Recently in 矢幡 洋 Category

「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2771】 ロナルド・A・ハイフェッツ/他 『最前線のリーダーシップ
「●精神医学」の インデックッスへ 「●や 矢幡 洋」の インデックッスへ 「●PHP新書」の インデックッスへ

問題上司、問題部下をパーソナリティ障害という観点から分類。読み物としては面白いが...。

困った上司、はた迷惑な部下2.jpg困った上司、はた迷惑な部下.jpg困った上司、はた迷惑な部下 組織にはびこるパーソナリティ障害 (PHP新書)』['07年]

『困った上司、はた迷惑な部下』.jpg 職場にはびこる問題上司、問題部下を、パーソナリティ障害という観点から分類し、それぞれが上司である場合の対処法、部下である場合の扱い方を、それぞれ指南していて、分類は、各章ごとに次のようになっています。
 第1章 もっか増殖中の困った人びと(自己愛性、演技性、依存性)
 第2章 はた迷惑な攻撃系の人びと(反社会性、サディスト、拒絶性)
 第3章 パッとしない弱気な人びと(抑鬱性、自虐性、強迫性)
 第4章 意外な力を発揮する人びと(シゾイド性、回避性、中心性)
 第5章 やっぱり困った人びと(境界性、妄想性、失調型)

 現在の人格障害の国際基準は、DSMⅣの10分類ですが、本書では、DSMを監修したセオドア・ミロンが当初提唱した4カテゴリー(サディスト、自虐性、拒絶性、抑鬱性)を加え、更に「中心性」気質を加えており、これは大体この著者が用いる分類方法です。

 各性格の特徴は簡潔に述べるにとどめ、「俺に任せとけ」と調子のいいことを言い、その場限りに終わる演技性上司に対する対処法や、上司の言うことなら何でも聞いてしまう依存性部下の扱い方など、読み物として、まあまあ面白し、読む側にカタルシス効果もあるかも知れません(著者自身、自らの過去の職場での鬱憤を晴らすような感じで書いてる)。
 ただ、例えば、大物ぶって敬遠される自己愛性上司には、遠巻きにして勝手に歌わせておくか、おべっか言ってとりまきになるか、おだてて神輿に乗ってもらうかなどすればいいといった感じで、対応が何通りも示されている分、結局、どれを選べばいいのか?と思わせる箇所も。

 著者は最初、良心をかなぐり捨て、「読んだ人だけ得をしてください」というスタンスで本書を書いていたところ(サディスト的部下は、派閥争いの戦闘要員として使え、などは、確かにマキャベリズム的ではある)、初稿を見た編集者から「どういうタイプの性格にも長所がある、というメッセージが伝わってくる」と言われたとのこと。

 個人的にはむしろ、書かれているようにうまく事が運ぶかなあという気もしました。実際、うまく事が運ぶならば、「人格障害」と呼ぶほどのものでも無かったのでは...とか思ったりして。
 著者もあとがきでも述べているように、「人格障害未満」の人も含まれていて、先にビジネスパーソンの行動パターンありきで、そこに「人格障害」の類型を"類推"適用したような感じもあります("拡大"適用とも言える)。

 その結果でもあるのでしょうが、やはり15分類というのは多過ぎるような気もし、自分が人格障害に関する本を読んでいた流れで本書を手にしたこともあり、「人格障害」とはどういうものかをもう少しキッチリ知りたければ、同じPHP新書の『パーソナリティ障害-いかに接し、どう克服するか』(岡田尊司著/'04年)などの方が、内容的にはしっかりしているように思います。

「●精神医学」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【879】 柴山 雅俊 『解離性障害
「●心理学」の インデックッスへ 「●や 矢幡 洋」の インデックッスへ

「サディスティック・パーソナリティ障害」についての知識面で得るところがあった。

サディスティックな人格―身のまわりにいるちょっとアブナイ人の心理学.jpg サディスティックな人格―.jpg  Theodore Millon.jpg Dr. Theodore Millon
サディスティックな人格―身のまわりにいるちょっとアブナイ人の心理学』 ['04年] 

Disorders of Personality DSM-IV and Beyond.jpg やたらキレて部下に怒鳴り散らす、或いは延々と小一時間ばかりも(それぐらいで済めばまだいい方)説教する"クセ"がある人を職場で見たことがありますが、自信家で実際に仕事は出来て押し出しも強いので、要職を歴任している、しかし、行く先々の部署で部下は次々と辞めていき、そして最後は自分も辞めざるを得なくなったのですが、「役員候補なのにもったいなかった」と見る人もいれば、「もともと病気(癪)持ちなんだ」と見る人もいて、本書を読んで、あれは"クセ"とか"病気"とか言うより、「人格障害」だったのかなあと。

 本書は、臨床心理士である著者が、「サディスティック・パーソナリティ障害」「受動攻撃性パーソナリティ障害」について書いた本で、これらは、著者が日本に紹介している、人格障害理論の世界的権威で元ハーバード大学精神医学教授のセオドア・ミロン(Theodore Millon、米国精神医学会の診断基準DSM-IIIにおける人格障害部門の原案作成者)がパーソナリティ障害の類型とした14のタイプに含まれるものですが、当初、DSMに入っていたものが、DSM-IV以降、削られているとのこと。本書では、ミロンの著書(『パーソナリティ障害-DSM-IVとそれを超えて』) などをベースに、この2つの性格障害について、例を挙げながら解説しています。 "Disorders of Personality: Dsm-IV and Beyond (Wiley-Interscience Publication)"

 個人的には、「サディスティック・パーソナリティ障害」は「自己愛性パーソナリティ障害」の攻撃が外に向かうタイプと変わらず、それが、DSMから削られた理由だと思っていましたが、本書を読んで、やはり違うなと(ミロンは、「反社会性パーソナリティ障害」に近いものとしているが、実際、本によっては、「自己愛性」とグループ化しているものもある)。
山口美江0.jpg 冒頭で著者によって取り上げられているタレント(山口美江(1960-2012/享年51))などは、言われてみれば確かにミロンが、「サディスティック・パーソナリティ障害」のサブタイプの1つに挙げている「キレるサディスト-癇癪持ち」にピッタリ嵌まります(ような気がする)。
 ミロンはその他に、暴君系サディスト、警官役サディスト"など幾つかのサブタイプを挙げていますが、こうして見ると、権威や権力志向に直結し易い分、職場においてはかなりやっかいなタイプだなあと思いました。

 一方、「受動攻撃性」というのは、これもまた難物で、表れ方としては、すね者であったり天邪鬼であったりするのですが、受身でいながら主体性を実感したいというのが根底にあるとのこと、但し、本書を読んでも、「サディスティック・パーソナリティ障害」ほどは明確に性格障害としてのイメージが掴みにくく、むしろ、対人心理学のテーマであるような気も正直しました(ミロン自身が、精神医学ではなく臨床心理学の出身)。

 「予備知識が無くても読めるアカデミックなもの」から、完全に「一般読者向けのもの」へと、執筆途中で方針転換したとのことで、個人的には「サディスティック・パーソナリティ障害」について得るところがあり、海外の専門書を平易に解説してくれているのは有難いが、使い回しの内容もある割には価格(2,100円)が少し高いのでは? この後、同じテーマで新書なども書いているので、そちらと見比べて購入を決めた方がいいです。

 因みに、著者が講師を勤めたの最近の市民講座(ウェブ講座)におけるパーソナリティ障害の講義では、ミロンのパーソナリティ分類から11個を選び、元東大学医学部助教授の安永浩が提案した性格類型である「中心気質」を加え、下記の12個を解説していますが、こうなると、先生ごとに分類の仕方は異なってくるということか...。

 ① 自己愛性 (プライドが高く理想を追うお殿様な人たち)
 ② 依存性 (自信がなく他人に助けてもらうために調子を合わせる)
 ③ 自虐性 (禁欲的でまじめだが苦労ぶりをアピールする一面も)
 ④ 加虐性 (自信家で競争心の強い仕切りたがり屋)
 ⑤ 強迫性 (手抜きをしない完璧主義者だが慎重過ぎ柔軟性に欠ける)
 ⑥ 演技性 (社交的な目立ちたがり屋、ノリはいいが計画性・ポリシー欠如)
 ⑦ 反社会性 (自主独立の改革者にもなりうるが既存のルールを軽視しがち)
 ⑧ 回避性 (繊細だが対人関係に過敏、内面に閉じこもる)
 ⑨ 中心気質 (熱中人間、飾り気がなく素朴で小技に乏しい)
 ⑩ シゾイド性 (物静かで社交嫌い、観念活動を好む)
 ⑪ 拒絶性 (自尊心はあるが周囲に逆らうあまのじゃく)
 ⑫ 抑うつ性 (安全志向だが悲観的でめげやすい)

《読書MEMO》
●章立て
 第1部 サディスティック・パーソナリティ障害
 第1章 サディスティック・パーソナリティとの出会い
 第2章 サディスティック・パーソナリティはどうつくられるのか
 第3章 サディスティック・パーソナリティの基本的特徴
    3.1 まわりの人は落ち着けない
    3.2 威嚇的な対人関係
    3.3 視野の狭い主義主張をふりかざす
    3.4 サディストの自己イメージは「ファイター」
    3.5 他人はみんな「狼」
    3.6 相手を傷つけても罪悪感を免れる心理テクニック
    3.7 攻撃性が強すぎて不安定
    3.8 感情が沈みこむことはなく、常に興奮と苛立ちに満ちている
 第4章 サディスティック・パーソナリティの六タイプ
    4.1 キレるサディスト
    4.2 暴君系サディスト
    4.3 警察役サディスト
    4.4 臆病サディスト
    4.5 自己抑制的なサディスト
    4.6 マゾヒスティックなサディスト
    4.7 ノーマルなサディスト
    4.8 サディスティック・パーソナリティと他のパーソナリティ障害との違い
 第5章 【応用編】長崎女児殺害事件とサディスティック・パーソナリティ
第2部 受動攻撃性パーソナリティ障害
 第6章 受動攻撃性パーソナリティとは何か
 第7章 受動攻撃性パーソナリティはどうつくられるのか
 第8章 受動攻撃性パーソナリティの基本的特徴
    8.1 憤慨を露わにする
    8.2 へそ曲がりな対人行動
    8.3 斜に構えた現実認識
    8.4 「不遇な人生」という自己規定
    8.5 揺らぎと迷いに満ちた心的活動
    8.6 代用的な発散によってしか心理的バランスがとれない
    8.7 休む間もない不安定さ
    8.8 苛立ちやすさ
 第9章 受動攻撃性パーソナリティの四タイプ
    9.1 サボタージュ・タイプ
    9.2 当り散らすタイプ
    9.3 評論家タイプ
    9.4 不安定タイプ
    9.5 ノーマルな受動攻撃性パーソナリティ
 第10章 【応用編】綿矢りさ『蹴りたい背中』と受動攻撃性パーソナリティ

「●犯罪・事件」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2312】 清水 潔 『遺言―桶川ストーカー殺人事件の深層』
「●や 矢幡 洋」の インデックッスへ

臨床心理士が検証する「毒物宅配事件」。鬱病患者の心の苦しみに迫る。

Dr.キリコの贈り物.jpg 『Dr.キリコの贈り物』〔'99年〕 草壁の自宅を家宅捜索する捜査官.jpg「草壁」の自宅を家宅捜索する捜査官 [共同通信社]

 '98年12月に杉並区で起きた女性の自殺事件が、宅配便で送られてきた青酸カリを使用したものだったこと、送り主の札幌在住の「草壁竜次」と名乗る27歳の男性も自殺し、2人がインターネットの自殺志願者の集う掲示板で接点があったことなどが判明、当初は"自殺系サイト"で毒物を匿名販売する悪質なネット犯罪とされたが、この「毒物宅配事件」に対し、事件後「青酸カリはお守りだった」と新聞紙上で語った女性が現れ、マスコミの論調も変化する―。

 本書は、この木島彩子という女性の電子メールやネット掲示板への書き込みを中心にノンフィクション小説風に構成されていて、彼女が鬱を病み、自らホームページを開設して心中相手を探したこと、そして、草壁竜次が"自殺系サイト"に毒薬の専門知識を提供し「その量では死ねない」と書いて掲示板から追放されたのを知り、自身のサイトで「ドクター・キリコの診察室」という掲示板を任せた経緯などが書かれています。

 著者はジャーナリストではなく臨床心理士ですが、彩子自身と草壁竜次、更には彩子の心中相手として応募してきた家庭内暴力によるPTSDの女性とのやりとりも含め、3人の鬱病患者が自殺に惹かれるようになる経緯と、死に対するスタンスの違いや変化をリアルに浮き彫りにしています(守秘義務の遵守を小説風に描くという方法論に旨く転嫁させているともとれる)。

 彩子は自殺を敢行しようとするが、草壁はそれを止めることなく彩子に毒薬を贈る(但し、使用せず保管するに留めるという条件付きで)、そして、彩子が結局は自殺に至らなかったことを聞き大喜びする。毒薬が贈られてきた時点では、草壁の真意を測りかねていた彩子だったが―。

 著者は終章の事件分析において、Dr.キリコこと草壁竜次の行為が一種のセラピー的構造を持っていたという位置づけが可能であるとし、但し、そのリスクの大きさから心理療法としては評価できないとしていますが、それは当然の見解でしょう。

 すべての心理療法にはリスクの部分、賭けの要素が伴うことも著者は認めていますが、「お守りとしての青酸カリ」という草壁竜次の考えは、失敗した場合の「自死」という"責任"の取り方も含め、彼固有の観念に基づくもの。

 ただ、彼が毒薬を送ったのは、心療内科などに通院しても鬱が改善されない人に対してだけあり(彼自身がそうだった)、本書は、そうした鬱病患者の心の苦しみに十二分に迫る内容の本であることは間違いないと思います。

「●カウンセリング全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【192】 平木 典子 『カウンセリングの話
「●や 矢幡 洋」の インデックッスへ 「●ちくま新書」の インデックッスへ

「原因究明」型のトラウマ理論より「解決志向」を説く。

立ち直るための心理療法.jpg  『立ち直るための心理療法』ちくま新書 〔'02年〕 矢幡 洋1.jpg 矢幡洋 氏 (臨床心理士)

ca_img01.jpg 本書ではまず、「心の病気」を、
 1.精神病(うつ病・精神分裂病)
 2.心身症
 3.神経症
 4.依存症
 5.適応上の問題
 の5つに区部し、それぞれについてわかりやすく解説しています(この区分はほぼ国際的な基準に沿ったものである)。例えば神経症の解説についても、「森田神経症」や「退却神経症」などもフォローするなど、行き届いた感じがしました。
 さらに、それらに該当する場合、「精神科医」に診てもらうべきか、「カウンセラー」に診てもらうべきかを述べていますので、専門家の支援が必要な人にとっては良い"助け"になるかと思います。またそれは、カウンセラーにとっても、同じことが言えるかもしれません。

 最近は「心の病気」を「アダルト・チルドレン」や「PTSD」といった概念で説明することが流行っていますが、著者はこうしたトラウマ理論はぶっとばせ!と言っています。こうした"原因究明"は治療とは直結せず、新たな問題を増やす恐れさえあるという著者の言説には、説得力を感じます。どうやって「立ち直る」かが問題なのだと―。

 この考え方は、後半部分の心理療法の実際についての説明にも表れていて、「解決志向セラピー」や「ナラティブ・セラピー」というものに代表される「ポストモダンセラピー」に、特に頁を割いて説明しています。この他にも、諸外国で行われているセラピーを紹介していますが、大方が自らの体験に基づいた記述なので、どのようなものかをイメージしやすいと思います。

 著者は精神科医ではなく臨床心理士ですが、精神病院や精神科クリニックなどでの勤務経験が豊富で、自らをカウンセラーとしては精神科医寄りかも知れないと言っています。本書には良い意味で、その特色が出ていると言えます。

《読書MEMO》
●心理療法の種類
 ・言語によるアプローチ(精神分析、クラエアント中心療法、ポストモダンセラピー)
 ・変性意識状態による治療法(自律訓練法、トランスパーソナル心理学、イメージ療法)
 ・ボディワーク(センサリー・アウェアネス、フェルデンクライシス身体訓練法、オーセンティック・ヌーブメント他)
 ・芸術療法(アートセラピー、音楽療法他)

About this Archive

This page is an archive of recent entries in the 矢幡 洋 category.

柳原 良平 is the previous category.

山岸 凉子 is the next category.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1