2022年10月 Archives

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フレディとメンバーの関係が美化されていたりもするが、ライブシーンは良かった。

「ボヘミアン・ラプソディ」2018.jpg「ボヘミアン・ラプソディ」01.jpg 「ボヘミアン・ラプソディ」08.jpg
ボヘミアン・ラプソディ [DVD]」ラミ・マレック(フレディ・マーキュリー)

「ボヘミアン・ラプソディ」02.jpg 「ワルキューレ」('08年/米・独)のブライアン・シンガー監督が、イギリスのロックバンド「クイーン」のボーカルで、1991年にHIV感染合併症で45歳で亡くなったフレディ・マーキュリーに焦点を当て、1970年のクイーン結成から1985年の「ライブエイド」出演までを描いた伝記映画です。

 第91回「アカデミー賞」で主演男優賞、編集賞、録音賞、音響編集賞の4冠に輝き、2019年1月には世界各国における収益の総計が、伝記映画として例のない9億ドル超(同年4月レートで約1,007億円)となりました。日本でも興行収入が130億円を超えたとのことで(英国の1.5倍以上。日本人はクイーンが好きな人が多いのだろなあ。クイーンのメンバーも日本が好きだったし)、音楽伝記映画の観客動員数で言うと、「アマデウス」('84年/米)あたりが国内の過去最高ではなかったかと思われますが、おそらくそれも超えたでしょう。

「ボヘミアン・ラプソディ」03.jpg この映画では、自身の性的傾向に悩むフレディが描かれていて、個人的にはバレエダンサーのニジンスキーと、彼を育て愛人関係にもあったロシア・バレエ団の主宰者セルゲイ・ディアギレフを描いた「ニジンスキー」('80年/米)を想起しました(ニジンスキーは分裂症になり、破滅的な人生を送ることなるのだが)。昨今のLGBT映画の潮流に乗った印象もあります。

 因みに、伝記映画にありがちですが、この映画でも事実と異なる点が多くあるようです。ざっと見ただけででも大小26か所あるとして、それらを列挙したサイトがありました。

「ボヘミアン・ラプソディ」04.jpg 例えばフレディがメアリー・オースティンと出会ったのは、映画では彼女がクイーンの前身の「スマイル」のライブを初めて観た日にライブハウスの廊下で偶然出会ったようになっていますが、実際はメアリーは最初メンバーのブライアン・メイと交際していたとか(このメアリーという女性はフレディの遺産の半分を相続した)、フレディがバンドに加わった経緯は、映画ではスマイルのライブを偶々観たフレディがブライアンとロジャー・テイラーに自己紹介してバンドに加わったように描かれていますが、実際は加入前から2人とは知り合いだったとか、映画では、フレディがCBSとソロ・アルバム契約を結んだことで「クィーン」は事実上解散状態になったように描かれていますが、実際には一度も解散状態に至ったことは無かったとか...。

 したがって、映画では、解散期があったことで、また、エイズに罹ったフレディの体調が悪化しつつあったために、ライブ・エイドの本番1週間前になっても以前のような演奏は出来ず、観客をハラハラさせますが、実際にはクイーンとしての活動は絶えることなくずっと続いていて、ライブ・エイドの8週間前にはツアーの最後の日本公演を終えたところだったとのこと(ただし、内部でのフレディと他のメンバーとの関係は良くなかった?)。

「報知新聞」1991年11月26日
報知19911126.jpg そして、これはかなり大きな改変だと思うのですが、映画ではライブ・エイドに向けたリハーサルをしている最中に、フレディは自分がHIVポジティブであることをメンバーに明かしますが、'85年の検査では彼はHIVネガティブであり、'87年頃の再検査でポジティブであることが初めて判明したようです。したがって、ライブ・エイドに向けたリハーサル中にフレディが自分がHIVポジティブだとメンバーに告白することはあり得ないことになります(映画にも登場するフレディの最後の恋人ジム・ハットンは、フレディは'87年4月には感染を認識していたと証言している。しかしそれを公にしたのは、彼が亡くなる前日の'91年11月23日だったと英紙は報じた)。

 そして、この最後の改変点が、批評家が最も問題視している点であり、なぜならば、フレディの病気を知ったメンバーがそれを受け容れ、伝説となるライブをやってのけたというのが映画の肝(キモ)になっているためです。ブライアン・メイ、ロジャー・テイラーが製作に名を連ねているお墨付きの映画ですが、一方で、身内をよく描くという美化作用もあったりするのでしょう。

 史実と異なる点についてブライアン・メイは、「ドキュメンタリーじゃないから、すべての出来事が順序立てて正確に描写されているわけじゃない。でも、主人公の内面は正確に描かれていると思う」「僕らは脚本を書いていないが、この映画でいくつかのを出来事が起きた時期をずらすことを許可している。20年もの出来事を2時間で伝えるためには、たくさんのことを圧縮したり、シャッフルしなくてはいけない」と述べています。

「ボヘミアン・ラプソディ」05.jpg クイーンがライブ・エイドのステージ上でパフォーマンスを披露した時間がおおよそ21分であったことにちなんで、「魂に響くラスト21分」と映画のキャッチコピーにもありましたが、映画内では13分30秒に圧縮されているとのことです。逆にショット数の方は、ライブ・エイドの記録映像(YouTubeで視聴可)が21分を175のショットで構成しているのに対し、映画での再現シーンは13分30秒を約360のショットに割っていて、使われているショット数に倍以上の違いがあるそうです。

「ボヘミアン・ラプソディ」06.jpg そうした効果もあったのかもしれませんが、映画におけるライブ・エイドのシーンは良かったです。後で映画撮影の舞台裏を明かすような内容のテレビ番組を見て知ったのですが、ライブシーンにおける観客席はほとんど合成で撮影されていました。観客エキストラは900人ほどで、それを画面いっぱいに"コピペ"したのです。それでも、映画を観ていて違和感が無かったです。
   
ブライアン・メイ.jpg 余談ですが、ブライアン・メイは2006年には、かねてより研究していた天文学についての本を2年半以上の時間を費やし執筆、2007年に天体物理を授与されていて、さらに、今年['22年]7月、英王立ハル大学より科学の名誉博士号を授与されましたが、スピーチで「唯一の正しい道はない」と述べています。これは、キャリアへの不安を持つ若者に対して、自身のキャリア(研究者→ミュージシャン→研究者と"回り道"(?)した)を振り返った上での励ましの言葉を送ったものであるとのことですが、この映画の表現にも当て嵌まる(彼が"当て嵌めて"言っている)ように思えました。

「ボヘミアン・ラプソディ」07.jpg「ボヘミアン・ラプソディ」●原題:BOHEMIAN RHAPSODY●制作年: 2018年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:ブライアン・シンガー●脚本・原案:アンソニー・マクカーテン●製作:グレアム・キング/ジム・ビーチ/ロバート・デ・ニーロ/ピーター・オーベルト/ブライアン・メイ/ロジャー・テイラー●撮影:ニュートン・トーマス・サイジェル●音楽:ジョン・オットマン●時間:134分●出演:ラミ・マレック/ルーシー・ボイントン/グウィリム・リー/ベン・ハーディ/ジョゼフ・マゼロ/エイダン・ギレン/トム・ホランダー/アレン・リーチ/マイク・マイヤーズ●日本公開:2018/11●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:OSシネマズ ミント神戸(19-01-01)(評価:★★★★)

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ここ、行きました。「世界最高のヌードショー」の自負が伝わってくる映画。

「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」2012.jpg「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」0.jpg
クレイジーホースパリ 夜の宝石たち 通常版

「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」1.jpg フレデリック・ワイズマン監督の2011年発表のフランス・アメリカ合作作で、「BALLET/アメリカン・バレエ・シアターの世界」('95年)、「パリ・オペラ座のすべて」('09年)に続くダンスをテーマとした作品であり、有名なパリの老舗ナイトクラブ「クレイジーホース」に10週間、70時間密着したドキュメンタリーです。幻想的できらびやかなショーの模様から、そこで働く女性ダンサーたちの姿、スタッフや舞台裏、オーディションの風景なども収められています。

「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」2.jpg クレイジーホースには以前にスペイン旅行の帰りに寄ったパリの観光ツアーで行ったことがあり、懐かしかったですが、映画では、ショーそのものを見せるというより、練習風景と裏方の様子、そして完成形に近いダンスを見せるという点で、構成は前作の「パリ・オペラ座のすべて」と似ています。

 因みに、クレイジーホースの特定のショーそのものを中心にしたものとしては、2012年、史上初のゲストアーティストとして招かれた"レッドソール"(この映画にも出てくるが、靴の裏が赤い靴)のクリスチャン・ルブタン(この人はクレイジーホースにインスパイアされてシューズデザインを始めたとのこと)による演出の「FIRE」を、ブルノ・ユラン監督が撮ったドキュメンタリー映画「ファイアbyルブタン」('12年/仏)があります。

「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」3.jpg フレデリック・ワイズマン監督のこの作品を観ると、舞台上で女性をもっとも美しく表現するためにはダンサーの美しさのみならず演出、音楽、衣装、小道具、照明等に工夫をこらさなければならないことが分かり、そうしたことに関わるスタッフの大変さや細やかさと、「世界最高のヌードショー」を自負するプライドが伝わってきました。

フィリップ・ドゥクフレ
フィリップ・ドゥクフレ.jpg「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」5.jpg 総監督がショーの質を上げるために一定期間休業しようと提案するものの、女性支配人が株主の指示が得られないとして反対するなどの生々しいやり取りもあります。総監督と監督の激論もあって、総監督のフィリップ・ドゥクフレは、1992年のアルベールビルオリンピックで僅か31歳にして開会式・閉会式の演出を担当したダンサー出身の振付師であり(オリンピックでのサーカスとダンスを融合させた演出は今も記憶に残っている。この人、近年では尊敬する坂東玉三郎から感化を受けている)、監督のフィリップ・ドゥワレも、本編の最後に披露されているショー「DESIR」などを手掛けた著名振付師です(ここの2人、よく喋る(笑))。

「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」6.jpg 監督とダンサーたちの討議、ダンサーのくつろいでいる様子(ボリショイバレ団か何かのNG集ビデオを観て大笑いしている)、オーディションの様子などがあり、特にオーディションでは選ぶ側が最初から「あくまでボディライン」を見ると明言していました(だから開脚しなくてもいいとも言っていた)。

 これまでのワイズマン監督のドキュメンタリー作品では、ワイズマン監督ならではと言えるテロップもナレーションも、音楽もない撮影手法が知られていましたが、本作では、ノーナレであるのは同じですが、ムード音楽に乗ったダンサーたちの美しい影絵のシーンからスタートし、劇中で流れる曲はすべてショーのBGMをとり込んでいて、過去作に比べてエンターテインメント性の高い仕上がりとなっています。

 米国人のワイズマン監督がなぜパリを舞台にドキュメンタリーを撮るのか、その理由について本人はインタビューで、フランスで仕事をするのが好きで、米国にはないテーマや対象がフランスにはあると言っています。米国にもシアターカンパニーがありますが、クレイジーホースのように伝統を持つ場所は無く、また、オペラ座のように格式があって300年の歴史を有しているような場所も無いとのことです。

「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」4.jpg また、クレイジーホースには、女性同士でレズビアンを示唆するものやエレガントな形でマスターベーションを示唆する演目はあるものの(男性二人のタップダンスなどもある)、一方で、異性間の性交を示唆するようなものが一切ないのが面白いとも言っています。女性がひとり、あるいは女性同士のグループで見に来ることもあり、これも特筆すべきことであると。ナルホドと思いました。

 因みに、ワイズマン監督は1930年1月1日生まれなので、この映画の撮影時点(2011年)で80歳を超えていたことになります。「ボストン市庁舎」('20年)を撮ったのが90歳の時かあ。「女性」から「建物」に移ったというのはあるけれど、精力的だなあ。

「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」8.jpg「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」7.jpg「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」●原題:CRAZY HORSE●制作年: 2012年●制作国:フランス●監督.:フレデリック・ワイズマン●製作:ピエール=オリヴィエ・バルデ●撮影:ジョン・デイヴィ●時間:134分●出演:フィリップ・ドゥクフレ/フィリップ・ドゥワレ/フィリップ・ボウ/ナアマ・アルバ/ディーバ・ノヴィタ●日本公開:2012/06●配給:ショウゲート●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(22-10-18)(評価:★★★★)

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バレエ団の練習と舞台裏。ノンナレーション160分、飽きることなく観られる。
「パリ・オペラ座のすべて」2009.jpg
「パリ・オペラ座のすべて0.jpg
パリ・オペラ座のすべて [DVD]

「パリ・オペラ座のすべて」1.jpg フレデリック・ワイズマン監督の2009年発表のフランス・アメリカ合作作で、フランス国王ルイ14世が権力を尽くして作り上げた世界最古のバレエ団「パリ・オペラ座」の舞台裏を84日完全密着して記録したドキュメンタリーです。公演では見られない、「エトワール」と呼ばれる最高位のダンサーたちの練習風景や、ダンサーたちを支えるスタッフの日常を映し出しています。

「パリ・オペラ座のすべて」2.jpg 主な登場シーンとしては、エトワールやダンサーたちの稽古風景、舞台のリハーサル、ゲネプロ、公演のレセプション、大口寄付者への特典について話合うスタッフ、経営陣からダンサーに年金についての説明(ダンサーの定年は40歳のようだ)、運営についてのミーティング、メーク風景、食堂のランチ風景、音響テスト、裏方の衣装の制作、屋上でミツバチの巣箱からハチミツを採取するスタッフ(オペラ座の屋上で養蜂しているのは有名)などの多岐にわたるシーンが盛り込まれています。

「パリ・オペラ座のすべて」d.jpg「パリ・オペラ座のすべて」r.jpg 特に稽古に関するシーンでは、メートル・ド・バレエ(振付師)との様々なやり取りや、役柄について芸術監督に直訴する場面などがあり、映画のメインとなっています。ダンスシーンに緊張感があって、ずっとそれだけ観ているとしんどい感じもしますが、ちょうど合間に、裏方の仕事ぶりなどの紹介があったりするので(ただし、全編を通じてノンナレーション)、それがいいアクセントになっていて、160分を飽きずに観ることができました(自分でもちょっと意外だった?)。

「パリ・オペラ座のすべて」c1.jpg「パリ・オペラ座のすべて」c2.jpg「パリ・オペラ座のすべて」d1.jpg「パリ・オペラ座のすべて」d2.jpg エトワールは皆、超一流であることが、素人目にも分かります。ダンスシーンは、前半の部分は主にパートごとの練習風景で、後半にいくと完成状態のリハーサルを主に見せるようになっていて、この構成も良かったです。また、コンテンポラリー・ダンスがバラエティに富んでいて、その力強さに圧倒されました。ただし、映像の中で芸術監督がコンテンポラリーを練習するダンサーが少ないと嘆いてました。興行としての裾野を広げていくのならば、コンテンポラリーの充実は不可欠であろうことは分かるように思いました。

 因みに、バレエダンサーには階級があり、

(1) プリンシパル ... 主役級ダンサー(そのバレエ団の顔)
(2) ファースト・ソリスト ... 準主役級のダンサー
(3) ソリスト ... 主要な役を与えられ、ソロを踊ることができるダンサー
(4) ファースト・アーチスト(コルフェ)... 群舞の中でもリーダー役となるダンサー
(5) アーチスト ... 群舞、コールド(バレエ)とも呼ばれるダンサー

となりますが、パリ・オペラ座バレエ団では一部呼び方がこれとは異なり、

(1) エトワール ... プリンシパルと同じ階級(バレエ団の顔)
(2) プルミエール・ダンスーズ ... 準主役級(ファースト・ソリストと同じ階級)
(5) カドリーユ ... アーチストと同階級

となります。クレジットによれば、この記録映画には17人のエトワールが名を連ねています。

「パリ・オペラ座のすべて」オニール.jpg パリ・オペラ座はほとんどがフランス人で占められており、またパリ・オペラ座バレエ学校出身者が多いため、外部からの入団は難しいとされていますが、オペラ座でプルミエール・ダンスーズとして活躍する日本人にオニール八菜(はな)がいて(父親はニュージーランド人のラグビー選手で、12年間にわたって伊勢丹ラグビー部でスクラムハーフとしてプレイ、母親は日本人)、もし最高峰「エトワール」に昇格すれば、日本人としてはもちろんアジア人としてオペラ座史上初の快挙となるため、期待されるところです(バレエ用品メーカーのチャコットは、オニール八菜をイメージ・キャラクターとして起用している)。パリ・オペラ座バレエ団は2023年3月2日、オニール八菜(30)を最高位「エトワール」に任命した。)

オニール八菜

「パリ・オペラ座のすべて」海外.jpg「パリ・オペラ座のすべて」●原題:LA DANSE - LE BALLET DE L'OPERA DE PARIS●制作年: 2009年●制作国:フランス●監督:フレデリック・ワイズマン●製作:フランソワ・ガズィオ/ピエール=オリヴィエ・バルデ/フレデリック・ワイズマン●撮影:ジョン・デイヴィ●時間:160分●出演:(エトワール)エミリー・コゼット/オーレリー・デュポン/ドロテ・ジルベール/マ「パリ・オペラ座のすべて」d3.jpgリ・アニエス・ジロ/アニエス・ルテステュ/デルフィーヌ・ムッサン/クレールマリ・オスタ/レティシア・プジョル/カデル・ベラルビ/マチュー・ガニオ/ジェレミー・ベランガール/マニュエル・ルグリ/ニコラ・ル・リッシュ/エルヴェ・モロー/ウィ「パリ・オペラ座のすべて」3.jpgルフリード・ロモリ/バンジャマン・ペッシュ/ジョゼ・マルティネス/(メートル・ド・バレエ、他)ブリジッド・ルフェーブル(オペラ座バレエ団芸術監督)/ローラン・イレール(メートル・ド・バレエ)/エマニュエル・ガット(メートル・ド・バレエ)/ウェイン・マクレガー(メートル・ド・バレエ)/アンジュラン・プレルジョカージュ(メートル・ド・バレエ)/マッツ・エック(メートル・ド・バレエ)/ピエール・ラコット(振付家)●日本公開:2009/10●配給:ショウゲート●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(22-10-04)(評価:★★★★)

《読書MEMO》
●オニール八菜さん、オペラ座エトワールに(2023/03/04 読売新聞オンライン)
オニール八菜さん.jpg

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〈パリ解放〉を描いた作品。多くの有名俳優が出ているが、主人公は独軍のパリ占領軍司令官か。

「パリは燃えているか」1966.jpg「パリは燃えているか」19662.jpg 「パリは燃えているか」2.jpg
パリは燃えているか [DVD]」「吹替シネマ2021 パリは燃えているか-HDリマスター版- [Blu-ray]」ジャン=ポール・ベルモンド/マリー・ヴェルシニ/アラン・ドロン

「パリは燃えているか」01.jpg 1944年8月、第2次世界大戦の連合軍の反撃作戦が始まっていた頃、フランスの装甲師団とアメリカの第4師団がパリ進撃を開始する命令を待っていた。独軍下のパリでは地下組織に潜ってレジスタンスを指導するドゴール将軍の幕僚デルマ(アラン・ドロン)と自由フランス軍=FFIの首領ロル大佐(ブリュノ・クレメール)が会見、パリ防衛について意見を闘わしていた。左翼のFFIは武器弾薬が手に入りしだい決起すると主張、ドゴール派は連合軍到着まで待つという意見だった。パリをワルシャワのように廃墟にしたくなかったからだ。一方独軍のパリ占領軍司令官コルティッツ将軍(ゲルト・フレーベ)は連合軍の進攻と同時に、パリを破壊せよという総統命令を受けていた。将軍は工作隊に命じて、工場、記念碑、橋梁、地下水道など、ありとあらゆる建造物に対して地雷を敷設させていた。このような時に、イギリス軍諜報部から"連合軍はパリを迂回して進攻する"というメッセージがレジスタンス派に届いた。ロル大佐は自力でパリを奪回しようと決意し、これを知ったデルマは、これをやめさせる人間は政治犯として独軍に捕らえられているラベしかないと考え、ラベの妻フランソワーズ(レスリー・キャロン)とスウェーデン領事ノルドリンク(オーソン・ウェルズ)を動かして、ラベ救出を図ったが失敗、結局、ドゴール派と左翼派の会議の結果、決起が決まった。ドゴール派は市の要所を占領し、「パリは燃えているか」 ウェルズ.jpg市街戦が始まった。パリ占領司令部は、独軍総司令部からパリを廃墟にせよという命令を受けていた上、市街戦が長びけば爆撃機が出動すると告げられていた。コルティッツ将軍は、すでにドイツ敗戦を予想していて、パリを破壊することは全く無用なことと思っていた。そこでノルドリンク領事を呼び、一時休戦をしてパリを爆撃から守り、その間に連合軍を呼べと遠回しに謎をかける。ノルドリンクから事情を知ったデルマは、ガロア少佐(ピエール・ヴァネック)を連合軍司令部に送った。ガロアはパリを脱出、ノルマンディの米軍司令部に到着した。パットン将軍(カーク・ダグラス)はパリ解放は米軍の任務ではないと告げ、ガロアを最前線のルクレク将軍(クロード・リッシュ)に送る。ルクレク将軍は事態の急を知ってシーバート将軍(ロバート・スタック)を動かし、ブラドリー将軍(グレン・フォード)を説いた。ブラドリーは全軍にパリ進攻を命令した。8月25日、ヒットラーの専用電話はパリにかかっていて"パリは燃えているか"と叫び続けていた―。

「パリは燃えているか」d1.jpg 1966年の米・仏合作のオールスターキャスト戦争映画で、原作はラリー・コリンズ、ドミニク・ラピエールによるレジスタンスとパリの解放を描いたノンフィクション作品。「禁じられた遊び」('52年/仏)、「居酒屋」('56年/仏)のルネ・クレマンが監督し、「ゴッドファーザーPARTⅡ」('74年/米)、「地獄の黙示録」('79年/米)のフランシス・フォード・コッポラが脚本を担当しています。

 この映画がモノクロ映画になったのは、撮影のためナチスの卍旗を、公共の建物に掲げることにフランス当局からの許可が出ず、本来の赤い部分を緑に変色させたものを使ったためだとも言われていますが、どちらかと言うと、後半の市街戦を中心に本編の劇とパリ解放当時の実際の映像を大量にモンタージュしてシームレスに当時の状況を再現していて、このためだったのではないかと思います。本編の方も記録映像に合わせてわざと画素を荒くしたりしており、記録映像とうまく融合するようになっています。

「パリは燃えているか」02.jpg

 オールスター映画と言っても、多くの有名俳優がちょっとずつ出ているという感じで、コルティッツ将軍にパリの街を守ることを進言するスウェーデン領事を演じたオーソン・ウェルズなどは前半かなり出づっぱりだったし、ジャン・ポール・ベルモンドとアラン・ドロンが一つの枠に収まっているシーンなどもありますが、パットン将軍のカーク・ダグラスなどはほぼ1シーンだけだし、タンク(戦車)隊のGI役のジョージ・チャキリスなどは一瞬のカメオ出演といった感じ。まだ、同じGI役のアンソニー・パーキンスの方がチャキリスよりはよく出ていました(珍しく明るい役だと思ったら、パリ進攻直後に敵軍撃破で歓喜に湧いて祝杯を挙げた直後に、敵の弾に当たってあっさり戦死してしまったが)。

「パリは燃えているか」1.jpg 群像劇の中で誰が主人公か敢えて言えば、ゲルト・フレーベが演じた"独軍のパリ占領軍司令官コルティッツ将軍だったかも。ヒトラーの信任が厚い人物ながら、パリの破壊と市民の人命を救うべく、ナチ親衛隊の命令を聞き流すなど面従腹背の腹芸をしたことが描かれています。ラストの方で、フランス軍の中尉が降伏要求と身柄確保に乗り込んで来るシーンがありますが、伝わるところでは、仏軍中尉は、司令官室に乗り込むと緊張のあまり「ドイツ語を話せるか」とドイツ語で叫んでしまい、それに対してコルティッツ将軍は「貴官よりいくらか上手だと思う」と余裕で答えたそうです。ただし、この逸話は映画では描かれていませんでした(代わりに、中尉が自分が敵将軍を逮捕するまでの人間になったと親に電話で報告する場面が描かれている)。

 史実では、パリの状況に苛立ったヒトラーが、パリ廃墟命令が実施されているか、最高司令部作戦部長アルフレート・ヨードル大将に質問した上で、「Brennt Paris?(パリは燃えているか?)」と3回にわたって問うたそうで、それがコルティッツ将軍が降伏する10分ほど前だったそうですが、それをヒトラーからコルティッツ将軍への彼の降伏直後の電話(したがって誰も出ない)に置き換えてラストシーンとし、さらに映画のタイトルにしたわけです。

 演出もドキュメンタリータッチで、過剰な演出はありませんが(したがって地味と言えば地味な映画)、しかしながらこれだけ有名な俳優が出ていると、それがどこでどういう役で出ているのか見るだけでも楽しめます。また、屋根の上などから見たパリの街の俯瞰が時折入るところはルネ・クレマンらしいいと言うか、フランス映画の伝統なのかも。因みに、NHKスペシャル「映像の世紀」「新・映像の世紀」のメインテーマ曲「パリは燃えているか」は、加古隆がこの映画にインスパイアされて作曲したものです(こも映画のテーマ曲ではない)。

パリよ、永遠に.jpg ドイツの監督が作ったパリ解放映画では、「ブリキの太鼓」('79年/西独)のフォルカー・シュレンドルフ監督の「パリよ、永遠に」('14年/仏・独)があり、ドイツ軍のコルティッツ大将と、「パリは燃えているか」でオーソン・ウェルズが演じたスウェーデン総領事ノルドリンクのやり取りでほとんどが構成されているようです。

 こちらの方は観てませんが、ナチス・ドイツ崩壊後、コルティッツは以前のセヴァストポリ包囲戦での行動が原因で2年間の獄中生活を送ることになり、ノルドリングの方はパリでコルティッツを説得したことで勲章を授与されますが、本当の英雄はコルティッツだと認め、彼に勲章を渡す―という終わり方になっているようです。

パリよ、永遠に [レンタル落ち]
ニエル・アレストリュプ(コルティッツ将軍)/アンドレ・デュソリエ(ノルドリング総領事)
  
[パリは燃えているか.jpg「パリは燃えているか」きゅけい.jpg「パリは燃えているか」●原題:PARIS BRULE-T-IL ?/IS PARIS BURNING?●制作年: 1966年●制作国:アメリカ・フランス●監督:ルネ・クレマン●製作:ポール・グレッツ●脚本:ゴア・ヴィダル/フランシス・フォード・コッポラ●撮影:マルセル・グリニヨン●音楽:モーリス・ジャール●原作:ラリー・コリンズ/ドミニク・ラピエール●時間:173分●出演:ジャン・ポール・ベルモンド/シャルル・ボワイエ/アラン・ドロン/ジャン=ピエール・カッセル/ブリュノ・クレメール/ゲルト・フレーベ/ダニエル・ジェラン/レスリー・キャロン/オーソン・ウェルズ/ピエール・ヴァネック/カーク・ダグラス/クロード・リッシュ/ロバート・スタック/グレン・フォード/イヴ・モンタン/アンソニー・パーキンス/ミシェル・ピコリ/ヴォルフガング・プライス/シモーヌ・シニョレ/ジャン=ルイ・トランティニャン/ジョージ・チャキリス/マリー・ヴェルシニ/ギュンター・マイスナー/マイケル・ロンズデール●日本公開:1966/12●配給:パラマウント映画(評価:★★★★)

《読書MEMO》
●NHK 総合 2023/11/27「映像の世紀バタフライエフェクト#52―パリは燃えているか」
「映像の世紀パリは燃えているか」.jpg
この番組のテーマ音楽「パリは燃えているか」は、ヒトラーが第二次大戦末期に発した言葉に由来する。しかし、パリは燃えなかった。パリを治めるドイツ軍司令官がヒトラーの破壊命令に背いたのだ。ナチス占領下のパリで何があったのか。亡命先から市民に徹底抗戦を呼びかけたドゴール、ドイツの監視の中、創作を続けたピカソ、シャネルはナチスの協力者となった。「パリ燃え」のメロディーに乗せて贈る、パリ百年の不屈の物語。

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林隆三の渋い演技で、ハードボイルドタッチに仕上がっている佳作「交通事故死亡1名」。

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「松本清張の交通事故死亡1名」['82年/日テレ・火曜サスペンス劇場]林隆三/山田吾一
「交通事故死亡1名」01.jpg ある夜、タクシー運転手の小山田(林隆三)は、客の栗野(重田尚彦)を乗せて走っていると、前の車が急停車し、さらに車の前に女が飛び出してきて、それらを避けようとした小山田は思わずハンドルを大きく切り、その時道路脇に立っていた男・吉川を運悪く撥ねてしまう。小山田は業務上過失致死の罪で三年の実刑となり、妻・恵子(あべ静江)、一人息子と仲良く暮らしていた彼の人生は一変する。ところが、面会に来た会社の事故係・亀村(桑山正一)が妙なことを言う。「お前さんは嵌められたのかもしれんぞ」。その言葉を奇異に感じた小山田は、出所後、亀村に会いに行く。すると、亀村はタクシー会社を辞め、今では喫茶店のマスターになっていた。事故の裏に何が隠されているのか、小山田は真相を追求しようとするが、亀村は、あれは自分の思い込みだったと言う。その亀村がある日、ビルから落ちて、謎の死を遂げる―。

『死の枝』文庫1.jpg「交通事故死亡1名」0211.jpg 1982年12月7日「火曜サスペンス劇場」枠で放送。原作は松本清張が「小説新潮」に1967(昭和42)年2月から12月まで11回にわたって『十二の紐』と題して連載し、同年12月、新潮社より『死の枝』と改題されて刊行された連作短編集の第1話「交通事故死亡1名」。林隆三の渋い演技で、ハードボイルドタッチに仕上がっており、ドラマとして佳作だと思います(視聴率21.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区))。

 原作では、物語の探偵役が会社の事故係の亀村で、小山田が服役中に事故の真相に迫りますが、ドラマでは、林隆三が演じる事故を起こしたタクシー運転手の小山田が、交通刑務所で服役して、出所後に自ら事件の真相を探るという具合に改変されています。実は亀村も小山田が服役中に事件の真相には気づいていて(それが「お前さんは嵌められたのかもしれんぞ」という言葉に繋がる)、ただし、途中から犯人を恐喝する側に回ったようで、それで今は脅し取った金を元手に喫茶店を開き、そのオーナーになっているが。金を脅し取り続けているうちに殺害されたということです。

「交通事故死亡1名」031.jpg 加山麗子演じる吉川の愛人(今は、山田吾一演じる、小山田のタクシーの前を走っていたクルマを運転していた浅野の愛人)・池内篤子が自殺するなど(彼女もわざと小山田のタクシーの前に飛び出してきた共犯者)、原作から多少の改変はありましたが(原作は自殺未遂(狂言自殺?)で、ドラマは浅野から持ち出された別れ話が原因の自殺か)、基本的な枠組みは変わっておらず、タクシー運転手・小山田の推理劇&復讐劇になっている分ドキドキ感とカタルシス効果があり、しかも先にも述べたように、林隆三が「ハードボイルド」していて渋かったです。

 それと、原作では明かされていないタクシーの客の栗野と、前を走っていた車を運転していた浅野の関係が(原作は、探偵役の亀村がこれから栗野から聞き出すというところで終わっている)、ドラマでは商品の横流しという経済犯罪が背景となっていることが窺え、犯行の動機が示されているのも親切だったと思います。

 また、事故で亡くなったヤクザ男の吉川の未亡人役の山口美也子、警視庁捜査1課の刑事役の戸浦六宏など、脇役陣もしっかりしていたように思います。あべ静江(1951年生まれ)、加山麗子(1956年生まれ)といった女優も懐かしいです。特に加山麗子は、「日活ロマンポルノの清純派」(こういうよく分からない路線があった)として人気を得た後、多くのテレビドラマに出演したかと思ったら、20代で引退してしまったからちょっと懐かしかったりもします。

(上から)
林隆三/あべ静江
山口美也子
加山麗子

「エロチィック関係」 1978p.jpg「エロチィック関係」 1.jpg 日活ロマンポルノ時代の加山麗子は, 長谷部安春(1932-2009)監督、内田裕也(1939-2019)主演の「エロチックな関係」('78年/日活)を池袋文芸地下で観ましたが、加山麗子(当時22歳)も主演といっていい作品でした。併映が推理作家の小林久三原作、貞永方久監督の「錆びた炎」('77年/松竹)であったように、「エロチックな関係」もまた推理もの(探偵もの)で、ある女の浮気の調査を依頼された探偵が、予想もつかなかった連続殺人事件に巻き込まれていくという、レイモン・マルロー原作の「春の自殺者」の映画化ですが、何「エロチックな関係」加山・内田1.jpgか物足りなかった記憶があります。ただし、内田裕也のロマンポルノ出演作品の中では代表作とされていて、'92年に今度は内田裕也の製作・脚本で、内田裕也が前作と同じ探偵役でビートたけしが依頼人役、加山麗子が演じた探偵の妻兼秘書役(銃撃アクションシーンなどもある)を宮沢りえ(当時19歳)が演じた(秘書役)リメイク作品「エロティックな関係」('92年/松竹)が作られました(個人的にはリメイクの方は観ていない)。
「エロティックな関係」('92年/松竹)宮沢りえ/ビートたけし/内田裕也
「エロティックな関係」図3.jpg


「交通事故死亡1名」041.jpg「松本清張の交通事故死亡1名」●監督:貞永方久●プロデューサー:小杉義夫(日本テレビ)/鍋島壽夫●脚本:原寛司●音楽:大谷和夫●原作:松本清張●出演:林隆三/あべ静江/山田吾一/加山麗子/重田尚彦/桑山正一/山口美也子/戸浦六宏/木村元/青空球児・好児/奥野匡/小沢象/小田草之介/三島史郎、坂本由英、石井洋光、羽吹正吾、中沢青六、竹村晴彦、浦上喜久、谷本小代子、田村元治、井上れい子、小日向範成、上枝俊介、石原愛美、西村容子、鈴木恵美、青木啓二、青江薫、門間利夫、菊川予市、松原昇/平井千都/金原敬三/永淳●放送日:1982/12/07●放送局:日本テレビ(評価:★★★★)

「エロチィック関係」 1978.jpg「エロチィック関係」 2.jpg「エロチックな関係」●制作年:1978年●監督:長谷部安春●製作:栗林茂●脚本:中島絋一/長谷部安春●音楽:A・イカルト・ルティアーニ●原作:レイモン・マルロー「春の自殺者」●出演:内田裕也/加山麗子/牧ひとみ/田中浩/井上博一/南条マキ/西村昭五郎/江角英明/岡尚美/梓ようこ/日野繭子/安岡力也/ジョー・山中●公開:1978/07●配給:日活●最初に観た場所:池袋文芸地下(80-07-04)(評価:★★☆)●併映:「錆びた炎」(貞永方久)
ロマンポルノ45周年記念・HDリマスター版「ゴールドプライス3000円シリーズ」DVD エロチックな関係」['20年]

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誰もがこの主人公たちのようになり得ると思わせるところが作者の上手さ(ただし「交通事故死亡1名」「家紋」「不法建築」の3編だけ犯行動機不明)。
『死の枝』単行本.jpg『死の枝』文庫.jpg.gif
死の枝 (1967年) (新潮小説文庫)』['67年]『死の枝 (新潮文庫)

 松本清張の短編集で、「小説新潮」に1967(昭和42)年2月から12月まで11回にわたって『十二の紐』と題して連載され、同年12月、新潮社(新潮小説文庫)より『死の枝』と改題されて刊行されたもの(もともと、例えば第1話「交通事故死亡1名」には「赤い紐」、第3話「家紋」には「橙色の紐」といった副題が付けられていた。どうして12編目を書かなかったのか?)。事件の真相や結末が見えてきたところで終わっているものが多く、犯人逮捕までは至らなかったりするけれど、その「真相」や「結末」に意外性があり、これはこれでテンポよく読めました。

「交通事故死亡1名」
「交通事故死亡1名」.jpg 東京西郊のI街道で起きた人身事故。女が急に飛び出してきたため急停止した前方車を、咄嗟に避けたタクシーだが、男を轢き殺してしまう。事故の調査を始めたタクシー会社の事故係・亀村友次郎だが、奇異な点は見当たらず、事故を起こした運転手もすでに実刑に処され服役中である。事故から1年経って、亀村の頭をふと疑惑がかすめる―。結論的にはタクシーが引き起こした交通事故は、乗客が周到に仕組んだ罠だったということ。最後まで飽きさせない佳作で、1982年に日本テレビ系列の「火曜サスペンス劇場」枠で林隆三主演で「松本清張の交通事故死亡1名」としてドラマ化されています(監督:貞永方久)。林隆三は事故を起こした運転手の方の役で、交通刑務所で服役して、出所後に自ら事件の真相を探るというように改変されています。また、原作では犯行動機が明かされていませんが、ドラマでは商品の横流しという経済犯罪が背景となっています。

「偽狂人の犯罪」
 完全犯罪を全うするより、心神喪失者になって無罪を勝ち取る方が容易であると判断した主人公は、徹底的に精神異常者を研究し、実践するが―。これは例外的に犯人が逮捕されていて、むしろ、犯人が逮捕されたところから始まる話。結末も予想通りでしたが、検事の顛末までは予測できなかった(笑)。男は性欲に勝てない?

「家紋」
 粉雪のの夜、北陸地方で農業を営む生田市之助は、本家からの使いと称する釣鐘マントの男に呼び出される。本家の当主の妻・スギの容体が良くないとの話を聞き、市之助はマントの男と外へ出る。夜半にマントの男は再訪し、スギの容体が急変したので、市之助の妻・美奈子と娘・雪代も本家に来るよう求める。熱を出していた雪代は隣家の主婦・お房に預けられ、美奈子はマントの男と外へ出て行く。それが雪代の見た母親の最後の姿だった―。父母を殺害された子が成人して18年後に犯人を"推測" するというもの。1990年・2002年にテレビドラマ化されていますが(1990年版主演は若村麻由美、2002年版主演は岸本加世子)、1990年版の方は、地方のある宗派の寺を借り、本物の輪袈裟を借りて行われ、放送直後、宗派本寺から「殺人犯が着用した輪袈裟は当寺の紋が入っており、当寺を特定し、その僧侶「家紋」2002.jpg、門信徒を冒涜し、宗教活動を妨害する」との抗議を受け、交渉の結果、今後再放送を一切行わないこと、ビデオ化などの二次使用もしないという約束をもって妥結したそうです(犯人のネタバレになったが、読んでいて大体は途中で気づくと思う)。2002年にBSジャパンの「BSミステリー」枠で放映された(テレビ東京でも放映)岸本加世子版の方は、大地康雄が刑事役で出演しているので、犯人逮捕までいくのではないでしょうか。

「松本清張没後10年特別企画 家紋」('02年/BSジャパン・テレビ東京)岸本加世子/大地康雄

「史疑」
 新井白石の価値ある文献の原本を盗もうと、新進気鋭の考古学者が蔵書マニアの老人を殺してしまうが―。殺人自体は自己防衛本能のなせる業でしたが、その直後、興奮状態のまま激情に駆られて姦通したのがまずかかったなあ(女は逆らわなかったのだが)。清張ならではの歴史素材物。

「年下の男」
 会社の電話交換台に勤めるプライド高き35歳のハイミス女性が、年下の男に捨てられたと思われたくないがために、彼を高尾山に誘い出して殺人を決行する―。これも、清張の作品によく出てくるタイプの女性。「鉢植を「松本清張サスペンス 年下の男」.jpg買う女」('61年)などもそうでした。自分を裏切った男を殺害するのも同じですが、蓄財してアパートを建てるのも似ています。因みに、「鉢植を買う女」は完全犯罪で終わりますが(ドラマではなく原作)、こちらは、警視庁捜査一課の連中が高尾山に登って現場を検分し、容疑を固めたところで終わります。ドラマ化作品は1件のみで、1988年に関西テレビ制作・フジテレビ系列の「月曜サスペンス(松本清張サスペンス)」枠(22:30~23:24)にて「松本清張サスペンス 年下の男」として、小川真由美主演で放送されています(関西テレビ制作・月曜夜10時枠の連続ドラマ通称"月10"(1985-1996年)は1時間ドラマだった)。

「松本清張サスペンス 年下の男」('88年/フジテレビ)小川真由美/田中隆三

「古本」
 かつて人気作家だった長府敦治は、今や時代に乗取り残された地方作家になっていた。そんな彼が、ネタの宝庫とも言える貴重な古本に巡り合い、これは願ってもないチャンスと、それを種本にそのまま小説を書いたところ大人気に。ところが、その古本の作者の子孫が現れ、金銭を求め脅迫する―。作家の創作の苦悩が垣間見れる作品。充分な殺人の動機になっていますが、殺害方法が、鉄橋の上を歩かせるというユニークなものでした。小説好きの刑事がいたというのが、犯人にとってアンラッキーでした(これも清張作品にたまに見かけるパターンか)。

「ペルシアの側天儀」
 愛人との痴情沙汰から会社の課長が殺人を犯し、珍しい形のペンダントから犯人の足がついたという話。会社の課長クラスでも愛人を持てた時代だったのかなあ。

「不法建築」
 昭和四十年代の不法建築の実態とその素材を扱った作品で、犯行の動機というより、隠す方法自体がモチーフとなっています。犯人の死体隠蔽工作もヤクザ気質で大胆ですが、これ考えたのは松本清張なんだよなあと思うと思わず笑ってしまいます。でも、近所の住民が不法建築にうるさいことを逆利用したわけだから、ヤクザにしても頭がいい(笑)。

「入江の記憶」
 愛人である妻の妹を伴って故郷に帰った男は、父母の回想を手繰りながら、最後に思いがけない表白をする―。妻の妹と関係を持った主人公が、自分の父に思いを馳せながら父と同じ行動を取ろうとするという、因果は巡るというヤツでしょうか。

「不在宴会」
 主人公・魚住一郎はエリート官僚。役人の地方出張での饗応で、自分が出ないにも関わらず自分が出ていたような宴会を開いたことにして、その間に「不在宴会」.jpg女との密会に赴くが、当の女は風呂場で死んでおり、彼女を見捨ててこっそり逃げ帰る―。エリートにしては、最後、警官が訊いてもいないことを喋てしまったのは、ちょっとドジ過ぎるのでは。ドラマ化作品は、2008年にBSジャパンの「BSミステリー」枠で放映された(テレビ東京でも放映)「松本清張特別企画 不在宴会 死亡記事の女」があり、魚住一郎を三浦友和が演じています(どうやら平田満演じる出張で案内役を務めた男に脅迫されるらしい)。

「松本清張特別企画 不在宴会 死亡記事の女」('08年/BSジャパン・テレビ東京)三浦友和/平田満

「土偶」
 女に声をかけて恐怖の叫び声をあげられたヤミ商人が、計画的あるいは激情に駆られてか相手を殺害するが―。主人公の不可解な行動が、12年前の秘密をが明かされるきっかけとなったという話で、このシリーズに多い、事件後何年もしてから事実が明かされるパターン。人間、悪事に関してはどこまで行っても逃げ切れないとも思わせますが、昔は殺人に時効があったなあと、ここまで飛んで改めて思い出した次第です。。

 いずれも人間の欲望、愛情、怨恨などのさまざまな想念が、主人公たちを破局へと誘っている作品であり(ただし、「交通事故死亡1名」「家紋」「不法建築」の3編は犯行動機不明)、ふと、誰しもがこの主人公たちのようになり得るなあと思わせるところが、作品に時代を超えた普遍性を持たせる作者の上手さかなと思います。

『死の枝』単行本2.jpg【1974年文庫化・2009年改版[新潮文庫]】

『死の枝』(1967/12 新潮小説文庫)

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意外な結末ばかりの短編集。もう少しで完全犯罪が成立しそうだったのが...。

『危険な斜面』単行本.jpg 『危険な斜面』カッパ01.gif『危険な斜面』カッパ02.jpg 『危険な斜面』文春文庫.jpg 『危険な斜面』文庫2.jpg
危険な斜面 (1959年) 』『危険な斜面 (カッパ・ノベルス)』['62年]『危険な斜面 (1980年) (文春文庫)』『新装版 危険な斜面 (文春文庫)
『危険な斜面 (カッパ・ノベルス)』
『危険な斜面』カッパ01.jpg『危険な斜面』カッパ05.jpg『危険な斜面』カッパ3.jpg 松本清張の、1959年2月刊行の短編集『危険な斜面』収録作6編を所収。もう少しで完全犯罪が成立しそうだったり、事件が迷宮入りになったままで終わりそうだったりしたのが、偶然の事実やある人物の洞察によって、その壁が崩れ、事実が見えてきたといった展開のものをはじめ(「急な斜面」「投影」)、6編とも「意外な結末」という意味では共通していて、さすがに上手いなあと思いました。

『危険な斜面 (カッパ・ノベルス)』カット:金子千恵子
『危険な斜面』カッパ4危険.jpg「急な斜面」(1959.2 オール読物)
 歌舞伎座で会社の得意先の接待に参加していた秋場文作は、ロビーで自社の会長・西島卓平の愛人を目にするが、呼び止められて、10年前の自分が何度か交渉を持った女・野関利江であると気づく。野関利江は秋場文作に電話番号を教え、交渉が復活。秋場文作は、出世したい男で、重役、部長、課長、平社員といった序列を、人生の階段として絶えず意識していた。今の野関利江は西島会長の妾だから利用価値があるのだ、と秋場文作は考えた。しかし、野関利江は秋場文作を恋人と考えた。自分が老いて西島会長から捨てられる前に、秋場文作を繋いでおきたいのだった。感情を沸騰させはじめた女を前に、秋場文作は黒い計画を巡らす―。

「急な斜面」」2000.jpg 「男というものは、絶えず急な斜面に立っている。爪を立てて、上にのぼっていくか、下に転落するかである」という一文が響く。秋場文作が用いたのは、超有名作「点と線」('57年発表)みたいなアリバイトリックだが、使った飛行機に有名人が乗っていたのが運が悪かった。まあ、秋場文作のために野関利江に振られた沼田仁一という男の執念もあるけれど。謎を解いた人間が犯人に金銭要求する「脅迫者」になるパターンはよくあるが、途中までそうかと思ったら、結局「金」よりも「復讐」だった。
松本清張特別企画・危険な斜面」('00年/TBS)田中美佐子/風間杜夫

『危険な斜面』カッパ5二階.jpg「二階」(1958.1婦人朝日)
 竹沢幸子の夫・英二は2年近く療養所にいたが、治癒の見込みはなかった。夫の懇願に負け、幸子は夫を自宅療養に切り替え、付添いの看護婦を頼む。看護婦・坪川裕子は経験も長く、世話は行き届いていた。印刷屋の仕事に忙しい幸子は、あまり夫の寝ている二階に上っていく暇がない。それは頼みにできる付添い看護婦をつけた安心もあるからだと幸子は信じていた。しかし幸子の心には、階段に足をかける度に、素直に上れない躊躇が起きた。幸子には、看護婦というよりも、一人の女が、二階で夫とひっそりと向かい合っているという意識が起こっていた。理由のない不安であった。実際、坪川裕子は常に忠実で慎み深かった。にもかかわらず、夫と看護婦のいる二階の圧迫に、幸子の心は追いつめられていく―。

「松本清張傑作選 4 二階」.jpg「二階」77年.jpg 「婦人朝日」1958年1月号に掲載。坪川裕子という女性がこの家にやってきたのは偶然で、英二とどうだったかとうのも最後に明かされるが、二階で起きていることは何となく見当がつく。最後は妻のプライド、凄まじきかな、という感じ。'77年のTBS「東芝日曜劇場」のドラマ版は、若い妻が十朱幸代(1942年生まれ)なのに対して看護婦が10歳年上の渡辺美佐子(1932年生まれ)が演じて、その年齢差が逆にリアリティを醸していた。登場人物がほぼ3人きりの約45分のスタジオ収録ドラマだが、緊迫感があったように思う(視聴率21.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区))。
松本清張傑作選 4 二階」('77年/TBS「東芝日曜劇場」)十朱幸代/竹沢英二/山口崇/渡辺美佐子

「巻頭句の女」(1958.7小説新潮)
 俳句雑誌「蒲の穂」の編集会議の場で、巻頭を飾ったこともあるさち女が、この3か月一句も投稿していないことが話題になった。さち女の才能を高く評価する麦人は、さち女を見舞うことにする。困窮しているさち女が入院していたのは施療院だったが、麦人が訪ねると3か月前に退院したという。麦人の本業は医師なので、院長は親切に当時の状況を語る。さち女の本名は志村さち子、病名は末期の胃癌、文通していた岩本英太郎という男性が、結婚して彼女の最期を看取るために引き取るというので退院を許可したという。東京に戻った麦人は、同人の青沙を女の新居に行かせたが、さち女は亡くなっていた。近所の人の話では、月の内10日ほどしか岩本は帰宅しておらず、さち女が亡くなった夜は何度か自動車が岩本の家の前で止まったのこと。麦人は、さち女の死についてさらに詳しく調べさせる―。

 保険金殺人&死体すり替え殺人だったわけか。死体すり替えの部分は、後の東野圭吾『容疑者Xの献身』('05年/文藝春秋)がこれに似ているように思った(どちらも、余った死体をどうするかという課題が残るが)。さち女の薄幸が痛ましい。


『危険な斜面』カッパ6失敗.jpg「失敗」(1958 新春号・別冊週刊サンケイ)
 東京で強盗殺人が発生し、2人組の犯人の1人は九州出身の浦瀬三吉、もう1人は東北出身の大岩玄太郎で、主犯は浦瀬で共犯が大岩。2人は浦瀬の故郷・九州に逃亡したと思われたが、警視庁から大岩の妻子がいる東北の中都市D市の警察に、大岩が妻子の許に立ち寄る可能性もあるので、捜査協力してほしいとの連絡があった。所轄署の山村刑事部長は、ベテランの島田刑事と若手の津坂刑事を張込み任務につかせる。大岩の妻くみ子に了承をもらい、自宅で張込みを開始するが―。

 これも超有名作「張込み」('55年)を思わせる設定。張込みを開始して1週間、大岩は妻くみ子の許に現れなかったという、途中まではほとんど「張込み」と同じような流れでいくが...。犯罪者の妻に対する若い刑事の同情が愛情に変わったのか。でも、「張込み」のドラマ化作品も、結構この路線を匂わせているものが多いのではないか。


「拐帯行」(1958.2日本)
 会社の金を持ち出した森村隆志は、西池久美子と博多行きの特急「さちかぜ」に乗り、一路九州へと向かった。死に場所を求めての旅だった。これまで惨めな境遇で生きてきた隆志と久美子は、生きていても仕方がない、死ぬよりほかに途が無いように思えた。が、せめて、死ぬ直前に一度贅沢をしてみたかったのだ。熱海から、斜め向こうの席に中年の紳士と妻らしい人が座った。夫は落ち着いてパイプをくわえ、妻は穏やかな上品さを湛え、夫婦は生活も十分安定して幸福そうに見えた。しばらく眼を惹かれていた隆志は、一瞬、久美子との間に、妙な距離を感じた。なぜかわからないが、その夫婦に影響されたような気がした。闇の中にいるような隆志の気持ちが、少しずつ変わり始める―。

 「日本」1958年2月号に掲載。土壇場で光と影が逆転する展開。山田洋次の初監督作品「二階の他人」('61年/松竹、原作:多岐川恭)の中の1ストーリーを思い出した。小坂一也・葵京子夫婦が間貸しした二階の部屋にやって来た評論家とその妻という品のよさそうな夫婦が、実は...というもの。


『危険な斜面』カッパ投影2.jpg「投影」(1957.7読売倶楽部)
 トラブルから東京の大手新聞社を辞職した太市は、水商売の女と瀬戸内の見知らぬ地方都市まで流れ、キャバレー勤めする女のヒモにまで堕ちる出口の見えない日々を過ごす。やがて、なんとか零細新聞社に職を得た彼は、市政の腐敗摘発に動く羽目になる―。

 不審な死亡事故における、光の投影によって帰宅の方向を誤らせるトリックはやや現実味が薄い気がするが、主人公が再就職した地方新聞社での人との出会いや経験を通して人間的に成長する姿が活き活きと描かれていて、ラストはグッと来る、松本清張作品には珍しい感動作に仕上がっていると言える。


「危険な斜面」2012.jpg この短篇集に収録されている作品はすべてテレビドラマ化されていますが、その中でも表題作の「危険な斜面」が8回と多く(「投影」もいい作品だと思うが、ドラマ化回数がそう多くないのは、トリックの再現が難しいからではないか)、個人的は、2012年フジテレビの「松本清張没後20年特別企画・危険な斜面」(出演・渡部篤郎・長谷川京子・溝端淳平)を観ました。

「危険な斜面」4.jpg 原作では最後に刑事が出てきますが、ドラマでは赤井英和演じる刑事が最初は溝端淳平演じる沼田仁一に嫌疑をかけたことから、頭にきた沼田仁一から示唆されて渡部篤郎演じる秋場文作に接近するようになり、一方で沼田仁一も秋場文作を心理的に追い込み最後の結末に至るという、警察と沼田仁一が実は"共闘戦線"を張っていたというのは原作通りですが、刑事役に赤井英和を配して主要人物の1人としたことでその伏線が描かれている点が、原作との大きな違いだったでしょうか。それ以外は、「点と線」のトリックも、報道写真にたまたま写り込んでいたことによるアリバイ崩壊も活かされていて、オーソドックスな作りになっていたように思います(禿げ頭のはずの会長は、中村敦夫演じるダンディな男性に改変されていたが、長谷川京子演じる会長秘書・野関利江の手引きで渡部篤郎演じる秋場文作がどんどん出世していくのは原作とほぼ同じ)。
「松本清張没後20年特別企画・危険な斜面」('12年/フジテレビ)長谷川京子/中村敦夫/渡部篤郎
「危険な斜面」3.jpg
    
     
    
「二階」11.jpg「二階」●監督:柳井満●プロデューサー:石井ふく子●脚本:服部佳●原作:松本清張「二階」●出演:十朱幸代/山口崇/渡辺美佐子/松下達夫/岡本茉利●放映:1977/02/06(全1回)●放送局:TBS(評価:★★★★)
  
      
       
長谷川京子/渡部篤郎
「危険な斜面」12.jpg「松本清張没後20年特別企画・危険な斜面」●監督:赤羽博●プロデュー:岩崎文(ユニオン映画)●脚本:当摩寿史●サウンドデザイン:石井和之●原作:松本清張「危険な斜面」●出演:渡部篤郎/長谷川京子/溝端淳平/萩尾みどり/大路恵美/品川徹/梨本謙次郎/伊藤栞穂/長谷川朝晴/五辻真吾/木下政治/松川荘八/加藤満/旭屋光太郎/高品剛/有山尚宏/赤井英和/中村敦夫●放映:2012/09/30(全1回)●放送局:フジテレビ

【1962年新書化[カッパ・ノベルズ]/1980年文庫化・2007年新装版[文春文庫]】

《読書MEMO》
●「急な斜面」のテレビドラマ化
•1959年「急な斜面(フジテレビ・全2回)」梶川武利・千典子
•1961年「急な斜面(TBS・全2回)」須賀不二夫・浅茅しのぶ・丹阿弥谷津子
•1962年「急な斜面(NHK・全2回)」前田昌明・中川弘子・渡辺文雄
•1966年「松本清張シリーズ・急な斜面(フジテレビ)」川崎敬三・富永美沙子・内田朝雄
•1982年「松本清張の危険な斜面(テレビ朝日)」:水沢アキ・田島令子・山本圭・西村晃
•1990年「松本清張スペシャル・危険な斜面(日本テレビ)」古谷一行・池上季実子・松本留美・薬丸裕英
「危険な斜面」ドラマ.jpg•2000年「松本清張特別企画・危険な斜面(TBS)」田中美佐子・風間杜夫・袴田吉彦
•2012年「松本清張没後20年特別企画・危険な斜面(フジテレビ)」渡部篤郎・長谷川京子・溝端淳平・赤井英和
  
●「二階」のテレビドラマ化
•1965年「二階(フジテレビ)」三國連太郎・佐々木すみ江・楠侑子
「二階」77年.jpg•1977年二階(TBS)」十朱幸代・山口崇・渡辺美佐子
  
●「巻頭句の女」のテレビドラマ化
•1962年「巻頭句の女(NHK・全2回)」加藤嘉・前沢迪雄・高橋正夫
  
●「失敗」のテレビドラマ化
•1959年「失敗(フジテレビ)」津島恵子・清水将夫・土屋嘉男
  
●「拐帯行」のテレビドラマ化
•1959年「拐帯行(日本テレビ)」高橋昌也・悠木圭子・幸田宗丸
•1988年「松本清張サスペンス 拐帯行(フジテレビ)」石橋保・渡辺典子・高松英郎・南田洋子
「ドラマSP 黒革の手帖~拐帯行~」.jpg•2021年「黒革の手帖~拐帯行~(テレビ朝日)」武井咲・渡部篤郎・毎熊克哉・安達祐実
  
●「投影」のテレビドラマ化
•1959年「投影(日本テレビ)」三橋達也・岩崎加根子・河野秋武
•1960年「投影(NHK・全2回)」佐竹明夫・吉行和子・早野寿郎・大町文夫

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