「●は行の日本映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1051】 原 一男 「ゆきゆきて、神軍」
「●菅原 文太 出演作品」の インデックッスへ(「太陽を盗んだ男」))「●伊藤 雄之助 出演作品」の インデックッスへ(「太陽を盗んだ男」)「●佐藤 慶 出演作品」の インデックッスへ(「太陽を盗んだ男」「●さ行の日本映画の監督」の インデックッスへ「●高倉 健 出演作品」の インデックッスへ(「新幹線大爆破」)「●渡辺 文雄 出演作品」の インデックッスへ(「新幹線大爆破」)「●千葉 真一 出演作品」の インデックッスへ(「新幹線大爆破」)「●小林 稔侍 出演作品」の インデックッスへ(「新幹線大爆破」)「●志村 喬 出演作品」の インデックッスへ(「新幹線大爆破」)「●丹波 哲郎 出演作品」の インデックッスへ(「新幹線大爆破」)「●北大路 欣也 出演作品」の インデックッスへ(「新幹線大爆破」)「●田中 邦衛 出演作品」の インデックッスへ(「新幹線大爆破」)「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ
犯人の無目的性がこの作品を面白く、深くしている。「新幹線大爆破」などよりずっといい。
「太陽を盗んだ男」
中学校の理科教師の城戸誠(沢田研二)は、日頃から遅刻を繰り返す無気力教師。ある日、生徒たちを引率し原発の社会科見学を終えた時、火器を持つ老人(伊藤雄之助)にバスジャックされる。彼の要求は「ただちに皇居へ向かい、天皇陛下に合わせろ」。事件を解決すべく、丸の内警察署捜査一課の山下警部(菅原文太)らによる犯人確保と人質救出作戦が始まる。山下は誠と協力し、生徒らを盾にしてバスを降りてきた老人を取り押さえる。この出来事に影響され、誠は変わる。休み時間に学校のネットをよじ登る、授業は学級崩壊を気にせず延々と原子力や原爆の作り方についての講義を行う等の奇行が始まった。だがこれは、彼がこれから起こす犯罪のための予習だった。ある日、誠は茨城県東海村の原発から液体プルトニウムを強奪し、アパートの自室で原爆を完成させる。そして、精製した金属プルトニウムの欠片を仕込んだダミー原爆を国会議事堂に置いて日本政府を脅迫、交渉相手として山下を指名する。誠の第一の要求は「プロ野球のナイターを試合の最後まで中継させろ」。電話を介しての山下との交渉の結果、その夜の巨人vs.大洋戦は急遽完全中継される。快哉を叫ぶ誠は山下に「俺は『9番』」と名乗る。第二の要求を何にするか思いつかずに迷う誠は、愛聴するラジオDJ・ゼロこと沢井零子(池上季実子)を巻き込む。公開リクエストの結果、誠の決めた第二の要求は「ローリング・ストーンズ日本公演」。これにも従わざるを得ない山下だったが、原爆製造のため借金したサラ金業者(西田敏行)に返済を迫られた誠が出した第三の要求は「現金5億円」。山下は、逆探知時間を把握し、ギリギリまで電話で話す誠の性癖を逆手に、電電公社に電話の逆探知時間を短縮させる罠を仕掛ける。作戦は的中し、誠が東急デパート屋上から電話をしていることが判明、デパート出入口を警察が封鎖する。誠はトイレに駆け込むも、歯茎からの出血や吐き気などの被爆症状の進行を悟る。封鎖を突破することが困難とみた誠は、山下に原爆の在りかを教え、原爆のタイマー解除を交換条件として、用意した5億円を屋上からばら撒くことと封鎖を解くことを指示。万札が空から降ってきて大騒ぎになる街中を誠は逃げ切る。原爆を回収した山下らは、起爆装置を解除するも、解体作業は翌朝になる。誠は原爆が保管されているビルを襲い、原爆を奪取すると車で逃走、追跡する警察とのカーチェイスの際に零子が事故の巻き添えになる。ローリング・ストーンズ公演の日、山下と誠は対峙する。ストーンズの来日はもともと予定されておらず、観客にわざと暴動を起こさせ全員まとめて逮捕、その中から犯人を洗い出すという作戦だった。誠は山下を、原爆を置いていたビルの屋上まで連れて行って銃で撃つが、銃弾を何発も身に受けながら、山下は誠を道連れにしようと屋上から転落する。山下は全身打撲で殉職、誠はどうにか生き長らえる。誠は被爆で弱った上に転落の怪我の流血が止まらないまま、原爆を持ちながら街を歩き、やがて30分が過ぎる―。
長谷川和彦監督の'79年公開作(同監督の監督作は「青春の殺人者」('76年/ATG)とこれのみ)。「キネマ旬報 日本映画ベスト・テン」第2位(同読者選出日本映画ベスト・テン第1位)、「毎日映画コンクール」監督賞(長谷川和彦)、「報知映画賞」作品賞・主演男優賞(沢田研二)、「日本アカデミー賞」最優秀助演男優賞(菅原文太)などを受賞。
脚本は当初は村上龍が予定されていたが、彼の仲介者だった長谷川和彦自身が村上案を没にし、'77年に渡米先で知り合ったレナード・シュレイダー(シドニー・ポラック監督・高倉健主演「ザ・ヤクザ」('74年/米)の原作者でもある)に依頼、レナード・シュレイダーはドストエフスキー張りの脚本を書き上げたとのこと。当初は中学教師・城戸が犯行に及ぶ理由として、校長と喧嘩するとか色々と案はあったようですが、同じくパニック映画である「新幹線大爆破」('75年/東映)で高倉健が新幹線を爆破するにはそれなりに理由があるものの、それが映画をつまらなくしていると長谷川和彦は考えたため、主人公の家族の関係など全てカットし、都会で孤独に生きる中学校教師という人物造型にしたとのこと。この目論見は成功しており、犯人の無目的性がこの作品を「新幹線大爆破」などより面白く、また深くしています。
山本又一朗プロデューサーは萩原健一を主役の中学教師役に想定していたようです。長谷川和彦は警部のイメージを「鬼警部」として描いていたため、高倉健に話を持って行ったら、高倉健から「原爆を作る方をやりたい」と言われ(「新幹線大爆破」でも犯人役を演じたから?)、長谷川和彦は原爆を作る中学教師はちゃらんぽらんな男として描きたかったため高倉健のイメージと合わず、結局は高倉健からも断られます。そこで、以前から新宿ゴールデン街の飲み友達だった菅原文太に出演依頼すると快諾を得、その菅原文太から「主役にはジュリーなんかどうなの?」との提案を受けて沢田研二になったそうです(長谷川和彦は沢田研二主演のTVドラマ「悪魔のようなあいつ」('75年/TBS、全」17話)の脚本を書いていた)。
因みに、長谷川和彦は、石川達三原作・神代辰巳監督・萩原健一主演の「青春の蹉跌」('74年/東宝)で脚本を務め、主人公をアメフト選手にする原作には無い設定を入れ(長谷川和彦は東大アメフト部出身)、萩原健一演じる主人公が試合するシーンは、明大と東大のアメフト部員を動員して、長谷川和彦が自分でメガホンを取ったとのことで、萩原健一が主役を演じる可能性もかなりあったように思います。でも、この映画は沢田研二を使ったことで成功していると思うし、また、菅原文太も渋くて良かったです(長谷川和彦からヤクザ風の演技に何度もダメ出しされたのを、役者魂でよく耐えたとか)。
犯罪映画としては、今村昌平監督の 「復讐するは我にあり」('79年/松竹)に迫る面白さです。途中、巻き添えであっさり死んでしまう池上季実子に対し、ラストで、何発撃たれてもなかなか死なない菅原文太など、リアリティを外した場面もありましたが(没シーンも多かったようだ。主人公が小学校のプールにプルトニウムを撒いて多くの子供が死体となって浮き上がるシーンは、当初の"現実の出来事"の予定から"主人公の想像"に置き替わった)、「新幹線大爆破」で最後に射殺される主人公は高倉健のイメージにそぐわなかったのに対し、取り敢えずは生き延びるこの映画の主人公は、まずますジュリーのイメージに合っているのでは(「新幹線大爆破」の宇津井健演じる運転指令長運頼み的行動も疑問)。
ラストの沢田研二を羽交い絞めにし、一緒にビルの屋上から落ちようとする菅原文太の「行くぞ『9番』」というセリフは菅原文太の案で、元々は長谷川和彦自身が脚本でそう書いていたものの、ホモセクシュアルの暗示が露骨なため、「死ぬぞ『9番』」に変更していたところ、菅原文太から「行くぞ『9番』」でという提案があったそうで、菅原文太はこれがどんな映画かよく分かっていた?
意外と原爆製造シーンが丹念に描かれていたし、誠が液体プルトニウム強奪のため東海村の原発に潜入するシーンは「ミッション:インポッシブル」('96年/米)みたい。冒頭の日本兵の軍装で皇居に突撃しようとするバスジャック犯を演じた特別出演の伊藤雄之助(1919-1980)は怪演。池上季実子は、演技はクサいけれども、ヘドロの東京湾に飛び込んで体を張っていました。当時の新宿や渋谷の街並みも懐かしく、貴重映像と言っていいくらい('79年夏公開の映画「スーパーマン」('78年/米・英)の看板があった)。突っ込みどころも多いけれど、長谷川和彦にもっと作品を撮って欲しかったと思わせる力作。なかなか劇場で観る機会が無かったというレア感なども加味して、評価は★★★★☆としました。
「太陽を盗んだ男」●制作年:1979年●監督:長谷川和彦●製作:山本又一朗●脚本:長谷川和彦/レナード・シュレイダー●撮影:鈴木達夫●音楽:井上堯之/星勝●原作:レナード・シュレイダー●時間:147分●出演:沢田研二/菅原文太/池上季実子/北村和夫/神山繁/佐藤慶/伊藤雄之助(特別出演)/汐路章/市川好朗/石山雄大/森大河/樽仙三/中平哲仟/江角英明/風間杜夫/草薙幸二郎/小松方正/西田敏行/水谷豊●公開:1979/10●配給:東宝●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-07-19)(評価:★★★★☆)
菅原文太(丸の内警察署捜査一課警部・山下満州男)/佐藤慶(市川博士)
西田敏行(サラ金の取り立て屋)
「新幹線大爆破」●制作年:1975年●監督:佐藤純弥●脚本:小野竜之助/佐藤純弥●撮影:飯村雅彦/山沢義一/清水政郎●音楽:青山八郎●時間:152分●出演:高倉健/千葉真一/宇津井健/山本圭/郷鍈治/織田あきら/竜雷太/宇津宮雅代/藤田弓子/多岐川裕美/志穂美悦子/渡辺文雄/福田豊土/田坂都/十勝花子/片山由美子/風見章子/岩城滉一/小林稔侍/阿久津元/黒部進/河合絃司/志村喬/山内明/永井智雄/鈴木瑞穂/(以下、特別出演)丹波哲郎/北大路欣也/川地民夫/田中邦衛●公開:1975/05●配給:東映(評価:★★☆)
宇津井健(倉持運転指令長)/高倉健(主人公・沖田哲男)/山本圭(元過激派・古賀勝)
千葉真一(ひかり109号・青木運転士)/小林稔侍(ひかり109号・森本運転士)
丹波哲郎(特別出演:須永警察庁刑事部長)/北大路欣也(特別出演:空港で張り込む刑事)/田中邦衛(古賀勝(山本圭)の兄)
山内明(内閣官房長官)・永井智雄(国鉄新幹線総局長)・志村喬(国鉄総裁)/鈴木瑞穂(花村警察庁捜査第一課長)・渡辺文雄(宮下義典国鉄公安本部長)・青木義朗(千田刑事)