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ストーリー仕立てで労働法を幅広く解説。著者自身の提言も織り込む。
『君は雇用社会を生き延びられるか―職場のうつ・過労・パワハラ問題に労働法が答える
』(2011/10 明石書店)
夫婦に幼い子2人の4人家族で、一家の大黒柱であった働き盛りの夫・真一が、過労のためクモ膜下出血で亡くなり、残された妻・幸子は、労災申請をするために労働法の勉強を始める―というストーリー設定で、前半は過労死、過労自殺と労災補償や民事賠償関係の解説が中心となっています。
更に中盤から後半にかけては、労働時間規制や休息規制から健康保持、メンタルヘルス、セクハラ、パワハラといったテーマを扱い、最終的には労働法や働き方をめぐる今日的問題を広く網羅した入門書となっています。
労働法学者でありながら、かなりのペースで一般向けの新著も発表している著者ですが、これまた"物語仕立て"という新たな枠組みであり、単なる入門書に止まらず、そこに著者なりの労働法に関する考え方も織り込んでいくというやり方はなかなかのもので、"新手"の手法と言っていいのでは。
個人的には、基本的に従前からの著者の様々な提言に共感する部分が多く、労働法の知識を再確認しながら、著者の提言をも再確認するという形で読めましたが、初学者で著者の本を初めて読む人は、一応、本書が「入門書的な解説」の部分と「著者の提言」の部分で構成されていることを意識した方がいいかも(幸子が著者の持論の代弁者のような形になっているため)。
今回、本書を読んで思ったのは、サブタイトルにも「労働法」とあるものの、それに限定されず、労働問題や社会保障全般に渡る著者の視野の広さを感じたということです(労働法学者でも社会保険等の知識は殆ど無いという人もいたりするからなあ)。
特に最近問題となっている事柄を重点的に取り上げ、関連する過去から直近までの裁判上のリーディングケースを分かり易く解説しているという点でも優れモノで(過労自殺の判例だけで34例!)、実務家が読んでも参考になったり考えさせられる部分は多々あるかと思いますが、一方で、一般向けとしては、労働法を学ぼうという意思のある人以外(「初学者」以前の段階の人)には、やや難しい箇所もあったように思います(そのあたりは、コラムなどを挟んでバランスをとっているが、そのコラムにも"硬軟"両方がある)。
《読書MEMO》
●章建て
プロローグ
第1章 家族が過労で亡くなったら
第1節 労災編
政府が助けてくれる?
労災保険制度の生い立ち
○Break 立証責任
労災保険による補償の内容
○Break 通勤災害
○Break 男女の容貌の違い
○Break 遺族補償年金の受給資格についての男女格差
業務起因性
○Break 誰を基準とするか(過労死)
○Break 労働時間の立証
不服申立
闘うことの意義
労災保険の申請をする
第2節 民事損害賠償編
会社を訴える!
時効の壁
○Break 第三者行為災害の場合
安全配慮義務とは
安全配慮義務法理のメリット
○Break 時効の壁を乗り越えた最高裁判所
システムコンサルタント事件
勝訴判決
本人の落ち度?
○Break 因果関係
裁判で勝つのはたいへん?
損害額はいくらか?
○Break 素因減額
○Break 男女の逸失利益格差
○Break 死亡事例ではない場合の損害賠償
どこまで控除されるの?
○Break どのように労災保険給付分が控除されるか
○Break 立法による是正
過失相殺と損益相殺はどちらが先か
第3節 過労自殺
人はそれほど強くない
電通事件
うつ病とは
○Break 最高裁判所で争う途は狭い
ストレス―脆弱性理論
因果関係は断絶しない
安全配慮義務違反
過失相殺
電通事件の教訓
労災認定
○Break 遺書があったために
○Break うつ病の診断ガイドライン
○Break 誰を基準とするのか(精神障害)
○Break 現在の判断指針の問題点
第2章 働きすぎにならないようにするために
第1節 労働時間規制
幸子の疑問
労働時間の規制は憲法の要請
法定労働時間の原則と三六協定による例外
三六協定は誰が締結するか
○Break 残業と時間外労働は少し違う
時間外労働の限度
○Break 時間外労働をさせてはならない場合
割増賃金
○Break 「労働者」であっても、「使用者」としての責任が課される
割増率の引上げ
○Break 残業手当と割増賃金
三六協定の効力
労働契約上の根拠と就業規則
○Break 労基法の強行的効力と直律的効力
就業規則の合理性
○Break 就業規則とは何か
○Break 弾力的な労働時間規制
第2節 日本の労働時間規制の問題点
日本人は働きすぎ?
時間外労働の事由
限度基準の強制力
○Break 「限度時間」を超える時間外労働命令の効力
労働時間規制が厳しすぎる?
○Break 労働時間とは何か
管理監督者
○Break 裁量労働制
第3節 日本の休息制度
休息は法定事項
休憩時間
○Break 行政解釈
休日
○Break 安息日
年次有給休暇
○Break 出勤率の計算方法
○Break 年休の取得に対する不利益取扱い
特別な休暇・休業
第4節 休息の確保のための制度改革の提言
1日単位での休息の確保
1週単位での休息の確保
○Break 労働時間・休息規制の例外
年休制度の見直し
○Break バカンス
第3章 日頃の健康管理が大切
第1節 法律による予防措置
幸子の後悔
労働安全衛生法
健康保持増進措置
○Break 安全衛生管理体制
健康診断
○Break 採用時の健康診断
○Break 法定外健診について
裁量労働制における健康確保措置
第2節 健康増悪の防止
健康診断後の措置
○Break 労働時間等設定改善委員会
○Break 社員の自己決定は、どこまで尊重されるか
面接指導
休職をめぐる問題
○Break 自宅待機命令
第3節 メンタルヘルス
メンタルヘルスはどこに?
○Break メンタルヘルスケア
プライバシー保護
第4章 快適な職場とは?
第1節 職場のストレス
人間関係は難しい?
○Break 個別労働紛争解決制度
○Break 嫌煙権
快適職場指針
第2節 セクシュアルハラスメント
セクシュアルハラスメントは新しい概念
セクシュアルハラスメントに対する法的規制
会社の損害賠償責任
○Break 自分から辞めてもあきらめてはダメ
第3節 パワーハラスメント
パワーハラスメントとは
パワーハラスメントと会社の責任
○Break 最初のいじめ自殺の裁判例
パワーハラスメントと労災
望ましいパワーハラスメント対策は
○Break 解雇規制とパワーハラスメント
エピローグ