【1628】 ○ 今北 純一 『仕事で成長したい5%の日本人へ (2010/05 新潮新書) ★★★☆

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「個」としての自分をしっかり持て―と。「自己啓発セミナー」を聴いているような感じも。

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仕事で成長したい5%の日本人へ (新潮新書)

 欧州で生活して30年、現在パリに住み、グローバルビジネスのコンサルティングをしているという著者の、国際的な観点からの、日本人に向けた仕事論、ビジネス論、キャリア論といった感じの本でしょうか。

 前半部分は、自らのキャリアを通しての仕事論で、そのキャリアというのが、東大の応用物理学科、同大学院化学工学科卒後、国内メーカー(旭硝子)に勤務し、オックスフォード大学の招聘教官を経て、スイスのバッテル研究所、ルノー公団、エア・リキード社とヘッドハンティングされながら渡り歩いたというもので、あまりに"華麗"過ぎて、最初はちょっと引いてしまいました。

 しかしながら、読み進むうちに、「自分の仕事の相場観を持て」、「評論家ではなく実践家になれ」、「他人を手本にしても、憧れは抱くな」、「成長願望と上方志向を混同するな」といった著者のアドバイスが、欧米のビジネスの現場で様々な人々と会い、そうした外国人と交渉したり共に仕事してきた経験に裏打されているものであることが分かり、説得力を感じるようになりました。

 フランス人のバカンスの過ごし方に触れて、バカンスに仕事を持ち込むのは無能である証拠とみなす彼らの考え方を知ったり、ルノーの労組リーダーに、労組の理論家としての立場を放棄することとバーターでの昇給を申し出て断られたことから、自らの成長願望のために昇給を犠牲にするその生き方に爽やかさを覚えたりするなど、著者自身の異価値許容性の広さも感じました。

 後半部分は、そうした経験を通しての異文化コミュニケーションの在り方を、これも具体的な事例を通して解説しており、また、そしたことを通して、「夢」と「パッション」を持つことの大切さを説いています。

 読んでいて、「成功セオリー本」という感じを受けることは無く、むしろ「個」としての自分と言うものをしっかり持てという根本的なところを突いていて(日本人が弱い部分でもある)、自律的なキャリア形成を促す「自己啓発セミナー」を聴いている感じでしょうか。

 振り返ってみれば、著者自身、ルーティン化したサラリーマン生活に嵌ってしまうのが嫌で日本を飛び出したわけで、一見"華麗"に見えるキャリアも、最高学府を出ているとか頭の良さとかからくるものではなく、著者自身の、決して現状に充足しない成長願望の賜物なのでしょう。

 著者が親交のあるラグビーの平尾誠二氏、指揮者の佐渡裕氏、柔道の山下泰裕氏、将棋の羽生善治氏らのエピソードを挙げ、彼らのような天才と比べ自らを凡人であるとしつつも、そこから学ぼうと言う姿勢は謙虚且つ貪欲であるように思えました。
 但し、終盤にこれら著名人の逸話を多くもってきたことで、所謂「自己啓発セミナー」の観が、パターナルな方向で強まったかも知れません。

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