2012年2月 Archives

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巷の評価が高かった割には、個人的には相性がイマイチだった2冊。

『破壊と.jpg『破壊と創造の人事』.jpg「働くこと」を企業と大人にたずねたい.jpg
破壊と創造の人事』['11年]『「働くこと」を企業と大人にたずねたい ―これから社会へ出る人のための仕事の物語』['11年]

 『破壊と創造の人事』('11年/ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、帯には守島基博・一橋大学教授推薦とあり、Amazon.comでレビューでは高い評価で、『労政時報』のアンケートでも、人事パーソンが推薦する本に入っていました。

 第1章で「日本の人事」の歴史を辿り、バブル崩壊以降、2度の転換期を経ていることを指摘していて、このあたりはまあまあ導入部としてはよく纏まっていたように思います。第2章は、第1章の状況を踏まえ、これからの人事が、戦略人事として成果を上げるにはどうすればよいかを「教育・人材開発」「コーポレイトユニバーシティ」「採用」「グローバル化」「グループ人事」「メンタルヘルス」といったキーワードに沿って考察したとのことですが、この部分もキーワードとして挙げたテーマを巡る問題の解説としてはよく纏まっていたと思いますし、個人的には、「人材データベース」の節などは"我が意を得たり"という感じでした。

 それでいよいよ本論かと思ったら、第3章として、グローバル人材、経済、コーチング等いろいろな分野で活躍する第一人者へのインタビューが挿入され、第4章でやっと本論に、という感じ。ところが、この第4章の実際の中身は、人事担当者が現在おかれている位置と今後のキャリア形成について概観的に20ページぐらい述べられているだけで、その後すぐ、第5章として、著者が2年間で大企業を1000社以上廻って取材したという人事部長や人事部の各担当者のインタビューからの抜粋があり、これでお終わり。

 インタビュー集にするならインタビュー集で1冊に纏めた方が良かったような気もしますが、1000社以上廻った中から選んだという割には、インタビューの内容にもムラがあり、"玉石混交"感が。インタビューのテーマがあっちこっち飛ぶのも困りますが、そもそも、本論がどこにあるのか分からないような変則的な構成の本だったように思われました。

 『「働くこと」を企業と大人にたずねたい ―これから社会へ出る人のための仕事の物語』('11年/東洋経済新報社)は、これから就職しようとする人や若い人々に向けて、働くとはどんなことか、良き企業人とは、良き社会とはについて、さまざまな角度より論じた本で、著者は、企業の人事担当として、30年間のべ1万人にわたる人事・採用面接に立ち会ってきたとのことですが、まず、あまりこうした数字を誇示しない方がいいと思うなあ。著者の会社はしっかり面接していたのかもしれないけれど、世の中には、いい加減な面接で数だけは何万とこなしている採用担当者もいるかも知れないし。

 本の中身自体は、書いている人はすごく真面目そうだなあという感じがしましたが、あまりに"考え中"のことが多いような気がして、そもそも、コンサルタントでも評論家でもなく、現役の人事マンなのだから、あまり結論めいたことばかり言うのも変なのですが(その意味では自分に正直な人なのだろう)、しかしながら、"考え中"のことを"考え中"のまま書いているような気がしなくもありませんでした。

 冒頭の小説風の文章などはその典型で、そのモヤっとした感じが全体にも敷衍されていて、図説にもその傾向がみられたように思います。部分部分においてはそれなりの示唆を得られた箇所もありましたが、チャート図的に矢印で関連づけられていてその部分の解説が無かったりすると、どうしても引っ掛かってしまいました。

 読む人が読むと嵌るのでしょうが(自分が読者として未熟なだけかも)、全体に「思考ノート」みたいで、本にするのはちょっと早かったのではないかなあ。ただ、こちらもAmazon.comでレビューでは高い評価であり、玄田有史・東大教授の解説も付されています。

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マトモだけどインパクトが弱い就活本。

もうダメだと思ったときから始まる「就活」大逆転術.jpgもうダメだと思ったときから始まる「就活」大逆転術l.jpg
もうダメだと思ったときから始まる「就活」大逆転術 (青春新書プレイブックス)

 学生向けの「就活」ハウツー本にはかなりヒドい内容のものもあり、特に比較的若手の就職コンサルタントとか就職ジャーナリストが書いたものの中には、心情的に学生に近い立場をとろうとしているのか、"ブラック企業"のことを面白おかしく露悪的に書いたりして、却って学生を不安や疑心暗鬼に陥れるのではないかと思われるものもあったりします。

 そうした本に比べると、実際に大学のキャリアセンターで相談業務を行っているベテラン・キャリアカウンセラーによる本書は、比較的まともな方かもしれません。「就活をマネジメントする」といった考え方はいかにもコンサルティングファーム出身者らしいけれど、全体としては、テクニカルなことより、心理面での啓発的な事柄にウェイトが置かれているように思いました。

 不採用通知、所謂"お祈りメール"を貰い続けても、落ち込んだ気分にならないように、「次いこう、次!」とか気分回復のパスワードを決めておく、或いは、イチローを尊敬している人はイチローの写真を携帯するようにして、常に憧れの人だったらどう就活するかを考える、などといったアドバイスは、なるほどなあと。

 但し、「勝負ネクタイ」を数本決めておくとか、だんだんお呪いみたいになってきて、そのうち読み終ってしまい、インパクトとしては弱かったかも(「就活」本の中では相対的にはまあまあだけど、絶対評価的にみると物足りない)。

 この本、どうせ読むなら、就活を始める前に読むべきで、「もうダメだと思ったとき」に読んでも遅いような気もしますが、この「もうダメだと思ったとき」というのはいつ頃になるのだろうなあ。

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就業規則の括りに沿って労働法や判例を解説。オーソドックス。『キーワードからみた労働法』の方が面白い。

就業規則からみた労働法 第三版9.JPG就業規則からみた労働法.jpg      キーワードからみた労働法.jpg
就業規則からみた労働法 第三版』『キーワードからみた労働法』('09年/日本法令)

 同著者の『キーワードからみた労働法』('09年/日本法令)などの姉妹版ですが、こちらの方が初版の刊行は早く('04年)、今回で第3版。労働基準法、育児介護休業法などの法改正に対応するとともに、最近の判例なども新たに盛り込んでいます。

 2章構成で、第1章で就業規則の作成・変更について解説したあと、第2章で、総則規定、採用、人事、賃金、労働時間・休憩時間、休日・休暇・休業、服務規律、表彰、懲戒、退職・解雇、安全衛生・災害補償...といった具合に、一般的な就業規則の規程の括りごとに、労働法上留意すべき点を解説し、必要に応じて」、条文例とそうした条文の下で発生した労務問題のケーススタディを設け、この部分は概ね実際の判例に準拠した解説になっているようです。

 就業規則の条文の表現・表記方法を、パターンをいくつも示して解説した就業規則作成のためのマニュアル本では無く、あくまで、労働法をより実務の沿った形で理解してもらうために、解説の括りを就業規則のそれに合わせたものと言えるかと思います。

日本法令.JPG 『キーワードからみた労働法』より若干大判で、字も大きめの横書き。読み易いですが、やはり読みどころは著者の判例解説になるのではないでしょうか(著者の判例解説は、一般の労働法学者が書くものに比べ読み易い)。

 但し、全体的に『キーワードからみた労働法』よりは"入門編"的な感じで、「最低賃金」「均等待遇」「雇止め」といった雇用・労働に関するキーワードを取り上げ、それらにおける一般常識や俗説をなで斬りしていた『キーワードからみた労働法』と比べると、オーソッドックスな解説書になっています。

 これはこれで、テキストとしては悪くない本だと思いますが、読んでいて面白いのは、やはり『キーワードからみた労働法』の方で、これを読んで面白く感じられた人は、更に、同著者の『雇用者会の25の疑問―労働法再入門』('07年初版、10年第2版/弘文堂)へ読み進むことをお勧めします。

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6年間連載した基本事項のQ&Aを、項目順を整理し、最新の法令に準拠し直した集大成。

労働法実務Q&A セット.jpg 労働法実務Q&A 上.jpg 労働法実務Q&A下.jpg 『労働法実務Q&A 全800問.JPG
労働法実務Q&A 全800問(上)(下) セット (労政時報選書)』『労働法実務Q&A 全800問(上) 人事・労務管理 (労政時報選書)』『労働法実務Q&A 全800問(下) 賃金・労働時間 (労政時報選書)』 『労製時報』連載のファイリング(下写真)

IMG_2734.JPG 人事専門誌 『労政時報』の付録として連載されていた「実務家のための法律基礎講座」のQ&Aを、単行本上下巻に収録したものです。
 上巻の「人事・労務管理」では、就業規則、採用、試用期間、教育・研修など22項目について、下巻の「賃金・労働時間」では、賃金、賞与、退職金、年俸制など20項目について、職場で問題となりがちな事柄をQ&A形式で取り上げ、弁護士や社会保険労務士など第一線で活躍中の多くの専門家が、執筆分担し解説しています。

 『労政時報』を購読している企業の人事・労務担当者の中には、本誌の毎号の巻末にある「相談室Q&A」に目を通しながらも、月の前半号に付録としてあったこの「実務家のための法律基礎講座」も読み、さらには、'05年8月の連載開始時からずっとファイリングしていた人もいるかと思いますが、自身が労働法の知識の確認・研鑽をするために読むのにもいいし、新任担当者に読ませるのにも適していると思っていました。

 6年間に及んだ連載の第1回のテーマは「賃金」であり、その後「普通解雇」「時間外・休日労働」「就業規則」......と続きました。時系列でファイリングしていくと、労働法の分野内とは言え、読み返す際にあちこちに"飛ぶ"ということになり、また、この6年の間に労働法規等の改正も相当にありました。
 この度の連載完結を機に、大括りのテーマごとに項目の順番を整理し、かつ最新の法令に準拠したものを単行本化してもらえればありがたいとは思っていましたが、今回の本書の刊行は、まさにそうした要望に応えるものでした。

 計800問というのは相当数の設問だと思いますが、これが2分冊で読めるのがコンパクトで便利であり、また、2色刷りとなってさらに読みやすくなっています。

 内容的にも、もともと執筆分担制で書かれたものであるため、各項目とも、取り上げるQ&Aが十分に厳選されているように思います。
 重要度の高い問題、実務家が直面する可能性の高い問題を優先的に取り上げており、極端な"レアケース"や、法律家が言うところの所謂"マニアック"なQ&Aに偏ることなく、結果として、実務において必要な労働法の基礎知識を、一通り網羅し解説していることにもなっています。

 単に項目数が多いというだけではなく、例えば「不利益変更」や「パートタイマー」「契約社員」など、横断的な切り口のテーマが設けられているのも、実務での利用に適っているように思います。

 全編を通して、専門家以外の人にも伝わるような分かりやすい言葉で書かれているため、実際の案件についての法的な取り扱いが知りたい場合の手引書として「引いて使う」だけでなく、労働法の解説書、知識基盤拡充のための学習書として「通して読む」のにも適していると言えます。

 また、社内で労務上のトラブルが生じた際などに、初心者や職場の管理者に対し、それが法的にはどのような扱いになり、どう対処すべきなのかということを、該当する事柄を解説した箇所を指し示すことで、できるだけ正確に伝えるといった使い方もできるかと思います。
 
 労務に携わる人にお薦めと言うか、是非手元に置いておきたいセット(置いとくだけでなく、時々でもいいから読みましょう!)。

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「読む教科書」としては(やや硬いが)優れモノではないか。

『労働法入門』.JPG労働法入門5.JPG労働法入門 (岩波新書)

 気鋭の労働法学者が、労働法は働く者にとってどう役に立つのかという観点から、大学で労働法を勉強したことがない一般社会人にも身近に感じられるように考えのもと、労働法の全体像を解説した入門書です。

 まず、労働法の背景や基礎にある思想や社会のあり方から、労働法の構造や枠組みを掘り起こしたうえで、採用・人事・解雇・賃金・労働時間・雇用差別・労働組合・労働紛争などについて、近年の新しい動きも含めて、労働法の全体像を解き明かしています。

 「はじめに」の部分にある、聖書において、神によってアダムとイブに『罰』として課されたとされていた「労働」が、マルチン・ルターのよって『天賦』としての「労働」という新たな解釈になったという話や、日本の労働観は「家業」としての労働であり、日本における「労働」とは、イエという共同体に結びつき、家族のための「生業」と、自分の分を果たすという「職分」の二面が合体したものをさすという著者の見解などは、興味深いものでした。

 本編に入ると、「入門」と謳っていながらも専門書を圧縮したような感じで(「入門」だからこそ当然そうなるのかも知れないが)、労働法の全体像を網羅した、堅実且つオーソドックスな内容ではあるものの、やや硬いかなあという感じも(著者もそのことを意識したのか、その"硬さ"を和らげるかのように、各章の冒頭にエッセイ風のプロローグがあるが)。

 それでも、テーマごとに重要判例などを交えながら、これだけの内容が新書1冊にコンパクトに纏られているのは流石という感じで、「読む教科書」として手頃な"優れモノ"ではないでしょうか。欧米諸国との比較なども随所に織り込まれていて、日本の労働法の特徴が、分かり易く浮き彫りにされているのもいいです。

 本書の中では、判例法理等が労働者にも会社にもきちんと認識されておらず、大学などで学ぶ「労働法」と実際に企業に入って味わう「現場」のギャップこそが、日本の労働法の最大の問題であるかもしれないとしています。
 
 最後には今後の労働法の方向性について述べられていて、「集団としての労働者」から「個々人としての労働者」に転換しつつある状況を踏まえて、労働法も「個人としての労働者」をサポートするシステムにシフトとしていくべきであるとする考え(菅野和夫・諏訪邦夫教授)と、労働者の自己決定を保障するためには国家による法規制が不可欠であり、とりわけ労働組合が脆弱な日本では国家法(労働法)がその役割を果たすべきであるとする考え(西谷敏教授)を紹介した上で、著者は、「国家」と「個人」の間に位置する「集団」(労働組合や労働者代表組織など)に注目し、「集団」的な組織やネットワークによって問題の認識と解決・予防を図っていくこと、そのための制度的な基盤づくりが重要な課題であるとしています。

 こうした提言部分もありますが、全体としては、タイトル通りの「入門書」としてのウェイトが殆どでしょうか。本書の中で、使用者も労働者も労働法を知らな過ぎることを問題の1つに挙げていますが、近年、労働社会の変化に応じて労働法制にも変化が見られるにも関わらず、またそれは、労働者全般に関わる問題であるにも関わらず、こうした「入門書」が岩波新書に無かったことを考えると、意義ある刊行と言えるのではないでしょうか。

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『労働法コンメンタール』を買わずとも、これで十分か。検索機能が充実している。

新訂版 労働基準法の教科書81.JPG 労働基準法の教科書 労務行政研究所.jpg 
新訂版 労働基準法の教科書 (労政時報選書)』(2011/07 労務行政)

新訂版 労働基準法の教科書 (61.JPG 「労務に携わる者、労働法を学ぼうとする者は『労働法コンメンタール』を読め」とはよく言われることですが、確かに、例えば労働基準法に関しては、厚労省労働基準局編の『労働法コンメンタール③ 労働基準法』(労務行政研究所)が最も詳しい解説書ということになるでしょう。

 しかし、上下刊で1100ページを超える大著で、「寄宿舎」とか「監督機関」など、一般の民間会社の人事労務担当者には関係の薄いジャンルの記述も含まれており、学者はともかく実務家にどれくらい利用されているのかなあと(冒頭の言葉は、実務家の人に言われたのだが、その人自身、あまり『コンメンタール』を読み込んでいるようには思えなかった)。

 本書は、『労働法コンメンタール③ 平成22年版 労働基準法』をベースとしながらも、一般の人事担当者が実務であまり使うことの無い部分の解説を省略し、労基法全119条の内、詳細な逐条解説は"日常よく使う"55条に絞ったもので、それでも700ページあり、実務に使う分にはこれで十分ではないかと思います。

 コンメンタール原本は縦書きであるのに対し本書は横書きであり、2色刷りで図解も多くて読み易く、また、条文の中のキーワードの右肩に青字の数字が記されていて、それが条文の後に続く解説の番号と対応しているなどの使い易さにも配慮されています。

 その他に、巻末に事項別の索引があり、更に「年次別通ちょう索引」も付されているため、行政通達の周辺事項を知るのに便利。判例索引も、判決の日付・事項番号・事件名が分かっている場合に、労働基準法との関係が分かるようになっているなど、検索機能については至れり尽くせりの充実ぶり。

 『コンメンタール』を買って積(つん)読になってしまうよりは、こっちを買って、線を引いたりタグを貼ったりして、ばんばん使った方がいいし、全1巻なので、携帯にもさほど負担にならないかと思います。

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雇用システムの「現実的・漸進的改革の方向」を示す。読めば読むほど味が出てくる"スルメ"みたいな本。

新しい労働社会3047.JPG新しい労働社会 雇用システムの再構築へ.jpg        濱口桂一郎.jpg 濱口桂一郎 氏(労働政策研究・研修機構)
新しい労働社会―雇用システムの再構築へ (岩波新書)』['09年]

 「派遣切り」「名ばかり管理職」「ワーキングプア」「製造業への派遣」といった現在生じている労働問題をめぐる議論は、それぞれ案件ごとの規制緩和論と規制強化論の対立図式になりがちですが、本書は、そうした問題を個別的・表層的捉えるのではなく、国際比較と歴史的経緯という大きな構図の中で捉えようとしています。

 序章において、わが国おける雇用契約は、諸外国と異なり「職務(ジョブ)」ではなく「メンバーシップ」に基づくものであり、そのことが日本型雇用システムの特徴である長期雇用、年功賃金、企業内組合の形成要因となっていることを明快に説いています。

 個人的には「メンバーシップ」という表現及びこの部分の論旨がものすごく分かりよかったのですが(序章だけでも読んでおく価値あり!)、こうしたことを踏まえ、労働問題の各論へと進みます。

 第1章では働きすぎの正社員のワークライフバランス問題をとり上げ、「名ばかり管理職」「ホワイトカラーエグゼンプション」をめぐる議論においては、健康確保措置の問題が報酬問題にすり替えられたと指摘していますが、これは個人的にも同感。マクドナルド事件は、名ばかり管理職問題ではなく過重残業問題だったというのは、何人かの著名な弁護士(主に使用者側)などもそう指摘していたように思います。

 第2章では非正規労働者の問題をとり上げ、「偽装請負」「労働者派遣法」などに関する議論について歴史的経緯を踏まえて再整理していますが、「日雇い派遣」問題の本質は「偽装有期雇用」にあり、この「偽装有期雇用」こそが問題であるとの指摘には、目を見開かせられる思いをしました。

 第3章ではワーキングプア問題をとり上げ、メンバーシップ型正社員だけに手厚い生活給制度が適用されてきたという経緯の中、過去にもアルバイト等の非メンバーシップ労働者はいたものの、親の生活給賃金が子の生計を補填するといった構図で"日本的フレクシキュリティ(柔軟性+安定性)"が保たれていて、それが近年、非正規雇用労働者の増加により、そのフレクシキュリティが揺らいできたというのが、ワーキングプア問題の本質であるとしています。

 日本の法定の最低賃金の水準の低さは、最低賃金がアルバイトとパートという家計補助労働の対価を対象にしていることに起因としているとの指摘は卓見であり、こうした背景との繋がりがワーキングプア問題の基礎にあるということは、問題の案件をそれだけに絞って見てしまっていては見えてこないんだろうなあと。

 ここまでにも幾つかの提言はありますが、どちらかと言えば改革に繋げる前段階(下ごしらえ)の議論であり、それに対し第4章は、本書タイトルにより呼応した内容であり、非正規労働者も含めた労働組合再編など、集団的合意形成の新たな枠組みを提言するとともに、労働政策の決定に一部のステークスホルダーしか関与していないことなどを批判しています(そうなんだ。政労使三者構成というのが本来は、原則のはずなんだよなあ)。

 現行の労働法制の成立過程を追い、その矛盾や実態との乖離を指摘している点は参考になり、また、雇用システムというものが、法的、政治的、経済的、経営的、社会的などの様々な側面が一体となった社会システムであることを踏まえた上での論考は、「現実的・漸進的改革の方向」(著者)を示したものと言えるかと思います。

 労働法を学ぶ人にはブログなどでもお馴染みの論客ですが(大学のオープン講座で労働政策研究・研修機構のR・H先生の労働法の講義を聴いたときに、著者のブログを勧められた。個人的にも以前から読んでいたけれど)、この人、EUの労働法にも詳しかったりするけれど、労働経済学者なんだよね。労働法学と社会政策学の両方の分野を論じることができるのが著者の強みであり、かなりの希少価値ではないかと。

 新書という体裁上、コンパクトに纏まっていますが、読めば読むほど味が出てくる"スルメ"みたいな本です。
 評価で星半個減は、自分自身の理解が及ばなかった部分が若干あったためで、4章が、もやっとした感じ。自分の中に「労組=旧態然」というネガティブイメージがあるのもその一因かもしれません。

 折をみて再読したいと思いますが、ブログを読むよりは、ちょっと気合いを入れてかかる必要があるかも。そう思いつついたら、もう、本書の続編と言えるかどうかわからないけれど、『日本の雇用と労働法』('11年/日経文庫)というのが刊行されており、そちらも読み始めてしまった...。

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「●や‐わ行の現代日本の作家」の インデックッスへ 「●講談社現代新書」の インデックッスへ

着眼点は興味深かったが、事例が強引で、しっくりこないものが多かった。

「上から目線」の時代.jpg 『「上から目線」の時代 (講談社現代新書)』 勝間=ひろゆき対談.jpg「勝間=ひろゆき対談」

 "あの人は「上から目線」だからやり辛い"といった「上から目線」を過剰に意識する現象について、そもそも「上から目線」とは何なのか、「上から目線」という言葉がいつ頃から使われるようになったのか遡ることから考え始め、「上から目線」を過剰意識することの根底にある、日本語で会話する際の独特の当事者間の位置関係や枠組みを考察し、更には、日本文化の底流に流れるものを掘り起こそうと試みた本―但し、個人的には、日本語論、日本文化論というよりも、主にコミュニケーション論として読みました。

 「上から目線」ということがいつ頃から使われるようになったかを政権トップの発言に対する国民の反応から見て行くと、福田康夫首相や麻生太郎首相の頃かららしいですが、このように「上から目線」について「1対多」と「1対1」の両方のコミュニケーション・ケースを扱っていて、「1対多」の方が「首相vs.国民」になっているのが、読み物としては面白けれど、かなり、著者のバイアスが入らざるを得ないものになっているように思いました(一時の首相の言動から、日本文化の底流に流れるものを掘り起こすというのは、普遍性が弱いように思う)。

 一方、「1対1」のコミュニケーションを中心に論じている部分はなるほどと思わされる部分もあり、会話のテンプレートのようなものが、"共通価値観の消滅"により無くなってしまったのかどうかはともかく(そんなに簡単に消滅するかな)、日本語の会話というものが、構造自体に上下関の枠組みがデフォルトとして設定されていて、日本語で会話すると、上下関係が自然に発生してしまうという着眼点は興味深く、確かにそうかもと思いました。

 但し、大きな会社からベンチャー企業に転職してきた人が「僕の会社では」ということを繰り返し言うのが嫌われる(こういうの、「出羽守(ではのかみ)」という)というのは、そうした上下関係が生じていることへの自意識がないからであり、これはあまりに単純な話。

 そんな解説も要さないような話があるかと思うと、一方で、BS-Japanの「デキビジ」での勝間和代氏と元「2ちゃんねる」管理人のひろゆき(西村博之)氏の対談が噛みあわなかったことが、「上から目線」の事例として出てきたりして、勝間氏がひろゆき氏の発言に「上から目線」を感じたのではないか、とのことですが、これ、ちょっと違うんじゃないかなあと。

 著者は両者の「会話」の一部を取り上げ、その食い違いを指摘していますが、「議論」全体としては、勝間氏が「起業しなければ人では無い」的な前提で話していること自体が価値観の押しつけであり(これこそ著者の言うところの「上から目線」)、それを揶揄するというより、その前提がおかしいのではないかと、ひろゆき氏は言っているだけのように思え(意図的に揶揄することで、相手の土俵に乗せられないようにしているとも言えるが)、議論の前提に異議申すことは、頓珍漢なイチャモンでなければ、必ずしも「上から目線」とは言えないのではないかと(「議論」と「会話」が一緒くたになっている)。

そこまで言うか.jpg 「勝間=ひろゆき対談」については、根本的に両者の考え方、と言うより、対談に臨む姿勢が食い違っているように思いましたが、この対談をとり持ったのは、実は、後から2人に割り込んだフリをしている堀江貴文氏かなあ。その後、3人で「仲直り」対談をしたりして(これをネタに本まで出したりして)、共通のプラットフォームが出来あがってしまうと、途端に対談内容がつまらなくなるというのが、外野からみた印象でした(勝間和代氏と香山リカ氏の関係も同じ。ここで言う"共通のプラットフォーム"とは、"世間の注目を集める"こと、つまり、当事者双方にとっての経済合理性か)。

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「●も 茂木 健一郎」のインデックッスへ「●PHPビジネス新書」の インデックッスへ

波頭・茂木両氏のある種「職業的対談」みたいで、それほど心に響いてこない。

突き抜ける人材.jpg突き抜ける人材』.JPG
突き抜ける人材 (PHPビジネス新書)

NHKスペシャル 生み出せ 危機の時代のリーダー.jpg NHKスペシャルの「シリーズ日本新生」の先月['11年1月]21日放送分で、「危機の時代のリーダー」をテーマとして取り上げ、この日本という国の難局を打開できるリーダーを生むためには何が必要なのかという議論がされていました。番組のおおまかな落とし処が、強いリーダーの出現を受け身的に待つのではなく、一人ひとりが先ず自ら"小さなリーダー"となるべく一歩を踏み出そう的な感じで、これは、東日本大震災で被災住民の支援にあたるNPOボランティアの印象などがある程度影響しているのではないかと。

NHKスペシャル リーダー.jpg 主演者の面々に、姜尚中、田坂広志、古賀茂明の各氏らがいて、途中、日本の官僚と政治家の関係の問題が話題になったりし、現在の一律的な教育の問題も若干扱っていましたが、ややモヤっとした感じの議論の展開。デーブ・スペクター氏が受験教育の弊害にストレートに言及すると、それはその場で言っても詮無いことと思われたのか(パネリストの中に若手官僚などもいたせいか)、司会者にほ無視されたような...。

NHKスペシャル・シリーズ日本新生「生み出せ!危機の時代のリーダー」(出演者:姜尚中 野中広務 デーブ・スペクター 田坂広志 土井香苗 古賀茂明 河添恵子 三村等 辻野晃一郎 松枝洋二郎 瀧本哲史 久保田崇 古市憲寿 坂根シルック 渡辺一馬 竹内帆高 三神万里子)
                           
 本書は「突き抜ける人材」とは何か、どこがフツーと違うのか、そうした人材を生み出すにはどうすればいいのかを、波頭・茂木両氏が、直接対談ではありませんが、対談を模したようなリレー・エッセイの形で綴ったものです。

 必ずしも組織リーダーに限らず、ビジネスやイノベーションの分野での「突き抜ける人材」の輩出を模索したものと言えますが、教育の問題も一応はちゃんと扱っており、落とし処は「私塾」に対する期待のようなものになっています、

 2人とも話題は豊富と言うか、世相評論的な纏めは上手で、「海外ではこうしている」といった出羽守(ではのかみ)的な発言が少なからずあるものの、議論を更に進めており、現代教育の在り方への批判から、それではどうすればよいかということで、「私塾」というのが浮かんできたようです。

 但し、そこに至る1つ1つのテーマについての突っ込みがそれほど深くなく、どことなく既知感のある内容の評論風に流れていくため、危機感を煽りながらも"言い放っし"になっているような印象もあり、「お気楽対談」とまでは言いませんが、ある種「職業的対談」みたいで、それほど心に響いてきません(じゃあホントに「茂木塾」開くのかなあ)。

 NHKの「シリーズ日本新生」でもケーススタディとしてスティーブ・ジョブズが取り上げられていましたが、茂木氏が本書の中で、ジョブズ、ジョブズと連発するのにはやや辟易させられました(「ジョブズ追悼番組」にも出演していたし、この人のジョブズ崇拝は相当なもののようだ。番組ではWindowsは嫌いだと発言して、西和彦・元マイクロソフト副社長と喧嘩になったようだが)。
 
 ジョブズには個人的にも関心があり、学ぶ面も多いけれども、傑出した才能だけでなくキャラクターの激しさも含め、常人の域を超えているようなところがあるから(それでジョブズ自身も何度か大きな失敗をしているし)、彼自身をそのまま手本にするはちょっとキツいのではないかなあ(フェイスブックのマーク・ザッカーバーグについても同じ)。

 茂木氏って今やオールマイティ(専門分野不明)みたいな感じですが、こういうことを広く浅くスラスラ語れるのがまさにこの人の才能? 意図してやっているのではなく"天然"なのでしょう。

《読書MEMO》
●若くして頭角を現すための共通項(波頭氏)
「アメリカの経営学者であるジョン・コッターの調査によると、若くして頭角を現した人には、二つの共通項があるそうです。一つは、アジェンダを持っていること、もう一つは、ネットワークを持っていることです。アジェンダとは、日本ではよくミーティングで「その場での主要テーマ」といった意味で使われますが、ジョン・コッターのいうアジェンダは、「その人がつねに抱くこだわり」、つまり「執着するテーマ」のことです。(中略)コッターが指摘しているもう一つの共通事項のネットワークとは、社内や取引先、あるいはまったく無関係な外部にも、何かやろうとしたときにお願いできる人がいることです」

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「●スティーブ・ジョブズ」の インデックッスへ

製品写真が豊富で、記事も充実。エディトリアル・デザインが優れている。

The History of Jobs & Apple 2.jpg      The History of Jobs & Apple3.jpg
The History of Jobs & Apple 1976〜20XX【ジョブズとアップル奇蹟の軌跡】(100%ムックシリーズ)

 雑誌「MAC LIFE」の版元による特別編集の大判ムックで、昨年('11年)8月の刊行、2ヵ月足らず後のスティーブ・ジョブズの死が想定されていたかのような、彼の人生の振り返り及びアップルの歩みの振り返りとなっています。

The History of Jobs & Apple.jpg Mac製品の写真が、内容的にも点数的にも充実していて、それらが綺麗に配置されており、全体的にみても、ジョブズ自身の写真も充実しているばかりでなく、編集デザイン的にも美しい構成。更には記事も充実していて、「MAC LIFE」の執筆・編集・デザイン陣の総力結集という感じでしょうか。

 執筆陣は、「MAC LIFE」編集長で、ジョブが亡くなったすぐに刊行された『ジョブズ伝説』('11年11月/三五館)の著者である高木利弘氏や、テクノロジーライターで『スティーブ・ジョブズとアップルのDNA』('11年12月/マイナビ)の近著がある大谷和利氏など。

 大谷和利氏には、『iPodをつくった男―スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス』('08年/アスキー新書)という著書がありますが、新書という体裁上、Mac等の製品デザインについての記述の部分に関して写真が少なく分かり辛かったのに対し、本書はムックの特性を十分に活かし、写真と記事が相乗効果をもたらすような作りになっています。

 iPhonだけでも相当数の写真がありますが、それらの並べ方が美しく、本書の最も優れている点は、エディトリアル・デザインにあると言っていいかと思います。

 個人的にはPCはMacを使ってはいないのですが、MacOSのモノクロのドット絵でデザインされたインターフェイスなどは懐かしさを覚えます。
 その他にも、かなりレアな製品写真や画像も多く含まれているようで、そのあたりは個人的にはあまり詳しくないのですが、永年のMacユーザー、Macファンにはたいへん魅力的な1冊ではないでしょうか(マニアならば、星5つ評価か)。

 ジョブズ及びアップル社の詳細な年譜も付いていて価格1,900円は、「保存版」的な価値からみると安いと思います。

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「新型うつ」の見分け方から企業としての対応の在り方や予防法までを分かりやすく解説。

「新型うつ」な人々.jpg「新型うつ」な人々 (日経プレミアシリーズ)

 真面目な人が「うつ」になり易く、「うつ」になった場合は自分を責める傾向にある―という「従来型のうつ」に対し、軽く注意したら不調を訴え会社に来なくなった、本人からは上司に叱責されたために「うつ病」になったとの訴えがあり、配置換えを申し出てくる―そうした、いわゆる「新型うつ」ではないかと思われるケースが、最近若い社員を中心に増えていると言われますが、本書はその「新型うつ」と呼ばれるものについて、経験豊富な産業カウンセラーが分かりやすく解説した新書本です。

 前半部分では、「新型うつ」の特徴や「従来型うつ病」との違い、「新型うつ」になりやすいのはどんなタイプの人かなどが事例をあげて解説されており、後半は、「新型うつ」と思われる社員への対応から、社員を「新型うつ」にしないための対策やストレス・マネジメント法まで、対処法が提案されています。

 このように、「新型うつ」の見分け方から企業としての対応の在り方や予防法まで、全体によく網羅されていて、内容のバランスもとれていると思いますが、新書であるため、その分一つ一つの事柄がそれほど深く書かれているわけではありません。それでも個人的には、「新型うつ」は若者だけの問題ではなく、四十代、五十代でもなることがある、といった新たな知識を得ることができました。

 また、企業内で、メンタル不調者一人ひとりに対しどのようなアプローチが必要なのかを総合的にアセスメントできる人材、「メンタルヘルスのスペシャリスト」を育てることを提案している点は、まったく同感だと思いました。

うつ病をなおす.jpg この分野の知識を深めようとするならば、精神科医など専門家の書いた本も読むといいと思われ、最初に読む入門書としては、野村総一郎『うつ病をなおす』(2004/11 講談社現代新書)などがお薦めです。逆に、医師であっても専門医ではない人が書いた本には、特殊な見解や特定の療法に偏っていたりするものもあり、危うさを感じることがあります。一方で、専門医は専門医で、"病態区分"などに関して、それぞれの立場ごとに書かれていることが異なったりすることもあります。

 例えば、林公一『それは、うつ病ではありません!』(2009/02 宝島社新書)では、"「ディスチミア親和型うつ病」(「うつ病」と診断されるには至らない軽症のうつ状態が慢性的に長期間持続するもの―岩波 明『ビジネスマンの精神科』(2009/10 講談社現代新書))などをうつ病と呼ぶ派"などという言い方で、「新型うつ」と呼ばれるものは「擬態うつ」であってうつ病ではないとそれってホントに「うつ」?.jpgしています(岩波氏自身の考え方は後述)。一方で、吉野聡『それってホントに「うつ」?―間違いだらけの企業の「職場うつ」対策』(2009/03 講談社+α新書)では、「ディスチミア親和型うつ病」などを「現代型うつ病」とし、さらに、「職場うつ」と呼ぶべきものの中には、パーソナリティ障害や内因性精神障害(統合失調症や躁うつ病など)も含まれる場合があるとしています。

 本書『「新型うつ」な人々』の場合、精神科医による典拠を示し、さらに「私の解釈」と断ったうえで、「うつ病」の領域には「ディスチミア親和型」も含まれ、「新型うつ」を理解するためには、「適応障害」や「パーソナリティ障害」の理解も必要であるとしており、これは吉野氏の立場に比較的近く、また「新型うつ」に関するオーソドックスな解釈であると言えるのではないでしょうか。

うつ病.jpg 「ディスチミア親和型うつ病」は、かつては「軽症うつ」などという言われ方もし、従来型のうつ病に比べて軽度のものであると思われがちですが、岩波明『うつ病―まだ語られていない真実』(2007/11 ちくま新書)では、非常に重篤で大きな事故に繋がった「ディスチミア親和型うつ病」の症例が報告されています(但し、岩波氏の場合、岩波明『ビジネスマンの精神科』(2009/10 講談社現代新書)の中で、「新型うつ病」を「ジャンクうつ」と"断罪"し、「ディスチミア親和型うつ病」とは峻別している。これはつまり、林公一氏が言うところの"「ディスチミア親和型うつ病」などをうつ病と呼ぶ派"であることになるが、ディスチミア親和型うつ病はうつ病の一種であるというのが大方の見方で、林氏の見解の方がマイノリティであると思われる)。

気まぐれ「うつ」病.jpg また、貝谷久宣『気まぐれ「うつ」病―誤解される非定型うつ病』(2007/07 ちくま新書)では、かつて「神経症性うつ病」と呼ばれた「非定型うつ病」について解説されています。岡田尊司『パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか』(2004/06 PHP新書)は、パーソナリティ障害の入門書としてお薦めです。

 メンタルヘルス対策の専従部門を設けることができるのは、限られた数の大企業だけでしょう。普通の会社だと、結局、人事労務部門にいる人たち自らが「メンタルヘルスのスペシャリスト」となるべく自助努力をしなければならないような気もしますが、新書レベルでも、一人の専門家に偏らず何冊かを読むようにすれば、一定の知識は得られるように思います。

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現役の人事パーソンにとっても示唆に富むフレーズに満ちている。

人事部は見ている5.JPG人事部は見ている.jpg人事部は見ている。 (日経プレミアシリーズ)

 Amazon.com のレビューではそれほど評価が高くなかったのですが、読んでみたらなかなかよく、また、人事に関係する仕事をしている人の間では、「意外と優れもの」だったとの声も聴くことがあった本。
 基本的には一般ビジネスパーソン向けの体裁であるため、「出世の方程式」のようなものを期待して読んでしまった人もいたのかなあ。

 本書プロローグによれば、ビジネスパーソンに「人事」の仕事の実態を理解してもらい、自分自身のキャリアを考える際に役立ててもらうのが本書の狙いであるとのことで、帯には「企業で人事業務に携わった筆者が包み隠さず語ります」とありますが、実際、自らの体験や多くの人事担当者へのインタビューがベースとなっているため、読み物のように楽しく読めて、かつ、人事の"実態"を分かりよく解説しているように思いました。

 外から見た人事部と実際に人事部の中で行われていることの違いや、人事部員がどう思って仕事しているかなどは、キャリアの入り口にあり、人事の仕事を希望している人や、今は別部署で働いているけrども、将来は人事の仕事をやってみたいと考えている人には、大いに参考になると思われます。

 同じ人事部員でも、担当する業務によって性格傾向が異なることを著者なりに分析していて、例えば、異動や考課を担当する人事部員は、コミュニケーション能力とバランス感覚に優れた人が求められるといったように、それがそのまま、適性要件として示されているのが興味深いです。

 「公平な人事異動をしても7割は不満を持つ」「人は自分のことを3割高く評価している」といのは、まさに"実態"でしょう。「採用を左右するのは"偶然"や"相性"」であるというのも、経験者ならば思わず頷きたくなるのでは。

 「人事部の機能は担当する社員数に規定される」とし、人事部員にとって重要とされる能力が、企業規模によってその要素や重要度が異なってくることを統計で示すとともに、「社員と直接つながることがいいのか」を考察し、そのことに違和感を持つ人事部員も少なくないのではないかとしています。

 「目標管理だけでは真の評価はできない」とし、コミュニケーション・ツールとして割り切るべきだとの考えにも納得。評価されるポイントは職場内での評判だったりもするとして、様々な例を挙げて、人事部から見た「出世の構造」を解き明かしています。

 「人事は裁量権が残されている仕事だ」とし、「個別案件こそが人事部の存在意義」であるとしながらも、特定のマネジャーや部員の「正義の味方になるとしっぺ返しを受ける」というのも、身に覚えのある人事パーソンはいるのでは。

 最後に、現在、人事部は曲がり角に立っているとして、雇用リスクや働き方の多様化とどのように向かい合っていけばよいかを説くとともに、「社員の人生は社員が決める」ものであり、会社(人事)側も、社員のライフサイクルに応じたよりきめ細かな対応が求められるとしています。

 最初は、一般ビジネスパーソンに向けた「人事部の仕事」の入門書のように思えたのですが、読み終えて振り返ってみれば、現役の人事パーソンにとっても示唆に富むフレーズに満ちており、たいへんコストパフォーマンの良い本でした。
 人事部にいる人にとっては、"励ましの書"という感じかな。若手、ベテランを問わず、お奨めです(「人事部の仕事」のストレートな入門書としては、大南幸弘・稲山耕司・石原正雄・大南弘巳 著『人事部 改訂2版(図解でわかる部門の仕事)』('10年/本能率協会マネジメントセンター)がお奨めです)。


《読書MEMO》
●人事部員のキャラクターの違い(34p~42p)
・異動・考課を担当...コミュニケーション能力とバランス感覚に優れる(姿勢が真摯で誰に対しても公平)
・労働条件を担当...過去のいきさつや実際の運用事例も把握する必要(一人前になるには一定の時間を要す)
・労働組合との団体交渉担当...かけひきや揉め事が嫌いではないタイプ。
・人事制度の企画・立案担当...概念的な嗜好を好む傾向
・勤務管理・給与管理担当...縁の下の力持ち
・採用担当...明るくて感じのいい人(採用担当者の魅力が、応募者を惹きつける要素になるから)
●そもそも、人事評価は主観的であり感情面が大きくかかわってくる。求めるべきは、客観性や公平性ではなく、評価される社員の「うん、そうだ」という納得なのだ。
●一定の人数を超えると、直接個々の社員を知ることはできないので、所属長を通した伝聞情報で個々の社員を把握する。
●人事部の役割は、所属長をサポートすることであり、管理を代行することではない。
●どの職場を経験して、どのポストに就いているかが、現在の評価基準になり、将来の昇格の可能性を示唆する。
●どの職層においても、直接の上司との関係が基本的に重要だ。その上司の得意、不得意を観察すること。そのうえで、定期的にさまざまな報告をすること。
●人事権は、個人や役職者の権利ではなくて、経営権の一つなのだ。だから、人事権を自分の権限であると錯覚して、部下や後輩に威張り散らしたり、彼らの人生をコントロールできるなどとは決して思ってはいけない。

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