フランソワ・ボワイエ●時間:86分●出演:ブリジッド・フォッセー/ジョルジュ・プージュリー/スザンヌ・クールタル/リュシアン・ユベール/ロランヌ・バディー/ジャック・マラン●日本公開:1953/09●配給:東和●最初に観た場所:早稲田松竹 (79-03-06)●2回目:高田馬場・ACTミニシアター (83-09-15)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「鉄道員」(ピエトロ・ジェルミ)●併映(2回目):「居酒屋」(ルネ・クレマン)

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「ラ・ブーム」1980.jpg「ラ・ブーム」2.jpg「ラ・ブーム」3.jpg「ラ・ブーム」●原題:LA BOUM●制作年:1980年●制作国:フランス●監督:クロード・ピノトー●製作:アラン・ポワレ●脚本:ダニエル・トンプソン/クロード・ピノトー●撮影:エドモン・セシャン●音楽:ウラジミール・コスマ(主題歌:「愛のファンタジー」歌:リチャード・サンダーソン)●時間:110分●出演:クロード・ブラッスール/ブリジッド・フォッセー/ソフィー・マルソー/ドゥニーズ・グレイ/ アレクサンドル・スターリング/ ベルナール・ジラルドー/シェイラ・オコナー/アレクサンドラ・ゴナン/ジーン=フィリップ・レオナール/リシャール・ボーランジェ/ウラジミール・コスマ●日本公開:1982/03●配給:松竹=富士映画●最初に観た場所:高田馬場パール座(82-09-15)(評価:★★★☆)●併映:「フィービー・ケイツのパラダイス」(スチュワート・ジラード)

「パラダイス」1.gif「パラダイス」2.jpg「パラダイス」●原題:PARADISE●制作年:1982年●制作国:カナダ●監督・脚本:スチュアート・ギラード●製作:ロバート・ラントス/スティーブン・J・ロス●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:ポール・ホファート●時間:95分●出演:フィービー・ケイ/ウィリー・エイムス/リチャード・カーノック/チュヴィア・タヴィ/ニール・ヴィポンド●日本公開:1982/06●配給:松竹富士(評価:★☆)●併映:「ラ・ブーム」(クロード・ピノトー)

「プリティ・ベビー」1.jpg「プリティ・ベビー」2.jpg「プリティ・ベビー」●原題:PRETTY BABY●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督・製作:ルイ・マル●脚本:ポリー・プラット●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:ジェリー・ウェクスラー●時間:110分●出演:ブルック・シールズ/E.J.ベロッ/キース・キャラダイン/スーザン・サランドン/アントニオ・ファーガス/マシュー・アントン/ダイアナ・スカーウィッド/バーバラ・スティール/ドン・フッド●日本公開:1978/10●配給:パラマウント●最初に観た場所:高田馬場パール座(80-01-16)(評価:★★★)●併映:「リトル・ロマンス」(ジョージ・ロイ・ヒル)
        
DESCENTE AUX ENFERS3.jpgデサント・オ・ザンファー4.jpg「デサント・オ・ザンファー 地獄に墜ちて」●原題:DESCENTE AUX ENFERS●制作年:1986年●制作国:フランス●監督:フランシス・ジロー●製作:アリエル・ゼイトゥン●脚本:フランシス・ジロー/ジャン=ルー・ダバディ●撮影:シャルリー・ヴァン・ダム●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●原作:デイビッド・グーディス●時間:88分●出演:ソフィー・マルソー/クロード・ブラッスール /ベッツィ・ブ池袋 文化会館.jpgサンシャイン劇場.jpgレア /ジェラール・リナルディ/シディキ・バカダ/マリー・デュボア/ユスタシュ/イポリット・ジラルド●日本公開:1986/11●配給:TAMT●最初に観た場所:池袋:サンシャイン劇場(88-07-17)(評価:★★☆)

池袋:サンシャイン劇場(1978年10月、池袋文化会館4Fに開館)
         
「007 ソフィー・マルソー2.jpg「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」●原題:THE WORLD IS NOT ENOUGH●制作年:1999年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:マイケル・アプテッド●製作:マイケル・G・ウィルソン/バーバラ・ブロッコリ●脚本:ニール・パーヴィス/ロバート・ウェイド●撮影:エイドリアン・ビドル●音楽:デヴィッド・アーノルド(主題歌:「The World is Not Enough」ガービッジ)●原作:イアン・フレミング●時間:127分●出演:ピアース・ブロスナン/ソフィー・マルソー/ロバート・カーライル/デニス・リチャーズ/ロビー・コルトレーン/デスモンド・リュウェリン/マリア・グラツィア・クチノッタ/サマンサ・ボンド/マイケル・キッチン/コリン・サーモン/セレナ・スコット・トーマス/ウルリク・トムセン/ゴールディ/ジョン・セル/クロード=オリビエ・ルドルフ/ジュディ・デンチ●日本公開:2000/02●配給:UIP(評価:★★★☆)
ソフィー・マルソー
「007 ソフィー・マルソー1.jpg


すべてうまくいきますように●原題:TOUT S'EST BIEN PASSÉ (英:EVERYTHING WENT FINE)●制作年: 2021年●制作国:フランス/ベルギー●監督・脚本:フランソワ・オゾン●製「すべてうまくいきますように」1.jpg作:エリッ「すべてうまくいきますように」2021.jpgク・アルトメイヤー/ニコラス・アルトメイヤー●撮影:イシャーム・アラウィエ●音楽:ニコラス・コンタン●原作:エマニュエル・ベルンエイム●時間:113分●出演:ソフィー・マルソー「すべてうまくいきますように」2.jpg/アンドレ・デュソリエ/ジェラルディーヌ・ペラス/シャーロット・ランプリング/エリック・カラヴァカ/ハンナ・シグラ/グレゴリー・ガドゥボワ/ジャック・ノロ/ジュディット・マーレ/ダニエル・メズギッシュ/ナタリー・リシャール●日本公開:2023/02●配給:キノフィルムズ●最初に観た場所:ヒューマントラストシネマ有楽町(シアター2)(23-02-17)(評価:★★★★)

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遺産相続を巡る女と男の赤裸々な欲望を描いたピカレスク・ロマン。面白かった。

12『からみ合い』.jpg『からみ合い 01.jpg
あの頃映画松竹DVDコレクション からみ合い」渡辺美佐子/山村聰
山村聰(社長)・千秋実(秘書課長)/岸惠子(秘書)/仲代達矢(吉田の部下)/宮口精二(顧問弁護士・吉田)
『からみ合い1.jpg『からみ合い』みや.jpg.png 東都精密工業社長・河原専造(山村聡)は癌で後3カ月しか生きられないことを知る。専造は、3億円に及ぶ財産を以前に関係あった女性らの子どもに分配することにした。妻・里枝(渡辺美佐子)、秘書課長・藤井(千秋実)、秘書『からみ合い121.jpg・宮川やす子(岸恵子)、顧問弁護士・吉田(宮口精二)とその部下・古川(仲代達矢)が呼び集められ、妻・里枝に3分の1、残りの3分の2が行方不明の子供3人に渡されることになった。捜索期限は1カ月、呆然とする人びとに役割が振り当てられ。藤井には川越にいる7つの子を、吉田は『からみ合い』よし.jpg温泉街に流れて行った二十歳になる娘を、やす子は役人と結婚した女の息子を探すことに。古川は、温泉街のヌード・スタジオで専造の落し子の神尾真弓と思しき娘・神尾マリ(芳村真理)を見出し、彼女に札びらを切って関係を持ち、ある契『からみ合い』かわ.jpg約を結ぶ。川越へ行った藤井は、産婆のさよ(千石規子)から目当ての子・ゆき子がすでに死んでいることを突き止め、代わりにある女の子を〈ゆき子〉として連れて来るが、実はそれは里枝との間にできた子だった。やす子が探し出した定夫(川津祐介)は、養父母にとっては手におえない二十歳の不良青年だった。やす子は暴風雨の晩、河『からみ合い』71.jpg原に挑まれて体の関係を持ち、以来、幾たびか体の関係があった。いよいよ河原の容態が悪化し、彼は定夫を除いた2人の子に遺言を伝えようとするが、その場に刑事(安部徹)がやって来て、殺人容疑で〈真弓〉を逮捕する。実は彼女の姉が河原の子で、彼女は父親違いの妹のマリエであり、姉を自殺に見せかけて殺害し入れ替わったのだ。古川も仲間として吉田弁護士に追放される。一方、河原に遺産で財団法人を設立させ、その幹部に収まることを目論んでいた吉田弁護士は、〈ゆき子〉が偽物であることを事前に掴み、それをやす子に伝え、自分は出張に行くから関係書類を河原に渡すよう言う。やす子は専造に妊娠したことを打明けると、死期迫る専造は狂喜し、3分の1は無条件に生れる子のため遺すと言う。実は、やす子には体だけの『からみ合い』461.png関係の男がいたが、男はやす子が妊娠したと知って身を退いたため、やす子はお腹の子を専造の子に仕立たのだ。遺言書は書き直され、財産は、妻の里枝に3分の1、ゆき子に3分の1、そしてやす子のお腹にいる子に3分の1ずつ分けられることになる。やがて河原が死亡し、倉山弁護士(滝沢修)の前に関係者が集まるが、その場で、吉田弁護士の調べで〈ゆき子〉が河原の子ではないことが判明したと倉山弁護士から発『からみ合い』es1.jpg表され、ゆき子はもちろん、詐欺罪に該当する里枝も相続権を失う。吉田弁護士は、ゆき子が替え玉であること知りながら黙っていたやす子にも相続の資格は無いと主張するが、やす子は、自分はゆき子が替え玉であると知らされていないし、書類の中身も見ていないと嘘をつく。吉田弁護士は逆に倉山弁護士から、ゆき子が替え玉であること知りながら河原に知らせなかったことの責任を追及される。結局、やす子のお腹の子だけが相続人となる―。
  
『からみ合い』31.jpg 1962(昭和37)年公開作。原作は、経済学者でもあった直木賞作家・南条範夫(1908-2004/95歳没)の『からみ合い』で、1959年12月創刊の〈カッパ・ノベルス)で、松本清張の『ゼロの焦点』とこの作品が第一回配本でした。監督は、この年「切腹」('62年/松竹)も撮ることになる小林正樹です。遺産相続を巡る女と男の赤裸々な欲望を描いたピカレスク・ロマンで、原作が面白いのでしょうが、良く出来たストーリーだと思いました。山村聰、岸惠子、渡辺美佐子、仲代達矢、宮口精二といった役者面々の演技も良かったように思います。

『からみ合い』41.jpg ピカレスク・ロマンの主役は秘書の宮川やす子(岸恵子)ですが、最初は他の関係者連中が、藤井(千秋実)が子どもの替え玉を用意したり、古川(仲代達矢)が里枝(渡辺美佐子)と二股かけようとしたりする中、彼女だけが唯一真面目に河原の息子(川津祐介)を探していて、それが終盤にになって彼女自身が急速な変貌を遂げてピカレスク・ロマンの主役となっていくところに引き込まれます。

『からみ合い』ksi keiko2.jpg 吉田弁護士(宮口精二)が、河原に財団法人の設立資金を遺させ、その幹部に収まるの目論んで、〈ゆき子〉が偽物であることを自分から河原には言わず、(出張前に言うチャンスが無かったとして)やす子に言わせることでやす子を利用しようとしたのに対し、やす子は、〈ゆき子〉が偽物であると吉田からは聞かされておらず、(河原が亡くなる前に言うチャンスが無かったとして)書類の中身を見ないまま倉山弁護士(滝沢修)に渡したとして、吉田のやり方を逆手にとったところが面白いです。自分が財団の幹部になったら、「君の将来も十分に保証する」という吉田の言葉を、やす子はハナから信じていなかったということでしょう。

 相続人が胎児である場合、死産または流産したら、父親が相続人になり、父親が不在の場合は母親が相続人になるということも、やす子は、弁護士に六法全書を見せられるうちに、さりげなく学習していったのでしょう。

『からみ合い』きし.jpg『からみ合い』みや2.jpg 冒頭と結末が、すっかり貴婦人風となったやす子と、やや恨めしさを漂わす吉田弁護士との再会シーンになっていますが、やす子の子が生まれて間もなくして死んだと聞かされ、吉田はやす子の謀略を確信したのでしょう(その前に「河原とどっちに似た子か楽しみだったのに」と言っているから、最初から河原の子ではないと踏んでいたのかもしれない)。怪しい儲け話を持ち掛ける吉田に、やす子に弁護士は廃業しないのかと訊きますが、いつかあなたの弁護人を買って出るかも分からない、その時まで弁護士を辞めないと言っているから、その疑念は固い。ただし、それさえも、「ご心配なく。私は法律に逆らうようなことは決してしません」とのやす子の言葉にあっさり跳ね返されてしまうラストが見事でした。

『からみ合い 91.jpg いよいよ河原(山村聡)の容態が悪化し、やす子を抱けなくなって、裸で目の前を歩かせ(画面では首から上しか映ってないが)、それを病床から眺める様は、谷崎潤一郎原作の「」('59年/大映)か、はたまた、山村聡自身が演じた「瘋癲老人日記」('62年/大映)の世界といった感じでした。
   
    
佐藤慶(不良青年らをマークしている私服警官)/蜷川幸雄[右端](不良青年グループの一人)
『からみ合い』さとう.jpg 『からみ合い』にながわ.jpg
田中邦衛(定夫(川津祐介)と店で喧嘩する谷組チンピラ)/安部徹(マリエ(芳村真理)を連行しにきた刑事)/滝沢修(倉山弁護士)
『からみ合い』332.jpg

『からみ合い』撮影.jpg「からみ合い」●制作年:1962年●監督:小林正樹●製作:若槻繁/小林正樹●脚本:稲垣公一●撮影:川又昂●音楽:武満徹●原作:南条範夫●時間:115分●出演:岸惠子/山村聰/渡辺美佐子/千秋実/宮口精二/仲代達矢/滝沢修/信欣三/浜村純/槙芙佐子/川口敦子/芳村真理/鷹理恵子/利根司郎/大杉莞児/三井弘次/安部徹/永井玄哉/水木松竹の女優たち.jpg涼子/千石規子/菅井きん/本橋和子/北龍二/北原文枝/川津祐介/蜷川幸雄/瀬川克弘/田中邦衛/佐藤慶●公開:1962/02●配給:松竹●最初に観た場所:神田・神保町シアター(08-09-20)(評価:★★★★)

神保町シアター「本の街・神保町」文芸映画特集Vol.6「松竹の女優たち」

『からみ合い』nannjyou.jpg
南條範夫『からみ合い』1952年12月刊行(松本清張『ゼロの焦点』と共に〈カッパ・ノベルス〉第一回配本)

《読書MEMO》
2022年2月2日「徹子の部屋」(草笛光子88歳・岸恵子89歳)
草笛光子88歳・岸恵子89歳.jpg

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〈ラーメン・ウエスタン〉のスタイル。人物造型もウェットでないのがいい。

「タンポポ」米国版ポスター.jpgタンポポ図2.jpgタンポポ 1985.jpg tampopo.jpg
タンポポ<Blu-ray>」/「Tampopo」米国版DVD

米国版ポスター['16年]

タンポポ61.jpg 長距離タンクローリーの運転手ゴロー(山﨑努)とガン(渡辺謙)がとある寂れたラーメン屋に入ると、店主のタンポポ(宮本信子)がタンポポ1.jpg幼馴染の土建屋ビスケン(安岡力也)にしつこく交際を迫られていたところだった。それを助けようとしたゴローだが逆にやられてしまう。翌朝、タンポポに介抱されたゴローはラーメン屋の基本を手解きしタンポポに指導を求められる。そして次の日から「行列のできるラーメン屋」を目指し、厳しい修行が始まる―。

タンポポ81.jpg 1985(昭和60)年公開の伊丹十三(1933-1997/64没)脚本・監督による「ラーメンウエスタン」と称したコメディ映画で、伊丹十三監督作としては、長「タンポポ」es.jpg編第1作「お葬式」('84年)と第3作「マルサの女」('87年)の間にくる作品ですが、公開当時は「お葬式」ほど注目されず、「マルサの女」が伊丹十三監督としての3年ぶりのブレイク作品になったように思います。実際、「お葬式」と「マルサの女」はそれぞれ第58回と第61回のキネマ旬報ベスト・テン第1位に選ばれていますが、この「タンポポ」はベストテンにも入っていません(ベストテン第11位)。やはり、ラーメン店の再興というのが、テーマ的に小粒と思われたのでしょうか(三谷幸喜監督の「ラヂオの時間」('97年/東宝)で渡辺謙がタンクローリ0「藤田「タンポポ」.jpgーの運転手役で出演しており、この作品へのオマージュととれるし、三谷幸喜監督がこの作品を高く評価していることが窺える)。

藤田敏八(歯が沁みる男)

 「お葬式」は名画座で観て、「タンポポ」は90年頃ビデオで観ましたが(この作品はその後なかなかDVD化されず、先にDVD化された米国からの輸入版で観た人も多いようだ)、意外と「タンポポ」の方が面白かったのではないかと後で思いました。「タンポポ」米国版ポスター2.jpg伊丹十三作品の人気ランキングなどを見ると、「お葬式」「マルサの女」と並んでこの「タンポポ」はベスト3に入っていることが多いですし、個人的には、「マルサの女」に匹敵する面白さだとは思っていましたが、今回観直して、これは「マルサの女」よる上ではないかと(評価○から◎に変更!)。

 米国では日本公開の翌年の1986年12月にニューヨークのジャパン・ソサエティーにて初上映され、翌年3月、近代美術館(MOMA)で新人監督シリーズの一本として上映されるとたちまち話題を呼び、一般公開にて大ヒットを記録、その年の全米の外国映画興行成績第5位にランクインし、その後も長きに渡り"海外でヒットした日本映画"として、世界中に記憶されることとなったといいます。

2016年10月、4Kデジタルリマスター版での30年ぶりの全米公開が決まり、皮切り上映されたニューヨークで、新たに制作された米国版ポスターを前に舞台挨拶をする宮本信子氏[写真:産経新聞(三品貴志氏撮影)]
  
タンポポ山崎1.jpg 米国で受け入れられたのは、〈ラーメン・ウエスタン〉のスタイルで「シェーン」('53年)を換骨奪胎したストーリータンポポ図2 (2)1.jpgを作り上げたことが大きいと思います。ラーメン店を一人で営む宮本信子の下にふらりと店に入ってきたトラック運転手の山崎努にしても常にカウボーイハットだし、自分たちの店のラーメンの味を貶された男たりがタンポポの店に押し掛ける時も、4人の男の内1人はさりげなくカウボーイハットで大いなる西部J.jpgした(ここは「OK牧場の決斗」('57年)風か)。そう言えば、土建屋の安岡力也も洋風の帽子でした。山崎努と殴り合った末に友情を築くのは、グレゴリー・ペックとチャールトン・ヘストンの延々と続く殴り合いのシーンで知られる「大いなる西部」('58年)へのオマージュではないでしょうか。アメリカ人は観ていてぴんとくるのでしょう。

「大いなる西部」('58年)チャールトン・ヘストン/グレゴリー・ペック

 山田洋次監督、高倉健主演の「遙かなる山の呼び声」('80年)なども「シェーン」へのオマージュ作品(ほぼパクリか)ですが、「タンポポ」の場合、ストーリー的には予定調和でありながらも、日本人的なウエットなキャラクターではなく、アメリカ映画的なドライな人物造形を意図的に模倣している点が、アメリカでスムーズに受け入れられる要因となったのではないかと思います。

「タンポポ」ロード.jpg また、この作品の中には、13の食べ物にまつわるエピソードが織り交ぜられているということで、それらも愉しめたし、今思うと、錚々たる面子(メンツ)の俳優がそれらサブストーリーに出ていたことが思い起こされ、暫く観ていない人は観直してみるのもいいのではないでしょうか。メインストーリーに関わる登場人物が主役の宮本信子、山崎努らを含め23名なのに対し、サブストーリーの登場人物が冒頭の役所広司、黒田福美(ヴィスコンティ監督の「ベニスに死す」のパロディか。黒田福美はこの作品以降、伊丹作品の常連に)を筆頭に46名と倍以上いるといいいます。

タンポポ 大友.jpg また、渡辺謙演じるガンが本を読みながら頭の中で描き出しているラーメンの先生を演じた大友柳太朗(1912‐1985/73歳没)は、この映画が公開される前の1985年9月27日、東京都港区の自宅マンション屋上から飛び降り自殺しています。したがって、この「タンポポ」が遺作となったわけですが、死の前日には自ら監督の伊丹十三(この人も'97年に自殺することになるのだが)に電話をかけ、自分の出番がすべて撮影済みであることを確認していたそうです。

市川右太衛門・大友柳太朗「大江戸七人衆」('58年)/大友柳太朗「酒と女と槍」('60年)/「赤穂浪士」('61年)
大江戸七人衆6.jpg酒と女と槍002.jpg赤穂浪士 大友.jpg この大友柳太朗という人は、1950年代には「片岡千恵蔵・市川右太衛門の両御大、中村錦之助・東千代之介・大川橋蔵の三羽烏よりも稼ぎ頭だ」と言われたほどの人気で、松田定次監督の「大江戸七人衆」('58年/東映)の七人衆の一人、旗本の平原役は市川右太衛門と同格か次席格で、大川橋蔵や東千代之介より上の格付けでしたし、内田吐夢監督、海音寺潮五郎原作の「酒と女と槍」('60年/東映)では主人公の富田高定を演じ(この映画、高定の"上司"格である前田利長役で片岡千恵蔵が客演している)、これも松田定次監督の「赤穂浪士」('61年/東映)でも原作者・大佛次郎が創造したキャラクターでフジテレビ「北の国から」 .jpgある、千坂兵部(市川右太衛門)の命により大石内蔵助(片岡千恵蔵)ら赤穂浪士の動向を探る浪人「堀田隼人」という重要な役どころでした。80年代には現代劇において老人役として人気を博しましたが、次第に台詞覚えに苦労するようになり「老人性痴呆にかかった」と悲観しはじめ、不眠症にも悩まされるようになり、特に後輩の杉良太郎からの執拗なダメ出し・批判に悩まされ、自信を喪失していったとのことです。

フジテレビ「北の国から」右は吉岡秀隆


タンポポs.jpg 因みに、西洋レストランで行われていた岡田茉莉子が講師を務めるマナー講座の近くの席で、パスタをすすったりげっぷを放つなどの騒音を出し、生徒たちが全員真似てパスタをすすって食べる元凶となった太った外人は、フランス出身のパティシエで日本で初となるフランス菓子専門店を開店させたアンドレ・ルコント(1932-1999)という人です。東京オリンピックを翌年に控えた1963年、ホテルオークラのシェフ・パティシエとして初めて日本を訪れ、本格的な砂糖菓子の彫刻を日本で最初に広めた人物です。


タンポポ5.jpgタンポポ4.jpg「タンポポ」●制作年:1985年●監督・脚本:伊丹十三●製作:玉置泰/細越省吾●撮影:田村正毅●音楽:村井邦彦●時間:115分●出演:山﨑努/宮本信子/渡辺謙/役所広司/安岡力也/加藤嘉/桜金造/大滝秀治/黒田福美/岡田茉莉子/高橋長英/橋爪功/大犮柳太朗/津川雅「タンポ」ポ 橋爪.jpg「タンポポ」井川.jpg彦/原泉/藤田敏八/高見映(高見のっぽ)/ギリヤーク尼ヶ崎/洞口依子/アンドレ・ルコント/中村伸郎/林成年/田武謙三/井川比佐志/三田和代/大月ウルフ/上田耕一●公開:1985/11●配給:東宝(評価:★★★★☆)
橋爪功(ホテルのボーイ)/井川比佐志(危篤の妻(三田和代)にチャーハンを作らせる男)

《読書MEMO》
●挿入されるエピソード(順不同。とりあえず13?)
タンポポ 紹興酒 海老.jpg➀ 白服の男(役所広司)とその情婦(黒田福美)が冒頭に登場し、映画館の最前列を陣取って食事をしようとする。
② 白服の男と情婦が口移しで生卵の黄身を崩さず何度もやりとりする(このほかに、白服の男が生きたままのエビに紹興酒をかけ、情婦の下腹に乗せ、情婦がくすぐったがって悶絶するというシーンもある)。
③ 白服の男が海辺の若い海女(洞口依子)から買った生牡蠣を食べ、殻で切った唇の血をその若い海女が舐める。
④ ガン(渡辺謙)が頭の中で創造した老人(大友柳太朗)がガンにラーメンの由緒正しい食べ方を教える。
⑤ レストランで食事マナーを生徒に教える講師(岡田茉莉子)の傍で外国人がズズッーとスパゲッティを啜って食べる。
⑥ 接待での場でフランス語メニューの読めない顧客と上司が当たり障りない注文し、フランス語は読めるが空気が読めない新米社員が高級料理や高級ワインを次々にオーダーする。やり取りを見たボーイ(橋爪功)は密かにほくそ笑む。
⑦そば屋で餅を喉につまらせた老人(大滝秀治)が、ゴロー(山崎努)らに助けられて、老人は御礼にとスッポン料理を一同に振舞う。
⑧ 食の細いターボー(タンポポの息子)にホームレスのシェフ(高見映(高見のっぽ))が、自分がリストラされたレストランに夜忍び込み、本物のオムライスを作って食べさせてやる(高見映は"ノッポさん"の帽子を被っている)。
⑨ 親から自然食しか与えらない子がソフトを食べる男(藤田敏八)をじっと見るので、男は自分のソフトをやる。
⑩ 食品店の柔らかい食材を触り回る老婆(原泉)とそれを見張る店長(津川雅彦)が深夜の店内で追っかけっことなる。
⑪ 東北大名誉教授を装うスリ(中村伸郎)に北京ダックを奢り、偽投資話で騙そうとする詐欺師(林成年)だったが...。
⑫ 幼い子どもらを持つ男(井川比佐志)が、危篤の妻(三田和代)にどうしてよいか分からずチャーハンを作らせる。
⑬ ラスト‥クレジットロールの背景に映し出される「授乳」シーン(人間にとって最初の食事であるということか)

タンポポ13.jpg

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5巻で100万部! ガリレオがいなかった世界―状況設定がユニーク。

『チ。―地球の運動について―(1)』1.jpg『チ。―地球の運動について―(1)』.jpg  『チ。―地球の運動について―(1)』cvj.jpg
チ。―地球の運動について― (1) (BIG SPIRITS COMICS)

『チ。―地球の運動について―(1)』2.jpg 15世紀前半のヨーロッパのP王国では、C教という宗教が中心となっていた。地動説は、その教義に反く考え方であり、研究するだけでも拷問を受けたり、火あぶりに処せられたりしていた。その時代を生きる主人公・ラファウは、12歳で大学に入学し、神学を専攻する予定の神童であった。しかし、ある日、地動説を研究していたフベルトに出会ったことで地動説の美しさに魅入られ、命を賭けた地動説の研究が始まる―。

 昨年['20年]9月14日発売の「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)42・43合併号から連載中の魚豊(うおと、1997年生まれ)による〈歴史ファンタジー〉漫画で、「マンガ大賞2021」第2位受賞作。先月['21年9月]に単行本第5巻の発売をもって、シリーズ累計部数が100万部を突破したというからスゴイ売れ行きです(その後、2022(令和4)年・第26回「手塚治虫文化賞(マンガ大賞)」受賞)

 第1巻しか読んでませんが、ガリレオがこの世に生まれてこなくて、天動説が正しいとする考え方の支配が維持されたままだったらという状況設定の下、地動説を信じ、命を懸けて地動説を論証しようとする人々の生き様を描いています。

 こうした設定自体が、なかなかユニークだと思いましたが、第1巻で主人公が死んじゃうのですねえ。後、どうするんだろうと思ったら、どんどん次の人というか次の世界に話を繋げていくようです。これって、結構。描く側はたいへんだと思いますが、ちゃんと構想は出来上がっているのでしょう。

 国や宗教の表記がP国とかC教とかになっていることについて、隠す意味が分からないとの声もあるようですが、一方で、あまりにも史実とかけ離れているからそうしたのだろうとの声もあります。おそらく、そうだろうなあ。ガリレオがこの世に生まれてこなくて、天動説が確固たる地位を占めているというところから、もう別世界の話だからなあ。

 となると、この漫画はある種ダークファンタージであり、こうした設定をベースに、閉塞的な思想弾圧状況の中で、真実に近づこうとする時、人はどう生きるかとう問題を投げかけていると言え、そうなると、この漫画に類する(喩えられる)状況はいくらでもあるように思います。

 中高生でもすっと入っていけるような状況設定で、そうしたことを考えさせるっという点では上手いと思いました。ただ、主人公があっさり死んでしまうのが、やや命が軽く描かれているような気もしました(実際、現代よりはずっと命の軽い時代だったとは思うが)。続きに期待したいです。

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孤独死について「早くから考えておきなさい」ということか。インパクトあった。

『ひとりでしにたい (1)』.jpgひとりでしにたい.jpg
ひとりでしにたい(1) (モーニング KC)

『ひとりでしにたい (1)』1.jpg バリバリのキャリアウーマンで生涯独身だった伯母が孤独死。黒いシミのような状態で発見された。衝撃を受けた山口鳴海(35歳独身)は婚活より終活にシフト。誰にも迷惑をかけず、ひとりでよりよく死ぬためにはよりよく生きるしかないと決意する―。

 デビュー作『クレムリン』('10年/講談社)を皮切りに、『きみにかわれるまえに』('20年/日本文芸社)などユニークな作品を多数発表している作者が、今度は「老後」「就活」「孤独死」をテーマとして取り上げた作品で、2021(令和3)年・24回「文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞」受賞作。この第1巻は、「月刊モーニング・ツー」'19年9月号から'20年3月号に連載されたものに当たります。

 最近作『なおりはしないが、ましになる』('21年/小学館)も、自身の発達障害を実録ドキュメンタリー風に扱ったものですが、この『ひとりでしにたい』も、30代後半になった自分自身が、いずれ"一人で死ぬ"かもしれないという漠然とした不安を抱えるようになったのが制作のきっかけで、描きながら、自身の「終活」について考え始めたといいます。

おひとりさまの老後.jpg 独身女性の「老後」や「終活」についてのエッセイ的な考察としては、社会の上野千鶴子氏の『おひとりさまの老後』('07年/法研)があり、75万部のベストセラーとなって「おひとりさま」ブームを巻き起こし、その後も続編的な本が数多く出されています。ただ、それら上野氏の本は、結構、40代より上の年齢層、もっと言えば、夫(妻)に先立たれるかもしれないということが現実味を帯びてきた人などが読んだりしているように思います。
おひとりさまの老後

 早くから考えておくに越したことのないテーマですが、若い内はなかなかそうしたことを考える機会がないのではないかなあ。その点、この漫画は、軽いラブストーリーも入れて、若い人でもすっと入っていける作りになっているように思いました(そこを買われての文化庁メディア芸術祭「優秀賞」授賞なのだろう)。

 とにかく、キャリアウーマンで生涯独身だった伯母が、風呂で湯に浸かったまま亡くなって数日間放置され、発見された時には湯船の中でドロドロの「スープ」になってしまっていたという話が、キャッチ的に凄まじく、インパクトあります。

 主人公がそれを知って、「婚活」を飛び越して「終活」に奔るというのも納得でき、「老後」「就活」「孤独死」がテーマでありながら、「35歳の主人公」という枠組みを上手く作っているように思いました。

 上野千鶴子氏だって、30代や40代のうちから終活を始めることは、決して早過ぎないとは言っていたかと思いますが、そうは言っても若い人はなかなか本気になってそうしたことを考えることはしないという、そうした問題を、「スープになってしまっていた伯母」というエグいエピソードを突きつけることでクリアしている印象を受けました。

 でも、実際、孤独死は増加傾向にあり、東京都区部で発生した孤独死は2018年は5,513件で、うち65歳以上は約7割(3,867件)だったとのこと。風呂場での推定死亡者数は全国で年間約1万9000人で、交通事故の死亡者数が2839人(2020年警察庁発表による)なので、およそ6倍だそうです。

 日頃我々の目につかなけれ新聞記事になることもないだけの話で、実は全然珍しいことでも何でもなくなっているのでしょう。自分も含め、人はもう少しこの問題について考えた方がいいのかも。そうしたことの契機になる漫画です。

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原作「雨あがる」を改変しているが、映画「雨あがる」より面白かった。骨太感もある。

44『道場破り』.jpg道場破り140.jpg
あの頃映画 「道場破り」 [DVD]」岩下志麻/長門勇

道場破り ポスター.jpg道場破り021.jpg 一見うだつが上がらなそうに見えて実は剣の達人・三沢伊兵衛(長門勇)は、恋人である家老の娘・妙(岩下志麻)を連れて脱藩した。古谷藩の愚鈍な殿様の側室になるよう強要された妙との旅は、すぐ追手につけられる破目となる。すぐにも宿賃を稼がなければならない伊兵衛は、神道道場破り041.jpg無双流秘法極意階伝の腕前を利用して、武士の掟を犯して町道場で賭試合を挑んだ。太刀落しという奇妙な手で勝った伊兵衛のもとに、迫手は刺客として浪人・大庭軍十郎(丹波哲郎)をむけていた。一方隣藩ににげるため十両を必要とした伊兵衛は武道大会で偶然にも軍十郎と相討ちとなった。この試合を見ていた小室帯刀(宮口精二道場破り07.png)はかつて娘・千草(倍賞千恵子)を川越人足から助けてくれた礼をも兼ねて伊兵衛に仕官を勧める。念願の仕官成就に喜ぶ伊兵衛だった、後日、賭試合をして剣を汚した事を理由に、一転して小室藩は仕官を断ってくる。傷心の伊兵衛だが帯刀と千草の温い心に送られて関所を越えようとするが、その関所で追手に正体を見破られて斬り合いになり、大立回りの最中に敵方の軍十郎が現れるが―。

倍賞千恵子(中央)

「道場破り」00.jpg 内川清一郎(1922-2000)監督の1964(昭和39)年作で、原作は山本周五郎の「雨あがる」となっていますが、小国英雄の脚本は、一部、その続編である「雪の上の霜」からもエピソードを引いているようです。三沢伊兵衛役の長門勇は、この作品が映画初主演でしたが、少しとぼけたところもある「人のいい剣豪」を演じて、いい味を出していました(顔がビートたけしにちょっと似ている)。

雨あがる.jpg 同じ原作の映画化作品の最近作では、小泉堯史監督、寺尾聰主演の「雨あがる」('00年/東宝)がありますが(脚本は黒澤明、菊島隆三、そして小国英雄)、映画「雨あがる」が比較的原作に忠実に作られているのに比べると、この「道場破り」はかなり原作に付け加えた部分があります。

道場破り13岩下.jpg まず、「道場破り」では、伊兵衛の脱藩理由が、岩下志麻が演じる、藩のバカ殿の側室になるよう強要された妙(たえ)を、独り道中の駕籠を襲って奪還し、一緒に出奔したことになっていますが、原作では特にそうした理由はなかったように思います。また、賭け試合をしたことが仕官の話が白紙化する原因となったのは原作と同じですが、原作では賭け試合をした理由が、宿賃を稼いで日々の糊口をしのぐためだったのに対し、映画「道場破り」では、関所越えに使う賄賂のためにまとまった金子(きんす)を作ろうとしたのが理由になっています。

道場破り01.jpg また、倍賞千恵子が演じる千草(倍賞千恵子は岩下志麻と同じ年の生まれなのだが、ここでは倍賞がすごく"お嬢さん"に見え、対する岩下志麻は、しばしば"超絶道場破り15岩下.jpg美人"に見える)は、原作の「雨あがる」にも続編の「雪の上の霜」にも出て来ないし、さらに、丹波哲郎が演じる、映画で大きな役割を占める大庭軍十郎も、同じく映画のオリジナルキャラクターです(したがって、軍十郎がかつて伊兵衛道場破り05丹波.jpgと同じ境遇にあったという話も、当然に原作には無い話)。

 ここまで付け加えると、かなりの改変になってしまい、どうなのかなあと思いましたが、良くないと思いながらも賭け試合をやって、勝って得たせっかくの賞金を、同宿の人たちが喧嘩になったのを宥めるために酒を振舞うのに使ってしまったりするなど、伊兵衛の「人のいい剣豪」ぶりというキャラクターは活かされていたように思います。

道場破り 021.jpg

道場破り06長門.jpg その上で、丹波哲郎が演じる、いかにも剣豪風の大庭軍十郎との賭け試合での対戦などがあり、剣豪ものとして愉しめました。映画「雨あがる」の寺尾聡の演技もまずまずでしたが、「道場破り」の方は、丹波哲郎と長門勇というギャップのある二人が闘っているところが、面白さを倍増させています。

道場破り03殿山.png 貧しい人たちが泊まる宿の様子もリアルに描かれていてシズル感があり、殿山泰司が演じる人情味のある宿の主人も良かったです。易者役で浜村純、いかけ屋役で左卜全なども出ていて、脇役・端役に至るまで芸達者揃い。映画「雨あがる」の方は、細部の描き方がそこまでいっていなかったし、「道場破り」ほど光る脇役がおらず、エキストラに至っては学芸会並みだったので、いろいろ面で「道場破り」の方が上であるように思いました。

道場破り17.jpg 最後、伊兵衛は当初意図していなかったものの、結果的には〈関所破り〉になってしまっていて、この後は伊兵衛は追われる身になるのでは、と心配になりますが、軍十郎とたった二人で全員を片付けてしまっているので、生きている目撃者は一人もいないということなのでしょう。

 まあ、追われている身と言えば、妙と出奔した時点ですでに追われる身になっていたわけでもあるし、当時は(全国ネットのニュース番組があるわけでもないし)関所を抜ければ何とかなったということなのでしょう(小国英雄のことだから、その辺りは全部計算済みか)。

 音楽は、黒澤明監督作品の音楽を多く手掛けた佐藤勝(1928-1999)。佐藤勝の音楽のせいだけではないと思いますが、昔の映画ってどうしてこんなに骨太感があり、それが最近の映画には無いのでしょうか。

三匹の侍 3.jpg 因みに、長門勇(1932-2013)は、浅草のコメディアン出身で全国的には無名だったのが、この映画の前年'63年10月から始まったテレビドラマ「三匹の侍」で、岡山弁丸出しの槍の名手・桜京十郎を演じて(実際三匹の侍eiga.jpg、長門勇は岡山県出身)人気俳優となりました。「三匹の侍」は、文政年間を舞台に、宿場から宿場へと流浪の旅を続ける三匹の凄腕浪人が、庶民を苦しめる権力や悪人と闘うというストーリー。当初は丹波哲郎、平幹二朗、長門勇の3人がレギュラーに起用されていましたが、第2シリーズからはリーダー格の丹波哲郎に代わって時代劇初出演の加藤剛がレギュラーに加わり、平幹二朗がリーダー格となっています。従って、テレビドラマでも丹波哲郎と長門勇は浪人役で共演していたことになります(丹波哲郎、長門勇、平幹二朗の主演メンバーで五社英雄監督による映画版「三匹の侍」('64年/松竹)も作られた)。
あの頃映画 「三匹の侍」 [DVD]

三匹の侍 五社.jpg 「三匹の侍」の第1シリーズの演出を主に担当したのは当時フジテレビのディレクターだった五社英雄で、かつてない斬新な殺陣とカメラワークに加え、"バサッ、ビュン、カキーン、ズボッ"と、人を斬る音、刀の刃風、刀と刀が打ち当る刃音、槍の突き刺す音が初めてテレビに出現、また、効果音だけでなく、狭いスタジオでの立ち回りをカバーするために、「写真斬り」(等身大に引き伸ばした写真を刀で斬ってこれを撮影すると、一瞬のことなので、小さなテレビの画面では本当に人が斬られたように見える)といったテクニックなども生み出しています。

TVドラマ「三匹の侍(1)」五社英雄/長門勇/平幹二朗/丹波哲郎

三匹の侍 ドラマ 丹波.jpg「三匹の侍(1)」●演出:五社英雄/藤井謙一●プロデューサー:五社英雄●脚本:柴英三郎/阿部桂一/大垣肇/猪俣勝人/丹菊保寿/茂木草介/寺田信義/愛川直人/竹内勇太郎/馬場当/生駒千里●音楽:津島利章●出演:丹波哲郎/平幹二朗/長門勇●放映:1963/10~1964/04(全26回)●放送局:フジテレビ

三匹の侍 tv.jpg「三匹の侍(2)」1964/10~1964/04(全27回)/「三匹の侍(3)」1965/10~1966/04(全27回)/「三匹の侍(4)」1966/10~1967/03(全26回)/「三匹の侍(5)」1967/10~1968/03(全26回)/「鬼平犯科帳(6)」1968/10~1969/03(全25回)(全157回)

「三匹の侍(2)」長門勇/平幹二朗/加藤剛

岩下志麻/長門勇
道場破り16.jpg「道場破り」●制作年:1964年●監督:内川清一郎●製作:岸本吟一●脚本:小国英雄●撮影:太田喜晴●音楽:佐藤勝●原作:山本周五郎「雨あがる」●時間:91分●出演:長門勇/丹波哲郎/岩下志麻/倍賞千恵子/宮口精二/上田吉二郎/富田仲次郎/今橋恒/青木義朗/浜村純/殿山泰司/高橋とよ/左卜全●公開:1964/01●配給:松竹(評価:★★★★)

「道場破り」図1.jpg 道場破り12宮口.jpg 長門勇(三沢伊兵衛)/宮口精二(小室帯刀)

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