2023年2月 Archives

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「湿地帯小説」。世間から見捨てられながらも自分の人生を歩んだ少女の生きざま。

「ザリガニの鳴くところ」 1.jpg「ザリガニの鳴くところ」 2.jpg「ザリガニの鳴くところ」 3.jpg
【2021年本屋大賞 翻訳小説部門 第1位】ザリガニの鳴くところ』 映画「ザリガニの鳴くところ」(2022)

「ザリガニの鳴くところ」 0.jpg 2021(令和3)年・第18回「本屋大賞」(翻訳小説部門)第1位作品。

「ザリガニの鳴くところ」 4.jpg ノースカロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアはたったひとりで生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女を置いて去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく―。

 動物学者である作者が69歳で初めて執筆した小説で、2018年8月に原著刊行。2019年、2020年と2年連続で「アメリカで最も売れた本」となり、日本でも「本屋大賞」(翻訳小説部門)受賞となりました。年末ミステリランキングでは、3年連続4冠達成のアンソニー・ホロヴィッツの『その裁きは死』の後塵を拝するも、「このミステリーがすごい!」(宝島社)海外篇・第2位、「週刊文春ミステリーベスト10」海外部門・第2位、「2021本格ミステリ・ベスト10」(原書房)第9位、「ミステリが読みたい!」(ハヤカワ・ミステリマガジン)第3位と、各ランンクインしています。

 キャッチは「みずみずしい自然に抱かれた少女の人生が不審死事件と交錯するとき、物語は予想を超える結末へ」。確かに過程のプロットより結末の意外性かと思いますが、ただし、このパターンは日本でも、大岡昇平の『事件』や松本清張原作の映画「黒の奔流」など、形は少し違いますが今までもあるにはありました。

 やはり、この作品の読みどころは、‟ザリガニが鳴く"と言われる(ホントはザリガニは鳴かないらしい)湿地帯の、まさに「湿地帯小説」と言っていいくらいの美しい自然描写と、その中で世間から見捨てられながらも自分の人生を歩んだ少女の(ホタルに喩えることできる動物的な側面もある)生きざま、ということになるのではないかと思います。「本屋大賞」受賞に異存なし、といったところです。

「ザリガニの鳴くところ」 5.gif オリヴィア・ニューマン監督の起用で昨年[2022年]に映画化され、女性監督だからやはり女性映画っぽくなるのだろうと思いましたが、予想どおりでした。原作は、幼いころから事件が起きるまでの少女の歩み(ドラマ部分とも言える)と、事件が起きた後の捜査の進捗や裁判の様子(ミステリ部分とも言える)が、あざなえる縄のように交互に描かれていますが、映画はほとんど少女の生きざまと成人するまでを中心に描いていて、特に、成人してから恋愛の方に重点が置かれています。ただ、それが何だか「学園ドラマ」を観ているような感じで、深まりがないまま話がだらだらと続く印象を受けました。

「ザリガニの鳴くところ」 6.jpg ミステリ部分ももっと描いてほしかったように思います。深夜でもバスは走っているのだなあ(高速バスみたいな路線バスか)。映像で再現する必要はなですが、省き過ぎです。この監督、ミステリには関心がないのかな。

「ザリガニの鳴くところ」 7.jpg 沼地の自然は美しく撮っていて、それはそれで良かったのですが、ドラマ部分含め全体に明るすぎる印象で、少女の沼地での生活や服装、身の回りなども小綺麗すぎて、原作の重くてダークなイメージとの間にギャップを感じました。Amazonプライムで有料視聴したのですが、原作の評価★★★★に対して、映画は評価★★★となりました。

「ザリガニの鳴くところ」8.jpg「ザリガニの鳴くところ」●原題:WHERE THE CRAWDADS SING●制作年:2022年●制作国:アメリカ●監督:オリヴィア・ニューマン●製作:リース・ウィザースプーン/ローレン・ノイスタッタ●脚本:ルーシー・アリバー●撮影:ポリー・モーガン●音楽:マイケル・ダナ●原作:ディーリア・オーウェン●時間:126分●出演:デイジー・エドガー=ジョーンズ/テイラー・ジョン・スミス/ハリス・ディキンソン/マイケル・ハイアット/スターリング・メイサー・Jr/デヴィッド・ストラザーン/ジェイソン・ワーナー・スミス/ギャレット・ディラハント/アーナ・オライリー/エリック・ラディン●日本公開:2022/11●配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(評価:★★★)

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残酷な滑稽さ。「雨」の強烈な大どんでん返しとはまた違ったほろ苦いラスト。

『雨・赤毛』 新潮文庫.jpg『雨・赤毛 モーム短篇集(I.jpg『雨・赤毛  モーム短篇集(I)』.jpg
モーム短篇集〈第1〉雨,赤毛 (1959年) (新潮文庫)』『雨・赤毛: モーム短篇集(I) (新潮文庫)

 白人の殆どいない南サモアの小さな島。島々に荷物や手紙を運ぶ貨物船の船長が停泊のため、ある島のラグーン(珊瑚環礁)に入る。船長は日に焼けた中年の白人で、太っていて、禿げていて、汚い服を着ていた。島で暮らすスウェーデン人のニールソンは、久しぶりに会った白人である船長に、若き日の恋物語を語り始める―。かつて、アメリカ海軍から逃亡した「レッド」と呼ばれる二十歳の赤毛の水兵がこの島に来て、土地の16歳の美しい娘と出会い、二人は恋に落ちた。二人は一緒になり、楽園のように美しい島で無上の幸福の時を過ごすが、2年後、出来心を起こした青年は、騙されてイギリスの捕鯨船に連れ攫われてしまう。残された女は涙に明け暮れ、4カ月後に子どもを死産する。男の音沙汰はない。3年が経った頃、当時25歳のニールソンは、病気療養のために島にやって来て、その美しい娘に見惚れる。周囲も彼との結婚を勧めるが、レッドのことが忘れられない彼女は拒絶する。しかしやがて観念し、ニールソンと結婚するに至る。ニールソンはじめ、自分の愛情によって娘を幸福にすることができると信じていたが、やがてそれが無理だと理解する。彼女から愛されることのないことを悟った彼は、やがて胸の内で彼女を憎むようになる。そして25年の月日が流れた―。今、ニールソンの前にいる船長、禿げた赤毛の頭、酒ぶくれでぶよぶよに太った醜い男は、何故かニールソンに不快感を催させる。「であんたのお名前は?」そう、この船長こそがレッドだった。25年の歳月で美しかった青年は、こんなにも醜い中年男性になってしまっていた。やがて船長は帰る。ちょうどその時、奥から白髪の太った色黒の現地人女性が「今の人は何の用だったの?」と出てくる―。

一葉の震え.jpg 原作は1921年刊行(モーム47歳)の短編集『木の葉の戦(そよ)ぎ』(The Trembling of a Leaf)に「」などと共に収められていた中篇小説です(『木の葉の戦ぎ』は'14年に近代文藝社から初の完訳本が『一葉の震え』として刊行された)。

一葉の震え―「雨」ほか、南海の小島にまつわる短編集』['14年/近代文藝社]
(「レッド」「小川の淵」「ホノルル」「雨」「エドワード・バーナードの凋落」「マッキントッシュ」の6編を所収)

 ネタバレになりますが、老醜の船長が、かつての美男子「レッド」であったことは、話の途中にかなり"仄めかし"があったように思います。ただし、ラストでもう一捻りあって、当事者双方が自分たち自身はそうであると認識しない「再会」があったことになります。

 老いて変わり果てたレッドの存在が明らかになったことによって、切なさを秘めた悲劇であったはずの物語が残酷な様相を帯び、さらにそれに輪をかけるように、もう1人の悲劇の主人公=悲恋物語のヒロインであったはずの女性の、時の流れに抗えなかった今現在の姿が浮かび上がるという、冷酷とも皮肉とも言える結末となります。見方によっては、そこに残酷な滑稽さがあるとも言えます。

 「雨」の強烈な大どんでん返しとはまた違ったほろ苦いラストで、ストーリーテラーとしてのモームの面目躍如といった結末ではないでしょうか(語り手のニールソンが当事者の双方ともに対して事実を明かさないことで、"ほろ苦い"という程度で収まっているとも言える。話していたらどうなっていたか想像するのも、この物語の味わい方の一つかも)。

 もう1つ所収の「ホノルル」という短編も、ある種似たような皮肉な笑いで終わる話で、語り手が出会った陽気で楽天的な小男の船長は、美しい現地人の娘を伴って現れ、自分が陥った超自然的な危機について語り始めますが―。愛する男のために自らの身体をなげうって顧みない娘が、あっさりと他の男と逃げ出してしまうという結末も何とも皮肉です。ただし、訳者の中野好夫が指摘しているように、「雨」「赤毛」に比べると、構成や結末のインパクト等の面でやや落ちるでしょうか。

【1957年文庫化[角川文庫(厨川圭子:訳『赤毛―他六篇』)]/1959年再文庫化[新潮文庫(中野好夫:訳『雨・赤毛―モーム短篇集Ⅰ』)]/1962年再文庫化[岩波文庫(朱牟田夏雄:訳『雨・赤毛 他一篇』)]/1978年再文庫化[講談社文庫(北川悌二:訳『雨・赤毛』)]】

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モデルとされているゴーギャンとの相違点も多い。世界文学の名作でありながら、読み易く面白い。

『月と六ペンス』(文庫).jpg
厨川圭子:訳『月と六ペンス』(1958 角川文庫)/中野好夫:訳『月と六ペンス』(1959 新潮文庫)/龍口直太郎:訳『月と六ペンス』(1966 旺文社文庫)/阿部知二:訳『月と六ペンス』(1970 岩波文庫)/北川悌二:訳『月と六ペンス』(1972 講談社文庫)/土屋政雄:訳『月と六ペンス』(2008 光文社古典新訳文庫)/厨川圭子:訳『月と六ペンス』(2009 角川文庫)/行方昭夫:訳『月と六ペンス』(2010 岩波文庫)/金原瑞人:訳『月と六ペンス』(2014 新潮文庫)
The moon and sixpence (1919 edition) |
The Moon and Sixpence 1919.jpg 作家の私は、夫人のパーティーに招かれたことからストリックランドと知り合う。ストリックランドは証券会社で働いていたが、ある日突然家族を残して消える。私は夫人に頼まれ、パリのストリックランドのもとへ向かうと、駆け落ちしたという女性の姿はなく、一人で貧しい生活を送っていた。話を聴くと、絵を描くために生活を捨てたという。私は彼を批判するが、彼はものともしない。夫人は私からそのことを聞くと悲しんだが、やがてタイピストの仕事を始めて自立してく。その5年後、私はパリで暮らしていた。以前に知り合った三流画家のダーク・ストルーヴを訪れ、彼がストリックランドの才能に惚れ込んでいることを知る。ストルーヴに連れられストリックランドと再会するが、彼は相変らず貧しい暮らしをしていた。それから私は何度かストリックランドと会ったが、その後絶縁状態になっていた。クリスマス前のある日、ストルーヴとともにストリックランドのアトリエを訪れると、彼は重病を患っていた。ストルーヴが彼を自分の家に引き取ろうとすると、妻のブランチは強く反対する。夫に説得されてストリックランドの看病をするうちにブランチは彼に好意を寄せるようになり、ついには夫を棄ててストリックランドに付き添うが、愛情を受け入れてもらえず服毒自殺する。妻の死を知ったストルーヴは、ストリックランドへの敬意を失うことなく、故郷のオランダへと帰って行った。私はストリックランドに会って彼を再び批判したが、その後彼と再会することはなかった。ストリックランドの死後、私は別件でタヒチを訪れていた。そこで彼を知るニコルズ船長に出会い、彼が船乗りの仕事をしていた時のことを聞く。貿易商のコーエンはストリックランドを自分の農場で働かせていたことを話す。宿屋のティアレは彼にアタという妻を斡旋したことを話した。彼の家に泊まったことのあるブリュノ船長は、ストリックランドの家の様子を話した。医師のクートラはストリックランドがハンセン病に感染した晩年のことを語り、彼の遺作は遺言によって燃やされたとしている。私は医師の所有するストリックランドの絵画を見て恐ろしさを感じていた―。
New York: Pocket Books, 1967.
『The Moon and Sixpence 』.jpg 1919年に出版されたサマセット・モームの、言わずと知れた彼の代表作。画家のポール・ゴーギャンをモデルに、絵を描くために安定した生活を捨て、死後に名声を得た人物の生涯を描いています。この小説を書くに際し、モームは実際にタヒチへ赴き、ゴーギャンの絵が描かれたガラスパネルを手に入れたといいいます。「月」「六ペンス」はそれぞれ「聖」と「俗」の象徴であるとか、これまでも何度も言われていますが、そう言えば、両方とも"丸い"形は同じなのだなあと改めて気づいたりしました(気づくのが遅い?)。

 ゴーギャンがモデルであるのは確かですが、ストリックランドとゴーギャンでは相違点がかなり多いというのは以前から指摘されていることです。ストリックランドは英国人ですが、ゴーギャンはフランス人で、ストリックランドは印象派を全く評価しておらず、同世代の画家とも付き合いはないように描かれていますが、ゴーギャンは印象派展に作品を出展しており、ゴッホだけでなく、多数の印象派画家と交流がありました(ストリックランドがタヒチで亡くなっているのに対し、ゴーギャンはマルキーズ諸島で亡くなっているなど、ほかにも多くの相違点がある。 ただし、画家になる前は証券会社で働いているなど、共通点があるのも確か)。

 最初に読んだ時は思いつかなかったのですが、ストルーヴ(この興味深いキャラクターの三流画家は、絵は下手だが、ストリックランドの才能を見抜く眼力はあったということになる)が、そのゴッホをモデルにしているという見方もあるようです(ストルーヴはゴッホ同様にオランダ人)。ただし、ストルーヴは、自らが見出した超絶した才能の前に、その彼に妻を奪われてまでも崇拝の念を抱き続ける、ある種、ドストエフスキーの小説に出てくるような特異な人物として描かれれています。

ゴーギャン「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」
「我々はどこから来たのか.jpg 最後に語り手である「私」がタヒチで遭遇したストリックランドの遺作は、ゴーギャンの「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」がモデルになっているのではないでしょうか(高間大介『人間はどこから来たのか、どこへ行くのか』)('10年/角川文庫)、エマニュエル・トッド『我々はどこから来て、今どこにいるのか?(上・下)』('22年/文藝春秋)が共にこの絵からタイトルを取り、表紙カバーにこの絵を用いている)。

 世界文学に名を残す作品でありながら、読み易く、特に後半の「私」がタヒチを訪れて聞くストリックランドの話は、いきいきしていて(時制を後日譚(過去形)からリアル(現在進行形)に戻している箇所がある)面白いといっていいくらい。その面白さの中には、現地の人たちでさえ何の価値も無いと思っていたストリックランドの絵に、後にとんでもない高値が付いたというエピソードも含まれますが、ある意味、芸術的価値でさえ金銭的数字に置き換えられるという、資本主義社会を腐肉っぽく象徴しているようにもとれます。

 ただし、最後にタヒチでのストリックランドのことを夫人に話し終えた「私」の頭には、「彼がアタとの間に儲けた息子が、大海原で船を操っている姿が浮かんでいた」とあり、ロマンチックな終わり方になっています。こうした南洋への憧れは西欧人に根強くあって、たとえば映画の世界ならば、ミュージカル映画「南太平洋」('58年/米)からディズニー映画「モアナと伝説の海」('16年/米)まで連綿と続いているのではないでしょうか。

「月と6ペンス」映画.jpg この作品自体も1942年に、「月と6ペンス」('42年/米)としてジョージ・サンダース主演(ストリックランド役)によって映画化されていますが、ストリックランドが「女というものは犬と同じで、ぶてばぶつほど、罰を受けていい子になる」というようなことを言っていて(原作に実際そのようなストリックランドの言葉がある)、そのセリフが当時の女性たちの反発を猛烈にくらい、ジョージ・サンダースはフェミニストから敵視されたとか。彼は自分は女性を蔑視しておらず、愛犬家でもあることをアピールしたようですが(この人を主人公にした『ジョージ・サンダース殺人事件』という推理小説があるぐらいの当時の人気俳優でもあり、人気があるからこそ叩かれたのかも)。

「月と6ペンス」1942.jpg 映画の方はリアルタイムでストリックランドを追っているので、彼とアタの出会いなども描かれていて、ラブロマンスっぽい印象です(前半はコメディっぽい箇所も多い)。英語版しか観ていないので、評価は保留します。アタを演じているのはエレナ・ヴェルダゴという米国の白人女優で、その後の出演作をみると「南の島でラブハント」('44年)とか「ジャングルの宝庫」('49年)とかそれ風のタイトルの作品が続くので、よほどこの映画の印象が強かったのでしょうか(フランケンシュタイン映画など怪奇映画にも出ている)。
  
House of Frankenstein (1944.jpgElena_Verdugo_1955.jpg Elena Verdugo

House of Frankenstein(1944)
  
『月と六ペンス』(角川文庫)2.jpg【1958年文庫化[角川文庫(厨川圭子:訳)]/1959年再文庫化[新潮文庫(中野好夫:訳)]/1966年再文庫化[旺文社文庫(龍口直太郎:訳)]/1970年再文庫化[岩波文庫(阿部知二:訳)]/1972年再文庫化[講談社文庫(北川悌二:訳)]/2008年再文庫化[光文社古典新訳文庫(土屋政雄:訳)]/2009年再文庫化[角川文庫(厨川圭子:訳)]/2009年再文庫化[岩波文庫(行方昭夫:訳)]/2014年再文庫化[新潮文庫(金原瑞人:訳)]】
『月と六ペンス』(新潮 文庫).jpg

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「ER」の記念すべき第1話。単なる人物紹介でなく、エピソードとの絡め方が見事。

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ER 緊急救命室 I 〈ファースト・シーズン〉 セット1 [DVD]

アンソニー・エドワーズ(マーク・グリーン)
「ER緊急救命室」2.jpg マーク・グリーン(アンソニー・エドワーズ)は、シカゴ近郊クック郡のカウンティ総合病院のER(緊急救命室)チーフレジデントで腕利き内科医。病気やケガ、事故により昼夜問わず患者が搬送され、仮眠もろくに取れず、今日も看護師が目覚まし時計のように夜勤の彼を起こしに来る。その彼は今、私立病院から好条件で誘いを受け、ERを続けるかどうか迷っていた。そんな折帰宅したばかりの看護師長キャロル・ハザウェイ(ジュリアナ・マルグリース)が自殺未遂を起こしてERに担ぎこまれる―。

ノア・ワイリー(ジョン・カーター)
「ER緊急救命室」4.jpg「ER 緊急救命室 1」ka-ta- .jpg "カーター君"が初赴任する「ER」の記念すべき第1話はパイロット版として作られたもので(原題は"24 HOURS") 、本国放映が1994年9月19日、日本初放映が1996マイケル・クライトン.bmp年4月1日(NHK‐BS2)。決して広くはない診療室で撮影しなくてはならず、ステディカムが威力を発揮しています(第1話の撮影は廃院となった病院をスタジオ代わりに撮影しており、それ以降はスタジオにセットを再現して撮影した)。このパイロット版を含む最初の3話は、製作総指揮を務めたマイケル・クライトン(1942-2008/66歳没)自身が脚本を書いています。マイケル・クライトンはハーバード・メディカルスクール(ハーバード大学医学大学院)の出身です。

 朝から工事現場の事故の多くの負傷者が担ぎ込まれ、遺族への死亡宣告、研修に来た女子学生の対応、色仕掛けをしてくる患者、小指のさかむけだけを治療にくる老婦人、車の中で突然産気づいた女性...etc.グリーン先生をはじめ皆がそれらの対応で超多忙です(ステディカムでの撮影が効いていて、ERの日常の慌ただしさが伝わってくる)。

ジュリアナ・マルグリース(キャロル・ハザウェイ)
ER緊急救命室」キャロル.jpg そして、極めつけは、スタッフからの信頼が厚い看護師長(翻訳は婦長)のキャロル・ハザウェイの何の前触れもない自殺未遂。かつてERの小児科医のダグラス・ロス(ジョージ・クルーニー)と付き合っていたが破局し、今は整形外科医と婚約中だったはずだが...。心配そうにキャロルを見守るダグ。この二人の関係はシーズン1の幾つかある重要なストーリーの1つになっていきます。因みに、ダグ・ロスはハンサムなモテ男でプレイボーイ。この第1話ではロス先生は二日酔いでヨレヨレ状態での初登場となるのですが、児童虐待していると疑われる母親に対して心底怒りをぶつける熱血漢でもあります。

「ER緊急救命室」3.jpg 一方、医学部3年の研修生ジョン・カーター(ノア・ワイリー)は今日がER勤務の初日。外科レジデント2年目のピーター・ベントン(エリク・ラ・サル)のもとで、これからさまざまな指導を受けることになりますが、まず、点滴をやるのが初めてということにベントンも呆れ、さらに、ナイフで刺された患者の血を見て気分が悪くなる始末です。
エリク・ラ・サル(ピーター・ベントン)

「ER緊急救命室」5.jpg 自らの不甲斐なさすっかりしょげているところを(このシーンはOPで「ER」op.jpg使われることになる)、優しく励ますグリーン先生。ただ励ますだけなく、「医者には2種類ある。自分の感情を切り捨てるタイプと感情を切り捨てれないタイプだ」「何かあると後者は、治療する側の自分が病気になってしまいそうになる」と、医者の心得まで説いてます。しかしながら、そのグリーン先生もその後、離婚問題で悩まされることになります(司法試験の勉強中の妻との行き違いは、すでにこの第1話で示唆されている)。

 そのカーターを指導する立場のベントン先生は、動脈瘤の患者が危険な状態になり、担当医が誰も手が空かず、レer ベントン.jpgジデントの自分には資格がないのに手術を強行「ER」モーゲンスタン部長.jpg、患者の危機を救い、駆けつけたモーゲンスタン部長(ウィリアム・H・メイシー)から最初は「下手な獣医並み」と貶されるも、最後にはその臨機応変の判断を褒められガッツポーズ(このシーンもOPで使われることになる)。患者の命を救うことを第一信条とするとともに、自信家で上昇志向が強いその性格がすでに表されています。

シェリー・ストリングフィールド(スーザン・ルイス)/シリ・アップルビー(ダリア・ウェイド)
「ER」000.jpg 内科・外科レジデント二年目のスーザン・ルイス(シェリー・ストリングフィールド)は、仕事が忙しく最近、恋人と別れたが、グリーン先生とは相性が良く何でも話せる間柄。性格はサバサバしており、ハッキリものを言うタイプですが、今日「ER」ミゲル・フェラー.jpgはガンの疑いが濃厚な患者(ミゲル・フェラー)から逆に告知を求められるような状況に直面し、これはさすがにキツイ、患者も医者も(その後、米国でも日本でも、告知は医師の「裁量の範囲」から「義務」へという流れになっている)。ルイス先生はその後、問題ある姉に悩まされることになります。

 120分枠とは言え、CMを除くと100分くらいでしょうか。その中に多くのエピソードを並行的に盛り込み(気がつけばすべて24時間のうちに起きたことなのだが)、主要登場人物のキャラクター、置かれている状況、互いの関係を見事に描き出していると思います(単なる人物紹介でなく、ちゃんとエピソードと絡めているのがスゴイ)。

 シリーズ展開では、プロデューサーとして「ザ・ホワイトハウス」と同じジョン・ウェルズが参加していることもあり、アフリカのコンゴにおける貧困や紛争などを描いたり、米国における麻薬や銃問題などを提起していたりします。緊迫した場面の合間にコミカルなエピソードを挿むのも「ザ・ホワイトハウス「と共通しているし、シーズン1の第1話で主要な登場人物のアウトラインを描き切ってしまうのも同じです。因みに「ザ・ホワイトハウス」はシーズン1の第1話が最も面白かったですが、「ER」は、面白さがずっと続くところがすごかったと思います。

ジョージ・クルーニー(ダグラス・ロス)
「ER緊急救命室」ロス.jpg「ER緊急救命室」7.jpgER緊急救命室(第1話)/甘い誘い(120分枠)」●原題:ER:24 HOURS (a.k.a. THE LONGEST DAY (1))(Season 1、Episode 1)●制作年:1994年●制作国:アメリカ●本国上映:1994/09/19●監督:ロッド・ホルコム●脚本:マイケル・クライトン●出演:アンソニー・エドワーズ/ジョージ・クルーニー/シェリー・ストリングフィールド/ノア・ワイリー/ジュリアナ・マルグリース/エリク・ラ・サル/クリスティーン・ハーノス/ウィリアム・H・メイシー/(ゲスト出演)シリ・アップルビー/ミゲル・フェラー●日本放映:1996/04●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★★☆)

「ER緊急救命室」6.jpg「ER」00.jpg「ER 緊急救命室」ER (NBC 1994~2009) ○日本での放映チャネル:NHK-BS2(1996~2011)/スーパー!ドラマTV

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現実世界と作中作との同時進行・両者の交流と一人二役の趣向が楽しめた。

「カササギ殺人事件」0.jpg 「カササギ殺人事件(全6話1.jpg カササギ殺人事件 上.jpgカササギ殺人事件下.jpg
「カササギ殺人事件(全6話)」『カササギ殺人事件 上 (創元推理文庫)』『カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

「カササギ殺人事件」1.jpg 第1話「名探偵アティカス・ピュント」...「名探偵アティカス・ピュント」シリーズで人気の推理作家アラン・コンウェイ(コンリース・ヒル)が、最新作『カササギ殺人事件』を書き上げて筆を折る。担当編集者スーザン(レスリー・マンヴィル)は、ドイツ出張から帰り週末に早速その原稿を読み進めるが、肝心の最終章が無い。上司であるクローヴァー・ブックス社の社長チャールズ(マイケル・マロニー)を訪ねると、アランが殺害されたとの知らせが彼女を待っていた―。
  
「カササギ殺人事件」2.jpg 第2話「アランの真実」...『カササギ殺人事件』の最終章を捜すべく、スーザンはウッドブリッジを訪れる。近くに住む妹ケイティと久しぶりに再会した後、アランの弁護士や彼の恋人ジェイムズ(マシュー・ビアード)を訪ねるが原稿は見つからない。一方、名探偵アティカス・ピュント(ティム・マクマラン)は、助手のフレイザー(マシュー・ビアード、二役)と共に、サクスビー・オン・エイヴォンを訪れる。パイ屋敷で家主のマグナスが殺されたのだ。ピュントは、メアリの死とマグナスの死に関連があるとみる―。
  
「カササギ殺人事件」3.jpg 第3話「疑惑の連鎖」...チャールズと共にシティワールド社を訪れたスーザンは、クローヴァー・ブックス社の買収の話を進めるために、早くCEOに就く決意を固めてほしいとせかされる。しかし、彼女はアランの消えた最終章と、彼を殺した犯人捜しに夢中だった。一方、ピュントはパイ屋敷で起きた連続死の真相を追っていた。転落死した家政婦メアリは息子ロバートと仲が悪く、パイ屋敷の家主マグナスは、周囲の人たちから恨みを買っていたことも判明する―。
  
「カササギ殺人事件」4.jpg 第4話「パイ屋敷の暗い過去」...約2年前、ケイティは久しぶりにウッドブリッジでアランに遭遇しお茶に誘われる。カフェでアランに心を許した彼女は、家族の話を語りだす。そして現在、今後の身の振り方に迷うスーザンは過去に家族を捨てた父親に会いに行くが、やはり許すことが出来ない。一方、体調が悪化したピュントは、村の診療所に運ばれ、そこでメアリを事故死と判定した医師の話を聞く―。
  
「カササギ殺人事件」5.jpg 第5話「偽りの真相」...スーザンは匿名で送られてきた写真から、恋人のアンドレアス(アレクサンドロス・ログーテティス)がアランの死に関わっているのではと疑い始め、彼に真相を問いただす。一方、ピュントに問い詰められたパイ屋敷の庭師ブレントは、屋敷から盗まれた銀のお宝2点を湖の傍で見つけ、うち一つを骨董品店に売ったと証言。また、ブラキストン一家の住んでいた家を訪れたピュントは、メアリの日記を発見する―。
  
「カササギ殺人事件」6.jpg 第6話「笑顔の別れ」...スーザンは、出版社を突然辞めたジェマイマに会い、新作の原稿は木曜のディナーの席でチャールズが受け取ったのではなく、スーザンが出張でドイツにいた水曜に郵送で出版社に届いていたことを知る。そして、最終作のタイトルが『カササギ殺人事件』でなければならなかった理由を突き止める。一方、ロバートの父親から話を聞いたピュントは、事件の全貌を明らかにする―。 


「カササギ殺人事件(全6話)」 (22年.jpg 「週刊文春ミステリーベスト10」「ミステリが読みたい!」「このミステリーがすごい!」「本格ミステリ・ベスト10」の各海外部門4冠の達成や、「本屋大賞」翻訳小説部門第1位に選ばれるなどしたアンソニー・ホロヴィッツ原作の推理小説『カササギ殺人事件』を、原作者自身の脚本により映像したものです。

 原作は、上巻が作中作『カササギ殺人事件』(ただし最終章が無い)で、下巻が現実の事件となっているのに対し、このドラマ化作品では、両方の話が糾える縄のように交互に進行し、さらには、名探偵アティカス・ピュントが現実世界にいる主人公スーザンの前に現れて、現実世界のアラン・コンウェイ殺人事件と『カササギ殺人事件』の最終章の謎に挑む彼女に終始ヒントや助言を与え続けるという原作には無い趣向が施されており、これはまた新鮮で楽しめました。

「カササギ殺人事件(全6話2.jpg 名探偵アティカス・ピュント役は、「刑事フォイル」の後半シリーズでに出ていたティム・マクマラン、人気作家アラン・コンウェイ役は、ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」でヴァリス役を演じたコンリース・ヒル、彼の担当編集者ミス・スーザン役は「ザ・クラウン」でマーガレット王女役を演じたレスリー・マンヴィルで、原作がいい上に、この3人の演技が手堅かったように思います。

「カササギ殺人事件(全6話3.jpg 以上3人やスーザンの恋人のアンドレアスなどの重要な役どころは別ですが、その他の多くの役は、同じ俳優が現実の世界の登場人物と作中小説『カササギ殺人事件』の登場人物との二役を兼ねている趣向となっています。例えば、作家アラン・コンウェイの同性の愛人で、彼の相続人となる青年は、『カササギ殺人事件』の中では名探偵ピュントの冴えない助手であり(現実世界の本人は、コンウェイに勝手にモデルにされたことをぼやいている)、また、かつてスーザンとケイティの姉妹を捨て、今は病床にある父親は、『カササギ殺人事件』の中では、殺害されるパイ屋敷の家主といった具合です。この趣向が楽しめました。また、作家アラン・コンウェイが自分の周囲の人物を、その人物の幸不幸に関わらず、勝手に自作の登場人物のモデルにしていたこととも呼応します。

「カササギ殺人事件  (全.jpg こうして改めて映像化作品を観ると、作中作『カササギ殺人事件』の謎解きに比べると、現実世界の方の殺人事件は動機やプロット的にやや弱いかなという感じですが、これ以上求めるのはちょっと贅沢でしょうか(アガサ・クリスティへのオマージュとしての色合いは作中作『カササギ殺人事件』の方において色濃いが、現実世界の方の殺人事件ではあまり感じられない)。

「カササギ殺人事件(全6話)」●原題:MAGPIE MURDERS●制作国:イギリス●本国放映:2022/02/10●監督:ピーター・カッタネオ●原作・脚本:アンソニー・ホロヴィッツ●時間:270分●出演:レスリー・マンヴィル/コンリース・ヒル/ティム・マクマラン/アレクサンドロス・ログーテティス/マイケル・マロニー/マシュー・ビアード●日本放映:2022/07/09・10●放映局:WOWWOW(評価:★★★★)

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