2022年6月 Archives

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主人公の「敵」は誰であるか。最後に彼女が銃口を向けたのはイリーナではなく―。

同志少女よ、敵を撃て8.jpg同志少女よ、敵を撃て0.jpg同志少女よ、敵を撃て1.jpg
同志少女よ、敵を撃て』装画:雪下まゆ

『同志少女よ、敵を撃て』評.jpg同志少女よ、敵を撃て honya.jpg 2022(令和4)年・第19回「本屋大賞」第1位(大賞)作品。2021(令和3)年・第11回「アガサ・クリスティー賞(大賞)」(早川書房・公益財団法人早川清文学振興財団主催)受賞作。2022(令和4)年度・第9回「高校生直木賞(大賞)」(同実行委員会主催、文部科学省ほか後援)受賞作。2021(令和3)年下半期・第166回「直木賞」候補作。

 独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」―そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした"真の敵"とは―。

 作者自身も述べているように、2015年にノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの主著『戦争は女の顔をしていない』に触発されて書かれた小説で、同書は、独ソ戦に従軍した女性たちへの綿密なインタビューをもとに、「男の言葉」で語られてきた戦争を、これまで口を噤まされてきた女性たちの視点から語り直した証言集ですが、そのほかに、実在した天才狙撃手リュドミラ・パヴリチェンコの回想録『最強の女性狙撃手』などから完成された本物のスナイパーの在り様を参照し、さらに、作中でも引用している『ドイツ国防軍兵士たちの100通の手紙』からは、人を殺めることへの罪悪感が消失する瞬間を描出しています。

 直木賞の選評では、三浦しをん氏が強く推したのに対し、浅田次郎氏の「戦争小説には不可欠なはずの、生と死のテーマが不在であると思えた。主人公が敵を憎みこそすれ戦争に懐疑しないというのは、たとえ現実がそうであろうと文学的ではない」などといった意見もあり、受賞を逃していますが、もともとこの回は米澤穂信氏の『黒牢城』が候補作にあったりしてレベルが高かったのと、あと、この作品が作者の処女作であることから、もう少し他の作品も見てみたいというのも選考委員の間にあったのではないでしょうか。選考委員の一人である宮部みゆき氏も、「作品は素晴らしいが、新人賞受賞作で初ノミネート、いきなり受賞はためらわれる」として見送りになったかつてのケースと同じだと、述べています。

 浅田次郎氏の評と反しますが、作中で主人公セラフィマが終始問われることになるのが「なんのために戦うのか」であり、これはタイトルにある「敵」が誰であるのかにも通じる問いです。むしろ、物語は、主人公の「敵」が誰であるのかからスタートし、セラフィマにとっての最初の「敵」は、母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナであって、それらに復讐するためにそのイリーナの下で彼女は狙撃兵となります。それが、最後は、イリーナへ銃口を向けるのではなく、自分と同い年の幼馴染で、周囲からは将来結婚するものと思われていたミハイル(ミーシカ)に彼女は銃を向けることになる―。
 
 ここが、この作品の最大のポイントでしょう。国家間の戦争からジェンダーの問題に切り替わってしまったとの見方もあるかもしれませんが、この部分において『戦争は女の顔をしていない』のテーマを引き継ぐとともに、、ミハイルをそのような人間にしてしまった戦争というものへの批判が込められているように思いました。

 直木賞の選考で論点となったことの1つに、「どうして日本人の作家が、海外の話を書かなくてはいけないのか」というものがあり、林真理子氏などは、それが最後まで拭い去ることが出来なかったとしています。しかし一方で、三浦しをん氏は「彼女たちの姿を描くことを通し、現代の日本および世界に存在する社会の問題点をも「撃て」ると作者は確信したからだろう」という積極的に評価しており、この意見は選考委員の中では少数意見だったようですが、個人的には自分もそれに近い意見です。よって、評価は「◎」としました。

 ただし、選考委員の北方謙三氏は、「タイトルの『敵』が、終盤では観念性を持ちはじめて、私を失望させた」と述べており、そういう見方もあるかもしれないなあとは思いました(でも「◎」)。

 因みに、高校生が直木賞候補作から「大賞」を選ぶ「高校生直木賞」では、『黒牢城』などを抑えてこの作品が受賞しています。

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原作ノンフィクションを漫画にしようと思い、それをやってのけたこと自体がすごい。

戦争は女の顔をしていない 1.jpg戦争は女の顔をしていない 2.jpg 戦争は女の顔をしていない 3.jpg  戦争は女の顔をしていない (岩波現代文庫).jpg
戦争は女の顔をしていない 1』『戦争は女の顔をしていない 2』『戦争は女の顔をしていない 3』『戦争は女の顔をしていない (岩波現代文庫)
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ.jpg『戦争は女の顔をしていない』014.jpg 『チェルノブイリの祈り』(1997)などの著作により、2015年にノーベル文学賞を受賞したベラルーシの作家・ジャーナリストであるスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ(1948年生まれ)による、第二次世界大戦の独ソ戦に従軍した女性たちの聞き取りがまとめられたノンフィクション『戦争は女の顔をしていない』(1984)のコミカライズ作品です(小梅けいとが作画を担当し、速水螺旋人が監修)。2019年4月27日からウェブコミック配信サイトComicWalker(KADOKAWA)で漫画の連載が始まり、2020年1月にコミックス第1巻が発売。個人的には、原作を先に読み、続いてコミックを読みました(2021年7月、第50回「日本漫画家協会賞」が発表され、「まんが王国とっとり賞」に本作が選出されている)。

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ 6.jpg[戦争は女の顔をしていないil2.jpg 原作は、アレクシエーヴィッチが雑誌記者だった30歳代、1978年から500人を超える女性たちから聞き取り調査を行ったもので、本は完成したものの、2年間出版を許可されず、ペレストロイカ後に出版されています。当時ベラルーシの大統領だったアレクサンドル・ルカシェンコは祖国を中傷する著書を外国で出版したと非難し、ベラルーシでは長らく出版禁止になっていたようです。
戦争は女の顔をしていない

プーチン ルカシェンコ.jpg プーチンやルカシェンコには批判的で、特にベラルーシではその著書は独裁政権誕生以後、出版されず圧力や言論統制を避けるため、2000年にベラルーシを脱出し、西ヨーロッパを転々としたが、2011年には帰国、プーチン・ロシアがウクライナに侵攻し、それをルカシェンコが支持しているという2022年現在においてはどうしているかというと、。2020年に持病の治療のためドイツに出国し、以来ドイツに滞在しているとのこと、今年['22年]5月に74歳になっており、祖国に戻れる日が来るのか心配です。

 『チェルノブイリの祈り』でのチェルノブイリ原子力発電所事故に遭遇した人々の証言も衝撃的でしたが、こちらも強烈です。『チェルノブイリの祈り』が約300人に取材しているのに対し、こちらが約500人に取材していて、実に精力的に話を聞いて回ったことが窺えます。コミカライズに際して、どうエピソードを抽出しどうまとめるか難しいところだったのではないかと思いますが、上手くまとめているように思いました。

 戦線に駆り出された女性たちは、医療・看護・衛生関係者が多かったようですが、飛行士や高射砲の指揮官などもいて、目の前で人の命が一瞬にして奪われていくのを見ており、さらには女性狙撃兵もいて、これは逢坂冬馬氏のべしとセラー小説『同志少女よ、敵を撃て』('21年/早川書房)のモチーフにもなっています。

『戦争は女の顔をしていない (全3巻)』1.jpg コミックを見て思ったのは、アレクシエーヴィッチが30歳代とまだ若かったのだなあと(絵は少し若すぎて20代にしか見えないが)。インタビューを受ける側も、原作を読んだ時はかなり高齢かと思いましたが、まだ50代前半ぐらいの年齢だったのではないかと思います。若い頃の壮絶な体験ということもあり、まったく忘れてはおらず、むしろ話すことができるようになるのに戦後20余年を経る必要があったといった内容の話も多かったように改めて思いました。

 単行本第1巻の帯には、「機動戦士ガンダム」の富野由悠季氏が推薦文を寄稿していますが、小梅けいと氏、速水螺旋人氏との対談では、「この原作の内容をマンガ化するのは、正気の沙汰とは思えない」と言い(帯にも「蛮勇」と書いている)、「戦争を知らない世代だから描ける」のだとまで言っています(特に「小梅世代」を指して言っている)。富野氏が、「あっけらかんと描いていることが、救いだと思います」と述べているのは、それだけコミカライズによって"抜け落ちる"ものも大きいということを言っているのだと思います。

 それでも、この原作ノンフィクションを漫画にしようと思い、それをやってのけたこと自体がやはりすごいことではないかと思います(小梅氏は、いつかこうの史代氏の『この世界の片隅に』のような作品を書いてみたいとの思いはあったようだが)。個人的にも、ビジュアライズされることでイメージに肉付けがされた面があり、原作本と併せて読んで決してがっかりさせられるようなレベルではなかったように思いました。

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年末ミステリランキング4年連続3冠。『カササギ殺人事件』に続き「1作品で2度美味しい」。

ヨルガオ殺人事件 上.jpgヨルガオ殺人事件下.jpgヨルガオ殺人事件 上下.jpg
ヨルガオ殺人事件 上 (創元推理文庫)』『ヨルガオ殺人事件 下 (創元推理文庫)

Moonflower Murders.jpg アラン・コンウェイ作『カササギ殺人事件』にまつわる事件に巻き込まれてから2年。出版業界を離れたスーザン・ライランドはギリシャに移り住み、恋人のアンドレアスと共にホテルを営んでいた。しかし、経営はギリギリで心の余裕もなく、イギリスに戻ることを考えていた。ある日、イギリスで高級ホテルを経営しているトレハーン夫妻がスーザンのもとを訪れ、失踪した娘のセシリーの捜索を依頼される。なんと、ホテルで8年前に起きた殺人事件の真相がアティカス・ピュントシリーズ3作目の『愚行の代償』に隠されているのだという。スーザンは事件の関係者たちに話を聞いてまわり、アランの作品を読み返すことになる。果たして、8年前の真相とスーザンの失踪の関係は、そして作品に隠された真相とは一体何なのか―。

 「このミステリーがすごい!」(宝島社)2022年版海外篇・第1位、「週刊文春ミステリーベスト10」(週刊文春2021年12月9日号)海外部門・第1位、「2022本格ミステリ・ベスト10」(原書房)第1位を獲得し、『カササギ殺人事件』『メインテーマは殺人』『その裁きは死』による3年連続での年末ミステリランキング3冠を更新し、〈4年連続3冠〉となりました。ただし、「ミステリが読みたい!2022年版」(ハヤカワ・ミステリマガジン2022年1月号)だけ第2位だったため、〈4年連続4冠〉は成らなりませんでした(1位は『自由研究には向かない殺人』(ホリー・ジャクソン))。

 2020年8月原著刊行。『カササギ殺人事件』の続編(事件はまったく異なる事件)であり、主人公は同じスーザン・ライランド。編集者を辞め、ロンドンからパートナー・アンドレアスと共にクレタ島に移りホテルを経営しています。『カササギ殺人事件』と同じく「現実編」と「小説編」から成りますが、文庫上巻が「小説編」で下巻が「現実編」だった『カササギ殺人事件』に対して、こちらは、「現実編」の真ん中に、文庫の上下を繋ぐような形で「小説編」である『愚行の代償』が入っており、このまさに「入れ子」構造となっている『愚行の代償』だけで1つの推理小説として緊迫感を持って読めます。

 まあ、『カササギ殺人事件』に続いて「1作品で2度美味しい」という感じでしょうか。敢えて惜しかった点を指摘すれば、『愚行の代償』(「小説編」)の謎解きが本編(「現実編」)の謎解きと直接的にはリンクしていなかったことでしょうか。文庫下巻で本編の登場人物一覧と、小説編の登場人物一覧の両方に指を挟んで、見比べながら読んだ割には、正直やや拍子抜けさせられた印象もあります。

 でも、上下巻で一気に読ませる力量はさすが。分量はあっても無駄がないと言うか、これは作者ならではという感じ。ただ、「現実編」「小説編」共かなり登場人物が多いので、ややマニアックになっている印象はありました(「現実編」の登場人物がかなり『カササギ殺人事件』から引き継がれている分、緩和されている面もあるが)。

 最後の方では、主人公が結構いきなり誰が犯人か閃いたようで、思わずそこでいったん本を置いて、居住まいを正し(笑)一呼吸置いてから読み進みました。随所にアガサ・クリスティへのオマージュが見られるのも楽しかったですが、犯人に至る伏線が記号として織り込まれていたことは、謎解きがああってから分かりました(プロットではなく記号だった)。

 『カササギ殺人事件』とどちらが上かと言うと、「現実編」に対し「小説編」が「入れ子」構造となっている分、『カササギ殺人事件』より洗練されていた(加点要素)とも言えるし、でも、「小説編」の現実の事件の解決ポイントがプロット的なものではなかったことへの物足りなさ(減点要素)もあるし、まあ、いい勝負という感じでしょうか。何れにせよ、そこいらの並みの推理小説よりはずっと面白いので「◎」です。

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獄中にて事件の謎を解く黒田官兵衛。上手いなあと思った点がいくつもあった。

黒牢城3.jpg黒牢城.jpg
黒牢城2.jpg 
 
黒牢城

『黒牢城9冠.jpg 2021(令和3)年下半期・第166回「直木賞」、2021(令和3)年度・第12回「山田風太郎賞」受賞作。① 2021(令和3)年度「週刊文春ミステリー ベスト10(週刊文春2021年12月9日号)」(国内部門)第1位、② 2022(令和4)年「このミステリーがすごい!(宝島社)」(国内編)第1位、③「2022本格ミステリ・ベスト10(原書房)」国内ランキング第1位、④ 2022年「ミステリが読みたい!(ハヤカワミステリマガジン2022年1月号)」(国内編)第1位の、国内小説では初の「年末ミステリランキング4冠」達成。2022年・第19回「本屋大賞」第9位。そして先月['22年5月]、2022年・第22回「本格ミステリ大賞」も受賞(もろもろ併せて「9冠」になるとのこと(下記《読書MEMO》参照))。

 本能寺の変より四年前、天正六年の冬。摂津池田家の家臣から上り詰め、摂津一国を任され織田家の重臣となっていた荒木村重は、突如として織田信長に叛旗を翻し、有岡城に立て籠もる。織田方の軍師・小寺官兵衛(黒田官兵衛)は謀叛を思いとどまるよう説得するための使者として単身有岡城に来城するが、村重は聞く耳を持たず、官兵衛を殺すこともせずに土牢に幽閉する。荒木村重は、城内で起きる難事件に翻弄される。動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の智将・黒田官兵衛に謎を解くよう求める―。

 荒木村重による摂津・有岡城での約1年間の籠城期間を冬・春・夏・秋の4章(+終章)に分けた構成。まず冬に「人質殺害事件」が起き、春に「手柄争い騒動」が、さらに夏には「高僧殺害事件」、そして秋には、前の事件の犯人の死をめぐる「鉄炮放の謎」が浮上してくるという―有岡城はミステリに事欠かない(笑)。

 上手いなあと思ったのは、4つの事件すべての"探偵役"が黒田官兵衛になっていることで、獄中に居ながら事件の謎を解いてみせるという"安楽椅子探偵"みたいなポジショニングにしてみせているところです(「獄中」と「安楽椅子」で言葉上は真逆だが)。

 それと、4つの事件が単に並列なのではなく、最後の事件がそれまでの3つを包括的に謎解きしている点も上手いと思ったし、黒田官兵衛が荒木村重を助けてあげたくて謎解きをしたのではなく、そこには深謀があったというのも上手いなあと思いました。

gunsi kanbei.jpg軍司官兵 araki.jpg 作者のこれまでの警察物や海外ものとはがらっと変わった時代物で、しかも荒木村重という戦国武将の中では数奇な生涯を送った人物を取り上げたのも良かったと思います(NHKの大河ドラマでは、'14年の岡田准一主演の「軍師官兵衛」で、田中哲司の演じた荒木村重が印象深い)。
NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」['14年]岡田准一(黒田官兵衛)/田中哲司(荒木村重)
桐谷美玲(荒木だし)
軍師官兵衛 だし 桐谷.jpg軍師官兵衛 だし 桐谷2.jpg 因みに、主要登場人物の一人、荒木村重の妻・千代保(荒木だし。村重の妻だが、正室か側室かは不明だそうだ)は「絶世の美女」と称されたそうですが(大河ドラマでは村重に隠れて囚われた官兵衛の世話をしていた)、有岡城落城後に捕えられるも城主の妻として潔くすべてを受け入れ、京の六条河原で一族の者とともに処刑されています。一方、荒木村重の方は、だし等一族が処刑されたことを知ると「信長に殺されず生き続けることで信長に勝つ」ことを誓って尼崎城から姿を消したとのこと。そうした村重の信長の逆を行くという思いは、この作品でも示唆されているように思われます。

 年末ミステリランキングで、前作『満願』『王とサーカス』に続いて「3冠」を達成し、加えて「4冠」全制覇した作品は国内では初で(下記参照)、海外も含めると、アンソニー・ホロヴィッツ の『カササギ殺人事件』『メインテーマは殺人』『その裁きは死』の3年連続「4冠」に次ぐ快挙でした。直木賞の選考会でも、選考委員9人による1回目の投票の時点で「抜けていた」という評価を受けています。

●年末ミステリランキング3冠達成作品(『黒牢城』は4冠達成)
容疑者χの献身.jpg 東野 圭吾『容疑者Xの献身(2005年刊)
 「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位
 「本格ミステリ・ベスト10」1位、「ミステリが読みたい」賞自体が未創設

満願1.jpg 米澤 穂信『満願(2014年刊)
 「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位
 「本格ミステリ・ベスト10」2位、「ミステリが読みたい」1位

王とサーカス.jpg 米澤 穂信『王とサーカス(2015年刊)
 「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位
 「本格ミステリ・ベスト10」3位、「ミステリが読みたい」1位

屍人荘の殺人.jpg 今村 昌弘『屍人荘の殺人(2017年刊)
 「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位
 「本格ミステリ・ベスト10」1位、「ミステリが読みたい」2位

たかが殺人じゃないか.jpg 辻 真先『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説(2020年刊)
 「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位
 「本格ミステリ・ベスト10」4位、「ミステリが読みたい」1位

黒牢城.jpg 米澤 穂信『黒牢城』(2021年刊)
 「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位
 「本格ミステリ・ベスト10」1位、「ミステリが読みたい」1位

大河ドラマ 軍師官兵衛 完全版3竹中直人(豊臣秀吉)
軍師官兵衛 2014.jpg軍師官兵衛 竹中.jpg「軍師官兵衛」●脚本:前川洋一●演出:田中健二ほか●プロデューサー:中村高志●時代考証:小和田哲男●音楽:菅野祐悟子●出演:岡田准一/(以下五十音順)東幹久/生田斗真/伊吹吾郎/伊武雅刀/宇梶剛士/内田有紀/江口洋介/大谷直子/大橋吾郎/忍成修吾/片岡鶴太郎/勝野洋/金子ノブアキ/上條恒彦/桐谷美玲/黒木瞳/近藤芳正/塩見三省/柴田恭兵/春風亭小朝/陣内孝則/高岡早紀/高橋一生/高畑充希/竹中直人/田中圭/田中哲司/谷原章介/塚本高史/鶴見辰吾/寺尾聰/永井大/中谷美紀/二階堂ふみ/濱田岳/速水もこみち/吹越満/別所哲也/堀内正美/眞島秀和/益岡徹/松坂桃李/的場浩司/村田雄浩/山路和弘/横内正/竜雷太(ナレーター)藤村志保 → 広瀬修子●放映:2014/01~12(全50回)●放送局:NHK

《読書MEMO》
●『黒牢城』(9冠)
 ★「第166回直木三十五賞」受賞
 ★「第12回山田風太郎賞」受賞
 ★「週刊文春ミステリーベスト10」(週刊文春2021年12 月9 日号)国内部門 第1位
 ★『このミステリーがすごい! 2022年版』(宝島社)国内編 第1位
 ★「ミステリが読みたい! 2022年版」(ハヤカワミステリマガジン2022年1月号)国内篇 第1位
 ★『2022本格ミステリ・ベスト10』(原書房)国内ランキング 第1位
 ★「第22回本格ミステリ大賞」受賞
 ★「2021年SRの会ミステリーベスト10」国内部門 第1位
 ★「週刊朝日 歴史・時代小説ベスト3」(週刊朝日 2022年1月7・14日号) 第1位
 ・「2022年本屋大賞」第9位
 ・『この時代小説がすごい! 2022年版』(宝島社)単行本 第3位

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男性が主人公のものは侘しさがあり、女性が主人公のものの方に「強さ」を感じた。

田舎のポルシェ.jpg田舎のポルシェ1.jpg
田舎のポルシェ

 "今どきの人生"を感じさせるロードノベル3編を収録。収録短篇は、いずれも「オール讀物」に初出掲載されたもの。「田舎のポルシェ」は2020年9・10月合併号に、「ボルボ」は2020年2月号に、「ロケバスアリア」は2021年1月号に、それぞれ掲載された作品です。

「田舎のポルシェ」... 実家の米を引き取るため大型台風が迫る中、強面ヤンキーの運転する軽トラで東京を目指す女性。波乱だらけの強行軍だったが―。

「ボルボ」... 不本意な形で大企業勤務の肩書を失った二人の男性が意気投合、廃車寸前のボルボで北海道へ旅行することになったが―。

「ロケバスアリア」...「憧れの歌手が歌った会場に立ちたい」。70歳を迎えたおかんである私の願いを叶えるため、コロナで一変した日本をロケバスが走る―。

 「田舎のポルシェ」は、軽トラになぜか米を満載にして東京から岐阜に向かう話(都会から地方へ行くということで、最初は状況が掴みにくかった)。農家の事情や登場人物の家族、生い立ち、行く手に立ちはだかる台風などの諸要素がにうまく組み合わせられていて、手練れの技という感じ。文芸評論家の斎藤美奈子氏と書評ライターの細貝さやか氏の対談で「アラフィー女性に読んで欲しい本」の1冊として挙げられていたように思いますが、作者の「女たちのジハード」系の作品とも言えるかも。

 「ボルボ」は、大企業を辞めた60代の男同士が知り合うのってこんな感じかなあと。主人公が長年頑張ってきたボルボに自分を重ねているのがよく分かって切なかったです。自分も、車で北海道に行ったとき、八戸から苫小牧行きのフェリーニに乗ったので懐かしかったです(1等がとれず、2等を予約して乗船してから1等のキャンセルをゲットした)。でも、なんで斎藤氏はわざわざ妻の仕事場へ行ったんだろなあ。

 「ロケバスアリア」の主人公は孫の運転で浜松のホールへ行くわけで、それはホールで歌うという彼女の秘めた決意があるため。この決意の意味が最後に読者に分かるようになっているのがミソで、書評ライターの細貝さやか氏も、生きる尊さを感じさせる中編で、主人公のコロナ禍の決意に勇気をもらったとしてました。やっぱりラストが効いているかな。

 3編ともロードノベルであるという共通点と併せて、いずれも、単なる運転手で主人公とはまったくの他人同士であったり、元は主人公とは他人同士だったのが最近付き合い始め、今回初めて一緒に旅行する関係だったり、古希の主人公とかつて引き取る機会があった孫だったり、これも主人公にとってはまったくの他人の録音ディレクターだったり――といった主人公と"他者"との関係性がモチーフになっている点が同じで、その両者の距離感が、物語の始まりと終わりで変化している(より密になっている)と言えるかと思います。

 そうした関係性の変化を描くことで、人生というものを炙り出しているところがうまいなあと。男性が主人公の「ボルボ」は侘しさがあり、女性が主人公のものの方に「強さ」を感じられた点は、やはり作者らしいのかも。

【2023年文庫化[文春文庫]】

「●む 村上 春樹」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【512】 村上 春樹 『シドニー!

後の『女のいない男たち』や映画「ドライブ・マイ・カー」に連なるものを感じた。

レキシントンの幽霊 単行本.jpg レキシントンの幽霊 (文春文庫).jpg
レキシントンの幽霊』['96年]『レキシントンの幽霊 (文春文庫) 』['99年]

 1996年に文藝春秋より刊行された短編集で(1999年、文春文庫として文庫化)、「レキシントンの幽霊」「緑色の獣」「沈黙」「氷男」「トニー滝谷」「七番目の男」「めくらやなぎと、眠る女」の7編を所収し、いくつかの作品は収録にあたり加筆されています(収録作品のうち「レキシントンの幽霊」を除く6作品すべてが英訳されている)。

レキシントンの幽霊 0.jpg「レキシントンの幽霊」... 小説家の僕が手紙を介して知り合ったケイシーは、レキシントンの屋敷に、ジェレミーというピアノの調律師と暮らしていた。ある時、僕はケイシーに家の留守番を頼まれる。ケイシーのロンドン出張と、ジェレミーの母親の看病が重なり、しばらく空き家になるからだ。留守番の初日、大勢がパーティをしているような物音で僕は深夜に目が覚める―。友達の家の留守番を頼まれ滞在することになった主人公が、真夜中のダンスパーティーに遭遇する恐怖。ゴシックホラーっぽいです。個人的には、映画「シャイニング」を思い出しました。

「緑色の獣」... 夫が会社に出かけた後、女は庭の木に語りかけて孤独を癒していた。ある時、その木の根元から緑色な獣がやってくる。女性は愛を語る異物を排除しようと想像上の暴力を奮う―。これはすべて女性の脳内で起きている出来事なのでしょう。結婚により理性を失いかけた女性の孤独と闇の深さ。ただ、メタファー系はあまり好みではないです。

「沈黙」... ボクシングジムに通う大沢さんの昔の話。穏やかに見える大沢さんがただ一度だけ、同級生の青木を殴ってしまった経験を語る。狡猾な青木は、根拠のない噂を広め、集団による排除という目に見えない暴力で大沢さんを傷つけた―。この「青木」という人物は、村上春樹の小説の登場人物は皆どれも似ているとよく言われる中では特異な方ではないでしょうか。その分、面白かったけれど、一人称でもよかったかな。「僕が本当に怖いと思うのは、青木のような人間の言い分を無批判に受け入れてそのまま信じてしまう連中です」という終わり方も、やけに社会性があり(本書に収録される前に、1993年3月、全国学校図書館協議会から「集団読書用テキスト」として発売された)、この短編集の中は特に印象に残りました。

氷男.jpg「氷男」... 氷男は結婚してしたあと、妻の希望で旅をした南極で自分の世界を見つけて南極社会で幸せに暮らすようになるが、妻は言葉の通じない場所で孤独を深める―。またもメタファー系。結婚して女性が社会とのつながりを失って孤独になる痛みを描いえちます。氷男は、心を閉ざして自分語りをしないという男性性の象徴でしょうか。いずれにせよ、メタファー系は苦手です。

トニー滝谷.jpg「トニー滝谷」... トニー滝谷は、結婚した妻が買い物依存症で、洋服を次々と買い漁り、部屋中が服でいっぱいになってしまったので、それを処分するように妻に話すと、彼女は服を売りに行った帰りに亡くなってしまう。彼は、他の女の人に仕事を頼んでまでしてその服を着せようとする―。要するに、愛する人の死を受け入れられない男の哀しみを、滑稽かつアイロニックに描いた寓話ということではないでしょうか。『文藝春秋』に掲載されたのはショート・バージョンで、1991年7月刊行の『村上春樹全作品 1979~1989』第8巻にロング・バージョンが収録され、本書に収められたのはロング・バージョン。2005年には市川準監督のもと映画化されています。

七番目の男.jpg「七番目の男」... 子どもの頃、波に友達をさらわれてしまった傷を抱えながら生きてきた男の回想談。「何よりも怖いのは、その恐怖に背中を向け、目を閉じてしまうことです。そうすることによって私たちは自分の中にあるいちばん重要なものを、何かに譲り渡してしまうことになります。私の場合には...それは波でした」―。トラウマに向き合うことでそれを乗り越えるという話はなかったでしょうか。

めくらやなぎと、眠る女.jpg「めくらやなぎと、眠る女」... 耳が悪い従弟の少年の病院に付き添う僕は、過去に、友人と一緒に友人の彼女を見舞いに行ったことを思い出す。その女の子の話した奇妙な話とは―。〈女性の耳から入って中身を食い尽くす虫〉というのが気持ち悪いですが、、これも「緑色の獣」や「氷男」と同じく病んでいる女性の話なのでしょう。

 全体を通して〈喪失〉がテーマやモチーフになっているものが多く、後の『女のいない男たち』('14年/文藝春秋)や、映画「ドライブ・マイ・カー」('21年)に連なるものを感じました。

【1999年文庫化[文春文庫]】

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「ウルトラシーリーズ」全体を怪獣路線に導いたエポックメイキング的な作品。

ウルトラq 宇宙からの贈りもの1.jpg ウルトラq 宇宙からの贈りもの4.jpg
火星怪獣ナメゴン 佐原健二(万城目淳)/桜井浩子(江戸川由利子)/江川宇礼雄(一ノ谷博士)

ウルトラq 宇宙からの贈りもの12.jpg 半年前に打ち上げた火星ロケットのカプセルが、ある日地球へ送り返されて来た。カプセルは火星の地表に衝突し、木っ端微塵に散ったはずなのにと、人々はガク然となった。しかも、カプセルの中には、ウズラの卵大の金色の丸い玉が二つまぎれ込んでいたのだ。学者たちは、火星人が人類の宇宙開発の成功を祝福して、贈り物をよこしたに違いないと楽観した。ところが宇宙開発局の金庫から三千万円とともに、保管されていた金色の丸い玉が盗まれてから、しばらくして大蔵島の洞窟の中に恐ろしい怪物が出たという報せが入った。淳、由利子、そして、一平の三人は、さっそくその島へ飛んだ。その洞窟の中にはギャングが倒れており、三千万円の札束が散らばっていた。だが、金色の丸い玉はどこにも見当たらなかった。その時、一匹の怪物が洞窟を突き破って出現した。金色の丸い玉は、なんと火星怪獣の卵だったのである。となると、もう一個の卵は一体どこへ?それは由利子の胸にペンダントに姿を変えて、ぶら下っていたのだ―。(「ウルトラQ・あらすじ集」より)

 「ウルトラQ」は'66(昭和41)年1月から7月まで27回にわたって放映されましたが、この第3話「宇宙からの贈りもの」は、円谷一監督、金城哲夫脚本で、1966年1月16日放送。「ウルトラQ」は'64年(昭和39)から'65(昭和40)年の間にシリーズ全話撮影を終えてから放送がスタートしていますが、この「宇宙からの贈りもの」は制作№は5で、実際に撮影されたのは'64年10月下旬~11月中旬になります(因みに制作№4の「あけてくれ!」(監督:円谷一、脚本:小山内美江子)は、シリーズの放送終了後の'67年12月14日に放送された)。

ウルトラq 宇宙からの贈りもの03.jpg 登場するナメクジに似た姿の怪獣ナメゴン(劇中では単に「火星怪獣」と呼称している)は、島で万城目(佐原健二)を追い詰めるも誤って海に転落、海水によって全身が溶けてしまったことで塩分に弱いと判明するという流れ。そのため、終盤、一平(西條康彦)によって由利子(桜井浩子)のペンダントに姿を変えていたもう1個の卵が孵化してナメゴンが再び現れ、一ノ谷博士(江川宇礼雄)の邸宅の庭を徘徊するも、近くの海に落っこちるだろうみたいな楽観的予測をするナレーションで終わっていて、本当に大丈夫なのかなと。

ウルトラq 宇宙からの贈りもの3.jpg このようにストーリーは間尺の関係か尻切れトンボですが、ナメゴンがよく出来ていたので○です。移動ギミックは映画「モスラ対ゴジラ」('64年/東宝)、「三大怪獣地球最大の決戦」('64年/東宝)の幼虫モスラのもの(ミニチュア自走用の車両を内蔵して自走)を流用し、湿気を出すために撮影のたびに霧吹きで水を表皮に吹き付けていたそうです(因みに、卵が膨らむシーンは風船で表現された)。

 最初期に制作されたこの第3話はTBSでの検討用素材としても用いられ、ナメゴンが好評であったため「ウルトラQ」シーリーズの作品全体が怪獣路線になったとされているそうで、「ウルトラQ」の企画時のタイトルが「アンバランス」だったことからも窺えるように、後の「怪奇大作戦」('68年~'69年)みたいな怪奇路線でいくこちとも当初は選択肢としてあったようです。その意味では、「ウルトラシーリーズ」全体を怪獣路線に導いたエポックメイキング的と言うか決定的な作品と言えなくもないかと思います(小山内美江子脚本の「あけてくれ!」がシリーズ放送期間内に放映されなかった一因にもなっている)。

ナメゴン 少年マガジン.jpg 因みに、'66(昭和41)年1月の「ウルトラQ」放送開始直前に刊行された「少年マガジン」の'65(昭和40)年第53号(12月26日号)で「『ウルトラQ』の怪獣たち特集」というのをやっていて、そこにナメゴンも出てきて、走行中のパトカーを襲って大暴れする絵が描かれていましたが、そうしたシーンは本編にはありませんでした。結構いい加減(笑)。

 ウルトラq 宇宙からの贈りもの2.jpgウルトラQ(第3話)/宇宙からの贈りもの tazaki.jpg「ウルトラQ(第3話)/宇宙からの贈りもの」●制作年:1964年●監督:円谷一●監修:円谷英二●制作:円谷英二●脚本:金城哲夫●撮影:内海正治●音楽:宮内国郎●特技監督:川上景司●出演:佐原健二/西條康彦/桜井浩子/江川宇礼雄/田島義文/加藤春哉/佐藤功一/岡部正/池田生二/田崎潤/(ノンクレジット)金城哲夫/(ナレーター)石坂浩二●放送:1966/01●放送局:TBS(評価:★★★☆)
田崎潤(宇宙開発局・坂本長官)


●「ウルトラQ」(全27話)制作順ラインアップ
放送回/制作順/脚本No./放送日(1966年)/サブタイトル/登場怪獣・宇宙人/脚本/特技監督/監督/視聴率
4/1/1/1966年1月23日/マンモスフラワー/巨大植物ジュラン/金城哲夫・梶田興治/川上景司/梶田興治 35.8%
22/2/2/5月29日/変身/変身人間 巨人・巨蝶モルフォ蝶/北沢杏子(原案:金城哲夫)/川上景司/梶田興治 26.9%
25/3/3/6月19日/悪魔ッ子/悪魔ッ子リリー/北沢杏子(原案:熊谷健)/川上景司/梶田興治 31.5%
3/5/5/1月16日/宇宙からの贈りもの/火星怪獣ナメゴン/金城哲夫/川上景司/円谷一 34.2%
12/6/7/3月20日/鳥を見た/古代怪鳥ラルゲユウス/山田正弘/川上景司/中川晴之助 32.6%
2/7/11/1月9日/五郎とゴロー/巨大猿ゴロー/金城哲夫/有川貞昌/円谷一 33.4%
17/8/9/4月24日/1/8計画/1/8人間/金城哲夫/有川貞昌/円谷一 31.7%
27/9/4/7月3日/206便消滅す/四次元怪獣トドラ/山浦弘靖・金城哲夫(原案:熊谷健)/川上景司/梶田興治 35.2%
8/10/10/2月20日/甘い蜜の恐怖/モグラ怪獣モングラー/金城哲夫/川上景司/梶田興治 38.5%
6/11/8/2月6日/育てよ!カメ/大ガメ ガメロン・万蛇怪獣怪竜、乙姫/山田正弘/小泉一/中川晴之助 31.2%
1/12/12/1966年1月2日/ゴメスを倒せ!/古代怪獣ゴメス・原始怪鳥リトラ/千束北男/小泉一/円谷一 32.2%
9/13/13/2月27日/クモ男爵/大グモ タランチュラ/金城哲夫/小泉一/円谷一 32.4%
5/14/15/1月30日/ペギラが来た!/冷凍怪獣ペギラ/山田正弘/川上景司/野長瀬三摩地 34.8%
14/15/16/4月3日/東京氷河期/冷凍怪獣ペギラ/山田正弘/川上景司/野長瀬三摩地 36.8%
11/16/17/3月13日/バルンガ/風船怪獣バルンガ/虎見邦男/川上景司/野長瀬三摩地 36.8%
13/17/27/3月27日/ガラダマ/隕石怪獣ガラモン/金城哲夫/的場徹/円谷一 35.7%
26/18/19/6月26日/燃えろ栄光/深海生物ピーター/千束北男/的場徹/満田かずほ 30.8%
21/19/18/5月22日/宇宙指令M774/キール星人・ルパーツ星人・宇宙エイ ボスタング/上原正三/的場徹/満田かずほ 30.9%
15/20/21/4月10日/カネゴンの繭/コイン怪獣カネゴン・カネゴン(両親)/山田正弘/的場徹/中川晴之助 28.5%
18/21/24/5月1日/虹の卵/地底怪獣パゴス/山田正弘/有川貞昌/飯島敏宏 28.9%
19/22/23/5月8日/2020年の挑戦/誘拐怪人ケムール人/金城哲夫・千束北男/有川貞昌/飯島敏宏 28.6%
23/23/14/6月5日/南海の怒り/大ダコ スダール/金城哲夫/的場徹/野長瀬三摩地 30.1%
20/24/26/5月15日/海底原人ラゴン/海底原人ラゴン・海底原人ラゴン(子)/山浦弘靖・大伴昌司・野長瀬三摩地/的場徹/野長瀬三摩地 34.0%
24/25/22/6月12日/ゴーガの像/貝獣ゴーガ/上原正三/的場徹/野長瀬三摩地 27.0%
16/26/28/4月17日/ガラモンの逆襲/隕石怪獣ガラモン・宇宙怪人セミ人間/金城哲夫/的場徹/野長瀬三摩地 31.2%
7/27/20/2月13日/SOS富士山/岩石怪獣ゴルゴス/金城哲夫・千束北男/的場徹/飯島敏宏 32.5%
10/28/25/3月6日/地底超特急西へ/人工生命Ⅿ1号/山浦弘靖・千束北男/的場徹/飯島敏宏 32.6%

(制作№4.)
28/4/6/1967年12月14日/あけてくれ!/異次元列車/小山内美江子/川上景司/円谷一 19.9%

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「ウルトラQ」の記念すべき第1話は二大怪獣の激突。
ゴメスを倒せ!3.jpg
DVD ウルトラQ VOL.1」古代怪獣ゴメス VS. 原始怪鳥リトラ
ゴメスを倒せ!6.jpg トンネル工事をするうちに反対側からのトンネルに行きあたった一作業員(大村千吉)が、突然「怪物を見た!」と叫び、狂気のようになった。洞窟の中には長さ1メートル半ぐらいの楕円形の塊が発見された。作業員たちは奇怪な物体に当惑し、すぐ調査を依頼することにした。しかし工事現場からの通報で現場にかけつけた学者たちにも皆目判らない物体だった。淳(佐原健二)、由利子(桜井浩子)、一平(西條康彦)の三人も取材に、現場にやって来ていた。困惑する人々、そのうちジロー(村岡順二)という科学好きな少年が「あれは古代のもので、たしかに、これと同じものをどこかで見た」といい出した。記憶をたどったジローが、70キロ離れたところの洞仙寺附近で見たというので、洞窟に入った淳と由利子を残して一平たちはジローとともに洞仙寺へ急いだ。寺の和尚(森野五郎)が見せてくれた一枚の絵、それはリトラとゴメスが闘っているものだった。この絵は裏山にある洞窟の中から発見したものだという。これによって例の物体がリトラのサナギであり、作業員の「ゴメスを倒せ!0.jpgみたという怪物はゴメスに間違いないことを知った一平たちは、淳たちのことを心配してすぐに引返した。その頃、洞窟に入った淳と由利子は、ゴメスに遭遇し、襲撃されていた。ゴメスが冬眠状態から生きかえったのだ。このゴメスを倒すには、宿的リトラに頼むほかはない。だが、リトラはさなぎから脱皮する気配も見せない。そうしているうちにも、淳たちの身に危険が迫るのだった―。(「ウルトラQ・あらすじ集」より)

ゴメスを倒せ!1.jpg '66(昭和41)年1月から7月まで27回にわたって放映された「ウルトラQ」の記念すべき第1話で、'66年1月2日放送。制作時期は'65(昭和40)年2月~3月で、制作No.12。放映に際して第1回にもってきたのは、リトラという二大怪獣の激突があり、派手さがあると見たのではないでしょうか。因みに「ウルトラQ」は'64年から'65年の間にシリーズ全話撮影を終えてから放送がスタートしています(これが「ウルトラマン」('66 年7月~'67年4月)になると、怪獣の作製が放送に追いつかなくなり、そのため高視聴率のまま番組終了となった)。

●「ウルトラQ」(全27話)放映ラインアップ
放送回/制作順/脚本No./放送日(1966年)/サブタイトル/登場怪獣・宇宙人/脚本/特技監督/監督/視聴率
1/12/12/1966年1月2日/ゴメスを倒せ!/古代怪獣ゴメス・原始怪鳥リトラ/千束北男/小泉一/円谷一 32.2%
2/7/11/1月9日/五郎とゴロー/巨大猿ゴロー/金城哲夫/有川貞昌/円谷一 33.4%
3/5/5/1月16日/宇宙からの贈りもの/火星怪獣ナメゴン/金城哲夫/川上景司/円谷一 34.2%
4/1/1/1月23日/マンモスフラワー/巨大植物ジュラン/金城哲夫・梶田興治/川上景司/梶田興治 35.8%
5/14/15/1月30日/ペギラが来た!/冷凍怪獣ペギラ/山田正弘/川上景司/野長瀬三摩地 34.8%
6/11/8/2月6日/育てよ!カメ/大ガメ ガメロン・万蛇怪獣怪竜、乙姫/山田正弘/小泉一/中川晴之助 31.2%
7/27/20/2月13日/SOS富士山/岩石怪獣ゴルゴス/金城哲夫・千束北男/的場徹/飯島敏宏 32.5%
8/10/10/2月20日/甘い蜜の恐怖/モグラ怪獣モングラー/金城哲夫/川上景司/梶田興治 38.5%
9/13/13/2月27日/クモ男爵/大グモ タランチュラ/金城哲夫/小泉一/円谷一 32.4%
10/28/25/3月6日/地底超特急西へ/人工生命Ⅿ1号/山浦弘靖・千束北男/的場徹/飯島敏宏 32.6%
11/16/17/3月13日/バルンガ/風船怪獣バルンガ/虎見邦男/川上景司/野長瀬三摩地 36.8%
12/6/7/3月20日/鳥を見た/古代怪鳥ラルゲユウス/山田正弘/川上景司/中川晴之助 32.6%
13/17/27/3月27日/ガラダマ/隕石怪獣ガラモン/金城哲夫/的場徹/円谷一 35.7%
14/15/16/4月3日/東京氷河期/冷凍怪獣ペギラ/山田正弘/川上景司/野長瀬三摩地 36.8%
15/20/21/4月10日/カネゴンの繭/コイン怪獣カネゴン・カネゴン(両親)/山田正弘/的場徹/中川晴之助 28.5%
16/26/28/4月17日/ガラモンの逆襲/隕石怪獣ガラモン・宇宙怪人セミ人間/金城哲夫/的場徹/野長瀬三摩地 31.2%
17/8/9/4月24日/1/8計画/1/8人間/金城哲夫/有川貞昌/円谷一 31.7%
18/21/24/5月1日/虹の卵/地底怪獣パゴス/山田正弘/有川貞昌/飯島敏宏 28.9%
19/22/23/5月8日/2020年の挑戦/誘拐怪人ケムール人/金城哲夫・千束北男/有川貞昌/飯島敏宏 28.6%
20/24/26/5月15日/海底原人ラゴン/海底原人ラゴン・海底原人ラゴン(子)/山浦弘靖・大伴昌司・野長瀬三摩地/的場徹/野長瀬三摩地 34.0%
21/19/18/5月22日/宇宙指令M774/キール星人・ルパーツ星人・宇宙エイ ボスタング/上原正三/的場徹/満田かずほ 30.9%
22/2/2/5月29日/変身/変身人間 巨人・巨蝶モルフォ蝶/北沢杏子(原案:金城哲夫)/川上景司/梶田興治 26.9%
23/23/14/6月5日/南海の怒り/大ダコ スダール/金城哲夫/的場徹/野長瀬三摩地 30.1%
24/25/22/6月12日/ゴーガの像/貝獣ゴーガ/上原正三/的場徹/野長瀬三摩地 27.0%
25/3/3/6月19日/悪魔ッ子/悪魔ッ子リリー/北沢杏子(原案:熊谷健)/川上景司/梶田興治 31.5%
26/18/19/6月26日/燃えろ栄光/深海生物ピーター/千束北男/的場徹/満田かずほ 30.8%
27/9/4/7月3日/206便消滅す/四次元怪獣トドラ/山浦弘靖・金城哲夫(原案:熊谷健)/川上景司/梶田興治 35.2%

「ゴメスを倒せ!}0.jpg 因みに、ゴメスは身長が10メートルという設定で、ゴメスの着ぐるみは「モスラ対ゴジラ」('64年/東宝)で制作されたゴジラを流用、リトラは「三大怪獣 地球最大の決戦」('64年/東宝)での操演用のラドンを使用し作られたたそうです。

 ゴメスは10メートルとそう大きくはないですが、両手の爪はビルや山を壊す威力があり、尻尾はダムを破壊できる力があるとのこと。古代の肉食性哺乳類で、牛を一度30頭食べる"大食い"で、長い間地中で眠っていたところを地殻変動で覚醒し、奥多摩の工事現場に現れたということのようです。

 リトラは身長5メートル、鳥類と爬虫類の中間的な古代生物で、大トカゲなどを捕食するが人間は食べないという変わった習性であり、大昔にゴメスと対決したことがあるらしく、そのことが金峯山洞仙寺の古文書に残っていたということのようです(古文書といっても、遡る年代の桁数が異なるようにも思うが(笑))。

「ゴメスを倒せ!」少年.jpg 怪獣オタク(?)のジロー少年が大活躍で、仕舞いにはリトアに「シトロネラアシッド(強力溶解液)を使うんだ!早く!」と指示している! 自分の弱点であるシトロネラ酸を喰らったゴメスは暴れ狂ったのち横転して息絶え、リトラの勝利に喜ぶジローだが、その直後、リトラも命を落とし、ゴメスの亡骸に覆いかぶさる―つまり、シトロネラアシッドはリトア自身の命を削る最後の武器でもあったということで、まあ、リトアだけ生き残っても、現代に餌となる大トカゲもいないわけで、このあたりはうまく出来ているという感じでしょうか。

「ゴメスを倒せ!」横.jpg でも、この頃の怪獣はそう大きくはないとは言え、二頭も一度に斃れたら、映画「大怪獣のあとしまつ」('22年/東映・東宝)ではないですが、"あとしまつ"たいへんだろうなあ。

「ウルトラQ(第1話)/ゴメスを倒せ!」●制作年:1965年●監督:円谷一●監修:円谷英二●脚本:千束北男●撮影:内海正治●音楽:宮内国郎●特技監督:小泉一●出演:佐原健二/西條康彦/桜井浩子/田島義文/富田仲次郎/山本廉/大林千吉/森野五郎/村岡順二/関田裕/山田圭介/勝本圭一郎/(ナレーター)石坂浩二●放送:1966/01/02●放送局:TBS(評価:★★★☆)

【3180】 樋口 真嗣 「シン・ウルトラマン」(2022/05 東宝)
「シン・ウルトラマン」ゴメス.jpg

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ウルトラマンに登場した最強の相手の1つメフィラス星人(単なる怪しいオッさんのようなキャラにも思えるが)。
「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」00.jpg「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」図3.jpg
悪質宇宙人メフィラス星人/誘拐怪人ケムール人(二代目)/凶悪宇宙人ザラブ星人(二代目)/宇宙忍者バルタン星人(三代目)/[下]巨大フジ隊員

「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」01.jpg0巨大フジ隊員.jpg 航空ショーの見学に来たハヤタ・フジ・フジ隊員の弟サトル(川田勝明)。メフィラス星人が突如現れ、人間代表としてフジ・アキコ隊員の弟であるサトルを誘拐。地球を売り渡す承諾の言葉を要求し、あの手この手でサトルを拷問する。しかし、交渉は決裂し、業を煮やしたメフィラスはサトルを閉じ込め、フジ隊員を巨大化させて街中で暴れさせる。さらに、ケムール人、バルタン星人、ザラブ星人を突如都心に出現させ、自らの力を人類に見せつける。サトルと共に円盤に閉じ込められていたハヤタ隊員は事態を見て変身しようとするも、メフィラスに動きを止められてしまう。しかし、メフィラスの宇宙船が爆発し、その衝撃でベーターカプセルのスイッチが入り何とか変身、ウルトラマンはメフィラス星人と激しい戦いを繰り広げるが―。

「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」02.jpg 「ウルトラマン」の第33話で、'66年7月24日放映。監督は鈴木俊継、脚本は金城哲夫。メフィラス星人初登場の巻ですが(後に「ウルトラマンタロウ」(73年)、「ウルトラマンメビウス」('07年)などにも登場)、「悪質宇宙人メフィラス星人」という呼称も凄いけれども、「誘拐怪人ケムール人(二代目)」「凶悪宇宙人ザラブ星人(二代目)」「宇宙忍者バルタン星人(三代目)」を配下に置いているというのがまた凄く、相当の実力者?(知能指数1万以上、ウルトラマンと同等以上の能力を持つと言われ、様々な超能力を発揮し、反重力光線やテレポート能力を有する。科学捜査隊のフジ・アキコ隊員を巨大化させて暴れせた)。

「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」03.jpg ウルトラマンとの戦いでは、両手から放つ光線でウルトラマンの技を防ぎ、肉弾戦でも互角。このようにタフでありながらも知能は高く、暴力を嫌う紳士を自称しており、力づくによる地球制服ではなく、人間の心に挑戦して説得による地球制服を「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」04.jpg図ろうとします。しかし、その交渉相手にサトル少年を選び、「永遠の命を与える」「星の王子にする」などの甘言や、拷問によって「あなたに地球をあげます」と言わせようと画策しているところが可笑しいです(この「地球あげます」が禁じられた言葉ということのようだ)。

結局、その後ウルトラマンと戦いを繰り広げるも、「地球人の心に敗北した」ことを認め、いつか再び地球制服に挑戦することを宣言して去っていきます。ラストは以下のような感じ...。

 「よそう......、宇宙人同士戦ってもしようがない」
  私が欲しいのは地球の心だった。
  だが、私は負けた。子供にすら負けてしまった。
  しかし、私は諦めたわけではない。
  いつか私に地球を売り渡す人間が必ずいるはずだ。
  必ず来るぞ! はっはっはっ!」

「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」10.jpg 高知能指数の宇宙人と言うより、子どもをたぶらかそうとするどこかの単なる怪しいオッさんのようなキャラにも思えますが、初代ウルトラマンに登場した最強の相手の1つと言え、地球侵略を企みながら、ウルトラマンに倒されることなく生き延びた稀有な存在でした。

DVD ウルトラマン VOL.9
「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」 196702.jpg「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉」●制作年:1967年●監督:鈴木俊継●脚本:金城哲夫●特殊技術:高野宏一●音楽:宮内国郎●時間:30分●出演:小林昭二/黒部進/石井伊吉(毒蝮三太夫)/二瓶正也/桜井浩子/津沢彰秀/(ゲスト出演)伊藤久哉/川田勝明/中島春雄/岩本弘司/(声)加藤精三(ノンクレジット)/(スーツアクター)古谷敏/扇幸二/中島春雄/渡辺白洋児(ナレーター)石坂浩二●放送局:TBS●放送日:1967/02/26)●放送局:TBS●最初に観た場所(再見):TOHOシネマズ上野(スクリーン5)(22-07-12)(評価:★★★☆)●併映:「シン・ウルトラマン」(樋口真嗣)
【3180】 樋口 真嗣 「シン・ウルトラマン」(2022/05 東宝) メフィラス星人
シン・ウルトラマン_poster04 - コピー.jpg シン・ウルトラマン 02.jpg 

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強烈な印象を残したバルタン星人の初登場回。移民問題を想起させるような内容。

『ウルトラマン』Episode 2.jpg「ウルトラQ第5話ペギラが来た!t.jpg 「ウルトラマン(2話)/侵略者を撃て」b.gif.jpg 「ウルトラマン(2話)/侵略者を撃て」bb.gif.jpg
ULTRAMAN ARCHIVES『ウルトラマン』Episode 2「侵略者を撃て」Blu-ray&DVD」」 宇宙忍者バルタン星人

「ウルトラマン(2話)/侵略者を撃て」8.gif 東京上空に強力な電波を発する飛行物体が出現するが、御殿山の科学センター付近で突如信号が途絶える。科学特捜隊のアラシ隊員(石井伊吉)が現場へ急行すると、そこで発見したのは何かの力によって全く動かなくなった科学センターの職員たちであった。そしてアラシ隊員も、待ち伏せていたバルタン星人が放つ光線によって仮死状態にさせられてしまう。対話を試みた科学特捜隊は、バルタン星人らが宇宙旅行中に母星を失い宇宙船の修理のために立ち寄ったという事実を聞かされる。そして彼らは地球が自分たちの住み良い惑星だと確認し、総移住を強行しようとする。その人口の数なんと"20億3000万"―。

 「ウルトラマン」の第2話で、'66年7月24日放映(制作№は1)。監督は飯島敏宏、脚本は千束北男(飯島敏宏の脚本家としてのペンネーム)。セミに似た顔とザリガニのような大きいハサミ状の両手を持ち、高度な知能を備えた直立二足歩行の異星人―バルタン星人が強烈な印象を残した初登場回。

 バルタン星人が地球を訪れた当初の目的は侵略ではなく、故障した宇宙船の修理のためだったようで、自分たちの故郷であるバルタン星が発狂した科学者の行った核実験で壊滅したため、たまたま宇宙船で旅行中だった20億3,000万人のバルタン星人が故郷を失って難民となり、身体をバクテリア大にまで縮小して放浪の旅を続けて、やがて発見した地球で宇宙船を修理しようと飛来し、現地を気に入ったということのようです。

 因みに、バルタン星人の名前の由来は、「母星が兵器開発競争によって滅んだため、移住先を求めて地球にやってきた」という設定を、ヨーロッパの火薬庫といわれて紛争の絶えなかったバルカン半島に重ねているとされているそうです(地球人が地球の地名から名付けたということか)。

「ウルトラマン(2話)/侵略者を撃て」9 (1).jpg このバルタン星人の来訪はまさに移民問題を想起させるような内容になっていて、「地球に移住することにした」と宣言するバルタン星人に対しハヤタ隊員は「人類の民俗や風習に馴染み、法律を守るなら良いだろう」と答えます。勝手に承諾してしまっていいのかなというのはありますが、ハヤタ隊員=ウルトラマン=神ですからいいのでしょう(笑)。

 しかし、結局バルタン星人は力で人類を制圧しようとしウルトラマンによって撃退されてしまいます。しかしながら、視聴者に残した印象が強烈だったのか、「ウルトラマン(第16話)/科特隊宇宙へ」で二代目バルタン星人が登場、ウルトラマンによって壊滅的な被害を受けたが何とか生き延びた一部のバルタン星人たちが、太陽系に存在すると言われているR惑星に漂着し、地球侵略との機会を窺っていたという設定でした。さらに、「ウルトラマン(第33話)/禁じられた言葉へ」で三代目バルタン星人が登場、その後も数多くのウルトラシリーズに登場しています。

「「ウルトラマン(第2話)/侵略者を撃て」.jpg

「ウルトラマン(2話)/侵略者を撃て」f.gif.jpg「ウルトラマン(第2話)/侵略者を撃て」●制作年:1966年●監督:飯島敏宏●脚本:千束北男(飯島敏宏)●特殊技術:的場徹●音楽:宮内国郎●時間:30分●出演:小林昭二/黒部進/石井伊吉(毒蝮三太夫)/二瓶正也/桜井浩子/津沢彰秀/(ゲスト出演)藤田進/飯田覚三/幸田宗丸/緒方燐作/(スーツアクター)古谷敏/佐藤武志/(ナレーター)石坂浩二●放送局:TBS●放送日:1966/07/24(評価:★★★☆)●放送局:TBS(評価:★★★☆)
藤田進(防衛隊幕僚長)

ウルトラマン 1966.jpg「ウルトラマン」title.jpg桜井浩子.jpg「ウルトラマン」●演出:円谷一ほか●監修:円谷英二●制作:円谷特技プロダクション●脚本:金城哲夫ほか●音楽:宮内国郎●出演:小林昭二/黒部進/石井伊吉(毒蝮三太夫)/二瓶正也/桜井浩子/平田昭彦/津沢彰秀●放映:1966/07~1967/04(全39回)●放送局:TBS

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ミクロ化して少女(松坂慶子)の体内で怪獣と闘うセブン。「ミクロの決死圏」への挑戦。

31話 悪魔の住む花 t3.jpg
「ウルトラセブン(第31話)/悪魔の住む花」細菌怪獣ダリー 松坂慶子(当時15歳)

31話 悪魔の住む花 t1.jpg31話 悪魔の住む花.jpg 花畑を楽しむ3人の女学生。そのうちの一人香織(松坂慶子)が見たこともないような花びらをじっくり観察しているうちに、気を失ってしまう。香織は特殊な血液型で、同じ血液型のアマギ隊員(古谷敏)が協力。何の病気かは不明で、異常に血小板が減っているとのこと。その夜、看護師は香織が病室にいないのに気づき、みんなで探すことに。アマギが地下室で香織を見つけたかと思うと、殴られて気絶してしまう。地下には輸血用の血液が保管されていて、アマギの首には香織に血を吸われたらしき跡が残されていた。香織の持っていた花びらのようなものは宇宙細菌ダリーで、血液を吸う細菌だった。しかし、現代の医学では香織を治す方法がない。見張っていたにもかかわらず、再び香織は病室から姿を消してしまう―。

 「ウルトラセブン」の第31話で、'68年5月5日放映。監督は鈴木俊継、脚本は上原正三。

 ダンは香織を救うため、ウルトラセブンに変身してミクロ化して香織の体内に入り、細菌怪獣ダリーを倒すことを決意しますが、人間の体内はセブンにとって危険な未知の世界であるものの、香織を救う方法は他になかったということのようです。
  
「ミクロの決死圏」('66年/米)
ミクロの決死圏.jpg このダン=ウルトラセブンの決心は、このシリーズが「ミクロ」の世界に初めて挑戦したことと重なってます。意識したのは本作の2年前に公開されたリチャード・フライシャー監督の「ミクロの決死圏」('66年/米)であり、そのことは、細菌怪獣の「ダリー」という名が、「ミクロの決死圏」が日本で紹介される際「サルバドール・ダリが美術を担当」と記述されることが多かったことに由来しているようです(実際にはサルバドール・ダリはこの映画には関係していない)。円谷プロの「ミクロの決死圏」への挑戦ともとれるかと思います。

松坂慶子 ウルトラセブン1.jpg あと、当時15歳の松坂慶子が香織役で出ているのも見どころかもしれません。古谷敏が演じるアマギ隊員は香織のことを好きになったみたいですが、確かにこの頃の松坂慶子は美少女です。

 ストーリー的にはたいしたことなく、メリーゴーランドに香織とアマギ隊員が仲良く乗っているシーンで、一体誰がメリーゴーランドを動かしたのか分からないし、細菌怪獣の「ダリー」も、細菌怪獣と呼ぶにしては完全にダニのような節足動物の姿をしているし(「ダニー」の間違いかと思った(笑))、といった突っ込みどころは多いのですが、「ミクロの決死圏」に挑戦していることを買い、さらに松坂慶子の貴重映像?との合わせ技で一応○としました。

「ウルトラセブン(第31話)/悪魔の住む花」●制作年:1968年●監督:鈴木俊継●脚本:上原正三●音楽:冬木透●特殊技術:的場徹●時間:30分●出演:森次浩司(森次晃嗣)/菱見百合子(ひし美ゆり子)/中山昭二/石井伊吉(毒蝮三太夫)/阿知波信介/古谷敏/松坂慶子/伊藤実●放送局:TBS●放送日:1968/05/05(評価:★★★☆)

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米ソ冷戦を色濃く反映させたエピソード。「ウルトラQ/ペギラが来た!」にも出ていた田村奈巳。
26話「超兵器R1号」t.jpg 26話「超兵器R1号」t2.jpg 26話「超兵器R1号」last.jpg
「ウルトラセブン(第26話)/超兵器R1号」再生怪獣ギエロン星獣 森次浩司/佐原健二/田村奈巳

26話「超兵器R1号」10.jpg 地球防衛軍はタケナカ参謀(佐原健二)のもと瀬川博士(向井淳一郎)と前野律子博士(田村奈巳)で新型水爆8000個分の威力を持つ惑星攻撃用超兵器R1号を完成させる。ダン(森次浩司)は兵器の開発には反対で、実験の中止を希望している。兵器をテストするために、前野博士は生物がいないと見られるギエロン星を選ぶ。実験は成功し、ギエロン星は爆破されてしまう。悲しい面持ちで見ていたダンは宇宙パトロールへ出発する。その頃、基地に宇宙観測艇から、ギエロン星から攻撃を受けたと連絡が入る。ギエロン星の怪物が地球に向かっていて、ホーク1号に乗ったダンとフルハシ(石井伊吉)が現場へ。基地では博士達が話し合っていて、ギエロン星には生物がいて、R1号の攻撃で変異したらしいと言っている。ホーク3号が地球に降り立ったギエロン星人にミサイルを発射し、爆死したかのように見えたのだが―。

 「ウルトラセブン」の第26話で、'68年3月31日放映。監督は鈴木俊継、脚本は若槻文三。

 地球人が打ち上げた超兵器を宇宙で実験し、それは何事もなく成功したように思えたプロジェクトには大きな欠陥があり、その星には生物が生息しており、結果的に復讐の使者「ギエロン星獣」が地球に飛来することになったということです。

 これは当時の米ソ冷戦を色濃く反映しているのは間違いなく、超兵器R1号は核爆弾の象徴でしょう。金星に似た生物の住めないような星でR1号の事件をしたら、そこには星人がいたという(ギエロン星人がギエロン星獣になったということか)、ちょうど核実験をやったらそこに漁船がいたという、1946年のアメリカによる戦後の最初の核実験(初回は原子爆弾実験)と「第五福竜丸」の悲劇をも想起させるものとなっています。

26話「超兵器R1号」6.jpg ウルトラホーク3号に搭載した新型ミサイルによる攻撃でギエロン星獣の体はバラバラになり、全ては終わったかと思いきや、夜になるとバラバラになっていた体が集結してギエロン星獣は復活(だから「再生怪獣」)、放射能をまき散らしながらより強靭になっていて、ウルトラホーク1号、3号からのミサイル攻撃も効果は無く、星獣はウルトラセブンセブンのアイスラッガーさえも跳ね返してしまいます(それでも、セブンは星獣の片翼をもぎとり、手に持ったアイスラッガーで喉元を斬ってなんとか星獣を倒す。結構、原始的)。

 ギエロン星獣の最期も含め、作品全体にどんよりとした空気が流れる作品ですが、実験を積極的に進めていた前野律子博士らが最後自らの考えを改めることが救いでしょうか。核軍縮へのメッセージと言えますが、子供向け番組でそうした平和に向けたメッセージをかなり強く打ち出している点が特徴的であり、それはシリーズ全体についても言えることかもしれません。

26話「超兵器R1号」田村.jpg5話)/ペギラが来た!図3.jpg 前野律子博士を演じた田村奈巳(1942年生まれ)は、「ウルトラQ(第5話)ペギラが来た!」('66年)で南極基地越冬隊員・久原羊子役、「ウルトラマン(第35話)怪獣墓場」('67年)で月ロケットセンター所員役でも出ており、近年は露出が減りましたが、岡本喜八監督の「助太刀屋助六」('01年/東宝)に1カット出ていました。

「ウルトラQ(第5話)ペギラが来た!」田村奈巳(南極基地越冬隊員・久原羊子)
「ぺギラが来た」田村奈巳.jpg 「ウルトラQ(第5話)ペギラが来た!」('66年1月30日放送)は―
 南極観測隊を乗せた観測船が、夏季というのに吹雪におそわれ、外気氷点下100度の寒冷に見舞われて立往生する。先に派遣されて行方不明になった野村隊員のメモによると、同じ様な寒波におそわれた直後何かを見つけて外へ出たらしく「またきたペギラ」と文章を結んでいた。ペギラとは何か? 万城目淳(佐原健二)は野村のメモをたよりに、ペギラを調査するために、みんなが寝静まった時に出かけようとした。だが、女性隊員、久原羊子(田村奈巳)がその時同じように忍んで来た。彼女は野村隊員の許婚者で、彼の消息を調べたくて観測隊に同行したのだ。次の瞬間、突然、強風と「ぺギラが来た」3.jpgともに雪上車が空中に舞い上がり、無気味なうなり声が辺りにひびきわたった。そこへ、表へ出でいた伊東隊員(伊吹徹)が、氷づけになったように転がり込んで来て、「怪物を見た」「クレパスで野村隊員をみつけた」と虚ろに叫んだ。淳はすぐにそのクレパスに向かうと、そこへペンギン状の化物が白い息をはきながら現われた―。

「ぺギラが来た」ct.jpg 個人的感想は、まず単なる一パイロットに過ぎない万城目がなぜ行方不明の南極観測隊員の捜索をしなくてはいけないのか、その辺りが引っ掛かったのと、その後のストーリー展開ものったりしていて、南極のセットだけで費用をかけすたのか、未知の生物に襲撃されて南極基地がパニックになるということにもならず、イマイチでした(カラー版で今観ると、田村奈巳の美貌が数少ない見どころの1つか)。ただし、このペギラは、同じウルトラQの第14話「東京氷河期」で再登場し、こちらの方はまずまずでした。

「超兵器r1号」.jpg0超兵器R1号.jpg「ウルトラセブン(第26話)/超兵器R1号」●制作年:1968年●監督:鈴木俊継●脚本:金城哲夫●音楽:冬木透●特殊技術:的場徹●時間:30分●出演:森次浩司(森次晃嗣)/菱見百合子(ひし美ゆり子)/中山昭二/石井伊吉(毒蝮三太夫)/阿知波信介/古谷敏/佐原健二/田村奈巳/向井淳一郎●放送局:TBS●放送日:1968/03/31(評価:★★★☆)

  
「ウルトラQ(第5話)/ペギラが来た!」●制作年:1965年●監督:野長瀬三摩地●監修:円谷英二●制作:円谷英二●脚本:山田正「ぺギラが来た」mt.jpg「ぺギラが来た」ものくろ.jpg弘●撮影:内海正治●音楽:宮内国郎●特技監督:川上景司●出演:佐原健二/田村奈己(田村奈巳)/松本克平/森山周一郎/伊吹徹/黒木順/石島房太郎/岡豊/今井和雄/石坂浩二(ナレーター)●放送日:1966/01/30●放送局:TBS(評価:★★★)
「ペギラが来た」21.jpg  

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