【3210】 ○ ブライアン・シンガー 「ボヘミアン・ラプソディ」 (18年/英・米) (2018/11 20世紀フォックス) ★★★★

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フレディとメンバーの関係が美化されていたりもするが、ライブシーンは良かった。

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ボヘミアン・ラプソディ [DVD]」ラミ・マレック(フレディ・マーキュリー)

「ボヘミアン・ラプソディ」02.jpg 「ワルキューレ」('08年/米・独)のブライアン・シンガー監督が、イギリスのロックバンド「クイーン」のボーカルで、1991年にHIV感染合併症で45歳で亡くなったフレディ・マーキュリーに焦点を当て、1970年のクイーン結成から1985年の「ライブエイド」出演までを描いた伝記映画です。

 第91回「アカデミー賞」で主演男優賞、編集賞、録音賞、音響編集賞の4冠に輝き、2019年1月には世界各国における収益の総計が、伝記映画として例のない9億ドル超(同年4月レートで約1,007億円)となりました。日本でも興行収入が130億円を超えたとのことで(英国の1.5倍以上。日本人はクイーンが好きな人が多いのだろなあ。クイーンのメンバーも日本が好きだったし)、音楽伝記映画の観客動員数で言うと、「アマデウス」('84年/米)あたりが国内の過去最高ではなかったかと思われますが、おそらくそれも超えたでしょう。

「ボヘミアン・ラプソディ」03.jpg この映画では、自身の性的傾向に悩むフレディが描かれていて、個人的にはバレエダンサーのニジンスキーと、彼を育て愛人関係にもあったロシア・バレエ団の主宰者セルゲイ・ディアギレフを描いた「ニジンスキー」('80年/米)を想起しました(ニジンスキーは分裂症になり、破滅的な人生を送ることなるのだが)。昨今のLGBT映画の潮流に乗った印象もあります。

 因みに、伝記映画にありがちですが、この映画でも事実と異なる点が多くあるようです。ざっと見ただけででも大小26か所あるとして、それらを列挙したサイトがありました。

「ボヘミアン・ラプソディ」04.jpg 例えばフレディがメアリー・オースティンと出会ったのは、映画では彼女がクイーンの前身の「スマイル」のライブを初めて観た日にライブハウスの廊下で偶然出会ったようになっていますが、実際はメアリーは最初メンバーのブライアン・メイと交際していたとか(このメアリーという女性はフレディの遺産の半分を相続した)、フレディがバンドに加わった経緯は、映画ではスマイルのライブを偶々観たフレディがブライアンとロジャー・テイラーに自己紹介してバンドに加わったように描かれていますが、実際は加入前から2人とは知り合いだったとか、映画では、フレディがCBSとソロ・アルバム契約を結んだことで「クィーン」は事実上解散状態になったように描かれていますが、実際には一度も解散状態に至ったことは無かったとか...。

 したがって、映画では、解散期があったことで、また、エイズに罹ったフレディの体調が悪化しつつあったために、ライブ・エイドの本番1週間前になっても以前のような演奏は出来ず、観客をハラハラさせますが、実際にはクイーンとしての活動は絶えることなくずっと続いていて、ライブ・エイドの8週間前にはツアーの最後の日本公演を終えたところだったとのこと(ただし、内部でのフレディと他のメンバーとの関係は良くなかった?)。

「報知新聞」1991年11月26日
報知19911126.jpg そして、これはかなり大きな改変だと思うのですが、映画ではライブ・エイドに向けたリハーサルをしている最中に、フレディは自分がHIVポジティブであることをメンバーに明かしますが、'85年の検査では彼はHIVネガティブであり、'87年頃の再検査でポジティブであることが初めて判明したようです。したがって、ライブ・エイドに向けたリハーサル中にフレディが自分がHIVポジティブだとメンバーに告白することはあり得ないことになります(映画にも登場するフレディの最後の恋人ジム・ハットンは、フレディは'87年4月には感染を認識していたと証言している。しかしそれを公にしたのは、彼が亡くなる前日の'91年11月23日だったと英紙は報じた)。

 そして、この最後の改変点が、批評家が最も問題視している点であり、なぜならば、フレディの病気を知ったメンバーがそれを受け容れ、伝説となるライブをやってのけたというのが映画の肝(キモ)になっているためです。ブライアン・メイ、ロジャー・テイラーが製作に名を連ねているお墨付きの映画ですが、一方で、身内をよく描くという美化作用もあったりするのでしょう。

 史実と異なる点についてブライアン・メイは、「ドキュメンタリーじゃないから、すべての出来事が順序立てて正確に描写されているわけじゃない。でも、主人公の内面は正確に描かれていると思う」「僕らは脚本を書いていないが、この映画でいくつかのを出来事が起きた時期をずらすことを許可している。20年もの出来事を2時間で伝えるためには、たくさんのことを圧縮したり、シャッフルしなくてはいけない」と述べています。

「ボヘミアン・ラプソディ」05.jpg クイーンがライブ・エイドのステージ上でパフォーマンスを披露した時間がおおよそ21分であったことにちなんで、「魂に響くラスト21分」と映画のキャッチコピーにもありましたが、映画内では13分30秒に圧縮されているとのことです。逆にショット数の方は、ライブ・エイドの記録映像(YouTubeで視聴可)が21分を175のショットで構成しているのに対し、映画での再現シーンは13分30秒を約360のショットに割っていて、使われているショット数に倍以上の違いがあるそうです。

「ボヘミアン・ラプソディ」06.jpg そうした効果もあったのかもしれませんが、映画におけるライブ・エイドのシーンは良かったです。後で映画撮影の舞台裏を明かすような内容のテレビ番組を見て知ったのですが、ライブシーンにおける観客席はほとんど合成で撮影されていました。観客エキストラは900人ほどで、それを画面いっぱいに"コピペ"したのです。それでも、映画を観ていて違和感が無かったです。
   
ブライアン・メイ.jpg 余談ですが、ブライアン・メイは2006年には、かねてより研究していた天文学についての本を2年半以上の時間を費やし執筆、2007年に天体物理を授与されていて、さらに、今年['22年]7月、英王立ハル大学より科学の名誉博士号を授与されましたが、スピーチで「唯一の正しい道はない」と述べています。これは、キャリアへの不安を持つ若者に対して、自身のキャリア(研究者→ミュージシャン→研究者と"回り道"(?)した)を振り返った上での励ましの言葉を送ったものであるとのことですが、この映画の表現にも当て嵌まる(彼が"当て嵌めて"言っている)ように思えました。

「ボヘミアン・ラプソディ」07.jpg「ボヘミアン・ラプソディ」●原題:BOHEMIAN RHAPSODY●制作年: 2018年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:ブライアン・シンガー●脚本・原案:アンソニー・マクカーテン●製作:グレアム・キング/ジム・ビーチ/ロバート・デ・ニーロ/ピーター・オーベルト/ブライアン・メイ/ロジャー・テイラー●撮影:ニュートン・トーマス・サイジェル●音楽:ジョン・オットマン●時間:134分●出演:ラミ・マレック/ルーシー・ボイントン/グウィリム・リー/ベン・ハーディ/ジョゼフ・マゼロ/エイダン・ギレン/トム・ホランダー/アレン・リーチ/マイク・マイヤーズ●日本公開:2018/11●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:OSシネマズ ミント神戸(19-01-01)(評価:★★★★)

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