2023年5月 Archives

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推理小説か、女性小説か。「若い女性向け」仕様? でも、面白く読めた。

『波の塔』ノベルズ.jpg『波の塔』文庫.jpg 「波の塔」1960.jpg
波の塔―長編小説 (カッパ・ノベルス (11-3))』『新装版 波の塔 上下巻 セット』 映画「波の塔

0松本 清張 『波の塔』2.jpg10松本 清張 『波の塔』.jpg 司法修習生の小野木喬夫は、観劇中に隣席の女性が気分を悪くしているのに気づき、医務室へ連れて行く。周囲にその女性の同伴者と思われているうちに、小野木は彼女をタクシーで送ることになり、そのまま縁が切れるのを惜しむ気持ちになる。一週間ほど経ち、小野木のもとに、名刺を渡した彼女―結城頼子から電話が来て、夕食の誘いを受ける。検事になった小野木は、その後も自分を誘ってくれた結城頼子を愛するようになるが、彼女からは自分の住所や生活は何も知らされないでいた。彼女の落ちついた動作や身につけている着物は贅沢な環境と人妻であることを推察させ、小野木は何度か頼子の境遇を聞こうとしたが果たせない。一方、小野木の所属する東京地検特捜部は密告からR省の汚職事件を掴んだ。内偵を進める小野木は、思わぬ場面で頼子の素性を知る―

 松本清張が週刊誌「女性自身」の1959年5月29日号から1960年6月15日号にかけて連載した長編小説で、1960年6月に光文社(カッパ・ノベルス)から刊行されています。政界推理小説でありながら、「ミステリ」的要素よりも「女性小説」的要素の方が濃くなっていて、ちゃんと読者ターゲットに合わせているなあという印象です。

 小野木喬夫と結城頼子の恋愛劇に絡めて、女子大を卒業して一人旅の最中、諏訪湖近くの古代遺跡で小野木に会い、以後小野木のことが気になってゆく田沢輪香子と、輪香子の親友の京橋の呉服屋の娘で、人見知りせず思いつくとすぐに行動する佐々木和子という二人組が登場し、この辺りも「若い女性向け」仕様といった感じです。

 本作の連載中、「女性自身」の部数は急上昇し、更には主人公と自分を同一視する読者まで出てきたのか、カッパ・ノベルス刊行後、青木ヶ原樹海に入って自殺する女性が増加し、そのたびに編集部と作者宅に警察から連絡が入ったとのこと、1974年には樹海内で本作を枕にした女性の白骨死体が発見され、自殺者はその後も相次いだそうです。

 結末に関しては、「頼子の自己満足ではないか」「小野木は社会的な指弾も受け職も投げ打ったのに、生きながらの骸ではないか」との批判もあったようですが、作者は「非情に描かなければだめなんだ」と答えたそうです。ただし、ミステリとしても面白く読め、文春文庫では、松本清張記念館監修「松本清張生誕百年記念・長編ミステリー傑作選」の全10作の1つとしてラインアップされています。

「波の塔」01.jpg 中村登監督により1960年に映画化され、結城頼子を有馬稲子、小野木喬夫を津川雅彦、田沢輪香子を桑野みゆきが演じています。

 また、テレビドラマとしては、2012年にテレビ朝日系で「松本清張没後20年特別企画 ドラマスペシャル 波の塔」として沢村一樹、羽田美智子主演で放映されましたが、それが8度目のドラマ化でした。90年代以降は単発2時間ドラマとして放映されていますが、それ以前に、60年代・70年代に連ドラとして4回ドラマ化されています(確かに「昼メロ」枠でやりそうな感じ)。

1961年版「波の塔」フジテレビ系列「スリラー劇場」1月9日 - 4月24日・全16回(主演:池内淳子・井上孝雄)
1964年版「波の塔」NETテレビ系列「ポーラ名作劇場」8月24日 - 11月2日・全13回(主演:村松英子・早川保)
1970年版「波の塔」TBS系列「花王 愛の劇場」8月31日 - 10月30日・全45回(主演:桜町弘子・明石勤)
1973年版「波の塔」NHK「銀河テレビ小説」4月2日 - 5月11日・全30回(主演:加賀まりこ・浜畑賢吉・山口いづみ)
1983年版「松本清張シリーズ 波の塔」NHK「土曜ドラマ」10月15日 - 10月29日・全3回(主演:佐久間良子・山﨑努)
1991年版「松本清張作家活動40年記念 波の塔」フジテレビ系列「金曜エンタテイメント」5月24日・全1回(主演:池上季実子・神田正輝)
2006年版「松本清張ドラマスペシャル 波の塔」TBS系列 12月27日・全1回(主演:麻生祐未・小泉孝太郎)
2012年版「松本清張没後20年特別企画 波の塔」テレビ朝日 6月23日・全1回(主演:沢村一樹・羽田美智子)
「波の塔」tv0.jpg 「波の塔」tv1.jpg

「波の塔」tv2.jpg「波の塔」tv3.jpg

【1960年ノベルズ版[光文社カッパ・ノベルス]/2009年文庫化[文春文庫]】

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サスペンスが主か、男女の情愛が主か。「男と女の情炎をサスペンス仕立てで書いた小説集」。

『密会』吉村昭 1971.jpg『密会』吉村昭 文庫.jpg 「密会」1959 2.jpg
密会 (講談社文庫) 』/映画「「密会」('59年/日活)
密会 (1971年)

 '58(昭和33)年発表の「密会」から、「動く壁」「非情の系譜」「電気機関車」「めりーごーうらうんど」「目撃者」「旅の記憶」「ジジヨメ食った」、そして'70(昭和45)年発表の「楕円の棺」まで9編を所収。

「密会」1959.jpg「密会」('58年)... 大学教授夫人・紀久子は、夫の教え子である学生との密会中に、思いもかけずある殺人事件を目撃することになる―。作者が「週刊新潮」から依頼されて書いたもので、初めて原稿料を貰ったという作品ですが、短い分、キレがあるサスペンスになっていて、翌年に中平康監督で「密会」('59年/日活)として映画化されました。状況設定が、これも「黒い画集 あるサラリーマンの証言」('60年/東宝)として映画化された松本清張の「証言」('58年)に似ていますが、こちらの方が原作発表が半年早いです。

「動く壁」('62年)... 総理大臣の警護員(ボディーガード)として従事する警察官が、オートバイにはねられて死亡し、その葬儀の模様から物語は始まります。最も若いボディーガードに選ばれた男にとって、任務は名誉や自尊心を満たすものでした。一方で、早朝から夜中まで総理の"動く壁"となり、襲撃者の弾や刃を体で受け、死ぬ覚悟で当たる過酷な仕事であり、緊迫する仕事の傍ら、服役中の夫を待つバーの女と交情するようになります。ラ「動く壁」緒形拳.jpgストには多くの疑惑を残したその死でしたが、「職業的条件反射」といった感じだったでしょうか。'94(平成6)年には緒形拳主演でドラマ化されていますが、個人的には未見です(2021年、「BSフジサスペンス劇場」で再放映されたようだ)。

「動く壁」('94年/フジテレビ)緒形拳

「非情の系譜」('63年)... 子どもの頃、特殊な職業として嫌がっていた葬儀屋と刺青師の息子たちが、それぞれ親の家業を継ぎ、親たちは自分の代限りと思っていたらその子どもたちが望んで仕事を継ぐということになるという皮肉な話。作者は様々な仕事・職業を生業とする人々(その多くが男である)を描いており、中でも医者は長編作品に多く出てきますが、短編小説では、「動く壁」もそうでしたが、世間的に見て"珍しい""あまり知られていない"仕事をする人々を多く描いています。この短編もその代表格ですが、最後に女の刺青師が出てくるのがとりわけ珍しいです。

「電気機関車」('63年)... 生母を亡くして継母と住む「ぼく」が、父に車で連れられて行ったアパートには女の人がいた―。父は後妻と折が合わず、若い女に手を出すが、その女にも今は持て余し気味の感情を抱いているという、そうした複雑な状況を、遊園地を背景に、父と愛人の女の話に敏感に反応する子供の心を通して描いています。そうした設定にはなっていけれども、子供時代の記憶を大人になって呼び起こしているのでしょう。吉行淳之介に、少年が父とその愛人との三人で海に遊ぶ「夏の休暇」('55年)という短編など、こうしたモチーフの作品がいくつかあったのを思い出しました。 

「目撃者」('68年)は新聞記者の巧妙心を描いたもの、「楕円の棺」('70年)は競輪選手の非情な競技人生を描いたもので、これらもある種「職業小説」、「めりーごーうらうんど」('66年)、「ジジヨメ食った」('68年)はある種「恐怖小説」のような作品です。

 講談社文庫解説の金田浩一呂(1931-2011/79歳没)は、中央大学在学中に刑務所の看守の仕事や雑多なアルバイトで生計を立て、卒業後、産業経済新聞社に入社し、夕刊フジの学芸部長・編集委員を歴任、文芸記者として活躍した人で、この短編集を、最初「情事を素材としたサスペンス小説集」としながら、解説の最後に自ら"君子豹変"と称して、「男と女のはかない情炎をサスペンス仕立てで書いた小説集」と言い換えています。

 要するに「サスペンス」がメインか「男女の情愛」がメインかということで、個人的にはどちらも正しいと思いました(サスペンス色の薄いものもあれば、男女の情事がまったく出てこないものもある)。前の方にある作品が良かったでしょうか。それらを中心に、星4つ評価としました。

【1989年文庫化[講談社文庫]】

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3つの短編を合体した脚本の妙。杉村春子の演技達者ぶりを堪能できる。

「晩菊」1954.jpg「晩菊」03.jpg 晩菊・水仙・白鷺 (講談社文芸文庫).jpg
晩菊 [DVD]」杉村春子/上原謙/望月優子/細川ちか子/有馬稲子『晩菊・水仙・白鷺 (講談社文芸文庫)
「晩菊」09.jpg 芸者上りの倉橋きん(杉村春子)は言葉の不自由な女中・静子(鏑木ハルナ)と二人暮し。今は色恋より金が第一で、金を貸したり土地の売買をしていた。昔の芸者仲間たまえ(細川ちか子)、とみ(望月優子)、のぶ(沢村貞子)の三人も近所で貧しい生活をしているが、きんはたまえやのぶにも金を貸して喧しく利子を取り立てた。若い頃きんと無利心中までしようとした関(見明凡太郎)が会いたがっていることを呑み屋をやっているのぶから聞いても、きんは何の感情も湧かない。しかし、かつて燃えるような恋をした田部(上原謙)から会いたいと手紙を受けると、「晩菊」04.jpg彼女は懸命に化粧して待つ。だが田部が実は金を借りに来たのだと分かると、きんはすぐに冷い態度になり、今まで持っていた彼の写真も焼き捨てる。たまえはホテルの女中をしているが、その息子・清(小泉博)は、お妾をし「晩菊」05.jpgている栄子(坪内美子)から小遭いを貰っている。息子が手に届かない所にいる気がして、たまえは母親としては悲しかった。雑役婦のとみには幸子(有馬稲子)という娘がいて、雀荘で働いていたが、店へ来る中年の男と結婚することを勝手に決めていた。無視されたとみは、羽織を売った金でのぶの店へ行き酔い潰れる。北海道に就職した清は、栄子と一夜別れの酒を飲み、幸子はとみの留守に荷物を纏め、さっさと新婚旅行に出かけた。子供たちは母親のもとを離れたが、清を上野駅へ見送った後のたまえととみは、子供を育てた喜びに生甲斐を覚えるのだった。一方のきんは、のぶから関が金の事で警察へ引かれたと聞いても、私は知らないと冷たく言い捨てて、不動産の板谷(加東大介)と購買予定の土地を見に出掛ける―。

 1951(昭和26)年公開の成瀬巳喜男監督で、林不芙美子(1903-1951/47歳没)が1948(昭和23)年11月から翌1949(昭和24)年にかけて発表した「晩菊」(1948、昭和23年度・第3回「女流文学者賞」受賞)、「水仙」(1949)、「白鷺」(1949)の3の短編を合体させています(1949年は「浮雲」の連載が開始された年でもある)。各短編の主人公は以下の通り。

「晩菊」の主人公"きん"は56歳。19歳の時に芸者になった。昔、田部と恋に落ちた。
「水仙」の主人公"たまえ"はかつては中流家庭にいた。今は連れ込みホテルの女中。作男という息子がいる。 
「白鷺」の主人公"とみ"はかつて三楽で仲居をしていた。今は会社のトイレ掃除。さち子という養女がいる。

「晩菊」06.jpg もともとは別の話だったのを、3人ともかつて芸者仲間だったという設定にし、原作には無いキャラクターの呑み屋を営んでいるのぶ(沢村貞子)が、これもまたかつての芸者仲間という設定で、扇の要のように3人を繋いでいます。それが極めて自然で、まさに脚本の妙と言えます。

 今や色恋より金が第一、でも昔の恋人が訪ねてくるとなると...というきんを杉村春子が演じて巧みです。舞台が本業のせいか映画ではほとんど脇役ばかりなので、小津安二郎が"四番バッター"と評したその演技達者ぶりを堪能できる貴重な主演作品です(そもそも、小津作品も含め、映画でなかなか"四番"に据えられることがない)。

杉村春子(きん)/望月優子(たまえ)
  
「晩菊」カラーポスター.jpg 金満家への道を突き進むきんと、貧乏を嘆くたまえ、のぶの二人を対立構造的に描いていて、しかも後者の二人は共に子どもの問題も抱えています。それが、金の亡者と思われたきんは、昔の恋人に会えるとなると夢心地の気分になり、ところが実際にその彼に会ってみて幻滅、恋人の写真を焼いて過去と決別します(上原謙は「めし」('51年)でも酔っ払う演技をしていたが、ここではそれ以上の泥酔演技をしてる)。一方のたまえとのぶは、あれほど子どものことで気持ちを煩わせ、執着していたにもかかわらず、共に子どもが自分たちから巣立って行ってしまうと、かえって解放感のようなもを味わっているところが面白いと思います。それらがすべて自然に描かれており、もしかして原作を超えているのではとも思った次第です。

「晩菊」ポスター[左上から]有馬稲子/望月優子/沢村貞子/小泉博/細川ちか子[下]上原謙/杉村春子

晩菊・水仙・白鷺 (講談社文芸文庫).jpg 原作の3編は、講談社文芸文庫『晩菊・水仙・白鷺』に所収されています。同文庫には、戦死した夫の空っぽの骨壺に夜の女が金を入れる「骨」ほか、「浮雲」連載に至る円熟の筆致をみせた晩年期の作品「松葉牡丹」「牛肉」など全6篇が収められています。
 
晩菊・水仙・白鷺 (講談社文芸文庫)


林芙美子_02.jpg 林芙美子は1949年から1951年に掛けて9本の中長編を並行して新聞・雑誌に連載しており、私用や講演や取材の旅も繁くして、1951(昭和26)年6月27日の夜分、「主婦の友」の連載記事のため料亭を2軒回ったところ、帰宅後に苦しみ出し、翌28日払暁、心臓麻痺で急逝しています(新聞連載中の「めし」が絶筆となった)。これって、ある種「過労死」でしょう。モーレツなところは、「晩菊」のきんに通じるところもあったのではないかなあ。

林芙美子(1949年4月自宅書斎)
  
  
  

   
  
「晩菊」07.jpgラストでたまえ(細川ちか子)ととみ(望月優子)が、北海道に旅立つたまえの息子を見送る上野の「両大師橋」


「晩菊」●制作年:1954年●監督:成瀬巳喜男●製作:藤本真澄●脚本:田中澄江/井手俊郎●撮影:玉井正夫●音楽:斎藤一郎●原作:林芙美子●時間:97分●出演:杉村春子/沢村貞子/細川ちか子/望月優子/上原謙/小泉博/有馬稲子/見明凡太郎/沢村宗之助/加東大介/鏑木ハルナ/坪内美子/出雲八枝子/馬野都留子●公開:1954/06●配給:東宝●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-05-02)(評価:★★★★☆)

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林芙美子の絶筆小説が原作。上原謙、原節子の演技がいい。結末には批判も。

「めし」001.jpg
めし<東宝DVD名作セレクション>」上原謙/原節子

 「あなたは私の顔を見ると『お腹すいた』しか言わないのね」―恋愛結婚をした岡本初之輔(上原謙)と三千代(原節子)の夫婦も、大阪天神の森のささやかな横町に慎ましいサラリーマン生活に明け暮れしている間に、いつしか新婚の夢も色褪せ、些細な事で諍いを繰り返すようにさえなっていた。そこへ姪の里子(「めし」06.jpg島崎雪子)が家出して東京からやって来て、その華やいだ奔放な態度で家庭の空気を一層搔き乱す。三千代が同窓会で家を空けた日、初之輔と里子が家に居るにもかかわらず、階下の入口にあっ「めし」003.jpgた新調の靴が盗まれたり、二人が居たという二階には里子が寝ていたらしい毛布が敷かれていたりして、三千代の心に忌まわしい想像をさえ搔き立てる。そして里子が出入りの谷口のおばさん(浦辺粂子)の息子・芳太郎(大泉滉)と遊び回っていることを三千代はつい強く叱責したりもするのだった。家庭内のこうした重苦しい空気に堪えられず、三千代は里子を連れて東京へ立つ。三千代は再び初之輔の許へは帰らないつもりで、東京で職を探す気にもなっていたが、従兄の竹中一夫(二本柳寛)からそれとなく箱根へ誘われたりもする。その一夫と里子が親しく交際を始めたことを知った折、初之輔は三千代を迎えに東京へ出て来た―。

『めし』19511.jpg 1951(昭和26)年11月23日公開の成瀬巳喜男監督作で、原作は1951年4月1日から7月6日に「朝日新聞」に連載された林芙美子の同名長編小説(タイトルは冒頭の三千代の言葉にあるように、所謂"夫婦の最低限会話"とされる「飯、風呂、寝る」のメシからきている)。同年6月28日の作者の急死により絶筆となり、150回の予定を97回で連載終了(同年11月朝日新聞社より刊行林芙美子_01.jpg)、映画のラストは成瀬監督らによって付与されたものです(監修:川端康成)。後に「稲妻」('52年)、「浮雲」('55年)、「放浪記」('62年)などと続く、林芙美子原作・成瀬巳喜男監督による映画作品の1弾になります。

林 芙美子(1951年6月26日撮影。この夜、容態が急変して急逝した)

 第6回「毎日映画コンクール」日本映画大賞(小津安二郎監督の「麦秋」('51年)とともに受賞)・監督賞・撮影賞・録音賞・女優演技賞(原節子)受賞。第2回「ブルーリボン賞」作品賞・脚本賞(田中澄江)・主演女優賞(原節子)・助演女優賞(杉村春子)受賞。第25回「キネマ旬報ベスト・テン」第2位(同年の第1位は小津安二郎監督の「麦秋」)となっています。

「めし」カラーポスター.jpg「めし」002.jpg 興行的にも成功を収めましたが、やはり原作がいいのでしょう。それと、川端康成の監修によるアレンジが功を奏したとの見方もあるようですが、主演の上原謙、原節子の演技も高い評価を得ています。原節子は当時、一連の小津安二郎作品で「永遠の処女」と呼ばれ「めし」00すぎ」.jpgる神話性を持ったスター女優でしたが、この作品では市井の所帯やつれした女性を演じていて、それがまた良かったし(原節子はこの年に、黒澤明監督の「白痴」と小津安二郎監督の「麦秋」に出演したばかりで、同じ年に黒澤・小津・成瀬作品に主演したことになる)、上原謙の時にコミカルに見える演技も、杉村春子(三千代の母親役。「寝かしておいておやりよ 女はいつも眠たいもんなんだよ!」というセリフがいい)をはじめ脇役陣もみな良かったです。

「めし」005.jpg ただし、この映画に付された独自の結末は(脚本は成瀬巳喜男監督作の常連の田中澄江)、林文学のファンなどからは批判を受けることもあるようです。「女性は好きな男性に寄り添って、それを支えていくことが一番の幸せ」みたいな終わり方になっているため無理も「めし」00大.jpgありません。初之輔が三千代を迎えに東京へ出て来くるところまでは原作もそうなっていますが、三千代がもとの大阪天神の森での生活に戻ることについては、「この夫婦は別れるべきだった」「林芙美子自身は夫婦の離別を結末として想定をしていた」などの意見があります(因みに、作者がどのような結末を想定していたかは不明とされている)。

「めし」10.jpg「めし」09.jpg 原作にも描かれている大阪の名所が数多く登場し、復興期の街の風景をちょっとしたタイムスリップ的観光案内として楽しむという味わい方も出来る作品でもあります(三千代が上京するため、東京の街の様子も見られる)。

「めし」004.jpg 三千代(原節子)の義弟を演じた小林桂樹は当時大映からのレンタルでしたが、翌'52年に東宝映画初代社長・藤本真澄の誘いで東宝と契約し、源氏鶏太原作の「三等重役」('52年)、「続三等重役」('52年)から、引き続き森繁久彌が主役を演ずる「社長シリーズ」('56年-'71年)の全てに秘書役などで出演することになりました(「放浪記」('62年)にも出演)。

小林桂樹(三千代(原節子)の義弟・村田信三)/杉葉子
  
「めし」スチール.jpg「めし」●制作年:1951年●監督:成瀬巳喜男●製作:藤本真澄●脚本:田中澄江/井手俊郎●撮影:玉井正夫●音楽:早坂文雄●原作:林芙美子●時間:97分●出演:上原謙/原節子/島崎雪子/杉葉子/風見章子/杉村春子/花井蘭子/二本柳寛/小林桂樹(大映)/大泉滉/清水一郎/田中春男/山村聡/中北千枝子/谷間小百合/立花満枝/音羽久米子/出雲八重子/長岡輝子/浦辺粂子/滝花久子●公開:1951/11●配給:東宝●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-04-20)(評価:★★★★)

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クレージーキャッツの「同窓会」映画なのか、サラリーマンの悲哀を描いた映画なのか。

「会社物語」1988.jpg 「会社物語」だんす.jpg
「会社物語」安田伸/谷啓/ハナ肇/植木等/犬塚弘/桜井センリ

「会社物語」4.png 花岡始(ハナ肇)は57歳。東京の商事会社で34年間真面目にコツコツと働き続けた万年課長だが、間もなく定年を迎えようとしていた。いまや仕事もさほど忙しくなく、若い部下達もあまり相手にしてくれない。家に帰れば家族間のトラブルがまたストレス「会社物語」5.jpgの種。そんな花岡にとって唯一の心の安らぎは、愛らしく気立てのよい新入社員の由美(西山由美)だけだった。彼女は若いエリートの恋人がいたが、わざわざ花岡のために二人だけの送別会を開いてくれた。退職が近づいたある日、同僚がジャズ・バンド結成の話を持ってきた。若い頃に情熱を傾けたジャズで有志を集めて、コンサートをやろうというのだ。犬山(犬塚弘)、安井(安田伸)、桜田(桜井センリ)、谷山(谷啓)、それに会社の守衛「会社物語」c.jpgをしている上木原(植木等)とメンバーも揃い、花岡は練習に精を出して再び生活に張り合いを取り戻した。そして12月25日にコンサートが始まったが、その時花岡の家では息子が暴れ回っていた。花岡は途中で家に帰り、息子を止めようとしてケガをしてしまう。しかし花岡は再び会社に戻り、コンサートを成功させる。退職の日。花岡は、娘のように親しみを感じていた由美を二股にかけて振った生意気な若いエリートをぶっ飛ばし、会社を後にするのだった―。

「会社物語」2.jpg 1988年の市川準(1948-2008/59歳没)監督作で、定年を間近に控えた主人公のサラリーマンが、退職前に昔のバンド仲間と共にジャズコンサートを企画する話。その「昔のバンド仲間」を演じているのが、「ハナ肇とクレージーキャッツ」のメンバーで、1971年1月に石橋エータローが脱退後、メンバーは各自での活動が多くなり、80年代には各メンバーとも俳優としての存在感が増し、グループとして事実上の解散状態を迎えていたため、久しぶりの「同窓会」的映画と言えます。

「会社物語」6.jpg ただ、冒頭部分でハナ肇が演じる花岡始が、定年を迎えるサラリーマンの悲哀を一身に負っている感じで、矢鱈"重々しい"と言うか"暗~い"印象でした。「えっ、コメディじゃなかったの」という感じです。ストーリー的にも、最後の方に出てくる花岡の息子の家庭内暴力(こっちの方が情緒的なサラリーマンの悲哀よりよほど大きな現実問題ではないか)も解決した風には見えないし、「同窓会」映画ならクレージーらしくもっとも明るくてもよかったのでは。
  
「会社物語」dan.jpg そのくせ、クレージーのメンバーがジャズバーのようなところで「チャーリー・パーカーはいいよね」とかジャズ談義しているシーンがドキュメンタリー風に挿入されていたりして、これって一体、サラリーマンの悲哀を描いた映画なのか、クレージーキャッツの「同窓会」映画なのか、どうもはっきりしなかったように思います(一応、ハナ肇はこの作品で、1988年度・第31回「ブルーリボン主演男優賞」を受賞している)。
    
「会社物語」羽田1.jpg「会社物語」羽田2.jpg 植木等演じる会社の守衛が、実は大邸宅に住み、羽田美智子演じる若妻を侍らせているという設定だけが面白く(羽田美智子はこの年['88年]、'89年日本旅行キャンペーンガールに選羽田美智子 デビュー.jpgばれデビューしたばかりだった)、これとて、植木等が物語の設定に異議を唱えて、彼自身のアイディアで実現したようで、ああ、植木等という人は分かっていたなあ。「逆噴射家族」('84年)のようなコメディから黒澤明監督の「「乱」植木.jpg」('85年)まで出演経験があり、撮られながらもどんな映画になりそうか見えていたのでしょう。

「乱」植木等(藤巻信弘)

「会社物語」9.jpg 花岡にフィリピン出張を命じる常務が伊東四朗だったり(伊東四朗と羽田美智子は、'03年から昨年['22年]までテレビ朝日系で放送された刑事ドラマシリーズ「おかしな刑事」でW主演としてコンビを組むことになる)、花岡をバイトに勧誘するベンチの変な男がイッセー尾形だったり、職場の課員役として木野花や小川菜摘(ダウンタウンの浜田雅功と1989年に結婚)が出ていたり、色んな人が出ているなあと(ジャイアント馬場も本人役で出ている)。

 いずれにせよ、この映画が、メンバー7人が全員出演した最後の「クレージー映画」となりました。以降、下記のように、2023年現在で存命のメンバーは犬塚弘のみとなり、寂しい限りです。

[クレージーキャッツ.jpg  ハナ肇     1930年生まれ・1993年9月10日(63歳没)
  石橋エータロー 1927年生まれ・1994年6月22日(66歳没)
  安田伸     1932年生まれ・1996年11月5日(64歳没)
  植木等     1927年生まれ・2007年3月27日(80歳没)
  谷啓      1932年生まれ・2010年9月11日(78歳没)
  桜井センリ   1926年生まれ・2012年11月10日(86歳没)
  犬塚弘     1929年生まれ・2023年10月26日(94歳没)

 こうして見ると、ハナ肇、石橋エータロー、安田伸が何れも60代前半で亡くなっており、早かったのだなあと改めて思います。

あの頃映画 「会社物語 MEMORIES OF YOU」 [DVD]
「会社物語」d.jpg「会社物語」3.jpg「会社物語 MEMORIES OF YOU」●制作年:1988年●監督:市川準●脚本:鈴木聡/市川準●撮影:小野進●音楽:板倉文●時間:99分●出演:ハナ肇/谷啓/植木等/犬塚弘/安田伸/桜井センリ/石橋エータロー/西山由美(西山由海)/イッセー尾形/鈴木理江子/木野花/小川菜摘/馬渕晴子/羽田美智子/笹野高史/石丸謙二郎/岩松了/近藤宏/堺左千夫/宮部昭夫/余貴美子/ジャイアント馬場/村松友視/伊東四郎●公開:1988/11●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(23-05「会社物語」 12.jpg-14)(評価:★★★)
犬塚 弘
犬塚弘.jpg2023年年10月26日(94歳没)
「ハナ肇とクレージーキャッツ」ベーシストであり最後のメンバー。桜井センリの死去後は、同グループ唯一の存命者であり、唯一、昭和・平成・令和時代と3代に渡って存命していた人物。山田洋次監督の「男はつらいよ」シリーズ、NHK連続テレビ小説「本日も晴天なり」「こころ」「おひさま」など数々の映画・ドラマにも出演したが、大林宣彦監督の遺作となった2020年公開の映画「海辺の映画館-キネマの玉手箱」で「俳優」としての活動から引退する意思を明らかにしていた。

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脚本は?だが、昭和30年代前半のサラリーマン世相を描いたものとして貴重。

「満員電車」00.jpg
満員電車 [DVD]」川口浩
「満員電車」2.jpg「満員電車」h4.jpg 茂呂井民雄(もろいたみお)(川口浩)は平和大学を卒業し、駱駝麦酒株式会社に就職した。日本には我々が希望をもって坐れる席は空いてない。訳もなく張り切らなくては、というのが彼の持論。新人研修の日、東北・一関の高校教師となって行く同窓で恋人の壱岐留奈(小野道子)に逢い、二人は軽くキスして別れた(茂呂井はほかに、百貨店の女店員と映画館のもぎりの二人の恋人たちにも別れを告げる)。研修が終わる「満員電車」3.jpgと、民雄は関西・尼崎へ赴任した。そこで彼は先輩の更利満(船越英二)から、「健康が第一、怠けず休まず働かず」というサラリーマンの原則を聞かされる。ある日、故郷の父・権六(笠智衆)から母・乙女(杉村春子)が発狂したと知らせてきた。民雄は平和大学生課に月二千円で母の発狂の原因、治療を研究する学生を依頼した。応募したのは和紙破太郎(わしわたろう)(川崎敬三)という精神科医の卵。彼は民雄の父・権六に会い、時計屋の権六が市会議員でもあり、市の有力者で「満員電車」1.jpgあることを利用して、精神病院の設立を約束させる。ある日民雄の許に、県の財政縮小で教職リストラされた留奈が訪ね、生きるために結婚を迫る。しかし、気持はあっても毎月の出費に追われる彼としては断るしかなく、彼女は帰って行く。その後、民雄は膝の痛み止め注射に苦しみ、高熱のため髪が真白になる。そこへ気狂いになったはずの母が訪ねてきて、狂ったのは父だと聞かされる。民雄「満員電車」4.jpgは病院で和紙に会い、父を利用した彼を難詰する。チャンスは利用すべきと「満員電車」d.jpgの「三段跳び」論を振り回す和紙は、三段跳びの勢いが余ってバスにはねられ、止めようとした民雄は電柱に頭をぶつけて昏倒。目覚めると髪は元の黒。看護婦は精神に休養を与えたからだと。しかし尼崎に帰った彼は、1カ月の無断欠勤でクビになっていた。安定所で職を求める彼に小学校の小使いの口。そして、職安の人だかりの中で偶然留奈に逢った彼は、嬉しさの余り結婚を申込むが、既に彼女は別の小使いと結婚していた。ある小学校での入学式に、万国旗をあげる民雄の小使姿があった。が、すぐに彼は、帝大卒を隠していたことがばれてクビになる。彼は母親とバラック小屋に住むことになるも、一念発起してそこで学習塾を開くことを思いつく―。

 1957(昭和32)年公開の市川崑監督の、公開当時は「映画漫画」と呼ばれた風刺コメディ。Amazonのレビューでは、アナーキーでクレージーで「市川崑最高傑作」の一本とする人もいれば、小谷野敦氏にように「見事なまでの失敗作」、「父親から、お母さんが気が〇ったと連絡があり、実は気が〇っているのはお父さんだとか、一夜で白髪になったとか、ホップ、ステップ、ジャンプしたらバスにはねられたとか、くだらなすぎ「満員電車」04.jpgて面白くも何ともない」とする人もいて、個人的には自分も小谷野敦氏の感想に近いです。実は、市川崑と増村保造(助監督)もこの作品を口を揃えて「失敗」と切り捨てていますが、監督からも見捨てられた分、今になってカルト的価値が出てきたのかもしれません。

 明治9年→大正2年→昭和元年→現代と"日本國最高学府"東京帝大に於ける年代別の卒業式の描写から始まって、帝大卒が「超エリート」から「大勢いの中の一人」へと変遷したことを示唆した上で、当時の就職事情やサラリーマン世相、工業化社会・競争社会などを描いたものとしては、映像記録的に貴重かもしれません。当時の社員寮の一部屋の広さってこんなものだったのかとか(テレビや冷蔵庫などの家電はまったくない)、新人研修やホワイトカラーの仕事ってこんな感じだったのかとか、職安はずいぶん混んでるなあ、大病院の混み具合は昔からそうだったのだなあとか、いろいろ気づきがありました。

 映画が公開されたのは1957(昭和32)年3月の高度成長期初期ですが、物語の時代設定は2年後の1959年(昭和34)とされており、この間の世相は、'57年6月まで31か月続いたとされている「神武景気」が終わり、'57年7月から'58年6月にかけて「なべ底不況」が起きているので、この映画で描かれている就職難やリストラは、不況を予感した上でのことだったのかもしれません。

「満員電車」kirin.jpg また、民雄は「駱駝麦酒」株式会社入社後に尼崎工場に赴任しますが、かつて尼崎駅北側には2万7千平方メートル以上の敷地を持つキリンビールの大工場があり、'96年に今の神戸工場(神戸市北区)に移転するまで、映画にも見えるように、煙突が林立する工場と社員寮や社宅が立ち並ぶ企業城下町でした(跡地は今は大型商業施設で、ある調査では「住みやすい街」関西1位となり、若い家族やカップルが住む街となっている)。

 小谷野敦氏が言うように脚本はハチャメチャですが、話はテンポよく進み、ラスト、学歴詐称で用務員をクビになっても、それじゃあ自分で学習塾を起業しようという(東大卒の自分の強みにも合っているし、ボロ屋から出発したとしても、その先に来る受験戦争社会において成功するのでは)、主人公のポジティブな姿勢がコメディの結末としてマッチしており、評価は一応○としました(昭和サラリーマンのドキュメンタリーっぽい要素の"現在価値"も勘案して)。

「満員電車」bs.jpg「満員電車」sugimura.jpg「満員電車」●制作年:1957年●監督:市川崑●脚本:和田夏十/市川崑●撮影:村井博●音楽:宅孝二●時間:99分●出演:川口浩(茂呂井民雄)/笠智衆(その父・権六)/杉村春子(その母・乙女)/小野道子(茂呂井の彼女で教師になった壱岐留「満員電車」[.jpg奈)/川崎敬三(精神科医の卵・和紙破太郎)/船越英二(茂呂井の先輩社員・更利満)/潮万太郎(山居直)/山茶花究(駱駝麦酒社長)/見明凡太郎(本社総務部長)/伊東光一(場場博士)/浜村純(平和大学総長)/入江洋佑(若竹)/袋野元臣(曾根武名夫)/杉森麟(町の歯医者)/響令子(その奥さん)/新宮信子(女歯科医)/葉山たか子(看護婦)/半谷光子(看護婦)/佐々木正時(茂呂井のYシャツを修理する洋服屋)/酒井三郎(既卒者・茂呂井の就職あっせんを断わる学生課長)/葛木香一(小学校校長)/泉静治(教頭)/杉田康(教師)/花布辰男(新人教育講師の工場長)/高村栄一(新人教育講師の営業部長)/春本富士夫(尼崎工場の給与課長)/南方伸夫(人事課長)/宮代恵子(茂呂井の彼女で百貨店の女店員)/久保田紀子(茂呂井の彼女で映画館の女)/直木明(体格の良い男)/志保京助(青白い顔の男)/此木透(無精たらしい男)/志賀暁子(社長秘書)/吉井莞象(大学総長(明治時代))/河原侃二(大学総長(大正時代))/宮島城之(大学総長(昭和時代)/(ノンクレジット)田宮二郎(大学卒業式の場に茂呂井といる同期生)●公開:1957/03●配給:東宝●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(23-04-29)(評価:★★★☆)

《読書MEMO》
田中小実昌(作家・翻訳家,1925-2000)の推す喜劇映画ベスト10(『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年/文春文庫ビジュアル版))
○丹下左膳餘話 百萬兩の壺('35年、山中貞雄)
○赤西蠣太('36年、伊丹万作)
○エノケンのちゃっきり金太('37年、山本嘉次郎)
○暢気眼鏡('40年、島耕二)
○カルメン故郷に帰る('51年、木下恵介)
○満員電車('57年、市川昆)
○幕末太陽傳('57年、川島雄三)
○転校生('82年、大林宣彦)
○お葬式('84年、伊丹十三)
○怪盗ルビイ('88年、和田誠)

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源氏鶏太原作。今で言えば池井戸潤。予定調和の勧善懲悪劇だが面白い。

「青年の椅子」1962年.jpg 「青年の椅子」も.jpg 「青年の椅子」m1.jpg
青年の椅子 [VHS]」石原裕次郎/芦川いづみ

「青年の椅子」出演者.jpg ここ鬼怒川温泉では、日東電機工業のお得意様招待の新年宴会が盛大に行われていた。芸者衆がずらりと居並ぶ前で、ハッピ姿でサービスにつとめる社員たち。舞台で踊り終った大取引先の畑田商会社長・畑田元十郎(東野英治郎)は、同じく大取引先の矢部商会社長の令嬢・美沙子(水谷良重)の隣に腰を据えた。酒癖の悪い畑田は、やがて美沙子にからみ出す。困った彼女は、傍に控えていた日東電機社員・高坂(石原裕次郎)に助けを求めた。最初は躊躇したものの、畑田の「青年の椅子」芦川.jpg態度をみかねた高坂は、思わず畑田を投げ飛ばしてしまう。腐った高坂はビール手に風呂場へ降りて行った。そこで畑田と出会った彼は、畑田から意外なことを聞く。営業部長の湯浅(宇野重吉)を失脚させて社を食い物にしようとする陰謀があるというのだ。「青年の椅子」宇野.jpg先刻の事は水に流して仲直りした二人は、湯浅を守ることを誓い合う。一方、タイピストの十三子(芦川いづみ)と美沙子は高坂に好意を持っていた。面白くないのは十三子に婚約を破棄された営業部員の大崎(藤村有弘)と、美沙子につきまとう矢部商会の専務・田崎(高橋昌也)で、二人は何とかして高坂を馘にしようと企む。さらに田崎は、日東電機総務部長の菱山(滝沢修)と組んで、日東電機を食いものにしようとしていた。菱山一派は行動を開始し、菱山は湯浅に彼の部下の悪事を暴き責任をとるように迫る。辞職しようとする湯浅を引き留めた高坂は、畑田の力を借り巻き返しを開始し、美沙子を慕う矢部商会の木瀬(山田吾一)も高坂に協力を申し込む―。

青年の椅子 [VHS]
「青年の椅子」vh.jpg 1962年4月公開の西河克己(1918-2010)監督作で、原作は源氏鶏太(1912-1985)の1961年6月刊行の同名小説。何だか、今の時代の真山仁か池井戸潤の企業小説みたいです。どちらかと言うと池井戸潤かな。予定調和の勧善懲悪劇ですが面白いです(いつの時代も、こうした分かりやすい企業小説や企業ドラマへの需要はあるということか)。

 田崎が情婦にバーを経営させているという情報を掴んだ高坂がそこへ乗り込むと、菱山、田崎、大崎の面々がたむろしていた。その帰り高坂は愚連隊に襲われる。菱山らの陰謀は紛れもないところとなった。高坂や美沙子らに迫られた田崎は、全てが菱山の企んだことと白状する。高坂は菱山に対峙し、皆の前で彼の陰謀を明かす。菱山と田崎はクビになり、高坂は十三子に結婚を申し込むのだった―。

「青年の椅子」m2.jpg「青年の椅子」p.jpg やはり、ヒーロー裕次郎の特徴は喧嘩が強いこと。愚連隊なんか蹴散らして返り討ちにしてしまいます。それと、何事にも無感情になりがちな今の社会と違って(当時でも言いにくいことは言えない雰囲気はあったと思うが)、素直に感情を吐露する姿も心地よいです。まあ、東野英治郎演じるお得意先の社長の非礼にたまらず相手を投げ飛ばしてしまうも、そのことで却ってその社長との絆が深まるというのは出来すぎた話ですが、そこはコメディということで...。

 宇野重吉が演じる営業部長の湯浅と、滝沢修が演じる総務部長の菱山が、常務(芦田伸介)を挟んで対峙するシーンは、劇団民藝の共同代表同士で見応えがあり、こうした場面が映画を"絞める"ことになっていると思いました。二人の共演は多いけれど(滝沢と宇野は「剛の滝沢、柔の宇野」と称された)、こうしたまともにぶつかり合うシーンはあまりないのではないかと思います。

91石原裕次郎 『青年の椅子』.jpg「青年の椅子」●制作年:1962年●監督:西河克己●製作:水の江滝子(企画)●脚本:松浦健郎●撮影:岩佐一泉●音楽:池田正義(主題歌:石原裕次郎「ふるさと慕情」)●原作:源氏鶏太●時間:93分●出演:石原裕次郎/芦川いづ「青年の椅子」01.jpgみ/芦田伸介/水谷良重/藤村有弘/山田吾一/高橋昌也/谷村昌彦/青木富夫/矢頭健男/小川虎之助/大森義夫/三崎千恵子/宮城千賀子/東野英治郎/滝沢修/宇野重吉●公開:1962/04●配給:日活●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-04-06)(評価:★★★☆)


石原裕次郎シアター DVDコレクション 75号 『青年の椅子』 [分冊百科]

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