【1971】 ○ アンディ・ウィルソン 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第3話)/パディントン発4時50分」 (04年/英) (2006/12 NHK-BS2) ★★★☆

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 プロットがやや難ありだが原作共々面白い。スーパー家政婦を巡る恋の鞘当も楽しみの一つ。

パディントン発4時50分.jpg  『ミス・マープル』 パディントン発4時50分.jpg 4.50 FROM PADDINGTON 01.jpg
ジョン・ハナー/ジェラルディン・マクイーワン/アマンダ・ホールデン
アガサ・クリスティーのミス・マープル Vol.3 パディントン発4時50分」(DVD)

(第3話)/パディントン発4時50分 title.jpg第3話「パディントン発4時50分」02.jpgMiss Marple - 450 From Paddington.jpg ミス・マクギリカディ(パム・フェリス)は、友人のミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)に会いに行くために乗ったパディントン発4時50分の列車内で偶然、並走する別のロンドン発列車内で一人の男が女性の首を絞めているのを目撃、恐らく絞殺したに違いないと直感して客室係に通報したが、その列車から死体は見つからなかったとの連絡がある。ミス・マープルに会って彼女の助言で鉄道警察に届けるが、そこでも相手にされない。ミス・マープル4.50 FROM PADDINGTON 02.jpgは、犯人は列車が速度を緩めるカーブで死体を車外に棄てたと推理し、路線で該当する場所に建つブラック・ハンプトンのクラッケンソープ邸ラザフォード・ホールを探るべく、知り合いの才能豊パディントン発4時50分 実況検分.jpgかな美女ルーシー・アイレスバロウ(アマンダ・ホールデン)をクラッケンソープ家の家政婦として送り込む。ルーシーは敷地内の霊廟から女性の遺体を発見、ミス・マープルを自宅に滞在させていた地元警察のトム・キャンベル警部(ジョン・ハンナー)によるクラッケンソープ家の人々への事情聴取が始まった―。

 クラッケンソープ家の当主で今はほぼ寝たきりのルーサー(デビッド・ワーナー)は、家業の製菓事業を継がなかったために父(創業者)の怒りを買い、遺産を孫代に相続させる信託に付されていた。長女のエマ(ニア・キューザック)は、独身を通して父を介護してきたが、主治医のクインパー(グリフ・リース・ジョーンズ)との恋愛が進行中、長男のエドマンドは、フランス女性のマルティーヌと結ばれた上に戦死し、次女も既に死亡、次男アルフレッド(ベン・ダニエルス)は酒飲みで、危ない仕事に手を染めているらしく、三男は事業家のハロルド(チャーリー・クリード・ミルズ)、四男は外国在住の画家セドリック(キアンラン・マクメナミン)。

パディントン発4時50分 05.jpg 兄弟構成などが一部改変されていて、例えば原作では、次男が画家のセドリックで、四男が詐欺師のアルフレッドとなっており、三男の職業は銀行家。このほかに、亡くなった次女の夫で戦争の英雄だったけれども今は一介の保険会社員となっているブライアンが登場し、また、原作では『予告殺人』でマープルとともに事件を解決したロンドン警察の「クラドック警部」に該当する人物が、ミス・マープルが彼の幼時から知るところの地元警察のトム・キャンベル警部となっています。

ルーシー・アイレスバロウ(アマンダ・ホールデン)/トム・キャンベル警部(ジョン・ハナー

パディントン発4時50分 ハヤカワ文庫.jpg 先行するジョーン・ヒクソン版「ミス・マープル」(1984年から1992年にかけてイギリスBBCにより制作)に次ぐ、グラナダTVで2004以降制作された2度目のTVドラマシリーズであり、マープル役のジェラルディン・マキューアン(Geraldine McEwan)は、気品のあったジョーン・ヒクソンに対して、ちょっとお茶目っぽい感じでしょうか(ファーストシーズン第3作である本作の吹き替えは岸田今日子)。この「パディントン発4時50分」の中では、ミス・マープルがダシール・ハメットの『闇の中の女』を読んでいたりもします。

4:50 from Paddington (2004).jpg 原作共々ストーリーとしては面白いのですが、こうして映像で見ると、最後にミス・マープルが仕組んだ「実況検分」(関係者が乗り合わせての走行する列車内での実況見分は原作には無い)において、目撃者が犯行時の犯人の背中しか見ていないのに犯人を断定できるのかという疑念が強まり、更に個人的にはここの点が一番引っ掛かったのですが、再現可能なほどに列車のスピードがいつも同じなのかという疑問も浮かびます。
 
第3話「パディントン発4時50分」03.jpg第3話「パディントン発4時50分」04.jpg 犯人は誰かと気を持たせながらも、結末はややとってつけたような真犯人及び動機ともとれ(元々読者に対する伏線があまり無い)、やはり原作そのものにプロットとしての弱点があることも否めません。それでも傑作ではありますが。

 1957年に発表された原作に対し、この映像化作品の方は、夜の闇を蒸気機関車が行くダイナミックな映像が今風のカメラワークで(但し、列車を2本同時に止めてしまうのはやり過ぎか)、原作で、オクスフォード大学で数学を専攻し主席を通して周囲から将来を期待されるも、好きな家事を極めるために卒業後は家政婦になったとされている32歳の才女ルーシーを演じたアマンダ・ホールデンの現代風Amanda Holden3.jpgAmanda Holden.pngの魅力など、すべて「今風」と割り切って観ればかなり楽しめました(Amanda Holdenは、スーザン・ボイルを世に送った英国の人気オーディション番組「Britain's Got Talent」の審査員でもある)。 


パディントン発4時50分 08.jpg

アマンダ・ホールデン
(Amanda Holden) 

 謙虚且つ聡明、但し、秘めたる好奇心は旺盛なスーパー家政婦。原作では家事・料理における有能さが描かれていますが、この映像化作品では、豹柄のコートを着て真っ赤な高級クラシック・カーで住込先に乗りつけるなど、かなりセレブっぽい印象で、料理しているシーンとかが殆ど無く(皿拭きはしていた)、いきなり家族と一緒の食卓に(BBCのヒクソン版は途中から食卓を共にする)。

パディントン発4時50分6.jpg 原作では、そのルーシーを巡っての「亡くなった次女の夫で今は会社員のブライアン」と「画家である次男セドリック」の恋の鞘当があり、彼女が最後にどちらを選ぶかミス・マープルには見当が付いているものの読者には明かされないということになっていますが(「クラドック警部」も候補か)、この映像化作品では、「次男アルフレッド」のセクハラに遭いつつ、「三男ハロルド」と「四男セドリック」の両方から言い寄られるという展開。ハロルドが本命かと思われたが、彼女が最後に選んだのはやや意外なダークホース...。
ハロルド(チャーリー・クリード・ミルズ)

 こうした恋愛模様も本作の一つの楽しみであり、推理一点張りではないミス・マープルシリーズらしいと言えばそうと言え、しかも、ルーシーが選んだ相手に(結婚するかどうかは別として)一応の結論を出しているようにとれます。第三の選択? これが本作の一番のサプライズだったかも(原作の最後の1行、ミス・マープルがクラドック警部を見遣ったことに呼応しているわけか)。

 因みに、ジョーン・ヒクソン版(1987年/BBC)にはクラドック警部(に該当する人物)は出てこず、原作で読者に判断を委ねたルーシーの選択は、大方の予想であろう二者(ブライアンとセドリック)からの択一になっていて、彼女がブライアンを選んだことが示唆されています(セドリックは最初から横柄なキャラクターとして描かれているため、彼が選ばれないことは自明のこととなっている)。こうした解釈や人物造型の違いを見るのも、映像化作品の楽しみ方かもしれません。

第3話「パディントン発4時50分」01.jpgAmanda Holden2.jpgAmanda Holden1.jpgAmanda Holden at Britain's Got Talent
Britain's Got Talent amanda.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第3話)/パディントン発4時50分」●原題:4.50 FROM PADDINGTON, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 1●制作年:2004年●制作国:イギリス●本国放映:2004/12/19●演出:アンディ・ウィルソン●製作:マシュー・リード●脚本:スティーブン・チャーチェット●音楽:ドミニク・シャーラー●原作:アガサ・クリスティ「パディントン発4時50分」●時間:95分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/グリフ・リース・ジョーン/デビッド・ワーナー/ニア・キューザック/ベン・ダニエルス/アマンダ・ホールデン/チャーリー・クリード・マイルズ/シアラン・マクメナミン/パム・フェリス/ジョン・ハナー●日本放送:2006/12/26●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)

■AXNミステリー「あなたが選ぶ!ミス・マープル(全23話) ベストエピソード」(2016年)
1位  シーズン1 第3話「パディントン発4時50分
2位  シーズン3 第4話「復讐の女神」
3位  シーズン4 第1話「ポケットにライ麦を」
3位  シーズン5 第4話「鏡は横にひび割れて」(同数票)

5位  シーズン3 第1話「バートラム・ホテルにて」
6位  シーズン2 第1話「スリーピング・マーダー」
7位  シーズン1 第4話「予告殺人」
8位  シーズン6 第1話「カリブ海の秘密」
9位  シーズン1 第1話「書斎の死体」
10位  シーズン1 第2話「牧師館の殺人」

11位  シーズン4 第4話「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」
12位  シーズン6 第3話「終わりなき夜に生まれつく」
13位  シーズン3 第3話「ゼロ時間へ」
13位  シーズン4 第2話「殺人は容易だ」 (同数票)
15位  シーズン5 第1話「蒼ざめた馬」
16位  シーズン5 第3話「青いゼラニウム」
17位  シーズン2 第3話「親指のうずき」
18位  シーズン2 第2話「動く指」
19位  シーズン3 第2話「無実はさいなむ」
19位  シーズン5 第2話「チムニーズ館の秘密」 (同数票)

21位  シーズン2 第4話「シタフォードの謎」
22位  シーズン4 第3話「魔術の殺人」
23位  シーズン6 第2話「グリーンショウ氏の阿房宮」

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