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典拠を1冊に絞っているのがいい。すらすら読めることが本書の狙いの1つ。読後感も爽やか。
『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(2009/12 ダイヤモンド社)『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら (新潮文庫)』2015年文庫化
タイトル通りの設定で、進学校の弱小野球部の女子マネージャーになった主人公の女の子・みなみが、「野球部を甲子園に連れていく」という自らに課したミッションのもと、偶然出会ったドラッカーの経営書『マネジメント』を片手に野球部の強化に乗り出し、ドラッカーの教えを1つ1つ実践して、やがて―。
面白かったです。ドラッカーの数ある著作の中から『マネジメント―基本と原則[エッセンシャル版]』('01年/ダイヤモンド社)1冊に絞って引用しているので典拠が分かり易く、また、それらを旨く物語に織り込んでいるように思われ、これだと、かなりの読者を、元本(もとほん)を読んでみようという気にさせるのではないでしょうか。
著者は、放送作家としてバラエティ番組の制作に参加したり、「AKB48」のプロデュース等にも携わった人とのことですが、NHKの「クローズアップ現代」で「よみがえる"経営の神様"ドラッカー」としてドラッカー・ブームをフィーチャーした際に('10年3月放映)、ドラッカー本の翻訳者である上田惇生氏と共にゲスト出演していたコピーライターの糸井重里氏もさることながら、その糸井氏よりも著者の方がより"ドラッカリアン"ではないでしょうか(但し、本書とこの糸井氏出演のテレビ番組でドラッカーブームに火がついたとされているようだ)。
NHKクローズアップ現代「よみがえる"経営の神様"ドラッカー」出演:上田惇生(1938-2019)、糸井重里(2010年3月17日放送)
本書を読んでこんな旨くコトが運ぶものかと思う人もいるかも知れませんが、ビジネス書(テキスト)として捉えれば、その枠組みとしての"お話"なので、そうした目くじら立てるのは野暮でしょう。ドラッカー自身が、オプティミストであったわけだし、バリバリの経営コンサルタントである三枝匡氏の 『Ⅴ字回復の経営』('01年/日本経済新聞社)だって、こんな感じと言えばこんな感じでした。
主人公のみなみと親友の夕紀や後輩の文乃、野球部のメンバー達との噛ませ方は、ヤングアダルト・ノベルのストーリーテリングの常套に則っていますが、このYA調が意外とこの手の「テキスト」としてはマッチしていて、構想に4年かけたというだけのことはあります(著者自身、高校時代は軟式野球部のピッチャーだったと、朝日新聞に出ていた)。
最初は主人公のみなみが"マネージャー"の意味を"マネジャー"と勘違いして、それが結果的にうまくいくというコメディにしようと思っていたそうですが、そうしなくて良かったし、そうする必要も無かった(でも、"マネジャー"って、日本語の発音上は"マネージャー"と言ってるなあ)。
文章が稚拙との評もありましたが、飾り気の無い文体で、個人的にはすらすら読めたし、すらすら読めることが本書の大きな狙いの1つなのだと思います。読後感が爽やかなのも良かったです。
【2015年文庫化[新潮文庫]】