2014年6月 Archives

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終盤のスぺクタルシーンからラストの畳み掛け感とエンディングがいい「キートンの蒸気船」。

Steamboat Bill, Jr.(1928).jpgキートンの蒸気船 新訳版 2007.jpg キートンの蒸気船 dvd.jpg  キートンの蒸気船 木.jpg
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キートンの蒸気船 02.jpg ミシシッピー川で操業する蒸気船ストーンウォール・ジャクソン号のオーナー、ウィリアム・キンフィールド(アーネスト・トーレンス)は"スチームボート(蒸気船)ビル"と呼ばれる町の人気者。一人息子のスチームボート・ビル・ジュニア(バスター・キートン)は故郷を離れてボストンに遊学中だった。副船長のトム・カーター(トム・ルイス)と長閑な日々を送るビルだったが、強力なライバルが現われる。金持ちのジョン・ジェイムズ・キング(トム・マクガイアー)が新造船キング号で事業に乗りだしたのだ。そんな時、ボストンから息子が帰ってくる。都会風に妙に洗練された息子を見て、父は落胆。おまけに息子と、商売仇の娘メアリー(マリオン・バイロン)が恋仲になり、ますます面白くない。更ににジャクソン号が老朽化のため使用停止勧告を出されてしまう。警察にはむキートンの蒸気船 チラシ.jpgかったためビルは拘置所に入れられる。ジュニアは父親を助けようとするが、そこへ巨大な暴風雨がやってきて猛威を奮う。ミシシッピーの河川地帯は大パニックとなり、吹きすさぶ風の中、ジュニアは父親と恋人メアリー、そして命を落としかけたキングも救い出す―。

 1928年に本国で公開されたキートンの長編第10作目で、キートンが自身の撮影所で撮った最後の作品。監督にはチャールズ・F・ライスナーがクレジットされていますが、キートンの共同監督がライスナーであったとみていいのでは。日本公開は'28(昭和3)年8月。'73年から'74年にかけてのキートン作品のリバイバル上映で、「キートンのセブン・チャンス」('73年6月/併映短編「警官騒動」)、「海底王キートン」('73年7月/併映短編「白人酋長」)に次ぐ第3弾として'73年8月に上映(併映短編「鍛冶屋」)されています(以降、「キートンの探偵学入門」('73年12月/併映短編「船出」「化物屋敷」)、「キートンの恋愛三代記」('74年7月/併映短編「スケアクロウ」「マイホーム」)と続く)。

キートンの蒸気船 01 帽子.jpg 前半部分はマッチョ志向の父親が、赤ん坊の時以来久しぶりに会った息子の思いもよらなかった脆弱ぶりに幻滅しつつも、何とか一人前の蒸気船乗りに仕立て上げようと躍起になるも、なかなかそうはいかず、そのうSteamboat Bill Jr. ヒロイン.jpgち息子はライバルの蒸気船会社のオーナーの娘と恋仲になるは、自身は拘置所に入れられてしまうはの踏んだり蹴ったりというドラマ的な展開が主となりますが、父親役のアーネスト・トーレンスの演技がなかなかいいです(帽子を使ったギャグは、「荒武者キートン」「海底王キートン」にもあったことを思い出させる)。それと、キートンのことを慕って何かと面倒を見るヒロインの娘もなかなかきびきびしていて良かったですが、演じているマリオン・バイロン(1911-1985)は当時16歳であったとのこと。可愛らしいながらにも(キートン作品のヒロインの中では今風にカワイイ)、役柄のせいで随分しっかりして見えます。

キートンの蒸気船11.jpgキートンの蒸気船 15.jpg 物語が終盤に入って、残り15分のところで町は暴雨風に見舞われ、一気に映画はスぺクタルの様相を呈します。暴雨風の中、斜めになったまあ動けなかったり木に掴まって風に靡いたりするキートンの姿や、家屋が倒れてきて偶然にも窓枠の位置にいて奇跡的に助かるといったキートンの躰を張ったアクション・シークエンスは、キートン作品の中でもよく知られている場面です。

Steamboat Bill Jr. ラスト.jpg そして、ラスト5分、キートンが演じるビル・ジュニアは、これまでと打って変わって獅子奮迅の働きを見せることになりますが、ラスト15分に「起承転結」のうちの暴風雨による「転」とジュニアの活躍という「結」を集約させた作りが、前半から中盤にかけてその脆弱ぶりが繰り返し描かれていただけに効いています。暴風雨で危険な状態に晒された娘を救い、拘置所ごと漂流していた父親を救い、そして父親のライバルである彼女の父親キングをも救う―これらの神業を表情も変えず黙々とこなしていくのが小気味良く、ラストも両家の父親の和解という"感動的"な場面でありながら当人は感傷に浸ることなく、今度は漂流していた牧師を引っぱってきて、そこで"ジ・エンド"となる終わり方がいです。このラストは、同じく恋人の親同士が対立しているという「ロミオとジュリエット」風の状況設定であった「荒武者キートン」('23年)の、最後の主人公と彼を敵(かたき)にしてきた家族との和解シーンで、相手の家族が和解の印にそれぞれ拳銃を差し出したら、キートンが表情を一斎変えず、それまで服の下に隠していた何丁もの拳銃を差し出したところで終わるラストと並んで好みです。

キートンの蒸気船12.jpg この作品の「暴雨風」というモチーフは当初「大洪水」というモチーフだったそうで、「大洪水」で亡くなる人が多くいるのでコメディに相応しくないとの意見で「暴雨風」に変更されたそうですが、後で統計を調べてみたら「暴雨風」で亡くなる人の方が「大洪水」で亡くなる人より何倍も多いことが判ったとのことです。

 家屋の下隅に嵐に襲われた人が避難する場所としての地下室の入り口がありましたが、これは南部という土地柄からしておそらく「竜巻」避難用ではないでしょうか。「暴風雨」には使えるけれど、「大洪水」だと却って危ないかも。
                       
蒸気船ウィリー4-2.jpg この作品にヒントを得て作られたと言われているのが、同じ年に公開された世界初のトーキー・アニメ「蒸気船ウィリー(Steamboat Willie)」('28年)で、正しくは世界初の「サウンドトラック方式」のトーキー・アニメ。それまでのBGMとして音楽が流れるだけの方式ではなく、登場人物(ミッキー)が台詞を喋ります。ミッキー・マウス作品としては3作目ですが、ミッキーの初主演作であるため、1928(昭和3)年ニューヨークのコロニーシアターで初公開された、その11月18日という日蒸気船ウィリーと愉快な仲間たち.jpg蒸気船ウィリー.jpgが「ミッキー・マウスの誕生日」とされています。但し、ディズニーがこの日をミッキーの誕生日として公式に定めたのは、生誕50周年を記念して大々的な回顧展が行われるのを機にしてのことでした(日本公開は1929年で、どの会社がいつ輸入し、どの映画館で最初に上映したのか明確ではないが、9月に新宿にあった武蔵野館でミッキー・マウス映画が公開された記録があり、この時が本邦初公開だったのではないか。因みに本国では大手配給会社に配給を断られ、セレブリティ・プロダクションという制作会社が配給した)。
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ウォルト・ディズニー (1901-1966).jpg 東京ディズニーリゾートの「ミート・ザ・ミッキー」で順番待ちの間にこの作品が流れていますが、基本的にはウォルト・ディズニーのオリジナルという感じでした。但し、原題(Steamboat Willie)などは確かに「キートンの蒸気船」(Steamboat Bill Jr.)のバロディっぽく、ミッキー・マウスの実質デビュー作がキートン作品から何らかの影響を受けているというのが興味深いです。因みに、1928年公開のこの作品から1947年までの約20年間、ミッキーの声優を務めたのはウォルト・ディズニー自身であり、自分の声を入れたのは予算の都合だったそうで、実は1作目からミニーの声も担当していたそうです(ミニーは4作目からディズニー社の女性社員に変更されたという)。

キートンの蒸気船 vhs vip.jpg「キートンの蒸気船(船長)」●原題:STEAMBOAT BILL JR.●制作年:1928年●制作国:アメリカ●監督:バスター・キートン/チャールズ・F・ライスナー●製作:バスター・キートン●脚本:カール・ハルボー●撮影:デヴ・ジェニングズ/バート・ヘインズ●時間:59分●出演:バスター・キートン/アーネスト・トレンス/マリオン・バイロン/トム・ルイス/トム・マクガイア●日本公開:1928/08●配給:ユナイテッド・アーチスツ●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース(84-01-16)(評価:★★★★)●併映:「キートンのセブンチャンス(栃面棒)」(バスター・キートン)


蒸気船ウィリー dvd1.jpgSteamboat Willie .jpg「蒸気船ウィリー」●原題:STEAMBOAT WILLIE●制作年:1928年●制作国:アメリカ●監督・製作:ウォルト・ディズニー●作画:アブ・アイワークス/レス・クラーク/ジョニー・キャノン/ウィルフレッド・ジャクソン●(声の)出演:ウォルト・ディズニー●時間:7分●日本公開:1929/09●配給:ユナイテッド・アーチスツ(評価:★★★☆)
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やや無理のあるストーリー展開か。「ロッカー・ルーム戦」は気合入っていた。

拳闘屋キートン vhs2.jpg Battling Butler(1926).jpg 拳闘屋キートン 01.jpg
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拳闘屋キートン テント.jpg アルフレッド・バトラー(バスター・キートン)は何不自由なく暮らす大富豪の御曹司だが、父親から大自然の中でキャンプしてもっと逞しくなれと言われ、執事のマーティン(スニッツ・エドワーズ)を連れ田舎のキャンプ場へと出向くも、そこでも執事に何もかもやってもらう生活を続けていた。そんな中、地元の美人の娘(サリー・オニール)と知り合い、早速結婚を申し込むが、こんなひ弱な男に娘はやれないと彼女の父と兄に反対をされてしまう。そこで、新聞でアルフレッド・バトリング・バトラーなる同名の人物が近々ボクシングの世界戦拳闘屋キートン 02.jpgをするという記事を見つけたマーティンが、アルフレッドのことをこの人物こそバトラーなのだと美人の父と兄に告げ、一気に婚約成立となる。本物のバトラーは、試合に負ければ後は何とかなるというマーティンの読みに反して世界戦に勝利してしまい、本物に間違えられたアルフレッドは地元で大変な歓迎を受け、事実を告白する勇気がないまま彼女と結婚してしまうが、バトラーは次は「アラバマの人殺し」というボクサーと試合をすることになっていた。アルフレッドは仕方なくバトラーのキャンプ地へ行くが、そこには本物のバトラーが妻君同伴でいて、さらに娘が追いかけてきたために話はややこしくなり、遂にアルフレッドがリングに立つことになる―。

 バスター・キートンの1926年9月本国公開作品。ヤマニ洋行の配給で1927(昭和2)年12月31日に日本で公開されたときの邦題は「拳闘屋キートン」で、日本での70年代のリバイバル・シリーズの際の邦題は「ラスト・ラウンド」となっていますが(シリーズの途中打切りのため上映されず)、その後、アテネ・フランセなどで自主上映された際は「拳闘屋キートン」に戻っています(VHSタイトルも「拳闘屋キートン」)。

拳闘屋キートン3.jpg キャンプ生活に入っても御曹司風の生活スタイルを続けるキートンが可笑しく、これでは何のためにキャンプに来たのか分からない...そのキート拳闘屋キートン スパ.jpgンにまめまめしく仕えるスニッツ・エドワーズ演じる執事がいい味出していますが(彼は翌年の「キートンのカレッジ・ライフ」('27年)ではカレッジの校長を演じている。但し、この作品の方がよりキーパーソン的役回り)、彼が主(あるじ)のために良かれと思ってついた嘘が、どんどん状況を悪くしていき、とうとうアルフレッドは世界戦のリングに上がる羽目になり、トレーナーの指導を受けることになるといった展開です。

 「キートンのセブン・チャンス」('25年)と「キートンの大列車強盗」('26年)の間の作品だと思うと、それらに比べてやや落ちるでしょうか。やはりちょっと展開に無理があるかなあという感じ(この"無理さ加減"には一応オチがあるのだが)。オリジナルの脚本も、結局アルフレッドは世界戦に臨まなくて済んだというもので、そこでお終いだったのが、それだと映画的には面白くないので、最後のアルフレッドvs.バトラーの「ロッカー・ルーム戦」を入れたようです。

拳闘屋キートン ロッカー.jpg 喜怒哀楽を見せないはずのキートンが、バトラーに打ちのめされて怒り心頭に発して拳闘屋キートン ロッカー2.jpg反攻に出るという、「怒」の部分が顕著に出ているのが、やや一連のキートン作品と異なるように思いましたが、そうでもしないと、アルフレッドの反攻の説明がつきにくかったというのもあったのではないでしょうか。マ-ティン・スコセッシはこのシーンを何度も見直して、「レイジング・ブル」('80年)の参考にしたとかで、それくらい、両者のボクシング・シーンは気合が入っています。

拳闘屋キートン ラスト.jpg このキートンの本気度は、チャップリンが「ノック・アウト」('14年、27分)、「拳闘」('15年、30分)と2本のボクシング映画を撮っているので、それに対する意識もあったのではないかなと個人的には思ったりもしました(ロイドもボクシング映画を撮っている。当時、ボクシングは極めて人気の高いスポーツだったということもあるのか)。脆弱な優男が困難な状況を経て逞しく変身し、最後に女性の心からの愛を得るというという流れは、一応、キートン作品の定番を踏襲しています。

Battling Butler (1926).jpg「拳闘屋キートン(キートンのラスト・ラウンド)」●原題:BATTLING BUTLER●制作年:1926年●制作国:アメリカ●監督:バスター・キートン●製作:バスター・キートン●脚本:アル・ボースバーグ/レックス・ニール/チャールズ・H・スミス/ポール・ジェラルド・スミス●撮影:デブロー・ジェニングス/バート・ヘインズ●原作戯曲:スタンリー・ブライトマン/オーステイン・メルフオード●時間:68分●出演:バスター・キートン/サリー・オニール/スニッツ・エドワーズ/フランシス・マクドナルド/トム・ウィルソン●日本公開:1927/12●配給:ヤマニ洋行(評価:★★★)
Battling Butler (1926)

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キートン初の60分超作品だが傑作。プロットの巧みさに加え、ラスト15分のアクションは神業。

荒武者キートン dvdd2.jpg 荒武者キートン dvd1.jpg 荒武者キートン dvd4.jpg OUR HOSPITALITY 1923 6.jpg
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荒武者キートン ポスター.jpg 1810年、隣同士のキャンフィールドとマッケイ家の相克は、遂に当主同士の相撃ちで倒れるという悲劇を生んだ。争いのむなしさを儚んだマッケイ夫人は幼い息子ウィリーを連れNYの伯母を頼った。が、キャンフィールドの弟は子々孫々までの復讐を誓うのだった。それから10数年が経ち、既に母を亡くした成長したウィリー(バスター・キートン)の許に父の遺産相続の報せ。彼は田舎の豪華な邸宅を思い浮かべ、即座に故郷への旅を決意。伯母から、くれぐれもキャンフィールドに気をつけろ、と言い聞かされて、長距離特急の旅客となる―(allcinema ONLINE)。
Aramusha Keaton (1923)
Aramusha Keaton (1923).jpg
 1923年11月に本国で公開されたキートンがキートン・プロで作った初めての60分を超える作品で、「IMDb」による日本での一般公開は1925(大正14)年12月、「映画 MOVIE-FAN」も同年12月となっていますが、丁度1年前の'24(大正13)年12月にすでに上映されていた記録もあり(『昭和外国映画史』毎日新聞社)、そうなるとキートンが監督した中で最初の長編作品「キートンの恋愛三代記」('23年、日本公開'25年3月)より数か月早い日本公開だったことになります。DVDの販売元のIVCの口上にも「キートンの長編第1作は「キートンの恋愛三代記」(1923)だが、日本公開はこちらが先になり、キネマ旬報の娯楽的優秀映画のベストテンの8位に選ばれた」とあり、実際第2回(1925年度)キネマ旬報ベストテンにランクインしているので1924年公開というのが正しいことになるようです(キネ旬ベストテンは第1回と第2回だけ外国映画のみが対象で、芸術的映画と娯楽的映画に分けてベストテンを発表していた)。過去に「キートンの激流危機一髪!」の邦題で公開されたこともありますが、1979年12月にリバイバル上映された際は「荒武者キートン」の方を使っています。

OUR HOSPITALITY 1923 自転車.jpg荒武者キートン 0.jpg 導入部分の、1810年にマッケイ家の父親とキャンフィールド家の若者が撃ち合いで共に死んでしまい、マッケイ家の母親が息子ウィリーを連れて南部からNYに引っ越すまでは、コメディと言うより普通のドラマという感じであり、それが約20年後に話が飛んで、キートンが変てこな自転車に乗って登場するところからコメディ映画らしくなりますが、キャンフィールド家とマッケイ家の確執を描いた冒頭のシリアスなムードが、後半のロミオとジュリエット的な話の展開に効果を及ぼしているように思います。

OUR HOSPITALITY 1923 キシャ83.jpg ウィリー(キートン)は家を継ぐための南部への里帰りの途中、美しい娘と列車に乗り合わせる―「列車」といっても、"特急"というのは名ばかりの、遊園地にあるような機関車に、馬車2台を繋いで客車としたような極めて初期のもので、矢鱈あちこちにうねりや歪みのある線路our_hospitality_train.jpgをのんびり走行し、ウィリーの飼い犬が結局目的地までついてきてしまうような超スロースピードのシロモノです。しかも、途中のレールポイントで客車は機関車とはぐれたうえに、線路から外れて地面の上を走っている始末。前半部分は、この「列車」が主役と言ってもよく、3年後に作られる「大列車強盗(将軍)」('26年)の萌芽が見られます。

荒武者キートン 9.jpg この珍奇な鉄道の旅を通してウィリーと娘は親しくなり、自分の実家が想像していた豪邸とは違ってオンボロの掘立て小屋だったという彼でしたが(空想の中で豪邸が本当にぶっ飛ぶのが可笑しい)、その娘からは自邸に晩餐会に招かれる―しかし、この娘が何と、伯母から「くれ荒武者キートン 1.jpgぐれもキャンフィールドに気をつけろ」と言われていたそのキャンフィールド家の娘であり、ウィリーがマッケイ家の跡取り息子であることに気づいたキャンフィールド家の父親と息子2人は、彼に対して親切を装いながらもその荒武者キートン 2.jpg命を付け狙いますが、「敵(かたき)であっても、自分の家に訪問している間は撃ってはならない」という先祖代々の家訓があって、客OUR HOSPITALITY 1923 8.jpgとしてウィリーが邸内に居る間は、すぐ手の届く所に仇敵がいながらも撃てないでいる―やがて、ウィリーも背景状況と事態の重大さを知ることになり、晩餐会後に彼を外に出そうとするキャンフィールド家の誘いに乗らず、取り敢えず家に居ついて娘の傍に寄り添いながら脱出の機会を窺う、その辺りの両者の駆け引きを飽きさせずに見せます。

 一方で娘はウィリーがマッケイ家の息子だと分かっても彼のことを恋慕しているという、こうしたロミオとジュリエット的なシチュエーションは、「キートンの蒸気船(キートンの船長)」('28年)でも繰り返されます。但しここまでは、プロットはしっかりしているものの、アクション部分でややもの足りないかなとつい思ってしまうのですが、この作品はこのままでは終わりません。ウィリーが女装して邸を脱出してからそれをキャンフィールド家の面々が追走するラスト15分に、崖から急流、そして滝へと驚嘆すべきアクションシーンが詰まっています。

荒武者キートン 川.jpg荒武者キートン 滝.jpg 断崖でのロープアクションは実によく練られているように思いましたが、川に落ちたキートンが激流に呑まれるシーンは、実際にロープが切れて生じたアクシデントだったそうです。但し、激流に流されるシーンだけでも命懸けであると思われるのに、そこからがまた凄く、同じく激流に落ちた娘が滝から落ちるのを、キートンが空中ブランコの曲芸師さながらに受け止めるシーンは、一体どうやって撮ったのか、殆ど奇跡に近いような神業的アクションだったように思います。

バスター・キートン/ナタリー・タルマッジ.jpg キートンの初長編作品でありながら、本作をキートンの最高傑作に推す人も少なからずいるというのも頷けます。ヒロインの娘を演じるのはキートンの当時の妻のナタリー・タルマッジで、冒頭のウィリーの赤ん坊時代はキートン・ジュニア(ナタリーとの間に生まれた赤ん坊)、更に、客車を置き去りにしてしまう間抜けな機関士に扮しているのは、キートンの父親で寄席芸人だったジョー(ジョセフ)・キートンと、キートン・ファミリー総出演の作品であり、この辺りのチームワークの良さも作品のテンポの良さに関係していたのかもしれません。個人的にも、「海底王」「セブンチャンス」「大列車強盗」に先立つ作品でありながら、それらに比肩し得る作品であるように思います。
Buster Keaton and Natalie Talmadge with Junior and Bob

「荒武者キートン(キートンの激流危荒武者キートン dvd3.jpg荒武者キートン 家.jpg機一髪!)」●原題:OUR HOSPITALITY●制作年:1923年●制作国:アメリカ●監督:バスター・キートン/ジョン・G・ブリストーン●製作:ジョセフ・M・スケンク/バスター・キートン・プロダクションズ●脚本:クライド・ブラックマン/ジャン・ハベッツ/ジョセフ・ミッチェル●撮影:ユージン・レスリー/ゴードン・ジェニングス●時間:67分●出演:バスター・キートン/ナタリー・タルマッジ/ジョー・ロバーツ/ジョセフ・キートン/ラルフ・ブッシュマン/クレイグ・ワード/モンテ・コリンズ/キティ・ブラッドバリー/バスター・キートン・Jr./アーウィン・コネリー/エドワード・コクソン/ジェームズ・ダフィー●日本公開:1924/12●配給:国際映画社(評価:★★★★)
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「荒武者キートン」チラシ(1973(昭和48)年/有楽シネマ)
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「海底」シーンが秀逸。決して「アクション度の低い作品」では無かった。

海底王キートン シネマ2 チラシ.jpg海底王キートン vhs.jpg 海底王キートン dvd.jpg Navigator [DVD] [Import].jpg 
1973(昭和48)年リバイバル時チラシ/「海底王キートン【字幕版】 [VHS]」「キートン「海底王キートン」/「キートンのカメラマン」 [DVD]」「Navigator [DVD] [Import]
海底王キートン(1924) 0.pngTHE NAVIGATOR 02.jpg 親の遺産で暮らす金持ちお坊ちゃまのロッロ(バスター・キートン)は、欲しい物は何でも簡単に手に入ると思っていた。近所のお嬢さまベッツィ(キャサリン・マクガイア)に不用意に求婚するが、愛はそう簡単ではなく、先に予約していた船でハネムーンに行く予定が、失恋の船旅となる。しかし、彼が乗った船は某国のスパイの謀略に巻き込まれて漂流し、彼は船に一人残されてしまったかにみえたが、その船には偶然にもベッツィも乗っていた―。

海底王キートン(1924) 4.jpg 前作「キートンの探偵学入門」(1924年4月米国公開)に続くキートン・プロでの長編第4作(同年10月公開)で、共同監督としてドナルド・クリスプを起用。彼は後にジョン・フォード監督の「わが谷は緑なりき」('41年)の家長役など役者としても知られるようになりますが、この「海底王THE NAVIGATOR(1924) 料理.jpg」では、キートンをぎょっとさせる「写真の男」として登場しています。キャサリン・マクガイアは前作「探偵学入門」に続いての相手役で、キートンと気の合う演技を見せますが、ドナルド・クリスプの方は、キートンの考えにあまりに口出しするため、撮影期間の途中でキートンが共同監督を解任してしまったそうです。
THE NAVIGATOR(1924)  キス.jpg 前半部分は、豪華客船に取り残された2人が最初は互いに行き違ってばかりでなかなか遭遇し得ないなど、細かいコント風の遣り取りを見せますが、従来の一般的なドタバタ喜劇の定番のパイ投げのような場面は無く、あくまで長編であることを意識した作りになっています。
 一旦はベッツィにフラれたロッロではあったものの、2人が意図せずして船内で新婚生活のような暮らしを始めることになるという微笑ましい設定がよく生きているように思います(2人が言い争っている際の影絵がキスしているように見えるスチールが巧み)。

THE NAVIGATOR(1924).jpg 原題になっているこのハワイ行き客船「ナビゲーター号」は、「バフォード号」という大型客船が廃棄処分になるという情報を得たキートンが2万5千ドルで買い上げたそうで、船の備品がギャグに上手く使われており、おそらくキートンは"居抜き"でこの客船を買ったのではないでしょうか。

 やがて船は人食い人種のいる島へ漂着し、ベッツィは原住民にさらわれる―この辺りからぐーんとスケールアップしてきて、何となく「小品」とのイメージがあったのですが、今観直してみると、やはりお金もかかってっているし、キートンのアクションの魅力も十分に発揮されていました。

 「海底王キートン」とのタイトルの通り、キートンが船の修理海底王キートン(1924) キートン.jpgのために潜水服を着て海に潜る「海中シーン」があり、これがよく出来ています。THE NAVIGATOR 海中.jpg実際の撮影はシエラネヴァダ山中にあるタホ湖(かつては世界第3位の透明度を誇った)で行われましたが、水温が低すぎて30分と潜っていられず、水中シーンだけで4週間も要したそうです。加えて、当時の潜水技術からするとかなり危険な撮影でもあったように思われます(「アクション度の低い作品」との見方は間違っていたかも)。しかしながら、大ダコはどうやって撮ったのか?(ある部分では"特撮映画"とも言える作品か)

Buster Keaton and Kathryn McGuire
Buster Keaton and Kathryn McGuire.jpg海底王キートン(1924) 3.jpg 「人食い人種」の描かれ方が今の時代海底王キートン(1924) クルマ.jpgからするとどうかというのはありますが、和暦でいえば大正13年の作品になるわけで、これは仕方ないか。冒頭で向いの家に行くにも運転手付の車を使っていた「お坊ちゃまロッロ」が、最後は一人の頼りがいある男として女性の愛を獲得するという成長物語にもなっていて、観ていて心地よい作品です。加えて"映画史上初の海中シーン"などもあったためか、実際、当時としても大ヒットし、この作THE NAVIGATOR(1924) ボート.jpg品によってキートンはドル箱スターの仲間入りを果たします(因みに、「Wikipedia」によれば、キートン作品の中で興行収入において最も成功した作品であるとのこと)。
 勿論、肩肘張って観るような作品ではないです。「人食い人種」が畏怖した潜水服姿のキートンがむしろ何とも言えず愛らしく、ベッツィがそのキートンを筏代わりにして危機を脱する場面などは、よく考え付いたアイデアだなあと感心させられました。
The Navigator (1924)
The Navigator (1924).jpg
keaton The Navigator.jpg海底王キートン 10.jpg「海底王キートン」●原題:THE NAVIGATOR●制作年:1924年●制作国:アメリカ●監督:バスター・キートン/ドナルド・クリスプ●製作:ジョセフ・M・シェンク●脚本: ジーン・ハヴェッツ/クライド・ブラックマン/ジョセフ・ミッチェル●撮影:エルジン・レスリー/バイロン・フーク●時間:59分●出演:バスター・キートン/キャスリン・マクガイア/フレデリック・ブルーム/ノーブル・ジョンソン/H・M・クラグスト/クラレンス・パートン●米国公開:1924年10月(評価:★★★★)


爆笑コメディ劇場2 DVD10枚組.jpg爆笑コメディ劇場 2 チャールズ・チャップリン バスター・キートン マルクス兄弟 ローレル&ハーディ BCP-062 [DVD]
keaton The Navigator2.jpg《読書MEMO》
●「爆笑コメディ劇場2」収録作品
1. 海底王キートン ( 59分 / モノクロ・サイレント / 1924年 )
相手もいないのに結婚したくなったので、家の向かいの海運王の娘にプロポーズするもすげなく断られた大富豪の御曹司ロロ。新婚旅行用に予約していた客船に一人さびしく乗るはずが、間違えて娘の父親の船に乗ったのが運の尽き...。
2. マルクス一番乗り ( 109分 / モノクロ / 1937年 )
競馬場近くの診療所は経営難に陥っていた。オーナーのジュディは、富豪夫人の強い希望で名医ハッケンブッシュ博士を招くことになったが、彼は馬専門の獣医だったのだ。診療所の運命やいかに!マルクス兄弟の強烈なギャグが冴えわたる傑作。
3. キートンの鍛冶屋 ( 同時収録「キートンの空中結婚」 : 42分 / モノクロ・サイレント / 1922-3年 )
鍛冶屋で助手として働くキートンはドジの連続。親方のいないある日、蹄鉄を馬に打とうとして失敗したり、車を修理しようとしてポンコツにしてしまったりと、やることなすことヘマばかり...。爆笑必至の「キートン空中結婚」を同時収録。
4. チャップリン醜女の深情 ( 同時収録「チャップリンの夜遊び」 : 106分 / モノクロ・サイレント / 1914-5年 )
詐欺師はある娘を誘惑して家から大金を持ち出させることに成功するが、彼女を捨てた後で、娘が億万長者になったことを知り・・・。酔っ払ったチャップリンが行く先々でトラブルを起こす「チャップリンの夜遊び」を同時収録。
5. マルクス兄弟 珍サーカス ( 87分 / モノクロ / 1939年 )
ジェフが経営するサーカス団は借金まみれ。彼は友人と弁護士に相談し、ジェフの裕福な叔母が主催するパーティーで興行し、負債を返済しようとするが...。ゴリラも登場するクライマックスの空中ブランコの曲芸シーンは圧巻。
6. 天国二人道中 ( 68分 / モノクロ / 1939年 )
ヨーロッパ旅行中、パリで踊り子に恋をしたハーディ。結婚を決意していたハーディだったが、彼女にはすでに夫がいた。心の傷を癒すためローレルとともに外人部隊に入隊したのはいいが、ハチャメチャな大騒動を巻き起こしてしまう。
7. チャップリンのお掃除 ( 同時収録「チャップリンの寄席見物」 : 48分 / モノクロ・サイレント / 1915年 )
とある銀行の掃除係チャップリンは、エドナが自分を愛していると早とちり。しかし、本当に彼女が好きだったのは...。寄席にやってきたチャップリンが舞台裏でハチャメチャな騒動を起こす「チャップリンの寄席見物」を同時収録。
8. キートンの歌劇王 ( 81分 / モノクロ・サイレント / 1932年 )
真面目だが変わり者の大学教授は、遺産相続で大金持ちになったと思い込まされ旅に出る。道中、どさ回りの貧乏劇団と知り合う。気が大きくなった教授は、彼らのスポンサーとなり、ブロードウェイで興行をすることになるが...。
9. チャップリンの海水浴 ( 同時収録「彼の更正」「メーベルの身替り運転」 : 43分 / モノクロ・サイレント / 1914-5年 )
海水浴にやってきたチャップリンが二組の夫婦を巻き込んで繰り広げる、ナンパあり、喧嘩ありのドタバタコメディ。脇役として出演している「彼の更生」、レーサーに嫉妬する男を演じる「メーベルの身替り運転」を同時収録。
10. ユートピア ( 82分 / モノクロ / 1951年 )
遺産を相続したローレル。その中には太平洋の島もあり、さっそくハーディとともに船でその島に向かう。幾多の冒険の末、島に着くが、待っていたのはサバイバル生活だった。そして人が訪れるようになると彼らは島を独立国とするが...。

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いい話、いいラストだったなあという感じ。大河内傳次郎の名優たる証しである作品。
小原庄助さん dvd2.png 小原庄助さん 裏.jpg 小原庄助さん dvd1.png 小原庄助さん 2.jpg
小原庄助さん [DVD]」「新東宝傑作コレクション 小原庄助さん [DVD]」 大河内傳次郎

小原庄助さん 1.jpg 旧家の当主で朝寝・朝酒・朝湯をたしなむ杉本左平太(大河内傳次郎)は、人々から"小原庄助さん"と呼ばれていた。人の良い左平太は村人から頼まれると断り切れず、自分の財産をどんどん分け小原庄助さん 選挙.jpg与えたため、すでに破産寸前。妻おのぶ(風見章子)は着物を質入れして夫を支える始末。村長選挙への立候補を頼まれた左平太だったが、そんなことにはいっさい興味がないため和尚(清川荘司)を推薦するものの、対立候補である吉田次郎正(日守新一)に頼まれ応援演説をしてしまう。ついに無一文となり、妻にも逃げ出された左平太の家に、若い二人組の泥棒が入った。左平太は二人を投げ飛ばし、酒を勧めるのだった―。

清水 宏 「小原庄助さん」旧家.jpg 清水宏(1903-1966)監督の1949(昭和24)年「新東宝」映画で(配給会社は「東宝」)、静岡県・三島に実在する旧家の屋敷を借りてオールロケで小原庄助さん 大河内.jpg撮った作品。山根貞男氏によれば、リアリズム重視の清水宏監督は、撮影初日にバッチリ化粧してきた大河内傳次郎を厳しく注意し、抵抗する大河内に対し、最初に「朝湯」のシーンを撮って敢えてそのメーキャップを台無しにしたとのことです(よって本作は、ノーメークの大河内傳次郎を観ることが出来る貴重な作品とも言えるのでは)。こうした清水監督の映画作りへのこだわりが、結果的に、チャンバラ映画などでのいつものきりっとした役柄とは全く異なる役柄を演じた大河内傳次郎の、この作品の中での存在感を引き立つものとしていて、ある種の理想的な人物像ではあるが、ともすると現実味が失われそうになりがちな主人公のキャラクター設定に、しっかりしたリアリティを吹き込んでいるように思えました。

小原庄助さん5.jpg 主人公の"小原庄助さん"こと左平太は、村の青年団の野球チームにユニフォームは寄贈するは、婦人会にたくさんのミシンは寄付するは(そのために「文化的な生活を推進する」というマーガレット中田(清川虹子)に乗り込まれて往生する)のお人好しぶりで(それも借金生活にありながら)、人に頼まれて、町に出て闇商売をしているおりつ(宮川玲子)に村に帰るように説得しに行きますがこれは失敗。でも、おりつの情夫(鮎川浩)が実は骨のある男だと分かって意気投合、ダンスホールに入ったらマーガレット先生がいて無理矢理一緒に踊らされた上に、支配人の吉田次郎正まで出てきたのを、この情夫が"ガン飛ばし"して追っ払ってくれます。

小原庄助さん 和尚.jpg 左平太は、先代、先々代と村長だったことから、次期村長の座を狙う次郎正が村長選挙に立候補するつもりか探りに来たのに対し、その気は無いと言ってその応援演説まで引き受けて、一方で村人から村長選に出馬するよう乞われて、和尚を立てるも次郎正が勝利します。左平太のいい加減な応援演説が可笑しかったです(それは次郎正の政策理念の無さをそのまま反映しているのだが)。でも、当選祝賀会に出ることまでは頼まれていないときっぱり断っていたなあ、和尚の落選残宴会の方に出ると言って。結局、選挙違反で次郎正の当選は無効となり、和尚が繰り上げ当選に。人口二千人くらいの村だと、却って買収とかあったりするのでしょうか。

 左平太は、上に立つべき者は家柄ではなく人柄が大事で、自分は家柄で村人から村長選に立つように言われていると自覚しているけれど、実際のところは人柄が村の皆から好かれているようです。でも、本人は、地位も名誉も望まないし、財産すら無意識的に、或いは半ば意識的に放棄しようとしているようであり、最後は全てを失って、侘しさの中にもむしろスッキリしている感じでした。さすがに妻のおのぶが義兄に連れられて実家に帰ってしまった時は寂しそうでしたが、家の品物を競売にかかっているような状況で芸者遊びをしているくらいだから無理もないか。

小原庄助さん 風見.jpg小原庄助さん ラスト.jpg しかし、そうした場におられないという左平太の気持ちも分かる気がすると言っていた妻おのぶは、足代わりの愛用のロバさえ子供達に譲り渡して徒歩で駅に向かう左平太を、最後に追いかけてくる―ああ、いい話、いいラストだったなあという感じ。よく出来た奥さんであり、夫婦の愛情物語でもありました。

 ラストで「始」という字が出て、何も画面に出ないまま「小原庄助さん」の曲が流れるのは、夫婦のこれからをどう暗示しているものか色々な解釈があるでしょう。左平太が無一文となるストーリーの背景には、1947(昭和22)年にGHQの指揮の下で始まった農地改革があることは間違いなく、遅かれ早かれ似たような状況になることは左平太自身も頭の中にあったのではないかという気がします。清水監督は必ずしも彼を"時流に取り残された敗者"としては描いていないように思われました。

 左平太が泥棒二人を投げ飛ばすところの身の動きだけが、黒澤明監督の「姿三四郎」('43年/東宝)の"矢野正五郎"になっているのが楽屋ネタ的に可笑しいですが、山中貞雄監督の「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」('35年/日活)のやや戯画化された丹下左膳役と比べてもコミカルの質が異なるし、ましてや同じ黒澤監督の「虎の尾を踏む男達」('45年完成、'52年/東宝)の歌舞伎「勧進帳」そのものの弁慶役と比べるとその演技の違いの大きさは目を瞠るものがあり、やはりこの人、単にスターであるばかりでなく、名優でもあったのだなあと思いました(私見ながら、何を演じてもその人、その役者というのは「スター」か「大根」であり、全く違う役柄をしっかりと演じ分けられるのが「名優」かと...)。
 
小原庄助さん 1949.jpg「小原庄助さん」●制作年:1949年●監督:清水宏●製作:岸松雄/金巻博司●製作会社:新東宝●脚本:清水宏/岸松雄●撮影:鈴木博●音楽:古関裕而●時間:94分●出演:大河内傳次郎/風見章子/飯田蝶子/清川虹子/坪井哲/川部守一/田中春男/清川荘司/杉寛/宮川玲子/鮎川浩/鳥羽陽之助/日守新一/石川 冷 /尾上桃華/高松政雄/倉橋享/今清水甚二/高村洋三/佐川混/加藤欣子/徳大寺君枝/赤坂小梅●公開:1947/11●配給:東宝(評価:★★★★)

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やや大味とも言える波乱万丈型ストーリーのお蔭で、高峰秀子の演技の幅を実感できる?

愛よ星と共に ポスター.jpg 「愛よ星と共に」ポスター 愛よ星と共に vhs.jpg VHS(国際放映・日本映画傑作全集) 下スチール写真中央:高峰秀子
愛よ星と共に 01.jpg 十年ぶりに北海道の北島牧場を訪れた邦彦(池部良)は、牧夫頭の娘はるえ(高峰秀子)と再会した。とても美しくなったはるえをみた邦彦はとても驚いたが、綺麗になったと言われ自分の姿を小川の水に映しては何時までも自分を見つめる彼女は、まだ無垢な乙女そのものであった。邦彦とはるえは、牧場の小川で一夜を過ごした。はるえは邦彦の語る美しい星の話を興味深く熱心に聞いていた。しかしその話はあまりにも美しくあまりにも巧みな運命の夢だった。邦彦が東京へ帰ってから数月、はるえの腹には美しい星の子供が宿っていた。父からの反対に耐え切れず、はるえは家を飛び出し東京の邦彦を訪ねるが、時すでに遅く、彼がフランスへ旅立った後だった―。

愛よ星と共に41.jpg 阿部豊(1895-1977)監督の1947(昭和22)年「新東宝」作品で(黒澤明の「野良犬」('49年)などと同じく製作会社は「新東宝」で配給会社は「東宝」)、池部良(1918-2010)、高峰秀子(1924‐2010)主演ですが、この2人、同じ2010年、池部良は10月18日(享年92)、高峰秀子は12月28日に(享年86)それぞれ亡くなっていることに改めて思い当った次第です(共に名エッセイストでもあった)。

阿部 豊 「愛よ星と共に」21.jpg 牧場主、つまり上流階級に属する男性と恋し合って一夜を共にするも、娘より自らが仕える本家の方を気遣う牧夫頭の親によって勘当され、北海道の家を出て東京にその男性を追うも、恋人は海外へ渡航した後。身重の身で生活すらままならず、独り寂しく赤ん坊を産むが、その赤ん坊にも病で死なれて、女給の生活に身を窶(やつ)す。しかし、やがてその世界で「花形女給」として名を馳せるようになり、そんな中、男女のもつれからある男を誤って銃で死なせてしまう。世間からは次々と男を渡り歩く毒婦のようにみられ、裁判でも死刑判決を受けるが、自身がこの世界に身を置くようになった契機が、赤ん坊が亡くなったことにあるとは判明するも、その赤ん坊が誰との間の子であったかは公判で明かすことなく、判決を受け入れようとする。そこへ―。

阿部 豊 「愛よ星と共に」31.jpg 女性映画と言うかメロドラマと言うか、しかもハーレクインみたいな波乱万丈(或いはシドニィ・シェルダン風か)。テレビがある時代なら13話連続のテレビドラマだろうけれど、まだテレビが登場する何年か前なので、TVドラマが担っているような役割を、その分も含め映画が担っていたのだなあと思わせる作品でした。

 やや強引な話の展開はともかくとして、やはり注目は、高峰秀子の演技でしょうか。彼女は、天才子役からアイドル女優、そして本格女優へと各ステップにおいて確実に成長を遂げた稀有なケースであり、様々な作品への出演を通して、純真無垢な娘から恋する乙女、社会の底辺に生きる女から生活のために水商売に墜ちる女、そうした世界で妾になったり売れっ子になったりする女などを演じ分けきたわけですが、この作品では、やや大味とも言える波乱万丈型ストーリーのお蔭で、彼女の演技のそうした(全てとまでは言わないまでも)多くのパターンを一作品の中で堪能することができます(結果的にその点がこの作品の一番の見所となっているのでは?)。

 高峰秀子は既に人気アイドル女優だった16歳の時(山本嘉次郎監督の「エノケンの孫悟空」('40年)などに出ていた頃)、豊田四郎監督の「小島の春」('40年)に出演した杉村春子(1909-1997)の演技にショックを受けて演技開眼したそうですが(やがて成瀬巳喜男監督の「流れる」('56年)で2人は共演する)、その後、実に演技の幅が広い女優になっていったように思います。但し、この作品出演時は、彼女自身初めて子を持つ母親役を演じ、タバコを吸う役柄も初めてであって、そのためにタバコを吸う仕草の特訓などもしたそうです。そうした努力の甲斐もあってか、娘役だけでなく、淪落の水商売女の演技なども板についていますが、やはり、当時23歳という若さにして「花形女給」(カリスマ・ホステスといった感じか)を堂々と演じ切っているのは、もともと素養的に華があった女優だったからでしょう。一方で、後の野村芳太郎監督の「張込み」('58年/松竹)などでは、そうした華やかさを完全に封印して市井の女を演じていたりもしています。やはり、スゴイ女優だったなあと改めて思います。

愛よ星と共に.gif愛よ星と共に55.gif 因みに、この作品は北海道・幕別町の新田牧場でロケが行われていますが、なぜ新田牧場がロケ地に選ばれたかというと、この映画のプロデューサーだった青柳信雄が札幌の雪印乳業を訪問した時に新田牧場愛よ星と共に ロケ地.jpgを紹介されたとのこと。戦後間もない食糧難の折、当地では白米、牛乳、玉子、肉等などの供給が豊かで、40日のロケ期間中、ロケ隊には毎日が天国のようだったとも言われています。

北海道・幕別町ロケ・新田牧場での集合スナップ(「映画俳優:伊豆肇と池部良」より)

池部良 宇宙大戦争.jpg「愛よ星と共に」●制作年:1947年●監督:阿部豊●製作:青柳信雄●製作会社:新東宝・映画芸術協会●脚本:八田尚之●撮影:小原譲治●音楽:早坂文雄●時間:95分●出演:高峰秀子/池部良/横山運平/浦辺粂子/川部守一/藤田進/逢初夢子/清川莊司/一の宮あつ子/田中春男/鳥羽陽之助/冬木京三/鬼頭善一郎/江川宇礼雄/山室耕/花岡菊子/條圭子/水島三千代●公開:1947/09●配給:東宝(評価:★★★)

池部 良 in 本多猪四郎監督「宇宙大戦争」('59年/東宝)

高峰秀子 in 小津安二郎監督(原作:大佛次郎)「宗方姉妹」('50年)/木下惠介監督(原作:壺井栄)「二十四の瞳」('54年)/成瀬巳喜男監督(原作:幸田文)「流れる」('56年)/野村芳太郎監督(原作:松本清張)「張込み」('58年)
宗方姉妹 高峰.jpg二十四の瞳0 1a.jpg流れる 1シーン.jpg野村 芳太郎『張込み』(1958).jpg

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このシリーズらしく、観終わった後の印象は重かったねえ。やや救いが無さすぎた感じもするが...。

モース16 メアリー・ラプスレイに起こったこと dvd.jpg モース16 メアリー・ラプスレイに起こったこと dvd.jpg モース警部 Vol.16「メアリー・ラプスレイに.jpg
"Inspector Morse: Second Time Around [DVD] [Import]"(メアリー・ラプスレイに起こったこと)

メアリー・ラプスレイに起こったこと2.png 元警視副総監ヒリアン(モーリス・ブッシュ)の叙勲パーティが開かれ、モースはかつての同僚でタカ派のドーソン警部(ケネス・コリー)と会話する。ドーソン夫妻は酔ったヒリアンを彼の屋敷に送り、ソファーに寝かしつけ帰宅するが、何者かが侵入して部屋を物色、気づいたヒリアンと揉み合いになり、投げられたヒリアンは床で頭を打って死亡する。彼は回顧録を執筆中で、犯人は原稿の一部を奪い去っていたが、それは18年前のメアリー・ラプスレイという少女の殺人事件に関係するもので、その時の容疑者だったレッドバス(オリヴァー・フォード・ディヴィス)が、車を目撃されたとしてまたもや逮捕される。回想録が出版されることで、未解決事件の犯人として再び自分に嫌疑がかかるのを恐れたための犯行との見方が有力だったが、ドーソンは彼は犯人ではないという確信を持っているようだった。彼の妻(アン・ベル)は夫の直情径行を心配している。捜査の指揮官はモースだが、ドーソン警部の助言も参考にしながら調べていくうちに、モースは少女の隣人ミッチェル家(母パット・ヘィウッド、息子クリストファー・エクルストン)に注目するとともに、殺害された少女の父親が誰なのかを探る―。

モース16 メアリー・ラプスレイに起こったこと vhs.jpg 「主任警部モース」シリーズの第16話で、1991年に本国で放映され、2001年に日本語字幕付きVHSが発売されています。「IMDb」のレーティングは8.4と高め。

 ルイスがレッドバスが犯人だと決めつけ気味であることから、逆に真犯人は誰かということが見えてこなくもなく、本来は非常に意外性の高い犯人であるところが、そうでもなかったような...。
モース16.jpg 一方で、動機はラスト近くまで判らなかったなあ。その背後事情となると尚更に複雑で、子供に対する親の愛情が、復讐と保護という形でダブルで拮抗していたわけかあ。ドーソン夫妻の夫婦間の溝というのも伏線としてあったことになるけれど、これだけではねえ。モースとドーソン夫人の間に恋愛感情は芽生えるのか―といった関心は引き起こしたけれど。

 でも、このシリーズらしく、観終わった後の印象は重かったねえ。ちょっと救いが無さすぎた感じもしますが、ずっとモースの捜査方法に異議を唱えて、仕舞にはややプッツンした感じだったルイスが、最後に素直にモースに謝るところは清々しかったです。勿論、モースは「いいんだ」とも「気にするな」とも言わないんだけど。

INSPECTOR MORSE:Second Time Around.jpg「主任警部モース(第16話)/メアリー・ラプスレイに起こったこと」●原題:INSPECTOR MORSE:SECOND TIME AROUND●制作年:1990年●制作国:イギリス●本国放映:1991/02/20●監督:エイドリアン・シェアゴールド●脚本:ダニエル・ボイル●原案:コリン・デクスター●時間:104分●出演:ジョン・ソウ/ケヴィン・ウェイトリー/モーリス・ブッシュ/ケネス・コリー/オリヴァー・フォード・ディヴィス/アン・ベル/パット・ヘィウッド/クリストファー・エクルストン●ⅤHS発売:2001/02●発売元:日本クラウン(評価:★★★☆)
Chief Inspector Morse (John Thaw) talks over the case with Chief Inspector Patrick Dawson (Kenneth Colley) in the gardens of a venue for the Oxford Arts Festival.

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神父と前任・新任それぞれの警部補との関係性の部分が、それぞれにおいて楽しめたか。

Father Brown Complete Series 2 - BBC.jpgブラウン神父 s2.jpg  mezzanine_232_jpg_fit_344x192.jpg
Father Brown Complete Series 2 - BBC [DVD] /Father Brown | S2, E1: The Ghost in the Machine
ブラウン神父 s2-1.jpg ビクター・マッキンレー家に呼ばれたブラウン神父は、夫人のシャーロットから"悪魔祓い"をしてほしい、と依頼される。シャーロットは、屋敷に幽霊がいて、突然物が動き出したりする、と言うのだ。実は、シャーロットには妹が居るが、9年前から行方不明になっていた―(第11話"The Ghost in the Machine" ソフト化時邦題「物体に宿る霊」)。

ブラウン神父 s2-2.jpg デンバーズ療養所を脱走したフィリックスは、「殺人...」と呟いて意識不明に陥る。サリバン警部補に止められながらも、療養所に不審を抱いたブラウン神父は自ら調査に乗り込んでいく。後日、フィリックスの葬儀が行われるが、フィリックスが突然息を吹き返す―(第12話"The Maddest of All" ソフト化時邦題「狂気の沙汰」)。

 BBC「ブラウン神父」シーズン1(全10話)の好評を受けて製作されたシーズン2(全10話)は、本国放映では2014年1月に月金のベルトで2週間に渡って一挙放映されましたが、日本ではAXNミステリーで、この第11話("The Ghost in the Machine")と第12話("The Maddest of All")のみ(Director:Matt Carter)、'14年5月に先行放映されました。

 本国でも人気が定着し、シーズン3の制作も決定しているようですが、もうマーク・ウィリアムズのブラウン神父像をはじめ、TVシリーズ独自の世界が確立されている印象で、原作のどの作品に該当するのか追いかけてもあまり意味がないのかも(シーズン1も半分はオリジナルだったし、シーズン1の時から"based on the character created by G.K. Chesterton"とはなっていたが)。

 第11話の原題の「機械の中の幽霊」という言葉は、デカルトの、内的に省察する自己のドグマ(身体=機械から切り離された内省する自己=幽霊)に関するギルバート・ライル(Gilbert Ryle, 1900-1976)による批判の表現として有名ですが(ライルは、デカルトの身体と心の二元論を嘲笑して、我々は機械(身体)の中に住む幽霊(心)なのだと表現した)、ライルがそのことを著した『心の概念』を発表したのは、1936年にG・K・チェスタトンが亡くなった、その13年後の1949年。

The Ghost in the Machine.jpg タイトルが大仰な割には結末はやや拍子抜けではあったけれど(事件と言うより事故だったわけか)、バレンタイン警部補が最後に警部に昇進してロンドンに赴任することになり、それまで事件の解決に際して先を越されてばかりで良くは思って神父に対して、自分が昇進できたのはブラウン神父のお蔭であることを素直に認めて礼を言うのが清々しく、同じMiss Marple   They Do It With Mirrors - コピー.jpgくBBCで1984年から1992年にかけて放映されたジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープルシリーズ」の終盤第11話「魔術の殺人」('91年)で、スラック警部が警視に昇進する前にミス・マープルにぎこちなく礼を言った場面を想起しました(評価★★★☆)。

サリバン警部補.jpg そして、第11話のエンディングで、ブラウン神父にあまりいい感情を抱いていない風の新任サリバン警部補が、第12話では本格的に事件を担当することになります。う~ん、これも犯人は大体読めてしまうし、事件そのものはイマイチだった気がしないでもないですが、サリバン警部補がバレンタイン警部補の最初の頃と同じく、ブラウン神父の事件への介入を嫌いながらも、ブラウン神父が療養所に患者として潜入しようと仮病を使ったのに対し、咄嗟にそれに合わせるような行動を取って神父の入院を後押ししたところなどは、意外と柔軟だったというか目的合理主義者であるような印象を受けました(後で、本当は逮捕するところだと忠告はしていたが)(評価★★★☆)。

 事件そのものはイマイチでしたが、神父とそれぞれの警部補との関係性の部分が、それぞれにおいて、まあまあ楽しめた2作でした(☆はその分のオマケといったところか)。


ブラウン神父の事件簿 DVD-BOXI(2018年リリース)
ブラウン神父の事件簿 DVD-BOXI.jpg【収録内容】
Disc.1 「神の鉄槌」The Hammer of God / 「飛ぶ星」The Flying Stars
Disc.2 「狂った形」The Wrong Shape / 「木の中の男」The Man in the Tree
Disc.3 「アポロの眼」The Eye of Apollo / 「キリストの花嫁」The Bride of Christ
Disc.4 「悪魔の塵」The Devil's Dust / 「死者の顔」The Face of Death
Disc.5 「市長とマジシャン」The Mayor and the Magician / 「青い十字架」The Blue Cross
Disc.6 「物体に宿る霊」The Ghost in the Machine / 「狂気の沙汰」The Maddest of All
Disc.7 「プライド家のプライド」The Pride of the Prydes / 「絞首台の影」The Shadow of the Scaffold
Disc.8 「ロザリオの謎」The Mysteries of the Rosary / 「エルサレムの娘」The Daughters of Jerusalem
Disc.9 「三つの兇器」The Three Tools of Death / 「ジェラード大佐の褒美」The Prize of Colonel Gerard
Disc.10 「死神」The Grim Reaper / 「行動の法則」The Laws of Motion

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震災・原発事故に一早く反応した漫画家の一人。プルトニュウムを擬人化した女性像が興味深い。

なのはな 萩尾望都.jpg なのはな nhk.jpg           あの日からのマンガ  しりあがり寿.png
なのはな (フラワーコミックススペシャル)』 NHK「クローズアップ現代」(2014.6.2)より 『あの日からのマンガ (ビームコミックス)

 作者が2011年3月に発生した東日本大震災と、それに続く原発事故に衝撃を受けて発表した幾つかの短編を1冊に纏めたもので、福島に住む少女ナホの物語である冒頭の「なのはな」が'11年8月号の雑誌「flowers」発表と最も早く、この物語の続編の形で宮澤賢治の『銀河鉄道の夜』のモチーフを織り込んだ巻末の「なのはな―幻想『銀河鉄道の夜』」は、この短編集刊行のための描き下ろし('12年1月)。この2作の間に、'11年末から'12年にかけて雑誌発表された「プルート夫人」「雨の夜 ―ウラノス伯爵―」「サロメ20XX」の3作を挟む全5編から成り立ちます。

福島をテーマにしたさまざまな漫画.jpg 漫画「美味しんぼ」における原発事故による健康への影響を巡る表現が大きな波紋を呼んだ一方で、今、福島を描いた漫画が注目を集めているということで、今月['14年6月]2日放送のNHK「クローズアップ現代」で「いま福島を描くこと~漫画家たちの模索~」という特集を組んでいましたが、山本おさむ氏のグルメ漫画「そばもん」、竜田一人氏の福島第一原発での作業員体験のドキュメント漫画「いちえふ」が作者とともに紹介されていました(竜田氏は個人を特定できないように、との条件の下での登場)。
NHK「クローズアップ現代」(2014.6.2)より

今日のNHKクローズアップ.jpg こうした「原発漫画」の先駆けが、この萩尾望都氏の作品(コレ、個人的には偶々番組で紹介される前に読んでいた)と、番組にゲストとして登場していたしりあがり寿氏の『あの日からのマンガ(Beam comix)』('11年7月刊行)でしょう。
 しりあがり寿氏は朝日新聞夕刊に四コマ漫画の連載を持っていたことで、その連載漫画「地球防衛家のヒトビト」で2011年3月以降リアルタイムで東京からのフクシマなど被災地への想いを発信するともに、コミック誌では独自の前衛コミックの作風のまま、震災や原発を扱った短編を発表し、この単行本では、震災直後の「地球防衛家のヒトビト」の連載を再掲するほか、短編4作、シュール漫画「双子のおやじ」などを収録、加えて、家族で被災地へボランティアへ行った時の朝日新聞への寄稿記事も収めていますが、一方で、氏の他の作品集に見られるような解説やあとがきはなく、作品だけで勝負している感じです。

 しりあがり氏は、大学でメディア表現学の授業を担当するなどして、今年['14年]春の叙勲で紫綬褒章を受章するなど、急速に"文化人"っぽくなってきている印象もありますが、自らが創作者として原発・震災関連の作品をいち早く発表しているだけに、「クローズアップ現代」のこうした特集に出て語るには相応しい人ということになるのかも。個人的にも違和感はありませんでした。
puru-to.jpg 一方の萩尾氏は、2011年、東日本大震災の前に引退を考え、短編数編でフェイドアウトする予定だったのが、震災及び原発事故で引退を延期したとのこと(この人もしりあがり氏に先だって2012年春に少女漫画家では初となる紫綬褒章を受章している)。

 震災で終末を表すものには規制ムードがかかって描けない状況の中、「プルート夫人」「雨の夜 ―ウラノス伯爵―」「サロメ20XX」は放射性物質を擬人化した作品となっていますが、放射性物質や原発を擬人化する手法はしりあがり氏も用いています。

 個人的に興味深く思ったのは、萩尾氏の作品のプルトニュウムを擬人化した女性像などが、作者の普段の少女漫画風の筆のタッチとしてはやや異なり、非常にセクシーに描かれている点で、これは、原子力を理想のエネルギーとして崇めた"男性"原理や「原子力村」を形成した"男性"社会に対する風刺が込められているのかなとも思ったりしました。
「プルート夫人」より

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