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ロバート・レッドフォード、ブラッド・ピット「初共演」のCIAもの。

スパイ・ゲーム dvd.jpg スパイ・ゲーム01.jpg   スパイ・ゲーム|文庫|竹書房.jpg
スパイ・ゲーム [DVD]」ロバート・レッドフォード、ブラッド・ピット「スパイ・ゲーム (竹書房文庫)

スパイ・ゲーム02.jpg 1991年春、数々の困難な任務を遂行し今や伝説の存在であるCIA工作員ネイサン・ミュアー(ロバート・レッドフォード)は、引退前の最後の勤務日を迎えようとしていた。彼にとってトム・ビショップ(ブラッド・ピット)はその弟子でもあり最も信頼のおける相棒でもあった。ミュアー自身がスカウトし、スパイに関するあらゆることを教え育て上げ、二人は互いに固い絆で結ばれていた。しかし、まさにミュアーのCIA退官日に、ビショップが中国側にスパイ容疑で逮捕される事件が起きる。本来ビショップはCIA香港支局長のダンカン(デヴィッド・ヘミングス)が指揮をとっていた米中通商会談の盗聴作戦に従事するはずだったが、許可なく中国人協力者を指揮して蘇州刑務所に侵入したのだった。ミュアーはビショップを見捨てようとするCIA上層部の反対を押し切り、背後の巨大な陰謀を承知の上で、ビショップ救出の壮大な作戦を計画する―。

トニー・スコット.bmp 2012年に高い橋から飛び降りて自殺してしまったトニー・スコット監督(1944-2012)。彼の2001年監督作で、 ロバート・レッドフォードが監督した「リバー・ランズ・スルー・イット」('92年)以来のロバート・レッドフォードとブラッド・ピットのコラボレーションですが、「リバー・ランズ・スルー・イット」の時はレッドフォードは監督及び製作総指揮で出演はナレーションのみだったため、この作品が「初共演」と言えます。そうしたこともあってか、むしろロバート・レッドフォードが主演した、同じくCIAの内実を扱った「コンドル」('75年)の系譜に近いという印象の方が個人的には強いです。

スパイ・ゲーム レッドフォード.jpg レッドフォードは「コンドル」ではCIA職員でありながら凄腕の諜報部員でも何でもない単なる素人役だったのが、ここでは伝説的存在の工作員ミュアー役となっています。捕らえられてから24時間後に処刑予告されているブラッド・ピッスパイ・ゲーム buraddo.jpgト演じるビショップをいつ助けに行くのかと思ったら、ミュアーはCIAの幹部らにビショップをCIA工作官に育て上げた経緯を語るばかりで、なかなか助けに行かない。その間に、ミュアーの口からベトナム戦争での二人の出会いから、西ドイツでの仕事やベイルートでの仕事が語られ、映画の大部分の時間はそのカットバックで占められ、ビショップがなぜ蘇州刑務所に侵入したのかも明かされます。

スパイ・ゲーム03.jpg ミュアーが延々と過去を語るのは、ビショップの解放を外交交渉に委ねるための時間稼ぎだったわけですが、結局CIAは中国との通商交渉を控えたホワイトハウスの意向に沿ってビショップを見殺しにすることになり、これではミュアーは観客に過去の経緯を見せるためだけに"昔話"をしていたようなものだなあと思いましたが、実はミュアーはしっかり裏で手を打っていた―。

スパイ・ゲーム  reddo.jpg ロバート・レッドフォードがおいしいところの殆どを持っていってしまったような映画で、監督第一作の「普通スパイ・ゲーム ブラッドピット.jpgの人々」('80年)でアカデミー賞監督になったレッドフォードですが、こうした映画に出る時は昔ながらにカッコいい役をやるのだなあと。ブラッド・ピット演じるビショップは助けを待っているだけなので、ブラッド・ピットのファンには相当物足りない映画ではないでしょうか。

デヴィッド・ヘミングス  young & old.jpg 最後、あまりにすんなり事が運んで、ちょっと話が出来すぎている感じもしました。終わり方もあっさりしすぎたかな。もう少しCIAの幹部らが唖然とする様を見たかったような気もします。CIA香港支局長を演じたデヴィッド・ヘミングス(1941-2003)が、ミケランジェロ・アントニオーニ監督の「欲望」('66年)に出ていた頃とはえらい変わり様なので、ちょっと驚きました。それに比Charlotte Rampling-spy-game-(2001)-.jpgべると、キャスカート大使夫人役のシャーロット・ランプリングは、最近でもアンドリュー・ハイ監督の「さざなみ」('15年/英)でベルリン国際映画祭銀熊賞(女優賞)を受賞するなどして、かつての美貌を維持しながら齢を重ねているという感じでしょうか(この作品の前年にはフランソワ・オゾン監督の「まぼろし」('00年/仏)に主演している)。

Charlotte Rampling-spy-game-(2001)

Spy Game (2001)
Spy Game (2001).jpgスパイ・ゲーム ド.jpg「スパイ・ゲーム」●原題:SPY GAME●制作年:2001年●制作国:アメリカ●監督:トニー・スコット●製作:ダグラス・ウィック/マーク・エイブラハム●脚本:マイケル・フロスト・ベックナー●撮影:ダニエル・ミンデル●音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ●原案:マイケル・フロスト・ベックナー●時間:126分●出演:ロバート・レッドフォード/ブラッド・ピット/キャサリン・マコーマック/スティーヴン・ディレイン/ラリー・ブリッグマン/マリアンヌ・ジャン=バプティスト/デヴィッド・ヘミングス/シャーロット・ランプリング●日本公開:2001/12●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ(評価★★★☆)

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細部に"?"はあるが、もっと注目されていい"隠れた傑作"。

コンドル 1975.jpgコンドル dvd.jpg コンドル 1974 bluray.jpg コンドル輸入盤 blu-ray.jpeg
コンドル [DVD]」「コンドル [Blu-ray]」/輸入盤「THREE DAYS OF THE CONDOR
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コンドル dvd2.jpgコンドル 01.jpg ニューヨークにあるアメリカ文学史協会は、CIAの外郭団体として世界各国の雑誌書籍の情報分析を行っている。協会職員は学者肌のCIA分析官で構成されていた。ある日の白昼、アメリカ文学史協会は短機関銃で武装した男3人により襲撃さコンドル 1975   .jpgれ、協会職員は次々と射殺される。たまたま裏口から外出していたために命拾いをしたコードネーム"コンドル"ことジョセフ・ターナー(ロバート・レッドフォード)は、CIA本部に緊急連絡し保護を求める。CIA次官コンドル 8.jpgのヒギンズ(クリフ・ロバートソン)からの指示で第17課長のウィクスという男に落ち合うことになったが、コンドル sido.jpgそのウィクスに銃撃を受ける。辛くも逃走したが、孤立状態となったコンドルは、偶然見かけた女性写真家キャサリン・ヘイル(フェイ・ダナウェイ)を拉致同然に巻き込み、独力で真相を暴こうとする。CIAの暗部に近づこうとするコンドルに謎の殺し屋ジュベール(マックス・フォン・シドー)が忍び寄る―。(「Wikipedia」より)

 1975年製作のシドニー・ポラック(1934-2008)監督作であり、同監督がロバート・レッドフォードを主役に据えて映画を撮ったのは「大いなる勇者」('72年)、「追憶」('73年)以来3度目で、この作品以降も、「出逢い」('79年)、「愛と哀しみの果て」('85年)と続くので、相性が良かったのでしょうか。レッドフォードの共演女優は「追憶」がバーブラ・ストライサンド、この「コンドル」がフェイ・ダナウェイ、「出逢い」がジェーン・フォンダ、「愛と哀しみの果て」がメリル・ストリープだから、錚々たる顔ぶれです。

Three Days of the Condor (1975).jpgコンドルの六日間.jpg この「コンドル」の原作はジェイムズ・グレイディの『コンドルの六日間(Six Days of the Condor)』('75年/新潮社)で、映画の原題は"Three Days of the Condor"(3日分圧縮した?)。原作は米国ではベストセラーとなったポリティカル・サスペンスノベルで、日本での映画公開とほぼ同時期に訳出されていますが、個人的には未読です。小説での各人物像と映画で描かれた人物像はかなり異なり、各人の結末も原作と映画で違うようですが、原作を読んでいないためか却ってすんなり楽しめました。
コンドルの六日間 (1975年)
Three Days of the Condor (1975)

コンドル 1975 s.jpg ニューヨークの地味なビルに入っている表向きは「アメリカ文学史協会」という地味な組織が実はCIAの下部組織で、職員は世界中の推理小説やコミックスを読み漁り、そこに隠された敵対勢力の謀略、暗号の意味を解読する仕事を日夜行っているというのが面白いです(今日であればそうした仕事はコンピュータやAIが肩代わりして、フィクションであっても成り立たないような職業のようにも思えるが、そのレトロ感がいい)。

コンドル 9.jpg ある日突然仕事仲間を全員を殺害された"コンドル"は、何が何だか分からないまま得体の知れない巨大な敵から逃れながら、孤独な闘いを強いられますが、その際に、CIA職員であるとは言え、凄腕の諜報部員でも何でもない単なる本の虫に過ぎない彼が、仕事で培った本から得た知識や戦略を駆使して自らを守り、逆襲に出るというわけです。

コンドル 03.jpgコンドルad.jpeg ネタバレにまりますが、結局CIAの中に中東に戦争を仕掛けたがっている派閥、いわば〈もう1つのCIA〉があって、その連中が黒幕です(湾岸戦争やイラク戦争のことを想うと、ある意味"先駆的"な設定とも言え、こうした映画を作るところがいい意味でアメリカ的でもある)。最後"コンドル"は絶体絶命の危機に陥りますが、そこには思わぬ展開が待っていました。

コンドル マックス・フォン・シドー.jpgコンドル シド―.jpg 更にネタバレになりますが、マックス・フォン・シドー演じる殺し屋は、結局、〈もう1つのCIA〉と〈本来のCIA〉の両方から雇われたわけなのだなあと。そんなことあり得るかとも思ったりしましたが、敵の目を眩ますために理屈上はあり得るのかも。マックス・フォン・シドーが映画を通してずっと不気味だったのに、最後は急にいい人っぽい感じになって、このギャップが可笑しかったですが、殺し屋が今までターゲットとして狙っていた人間にいきなりスカウトの声掛けをするかなあ(これも原作通りなのか、それともこの辺りは映画でのある種"お遊び"なのか)。

コンドル 1975s.jpg もっと注目されていい"隠れた傑作"だとは思いますが、やや気になったのは、いくらダウンタウンの犯罪多発地域だとは言え、敵方が協会職員を全員殺害したのは、ちょっと乱暴と言うか、リスクがありすぎるように思いました(彼らにだって家族や友人はいるわけで、事件を完全に揉み消すのは何れの立場の側にとっても難しいのでは。強盗のせいにするにしても、押し入った先が「アメリカ文学史協会」では...)。

コンドル 02.jpg フェイ・ダナウェイは珍しく受身的な役回りで、マックス・フォン・シドーの方が記憶に残っていましたが、久しぶりに観直してみると演技達者であることには変わりありませんでした。但し、あくまでも主演はレッドフォードで、フェイ・ダナウェイはやはり一歩引いたポジショニングでした。先に挙げたシドニー・ポラック監督によるロバート・レッドフォードと女優たちの共演作で、主演女優の方がレッドフォードより前面に出ているのは、「追憶」のバーブラ・ストライサンドと「愛と哀しみの果て」のメリル・ストリープでしょうか。いかにもという感じもしますが、ジェーン・フォンダについてはシドニー・ポラック監督は別に彼女を主役に据えた「ひとりぼっちの青春」('69年/米)を撮っていて、これは傑作です。 

Sydney Pollack's 'Three Days of the Condor'
Sydney Pollack's 'Three Days of the Condor'.jpg「コンドル」●原題:THREE DAYS OF THE CONDOR●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●製作:スタンリー・シュナイダー●脚本:ロレンツォ・センプル・ジュニア/デヴィッド・レイフィール●撮影:オーウェン・ロイズマン●音楽:デイヴ・グルーシン●原作:ジェームズ・グラディ「コンドルの六日間」●時間:118分●出演:ロバート・レッドフォード/フェイ・ダナウェイ/クリフ・ロバートソン/マックス・フォン・シドー/マイケル・ケーン/アディソン・パウエル/ウォルター・マッギン/ジョン・ハウスマン/ティナ・チェン/ドン・マクヘンリー/ヘレン・ステンボーグ/ハンスフォード・ロウ/ジェス・オスナ/ハンク・ギャレット/カーリン・グリン●日本公開:1975/11●配給:東宝東和●最初に観た場所:池袋文芸坐(78-05-04)(評価★★★★)●併映「合衆国最後の日」(ロバート・アルドリッチ)

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アメリカン・ニューシネマ代表作2本。もし配役が当初の予定通りだったら違った作品に?。

俺たちに明日はない dvd.jpg 俺たちに明日はない1シーン.jpg    明日に向かって撃て dvd.jpg 明日に向かって撃て! チラシ 1975.jpg
俺たちに明日はない [DVD]」ウォーレン・ベイティ/フェイ・ダナウェイ「明日に向って撃て! (特別編) [DVD]

俺たちに明日はない パンフ 73年リバイバル版.gif俺たちに明日はない 3.jpg 60年代アメリカン・ニューシネマの代表的な作品と言えば、'67年の「俺たちに明日はない」「卒業」、'68年の「ワイルドバンチ」、'69年の「イージー・ライダー」「明日に向って撃て!」「真夜中のカーボーイ」あたりでしょうか。

「俺たちに明日はない」パンフレット(1973年リバイバル版)

アメリカン・ニューシネマ '60~70 別冊太陽.jpg アメリカン・ニューシネマを最も象徴する作品を1つ挙げるとすれば、メッセージ性という点から「イージー・ライダー」を挙げる人もいるかも知れませんが、やはり、"アメリカン・ニューシネマ第1号作品"とも言えるアーサー・ペン(Arthur Penn、1922 -2010)監督の「俺たちに明日はない」(Bonnie and Clyde)がそれに該当するとするのが大方の見方ではないかという気がします(何せ、この作品、当初の監督候補には、フランソワ・トリュフォーやジャン=リュック・ゴダールといったヌーヴェルヴァーグの担い手の名が挙がっていたぐらいだし)。

アメリカン・ニューシネマ '60~70 別冊太陽 (構成=川本三郎・小藤田千栄子)

「俺たちに明日はない」1.jpg「俺たちに明日はない」2.jpg 名画座で初めて観た時には、既に公開から10年を経ており、それまでにリヴァイバル上映もされていて、おおよその展開を知ってはいましたが、それでも「死のバレエ」と言われるラスト・シーンを観た際の衝撃は大きく、併映の「真夜中のカーボーイ」(これもいい作品)を観終わった後で、また最初から見直しました(その後も何度かリヴァイバル・ロードショーなどで観た)。
俺たちに明日はない1.gif
俺たちに明日はない     .jpg デヴィッド・ニューマンとロバート・ベントンの脚本に共感したウォーレン・ベイティが製作者として関わっていますが、当初は製作に専念する予定だったそうで、一方、彼の姉であるシャーリー・マクレーンが強くボニーの役を願っていたのが、ウォーレン・ベイティがクライド役に決定したためマクレーンは役から降り(脚本の原案では、クライドはバイセクシャルとして扱われていて、これが映画化が難航する原因となったが、映画化のために改変された脚本でもクライドの"不能"がモチーフとして使われているため、何れにせよ、実姉であるマクレーンは降りざるを得なかった)、その結果フェイ・ダナウェイに白羽の矢が立ったとのこと。フェイ・ダナウェイはこの作品で一躍知名度を上げました。

 冒頭の方にある、着替えをするフェイ・ダナウェイの背中を舐めるようなショットが印象的でしたが、ウォーレン・ベイティがクライドを演じなければ、あれも無かったか、または別の女優が演じていた?(この映画の雰囲気は殆どフェイ・ダナウェイが作っているとも言え、フェイ・ダナウェイとシャーリー・マクレーンとでは随分イメージが違うような気がする)

明日に向かって撃て/バート・バカラック 1969.bmp明日に向かって撃て パンフ 75年リバイバル版.jpg ジョージ・ロイ・ヒル(George Roy Hill、1922 -2002)監督の「明日に向って撃て!」(Butch Cassidy and the Sundance Kid)も思い出深い作品であり、「俺たちに明日はない」の約半年前に観たため、自分の中ではある意味、"ニューシネマ"というとこちらの作品になるという面もあります。

「明日に向かって撃て!」パンフレット(1975年リバイバル版)(左)/バート・バカラック・オリジナル・サウンドトラック版CD(右)

明日に向って撃て 1シーン.jpg 「俺たちに明日はない」と同様に実在の人物をベースとしたギャング・ストーリーであり、アメリカン・ニューシネマに特徴的な悲劇的結末を迎えますが、多分この作品で最も印象に残るのは、バート・バカラックの「雨にぬれても」が流れる中、ポール・ニューマン(Paul Newman、1925 - 2008)がキャサリン・ロスを自転車に乗せて走るシーンではないかと思われ、イメージとしては「俺たちに明日はない」より明るいというか、ソフィストケートされて和田 誠 氏.jpgいる印象を受けます。

 この「雨に濡れても」の自転車のシーンは、その後TVコマーシャルで随分マネものが作られましたが、和田誠氏は、このシーンを初めて観た時に「CMみたい」と思ったそうで(『お楽しみはこれからだ PART2―映画の名セリフ』('76年/文藝春秋))、その感覚は分かる気がします。

 当初予定されていた配役は、ポール・ニューマンと共同で脚本を買い取ったスティーブ・マックイーン(Steve McQueen、1930-1980)がブッチ役で、ポール・ニューマンがサンダンス役だったそうですが、マックイーンが都合により出演しなくなったため、ポール・ニューマンがブッチ役に回り、当時無名のロバート・レッドフォード(Robert Redford、1936-)がサンダンス役に抜擢されたとのこと。

明日に向かって撃て 01.jpg しかも、いきなりロバート・レッドフォードに白羽の矢が立ったわけではなく、最初はマーロン・ブランド(Marlon Brando、1924-2004)がポール・ニューマンの共演者としてサンダンス役をやることになっていたのが、キング牧師の暗殺事件にショックを受けた(本当に?)マーロン・ブランドが役を断った結果、ロバート・レッドフォードに初の大役が回ってきたというから、世の中わからないものです。もし、マックイーンとポール・ニューマンの組み合わせだったとすれば、或いはポール・ニューマンとマーロン・ブランドの組み合わせだったら、これも違った雰囲気の作品になっていたように思います。当初予定配役の変更により、結果として、「俺たちに明日はない」はフェイ・ダナウェイを、「明日に向って撃て!」はロバート・レッドフォードを、それぞれスターダムに押し上げた作品になったわけだなあと。
                        
ジーン・ハックマン(全米映画批評家協会賞「助演男優賞」受賞)
俺たちに明日はない ジーン・ハックマン.jpg俺たちに明日はない」.jpg「俺たちに明日はない」●原題:BONNIE AND CLYDE●制作年:1967年●制作国:アメリカ●監督:アーサー・ペン●製作:ウォーレン・ベイティ●脚本:デヴィッド・ニューマン/ロバート・ベントン/ロバート・タウン●撮影:バーネット・ガフィ●音楽:チャールズ・ストラウス●時間:122分●出演:ウォーレン・ベイティ/フェイ・ダナウェイ/ジーン・ハックマン/マイケル・J・ポラード銀座文化・シネスイッチ銀座.jpg/エステル・パーソンズ/デンヴァー・パイル/ダブ・テイラー/エヴァンス・エヴァンス/ジーン・ワイルダー●日本公開:1968/02●配給:ワーナー・ブラザーズ=セブン・アーツ●最初に観た場所:早稲田松竹(78-05-20)●2回目:早稲田松竹(78-05-20)●3回目:銀座文化(88-06-18)(評価:★★★★)●併映(1回目):「真夜中のカーボーイ」(ジョン・シュレジンジャー)
ウォーレン・ベイティ フェイ・ダナウェイ.jpg2017年第89回アカデミー賞作品賞プレゼンター/フェイ・ダナウェイ(76歳)・ウォーレン・ベイティ(79際)
早稲田松竹.jpg高田馬場a.jpg早稲田松竹 1951年封切館としてオープン、1975年からいわゆる「名画座」に
①②高田馬場東映/高田馬場東映パラス/③高田馬場パール座/④早稲田松竹

「スクリーン」1972年 10月号 表紙=キャサリン・ロス
スクリーン 1972年 10月号 表紙=キャサリン・ロス.jpg明日に向って撃て! ロス.jpgbutch_cassidy_and_the_sundance_kid1.jpg「明日に向って撃て!」●原題:BUTCH CASSIDY AND THESUNDANCE KID●制作年:1969●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・ロイ・ヒル●製作:ジョン・フォアマン●脚本:ウィリアム・ゴールドマン●撮影:コンラッド・L・ホール●音楽:バート・バカラック●時間:110分●出演:ポール・ニューマン/ロバート・レッドフォード/キャサリン・ロス/ストローザー・マーティン/ジェフ・コーリー/ジョージ・ファース/クロリス・リーチマン/ドネリー・ローズ/ケネス・マース/ヘンリー・ジョーンズ●日本公開:1970/02●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:渋谷文化劇場(77-10-23)(評価:★渋谷文化劇場.png★★★)●併映:「追憶」(シドニー・ポラック)
渋谷文化劇場 1952年11月17日、渋谷東宝会館地下にオープン 1989年2月26日閉館(1991年7月6日、跡地に渋東シネタワーがオープン)

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初読では中だるみ感があったが、映画を観てもう一度読み返してみたら、無駄の無い傑作だった。
グレート・ギャツビー.jpg グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー) 和田誠.jpg グレート・ギャツビー 野崎訳.jpgグレート・ギャツビー 新潮文庫2.jpg 翻訳夜話.jpg
愛蔵版グレート・ギャツビー』 『グレート・ギャツビー(村上春樹翻訳ライブラリー)』(新書)/『グレート・ギャツビー(村上春樹翻訳ライブラリー)』(新書)(以上、装幀・カバーイラスト:和田 誠)/『グレート・ギャツビー (新潮文庫)』(野崎孝:訳)/村上 春樹・柴田 元幸『翻訳夜話 (文春新書)
First edition cover (1925)
The Great Gatsby.jpg 1920年代初頭、米国中西部出身のニック・キャラウェイは、戦争に従軍したのち故郷へ帰るも孤独感に苛まれ、証券会社でフランシス・スコット・フィッツジェラルド.jpg働くためにニューヨーク郊外ロング・アイランドにある高級住宅地ウェスト・エッグへと引っ越してくるが、隣の大邸宅では日々豪華なパーティが開かれていて、その庭園には華麗な装いの男女が夜毎に集まっており、彼は否応無くその屋敷の主ジェイ・ギャツビーという人物に興味を抱くが、ある日、そのギャツビー氏にパーティに招かれる。ニックがパーティに出てみると、参加者の殆どがギャツビーについて正確なことを知らず、ニックには主催者のギャツビーがパーティの場のどこにいるかさえわからない、しかし、たまたま自分の隣にいた青年が実は―。

The Great Gatsby: The Graphic Novel(2020)
The Great Gatsb The Graphic Novel.jpg 1925年に出版された米国の作家フランシス・スコット・フィッツジェラルド(Francis Scott Fitzgerald、1896‐1940/享年44)の超有名作品ですが(原題:The Great Gatsby)、上記のようなところから、ニックとギャツビーの交遊が始まるという初めの方の展開が単純に面白かったです。

 しかし、この小説、初読の際は中間部分は今一つ波に乗れなかったというか、自分が最初に読んだのは野崎孝(1917‐1995)訳『偉大なるギャツビー』でしたが、今回、翻訳のリズムがいいと評判の村上春樹氏の訳を読んで、それでもやや中だるみ感があったかなあと(金持ち同士の恋の鞘当てみたいな話が続き、その俗っぽさがこの作品の持つ1つの批判的テーマであると言えるのだが...)。ただし、ギャツビーという人物の来歴と、彼の自らの心の空洞を埋めようとするための壮大な計画が明かされていく過程は、やはり面白いなあと―。そしてラスト、畳み掛けるようなカタストロフィ―と、小説としての体裁もきっちりしていることはきっちりしていると思いました。更に、最近リアルタイムでは観られなかったジャック・クレイトン監督、ロバート・レッドフォー華麗なるギャツビー 1974 dvd.jpg華麗なるギャツビー 1974.jpgド主演の映画化作品「華麗なるギャツビー」('74年/米)をテレビで観る機会があって、その上でもう一度、野崎訳及び村上訳を読み返してみると、起きているごたごたの全部が終盤への伏線となっていたことが再認識でき、村上春樹氏が「過不足のない要を得た人物描写、ところどころに現れる深い内省、ヴィジュアルで生々しい動感、良質なセンチメンタリズムと、どれをとっても古典と呼ぶにふさわしい優れた作品となっている」と絶賛しているのが分かる気がしました。
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 ギャツビーにはモデルがいるそうですが、ニックとギャツビーのそれぞれがフィッツジェラルドの分身であり(ついでに言えば、妻に浮気されるトム・ブキャナンも)、そしてフィッツジェラルド自身が美人妻ゼルダ(後に発狂する)と高級住宅地に住まいを借りてパーティ漬けの派手な暮らしをしながら、やがて才能を枯渇させてしまうという、華々しさとその後の凋落ぶりも含めギャツビーと重なるのが興味深いですが、これはむしろ小説の外の話で、ニックの眼から見た"ギャツビー"の描写は、こうした実生活での作者自身との相似に反して極めて冷静な筆致で描かれていると言ってよいでしょう。

『グレート・ギャツビー』 (2006).JPG村上春樹 09.jpg 新訳というのは大体読みやすいものですが、村上訳は、ギャツビーがニックを呼ぶ際の「親友」という言葉を「オールド・スポート」とそのまま訳したりしていて(訳していることにならない?)、日本語でしっくりくる言葉がなければ、無理して訳さないということみたいです(柴田元幸氏との対談『翻訳夜話』('00年/文春新書)でもそうした"ポリシー"が語られていた)。ただし、個人的には、「オールド・スポート」を敢えて「親友」と訳さなかったことは、うまく作用しているように思いました(映画を観るとギャツビーは「オールド・スポート」と言う言葉を様々な局面で使っていて、その意味合いがそれぞれ違っていることが分かる。それらを日本語に訳してしまうと、同じ言葉を使い分けているということが今度は分からなくなる)。

『グレート・ギャツビー(村上春樹翻訳ライブラリー)』(2006)(装幀・カバーイラスト:和田 誠

グレート・ギャツビー』1.JPG そうした意味では、タイトルを『グレート・ギャツビー』としたこともまた村上氏らしいと思いました。ただし、野崎孝訳も'89年の「新潮文庫」改訂時に『グレート・ギャツビー』に改題していて、故・野崎孝氏に言わせれば、フィッツジェラルドは、親から受け継いだ資産の上に安住している金持ち階級を嫌悪し(作中のブキャナン夫妻がその典型)、自らの才覚と努力によって財を成した金持ち(ギャツビーがこれに該当)には好意と尊敬の念を抱いていたとのこと('74年版「新潮文庫」解説)。だから、"グレート"という言葉には敬意も込められていると見るべきなのでしょう。
   
日はまた昇る.jpg 村上氏はこの作品を"生涯の1冊"に挙げており、同じ"ロスト・ジェネレーション"の作家ヘミングウェイ『日はまた昇る』(この作品とシチュエーションが似ている面がある)より上に置いていますが、個人的には『日はまた昇る』も傑作であると思翻訳夜話2.jpgっており、どちらが上かは決めかねます。 

 因みに、先に挙げた『翻訳夜話』は、柴田氏と村上氏が、東京大学の柴田教室と翻訳学校の生徒、さらに6人の中堅翻訳家という、それぞれ異なる聴衆に向けて行った3回のフォーラム対談の記録で、村上氏は翻訳に際して「大事なのは偏見のある愛情」であると言い、柴田氏は「召使のようにひたすら主人の声に耳を澄ます」と言っています。レイモンド・カーバーとポール・オースターの短編小説を二人がそれぞれ「競訳」したものが掲載されていて、カーバーの方は村上氏の方が訳文が長めになり、オースターの方は柴田氏の方が長めになっているのが、両者のそれぞれの作家に対する思い入れの度合いを反映しているようで興味深かったです。

「グレート・ギャツビー」人物相関.jpg

0華麗なるギャツビー レッドフォード.jpg(●2013年にバズ・ラーマン監督、レオナルド・ディカプリオ主演で再映画化された。1974年のジャック・クレイトン監督のロバート・レッドフォード、ミア・ファロー版は、当初はスティーブ・マックィーン、アリ・マックグロー主演で計画されていて、それがこの二人に落ち着いたのだが、村上春樹氏などは「落ち着きが悪い」としていた(ただし、フランシス・フォード・コッポラの脚本を評価していた)。個人的には、デイジー役のミア・ファローは登場するなり心身症的なイメージで、一方、ロバート・レッドフォードは健全すぎたのでアンバランスに感じた。レオナルド・ディカプリオ版におけるディカプリオの方が主人公のイメージに合っていたが(ディカプリオが家系0華麗なるギャツビー  ディカプリオ .jpg的に4分の3ドイツ系であるというのもあるか)、キャリー・マリガン演じるデイジーが、完全にギャツビーを取り巻く俗人たちの1人として埋没していた。セットや衣装はレッドフォード版の方がお金をかけていた。ディカプリオ版も金はかけていたが、CGできらびやかさを出そうとしたりしていて、それが華やかと言うより騒々しい感じがした。目まぐるしく移り変わる映像は、バズ・ラーマン監督の「ムーラン・ルージュ」('01年)あたりからの手法だろう。ディカプリオだから何とか持っているが、「ムーラン・ルージュ」ではユアン・マクレガーもニコール・キッドマンもセット(CG含む)の中に埋もれていた。)

華麗なるギャツビー r2.jpg 華麗なるギャツビー d2.jpg

華麗なるギャツビー dvd.jpg
   
グレート・ギャツビー (愛蔵版).jpgグレート・ギャツビー 村上春樹翻訳ライブラリー2.jpg【1957年文庫化[角川文庫(大貫三郎訳『華麗なるギャツビー』)]/1974年再文庫化[早川文庫(橋本福夫訳『華麗なるギャツビー』)]/1974年再文庫化[新潮文庫(野崎孝訳『偉大なるギャツビー』)・1989年改版(野崎孝訳『グレート・ギャツビー』)]/1978年再文庫化[旺文社文庫(橋本福夫訳『華麗なるギャツビー』)]/1978年再文庫化[集英社文庫(野崎孝訳『偉大なギャツビー』]/2006年新書化[中央公論新社・村上春樹翻訳ライブラリー(『グレート・ギャツビー』]/2009年再文庫化[光文社古典新訳文庫(小川高義訳『グレート・ギャツビー』)】[左]『愛蔵版グレート・ギャツビー』(2006/11 中央公論新社)/[右]『グレート・ギャツビー(村上春樹翻訳ライブラリー)』(2006/11 中央公論新社)(共に装幀・カバーイラスト:和田 誠


新潮文庫(野崎孝訳)映画タイアップ・カバー(レッドフォード版)
グレート・ギャツビー 新潮文庫im.jpg華麗なるギャツビー 1974  .jpg「華麗なるギャツビー」●原題:THE GREAT GATSBY●制作年:1974年●制作国:アメリカ●監督:ジャック・クレイトン●製作:オデヴィッド・メリック●脚本:フランシス・フォード・コッポラ●撮影:ダグラス・スローカム●音楽:ネルソン・リドル●原作:スコット・フィッツジェラルド●時間:144分●出演:ロバート・レッドフォード/ミア・ファロー/ブルース・ダーン/ サム・ウォーターストン/スコット・ウィルソン/ カレン・ブラック/ロイス・チャイルズ/パッツィ・ケンジット/ハワード・ダ・シルバ/ロバーツ・ブロッサム/キャスリン・リー・スコット●日本公開:1974/08●配給:パラマウント映画(評価:★★★☆)

新潮文庫(野崎孝訳)映画タイアップ・カバー(ディカプリオ版)
グレート・ギャツビー 新潮文庫2.jpg華麗なるギャツビー d1.jpg「華麗なるギャツビー」●原題:THE GREAT GATSBY●制作年:2013年●制作国:アメリカ●監督:バズ・ラーマン●製作:ダグラス・ウィック/バズ・ラーマン/ルーシー・フィッシャー/キャサリン・ナップマン/キャサリン・マーティン●脚本:バズ・ラーマン/クレイグ・ピアース●撮影:サイモン・ダガン●音楽:クレイグ・アームストロング●原作:スコット・フィッツジェラルド●時間華麗なるギャツビー 2013 _1.jpg:143分●出演:レオナルド・ディカプリオ/トビー・マグワイア/キャリー・マリガン/ジョエル・エドガートン/アイラ・フィッシャー/ジェイソン・クラーク/エリザベス・デビッキ/ジャック・トンプソン/アミターブ・バッチャン●日本公開:2013/06●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★)

「華麗なるギャツビー」d版.jpg
  

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邦題より原題が相応しいシビアな内容。ジェーン・フォンダの演技には鬼気迫るものがある。

ひとりぼっちの青春.jpg  彼らは廃馬を撃つ.jpg ホレス・マッコイ「彼らは廃馬を撃つ」.jpg    .映画「バーバレラ」(1968).jpg   追憶パンフ.jpg 
ひとりぼっちの青春 [DVD]」 「彼らは廃馬を撃つ」['70年/角川文庫]['88年/王国社]「バーバレラ」「追憶

『ひとりぼっちの青春』(1969)2.jpgひとりぼっちの青春1.png 1932年、不況下にハリウッドで行われた「マラソン・ダンス」の会場には、賞金を狙って多くの男女が集まっていた。ロバート(マイケル・サラザン)もその1人で、彼は、大会のプロモーター兼司会者(ギグ・ヤング)の手配により、グロリア(ジェーン・フォンダ)と組んで踊ることになるのだが―。

『ひとりぼっちの青春』(1969).jpg 「ひとりぼっちの青春」('69年/米)は、不況時のアメリカの世相と、一攫千金を願ってコンテストに参加し、ぼろぼろになっていく男女を通して、世相の退廃と人生の孤独や狂気を描いた作品で、 甘ちょろい感じのする邦題タイトルですが、原題は"They Shoot Horses, Don't They?"(「廃馬は撃つべし」とでも訳すところか)というシビアなもの(オープニングで馬が撃たれるイメージ映像が流れる)。

By Jeffrey Ressner.jpg 余興で行われた二人三脚競走で足がつって踊れなくなったロバートを、今までの苦労が水の泡になるとして無理やり引きずって踊ろうとするグロリアを演じたジェーン・フォンダの演技には、鬼気迫るものがありました(ジェーン・フォンダはこの作品でゴールデングローブ賞、ニューヨーク映画批評家協会賞の各「主演女優賞」を受賞)。

 グロリアは、もはや賞金のためではなく、自らの尊厳のために踊り続けようとする。しかし、このダンス・コンテスト自体がある種のヤラセ興行であることに気づいたとき、彼女はロバートに自殺幇助を頼み果てる―。"They Shoot Horses Don't They?"は、ロバートが子供の頃、父親から言い聞かされていた言葉だったというのが、強烈な皮肉として効いています。 

バーバレラ 1993.jpgBARBARELLAes.jpg 雑誌モデル出身のジェーン・フォンダは、この映画に出るまではセクシーさが売りの女優で、ピンク・コメディのようなものによく出演しており、この映画の前の出演作は、ロジェ・ヴァディム監督の「バーバレラ」('68年/伊・仏)というSFコミックの実写版でした。偶々テレビで観たという作品だったため、相対的に印象が薄かったのですが、この作品のオープニング、今観ると凄いね。ジェーン・フォンダの格好もスゴかったけれども、アニタ・パレンバーグの格好もスゴかった。

 そんな彼女が演技開眼したのが、この「ひとりぼっちの青春」であったことは本人も後に語っているところであり、その後2度もアカデミー主演女優賞を獲得しています。しかも、「黄昏」("On Golden Pond")の映画化権を買取り、父ヘンリー・フォンダに初のアカデミー主演男優賞をもたらす契機を作ってさえいます。一方、映画でアクの強いプロモーターを演じたギグ・ヤングは、この映画の8年後に、妻を射殺して自らも命を絶っています。シドニー・ポラック.jpg この作品は、今年('08年)5月に亡くなったシドニー・ポラック(1934‐2008/享年73)監督作で、この人の代表作には、「追憶」や「愛と哀しみの果て」などの大物俳優の組み合わせ作品や「トッツィー」('82年、アカデミー助演女優賞)などがあります。
 

『追憶』(1973) 3.jpg 「追憶」('73年)は、やはりあくまでもバーブラ・ストライサンドの映画という感じで、バーブラ・ストライサンドが政治活動に熱心な苦学生を、ロバート・レッドフォードがノンポリの学生を演じていますが、2人の20年後の再会から自分たちの歩んできた道を振り返る構成になっていて、よって「追憶(THE WAY WE WER)」というタイトルになるわけです。

『追憶』(1973) 1.jpg 何事にもひたむきにしか生きられない、不器用だが一途な女性をバーブラ・ストライサンドが好演、人間ってそう簡単には変われないのかもと...。

 テーマ曲もバーブラ・ストライザンドが歌っているわけで、これだけの歌唱力と演技力を兼ね備えているというのは考えてみれば凄い才能ということになります。一時期、ネスカフェ・コーヒーのCMが流れる度に思い出す映画でもありましたが、個人的にはこの映画のお陰で、暫くはロバート・レッドフォード自体にノンポリのイメージを抱いていました。

The way we were

愛と哀しみの果て  0.jpg そのロバート・レッドフォードがメリル・ストリープと共演したのが「愛と哀しみの果て」('85年)で、原作は「バベットの晩餐会」の原作者でもあるカレン・ブリクセン(イサク・ディーネセン)の文芸作品で、池澤夏樹氏が自身の個人編集の世界文学全集においてもチョイスしている『アフリカの日々』ですが、アカデミーの作品賞や監督賞を獲ったにしては中身はハーレクイン・ロマンスみたいだなあと...(原作から何か抜け落ちているのでは?)。でも、メリル・ストリープってコンプレックスを持った女性を演じるのが上手いなあとは思わされ、実際彼女ははこの作品でロサンゼルス映画批評家協会賞の「主演女優賞」受賞していますが、映画自体は全く自分の好みに合わなかったです(この他に、男爵を演じたクラウス・マリア・ブランダウアー(「ネバーセイ・ネバーアゲイン」('83年/米・英))がゴールデングローブ賞「助演男優賞」とニューヨーク映画批評家協会賞「助演男優賞」を受賞している)。

トッツィー1.jpg 「トッツィー」('82年)は、女装のダスティン・ホフマンがアカデミー主演男優賞(女優賞?)を獲るかと言われた映画ですが、むしろ共演トッツィーのジェシカ・ラング.jpgジェシカ・ラング(「キングコング」('76年/米))の方が進境著しく、彼女はこの作品で、アカデミー賞、ゴールデングローブ賞、ニューヨーク映画批評家協会賞全米映画批評家協会賞の各「助演女優賞」を受賞しています。個人的には、ソープオペラって収録が間に合わなくなると"生撮り"するというのが興味深かった...。日本でも昔のNHKの「お笑い三人組」や民放の「てなもんや三度笠」などは公開録画だったようですが。

 こうして見ると、男優よりもむしろ女優の方の魅力を引き出しているものが並び、「ひとりぼっちの青春」もその類ということになるのかも知れませんが、「ひとりぼっちの青春」に関しては、シドニー・ポラック監督作の中では忘れてはならない作品だと個人的には思っています。

ラヂオの時間1.jpg そう言えば、1993年に上演された劇団東京サンシャインボーイズの演劇で、三谷幸喜の初監督作品として映画化された「ラヂオの時間」('97年/東宝)が、ラジオドラマを生放送でやるという設定でした。主婦(鈴木京香)が初めて書いた脚本が採用されたのだったが、本番直前、主演女優(戸田恵子)が自分の役名が気に入らないと文句を言い出し、急きょ脚本に変更が加えられ、さらに辻褄を合わせようと次々と設定を変更していくうちに、熱海を舞台にしたメロドラマのはずだった物語がアメリカを舞台にした破天荒なSFドラヂオの時間2.jpgラマへと変貌していき、プロデューサー(西村雅彦)やディレクター(唐沢寿明)がてんてこ舞いするというもの。生放送という設定ならではのドタバタ劇が面白かったです。キネマ旬報ベストテンの第3位。この年の1位は宮崎駿監督んの「もののけ姫」で2位は今村昌平監督のパルムドールを獲った「うなぎ」でしたから、かなり高く評価されたと言えるのではないでしか(第22回「報知映画賞 作品賞」を受賞している)。日本ではコメディへの評価が低いので、十分に健闘したと言えるし、いいことだと思います(ただしその後、三谷幸喜監督作品は、「読者選出」の方でベストテンラジオの時間 渡辺謙.jpgに入ることはあっても、本チャンの選考委員選出の方ではなかなかベストテンに入ってこない)。渡辺謙がラジオ番組ファンのタンクローリーの運転手役で出ているのは、彼が同じくタンクローリー運転手のゴン役で出ていた伊丹十三(1933-1997/64歳没)監督の〈ラーメン・ウエスタン〉ムービー「タンポポ」('85年/東宝)へのオマージュなのでしょう。カウボーイハットも被っているし―(「タンポポ」でカウボーイハットを被っていたのは、相方ゴロー役の山崎努だったが)。

2022年・第70回「菊池寛賞」受賞(同時受賞の宮部みゆき氏と)
2022菊池寛賞.jpg

  
「ひとりぼっちの青春」米国版 ポスター&ビデオカバー
[ひとりぼっちの青春.jpgThey Shoot Horses Don't They? video.jpgThey Shoot Horses Don't They?.jpg「ひとりぼっちの青春」●原題:THEY SHOOT HOURSES,DON'T THEY?●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●音楽:ジョン・グリーン●原作:ホレース・マッコイ 「彼らは廃馬を撃つ」●時間:133分●出演:ジェーン・フォンダ/マイケル・サラザン/スザンナ・ヨーiひとりぼっちの青春 の画像.jpgク/ギグ・ヤング/ボニー・ベデリア/マイケル・コンラッド/ブルース・ダーン/アル・ルイス/セヴァン・ダーデン/ロバート・フィールズ/アリン・アン・マクレリー/マッジ・ケネディ/レッド・バトンズ●日本公開:1970/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三鷹東映ひとりぼっちの青春09.jpg78-01-17) (評価★★★★☆)●併映:「草原の輝き」(エリア・カザン)/「ジョンとメリー」(ピーター・イェイツ)

ジェーン・フォンダ(ニューヨーク映画批評家協会賞主演女優賞・ゴールデングローブ賞主演女優賞)

三鷹オスカー.jpg三鷹東映 1977年9月3日、それまであった東映系封切館「三鷹東映」が3本立名画座として再スタート。1978年5月に「三鷹オスカー」に改称。1990(平成2)年12月30日閉館。
    
ぴあ 三鷹東映.jpg 「ぴあ」1978年1月号

バーバレラ [DVD]」アニタ・パレンバーグ/ジェーン・フォンダ in 「バーバレラ」   
BARBARELLAs.jpgバーバレラ [DVD].jpgBARBARELLA.jpg「バーバレラ」●原題:BARBARELLA●制作年:1968年●制作国:イタリア/フランス●監督:ロジェ・ヴァディム●製作:ディノ・デ・ラウレンティス●脚本:ジャン=クロジェーン・フォンダ9.pngバーバレラes.jpgード・フォレ/クロード・ブリュレ/クレメント・ウッド/テリー・サザーン/ロジアニタ・パレンバーグ in 『バーバレラ』.jpgェ・ヴァディム/ヴィットーリオ・ボニチェッリ/ブライアン・デガス/テューダー・ゲイツ●撮影:クロード・ルノワール●音楽:チャールズ・フォックス●原作:ジャン=クロード・フォレスト「バーバレラ」●時間:98分●出演:ジェーン・フォンダ/ジョン・フィリップ・ロー/アニタ・パレンバーグ/ミロ・オーシャ●日本公開:1968/10●発売元:パラマウント(評価★★★)

「バーバレラ」サントラ.jpg

THE WAY WE WERE .jpg追憶 dvd.jpgThe way we were.gif「追憶」●原題:THE WAY WE WER●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●音楽:マービン・ハムリッシュ●原作:アーサー・ローレンツ●時間:118分●出演:バーブラ・ストライサンド/ロバート・レッドフォード渋谷文化劇場.png/ブラッドフォード・ディルマン/ロイス・チャイルズ/パトリック・オニール/ヴィヴェカ・リンドフォース●日本公開:1974/04●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:渋谷文化劇場(77-10-23) (評価★★★☆)●併映:「明日に向かって撃て!」(ジョージ・ロイ・ヒル)

渋谷文化劇場 1952年11月17日、渋谷東宝会館地下にオープン 1989年2月26日閉館(1991年7月6日、跡地に渋東シネタワーがオープン)
    
愛と哀しみの果てdvd.jpg愛と哀しみの果て パンフ.jpg愛と哀しみの果てs.jpg「愛と哀しみの果て」●原題:OUT OF AFRICA●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●音楽:ジョン・バリー●原作:アイザック・ディネーセン(カレン・ブリクセン)「アフリカの日々」●時間:161分●出演:メリル・ストリープ/ロバート・レッドフォード/クラウス・マリア・ブランダウアー/マイケル・キッチン/マリック・ボーウェンズ●日本公開:1986/03●配給:ユニヴァーサル愛と哀しみの果て meriru .jpgクラウス・マリア・ブランダウアー.jpg映画●最初に観た場所:テアトル池袋(86-10-12) (評価★★)●併映:「恋におちて」(ウール・グロスバード) メリル・ストリープ(ロサンゼルス映画批評家協会賞主演女優賞)ラウス・マリア・ブランダウアー(ゴールデングローブ賞助演男優賞・ニューヨーク映画批評家協会賞助演男優賞)
    
トッツィー ジェシカ・ラング.jpgトッツィー.jpg「トッツィー」●原題:TOOTSIE●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●音楽:デイブ・グルーシン●時間:113分●出演:ダスティン・ホフマン/ジェシカ・ラング/ビル・マーレイ/テリー・ガー/ダブニー・コールマン/チャールズ・ダーニング●日本公開:1983/04●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:自由が丘武蔵野推理 (85-07-14) (評価★★★)●併映:「プレイス・イン・ザ・ハート」(ロバート・ベントン) ダスティン・ホフマン(全米映画批評家協会賞主演男優賞)ジェシカ・ラング(ニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞・全米映画批評家協会賞助演女優賞・ゴールデングローブ賞助演女優賞・アカデミー賞助演女優賞)

ラヂオの時間 スタンダード・エディション [DVD]
ラヂオの時間 1997.jpgラヂオの時間3.jpg「ラヂオの時間」●制作年:1997年●監督・脚本:三谷幸喜●製作:村上光一/高井英幸●音楽:服部隆之●原作:三谷幸喜/東京サンシャインボーイズ『ラヂオの時間』●時間:103分●出演:唐沢寿明/鈴木京香/西村雅彦/戸田恵子/布施明/井上順/細川俊之/小野武彦/藤村俊二/小野武彦/梶原善/並樹史朗/奥貫薫/近藤芳正/モロ師岡/田口浩正/梅野泰靖/(以下、特別出演)市川染五ラヂオの時間 渡辺謙.jpg郎/桃井かおり/佐藤B作/宮本信子/渡辺謙●公開:1997/11●配給:東宝(評価:★★★★)

「ラヂオの時間  .jpg

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ナイーブな感性から男性原理へ。ハードボイルドのルーツは新聞記者の文章?

『われらの時代・男だけの世界―ヘミングウェイ全短編1』.JPGわれらの時代・男だけの世界.bmp われらの時代に hukutake.jpg われらの時代に/ヘミングウェー短編集1.jpg 女のいない男たち.jpg 
われらの時代・男だけの世界 (新潮文庫―ヘミングウェイ全短編)』['95年]/『われらの時代に (福武文庫―海外文学シリーズ)』['88年]『われらの時代に ヘミングウェー短編集1』『女のいない男たち ヘミングウェー短編集2』['13年/グーテンベルク21]Kindle版
in our time.jpgMen Without Women.jpg ヘミングウェイ Ernest Hemingway (1899-1961)の短編のうち、文豪誕生の黎明期とも言える初期のパリ在住時代のものが収められています。1924年刊行の『われらの時代』"In Our Time"と、1927年刊行の『男だけの世界』"Men Without Women"の2つの短編集の「合本」であるとも言えるものですが、高見浩氏による翻訳は新潮文庫のための訳し下ろしであり、現代の感覚から見ても簡潔・自然な訳調は、「新訳」と言っていいと思います。

"In Our Time"(1924)/"Men Without Women"(1927)

 『われらの時代』も『男だけの世界』も、含まれる短編の多くにニック・アダムスという少年期から青年期のヘミングウェイを思Men Without Women .jpgわせる若者が登場しますが、『われらの時代』にはどちらかと言うと、若者のナイーブな感性がとらえた世間というものが反映されているのに対し、『男だけの世界』の方は、男性原理が前面に出た(短編集の表題通り女性が殆ど登場しない)、男臭いというかハードボイルド風のものが殆どとなっています。
 時間的には、この両短編集の間に、当初は短編として構想され、書き進むうちに長編になった『日はまた昇る』"The Sun Also Rises"(1926年)が書かれているわけですが、その時期は、ヘミングウェイが妻と愛人の間で板ばさみになり、心理的に袋小路に追い詰められていた時期でもあり、その両方を失って彼は女嫌いとなったのか、女性的なものを作品に持ち込むことを意図的に避けるようになったようです。
"Men Without Women" Scribner(1997)

A river runs through it.jpg 『われらの時代』は、青春時代が第一次世界大戦後の虚脱状態の世相に重なった"ロスト・ジェネレーション"に意味的に重なるものであり、この中では「二つの心臓の大きな川」という作品が秀逸。心に傷を負った主人公のニックがミシガン湖で友人と釣りをするだけの話ですが、フライフィッシングの描写が素晴らしく(ロバート・レッドフォード監督の「リバー・ランズ・スルー・イット」を思い出した)、また、釣れた鱒を捌く描写の簡潔で的確な筆致は(『老人と海』(1952年)にも魚を捌く場面があるが、それに近い)、同時に主人公の生への意欲の回復を表している感じがしました。
"A river runs through it" (1992) DVD
マクリーンの川 (集英社文庫)
マクリーンの川 (集英社文庫).jpgA river runs through it 2.jpg 「リバー・ランズ・スルー・イット」(原作はノーマン・マクリーンの「マクリーンの川」)では、主人公(クレイグ・シェイファー)が、牧師だった父(トム・スケリット)と才能がありながらも破天荒な生き方の末に亡くなった弟(ブラッド・ピット)を偲んで、故郷の地で、かつて父から教わり、父や弟と親しんだフライフィッシングをする場面が美しく、また、こうした「供養」と言える行動を通して主人公が癒されていくスタイルが独特だなあと思ったのですが、ヘミングウェイの「二つの心臓の大きな川」においても、フライフィッシングが主人公の戦争体験のトラウマを癒す役割を果たしているように思えます。
 そう言えば、'60年代のビート・ジェネレーションの作家リチャード・ブローティガンにも『アメリカの鱒釣り』('75年/晶文社、'05年/新潮文庫)という作者にとっての処女小説(短編集)があり、釣りとアメリカ人の精神性はどこかで繋がるところがあるのかなと思ったりしました。

 『男だけの世界』にも、老闘牛士をモチーフにした「敗れざる者」などの秀作もありますが、やはり、感情表現を排した簡潔な筆致で、ハードボイルドの1つの原型であるともされる「殺し屋」が印象に残ります。思えばヘミングウェイは、パリには新聞社の特派員として滞在していたわけで(第一次大戦中は通信兵として電文を打っていたこともあった)、そうすると、ハードボイルドのルーツは新聞記者の文章ということでしょうか(少し後に『大いなる眠り』(1939年)で長編デビューするレイモンド・チャンドラーも、新聞記者をしていた時期がある)。

「リバー・ランズ・スルー・イット」パンフレット裏.jpg「リバー・ランズ・スルー・イット」.jpg「リバー・ランズ・スルー・イット」●原題:A RIVER RUNS THROUGH IT●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督・製作総指揮:ロバート・レッドフォード●脚本:リチャード・フリーデンバーグ●撮影:フィリップ・ルースロ ト●音楽:マーク・アイシャム●原作:ノーマン・マクリーン 「マクリーンの川」●時間:124分●出演:ブラッド・ピット/クレイグ・シェイファー/トム・スケリット/ブレンダ・ブレシン/エミリー・ロイド/スティーヴン・シェレン/ニコール・バーデット/ジョセフ・ゴードン=レヴィット/ロバート・レッドフォード(ナレーション)●日本公開:1993/09●配給:東宝東和 (評価:★★★★)

「リバー・ランズ・スルー・イット」映画パンフ裏面予告

われらの時代・男だけの世界7.JPG【1988年文庫化[福武文庫(『われらの時代に』)]/1995年文庫化[新潮文庫]】

われらの時代・男だけの世界 (新潮文庫―ヘミングウェイ全短編)』['95年]

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ナショナリズムからスタートし、「スモールタウンの幻像」を携えたベースボール。
ベースボールの夢.jpg      フィールド・オブ・ドリームス [4K.jpg フィールド・オブ・ドリームス22.jpg
ベースボールの夢―アメリカ人は何をはじめたのか (岩波新書 新赤版 1089)』〔'07年〕 フィールド・オブ・ドリームス 4K Ultra HD+ブルーレイ[4K ULTRA HD + Blu-ray]」['19年]

 ベースボールは、南北戦争の将軍アブナー・ダブルデーが若い頃、1839年にニューヨーク州中部の村・クーパーズタウンで始めたのが最初とされ、以来当地は「野球殿堂」が建てられるなど"ベースボール発祥の地"とされていますが、この"ベースボールの起源"論については、英国生まれのジャーナリスト、ヘンリー・チャドウィックが、英国でそれ以前から行われていた「ラウンダーズ」がベースボールの起源であると主張していたとのことです。

Al_Spalding_Baseball.jpg ところが、これを否定し、調査委員会まで設置して「クーパーズタウン伝説」を強引に「事実」にしてしまったのが、往年の名投手でスポーツ用品メーカーの創立者としても知られるアルバート・G・スポルディング(Albert Spalding)で、本書前半部では、こうしたベースボールの成り立ちと歴史の"捏造"過程が描かれていて興味深く読めます。
Albert Spalding (1850-1915) 
      

Ty Cobb.jpg ベースボールは、英国のクリケットなどとの差異において、ナショナル・スポーツとしての色合いを強め、実業家スポルディングが、ベースボールを通じて「ミドルクラス・白人・男性」のイメージを「アメリカ人」のあるべき姿と重ね(これが後に排他的人種主義にも繋がる)、ミドルクラスを顧客としたビジネスとして育て上げていく、そうした中、それを体現したような選手・打撃王タイ・カップが現れ、さらに彼がコカ・コーラの広告に登場するなどして、商業主義とも結びついていく―。
Tyrus Raymond "Ty" Cobb (1886-1961)

 本書では、ややスポルディング個人の影響力を過大評価している感じもありますが、後半部は社会学者らしく、アメリカにフロンティアが無くなった南北戦争後、地方に分散する従来のスモールタウンを基盤とした社会から、産業の発展に伴って大都市に人口が集中する社会への転換期を迎える、そうした過程に呼応した形で、ベースボールが「ゲームの源泉としての農村」、「農村から都市へのゲームの発展」という流れにおいて、「スモールタウンの幻像」を携えながら振興していく構図を捉えていてます。

ナチュラル.jpgフィールド・オブ・ドリームス.gif 個人的はこの部分に関しては、そういう見方もあるかもしれないと思い、確かに、映画「フィールド・オブ・ドリームス」('89年/ケビン・コスナー主演)や「ナチュラル」('84年/ロバート・レッドフォード主演)も、著者の言う「農村神話」というか、田舎(スモールタウン)へのノスタルジーみたいなものを背負っていたなあと。

フィールド・オブ・ドリームス.jpg 「フィールド・オブ・ドリームス」は、アイオワ州のとうもろこし畑で働いていた0フィールド・オブ・ドリームス.jpg農夫(ケビン・コスナー)が、ある日「それを造れば彼が来る」という"声"を聞き、畑を潰して野球場を造ると、「シューレス・ジョー」ことジョー・ジャクソンなど過去の偉大な野球選手たナチュラル レッドフォード.jpgTHE NATURAL 1984.jpgちの霊が現れ、その後も死者との不思議な交流が続くというもので、「ナチュラル」は、ネブラスカ州の農家の息子で若くして野球の天才と呼ばれた男(ロバート・レッドフォード)が、発砲事件のため球界入りを遅らされるが、35歳にして「ニューヨーク・ナイツ」に入団し、"奇跡のルーキー"として活躍するというもの。

 この2作品は、アメリカ中部の田舎が物語の最初の舞台になっていること、"家族の絆"という古典的なテーマのもとにハッピーエンドで収斂していること、「夢」そのもの(「フィールド・オブ・ドリームス」)または「夢みたいな話」(「ナチュラル」ではレッドフォードが最後の公式戦でチームを優勝に導く大ホームランを放つ)である点などで共通していて、一面では日本人のメンタリティにも通じる部分があるように思え、興味深かったです(但し、とうもろこし畑を潰して自力で野球場を建てるというのは、日本人には思いつかないスゴイ発想かも)。

Derek Jeter.jpg こうした今まで観た映画のことを思い浮かべながらでないと、歴史的イメージがなかなか湧かない部分もありましたが、個人的には、例えば、アフリカ系とアングロサクソン系の混血であるデレク・ジーターが、ここ何年にもわたり"NYヤンキースの顔"的存在であり、アメリカ同時多発テロ事件の後はニューヨークそのものの顔になっていることなどは、ベースボールが人種差別という歴史を乗り越え、近年ナショナル・スポーツとしての色合いが強まっているという意味で、何だか象徴的な現象であるような気がしています。

Derek Jeter(New York Yankees)

FIELD OF DREAMS.jpg(2020年8月13日に、映画「フィールド・オブ・ドリームス」の舞台となったダイアーズビルの野球場でシカゴ・ホワイトソックス 対 ニューヨーク・ヤンキースの試合を開催することが前年に決まっていたが、そ2フィールド・オブ・ドリームス kyujyo.jpgの後、新型コロナウィルス感染拡大による2020年のMLBのシーズン短縮化に伴い、ホワイトソックスの対戦相手はセントルイス・カージナルスに変更され、さらに、8月3日になって、移動の困難から試合開催の中止が発表された。)

映画「フィールド・オブ・ドリームス」に登場する野球場
(撮影に際し実際に建造されたもの) 
  
      
フィールド・オブ・ドリームス05.jpg「フィールド・オブ・ドリームス」●原題:FIELD OF DREAMS●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督・脚本:フィル・アルデン・ロビンソン●製作:ローレンス・ゴードンほか●音楽:ジェームズ・ホーナー●原作:W・P・キンセラ 「シューレス・ジョー」●時間:107分●出0フィールド・オブ・ドリームス バート・ランカスター.jpg演:ケヴィン・コスナー/エイミー・マディガン/ギャビー・ホフマン/レイ・リオッタ/ジェームズ・アール・ジョーンズ/バート・ランカスター●日本公開:1990/03●配給:東宝東和 (評価:★★★☆)
バート・ランカスター(アーチボルト・グラハム)
 
ナチュラル 03.jpg「ナチュラル」●原題:THE NATURAL●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:バリー・レヴィンソン●製作:マーク・ジョンソン●脚本:ロジャー・タウンほか●音楽:ジTHE NATURAL, Robert Duvall, 1984.jpgェームズ・ホーナー●原作:バーナード・マラマッド●時間:107分●出演:ロバート・レッドフォードロバート・デュヴァル/グレン・クロース/キム・ベイシンガー●日本公開:1984/08●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:自由が丘武蔵野推理(85-01-20) (評価:★★★☆)●併映:「再会の時」(ローレンス・カスダン)

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トップは自分の考えと同意見の参謀の声しか聞かず。

『司令官たち』.jpg 司令官たち .jpg   大統領の陰謀100_.jpg大統領の陰謀 [Blu-ray]
司令官たち―湾岸戦争突入にいたる"決断"のプロセス』['91年/文藝春秋]

大統領の陰謀.jpg大統領の陰謀 ニクソンを追いつめた300日.jpg 『大統領の陰謀』(映画にもなった)で、カール・バーンスタインとともにニクソンを追いつめて名を馳せたワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワードによる湾岸戦争の〈軍事上の意思決定〉の記録-と言っThe Commanders_.jpgても、'88年11月のジョージ・ブッシュ大統領就任から'91年1月の湾岸戦争突入までの話ですが、同年3月の停戦協定の2ヵ月後には本国出版されていて、短期間に(しかも戦争中に)よくこれだけの証言をまとめたなあと驚かされます。

Colin Powell.gif  戦争に対して様々な考えを持った司令官たちの、彼らの会話や心理を再現する構成になっていて、小説のように面白く読めてしまいますが、大統領制とは言え、戦争がごく少数の人間の考えで実施に移されることも思い知らされ、その意味ではゾッとします。

Colin Powell

 パパ・ブッシュは、直下のチェイニー国防長官や慎重派のコリン・パウエルよりも、好戦的なスコウクロフトの主戦論になびいた―。トップが自分の考えと同意見の参謀の声しか聞かず、逆に反対派の参謀には事前相談もしなくなるというのはどこにでもあることなのだけど、この場合その結果が〈戦争〉突入ということになるわけで、穏やかではありません。

 個人的に興味深かったのは、「砂漠の嵐」作戦の指揮官シュワルツコフが、部下が悪い話を持ってきただけでその部下に怒鳴り散らすタイプだったのに対し、彼の部下のパウエルは、自分の部下の話をじっくり聞くタイプだったということで、戦後、両者の地位の上下は逆転しています。

Colin Luther Powell.jpg とは言え本書は、コリン・パウエルをカッコ良く書き過ぎている傾向もあり、一軍人としてキャリアを全うするという彼の内心の決意が描かれているものの、実際には彼はその後、国務長官という政治的ポストに就いています("初の黒人大統領"待望の過熱ぶりを本書によって少し冷まそうとした?)。 

Condoleezza Rice2.jpg また、本書で主戦派として描かれているスコウクロフトは、イラク戦争ではパウエルと協調し、息子の方のジョージ・ブッシュ(父親と同じ名前)の強硬姿勢にブレーキをかける立場に回っています。しかし、息子ブッシュは、パウエルの後任として自身が国務長官に指名したコンドリーザ・ライスの"攻撃的現実主義"になびいた―。最初から戦争するつもりでタカ派の彼女を登用したともとれますが...。
 

大統領の陰謀1.jpg 因みに、映画「大統領の陰謀」('76年/米)は、以前にテレビで観たのを最近またBS放送で再見したのですが(カール・バーンスタイン役のダスティン・ホフマンもボブ・ウッドワード役のロバート・レッドフォードも若い!)、複雑なウォーターゲート事件の全体像をかなり端折って、事件が明るみになる端緒となった共和党工作員の民主党本部への不法侵入の部分だけを取り上げており、侵入した5人組の工作員は誰かということと、それが分らないと事件を記事として公表できず、そのうち新聞社への政治的圧力も強まってきて、取材のために残された時間は限られているがあと1人がわからない―という、その辺りの葛藤、鬩ぎ合いの1点に絞って作られているように思いました。それなりに面白く、再度見入ってしまったこの作品の監督は、後に「推定無罪」などを撮るアラン・J・パクラで、やはりこの監督は、政治系ではなく、この頃からサスペンス系だと。「ディープ・スロート」という2人の記者に情報提供した人物が、後に実在かつ生存中の政府高官だと分った、その上で観るとまた興味深いです。

大統領の陰謀 ジェイソン・ロバーズ .jpgジェイソン・ロバーズin「大統領の陰謀」[ワシントン・ポスト紙編集主幹ベン・ブラッドリー](1976年ニューヨーク映画批評家協会賞助演男優賞、全米映画批評家協会賞助演男優賞、1977年アカデミー賞助演男優賞受賞

「大統領の陰謀」●原題:All THE PRESIDENT'S MEN●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:アラン・J・パクラ ●製作:ウォルター・コブレンツ●脚本:ウィリアム・ゴールドマン●撮影:ゴードン・ウィリス●音楽:デヴィッド・シャイア●時間:138分●出演:ダスティン・ホフマン/ロバート・レッドフォード/ジャック・ウォーデン/マーティン・バルサム/ジェイソン・ロバーズ/ジェーン・アレクサンダー/ハル・ホルブルック/ネッド・ビーティ/スティーヴン・コリンズ/リンゼイ・クローズ/F・マーリー・エイブラハム/ジェームズ・カレン●日本公開:1976/08●配給:ワーナーブラザーズ (評価:★★★★)

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