【3209】 ○ フレデリック・ワイズマン 「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」 (12年/仏・米) (2012/06 ショウゲート) ★★★★

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ここ、行きました。「世界最高のヌードショー」の自負が伝わってくる映画。

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クレイジーホースパリ 夜の宝石たち 通常版

「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」1.jpg フレデリック・ワイズマン監督の2011年発表のフランス・アメリカ合作作で、「BALLET/アメリカン・バレエ・シアターの世界」('95年)、「パリ・オペラ座のすべて」('09年)に続くダンスをテーマとした作品であり、有名なパリの老舗ナイトクラブ「クレイジーホース」に10週間、70時間密着したドキュメンタリーです。幻想的できらびやかなショーの模様から、そこで働く女性ダンサーたちの姿、スタッフや舞台裏、オーディションの風景なども収められています。

「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」2.jpg クレイジーホースには以前にスペイン旅行の帰りに寄ったパリの観光ツアーで行ったことがあり、懐かしかったですが、映画では、ショーそのものを見せるというより、練習風景と裏方の様子、そして完成形に近いダンスを見せるという点で、構成は前作の「パリ・オペラ座のすべて」と似ています。

 因みに、クレイジーホースの特定のショーそのものを中心にしたものとしては、2012年、史上初のゲストアーティストとして招かれた"レッドソール"(この映画にも出てくるが、靴の裏が赤い靴)のクリスチャン・ルブタン(この人はクレイジーホースにインスパイアされてシューズデザインを始めたとのこと)による演出の「FIRE」を、ブルノ・ユラン監督が撮ったドキュメンタリー映画「ファイアbyルブタン」('12年/仏)があります。

「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」3.jpg フレデリック・ワイズマン監督のこの作品を観ると、舞台上で女性をもっとも美しく表現するためにはダンサーの美しさのみならず演出、音楽、衣装、小道具、照明等に工夫をこらさなければならないことが分かり、そうしたことに関わるスタッフの大変さや細やかさと、「世界最高のヌードショー」を自負するプライドが伝わってきました。

フィリップ・ドゥクフレ
フィリップ・ドゥクフレ.jpg「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」5.jpg 総監督がショーの質を上げるために一定期間休業しようと提案するものの、女性支配人が株主の指示が得られないとして反対するなどの生々しいやり取りもあります。総監督と監督の激論もあって、総監督のフィリップ・ドゥクフレは、1992年のアルベールビルオリンピックで僅か31歳にして開会式・閉会式の演出を担当したダンサー出身の振付師であり(オリンピックでのサーカスとダンスを融合させた演出は今も記憶に残っている。この人、近年では尊敬する坂東玉三郎から感化を受けている)、監督のフィリップ・ドゥワレも、本編の最後に披露されているショー「DESIR」などを手掛けた著名振付師です(ここの2人、よく喋る(笑))。

「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」6.jpg 監督とダンサーたちの討議、ダンサーのくつろいでいる様子(ボリショイバレ団か何かのNG集ビデオを観て大笑いしている)、オーディションの様子などがあり、特にオーディションでは選ぶ側が最初から「あくまでボディライン」を見ると明言していました(だから開脚しなくてもいいとも言っていた)。

 これまでのワイズマン監督のドキュメンタリー作品では、ワイズマン監督ならではと言えるテロップもナレーションも、音楽もない撮影手法が知られていましたが、本作では、ノーナレであるのは同じですが、ムード音楽に乗ったダンサーたちの美しい影絵のシーンからスタートし、劇中で流れる曲はすべてショーのBGMをとり込んでいて、過去作に比べてエンターテインメント性の高い仕上がりとなっています。

 米国人のワイズマン監督がなぜパリを舞台にドキュメンタリーを撮るのか、その理由について本人はインタビューで、フランスで仕事をするのが好きで、米国にはないテーマや対象がフランスにはあると言っています。米国にもシアターカンパニーがありますが、クレイジーホースのように伝統を持つ場所は無く、また、オペラ座のように格式があって300年の歴史を有しているような場所も無いとのことです。

「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」4.jpg また、クレイジーホースには、女性同士でレズビアンを示唆するものやエレガントな形でマスターベーションを示唆する演目はあるものの(男性二人のタップダンスなどもある)、一方で、異性間の性交を示唆するようなものが一切ないのが面白いとも言っています。女性がひとり、あるいは女性同士のグループで見に来ることもあり、これも特筆すべきことであると。ナルホドと思いました。

 因みに、ワイズマン監督は1930年1月1日生まれなので、この映画の撮影時点(2011年)で80歳を超えていたことになります。「ボストン市庁舎」('20年)を撮ったのが90歳の時かあ。「女性」から「建物」に移ったというのはあるけれど、精力的だなあ。

「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」8.jpg「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」7.jpg「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」●原題:CRAZY HORSE●制作年: 2012年●制作国:フランス●監督.:フレデリック・ワイズマン●製作:ピエール=オリヴィエ・バルデ●撮影:ジョン・デイヴィ●時間:134分●出演:フィリップ・ドゥクフレ/フィリップ・ドゥワレ/フィリップ・ボウ/ナアマ・アルバ/ディーバ・ノヴィタ●日本公開:2012/06●配給:ショウゲート●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(22-10-18)(評価:★★★★)

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